不死鳥たちの航跡   作:雨守学

14 / 35
第14話

*SAEKI251 さんが ログインしました*

*HI-Rabbit さんが ログインしました*

SAEKI251:ども~

HI-Rabbit:こn

SAEKI251:あれ? 今日はうさぎさんだけ?

*Autumn_cloud さんが ログインしました*

SAEKI251:先生!

Autumn_cloud:ども

HI-Rabbit:原稿終わったん?

Autumn_cloud:終わってないから来たんだよなぁ

SAEKI251:流石ですw

HI-Rabbit:えぇ……

Autumn_cloud:ちょっとだけだから! 先っぽだけだから!

HI-Rabbit:それ最後までヤるやつや

SAEKI251:そう言えば、今日も山さん来ないの?

Autumn_cloud:あー

Autumn_cloud:なんか

Autumn_cloud:仕事が忙しいとかで

Autumn_cloud:しばらく来れないらしい

HI-Rabbit:先生、山さんとリア友だっけ?

Autumn_cloud:リア友っていうか

Autumn_cloud:元同僚みたいな

SAEKI251:我々の本業はコッチでしょw

HI-Rabbit:それ

Autumn_cloud:あとなんか

Autumn_cloud:彼ぴっぴできたっていうか

HI-Rabbit:は? 裏切り者じゃん

SAEKI251:先生に?

Autumn_cloud:ちげーよ

Autumn_cloud:むしろくれ

SAEKI251:あ……

HI-Rabbit:しー(人差し指を唇に)

Autumn_cloud:黙れ

Autumn_cloud:看護師の仕事してるんだけど

Autumn_cloud:なんか職場にイケメソがいたっぽくて

Autumn_cloud:メスの顔してたわ

HI-Rabbit:夜にお医者さんごっことかしてそう

SAEKI251:お注射しますね~(意味深)

Autumn_cloud:山さんかわいいからな~

Autumn_cloud:ちなみに相手は医者じゃないらしい

SAEKI251:けど、ランカーの山さんが何日も来ないって

SAEKI251:相当だよね

HI-Rabbit:引退かね

Autumn_cloud:いい歳っちゃいい歳だしねぇ

Autumn_cloud:ゲームの話も

Autumn_cloud:あまりしなくなっちゃったし

HI-Rabbit:あんたもいい歳定期

Autumn_cloud:お前もすぐこうなるよ(魔女)

SAEKI251:まあ、すぐにいい人が見つかりますよ。私みたいに(半笑い)

Autumn_cloud:なんだァ? てめぇ……

HI-Rabbit:ゲーマーの母乳は虹色に光るってマジ?

 

 

 

 

 

 

『不死鳥たちの航跡』

 

 

 

 

 

 

「あと、これだな」

 

鈴木は荷物を降ろし終えると、ボキボキと腰を鳴らした。

 

「ごくろうさん」

 

「本当だ……。しかし、まさか、山風がゲーム機を寄付してくれるなんてな」

 

段ボールいっぱいに詰められたゲームのカセット。

ゲーム機、ブラウン管テレビ、etc...

 

「全部レトロゲームだ。ご丁寧に、テレビまで用意してくれている」

 

「山風はどうして、こんなにゲームを持っているんだ?」

 

そう言ってやると、鈴木は唖然とした表情を見せた。

 

「お前、知らねぇのか? 山風って言えば、かなりの腕前を持つゲーマーであり、レトロゲームマニアなんだぜ?」

 

「そうなのか」

 

「そうなのかって……。かぁ~……お前……本当に何も知らずに山風とイチャコラしていたんだな……」

 

「イチャコラって……」

 

「山風は元プロゲーマーだ。――というゲームの大会で、賞金を稼いだこともあるくらいなんだぜ?」

 

「それがまた、どうして看護師を?」

 

「さぁな。突如引退して、看護師になるのだと言い出したんだ。まあ、いつまでもゲームばかりやっている訳にもいかないしな」

 

元プロゲーマーか……。

そんな片鱗は見られなかったが……。

 

「以前、この島にゲームを持ち込んだ奴がいたらしいが、それと何か関係があるのか?」

 

「あぁ。ゲーム好きな奴がいてな。そいつとの交流に使うつもりだ」

 

尤も、この前は夕張に気圧されたのか、近づいてくることも無かったがな。

 

 

 

寮に戻ると、皆が夕張を取り囲んでいた。

 

「夕張さん! 早く代わってよ!」

 

「もうちょっとだけ! もうちょっとだけだから!」

 

どうやら夕張がゲーム機を独占しているらしい。

 

「何やってんだお前……」

 

「あ、提督。今ね、ハイスコアが出ていて……」

 

「ゲーム機を独占すんな……。少しは大人っぽく振る舞ったらどうなんだ」

 

「大人でもゲームはするものよ。持ち込んだのも大人だし」

 

こいつは……。

 

「まあいい。おいお前ら、新しいのが来たぜ」

 

そう言ってやると、皆は一斉に俺の持ってきたゲーム機の方へと走り出した。

 

「提督……」

 

振り向くと、ムッとした顔の鳳翔が立っていた。

 

「なんだ?」

 

「あまりゲーム機を持って来られては困ります……。昨日、消灯時間になってもゲームをやめなかった子がいるんです……。作戦だとは言え、これではあまりにも……」

 

作戦の事は、皆に話していた。

大井の手紙の事も。

 

「望月さんがゲームを好きだからと言って、それで釣ろうとすることは分かりますけど……。だからと言って、むやみやたらに持って来られるのはいかがなものかと……」

 

「あぁ、悪かったよ。ゲームをやり過ぎるような奴には、取り上げると脅してやればいいさ」

 

鳳翔は呆れた表情を見せると、皆の方へ走っていった。

 

「皆さん! ゲームは一日一時間ですからね?」

 

ゲームは一日一時間か。

どっかで聞いたことがあるな。

 

「よっ! ほっ!」

 

「……夕張、山城はどうしたんだ?」

 

「え? 部屋にいるわよ」

 

「んなこた分かってる」

 

「じゃあ、何が訊きたいってのよ? 今、ハイスコア更新中なんだから、話しかけないでくれる?」

 

呆れる俺の表情を、鳳翔は「ね?」とでも言いたげに、横目で見つめていた。

 

 

 

結局、大量のゲーム機を持ち込んだせいで、望月はどさくさに紛れてしまい、話しかける機会を失ってしまった。

 

「失策だったか……」

 

「その内、望月さんだけになるタイミングがあるでしょう。その時にでも、ゲームの話題を振ってみたらどうでしょうか?」

 

「それもそうだな……」

 

「それよりも、山城さんです。夕張さんはゲームに夢中ですし……昼食を持っていくついでに、交流を図ってはどうでしょうか?」

 

「取り合ってくれるだろうか……。二人っきりで話すってのは、初めてだからな……」

 

「逆にチャンスだと考えては? 夕張さんがゲームに夢中で、仕方がないから来てやったんだってスタンスで行けば、山城さんも納得するでしょうし」

 

「中々上から目線だな……」

 

「その方が山城さんの好みかと。佐久間さんがそうでしたし」

 

なるほどな……。

 

「よし、分かった。なら、それで行こう。ありがとう、大淀」

 

「いえ。頑張ってくださいね」

 

「おう」

 

大淀はガッツポーズを見せると、ニコッと笑って見せた。

本当、よく笑うようになったよな、大淀も。

 

 

 

昼食を持って、部屋の扉を叩く。

 

「山城、飯を持ってきてやったぜ」

 

返事はない。

 

「……入るぞ」

 

部屋の中は真っ暗で、じめっとしていた。

 

「電気くらいつけろよな。あと、窓開けろ」

 

明かりを点けると、眩しそうな――嫌そうな顔をした山城が、部屋の隅で座っていた。

 

「よう。昼食を持ってきてやったぜ。わざわざ、この俺が」

 

座り、昼食を目の前に置いてやる。

まるで、犬に餌をやる気分だ。

 

「…………」

 

「どうした? 食わないのか?」

 

「……夕張は?」

 

「あぁ……あいつ、お前があんまり出てこないもんで、ゲームに夢中になってるぜ。捨てられたんだよ、お前は」

 

「……そう」

 

山城はもそもそと飯を食い始めた。

 

「冗談だよ。まあ、ゲームに夢中になっているのは本当だがな」

 

俺の言葉が聞こえないとでも言うように、山城は反応もせず、ただ飯を食らっていた。

 

「お前、いつまでこうしているつもりなんだ? いつか、この島には誰もいなくなる。その時、誰がお前の飯を持ってくる?」

 

山城に反応はない。

 

「まさか、こうして俺に持って来させようってんじゃないだろうな? 俺は嫌だぜ。老いぼれてまで、お前に配膳をするのはよ」

 

「……老いぼれても、居てはくれるのね」

 

思わぬ返しに、俺は思わず閉口してしまった。

 

「……別に、捨ててくれても構わないわ。食事を持ってこいと頼んだことはないし……機能停止を恐れたこともないわ……」

 

「……だったら、何故食事を?」

 

「わざわざ自殺する気も無いって事よ……。私はただ……在るべくして在るだけ……」

 

山城は箸を置くと、食器の載ったトレーを俺の方へと寄せた。

 

「もういいのか?」

 

「必要分は摂ったから……」

 

「そうかよ……」

 

そんな事よりも、今日の山城は、何だかやけにしゃべってくれているように感じる。

気のせいだろうか……?

試しに話しかけてみるか……。

 

「なあ、山城……」

 

山城は返事をする前に、膝を抱え、小さくなってしまった。

限界の合図だ。

 

「……また来るぜ」

 

そう言って、トレーを持ち上げた時であった。

 

「待って……」

 

山城は膝を解くと――視線は床にあったが、俺の言葉を待っているようであった。

 

「ど、どうした……?」

 

突然の事で――それも、今まで無かった事に、俺は動揺を隠せずにいた。

 

「もう少し……」

 

「もう少し……?」

 

その先を、山城は言わなかった。

――いや、言えなかったのだろう。

 

「……もう少し、話でもするか?」

 

山城は答えなかった。

だが、そういう事らしい。

俺が何も言わずに座りなおすと、山城もまた、同じように座りなおした。

 

 

 

部屋の外からは、駆逐艦の楽しそうな声が聞こえていた。

 

「夕張とはどうだ? あいつ、任せてくれとだけしか言わなくてな。お前とどうなのか、話してくれないんだ」

 

「……話したくもないはずよ。あの子にとって、貴方に必要とされる唯一の事が、私の世話なのだから……」

 

「……どういうことだ?」

 

山城は深くため息をついた。

 

「あの子……貴方に惚れているのでしょう……? 貴方は振ったようだけれど……」

 

なるほど……そういうことかよ……。

 

「そんなことまで話しているのか、あいつ……」

 

「よく泣いているわ……。ここでしか泣けないから、泣かせてほしいって……」

 

泣いている……か……。

 

「そうか……。そりゃ、迷惑をかけたな……」

 

「別に……」

 

山城は俯くと、再び顔をあげ、俺を見た。

 

「山城?」

 

「……貴方を呼び止めたのは、夕張を泣かせた男がどんな奴なのか、知るためだったのよ」

 

夕張を泣かせた男がどんな奴か……。

山城がそこに興味を持つなんてな。

他人の恋愛事情なんて、興味なさそうな感じだが。

 

「……して、どうだ? 酷い男だったか?」

 

「たらしって感じだわ……。その気もないくせに、勘違いさせる様な……。夕張だけじゃなくて、他の女も貴方に泣かされているんじゃないのかしら……」

 

「たらしどころか、俺は恋人すら……」

 

「そういうところよ……。経験の多い女ならまだしも、艦娘のような純潔な存在は、貴方のような存在に弱い……。貴方の優しさに、弱いのよ……」

 

「俺を優しい男だと、評価してくれていると捉えても?」

 

山城は何も言わなかった。

 

「優しい男は、女を泣かせないだろう」

 

「優しいが故に泣かせてしまうのよ……。夕張は、貴方への想いを断ち切れていない。でも、断ち切らなければいけないと思っている。貴方がもっと残酷に振ってくれたら、夕張もきっぱり諦められたでしょう……。あんな男なんてと、愚痴を言って発散させたかもしれない……。でも、そう出来なかった……。それは、貴方が優しく振ったから……。貴方を想う気持ちを捨てきれなくなって、どうしようもなくて、ぶつける相手もいなくて……。だから、ここで泣いているのよ……」

 

結構、残酷に振ったつもりではあったのだがな。

 

「あの子がゲームに夢中になっているのなら、それに越したことはないわ……。私のところで泣くよりも、よっぽど健全……」

 

「そうかもしれないが……。しかし、夕張の身を案じるなんて、意外に優しいんだな、お前」

 

「受けた恩は返す主義なのよ……」

 

「だったら、部屋の外に出て来いよ。皆、お前の為に苦労しているんだぜ。返してやれよ」

 

「返したつもりなのだけれど……」

 

「あ?」

 

「貴方とこんなにも長い時間、話を続けた。私を部屋から出す手段として、貴方との交流が一番でしょうから……」

 

「……随分買ってくれるんだな」

 

「そうじゃなかったら、今頃私は部屋を出ているはず……。もう、貴方を頼る他に手段がないって事よ……」

 

「消去法って事かよ……」

 

山城は膝を抱えてしまった。

今度こそ、限界って訳か。

 

「……内容はともかく、お前と話せてよかった。ありがとな、山城」

 

山城は何も言わなかった。

 

「じゃあな……」

 

立ち上がり、部屋の扉に手をかけた時であった。

 

「――……」

 

山城が、何か――確かに、俺に向けて、言葉を発した。

 

「…………」

 

何を言ったのか、聞き返しても良かった。

だが、そうしなかったのは――。

 

「また来るぜ……」

 

 

 

山城の食器を洗っていると、鳳翔がとんできた。

 

「提督!」

 

「おう、どうした鳳翔?」

 

「そういうのは私にお任せください! 提督ともあろうお人が、いけません!」

 

「別にこれくらい……。本当の提督って訳でもないんだし……」

 

「ダメです!」

 

鳳翔は俺を退けると、皿洗いを始めた。

 

「そんなに嫌かよ……。俺が皿を洗うってことが……」

 

「嫌という訳ではありません……。こういうのは、私たちの仕事ですから……」

 

「仕事を奪うなってことか?」

 

「そうではなくて……。その……提督は男性なのですから、こういったお仕事は……」

 

「もうそういう時代でもないんだぜ。今のお前の台詞を、男の俺が言った日には、そらもうペラッペラになるまで叩かれてしまうんだ」

 

「言ったのは私ですから……」

 

そう言うと、鳳翔はムッとした表情を見せた。

 

「そうかよ……。悪かったな……。仕事をしてしまって……」

 

少し嫌味気味にそう吐き捨て、俺は食堂を後にした。

 

 

 

ゲームをやっているであろう連中の様子を見ようと、色々と部屋をまわってみたが、ほとんどの艦娘が外出していた。

 

「どこ行ったんだ……?」

 

外へ探しに出ようと、靴を履いている時であった。

 

「司令官!」

 

「青葉。お前、皆を知らないか? 何処にもいないんだ」

 

「ゲームをやりに、司令官のお家へ行きましたよ? 何でも、コンセントが足りないとかなんとかで……」

 

「コンセント?」

 

……あぁ、なるほど。

ゲーム機やらテレビやらの電源か。

確かに、各部屋にコンセントはないし、共用部分にも数えるほどしかないが……。

 

「そういう事かよ……。ったく、しょうがねぇな……。ありがとう。行ってみるよ」

 

「あ、待ってください司令官!」

 

青葉は俺の手を取ると、ハッとして、すぐに手を離した。

 

「あ……す、すみません! えと……お家に戻るのなら、陸奥さんを一緒に連れて行ってあげてはくれませんか?」

 

「陸奥を?」

 

「そうです! 陸奥さん、司令官と仲直りしたいそうで……」

 

「仲直りって……。喧嘩したつもりはないんだがな……。一方的に無視されているというか……」

 

鹿島との一件から、陸奥とは一言も言葉を交わせていない。

目を合わせても、わざとらしくそっぽを向かれてしまうのだった。

 

「司令官が鹿島さんにデレデレしているのが許せなくて、ちょっと意地になっちゃったんですよ。謝るにも、機会を失っちゃったみたいで……」

 

「俺からその機会をつくってやれと?」

 

「はい……。陸奥さんの態度については、青葉が代わりに謝ります……。申し訳ございませんでした……」

 

青葉は頭を下げると、不安そうな表情で俺を見つめた。

 

「お前が謝ることじゃないだろう」

 

「そうですが……。青葉は……少しでも陸奥さんの支えになりたくて……」

 

健気な奴だな……。

ここまでされると――いや……。

 

「お前の気持ちは分かった。しかし、申し訳ないが、陸奥のところには行けない」

 

「え……どうしてですか……?」

 

「陸奥がお前に甘えすぎているからだ。陸奥は分かっているはずだ。ぐずぐずしていれば、お前が俺に頼み込むことを……」

 

青葉は何も言わなかった。

分かってはいるのだろうが、口には出せないよな。

 

「陸奥を想っての事でもあるが、お前に対しても言っているんだぜ、青葉」

 

「青葉にも……ですか……?」

 

「お前、いつまで陸奥にくっついているつもりだ?」

 

核心をつかれたとでも言うように、青葉は俯いてしまった。

 

「そうしている方が楽なのは分かる。だが、それではいけないって、本当は分かっているんだろう?」

 

青葉は何も言わなかった。

 

「心を鬼にするつもりで、陸奥から離れてはどうだ?」

 

「そんなこと、青葉には……」

 

「なら、俺が無理やり引き剥がしてやる」

 

「え……?」

 

俺は青葉の手を取ると、そのまま寮の外へと飛び出した。

 

「ちょ……! 司令官!?」

 

「抵抗してもいいんだぜ」

 

俺はあえて、青葉の顔を確認しなかった。

青葉は返事をすることなく、ただ握られた手を、優しく握り返すだけであった。

 

 

 

「うぉ!?」

 

家の玄関を埋め尽くす、靴靴靴――。

 

「なんじゃこりゃ……」

 

「凄いですね……」

 

居間の方では、まるで宴会でも開かれているのではないかというほどに、何やら黄色い声が――。

 

「クソ……靴が置けねぇ……」

 

「整頓しましょう」

 

二人で靴を整頓し、居間へと向かう。

 

「おいおい……」

 

ただでさえ狭い居間に、何十隻もの艦娘が、ゲーム機で遊んでいた。

 

「マジか……」

 

よく見ると、まだ交流のない艦娘もチラホラ……。

 

「鈴谷さんに熊野さんまでいますよ」

 

「え!?」

 

青葉の指す方向に、その二隻はいた。

 

「鈴谷と熊野……」

 

軽巡以上の艦娘で、唯一、まだ話をしたことがない艦娘だ。

俺を寮に迎えるかどうかの投票では、反対に入れていたようであったが……。

 

「来ていないのは、大和さんと鳳翔さん、陸奥さんに山城さんくらいでしょうか……」

 

「ほぼ全員来ていると言っても過言ではないな……」

 

しかし、たかがゲーム機でここまで集まるとは……。

最初からやっておけばよかったぜ……。

 

「司令官、これは交流のチャンスですよ! ただでさえ警戒していた皆さんが、司令官の家に来ているんです!」

 

「そ、そうだよな……。しかし……空気を悪くしてしまいそうで……。今は様子を見た方がいいのではないか……?」

 

「何言っているんですか! もう……。青葉がリードしてあげますから! 行きましょう!」

 

「ちょ……!」

 

青葉は俺の手を引くと――さっきとは逆の立場に、俺は思わず笑ってしまった。

 

「笑っている場合じゃないですよ! ねぇ、皆! 私たちも交ぜてください!」

 

それから青葉に連れられるまま、俺は駆逐艦たちとの交流を図った。

最初こそ警戒されたものの、共にゲームをしてゆく内に、打ち解けることが出来た。

 

 

 

しばらくすると、家に鳳翔がやってきて、皆にゲームをやめるよう説得を始めた。

 

「一日一時間ですよ!」

 

「はーい……」

 

皆、鳳翔のいう事を素直に聞いていた。

信頼があるというか、鳳翔の言う事は絶対だという、暗黙の了解でもあるのだろうか。

 

「ねぇ、遊具で遊んでいかない?」

 

「いいね! 遊ぼう遊ぼう!」

 

駆逐艦はそのまま、遊具の方へと流れていった。

 

「もっちーも! 行こう?」

 

「あー……あたしはパス。ゲームやりに来ただけだし、寮に戻るわー……」

 

そう言うと、望月は俺をチラリと見た。

 

「!」

 

だが、すぐに視線を戻すと、そのまま家を出て行ってしまった。

 

「今、望月さんが見ていましたね」

 

「大淀。あぁ、そのようだな」

 

「話しかけたりしました?」

 

「いや……そんな暇も無かった……。他の駆逐艦とは交流が出来たが……」

 

大淀は何やら考える様な素振りを見せた。

 

「何か思うところでも?」

 

「いえ……もしかしたら望月さん、提督が一向に話しかけてこないものだから、逆に気になりだしているのではないかと思いまして……」

 

「え?」

 

「自分がキーマンだと知っているからこそ、提督を警戒しているはずなんです。もし話しかけてきたらこうしてやろうだとか、どう躱そうかだとか、そういうことを想定する子なんですよ」

 

「想定しているからこそ、仕掛けてこない俺を気にかけてしまう……という事か……」

 

「実際は、提督が奥手なだけなんですけどね」

 

俺は何も言えなかった。

 

「しかし、これは利用できるかもしれませんよ。ゲーム機を持ってきた意味を、望月さんは理解しているはずなんです。そこまで徹底していて、それでもなお仕掛けてこない提督を見続ければ、望月さんもストレスに感じて、自ら仕掛けようと接触してくるのではないかと思います。先ほどの視線は、まさにその前兆ですよ」

 

言われてみれば、確かに……。

 

「なら逆に、接触は避けた方がいいって事か」

 

「望月さんに近づくための行動をしつつ、近づかない。これに尽きるかと」

 

「焦らし作戦か……」

 

「得意でしょう? そういう事」

 

大淀は何やらムッとした表情を見せると、俺を小突いて、寮へと戻って行ってしまった。

 

「得意……なのだろうか……」

 

何か焦らすような事をした覚えはないが……。

 

 

 

それから夕食の時間まで、残ってくれた駆逐艦たちと遊んだ。

奥手の俺に対し、青葉たちの助けもあって、より一層駆逐艦たちとの交流を図ることが出来た。

 

「司令官、挨拶したいという子たちを連れてきましたよ」

 

「挨拶?」

 

青葉が連れて来たのは、朝潮、漣、朧であった。

 

「朝潮です。本日はありがとうございました。その……今までお話し出来ず、申し訳ございませんでした! ずっと……貴方の事を誤解していて……その……」

 

「い、いや……いいんだ……。俺の方こそ、中々話しかけられなかったし、誤解を招くことばかりで……悪かったな……」

 

「そ、そんなこと……」

 

朝潮。

吹雪さんのノートには、真面目で忠実な駆逐艦だと書いてあったが、まさにそんな感じだ。

 

「あの……司令官……とお呼びしても……よろしいでしょうか?」

 

「あぁ、何とでも呼んでくれていいぜ。これからよろしくな、朝潮」

 

「は、はい!」

 

朝潮が敬礼すると、それを茶化す様に漣も敬礼し、自己紹介を始めた。

 

「自分は漣であります! キリッ! よろしくお願いしますね、ご主人様」

 

「お、おう……漣。よろしくな」

 

漣。

普段は何かとふざけているようだが、決める時は決める駆逐艦。

ゲームをしている時、順番を守らない駆逐艦に対し、角が立たない様に説得をするなど、割としっかりしたタイプなのが見てとれる。

 

「朧です。よろしくお願いします、提督」

 

「おう、よろしくな。朧」

 

朧。

のんびりしているというか、正直、何を考えているのかよく分からない駆逐艦だ。

ゲームをしている時も、興味があるんだかないんだか。

熱中しているようにも見えるし、退屈そうにも見えて――本人は特に考えていないのだろうが、それ故に分からない部分が多い。

 

「たくさん交流が出来て、良かったですね、司令官」

 

「あぁ、お前のおかげだよ、青葉。ありがとうな」

 

「い、いえ! お役に立てたのなら良かったです……。えへへ……」

 

しかし、まだ交流できていないというか、警戒されている駆逐艦も多い。

望月はもちろんの事、潮、曙、霞、天津風は、まだ俺の事を警戒しているようだ。

無論、響もまだ、俺の事を――。

 

 

 

夕食時、いつもは配膳をしてくれる鳳翔が、今日はしてくれなかった。

 

「なんだ、飽きたのか?」

 

「いえ……そんなに自分でお仕事をされたいのであれば、ご自由にと思いまして……」

 

「まだ皿洗いの事を怒っているのか? たかが皿洗いだろう?」

 

「たかが……! どうして提督は私を否定するような事ばかりなさるのですか!?」

 

「え?」

 

「ゲーム機だってそうです……! 一日一時間だと言いましたよね!? なのに、一時間以上もやって……」

 

「俺はそんなにやっていないぜ?」

 

「やっている子たちを注意してくださいと言っているのです……! ただ見ているだけではなく……!」

 

「んなこと言っても……。そもそも、皆、楽しそうだったし、別に一時間と限定しなくてもいいだろう……」

 

「ダメです……!」

 

こいつは何をこんなに怒っているんだ……。

皆の視線が、俺たちに集まっていた。

 

「大体提督は……!」

 

「あぁ、分かった分かった……。俺が悪かった……。皆が見ているから、な?」

 

「なんですかその態度は……! もっと真面目に……う……うぅぅ……!」

 

鳳翔がぽろぽろと涙を流すものだから、俺は――皆もギョッとしていた。

 

「もう……知りません……!」

 

鳳翔は食堂を出て行ってしまった。

 

「お、おい!」

 

透かさず、夕張と明石がとんできた。

 

「ちょちょちょ……! 一体、どうしたってのよ?」

 

「い、いや……分からん……。なんかあいつ、急に怒ってさ……」

 

「急に怒る訳ないじゃないですか! 提督、何をしたのです!?」

 

「マジで分からんのだ……。俺はただ、自分で皿洗いをしただけで……」

 

「皿洗い?」

 

そんな事でわちゃわちゃしていると、大和が立ち上がり、俺の方へとやって来た。

 

「や、大和さん……」

 

夕張と明石は一歩下がると――って言うか、下がるなよ……。

 

「大和……!」

 

思わず武蔵が立ち上がる。

大和は俺の前に立つと、じっと睨み付けた。

 

「……どうした? お前の鳳翔を泣かされて、怒ったのか……?」

 

一触即発の空気に、食堂は静寂に包まれた。

 

「行ってあげてください……」

 

「へ……?」

 

「どんな理由であれ、とにかく追いかけてあげてください……。鳳翔さんがあそこまで怒るのには、ちゃんと理由があるはずです……。それも、貴方を想うが故の理由が……」

 

そう言うと、大和は背を向け、元居た席へと引き返していった。

 

「大和、お前……」

 

「……私はただ、鳳翔さんが悲しむ姿を見たくないだけです。早く行ってあげてください……」

 

大和が席に座ると、武蔵もまた、席に座った。

 

「て、提督! とりあえず、早く行ってあげなさいよ! ね?」

 

「そ、そうですよ!」

 

「お、おう……。分かった……」

 

食堂を出る時、チラリと大和を見たが、俯いていたため、表情を確認することは出来なかった。

 

 

 

鳳翔はすぐに見つかった。

 

「やはりここだったか……」

 

以前に鳳翔と二人で語らった、大きな流木のある海辺。

その流木に、鳳翔は座って泣いていた。

 

「隣、いいか?」

 

鳳翔は無言で頷くと、座れるように席を空けてくれた。

 

「ありがとう」

 

空はすっかり暗くなっていて、かけた月が浮かんでいた。

 

「……ごめんなさい」

 

涙交じりに、鳳翔は頭を下げて謝った。

 

「いや……俺の方こそ悪かったよ……。まさか、あんなに怒るとは思っても……」

 

鳳翔は首を横に振ると、顔をあげ、俺を見つめた。

 

「悪いのは私です……。私……私は……うぅぅ……」

 

鳳翔は再び大粒の涙を流した。

 

「あぁ……ごめんな、鳳翔……」

 

理由もよく分からないまま、俺は鳳翔を慰め続けた。

 

 

 

月の位置が変わっていることに気が付く頃、鳳翔は泣き止んだ。

 

「すみません……」

 

「いや……」

 

スンスンと鼻を鳴らす鳳翔。

やがてそれも落ち着き、鳳翔は語り始めた。

 

「驚きましたよね……。あんなに怒って……こんなに泣いてしまって……」

 

「まあな……」

 

「自分でも分かっているのです……。たかがお皿を洗われたくらいで、あんなに怒ることはないって……。でも……」

 

鳳翔は閉口すると、再び悲しい表情を見せた。

 

「……言いにくい事なら、別に言わなくていいよ」

 

「いえ……。ただ……」

 

鳳翔は顔をあげると、夜の海をじっと見つめながら言った。

 

「私……怖くて……」

 

「怖い……?」

 

「以前にもお話しした通り……私には……女としての魅力がありません……。だからこそ、私は殿方に尽くしたいと思っているのです……。尽くすことで、女として足りない部分を補っているのです……」

 

その理屈は、俺には分からなかった。

 

「お前に魅力がないとは思えないがな」

 

「……それでも、陸奥さんや鹿島さんほどではありません。提督だって分かっているでしょう……?」

 

俺は言葉に詰まってしまった。

 

「尽くすことが私の魅力で……私に出来る最大限のことでした……。ですから……」

 

なるほど、読めたぜ。

 

「それで怖かったという訳か。俺がなんでも自分一人でやってしまうものだから――お前の魅力を否定するような事ばかりやるものだから……」

 

鳳翔は小さく頷いた。

 

「……複雑な感情だな」

 

「面倒くさい女だと、ハッキリと仰ってください……。自分でも……分かっているのですから……」

 

そう言うと、鳳翔は膝を抱えて唇を尖らせた。

 

「……あぁ、そうだな。面倒くさい女だ。一丁前に嫌味も言うしな」

 

鳳翔は少しだけ、ほんの少しだけ、申し訳なさそうな顔をした。

 

「でも、意外な一面を見れて良かったとも思っている。前に言った、『鳳翔』という器に囚われないお前を見れたようでさ。あぁ、いや、でも、申し訳ないとも思っているぜ? 本当に……」

 

「……本当ですか?」

 

細い目が、俺を見ていた。

 

「……それは、どっちに対して言っているんだ?」

 

「意外な一面……というところです……」

 

あぁ、そっちか……。

何故か、ホッとしている自分がいた。

 

「良かったって……。意外な一面の私の方がいいって……そういうことでしょうか……?」

 

俺は答えに困った。

意外な一面の方がいいと答えれば、普段の鳳翔を否定することになるし、だからと言って、いつもの鳳翔の方がいいと言えば、器の『鳳翔』がいいと言ってしまっているようでもあって……。

 

「提督……?」

 

「……全部含めて、いいと思っているよ」

 

逃げの答えだった。

だが、鳳翔は――。

 

「……そうですか」

 

照れているのか拗ねているのか、よく分からない表情を見せた。

これは……正解だったのであろうか……?

 

「……とにかく。別に、尽くす事だけが魅力ではない。お前の魅力は、他にもたくさんあるんだ」

 

「……例えばなんです?」

 

「え……例えば……?」

 

鳳翔は泣き出しそうな表情を見せた。

 

「あ、あぁ……! えと、そうだな……。例えばさ――とか――とか……」

 

「他には……?」

 

「他には!? えーっと……だから、ほら……――の時とか、――だったりするのが魅力的で……」

 

「それに加えて……?」

 

「それに加えて……って、お前……からかっているな……?」

 

鳳翔はくすくす笑って見せると、零れそうになっていた涙を拭いた。

 

「フフッ、ごめんなさい。慌てる提督がおかしくて、つい」

 

「なんだよ……」

 

「でも、そうですか。そんなに私の魅力を見つけてくださっていたのですね」

 

嬉しそうに笑う鳳翔。

泣いたり笑ったり、忙しいやつだ。

 

「機嫌、なおったか?」

 

嫌味っぽく、そう言ってやった。

 

「いえ、あと一押しです。もうちょっと二人っきりで居てくだされば、機嫌がなおるかもしれません」

 

鳳翔は悪戯な表情を見せると、俺との距離を詰めた。

役者が上なのか、嫌味の分からない奴なのか……。

 

「……分かったよ。もうちょっとだけ、面倒くさい女ごっこに付き合ってやるさ」

 

「あら、こういうのが好きだと思っていたのですけれど、違いましたか?」

 

『役者が上』の方であったか……。

 

 

 

それからしばらく、二人でたわいもない話をした。

 

「しかし、そんな理由があったとはいえ、まさかあそこまで怒ったり泣いたりするとはな」

 

「自分でも驚きました。こんなこと、初めてです」

 

そう言うと、鳳翔は俺の顔をじっと見つめた。

 

「なんだ?」

 

「いえ。私、本当に提督の事が好きなのだなと思いまして」

 

「なんだよ急に」

 

「恋は盲目と言うじゃないですか。貴方の前だと『鳳翔』という器も、私自身の思う『魅力』も、全て忘れてしまう。全てを曝け出してしまう」

 

「ボロを出してしまうことが『恋』だという訳か」

 

「言い方が悪いですけれど、概ねそういう事です」

 

恋は盲目……か。

確かに俺も、色々と見失いそうになったというか、見失ったというか……。

 

「私……焦っていたのかもしれません」

 

「え?」

 

「鹿島さんが島を出ると聞いて、提督が鹿島さんを好きだと聞いて……焦って、苛立って……泣いてしまいました……」

 

この前見せた大胆さとは打って変わり、鳳翔は弱音を吐いた。

 

「鹿島さんに対抗しようと、貴方に迫ってみたりしました。でも、やっぱり勝てる気がしなくて……。でも、貴方が好きで……諦めきれなくて……。だから……」

 

「鳳翔……」

 

鳳翔は立ち上がると、月を眺めた。

 

「竹取物語を知っていますか?」

 

「え? あ、あぁ……」

 

「最後、天の羽衣を着たかぐや姫は、なにも思い悩むことなく月へ帰ったそうです。翁を愛おしいと思う気持ちも、何もかも……」

 

鳳翔は俺の方を向くと、なんとも言えない表情で、言った。

 

「私も同じだったら、きっと――」

 

鳳翔は近づくと、俺の手を取った。

 

「そろそろ戻りましょう。お腹、空いちゃいました」

 

そう言って見せた笑顔に、俺は――。

 

 

 

消灯時間になり、家へと戻るため執務室を出た時であった。

 

「ん……?」

 

誰が置いたか、玄関ホールにあるソファー。

そこに、夕張と望月が座っていた。

ゲーム機で遊びながら……。

 

「おいお前ら」

 

「あ、提督」

 

夕張は反応を見せたが、望月はゲームの画面から目を離さなかった。

声は聞こえているはずなんだがな。

 

「ゲームは一日一時間だ。鳳翔に言われただろう?」

 

「ごめん、つい。ほら、見て。このケーブルを使うとね? 対戦とか交換が出来るのよ。今、望月ちゃんと試していたところなの。そうだよね?」

 

望月は反応を見せない。

 

「…………」

 

なるほど。

そういう事か。

 

「分かった分かった。だが、もう消灯時間だ。望月、お前は部屋へ戻れ」

 

「私は?」

 

「お前はちょっと話がある。残ってろ」

 

「うん? 分かった」

 

「ほら、望月、さっさと部屋に戻れ。鳳翔に怒られるぞ」

 

「……分かったよ」

 

望月はゲーム機を俺に渡すと、部屋へと帰っていった。

 

「さて……」

 

「せっかく私がきっかけをつくってあげようと思ったのに。どうして帰しちゃったのよ?」

 

夕張はムッとした表情で、ソファーに深く座り込んだ。

 

「余計な事はしないんじゃなかったのか?」

 

「そうだけど……チャンスをみすみす逃すことはないでしょう?」

 

「俺には俺のやり方がある。余計な事はするな」

 

「何よ……。邪魔者扱いして……」

 

「ゲームに夢中になっていて、山城を疎かにしただろ。そんな事するような奴に、余計な事をされてみろ」

 

反論が無いのか、夕張は唇を尖らせた。

 

『貴方がもっと残酷に振ってくれれば、夕張もきっぱり諦められたでしょう……』

 

『あの子がゲームに夢中になっているのなら、それに越したことはないわ……。私のところで泣くよりも、よっぽど健全……』

 

『竹取物語を知っていますか?』

 

『私も同じだったら、きっと――』

 

ふと、山城と鳳翔の言葉が思い起こされた。

 

「提督?」

 

そうか……。

俺は少し――いや、大分こいつに――。

本当に覚悟を決めなければいけないのは――傷つかなければいけないのは――……。

 

「ねぇ、提督ってば」

 

「夕張」

 

「なに?」

 

「お前、もう山城のところにはいくな」

 

「え……」

 

「今後、山城の面倒は俺が見る」

 

永い沈黙が続く。

夕張はゲーム機を放ると、今にも泣きだしそうな顔を見せた。

 

「な、なんで……? 私がゲームに夢中になっていたから……? ご、ごめん……! もうゲームはしないから……!」

 

「いや、ゲームをしてていい。お前に頼むことは、もう無い」

 

「い、嫌よ……! ごめんなさい……! 謝るから……! もう二度としないから……!」

 

縋る夕張に、俺は目も合わせずに――冷たく言った。

 

「この際、はっきり言っておく。夕張、お前は邪魔なんだよ」

 

夕張がどんな顔をしていたのかは分からない。

縋るその手から、徐々に力が抜けて行く。

 

「お前、山城を一人で囲って、俺の気を引いているつもりだったんだろ。山城も、その事に気が付いていたぜ」

 

夕張は何も答えなかった。

 

「山城は、お前が居ない方がよく話してくれたよ。お前が山城の前で、俺の事を諦めきれないと泣いていたことも聞いた」

 

夕張は何も言わなかった。

 

「お前に山城を任せた俺が間違いだった。俺はてっきり、お前は諦めてくれていて、山城を引きずり出して申し訳ないという気持ちがあって、面倒を買って出てくれたのだと思っていた。それでお前の罪悪感が薄れるならと、俺はお前に任せたんだ。なのに、自分の慰めの為に山城を利用するなんてな」

 

流石の夕張も、それには反論があったようで、小さく言った。

 

「違う……。私は……ただ……」

 

あぁ、分かっているさ。

お前が悪くないって事は。

本当に悪いのは――だからこそ――。

 

「違くはないだろ。現に、ゲームに夢中になった途端に、山城の世話を投げ出した。そういうことだろう」

 

俺は夕張の手を退けると、再び冷たく言った。

 

「とにかく、もうお前に頼むことはない。頼むから、大人しくしててくれ……」

 

俺はそのまま、夕張の顔を確認することなく、寮を後にした。

 

 

 

帰る途中、雨に降られた。

どうやら通り雨のようで、『バケツをひっくり返したような』という表現がしっくりくる雨量であった。

 

「…………」

 

俺は足を止め、寮の方を見た。

玄関の明かりは、まだ消えていなかった。

 

「クソ……」

 

怒りなのか、悲しみなのか――よく分からない感情に、俺は――。

 

 

 

翌日。

食堂へ向かうと、二人分の食事を手に持った夕張と鉢合わせた。

 

「お前、それ……」

 

「山城さんの分だけど?」

 

夕張は真顔で、そう答えた。

 

「……昨日の俺の話、聞いて無かったのかよ?」

 

「聞いていたわよ」

 

「だったら……」

 

「従う義務はない」

 

「あ?」

 

「貴方は提督だけど、本当の『提督』じゃない。私に命令できる立場じゃないし、私も従う義務はない。そうでしょ?」

 

こいつ……。

 

「私は私の勝手にするだけ。はっきり言って、貴方は邪魔よ。提督様」

 

俺を押しのける様にして、夕張は食堂を出ていった。

 

「…………」

 

「提督、どうされました?」

 

「明石。いや、別に」

 

「別にって……。そんなに嬉しそうな顔して、別にってことはないですよね?」

 

嬉しそうな顔?

俺は、手洗い場にある鏡に目を向けた。

そこには――。

 

「あ! もしかして、望月ちゃんと進展が? 昨日、何か話してましたよね?」

 

「いや……消灯時間以降もゲームをやっていたから。注意しただけだ」

 

「じゃあ、どうして嬉しそうなんですか?」

 

「さぁな……。俺にもよく分からん」

 

「……?」

 

嬉しい……か……。

 

 

 

朝食後、案の定、皆は家へと向かっていった。

 

「ったく……。しょうがねぇな……」

 

「司令官」

 

「おう、青葉。今日も一緒に、家に行くか?」

 

「いえ、今日は……」

 

青葉の視線の先に、陸奥がいた。

 

「今日は、陸奥さんと一緒に居ようと思います。司令官の言うように、離れなきゃいけないという事は分かっているのですが、やっぱり、青葉は……」

 

「……そうか」

 

「でも、青葉が陸奥さんと司令官の仲を取りなす真似は、もうしません。青葉は陸奥さんの味方ではありますけれど、司令官の味方でもありますから……」

 

「成長したな」

 

青葉は照れるように笑うと、会釈して、陸奥の方へと走っていった。

 

「みんな、一歩一歩進んでいるんだな」

 

それぞれの道。

それぞれの選択。

迷っている艦娘もまだ多いが、それでも、何かきっかけを見つけようとしている。

 

「俺も頑張らなきゃな……」

 

 

 

玄関へ向かうと、昨日と同じように、望月がソファーに座ってゲームをしていた。

 

「よう。お前は行かないのか?」

 

望月は返事をせず、ゲームから目を離すこともしなかった。

 

「昨日みたいにやり過ぎんなよ。じゃあな」

 

そう言って、靴を履き出した時であった。

 

「どうでもいいけどさー、いい加減、その態度やめろよなー。そうしていたら、あたしが話しかけてくれると思ってんだろ?」

 

来た……!

 

「俺に言っているのか?」

 

「とぼけんな。分かってんだよ。あんたの魂胆は」

 

望月は、冷静に、淡白に、ゲーム画面から目を離さずに、話しかけていた。

これ以上とぼけても、仕方がないか。

 

「それが分かっていて、話しかけて来たのか」

 

「このまま無視していても良かったけど、あんたの狙い通り、モヤモヤしちゃってさ」

 

「そのモヤモヤを解消するため、話しかけた……という訳か」

 

「そ……。だから、単刀直入に言うわ。あたしは、島を出ないから。絶対に」

 

俺がしゃべろうとすると、望月はそれを遮った。

 

「あーあー……いいって……。あたしは『そういうの』いらないからさー……。あたしを説得するよりも、あの三人にあたしを諦めさせる方が早いって。あたしは別に、あいつらがいなくても平気だからさ、そう伝えておいてくれ」

 

そう言い終えると、望月はゲーム機を持って、部屋へと帰っていった。

 

 

 

家に着き、俺は早速、大淀に報告をした。

 

「そうですか。やっぱり、話しかけてきましたか」

 

「お前の言う通りだったぜ。流石だな、大淀」

 

「いえ。提督も、流石です。望月さんを引き留めず、ただ帰すなんて」

 

「それこそ、あいつの思惑通りになってしまうと思ってな。あいつ、中々の策士だよ。俺が仕掛けてこないものだから、餌をまきやがった。あえて話しかけて、チャンスが来たのだと思い込ませ、俺が必死になることを狙ったんだ」

 

「なるほど。同じ策士だからこそ、分かった訳ですね」

 

どこか嫌味っぽく、大淀はそう言った。

 

「……とにかく、策士策に溺れる、だ。俺が必死にならなければ、あいつもまた、モヤモヤし出すだろうよ」

 

「本当、提督って嫌な人ですよね。佐久間さんとは大違いです……」

 

「誉め言葉として受け取っておくよ」

 

そう言ってやると、大淀は嬉しそうに笑って見せた。

 

 

 

昼食の時間に山城の様子でも見に行こうかと思っていたが、駆逐艦たちがそうさせてくれなかった。

 

「ねーねー提督。島風と早食い対決しよー?」

 

「早食い対決って……。駄目だ。しっかり味わって食え」

 

「ご主人様、あーん」

 

「い、いや……自分で食えるから……」

 

「朧も、あーん、です」

 

「いや、だから……」

 

「いや~ん! 照れてるご主人様、かわゆす~」

 

何故か急に懐かれたようで、皆、食事を持って俺の周りに集まりだしていた。

 

「提督さん」

 

「鹿島。これは一体、どうしたって言うんだ……?」

 

「皆さん、提督さんがいい人だって、気が付いただけですよ。本当は、ずっとこうしたかったのではないかと思いますよ?」

 

「そうだとしても……」

 

大井や鹿島の影響もあるのだろうが、やはりきっかけはゲーム機だろうな……。

ゲーム機に目がくらんで、警戒心が薄れてしまったのだろう……。

 

「まあ、結果オーライだろうけれど……」

 

今までの苦労ってのは、本当、なんだったのだろうか……。

 

 

 

結局、その日はずっと駆逐艦に揉みくちゃにされて、山城を訪ねることは出来なかった。

 

「疲れた……」

 

「お疲れ様でした」

 

「駆逐艦の相手がこんなに疲れるとは……。鹿島達は苦労しているんだな……」

 

「提督に体力が無いだけでは?」

 

「……大淀、お前最近、嫌味ばっか言うようになったよな」

 

「お好きでしょう? そういうの」

 

鳳翔にも似たような事を言われたが、こいつらの俺に対する評価とは一体……。

 

「そう言えば、夕張さん、ゲームを全くやらなくなりましたね。ずっと山城さんと一緒に居るようです。何かあったのですか?」

 

俺は一瞬、答えに詰まってしまった。

 

「……さぁな。ゲームに飽きたんじゃないのか?」

 

「あんなに種類があるのに?」

 

「そういうもんなんじゃないのか? ゲームなんて、どれも同じようなものにしか見えん」

 

結局、山城の事は夕張に任せっきりになってしまった。

――いや、あいつは最初から、こうなることを知っていたのだろうか。

知っていて、あんなに辛い言葉をかけられても、山城の面倒を見ようと決意したのだろうか。

 

「それは提督があまりゲーム機に触れていないからですよ。今度、大淀と一緒に協力プレイをしませんか?」

 

「お前と?」

 

「えぇ。二人でやれば、きっと楽しいですよ」

 

協力プレイ……か……。

 

「考えておくよ」

 

「きっとですよ? ふふ」

 

大淀は嬉しそうに笑うと、会釈し、部屋を出ていった。

 

「フッ……まだやるとは言っていないんだがな」

 

 

 

玄関へ向かうと――夕張はいなかったが、昨日と同じように、ソファーに望月が座っていた。

やはりゲーム機を手に持って――。

 

「まーたお前か」

 

「部屋でやっていると、明かりでバレるんだわ。ここは案外死角だし、この時間に外に出る奴もいないしで、安地ってやつなんだわ」

 

訊いても無いのに、まあ良くしゃべるやつだ。

 

「そんなに好きか? ゲーム」

 

「別に~? やることないからやってるだけ……」

 

「その割には、夢中になっているように見えるが」

 

「あんただって、別に好きでもない女に鼻の下を伸ばしてるじゃねーか」

 

「男の性ってやつだ。逆らえんのだ」

 

「ならあたしも、その性ってやつだ」

 

「……そうかよ」

 

俺は下駄箱から、靴を取り出した。

 

「……部屋に戻れって、言わなくていいのかよ?」

 

「言って欲しいのか?」

 

「そういう訳じゃねーけど……。見逃したら、鳳翔さんに怒られるんじゃね?」

 

「かもな」

 

「かもなって……あんた……」

 

「俺が注意しても、どうせやるんだろ? だったら、一回鳳翔に本気で怒られろ。俺が言うよりも、そっちの方が効くだろ?」

 

「う……確かに……」

 

望月の奴、やけに絡んでくるな……。

こりゃ、もしかして……。

……ちょっと仕掛けてみるか。

 

「それでもお前、まだゲームをやるのか?」

 

「あんたが見逃してくれるのなら、やるかもなー。そうすりゃ、見つかってもあんたの所為に出来るし」

 

「なるほど……ちゃっかりしてるな……。なら、絶対に見つからない場所を紹介しようか? お前が見つかっちまったら、俺も怒られるし、協力するぜ」

 

「お、マジ? どこよ?」

 

「家だよ」

 

「家?」

 

「俺んちだよ。そこだったら、見つかりっこないだろ? ゲーム機もたくさんあるし、今なら誰にも邪魔されず、遊び放題だぜ?」

 

望月はゲームの手を止めた。

その表情は――まあ、来るわけないよな。

 

「……なんてな。続けるのは構わんが、見つかるなよ? じゃあな」

 

靴を履き、寮を出た時であった。

 

「ま、待って……!」

 

望月は小声で俺を呼び止めると、急いで靴を履き、小走りで駆け寄って来た。

 

「どうした?」

 

「……行かないとは言ってねーし。勝手に決めつけんなよなー……」

 

そう言うと、望月は家へと歩き出した。

俺は唖然とし、立ち尽くしていた。

 

「おーい、駆逐艦一人に夜道を歩かせる気かよー?」

 

「……おう。悪い悪い。今行くよ」

 

 

 

家に着くと、望月は早速、ゲーム機の電源を入れた。

 

「これこれ~。昼間は出来なかったんだよな~」

 

「なんだよ。結局好きなんじゃねーか。ゲーム」

 

「性だって言ったろー? あんただって、ボインな女が目の前に居たら、食いつくだろ?」

 

「生憎、俺は草食系男子ってやつらしくてな」

 

「それ知ってる。って事はあんた、童貞ってやつ?」

 

「あぁ、そうだよ」

 

「そうだよって……。案外正直者なんだな、あんた」

 

やりたいゲームをやれて機嫌がいいのか、望月はニッと笑って見せた。

 

「ま、楽しんでくれているのならいいけどよ。ふわぁ……俺はもう寝るぜ……。駆逐艦の相手をして、疲れているんだ……」

 

「いいのかよ? せっかくあたしが来ているのに、説得するチャンスじゃねーの?」

 

確かにそうだ。

だが……。

 

「どうせ、俺の話なんて聞かないつもりだろ? なら、俺は疲労回復に努めるさ」

 

誘ったのはこっちだとは言え、やはりどうもキナ臭い。

相手が策士であるからこそ、ここは時間をかけて臨むべきだろう。

……正直、マジでめっちゃ疲れているのもあるしな。

 

「お前、鳳翔が起きてくる前に寮に戻れよ。仮に奴が起きていたのなら、道場の方から部屋へ戻れ。幾分か見つかりにくくなるだろうよ」

 

「……分かった」

 

「んじゃ、お休み……」

 

寝室へと向かうと、一気に眠気が襲ってきて、俺は倒れる様に床に就いた。

望月の事が気がかりではあったが、そんな気もまた、夢へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

『おーい、親父ぃ。一緒にゲームやろーぜー』

 

あ?

親父だぁ?

 

『なーにボケーっとしてんだ親父ぃ。それとも、パパって呼ばなきゃ、返事しねーってのかぁ?』

 

何言ってんだ……?

こいつ……。

 

『せっかく家族になったんだし、子供らしくしてやってんだぜー? 少しはあたしに感謝しろよなー』

 

家族……?

こいつが――望月が俺の家族……?

 

『ゲームは一日一時間だぜ。お前、さっきやってたろ。今日はもう終了だ』

 

『二人でやるからいいじゃん。親父だって、まだ一時間残ってんだろ?』

 

本当、こいつはいつもいつも――。

 

『――屁理屈ばっかだな』

 

『あんたの子だからな』

 

はは……。

血は繋がっていないのに、不思議なもんだよな。

 

『ったく……。しょうがねぇな……。付き合ってやるよ』

 

『そうこなくっちゃ』

 

『但し、このゲームで俺が勝ったら、今日はお前が飯つくれよ?』

 

『分かった分かった。まぁ、負けねーけどなー。あたしが勝ったら?』

 

『ぎゅって抱きしめてやるよ』

 

『うぇぇ……罰ゲームじゃん……』

 

『なら、他のにするか?』

 

『…………』

 

『フッ……素直に甘えたいって言えよな』

 

『……うぜぇー』

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

目を覚ますと、目の前に望月の顔があった。

すぅすぅと寝息をたてている姿は、まさに子供のそれであった。

 

「なんでこいつがここに……」

 

時計の針は、早朝の五時を指していた。

 

「あぁ……そうか……。来ていたんだったな……」

 

あの後ずっとゲームをしていて、寝落ちでもしたのだろう。

そして、寝惚けて俺の寝床へやって来た……って所だろうか……。

 

「おい、起きろ……」

 

「んぁ……? 親父ぃ……?」

 

「親父って……。そんな歳じゃねぇよ、俺は」

 

寝惚けているのか、望月はムニャムニャと意味不明な事を呟いていた。

 

「おーい。起きろー。早く帰らねぇと、鳳翔に怒られるぞ」

 

「ん~……」

 

望月は起き上がると、寝惚け眼を擦りながら、フラフラと俺の方へと寄って来た。

 

「望月?」

 

そして、俺を一瞥すると、そのまま抱きついた。

 

「お、おいおい……」

 

「ん~……ん~……」

 

徐々に力の抜けて行く望月。

完全に脱力すると、再びすぅすぅと寝息をたて始めた。

そう言えば、朝が弱いとかなんとか、吹雪さんのノートに書いてあったような……。

 

「……しょうがねぇな」

 

望月を抱き上げ、そのまま寮へと向かった。

 

 

 

食堂の方からは既に、まな板を叩く音がしていた。

 

「鳳翔か……。相変わらず早いな……」

 

気付かれぬよう、そっと靴を脱ぎ、望月の部屋へと向かう。

 

「入らせてもらうからな」

 

返事を待ってみたが、寝息しか聞こえてこなかったので、俺はそのまま部屋の扉を開けた。

 

「おぉ……」

 

面倒くさがり屋なもんで、部屋も散らかっていると思いきや、驚くほどに整理整頓されていた。

 

「っと……。ちょっとここで待ってろ」

 

望月を下ろし、押し入れから布団を取り出す。

子供用の布団って、こんなに小さいんだな。

 

「ん~……」

 

望月が目を覚まし、こちらへ寄って来た。

 

「おう、お目覚めか?」

 

「……どうしてあんたがここに?」

 

「お前、さっきまで俺の家で寝ていたんだぜ? しかも、俺の布団に入っていやがった」

 

「え……?」

 

「え? って……。覚えていないのか」

 

「あ……いや……そ、そうなんだ……」

 

恥ずかしいのか、望月はほんのりと顔を赤くした。

 

「ほら、布団敷いたぜ。まだ朝の5時だ。朝食までは寝とけ」

 

「ん……サンキュー……」

 

「じゃあ……」

 

去ろうと、立ち上がった時であった。

 

「あんた……あたしのこと、どうしたいんだよ……?」

 

「え?」

 

「卯月たちを島から出すには、あたしの説得が必要なんだろ? なのに……どうして何もしてこないんだよ……?」

 

望月は、うっすらと明るくなりつつある空を窓越しに眺めながら、そう言った。

 

「説得してほしいのか?」

 

望月は答えなかった。

 

「お前は中々の策士だ。あのソファーに座っていたのだって、俺を釣るためだろ? お前がどういうつもりで俺を釣ろうとしていたのかは、なんとなく分かる。同じ策士だからな」

 

望月は答えない。

 

「だからこそ、釣られまいとしただけだ。素っ気なくしていれば、こうしてお前が話してくれると思ったってのもあるけどな。お前だって、分かっていただろうに」

 

「……あたしはまんまと罠に嵌ったって訳か」

 

「そうとも言い切れない。お前がどうして、頑なに島を出ないと言っているのか、その理由を聞くまでは、なんとも……」

 

「なら……訊いたらどうなんだ……? その理由……」

 

「訊いたら、話してくれるのか?」

 

望月は黙ったまま、俯いてしまった。

 

『とぼけんな。分かってんだよ。あんたの魂胆は』

 

望月は分かっていたはずだ。

モヤモヤを解消するだけだったとしても、わざわざ「罠に嵌った」だなんて、簡単に認めるものだろうか。

 

「…………」

 

もしかして、こいつは……。

 

「……望月」

 

「なに……?」

 

「お前、もしかして、俺に訊いて欲しいのか? その理由とやらを……」

 

望月はやはり答えなかった。

だが――。

 

「……そうか」

 

なるほど、そういうことか……。

こいつがあのソファーに座って、俺を釣ろうとしたのは――。

 

「説得して欲しいってのは、本当なんだな」

 

「……別に、ちげーよ」

 

そこは素直に認めないんだな。

……いや、或いは認められないでいるんだ。

 

「お前の気持ちは分かるよ。俺も、同じような性格だからさ」

 

「…………」

 

「だからこそ、お前には訊かない」

 

「え……?」

 

「お前から話してくれるまで、俺からは訊かない」

 

「……その作戦は、もうあたしには効かねーぞ」

 

「十分効いているだろ。今の時点でさ」

 

望月は黙り込んでしまった。

 

「……お前は、本当はあいつらと島を出てもいいと思ってはいるが、なにかそう出来ない理由があるとも思っている。その理由を俺に否定してほしくて、俺を釣ろうとした。違うか……?」

 

望月は、やはり――。

 

「逃げ道を無くせば、進むことが出来る。確かにその通りではある。けど、それだけじゃダメだって、俺は知っている。お前だって、本当は――」

 

山風の背中が、俺にはハッキリと見えていた。

 

「……否定されることを待つのではなく、その理由を受け入れようとすることが大事なんじゃないか? 少なくとも、俺はそう思っているよ」

 

「…………」

 

「……まあ、とにかく、そういう事だ。そろそろ行くよ。お前も、寝れないだろうしな」

 

俺は立ち上がり、そのまま部屋を後にした。

望月は呼び止めることなく、ただ窓の外を眺めていた。

 

 

 

家に戻るのもなんだったので、食堂へ寄ることにした。

 

「あら、提督。おはようございます」

 

「よう、鳳翔。おはよう」

 

「珍しいですね。こんな時間に」

 

「ん、ちょっと眼が冴えてしまってな。朝食、一人で作っているのか?」

 

「えぇ。今日は凝ったものを作るわけでも無いので」

 

「そうか。どれ、何か手伝うことはあるか?」

 

そう言ってしまい、俺はハッとした。

そういや、こういう事を嫌がるんだった……。

 

「あぁ、いや……。悪い……。嫌だよな……」

 

鳳翔は少し驚いた表情を見せた後、ニコッと笑って見せた。

 

「では、お願いできますか?」

 

「え? いいのか?」

 

「えぇ。もういいんです。だって、あなたは見つけてくれましたから。私の魅力が、尽くす事だけじゃないって」

 

「鳳翔……」

 

「うふふ、あなたって言っちゃいました。何だか夫婦みたいですね」

 

鳳翔の笑顔に、俺も思わず笑ってしまった。

 

「フッ、結構言っていたぞ。『貴方』って」

 

「それはあくまでも、ただの二人称であると言いますか、今の『あなた』は、夫婦の呼び名的なものなのです。全然違うものですよ?」

 

そういや、鹿島もデートで、俺の事を『あなた』と呼んでいたな。

夫婦になったら、こいつらは俺の事を――。

 

「あなた?」

 

「……いや。それで? 俺は何をやればいいんだ?」

 

「でしたら――」

 

「――分かった」

 

それから鳳翔と共に、朝食を作った。

終始嬉しそうにする鳳翔。

 

『私も同じだったら、きっと――』

 

鳳翔、俺は、いつかお前を――。

 

「ふんふんふ~ん。ん? 何です?」

 

「……いや」

 

俺は――。

 

 

 

朝食の準備が出来た頃、皆がぞろぞろとやって来た。

 

「皆さん、おはようございます」

 

「おはようございまーす」

 

望月も起きれたようで、寝惚け眼を擦りながら、いつもの席についていた。

一度目が合ったが、何事も無かったかの様に、逸らされてしまった。

 

「さて、皆さん集まりましたね」

 

大淀が朝の挨拶をしようと立ち上がった時であった。

 

「待って!」

 

叫んだのは、夕張であった。

 

「夕張……?」

 

「まだ全員じゃないでしょ? もう一人いるわ」

 

大淀はハッとして、皆の人数を数え始めた。

だが、合っていたのか、怪訝そうな表情で夕張を見た。

 

「この寮には、28隻しかいない訳じゃないですよ。そうですよね?」

 

夕張は、力いっぱい何かを引っ張ると、その引っ張ったものを――引っ張った奴を、皆の前へと押し出した。

そいつの姿に、皆、驚きの声を上げると共に、思わず立ち上がっていた。

無論、俺もだ。

 

「や……」

 

「「「山城さん!?」」」

 

「「「山城!?」」」

 

皆が一斉に呼ぶものだから、山城は小さく「ヒィッ……」と、悲鳴を上げた。

 

「今日から山城さんも、ここで食事を共にするわ。部屋を出るのは、食事の時くらいが限界だけれど、いずれはそれ以外の時にも部屋から出れるよう訓練するから、皆も協力して! お願いします!」

 

夕張が頭を下げると、山城も申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「あいつ……」

 

皆が一斉に、山城と夕張の方へと駆け寄って行く。

 

「山城さん!」

 

「山城さん、お帰りー!」

 

「皆、待っていたんだよ?」

 

「私たちも協力するわ! ね?」

 

「うん!」

 

皆がワイワイ騒ぐ中で、夕張と目が合い、こちらへ寄って来た。

 

「お前……」

 

夕張は俺の胸をグーで軽く殴った。

 

「痛っ!?」

 

「どうよ!?」

 

夕張はニッと笑うと、俺の反応を待った。

 

「…………」

 

唖然とする俺に、夕張の表情は、徐々に強張っていった。

ここで、酷い言葉をかけてやれば、きっと、夕張はもう……。

 

「――……」

 

けど……俺には……。

 

「褒めてあげたら……?」

 

そう言ったのは、山城であった。

 

「本来、私を部屋から出すなんて、貴方がやるべき仕事でしょう……? それを、夕張がやってくれたのよ……?」

 

お前、この前と言っていることが――。

 

「…………」

 

いや、違う……。

山城、お前は俺の事を――。

俺は再び、夕張に目を向けた。

 

「ど……うよ……?」

 

先ほどとは違い、どこか泣きそうな表情になっていた。

 

「……はは。お前、何を泣きそうになっているんだ……?」

 

「……寝起きだからかしら」

 

「そうか……」

 

俺は夕張の表情を隠す様に、頭を撫でてやった。

 

「お見逸れしたよ。正直、お前がここまでやるとは、思ってもみなかった」

 

「…………」

 

「……ありがとうな。夕張……。あと……この前は……」

 

いや……。

 

「……これからも、よろしくな」

 

俺は夕張の反応を見ることなく、そのまま山城の方へと向かった。

夕張がどんな表情をしていたのかは分からない。

だが、それを確認するのは野暮だと、俺の心が――いや……本当は、見れなかったんだ。

見てしまったら、きっと――。

 

 

 

食事中、山城は皆に囲まれてしまっていた。

 

「ふふ、山城さん、とっても困っていますね」

 

「やけに嬉しそうじゃないか、サド大淀」

 

「サドかどうかはおいといて、山城さんが部屋から出てきたことは快挙ですよ。喜ぶべきです」

 

「部屋を出るなんて当たり前のことなんだがな……」

 

だが、喜ぶのも分かる。

十五年も部屋から出てこなかった奴だ。

こいつらも、相当手をやいていたはずだ。

 

「夕張さんのお陰ですけど、原動力は、やっぱり提督ですかね?」

 

「どうかな……。邪魔者扱いされていたしな……」

 

「ふふ。でも、本当に良かったです。また一歩、前進ですね」

 

「あぁ、そうだな」

 

そうだよな。

とりあえず、喜ぶべきだよな。

色々と片付けなければいけない問題はあるが、今は――。

 

 

 

食後、山城は帰って行き、駆逐艦の次の標的は俺になった。

 

「ご主人様、早く家に行きましょう!」

 

「提督ー。早くぅー」

 

「お、おう……分かったから……」

 

揉みくちゃにされていると、ふと、陸奥と目が合った。

いつものようにそっぽを向かれる……のかと思いきや、陸奥は何か言いたげに、こちらをじっと見つめていた。

 

「……お前ら、ちょっと先行っててくれ」

 

何とか駆逐艦を引っぺがし、陸奥の方へと向かう。

陸奥は逃げることもせず、俺を待ってくれていた。

 

「陸奥、どうした? 何か用事か?」

 

青葉はいない。

どこかで様子を見ている訳でもないようだ。

 

「青葉はいないわ……」

 

俺の心を読んだかのように、陸奥はそう言った。

 

「提督……その……ごめんなさ――」

「――陸奥」

 

陸奥は恐る恐る、俺を見た。

 

「一緒に来てくれるのか? そりゃ、ありがたいぜ」

 

「え……?」

 

「お前の言う通り、俺一人じゃ、駆逐艦を捌ききれんのだ。陸奥が一緒に来てくれるのなら、助かるぜ」

 

そう言って、俺は笑って見せた。

その意味が伝わったのか、陸奥は一瞬だけ泣きそうな表情を見せた後、応えるように笑顔を見せてくれた。

 

「……えぇ! 貴方だけじゃ、不安だもの。お姉さんが協力してあげるわ!」

 

「おう、助かるよ。それじゃあ、行こうぜ」

 

俺が手を差し出すと、陸奥はそっと、自分の手を重ねた。

 

「……ありがとう、提督」

 

「いや」

 

ふと、視線を感じ、俺は厨房に目を向けた。

なるほど、そこに居た訳か。

 

「提督?」

 

「ん、なんでもない。行こうぜ」

 

「えぇ」

 

 

 

それから俺たちは、新たに陸奥を加え、いつものようにゲームを楽しんだ。

 

「陸奥さん、上手ー!」

 

「うふふ、この手のものは得意なの」

 

陸奥もいつもの調子を取り戻してくれたようで、純粋にゲームを楽しんでくれていた。

 

「司令官」

 

「おう、青葉」

 

「陸奥さん、来たんですねぇ。という事は、仲直りできたんですね」

 

「何をとぼけたことを。ずっと見てただろ。厨房の方でよ」

 

「あはは……バレていましたか」

 

「バレバレだよ」

 

青葉は優しい目で、駆逐艦に囲まれた陸奥を見つめていた。

 

「まるで親のそれだぜ」

 

「えぇ、そんな気持ちですよ。独り立ち出来た陸奥さんを見ていると、何だか、少し寂しくなってきます」

 

何十年も陸奥の事を気にかけて来たもんな。

そりゃ、そういう心境にもなるよな。

 

「司令官……」

 

「ん?」

 

「青葉……鹿島さん達と一緒に、島をでます……」

 

「え……?」

 

まるで時が止まったかのように、辺りが静かになった――ように感じた。

 

「お前……急にどうした……?」

 

「司令官に言われて、青葉も考えたのです……。これからのこと……」

 

『お前、いつまで陸奥にくっついているつもりだ?』

 

確かにそう言ったが……。

 

「青葉がいないと、陸奥さんは駄目だって……陸奥さんには、青葉がいないといけないんだって……ずっとそう思っていました……。でも、陸奥さんは、自分の力で司令官との仲を取りなおしました。それで分かったのです。陸奥さんに青葉が必要だったんじゃない。青葉に陸奥さんが必要だったんだって……」

 

「青葉……」

 

「……本当は分かっていたんです。でも、ずっと目を背けてきました……。以前に、司令官に言われた通りです……。陸奥さんの足を引っ張っているのは、青葉なんです……」

 

「……だから、これ以上足を引っ張らない様に、島を出ると?」

 

「えぇ……」

 

「……でも、お前自身はどうなんだよ? 陸奥の為陸奥の為って……。お前はちゃんと、お前自身が納得する理由を以って、島を出るべきなんじゃないのか?」

 

「理由ならあります。青葉、新聞をつくりたいのです」

 

「新聞?」

 

「えぇ。初めて新聞を褒められた時――佐久間さんに褒められて、皆さんにも新聞を褒められた時に、青葉、思ったのです。誰かを喜ばせる事って、こんなにも嬉しい事なんだって」

 

そういえば、親父が青葉の新聞に写真を――もっと楽しいものにしようと提案したんだっけか。

 

「司令官は、自分の為に生きるべきだって言いますけれど、やっぱり青葉は、誰かの為になることをしたいのです。それを生きがいとしたいのです」

 

「そのための新聞……か……」

 

「えぇ……。青葉なんかが出来るのか、不安ではありますけれど……。やっぱり、挑戦してみたいのです。もう、陸奥さんの陰に隠れることは、したくないのです……」

 

「……そうか」

 

「それに……」

 

青葉は、俺をじっと見つめた。

とてもやさしい目であった。

 

「貴方がいるうちに、島を出たいのです……。貴方がいるこの時間を……貴方と共有したいって……思ったのです……」

 

そして青葉は、俺の手をそっと握って、皆に分からぬよう寄り添った。

 

「司令官……」

 

「……なんだ?」

 

「青葉は――……」

 

青葉の言葉は、駆逐艦の騒ぎ声にかき消された。

言葉を言い終えた青葉は、ニコッと笑って見せると、陸奥の方へと走り去っていった。

 

「…………」

 

かき消された言葉。

だが、何故だか俺には、ハッキリと聞こえていた。

 

『青葉は――貴方の事が――……』

 

 

 

その日の消灯時間。

帰ろうとする俺を引き留めたのは、望月であった。

 

「よっ!」

 

「よっ! って……。お前……」

 

「今日も行っていいっしょ? ってか、連れてってくれないなら、鳳翔さんにバラすけど」

 

望月はニッと笑って見せると、そそくさと靴を履き出した。

こいつ……まるで今朝の事なんてなかったかのように……。

でもまあ……。

 

「分かったよ……。ほら、行くぞ」

 

「へへへ~」

 

 

 

望月は何故か、ものすごく機嫌が良かった。

 

「お前、今日はどうした? なんかいい事でもあったのかよ?」

 

「別にー? なんつーか、これがいつものあたしなんだよ。あんたを警戒しなくてよくなったから、いつもの通り振る舞ってるだけさ」

 

こいつ、いつもこんなだったっけか……。

 

「しかし……本当元気な奴だな……。あんまりはしゃいで、昨日みたいに眠くなっても知らんぜ?」

 

「大丈夫だよ。昼間、ずっと寝てたから」

 

「寝てたって……」

 

そう言えば、今日は家に来ていなかったな……。

てっきり、今朝の事があったから、来なかったのだと思っていたが……。

 

「これで今夜は、寝落ちせずゲームが出来るぜー!」

 

「策士め……」

 

 

 

家に着くと、望月は早速ゲームを始めた。

 

「今日はちゃんと、日付が変わる前に帰れよな。じゃあ、お休み」

 

「お休みって……。おいおい、あんたもやるんだよ」

 

「あ?」

 

「協力プレイだよ。このステージ、二人じゃねーとクリア出来ねーんだ。ほら、分かったら座れー」

 

「んなもん知るかよ……。昼間、誰かと一緒にやれよ」

 

「お、いいのかー? あたしを監視しなくて。あんたが寝たら、あたしは延々とゲームをやってしまうかもしれないぜー?」

 

こいつ……。

 

「一緒にやってくれたら、ちゃんと時間内に帰るからさ。な? 頼むっ!」

 

お願い、とでも言うように、望月は手を合わせ、頭を下げた。

そんな所作、漫画でしか見たことないぞ。

 

「……日を跨ぐ前に帰る。それが約束だ」

 

「帰る帰る! へへへ、じゃあ、決定だなー」

 

望月は俺にコントローラを渡すと、テレビの前に座った。

 

「…………」

 

こいつ、一体何を考えているのだろうか……。

まさか本当に、普段からこういう奴なのか……?

 

「おーい、スタートボタンを押してくれい。始まんねーじゃん」

 

「あ、あぁ……悪い……。えーっと……これか……」

 

「よっしゃ! いくぜぇー?」

 

こうして、俺と望月の協力プレイが始まった。

 

 

 

「こっちあたしが片付けるから、あんたはそっちやっといてくれ!」

 

「あぁ、分かった」

 

ゲームを始めてから、一時間ほど経った。

望月のプレイが上手いこともあって、ゲームは順調に進んでいった。

 

「上手いな。お前」

 

「あんたが下手なだけじゃね? あたしなんて、まだまだだよ。昔、山風って奴がいたんだけど……って、あんたは知ってるか。山風が、この島で一番ゲームが上手くてさ。あたしが時間をかけて出したハイスコアとか、ものの一瞬で超えてくるんだ。大人しい顔して、えげつないほどゲームが上手かった」

 

昔からそうだったのか……。

 

「山風の奴、今頃、何してんのかな……。まだゲームやってんのかな……」

 

望月は、山風が島の外でどうなっているのかを知らない。

知ったら、きっと驚くだろうな。

 

「……なあ」

 

「ん?」

 

「今朝の事だけどさ……。ほら、あたしが島から出ない理由を、あんたが訊く訊かないってやつ……」

 

「え?」

 

突如、ゲーム画面で、望月のキャラが死んだ。

 

「あ! ちょ……!?」

 

残された俺は、アタフタしている内に殺された。

GAME OVERと、ご丁寧に大きな文字で、ゲームが終わった事を知らされた。

 

「……終わっちったな」

 

「あぁ……」

 

コントローラを置くと、望月は膝を抱え、小さくなってしまった。

 

「……それで? 今朝の事がなんだって?」

 

「んー……なんつーかさ……。あたしなりに、色々考えてみたんだけどさー……。やっぱりって言うか……あたしは……素直に、その『理由』ってのを、認めることが出来ないんだわ……」

 

困った表情で、望月は笑った。

しかし、急にぶっこんで来たな。

いや……。

 

「この話をするために、俺と協力プレイを?」

 

「さあなぁー……」

 

とぼける望月。

だが、協力プレイをしていて分かったのだが、別に、俺なんかがいなくても、望月一人でクリアできたゲームであった。

むしろ、俺は足手まといだった。

 

「それで、考えてみたあたしが出した結論ってのは?」

 

「んー……」

 

望月は恥ずかしそうに、俺をチラリと見た。

 

「まあ、なんつーか……。あんたに頼るって言うか、あんたに嵌めてもらうっていうか……。そういうの得意だろ? あんた……」

 

「お前を騙し、その理由を引き出せってことか?」

 

「っていうか、もう逃げ場も無いくらい追い詰めてもらってさ、どうしようもなくて、島を出る羽目になりました……ってな感じでお願いしたいんだわ。理由も、訊く訊かないとかはもういいんだ。実を言うと、あたしは元々、あんたに理由を教えるつもりはなかったんだわ。いつまで経っても理由を言わないあたしに、あんたは強制的にあたしを島から出すシナリオを考えるだろうって、そう考えていたんだ」

 

なんじゃそりゃ……。

 

「意味が分からん……。大体、そんな事をするくらいなら、さっさと島を出たらどうなんだ?」

 

「そこが難しい所なんだよ。あんただって、分かるだろ? 認めるには辛いけど、どうしようもない事なら、受け入れられるって……。めんどくせーめんどくせーっていつも言ってるけどさ、一番めんどくせーのは、このあたし自身なんだわ」

 

『あたしは、雨宮君の逃げ道にはならない……』

 

なるほど……そういう事か……。

 

「まあ、そういう事だからさ。なんとかあたしを説得するか、強制的に島から出すような何かをくれよ」

 

『雨宮君の事が好き……。好きだからこそ……雨宮君には戻って欲しいって思ってる……』

 

山風……。

 

「おーい、聞いてるかー?」

 

「望月」

 

「ん、なに?」

 

「悪いが、やはりお前の口から本当の理由を聞くまで、俺はお前を島から出すわけにはいかない」

 

望月は、不機嫌そうな表情を見せた。

 

「なんでだよ……?」

 

「お前を想っての事だ。確かに、俺の仕事は艦娘を人化させることだ。お前が島を出てもいいというのなら、どんな手段でも使うべきだろう。だが、それなら別に、俺でなくてもいい。誰にだってやらせることは出来たはずだ。そうしてこなかったのは、やはり、お前たちの未来を考えての事ってのがあるはずだ。だからこそ、俺には出来ない」

 

「……綺麗ごとだし、そりゃあんたの勝手な解釈だろ。しかもあんた……武蔵さんの事はどう説明するんだよ? 勝ったら島を出て行けって言ってたじゃん……」

 

「あれは武蔵からの提案だったんだ。俺じゃない。それに、俺は出ていけなんて一言も言っていない。むしろ、残ってくれと言ったんだぜ?」

 

『約束通り、島を出て行ってもらうぜ……』

 

あぁ、いや……言ったかも知んねぇな……。

だが、そんな事は忘れているのか、望月は苦い顔を見せた。

 

「いい加減、認めたらどうなんだ? 素直に認めれば、楽になるだろうし、そっちを解決した方が、いいと思うんだがな」

 

望月は黙り込んでしまった。

 

「……分かった。じゃあ、こうしようか」

 

俺は、ゲームのカセットを手に取った。

 

「俺とゲームで勝負をして、俺が勝ったらその理由を話してもらう。俺が負けたら、お前の望み通りに動いてやる。それでどうだ?」

 

「望み通りって……?」

 

「お前を強制的に島から出すだとか、なんなら、あの三人を説得して、全員を島に残す事だってしてやってもいい」

 

望月の目の色が、一気に疑いのものへと変わった。

 

「信じられねーよ……。だって……あんたに不利な条件じゃん……。どうしてそんな条件を出すんだよ……?」

 

「そうでなければ、お前の理由は引き出せない。そう思ったからだ」

 

永い沈黙。

 

「……あんた、負けるぜ?」

 

「フッ、かっこいいな、その台詞」

 

「……本当にいいんだな?」

 

「あぁ、男に二言はない。ただ、勝負するのはもうちょっと待ってくれ」

 

「あー?」

 

「今やっても、俺が勝てないのは分かっている。だから、少し練習する時間をくれないか?」

 

俺の提案に、望月は思わず笑ってしまっていた。

 

「かっこわる~……」

 

「格好悪くて結構だ。それに、相手が全力じゃないと、後味が悪いだろ?」

 

「別に? 弱いやつが悪いだけじゃん」

 

「お前な……」

 

「でも……いいよ。分かった。約束だ」

 

望月は小指を出した。

お前も、約束はそう紡ぐのか。

 

「おう、約束だ」

 

俺たちは、小指を絡め、約束を紡いだ。

 

「後悔すんなよ?」

 

「そっちこそ」

 

望月はニッと笑うと、立ち上がった。

 

「はぁ~……すっきりした! んじゃ、帰るわ」

 

「もういいのか? まだ時間あるぞ」

 

「いいんだよ。目的は果たしたしなー」

 

やはりそうだったんじゃねぇか。

 

「……なあ」

 

「ん、なんだ?」

 

「あんたが勝ったらさ……あんたの事……司令官って……呼んでやってもいいぜ……?」

 

「なんだよ急に?」

 

「……別に、なんとなく。じゃあなー」

 

望月はそそくさと、寮へと戻っていった。

 

「司令官……か……」

 

望月なりの発破なんだろうな。

そんな事しなくていいはずなのに。

あいつなりの気遣いなのかな。

 

「さて……言ったはいいけど……どうすっかな……」

 

とりあえず……。

 

「ゲーム……やるか……」

 

その後、俺はゲームに夢中になり過ぎて、朝を迎えてしまった。

その光景を鳳翔に見られてしまったものだから、そりゃもう大変に怒られたのだった。

 

 

 

 

 

 

残り――29隻

 

――続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。