ロクアカ×レイヴンズ   作:イレブンバック

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雨は大降り、コロナは再度蔓延するなか、皆さまはいかがお過ごしでしょうか?
私は学生の都合を考えず課題を投下するあん畜生に向かって、パソコンの画面越しに中指を立てる毎日です。


更新遅れて申し訳ありませんでしたぁぁ!


郷愁と変化の兆し

 一人の少女が部屋で泣いていたころ、春虎は仕事を終えて早めの夕食を食べていた。

 春虎はその日の気分によって食べに行く店を決めていて、同じ店に連日通うということをしない。何度も集中的に通えば自分の存在を覚えられてしまうからだ。これにはちゃんとした理由がある。

 

 占い師にとってもっとも重要なスキルはなにか。春虎は説得力だと考えている。相談ごとに対してどれほど正しい答えを提示したとしても、それに相手が納得出来なければ意味がない。故に占い師は神秘的かつ近寄りがたい雰囲気を纏っている。

 極端なことを言ってしまえば春虎の場合、占いがよく当たるという一点を除いてしまえば、相手からするとただの若造でしかないのだ。だからこそ、春虎は格好に気を遣うしプライベートでは自身の客と出くわさないようにする。こういった努力もひとつの乙種呪術なのだ。

 

 とはいっても、春虎だって自分の好きなように食事はしたい。だから春虎が出歩くときには何時も自身に隠形術をかけて、自身の気配を周囲に溶け込ませ、馴染ませている。さらに店の中で食事をするときには、隠形術と結界を用いて「顔も覚えられないくらい影が薄い男」という、使い道のわりに非常に高い技量を求められる術を行使している。はっきり言ってここまでする必要はないが、念には念をだ。

 

 夕食にスープパスタを食べた春虎はホテルの自室に戻ろうとしていた。部屋に帰っても特にすることがあるわけでもなく、明日の仕事は午後からなので朝早く起きる必要もない。

 だから、気が緩んでいたのだろう。

 

「──っ!?」

 

 道の中でひとりの男とすれ違ったとき、春虎は勢いよく振り返った。思わずその後ろ姿を凝視する。

 長身に黒髪で、春虎と年の頃は大差ないだろうその男は、上等なものであろうホワイトシャツとスラックスを履いている。しかしボサボサの髪型と着崩している服装が相手にだらしない印象を与えている。

 

 春虎は男を「視る」と、その男は魔術師だった。男が呼吸をする度に男の内の霊気──こちらの世界で言うマナが循環しているのが見える。男が保有しているマナの量は、春虎が見てきた魔術師達の中でもっとも少ないだろう。だが、それは警戒を緩める理由にはならない。

 

 戦争を経験していた夜光だから気づいた。

 その男の身体には、血の臭いと死がこびりついていた。それもとびきり濃いものだ。

 恐らく、男は戦場にいた経験がある。

 何人もの人間をその手で殺めている。

 

 軍人か、それとも犯罪者か。そこまではさすがにわからない。

 それでもひとつ言えることがある。

 その男は、間違いなくこちら側の人間だ。

 

「直前まであれに気づかないとか、いくらなんでも腑抜けすぎだろ……」

 

 頭をがりがり掻いて自分の醜態を自嘲する。

 すでに男は人混みに紛れてしまい、こちらからでは確認できない。こちらを振り向いたり魔術を使ってないことから、相手は春虎に気づいてないか、無視しても問題ないと考えたのだろう。

 このまま立ち止まっていても通行の邪魔になる。春虎も宿に向かって歩きだした。

 

 

 

 実を言えば、春虎とすれ違った男──グレン=レーダスも、春虎のことを意識していた。

 

 グレンは放課後、実験室でひとり魔術を使っていたルミアと途中まで一緒に帰っていた。そこでシスティーナ個人の話やルミアの夢について聞いたのだが、グレンにも思うところがあったのか、ルミアと別れた後も家には直接帰らず、商店街に寄り道することにした。

 

 グレンは過去の経験で魔術そのものが心底嫌いだ。だから自分が魔術を教えるなんてありえないと思っているし、仕事を辞めて家でだらだらとしていたい。しかしいくら頭に血がのぼったからといって、さすがに自分の意見を年下の少女に強要したことは大人げないと思っている。

 

 そんなまとまらない考えを整理するため商店街をぶらぶら歩いていると、いきなり隣に現れた男がすれ違いざまにシュバッ、という効果音が聞こえてきそうな勢いで振り返ってきたのだ。正直めちゃくちゃビビった。

 

(あ、この人絶対ヤバい奴だ)

 

 視線が合わないように顔面を前に固定して内心びくびくしながら、不審者と関り合いたくなかったグレンはそそくさとその場から離れていく。

 人混みの中に紛れてかなり距離を取り、そっと後ろを見る。自分を追いかけて来てはいなかった。

 

(いや、なんだったんだ?アイツ)

 

 グレンも自分の反応がいささかオーバーすぎることはわかっている。しかし今日は頭の痛くなるようなことがたくさん起こっているのに、理由もなくものすごい形相でこちらを睨んでくる相手になんて関わりたくないし、余計な面倒事まで抱えたくなかった。

 

「……もういいや、さっさと帰って寝よう」

 

 グレンは今度こそ真っ直ぐ家に帰っていった。

 

 

 ☆ ★ ☆

 

 

 私は一体何を見ているのだろう、システィーナは思わず胸の内でつぶやいた。

 昨日の一件で本当は学校に行きたくはなかった。それでも制服に着替え、ルミアと一緒に登校する。

 壁に投げつけたお守りは、鞄の中に入れてある。

 今日もまた、あの男と顔を合わせると思うとひどく憂鬱だった。授業もどうせ行われることはないだろう。

 そう思っていたのに。

 

「すごい……」

 

 グレン=レーダスの授業は、あまりにも質が違いすぎた。

 

 彼の説明を聞くたびに、自分たちが魔術の上辺にしか目を向けていなかったことを思い知らされる。

 知識が、理解度が、着眼点が違う。

 いつもは苛ついていた彼の態度は変わっていないのに、話す内容にクラスの皆の意識が引き込まれる。

 こんなにも

 魔術とはこんなにも面白いものなのか!

 

 

 その日彼女たちは、初めて魔術の深淵のその一端に触れたのだ。

 

 

「システィ!」

 

 ルミアの声でシスティーナは我に返る。気づけば授業は終わっていて、黒板の内容はすでに消されている。もしやノートに書くのを忘れてしまったのかと焦りノートを開いてみると、授業の内容はちゃんと書かれていた。どうやら授業に没頭しすぎて放心していたらしい。

 

「先生の講義すごかったね!」

「う、うん……」

 

 ルミアも興奮しているのか顔を上気させている。

 周りを見てみると、クラスの皆もどこか空気が違う。

 ルミアのように興奮している者、放心している者、何人かで集まって先程の授業について語り合う物など様々だ。

 もう誰もがグレンを講師として認めていた。

 

「あんな講義が出来るなら、最初からやりなさいよ……」

 

 恨みがましく呟いても文句は言われまい。唯一その呟きを聞いていたルミアは苦笑していたが。

 よくよく考えればあれほどの授業が出来てもおかしくはないのかもしれない。なにせあのセリカ=アルフォネア教授が優秀と評したのだ。浅学の身でもグレンがその評価に値する人物であることはよくわかった。

 いくらなんでもやる気を出すのが遅すぎると思うが。

 

「そういえば、授業の前に先生が謝っていたけど……」

「ん、……ああ、そんなこともあったわね」

 

 口にしてシスティーナ本人が驚いた。

 朝までは何を言われても絶対に心が折れてたまるか、くらいには思っていたのに、ルミアに言われるまですっかり頭の中から抜け落ちていたのだ。

 いくら授業の出来がすごいものだからといって、自分の根幹に関わることを侮辱された件を忘れられるものだろうか。我ながら自分の魔術バカっぷりに呆れてしまう。

 

「まあ、謝罪はされたから別にいいわよ」

「そっか……。うん、そっか」

 

 ルミアは何やら嚙み締めるように頷いている。

 

「でも……あいつ、なんで突然、真面目に授業する気になったのかしら? 昨日はあんなこと言っていたのに……あれ?」

 

 何気なくルミアに目を向けて、システィーナは気づいた。

 

「ルミア……貴女、どうしてそんなに嬉しそうなの? なんか笑みがこぼれてるわよ?」

「ふふ、そうかな?」

「そうよ。なんかかつてないほど、ごきげんじゃない。何かあったの?」

「えへへ、なんでもないよー?」

「嘘よー、絶対何かあったってその顔は」

 

 システィーナの追求をルミアはのらりくらりとかわしてしまう。

 

「うーん、強いて言うなら……」

 

 ルミアは一拍ためると、

 

「お守りのおかげ……みたいな?」

 

 そんなことを言い出した。

 その言葉を受けてシスティーナの表情が強張る。

 

「え……何?どうしたの?」

「あのね、その……。昨日の夜、八つ当たりでお守りを壁に投げつけちゃって……」

「えぇっ!?」

 

 ルミアは驚きの声に、システィーナは思わず首を竦める。

 

「罰当たりなことはわかっているのよ?でもその場の勢いとかそういうのがあってッ!」

「うーん、このままだと何か不吉なことが起きるのかも……」

「ちょッ、やめてよ!急に怖くなってきたじゃない!」

 

 オバケの類が苦手なシスティーナは耳をふさいで大声を出す。

 

「わかったから落ち着いて……。それでお守りはどうしたの?」

「それは大丈夫ッ、ちゃんと持ってきてるから!」

 

 そう言ってシスティーナはお守りを見せようと鞄の中をあさり始める。

 しかし急にその動きが止まった。

 

「どうしたの?」

「ね、ねえルミア……」

 

 若干涙目になりながら、システィーナは鞄の中から取り出したお守りを見せる。

 

「なぜか厚みが半分くらいになっているんだけど、私が投げたせいじゃないわよね……ッ」

 

 

 

 時間は巻き戻って早朝。

 グレンの初授業の日、春虎も予定を繰り上げ朝早くに起きた。

 朝食をかき込んで宿屋を出ると、自身に隠形をかけて北地区にあるアルザーノ帝国魔術学院へと出かける。

 目的は魔術と学院そのものの調査、学生たちが受けている授業を覗き見ることだ。

 フィジテで占い師の仕事をしながらも、春虎は魔術についての調査を続けていた。当然、魔術学院に潜入して資料や蔵書の一つや二つ、持ち出して研究しようと思っていたのだ。

 しかし仮にも帝国公的機関、セキュリティは万全で学院関係者以外は立ち入ることができない。春虎ならなんとかなりそうだが、優先順位の低い目的のためにわざわざ危険な橋を渡る必要はないと判断した。

 そこで春虎はひとつの手に出る。

 

「よーし、発見」

 

 正門の前で登校してくる学生たちをチェックしていた春虎は、目的の人物を見つけた。

 システィーナとルミアの二人である。

 

「うんうん、ちゃんとお守りも持ってるな」

 

 彼女たちに渡したものが鞄の中に入っているのが視えた。これなら計画は実行できる。

 そうして学生たちが学院に入っていくのを見送る。当然誰にも気づかれないのだが。

 

 授業開始の鐘が鳴った時、春虎は術式を起動した。

 

 

 簡易式とは式神の一種で、最低限の術式しか組み込まれていない式符を用いた呪術である。

 最低限とはすなわちカスタマイズの余地があるということであり、術者の創意工夫があれば簡易式の用途は大幅に広がっていく 。

 そう例えば──

 

「──よし、繋がった!」

 

 式神と自身の五感が共有されたことを確認すると、春虎はすぐさま気づかれないようにそれに隠形を開始する。

 システィーナのお守り袋に折り畳まれて入れられていた式符の内の一枚が実体化される。

 自身に術式が付与されると、実体化されたそれはお守り袋の中からぴょこりと顔をだした。

 慣れない動作で暗闇の中を手探りで動きまわり、鞄の中からよじ登り隙間から這い出すと、それは教室の床にぽてりと落っこちる。

 きょろきょろとあたりを見回すと学生たちの足がすぐ隣にあることに気づく。慌てて教室の床を駆け、一番後方の窓に向かって翼をはためかせサッシにとまった。

 

 それは白い小鳥の姿をしていた。春虎が一からカスタマイズした特製の簡易式である。

 

 

 簡易式による潜入は、夏目が死んだ夜に春虎が陰陽庁に拘束されたときに見た式神が由来だ。

 名を『トリックスパイダー』。情報収集や潜入に特化した式神である。

 魔導セキュリティが強固なことは視ればわかった。外部からの侵入はもちろん、学院内で関係者以外の人物が許可なく魔術を使えば迎撃するシステムまである。

 自身の痕跡を残さず侵入するために、春虎は『トリックスパイダー』と同じ機能を持つ式神を作り上げた。

 稼働時間は1時間もあれば十分、活動を停止すれば周囲の霊気を吸収して充電できるようにする。

 特に重要だったのは春虎の呪力を用いずに操作することだ。そのためにはセッティングの段階で学院の関係者の呪力──こちらの世界でいう魔力を登録する必要がある。

 そう、システィーナとルミアだ。

 彼女たちにお守りと称して渡したのは、彼女たちが生活する中で漏れ出た呪力を吸収し登録するためである。

 この方法なら学院で式神を飛ばしてもセキュリティには引っかからないうえ、彼女たちが式神を学院内部まで運んでくれる。実体化しなければただの紙だ、なんの問題もない。あとは監視の目を潜り抜けるためにさまざまな機能をつけるだけでいい。

 結果、完成した簡易式はこうして学院内を自由に飛び回ることができるようになった。操作するためには春虎が300メートル以内にいなければならないのが難点だが。

 

(それにしてもあの男……)

 

 操る式神の視線の先にはグレンがいる。昨日春虎があれほど警戒していた男だ。

 

(そういえばあいつ、相談にでてきた講師だよな)

 

 先日、彼女たちは相談で授業をしない講師がいると言っていた。奇妙な縁もあるものだと苦笑する。

 

(ダメ講師とか言っていたけど……。なんだ、ちゃんと授業してるじゃん)

 

 少女たちの悩みは解決していたらしい。春虎は少し安心した。

 式神の聴覚を強化し、春虎はグレンの授業を傍聴する。

 

「要するに魔術式ってのは超高度な自己暗示っつーコトだ。だから、お前らが魔術は世界の真理を求めて~なんてカッコイイことよく言うけど、そりゃ間違いだ。魔術は人の心を突き詰めるもんなんだよ」

 

 こちらの世界に来てから早2ヶ月、文字も読めない春虎はこの時初めて魔術に触れた。

 呪術を学んでいたころの懐かしい感覚を思い出す。目の前にある漠然とした神秘を読み解き、己の糧にしていく感覚を。

 しかし──なるほど。呪術と魔術はよく似たものだと考えていたが、原理は似ていても根底とする思想は異なるものらしい。自身の考察もあながち間違いではなかったようだ。

 グレンの授業は陰陽寮の陰陽頭として寮生相手に教鞭を取っていた経験のある夜光からみても見事なものだった。

 彼の語り口から、彼が真の意味で知識を身に着けているのがわかる。

 そしてそれは生徒たちにも伝わっているらしい。

 辺りを見渡すと誰もがグレンの方を向きノートを取り、目をキラキラと光らせている。

 ときに生徒をからかって痛い目をみているのはご愛嬌だろう。

 

(懐かしいなぁ。おれの時はどうだったっけ)

 

 熱心な彼らの姿を見て、かつて塾生だった自分を思い出す。

 

 もともと勉強の類が得意ではない春虎は、座学の時間は退屈だった。途中で寝落ちすることなんてざらだった。

 そのたびに夏目はガミガミと春虎を叱っていた。

 そんな春虎を冬児は隣でニヤニヤしながら眺めていたし、京子にもやる気がないと怒られていた気がする。

 そして途中から天馬が助け舟を出してくれるのだ。そういえば何度かノートを見せてもらったこともあった。

 授業の休み時間には鈴鹿がやってきて、春虎や夏目をおもちゃにして遊んでいた。それが気づけばおもちゃにされる側になっていたのはいつからだっただろう。

 

 授業といえば大友先生だ。あの胡散臭い講師のせいで何度春虎はひどい目にあっただろうか。授業も若干適当なところもあって、京子にいろいろと突っ込まれていた。そんな先生が蘆屋道満による陰陽塾襲撃の際には誰よりも頼りになった。あの術比べは今も春虎の目に焼き付いている。

 口を開けば幼女幼女言っている、実年齢を考えれば学生服を着ていちゃいけない先輩がいた。コンにセクハラはするなと言っているのに治らないのはなんとかしてほしい。

 いつも巫女さん姉妹の傍にいる、神剣に選ばれたドイツ人とのクォーターの後輩がいた。銀髪長身で剣の達人という少年マンガの主人公みたいな奴だった。

 

 男子寮のご飯は美味しかった。よくも悪くもノリのいいクラスメイトとの生活は楽しかった。呪術の深淵を垣間見てから授業を面白いと思えるようになってきていた。

 ホモやロリコン扱いをされた時には死にたくなったけど、それすらも今じゃ悪くない思い出になった。

 

 いつもの面子で集まって東京で遊びたかった。引きこもりがちな自分のご主人様を引っ張りだすのは苦労するかもしれないが、アイツもなんだかんだで楽しむだろう。

 いろんな服を見て回って、美味しいものをいっぱい食べて、そうやって遊べたらきっと楽しいだろう。

 夏目は男装ばかりしていたから、京子にアドバイスをもらって可愛い服を選んでやるのもいい。

 冬児の悪ふざけに便乗して鈴鹿をからかって、それに京子は呆れて天馬が苦笑いを浮かべ、夏目にバカ虎って叱られて、それから──

 

(──っ!)

 

 春虎は感傷に浸ることをやめた。

 

 今のは全部未練だ。

 あの夜に捨ててしまった、続いていくはずだった日常への未練だ。

 夏目が死んで、春虎が夜光に覚醒したそのときから、今まで通りの平穏な日常が続いていくなんてありはしないのだから。

 どれだけ過去に焦がれようと、あのころには戻れない。

 

 春虎は操作していた式神を教室から脱出させ、学院内の適当な木にとめて操作を止める。

 活動を停止した式神は、隠形した状態でスリープモードに移る。

 今の春虎の精神は通常とはいえない状態だ。このまま続ければ操作ミスでせっかくの計画が台無しになる可能性がある。

 

「……仕事、行くか」

 

 少しセンチメンタルになりすぎた。今日はあくまで試運転だ。本格的な学院の探索は明日以降でも構わないのだから今日はこれくらいにしても問題ない。

 

「学生生活ってのは案外短いんだぜ。楽しめる内に楽しんでおけよ」

 

 学生たちに届くことはないだろうメッセージを呟いて、春虎は学院から離れた。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 それからの10日間、春虎は仕事の合間を見つけては学院の調査を行った。今度はルミアの方に仕込んだ式神も使ってだ。

 授業風景を眺めたり、図書館などの資料を閲覧したり、学院の設備を見学もした。

 学生たちの実技を見学してみたが、その授業風景はかなり軍事色が強い。彼らが学ぶ魔術からして殺傷能力の高いものだ。

 その光景は、かつての陰陽寮を想起させた。

 ──春虎には、それを否定する資格はない。

 かつての自分が通った道なのだから。

 

 式神で学院内を探索したところ、潜入できない部屋がいくつかあった。

 その一つが講師や教授たちの研究室である。

 研究室にはそれぞれの部屋の主によって作られた特製の結界が張られており、突破して侵入するには今の式神では無理があった。

 彼らの研究内容によってはぜひ閲覧させてもらいたいが、それはおいおいのことである。

 

 興味深いものは他にもある。

 例えば、この学院の地下にある奇妙で巨大な空間。

 まさしく地下の巨大迷宮ともいうべきそれは、春虎の見鬼でも見通せないほどの深さと霊気を纏っている。

 完全踏破を成した者は未だいないらしく、その先には超魔法文明の遺物が数多く残されているのだという。

 ──どうあがいても、短期間での単独踏破は不可能だろう。

 元の世界に戻る手掛かりが残されているのかもしれないが、挑むのは最終手段にしておきたい。

 

 そして目を引いたものがもう一人いる。

 金髪に深紅の瞳をもつ美女、セリカ=アルフォネア。

 彼女の存在が視界に入ったとき、春虎は理解した。

 ──アイツは、ヤバい。

 どれほど準備を重ねたうえで挑んでも、下手すれば一方的に滅ぼされかねない、そんな超越者。

 絶対に敵に回さないようにしようと春虎は誓った。

 聞くところによると、グレン=レーダスは彼女の弟子にあたるらしい。

 

(またお前か、グレン=レーダス……!)

 

 彼の周囲の人間関係に、春虎は頭を抱えた。

 

 

 こうして春虎は10日間に渡る学院の調査を終了した。

 収穫はあったものの、春虎の求めるものには届かないものばかり。

 このままフェジテにいるよりも、かなり危険でも国家の中枢に潜入した方がいいのかもしれないと思い始めた春虎。

 

 次の日、事態は急転する。

 

 




システィーナとルミアのお守り袋には、それぞれ2枚の式符が入っています。その内の1枚が簡易式の式符です。
小さいお守り袋に畳んで入れてあるので、1枚なくなると分かりやすく厚みが減ります。


正直文章に違和感を感じるので、気になるところがあったら指摘してくださると嬉しいです。
感想、評価をくださるとやる気がUPします。
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