大学のレポートに追われたり、ゼノブレイドやってたり、予備校通ったりゼノブレイドしてました。
次はもう少し早く投稿したいなぁ。
※今後春虎の一人称は「おれ」になります。それまでのは時間ができたら直しときます。
すっかり日も暮れた頃、両手に買い物袋をぶら下げて、疲れた顔をした春虎は宿の部屋に帰ってきた。
荷物を床に放り投げて、そのままベッドにダイブする。そしてそのまま眠ってしまった。
次の日朝早く起きた春虎は、昨日買った品を寝ぼけ眼でテーブルに並べて物思いにふける。
昨日立ち寄った骨董屋で偶然にも錫杖を見つけた。そこで春虎は『日の輪の国』とその国に住む陰陽師の存在を知ることになった。その後店主から、錫杖以外の日の輪の国由来の品々を見せてもらったのだが、そのほとんどが陰陽師にまつわる品々だった。しかもかなり高い。
それでも、呪具として機能するか確かめる為にも購入の必要がある。幸いにも、呪具になりそうな品々はどれも店の隅にある売れ残りばかり。そこを突いた春虎は交渉の末、今後は日の輪の国由来のものは春虎が積極的に買うこと、その代わり春虎の欲しそうなものは優先的に輸入し、相場より安く提供することを条件に、その全てを割引価格で購入出来た。お値段たったの30リル、一般的な家庭の生活費のおよそ三ヶ月分である。なおこれでも4割引されている。
さて、フェジテに到着した時には春虎はだいたい300リル程手元にあった。外道魔術師狩りの際に研究資料と共にお金も巻き上げたわけだが、どうやら魔術師という生き物は金持ちらしい。数人締め上げただけで一財産築けたのだ。しかしこのままでは一年、下手すれば半年程で手元の資金は尽きるだろう。
レイヴンとして活動するか、だがフェジテから離れたくない。資金調達に悩む春虎。
その時、テーブルの上のある物を見て春虎は閃いた。
「これは……、イケるか?」
ここはひとつ、陰陽師らしい稼ぎかたをしようじゃないか。
☆ ★ ☆
「凄腕の占い師?」
「うん、商店街にいるって噂になっているんだって」
昼休みの食堂にて、システィーナは対面に座る親友のルミアの口から出た噂話に胡乱な反応をした。
アルザーノ帝国魔術学院、それはおよそ400年前に時の女王アリシア3世の手で創立された、由緒ある国営魔術師育成専門学校。そんな将来のエリートを育成する場所といえど、在籍する生徒達はまだまだ思春期の少年少女。噂話が好きらしく、ひとつやふたつ、すぐに流れるものらしい。
「で、その占い師がどうしたの?」
「テレサから聞いたんだけど、一週間ぐらい前から突然現れて、一回1クレスで占ってくれるだって。すごく当たるらしいよ?」
サラダを口にしながらシスティーナは質問してみる。実をいうと、この話にシスティーナはあまり興味が湧いてない。
占いと魔術は切っても切れない関係にある。占星術や数秘術がその証拠だろう。しかし魔術の延長線の占いを信じても、世間一般の占いにはいささか懐疑的になる。
「でもなんでテレサがそんなことを?あの子、そういうの好きだっけ?」
「ええと、そういう訳じゃないんだけど……」
そう言うとルミアは、周りを何度か確認すると、テーブルから身を乗り出し、システィーナに顔を近づけて囁く。
「テレサのお父さん、その占い師の言う通りにしたら良い調子らしいよ」
「……えっ、ウソ!?」
ルミアの思わぬ一言に、システィーナは初めて食い付いた。
クラスの者なら皆が知っているが、テレサは貿易商として成功しているレイディ商会の娘である。それほどの存在が懇意にしている占い師がいるとなれば、それは只者ではない。
「ホントなの?その話」
「うん、テレサのお父さん以外にも、『占いの言う通りにしたら上手くいった!』って商人が後を絶たないんだって」
「騙されてるとか、実はグルだったとかじゃなくて?」
「そこまではわからないけど……。たぶん無理があるんじゃないかな?」
それにしても妙な話だ。それほど良く当たるというなら、もっと値を吊り上げてもおかしくない。それこそ、ひとつの商会の専属占い師にでもなって、荒稼ぎくらいできるだろうに。
さらにルミアは畳み掛ける。
「なんでもその占い師って、自分のことを陰陽師だって名乗ってるらしいよ?」
その言葉が、システィーナの好奇心に火をつけた。
「陰陽師!?て、てことはッ、日の輪の国からわざわざフェジテまで来たっていうの?なんのためによ!?」
「シ、システィ、声が大きいッ」
「あっ……」
興奮して思わず立ち上がっていたシスティーナは、周囲の視線を集めていたことに気づき、顔を赤くして席につく。
「ご、ごめん……」
「そんなに興味あるの?」
「だって陰陽師よ?そもそも住む大陸が違うからまずお目にかかることができないって言われるような人達よ?彼等の使う陰陽術って詳しいことがまだ分かっていないのよッ。できることなら一度は見てみたいもの!」
システィーナの熱の入った弁にルミアは苦笑いを浮かべるが、本題に入る。
「じゃあさ、学校が終わったら一緒に行ってみようよ」
「そうね、もしかしたら私たちも占ってもらえるかもしれないし!」
そう言うと、システィーナは手元の食事を迅速かつ上品に食べ進める。数分もしない内に皿の中身が綺麗になると、空いた食器を持ち立ち上がる。
「こうしてはいられないわ!今から陰陽師について調べてくるわね!」
そして顔を険しくさせ、吐き捨てるように付け加えた。
「どうせあの男、今日もろくに授業なんてしないんだから」
そう言って一人図書館へ行くシスティーナを、ルミアは少し寂しげに見つめた。
☆ ★ ☆
この学院で今、時の人となっている人物がいる。
グレン=レーダスという男だ。
一週間前に非常勤講師として来たその男は、初日から授業を放棄するなどやりたい放題のかぎりをしてきた。
そんなグレンが担当するクラスの一人であるシスティーナは、つい先日魔術師としての誇りをかけて決闘を申し込む。
システィーナが勝てばグレンは今後真面目に授業をすること、負ければシスティーナによるグレンへの説教禁止という条件のもとで行われた決闘は、システィーナの圧勝という結果で終わった。
しかし、グレンは約束を反故にした。
これは魔術師にとって最低の所業であり、魔術そのものへの侮辱である。
これが決め手となり、ただでさえ低かったグレンの評判は地に落ちた。それでもなお、グレンは自身の態度を省みようとはしない。故に、システィーナは心の底で常に苛立っているのだ。
昼休みの後の授業の時間で、システィーナは図書館で借りた本で陰陽師について調べていた。とはいっても大陸から違う相手のことだ、記載されている情報はほとんどなかった。
それでも分かったことは、彼等は陰陽術と呼ばれる独自の魔術を使うこと、呪文を使った魔術以外に、式神と呼ばれる使い魔を用いたりするというくらいだ。残念なことに占いについて記載されている本は見つからなかった。
放課後になると、ルミアと二人で街へ繰り出した。行き先は南地区の商店街、詳しい場所をテレサに聞いたがよく分かっていないそうだ。なので二人は大通りの近くに当たりをつけて探すことにした。
「でもなんで、ルミアは占い師に興味を持ったの?」
人混みの中を歩くなか、システィーナはルミアに聞いてみる。
「ん~、実はあまり占い師には興味ないんだ」
「えっ!?」
ルミアの思わぬ返しにシスティーナは驚きの声をあげる。
「じゃあ、なんで行こうなんて誘ったのよ!」
「あはは、ほんとはね、気分転換が出来たらどこでもよかったんだ」
「気分転換?」
システィーナの疑問に、ルミアは背中で手を組みながら答える。
「ほら、最近のシスティってずっとピリピリしてたじゃない?」
「……ええ。でもそれは……!」
「うん。グレン先生のことだよね」
親友が腹の底に溜め込んでいる憤りを、ルミアは知っている。
「システィが怒りたくなる気持ちも分かるよ?システィが魔術に対してずっと真摯に取り組んでいたことを知ってるから。それをないがしろにされたことを怒ってるんだよね」
「うん……」
「でもさ、せっかくシスティの大好きな魔術を学べる空間にいるのに、そんな気持ちのままでいても楽しくないじゃない?」
ルミアがシスティーナの真意を口にするたびに、システィーナはどんどんうつむいてしまう。そんな彼女を慰めるようにルミアは語りかける。
「グレン先生のことを許せなんて言わない。でもね、やっぱり気持ちの切り替えは必要だよ。今の時間をチャンスだと思ったらどう?普段の授業なら理解していて退屈なところも、自習時間ならシスティの好きなことを学べるんだよ?」
「……ルミア」
親友の気遣いに、システィーナの目頭が熱くなる。
「……もう、ほんとにルミアったら!」
それを見られるのはさすがに恥ずかしくて、ごまかすようにシスティーナはルミアに抱き着いた。
「良い子!ほんとに良い子!私が男だったら速攻プロポーズしてたわ!」
「ちょ、システィ!ここ道の真ん中だよ!」
「構うもんですか!えいやッ!」
「待ってって、くすぐったいよ!」
人通りのある道にも関わらずすりつくシスティに、ルミアも表面上は引き剥がそうとする。それでも今の二人には先ほどのような暗い雰囲気はない。きゃいきゃいじゃれつく少女たちの姿に、通りすがりの人たちも微笑ましいものを見た顔をする。
しかしというか、やはりというべきか、道の真ん中でふざけあうのは危険だった。
「きゃッ!」
システィに抱き着かれてふらついていたルミアが人にぶつかってしまった。
「だ、大丈夫ルミア!?」
「私の方は……。でも……」
心配するシスティーナに、ルミアは気まずげな声で彼女の後ろにいる人物を指差す。システィーナも自分達の非を思い出し、ぶつかってしまった相手に謝ろうとした。
「……ッ!」
システィーナが後ろを振り向くと、そこにいたのは大きな荷物を持った大柄で強面な男だった。男は二人を凝視していて、なんとも言えない威圧感を放っている。
年ごろの少女にとって、自分より身体の大きい男が近くにいるだけで圧迫感を感じるのに、無表情で睨むように見られているのだ。二人は萎縮してしまう。
「その……、ごめんなさい!お怪我はありませんでしたか!?」
最初に言葉を発したのはルミアだった。慌ててシスティーナも後に続く。
「私たちの不注意でご迷惑をおかけしました!本当にすみませんでした!」
そう言って二人は頭を下げる。しかし男に反応はない。黙って二人を見つめている。
「あ、あのぉ……」
あまりに反応がないので、システィーナは伺うように尋ねる。
「……ああ、こちらこそすまなかった。そちらは怪我してないか?」
さすがに男もなにか返答しなければならないと思ったのか、無表情ながらも相手を心配するような答えをする。
「……!はい、こちらは大丈夫です!あ、でもお荷物の方は……」
「いや、問題ない。こちらはまだ仕事があるので失礼する」
男はそう告げると、荷物を持って立ち去ってしまった。
少女たちも、呆気ない結末にしばし呆然とする。
「……怒られたりしなかったね」
「……うん。でもさっきの人、なんか変じゃなかった?」
「ちょっとシスティ!さっきのは私たちが悪かったんだよ!」
「そ、それはわかってるんだけど……」
「……急にどうしたの?」
いつもとはちがうシスティの歯切れが悪い答えにルミアは戸惑う。
システィは少し考えた後、「やっぱりなんでもない」と笑って、ルミアの手を引っ張って歩きだした。
(人間味がなかったなんて、いくらなんでも失礼よね)
ふと、そんなことを思ったが、時間が経つ内に忘れてしまった。
噂の占い師を探し始めてから二時間が経ったが、未だ二人は発見出来ていなかった。空も赤みが増してきて二人は焦り出す。
テレサの父のような商会の上役も利用しているならあまり複雑な場所に店を置かないだろうと考え、大通りを中心に裏道を覗くように探したのだが、どうやら当ては外れてしまったらしい。
ここから家までそこそこ時間がかかる。商店街の傍には繁華街やブラックマーケット街などあまり治安の良くない場所も多く、完全に暗くなってしまえば余計はトラブルに巻き込まれるかもしれない。
「ねぇシスティ、さすがにそろそろ……」
「うーん、もう時間もないかぁ……」
しかしここまで来たのだ。何かしらの成果は欲しい。
「じゃあ最後!あそこ調べてみていなかったら帰るってことで!」
「そう都合よくいるかなぁ……」
人通りも少なくなってきた通りから、システィーナはルミアの手を取り裏道に勢いよく引っ張っていく。
路地を覗いてみると、自分達の50メトラほど手前を誰かが上機嫌で歩いていく姿しかなかった。占い師がいるようには見えない。
「やっぱり誰もいないね」
「やっぱりいないかぁ~」
二人はそろってため息をつく。
路地の中に入ってみると、日の光が差し込まなければ店も開いてない、殺風景な通りに出た。さっきまでいた筈の外の通りの喧騒がまるで嘘のようだ。
「しょうがない、帰ろう?ルミア」
「……ちょっと待って」
「どうしたの?」
諦めて帰ろうとしたシスティーナをルミアが引き止める。
ルミアは自分の斜め前を指差していた。
「あそこ、暗くて分かりづらいけど道があるよ」
システィーナもルミアの指す場所を注視すると、細い路地があることに気づいた。
「……本当だ。よく気づいたわねルミア!」
「せっかくだし、行ってみようよ」
幅が一人が通れるほどしかない路地を、システィーナが先頭に立って歩いてく。
道なりに沿って行くと、急に道幅が広い場所に出る。その先は行き止まりになっていて、そこに小さな屋台があった。
いや、屋台といえるほど立派なものではない。古びた机に椅子が二つ向かい合わせに並んでいる。片方は空席だが、もう片方には黒い人影がいた。
想像していなかった光景に二人は息を呑む。
「──悪いな、実はもう店じまいなんだ」
黒い人影から、そんな声をかけられた。二人は思わずびくりと身を震わせる。
人影は頭になにか被っていたらしい。それを脱ぐと、金髪に眼帯を左目に巻いた少年の顔が表れた。
「もしかして、あなたが陰陽師の……」
「おう、おれが陰陽師だ」
システィーナの戸惑い混じりの質問に、少年はふてぶてしい笑みを浮かべて答える。
よく見れば、確かに顔のつくりが異国風だ。
「そのぉ、店じまいってことはつまり……」
「ッ!そうだ、今から占って欲しいんですけど……!」
ルミアの質問でシスティーナも我にかえる。しかし少年は、両手を顔の前で合わせ謝罪のポーズをとる。
「ゴメン!ウチは一日20人しか客は取らないんだ。ついさっき最後の人を占ったから……、明日以降にまた来てくれ」
「そ、そんな……ッ」
無情の結末にシスティーナは目の前が真っ暗になる。これでは完全に無駄骨ではないか。
よろめき倒れそうになるシスティーナをルミアがギリギリでおさえる。
「な、なんとかなりませんか?」
「あ~、それは無理だ」
少年は申し訳なさそうな顔をするが、どこか毅然とした態度で話し出す。
「正直なところ、20人という数に意味はないんだ。大事なのはおれがお客様にそういう約束をしたということ。すでにこの仕事を始めてからそれなりに時間が経っている以上、おれが一方的にこの乙種を破ることは出来ない。信頼とかの話じゃない。呪術師としての矜持や在り方としてだ」
言い聞かせるような、静かな語り口だった。
少年の話した内容を、少女たちはほとんど理解出来ていない。ぽかんとした表情を見て、少年は「要するに、約束は守ろうってことだな」と苦笑して付け加える。
「だからゴメン。占いは出来ないんだ」
「……はい。残念ですけど、今日は帰ります」
「うん。行こうか、システィ」
二人は少し残念そうにしながらも、頭を下げて立ち去ろうとする。
すると少年は「ちょっと待って」と言って、頭をガリガリと掻きながら二人をひき止めた。
「二人には悪いことしたからな。占いは出来ないけど、人生相談くらいはのれるぜ?もちろん無料でだ」
その言葉に、思わず二人は顔を見合わせる。
「そんな!?さすがに悪いですよ!」
「いいっていいって、気にしないで話してみろって!君たち見たところ魔術学院の学生だろ?君たちくらいの悩みって人間関係がほとんどなんだから。そういうの、部外者に話すと楽になるもんだぜ?」
遠慮する二人に少年は笑って答える。
そんな問答を繰り返したら、気がつけばいつの間にか少女たちは席に座って、ぽつぽつと話始めた。
「それなのにあの男!決闘に負けた癖に約束を反故にしてッッッ!!」
「うんうん」
「いったいどれだけ魔術を馬鹿にすれば気がすむのよッッ!!!」
「そーだなー」
「ていうかッ!講師として学院に来たならその仕事は果たしなさいよッッ!!」
机をバンバン叩きながら、システィーナは不満を爆発させる。少年のいささか適当になっている相づちにも気づいてない。
最初に話始めたときにはまだ、少年への緊張と警戒があったのだ。しかしシスティーナは話し出すとあっという間にヒートアップし、ものの5分でこうなった。
ルミアもシスティーナの話を補足する形で話していて、システィーナの暴走を止めようとしていたのだが、途中からブレーキを踏むことを諦めた。
「ふざけんな──ッ!!あのアホ講師がぁぁッッッッ!!!」
システィーナの魂のシャウトに、ルミアと少年は耳を塞ぐ。
彼女の叫びが止んだ後、少年はどこからか取り出したグラスに、どうやって出しているのかわからない水を注いで息の荒いシスティーナに渡す。ルミアは目を丸くして驚いたが、受け取ったシスティーナは黙ってグイッと一気に飲み干した。システィーナがずっと見たがっていた陰陽師の術を目の前で実演したわけだが、システィーナはそれに気づかない。
「すっきりした?」
「──とっても」
少年の言葉に、若干枯れた声でシスティーナは返す。
どうやら彼女は、ただ不満を全力で叫びたかっただけらしい。途中から完全に愚痴になっていた。
「つまるところだ、君は件の講師にしっかりして欲しい、ということでいいかな?」
「正直さっさと辞めてしまえと思ってます!でもアイツにとってはそれすら罰にならないんです!!」
「オーケーどうどう」
またヒートアップしそうになるシスティーナを必死になだめる少年。
「でもこれ、占いでどうにかなるようなことじゃないぞ」
「どういうことですか?」
ルミアの質問に少年は答える。
「占いってのはざっくり言うと、物事を成す機会だったり、人生や人間関係の転機を先読みして、良い方向に流れをつくるってことなんだ。ここまでは理解できる?」
頷く二人。
「オーケー。でもな、今の相談にこれ以上の発展性はないんだよ。だって『アイツキライ!』で話が終わってるんだから」
「あっ」
その言葉にシスティーナが気付く。
「その講師をなんとかしろって言われても、おれには出来ないしやらない。おれに出来ることは君と講師の関係をより良いものに変えていく手伝いをすることくらいだよ」
君はどうなりたい?という言外の尋ねにシスティーナは答えられない。
現状最低の男だと思ってはいても、相手が変わるなら妥協は出来るかもしれない。
彼女の中で、未だグレン=レーダスは量りかねている部分があるのかもしれない。
結局のところ、彼女は答えを出せていないのだ。
「後はせいぜいこれくらいだな」
そう言って少年が懐から取り出したのは布地の袋の口を紐で結んだ物、それをふたつ。
「これはおれが作ったうちの国に伝わる魔除けのお守り。持っていれば悪いことから守ってくれるし、良いことがあるかもよ?」
なんせ陰陽師謹製だからな、と自慢気に言う少年。
「持っていくか?」
「いいんですか!?」
「ふたつで1クレスな」
((あ、そこはお金取るんだ))
内心そんなことを思いつつも、話を聞いてくれたお礼も込みで二人はお守りを買う。
まいどあり、と愉快そうに少年は笑った。
「まあ、そういうことだ。君たちの中で答えが出るか、新たな悩みが生まれたらまた来なよ」
「「はい、ありがとうございました!」」
少女たちは感謝を述べて立ち去っていった。
「不思議な人だったわね」
「うん。でもあんなに話を聞いてもらって良かったのかな……」
暗くなりつつある街の中を二人は歩いていく。
「そういえば私、あそこまで叫ぶシスティは初めて見たかも」
「ウッ……、私だってッ、自分があそこまでストレス溜まっていたなんて思ってなかったわよ!」
「あはは、でも行って良かったでしょ?」
「もちろん!だってこれもあるしッ」
そう言ってシスティーナは手に入れたばかりのお守りをかかげる。
「明日は良いこと、あるといいな」
その声は、街の喧騒の中に消えていった。
「ふぅ、お仕事終わりっ」
そう言って少年──春虎は椅子の上で伸びをする。
占いの仕事を始めたきっかけは、例の骨董屋で購入した商品にあった。
六壬式盤、及び八卦盤。
このふたつの存在が、自分の世界とこちらの世界の陰陽師の起源が同一であることを証明している。
陰陽師の起源は、天体の動きを読んで祭事を執り行う者である。ようは占い師だったのだから。
だから春虎も、ある思惑から占い師を始めた。
例えば、商店街の権力者と繋がりを持つために。
例えば、魔術学院の関係者と接点を持つために。
ひと息ついている春虎の下に、突如男達が空から降ってきた。その数およそ20人。その中にはシスティーナとルミアがぶつかった男もいる。
最初は普通に路地から来るようにと言っていたのだが、体格が良すぎて途中で路地につっかえるという事態が発生した。そのため自動運転時の彼等には、人に目につかないようにかつスムーズに戻るようにと命じたら、いつの間にか建物を乗り越え空から登場するようになっていた。
「おう、お前達もお疲れさん」
春虎がそう言うと、男達は手に持っていた袋を春虎の机に置くとジャラリと音がした。春虎は袋の中を全部確認すると、満足げな表情を浮かべる。
「お前らの分とおれの分、合わせて……ざっくり22リルか」
春虎がお金を数えている間に男達の身体はラグに包まれていく。次の瞬間には20枚の式符が地面に落ちていた。
「いやー、結構稼げるものだな」
口コミの力は偉大だと笑って、春虎は式符を回収する。
占い師になって顔を売ろうという思惑は、その名前が広まらなければ意味がない。ではたった数日で、どうやって彼は名前を売ったのか。
その答えが簡易式である。
春虎は商店街の大きな商会やオークション会場の日雇いに簡易式を潜り込ませた。そして仕事場にいる者達や上役の耳に入るように「よく当たる占い師がいる」「どうやら異国から来た陰陽師らしい」と広め、興味を持ってもらう。この街は特に魔術と密接している。では魔術に慣れている商人達なら、未知の神秘があると知ったときどうするだろうか?その実態を調べ、利用出来るなら囲いたいと思うに違いない。
その予想は的中し、わずか数日で春虎の下に商会の権力者達が通うようになった。
そしてこれは占いの精度を上げることにも繋がる。
潜り込ませた簡易式に商会の経営状況、今後の取引の情報を手に入れさせ、占いと称して別の商会に売り渡したり、職場の人間関係を調べさせる等行った。
占術というのは資質によるものだ。春虎は陰陽師としては超がつくほど一流でも、占いはあまり向いていなかった。彼の基準が“星読み”なのも悪いのだがともかく、春虎の占いは乙種を下地にしているため、出来る限り情報を欲したのだ。
なお当初の春虎は「簡易式に力仕事させれば儲かるんじゃね」と思っただけである。
こうして占い師として成果をあげてきた春虎だが、もっとも必要としている魔術に繋がるコネには今一つ届いていなかった。
しかし偶然にも、春虎が自動運転させていた式のひとつと魔術学院の学生が接触することができた。しかも都合の良いことに、彼女等は自分を探していたらしい。
だから春虎は無料で人生相談なんてことをしたのだ。
宿の部屋のベッドの上で、春虎、少女たちに若干の罪悪感を抱く。
人生相談と称して学校の内部の情報を聞き出したり、それなりに仕込みをしたお守りを買わせた。それらは確かに少女たちの為になった行動だが、本質は春虎の謀略に巻き込んだだけなのだから。
しかしなりふりかまっていられる場合ではない。
未だ帰る手段の手がかりひとつ見つけていないのだ。多少悪どいことをすることになっても、春虎は進まなければならないのだから。
「うっし、明日も早いしもう寝るか!」
気持ちを切り替えるためにあえて声に出す。
ベッドに潜りこんだ春虎は、お守りを売った少女たちに幸運があることを願って目を閉じる。
あっという間に眠りについた。
☆ ★ ☆
───魔術ってのは何が偉大でどこが崇高なんだ?
悔しかった、何も言い返せない自分が。
───魔術は凄ぇ役に立つさ……人殺しにな
認めたくなかった、ほんの少しでも、そうかもしれないと思ってしまった自分が。
───今も昔も魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ。なぜかって?他でもない魔術が人を殺すことで進化・発展してきたロクでもない技術だからだ!
ただそれ以上に、悲しかった。
自分が愛してきたものを、信じてきたものを、土足で踏みにじられ貶められたことが。
授業を抜け出し、親友も置いて帰ってきたシスティーナは、母の声も聞かず自分の部屋に閉じ籠った。
ベッドに飛び込み、枕に顔を埋めて、声を押し殺して泣く。今は誰とも顔を合わせたくなかった。
どれ程時間が経っただろうか、気がつけば窓から差し込む日の光がなくなっている。
システィーナは制服のポケットから、昨日買ったばかりのお守りを取り出した。
昨日の陰陽師の少年は、魔除けと幸運を呼び込むお守りだと言っていた筈だ。
「……うそ、つき」
小さく呟いて、力なくお守りを投げる。ペシッと音をたてて壁にぶつかったお守りは、そのまま床に落ちた。
そんなことに気を止めず、少女はただ泣き続けた。
東京レイヴンズ時空と違って、簡易式は日常生活にガンガン使えます。勘の良い奴じゃないとまずバレないです。
というか陰陽師には見鬼の才が標準装備なのがヤバい。
評価、感想よろしくお願いします。