不死鳥たちの航跡   作:雨守学

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第30話

――結局、その時は、提督の精神が不安定になっているのかもってことで、すぐに部屋を出ることになったのです。

でも、私とあの子は、どうしても提督とお話がしたくてね……。

二人でこっそり、誰もいない時を見計らって、提督に会いに行ったんです。

 

――えぇ、今でもよく覚えています。

話した内容を一言一句。

それほどまでに、あの時間は――。

 

――フフッ、すみません。

いえ、あの子が――そうね、今の人にとっては、あの子が瑞鶴なのね――瑞鶴が、突然、提督に求婚したのを思い出して。

あの時の提督の顔ったら――。

 

――話が逸れましたね。

とにかく、そこで初めて、聞いたんです。

のちに起こるであろう戦争の話を……。

そして、それに向けた訓練の話を……。

 

――信じる信じないなんて、私たちには関係無かった。

提督の言ったことは――いえ、提督が言うから、それは真実となるのです。

他の艦娘は分かりませんが、少なくとも、私とあの子は――。

 

――いえ、私たちから言ったのです。

「一緒に戦わせてほしい」と。

戦争の事は、よく分かっていませんでした。

だから、とにかく、自分たちがどれだけ優秀なのかを説いてね――。

あの子なんて「母親よりも胸が大きいです」って、服を脱ごうとしたりして――。

そんな私たちに、提督は――。

 

――この鈴蘭寮が修復された時、真っ先に思い浮かべたのは、提督の姿でした。

そう、この執務室。

ここに、いつも提督が居て――。

私たちが今みたいに騒いでいると、あの扉から顔を出して――。

――……。

え……?

うそ……。

 

『戦後70周年記念番組-あの頃の鈴蘭寮-より』

 

 

 

 

 

 

『不死鳥たちの航跡』

 

 

 

 

 

 

「俺と一緒に……戦ってくれ……!」

 

そう言った後、すぐ我に返った。

 

「あ、雨宮君……?」

 

皆、驚きの表情で俺を見ていた。

娘二人なんかは、怖がっているのか、どこか険しい表情を見せていた。

 

「あ……えと……」

 

自分でとったはずの行動に、俺は困惑していた。

俺は何故、こんなことを……。

いや……まあ……空母が必要なのは事実だが……。

あれはあくまでも訓練で――しかも、夢の中で行っていることで――そもそも、ここにいる誰も、俺が訓練していることを知らなくて――柊木は分かってくれるかもしれないが――だが、説明したところで――つーか、最初から説明するのは面倒で――。

どう説明したらいいのかを考えていると、山風が小さくため息をついた。

 

「加賀さん、瑞鶴さん、ごめんなさい。雨宮君、色々あったのか、精神的に不安定になっているみたい……」

 

山風が俺に、視線を送る。

そういうことか……。

 

「そうかもしれない……。いきなり手を掴んでしまって、申し訳ございませんでした……。加賀さん、瑞鶴さん……」

 

「い、いえ……」

 

「こ、こっちこそ……ごめんなさい……。いきなり押しかけちゃって……」

 

そう言って、頭を下げる二人。

 

「お二人とも、雨宮君に会いに来たんですか?」

 

「え、えぇ……。娘二人が、提……彼のファンなの……」

 

俺のファン……。

 

「最近、動画を配信しているでしょ? それで、ね」

 

娘二人は、どこか恥ずかしそうに頷いていた。

あれだけ醜態をさらしている俺の何処に、ファンになる要素が……。

いや……朝潮が言っていた通り、何か需要があるのかもしれないな……。

 

「どうしても会いたいって言うから、検査のついでに来てみたの。そしたら、ちょうど本土に戻っていると聞いて……」

 

しかし、俺の現状を知らされていなかったのだろう。

瑞鶴さんは申し訳なさそうに俯いていた。

 

「ごめんなさい……。もう出て行くから。ほら、行くわよ二人とも」

 

娘二人は、俺をチラリと見ると、そのまま部屋を出て行った。

 

「加賀さんも、行きますよ」

 

「え、えぇ……」

 

「えと……雨宮……君……。本当にごめんね……? その……私たちはしばらく滞在しているから、元気になったら、お話し、してくれる? あの子たちも喜ぶと思うから」

 

「は、はい! 俺も、明日までいますので……。許可が出たら、こちらからお伺いいたします」

 

「うん、ありがとう。じゃあ、またね」

 

どこか呆然とする加賀さんを引きずりながら、瑞鶴さんは部屋を出て行った。

 

「さて、柊木さん?」

 

山風は、どこか圧力をかけるように、笑顔で柊木を見た。

 

「……分かっているよ。雨宮君、急にごめんね……?」

 

「い、いや……。おにぎり、ありがとな。いただくよ」

 

「う、うん……。じゃあ……またね……」

 

柊木はチラリと山風を見ると、ゆっくりと部屋を出て行った。

 

「……それで? 戦ってくれ……って、どういうこと?」

 

「え?」

 

「精神的に不安定になっている……訳じゃないよね……? ちゃんとした理由があって、言ったんだよね……? それも、雨宮君がそこまで必死になるほどの……体調を崩すほどのめり込んでいる何かか……」

 

山風の目は、疑っているというよりも、どこか心配そうであった。

 

「……こうして人払いまでしているのに、あたしには話せない事?」

 

「いや……」

 

「……夢の事だったら、あたし、知っているよ」

 

「え!?」

 

「天音さんから聞いているの……。天音さん、雨宮君が倒れた時、もしかしたら夢が関係しているのかもしれないって……あたしに教えてくれたの……」

 

それから山風は、自分が知っていることを話し始めた。

どうやら天音上官は、山風が俺を担当しているのを知っていて、山風を信用した上で、夢の話をしたようであった。

 

「――天音さんは、雨宮君を心配して、あたしに話してくれたみたい……。雨宮君はきっと、そういうの隠しちゃうから……一人で戦っちゃうだろうから……寄り添ってあげて欲しい……って……」

 

天音上官……。

流石というか、何と言うか……。

 

「そうだったのか……」

 

「……いつか戦争が起きるって、本当なの?」

 

「……分からない。だが、起きても不思議ではないと思っている……」

 

「もしかして、雨宮君は戦うつもりなの……? だから……あの二人にあんなことを……? 雨宮君は、一体何をしようとしているの……!?」

 

そこまで分かっているのなら……。

 

「実は……」

 

俺は、山風に全て話してやった。

雪風の事も、何もかも――いや、全てというのは間違いかも知れない。

高速修復材のことだけは――どうやらその事だけは、天音上官も山風には話さなかったようだ。

だからこそ、山風は、柊木と俺の関係を知らなかったのだろう。

 

「じゃあ……雨宮君は、戦う準備をしているって事……?」

 

「そう……なるのかな……」

 

山風は何か言おうとして、閉口した。

その意味が、俺には分かっていた。

 

「……言いたいことは分かっているよ。やめろって言いたいんだよな……。でも、島の艦娘達に、さんざん言われたのだろうと思って――気を遣わせたな……」

 

山風は何も言わなかった。

 

「俺も、本気で戦争が起きるとは思っていない。それでも、あんな光景を見てしまったら、何もせずにはいられなくてな……。意味はないのかもしれないけど……それでも……」

 

山風はそっと、俺の手に自分の手を重ねた。

 

「山風……」

 

「あたしは……やめろだなんて言わないよ……。本当は言いたいけど……雨宮君はそういう人だって、分かっているから……。だからこそ、天音さんは、あたしに教えてくれたんだと思う……」

 

そう言って微笑む山風の表情は、どこか寂しげであった。

そうだよな……。

山風が一番、それをよく分かっているよな……。

俺の逃げ道にならない選択をしてくれた、山風なら……。

 

「あたしは雨宮君の味方だよ……。だから、もう、一人では悩まないで……。あたしに……なんでも話して……。もっとあたしを……頼って……」

 

涙を見せる山風。

憐憫の情なのか、それとも――。

 

「――あぁ。悪かった……。寂しい思いをさせたな……」

 

そう言ってやると、山風は俺の手を、自分の頬にあてた。

どうやら、後者のようであったらしい。

 

「今後は、隠し事はしないでね……?」

 

「あぁ、分かったよ」

 

「じゃあ……」

 

山風は涙を引っこめると(どうやったんだ……)、細い目で俺を見た。

嫌な予感がする……。

 

「柊木さんとどういう関係なのか……教えてくれるよね……?」

 

「え……?」

 

「ただの同期って訳じゃないよね……? 色々あったって言っていたけれど……何があったの……?」

 

顔を近づけ、疑いの目を向ける山風。

 

「や、山風……? なんか……怒ってる……?」

 

「なんで? なんであたしが怒るの? あたしはただ、柊木さんとの関係を訊いているだけなんだけれど? それとも、怒られるような関係なの?」

 

ニコッと笑う山風。

だが、目は明らかに笑っていなかった。

まあ……別に隠すこともないか……。

 

「ひ、柊木とは――」

 

 

 

一通り説明を終えると、山風は退屈そうに「ふぅん……」とため息をつくだけであった。

小説を書いていること、高速修復材の事については、流石に伏せた。

 

「じゃあ、雨宮君と柊木さんは、昔に出会っていたんだ……」

 

「そうらしい……。名前も聞いていなかったから、言われるまで気が付かなかったけど……」

 

「そうなんだ……。だから、柊木さんはあんなに……」

 

山風はチラリと俺を見ると、呟くように言った。

 

「雨宮君は……柊木さんの事……どう思っているの……? 柊木さんは、雨宮君の事、好きそうだったけど……」

 

「どう……ってのは、異性として……か?」

 

指で髪をくるくると巻きながら、恥ずかしそうに頷く山風。

 

「だって……柊木さんって……その……あたしとタイプが似ているっていうか……。あ、あたしの認識が間違っていなければなんだけど……雨宮君は……あ、あたしの事……その……好きだった……訳だから……? もしかしたら……柊木さんもタイプなのかなって……。柊木さんは……純粋な人間だから……その……あたしと比べたら……」

 

段々と、声のトーンが落ちる山風。

言いたいことは分かっている。

だが――。

 

「……別に、山風と似ているからタイプだとか、相手が純粋な人間だからってのは、別にないよ。それに……その……山風を好きになった理由ってのは……容姿だとか、そういうのじゃないと言うか……」

 

ああ、クソ……。

こんな恥ずかしい事、言いたくないのだが……。

 

「山風だから……ってなだけで……。だから別に、似ているから好きになるってことは……」

 

そう言った瞬間、俺はあまりにも恥ずかしくなって、思わず顔を逸らしてしまった。

山風と居る時は、いつもそうだ。

こう、どうして恥ずかしい事を……。

 

「じゃあ……あたしと柊木さんだったら……どっちが好き……?」

 

「え?」

 

山風は俺の手を、自分の胸にあてた。

 

「ちょ……!」

 

「あたし……柊木さんより……その……大きい……よ……?」

 

「や、山風……」

 

「だから……あたしを選んで……? 選んでくれたら……あたし……」

 

そう言って、山風が顔を近づけた時であった。

 

「山風さん!? 貴女、何をしているの!?」

 

ノックもせず部屋へ入って来たのは、いつぞやの看護主任であった。

 

「今日は非番のはずでしょう!? それに……なんです!? 一体、ナニをおっぱじめようとしていたの!?」

 

「え!? あ! ちちち、違います! これは……その……熱! 熱が無いかを……おでこで……」

 

「おでこ? ちゃんと体温計を使いなさい! そもそも、どうして非番の貴女がここにいるのですか!?」

 

「そ、それは……雨宮君が倒れたと聞いて……。あたしは……彼の担当だから……」

 

「仕事に対する姿勢は認めます。けれども、お見舞いに来た方たちを無断で締め出す権限はありません!」

 

看護主任の後ろに、柊木が立っていた。

どこかほくそ笑んで見えるのは、気のせいだろうか……。

 

「とにかく! 貴女は非番なんだから、後の事は私に任せなさい! 貴方も貴方よ! あまり女の子をたぶらかさないで! まったく……」

 

そう言うと、看護主任は山風を連れて、部屋を出て行った。

 

「……俺も悪いのか?」

 

 

 

消灯時間になったが、部屋の照明が消えることは無かった。

 

「えーっと……そうなると……あー……やはり、正規空母は必要か……」

 

気が付くと、俺は勉強していた。

無駄だと分かってはいても、やはり不安になってしまうのか、無意識にノートを手に取っていた。

 

「正規空母……か……」

 

俺は、加賀さんと瑞鶴さんの顔を思い浮かべていた。

何故か、娘二人の顔も一緒に……。

 

「奇跡的な出会い……ではあったはずなのだが……」

 

一緒に戦ってくれ……か……。

そもそも、今いる島の艦娘達はいいとして、人化した艦娘達が一緒に戦ってくれる保証はないよな……。

戦いの事を話してもいないし……。

それなのに、勝手にシミュレーションしていいものなのだろうか……。

もしも戦いたくないと言ったら?

つーか、霞の夢では人化した艦娘も戦えていたようだが、それが間違っていたら?

 

「ますます意味のない事のように思えてきたぜ……」

 

なるほど……。

だからこそ、霞は――。

 

「やめだやめだ……」

 

倒れるようにして、ベッドに寝ころぶ。

 

「人化……か……」

 

そうなんだよな……。

本来は、霞を人化させることが目的なんだよな……。

起こるか分からない戦争に備えるのではなく、その先にある霞の不安を解消し、人化に導く……。

そのはずなのに、今はどうだ?

俺が今戦っているのは――。

 

「俺自身の不安……か……」

 

この先、一体どうすればいいのだろうか……。

そんな事を考えながら、目を瞑った時であった。

 

「寝てる……?」

 

女の子の声。

目を開けると、先ほどの娘二人が、こちらを覗き込んでいた。

 

「うぉ!?」

「「ひゃあ!?」」

 

互いに驚き、それぞれ部屋の隅へと逃げ込む。

永い沈黙が続く。

 

「……君たちは、加賀……さんと瑞鶴さんの……娘さん?」

 

二人は戸惑いながらも、ゆっくりと頷いた。

 

「え……どうしてここに……? 加賀さんと瑞鶴さんは……?」

 

「え、えと……」

 

困惑する、加賀さんの娘さんらしき子供。

一方、もう一人は、ゆっくりと俺の方へと近づいてくる。

 

「ひ、雛菊ちゃん……!」

 

雛菊……。

こちらに向かって来ている娘の名前だろうか。

 

「…………」

 

彼女は足を止めると、俺の目をじっと見つめた。

そして、意を決したかのように、口を開いた。

 

「あ、あの……!」

 

そして、頭を下げ、こちらに手を伸ばすと、大きな声で言った。

 

「好きです! あたしと……結婚してください……!」

 

 

 

永い永い沈黙が続く。

その間も、彼女は、手を伸ばし続けていた。

 

「え……えっと……」

 

どうしたものかと困惑していると、もう一人の娘が我に返り、駆け寄って来た。

 

「ひ、雛菊ちゃん……! 急に何を言っているの……!? 提督……さんが、困惑しているから……!」

 

「アン姉は黙ってて! あたし、ビビっと来ちゃったのよ。やっぱりこの人は、あたしの旦那さんになる人だって!」

 

「そ、そうだったとしても……。急に、結婚して、は無いよ!」

 

「ん~……それもそうね……。じゃあ、結婚を前提にお付き合いしてください!」

 

「そうじゃなくてぇ……!」

 

騒ぐ二人に、俺は、ただただ唖然とすることしかできなかった。

 

「あ! 自己紹介がまだだった……。あたしは雛菊! 瑞鶴の娘! で、こっちがアン姉! ほら、アン姉! 自己紹介して!」

 

「え? あ……えと、加賀の娘の……杏子……です……。よろしくお願いします……」

 

「あ、あぁ……よろしく……。俺は……」

 

「雨宮慎二、30歳独身。生い立ちは謎に包まれているけれど、児童養護施設出身だという事は分かっている。好きな食べ物はコロッケで、嫌いな食べ物は梅干し……だけど、梅を使ったお酒やお菓子は好き」

 

言い終えると、雛菊ちゃんは、フフンと鼻を鳴らした。

 

「どう? 凄いでしょ? 何でも知っているんだから!」

 

「全部、動画で言っていたことだけどね……」

 

「アン姉は黙ってて!」

 

雛菊ちゃんは、ズイッと顔を近づけると、俺の顔をジロジロと観察し始めた。

 

「やっぱり生は違うわ。すっっっっっっっごく、カッコいい! アン姉も、ほら!」

 

「え、う、うん……」

 

杏子ちゃんは、遠慮がちに近づくと、スンスンとニオイを嗅ぎ始めた。

 

「いいニオイ……ですね……」

 

「うっっっわ! アン姉キモっ! 普通、ニオイ嗅ぐ!? しかも、感想まで言っちゃってさ……」

 

「で、でも……ニオイで相性が決まるってこともあるし……。結構重要なことで……」

 

「そうなの? じゃあ、あたしも嗅いじゃお!」

 

ニオイを嗅ぐ雛菊ちゃん。

俺はもう、何が何だか分からず、ただただされるがままであった。

 

「本当だ! いいニオイかも!」

 

「ね? あ、雛菊ちゃんのニオイも嗅いでもらったら? 相思相愛かもしれないよ」

 

「そうね。じゃあ、はい! 提督さん、あたしのニオイも嗅いで?」

 

「え……い、いや……急にそんな……」

 

「大丈夫、臭くは無いから。アン姉と違って」

 

「あ、あの時は! 部活の後で汗をかいていたから……! て、提督! 私、臭くないですよ? ほ、ほら!」

 

「ちょちょちょ! ちょっと待ってくれ!」

 

思わずベッドからおりて、距離をとった。

 

「どうしたの提督さん? あ、もしかして、照れてたりする? や~ん! 可愛いかもー!」

 

「照れている……っていうより、引いている感じだけど……」

 

俺は、一旦深呼吸をして、二人に向き合った。

 

「えーっと……雛菊ちゃんに杏子ちゃん……。お母さんたちはどうしたのかな……?」

 

「マ……お母さんは検査中。あたしたちは暇だから、提督さんに会いに来たの」

 

「会いに来たって……。許可はもらっているのか?」

 

二人は不思議そうに顔を見合わせると、首を横に振って見せた。

 

「もらっていないのか……」

 

まあ、消灯時間は過ぎているし、許可をもらっている訳ないか……。

 

「わ、私たち……どうしても提督に会いたくて……。お話しもしたくて……」

 

「いや……その気持ちは嬉しいが……」

 

ここは、はっきり言ってやった方がいいよな……。

 

「……二人とも、すぐに部屋を出て行くんだ。今日の事は内緒にしてやるから」

 

「で、でも……」

 

「話なら、明日にでもしてやる。見つかる前に、さあ」

 

そう言ってやると、何故か、雛菊ちゃんは目を輝かせた。

 

「カッコいい~……」

 

「え?」

 

「アン姉、聞いた? 提督さん、あたし達のこと庇ってくれたんだよ? 優しいし、あたし達を傷つけないように、優しく諭してくれたんだよ?」

 

「大人の対応だね。カッコいい……」

 

何度も頷く雛菊ちゃん。

無敵か……。

仕方ない……。

 

「……いい加減にしろ。俺も、いつまでも優しくはいられないぜ……」

 

そう言って睨んでやったが……。

 

「キャー! 睨んだ顔も凛々しくてカッコいい! その顔であたしを叱ってください!」

 

「わ、私も! 怒られてみたい……かも……」

 

期待するような二人の眼差しに、俺はとうとう参ってしまった。

 

「はぁ……分かったよ……。何を言っても無駄なようだ……」

 

「あれ? 叱ってくれないの?」

 

「それは瑞鶴さんにでもやってもらえ……。話をしたいんだろ? 少しだけだぞ……」

 

そう言ってベッドに座る。

二人もまた、近くの椅子を持ち出し、座った。

 

「それで? 何を話したいんだ? つーか、ファンとかなんとか言っていたけれど……本当なのか……?」

 

「ほ、本当です! 特に……雛菊ちゃんが……」

 

「ファンなのはアン姉でしょ? あたしは、提督さんのお嫁さん候補だから。一緒にしないで?」

 

「……まあ、どっちでもいいが。あの動画の何処に、ファンになる要素があったんだ?」

 

そう訊いてやると、二人は再び顔を見合わせたあと、不思議そうな表情で俺を見た。

 

「要素……というか……」

 

「運命の人を見つけたって感じなのよね。アン姉と動画をみていたんだけど、こう、今までモヤモヤしていた気持ちが晴れたと言うか、貴方を探していた気がしたと言うか……」

 

なんだそりゃ……。

 

「一目惚れ……なのかもしれないよね」

 

「そんな生ぬるいもんじゃないわよ! もっと……そう! あたしが生まれて来た理由というか! そういうのを感じちゃったのよ!」

 

鼻息を荒くさせ語る雛菊ちゃんに、俺は少し引いてしまった。

柊木もそうだったが、なんというか、何かに夢中になっている奴は、どこかネジがぶっ飛んでしまっているように見える。

 

「あ、あの! 質問……いいですか?」

 

「ああ、どうぞ」

 

「そ、その……提督は、その……好きな女性のタイプってありますか……?」

 

「え……。そ、そうだな……。そういうのは……まだよく分からないな……」

 

「じゃあ、私と雛菊ちゃんだったら、どっちがタイプですか……?」

 

「え、えーっと……」

 

「答えにくい質問するんじゃないわよ! ま、当然あたしだろうけれど。それよりも提督さん、この前の動画で話していた――」

 

それから俺は質問攻めにあった。

簡単なものから、キワドイ質問まで――。

 

「――い、いや……。流石に、その質問には答えられないな……」

 

「そうよ! なに訊いているのアン姉!? 変態!」

 

「ひ、雛菊ちゃんが、かわりに訊いてって言ったんじゃない……!」

 

本当、何を訊かれているんだか……。

 

「そ、それじゃあ……次の質問……」

 

杏子ちゃんが、雛菊ちゃんを見る。

二人は頷くと、真剣な面持ちで口を開いた。

 

「さっき……お母さんたちに言っていたことって……どういうことですか……?」

 

「え?」

 

「一緒に戦ってくれって……」

 

「あぁ……あれは、何と言うか……」

 

ここで真実を話したら、変な奴だと失望されてしまうかもな。

加賀さん瑞鶴さんにチクられても嫌だし……。

 

「……あの直前まで寝ていてな。なんというか……変な夢を見てしまって……。寝惚けていたんだ」

 

「夢……ですか……」

 

「……本当に夢を見たの? なにか、別の理由があったんじゃなくて?」

 

どこか、深刻そうな表情の二人。

この表情は――そうだ、さっきの――あれは、怖がっていた訳じゃないのか……?

 

「……どうして別の理由があると?」

 

「そんな予感がしたんです……。そうだよね……?」

 

杏子ちゃんは、雛菊ちゃんを見た。

 

「えぇ……。提督さんが「一緒に戦ってくれ」って言った時、あたしとアン姉は、まるで、貴方に命令されたかのような気持ちになった……。そして、その気持ちに応えたいって……一緒に戦いたいって、思った……」

 

なんだそりゃ……。

 

「その戦いが、何を指しているのかは分かりません……。でも、いてもたってもいられなくて……!」

 

「だから、こうして会いに来たの……。お母さんたちには、言いたくても言えなかったことだろうと思って……」

 

それは、二人にも言える事なんだがな……。

 

「そうだったのか……。しかし、本当に寝惚けていただけなんだ。変な期待をさせてすまなか――」

「――そんな訳ない!」

 

叫んだのは、杏子ちゃんであった。

 

「そんな訳……ないはずです……!」

 

「え……?」

 

「提督のあの言葉は、絶対、私たちに向けるはずだった言葉なんです……!」

 

「何を言って……」

 

「あたしもそう思う……。提督さんが言葉をのんだのは、本来、あたしたちに向ける言葉だったからだと思う……。お母さんたちに言う言葉じゃなかったから、提督さんは言えなかった……」

 

再び深刻そうな表情を見せる二人。

杏子ちゃんにいたっては、泣きそうになっている。

 

「…………」

 

正直に言うと、俺は引いていた。

いつだったか、秋雲が「妄想も行き過ぎると、現実になってくるんだよねぇ。何なら、秋雲、この前、雨宮君とシたし。シたよね?」と言っていたのを思い出す。

もしかしたらこの二人も、妄想が行き過ぎた結果、こんな考えに……。

 

「……まあ、どう思うのかは勝手だ。だが、本当に寝惚けていただけなんだ」

 

「どんな夢を見たら、あんな言葉が出てくるんですか……?」

 

「そうよ……。それに、寝起きなんて嘘でしょ……。そんな感じじゃなかったし「正規空母の……加賀と瑞鶴か……!?」って、状況をしっかり判断しようとしていたし……」

 

言うほどしっかりだったか……?

 

「提督が教えてくださらないのなら、山風さんに訊きます……。あの人は、何か知っていそうでしたから……」

 

俺が何も言えないでいると、雛菊ちゃんが席を立った。

 

「どうやら、そうなったら困るようね……。あの人、あたしみたいなのに迫られたら、しゃべっちゃうかもね……。訊きに行こう? アン姉」

 

「うん……」

 

こいつら……。

 

「……今すぐ叫んで、お前らの親を呼んでもいいんだぜ?」

 

「なら、やったらいいじゃない」

 

出来るものならね、とでも言いたげに、視線を送る二人。

 

「……分かったよ。その代わり、誰にも話さないと約束しろ。それと、話を聴いたら帰れ……。それが条件だ……」

 

二人は返事もせず、ただ席へと戻った。

俺の嘘が下手なのか、こいつらが鋭いのか……。

とにかく、本当の事を話さなければ、納得しなさそうだしな……。

仕方ない……。

 

「実は――」

 

 

 

俺は、柊木や高速修復材の事を伏せ、全てを二人に話してやった。

艦娘の事情をある程度知っているのか、話の内容は理解できているようであった。

 

「――ということだ。馬鹿馬鹿しい話だろ? だから言わなかったんだ。どうせ信じないだろうってさ」

 

夢で訓練しているだとか、再び戦争が起きるだとか、普通は信じないよな。

俺も完全に信じている訳じゃないし……。

そんな作り話信じられるか! ってな感じの言葉を吐かれるだろうと、恐る恐る二人を見た。

 

「だから提督さんは、ママ……じゃなかった……。お母さんたちに戦ってほしいと……? 二人が必要だと思って……?」

 

「多分な……。あの時は、本当にどうかしていたから……。けど、正規空母が本当に必要だと思っていて――そんな時に出会ったものだから、運命を感じてしまったのかもしれないな……。それでつい、あんなことを……」

 

その言葉に、二人はムッとした表情を見せた。

 

「お母さんより……私たちの方が戦えます……」

 

「え?」

 

「戦争の事はよく分かりませんけど……私たちの方が提督のお役に立てます! 弓道だって、大会で優勝したことありますし……。身長だって、お母さんより高いです……!」

 

「し、身長?」

 

「それならあたしだって! ソフトボール部のキャプテンやっているし、ママよりおっぱい大きいもん! 何なら、見せてあげてもいいわ!」

 

服を脱ごうとする雛菊ちゃんに、俺と杏子ちゃんは思わず駆け寄り、それを止めた。

 

「わ、分かった分かった……。凄さは分かったから……。つーか、こんな話を信じてくれるのか?」

 

二人は躊躇うことなく、頷いた。

 

「だって、提督さんが言う事だもん」

 

「し、信じます……!」

 

理由になっていないが……。

まあ、信じている信じていないってのは、この二人にとっては関係のないことなんだろうな……。

おそらく、俺が二人の目の前で、加賀さんと瑞鶴さんにあんなことを言ってしまったばかりに、対抗意識を燃やしてしまったのだろう……。

こっちとしても、その方が都合がいい……。

 

「……そうか。さて、話は済んだぞ。約束した通り、帰ってくれ。時間も時間だし、巡回の看護婦に見つかるぞ」

 

「わ、分かりました……。行こう? 雛菊ちゃん」

 

「むぅ……」

 

二人は、しぶしぶ立ち上がると、もう一度俺に目を向けた。

 

「どうした?」

 

「提督さん、これだけは約束して……。もし、本当に戦争が起きたら……あたしたちを使うって……」

 

「……あぁ、分かった。約束するよ。その時は頼んだぜ、雛菊ちゃん、杏子ちゃん」

 

そう言ってやると、二人は満足そうな笑顔を見せた。

強情だったり、鋭かったりするくせに、こういうお世辞は簡単に信じるんだな。

やはり、まだまだ子供なんだな。

 

「あ、あと……その……私の事は……アン……って、呼び捨てにして欲しいです……」

 

「あー! アン姉ズルい! じゃあ、あたしも! ヒナって呼んで!」

 

「……分かったよ。アン、ヒナ。分かったから、そろそろ帰れ」

 

「それは、命令? それともお願い?」

 

何の確認だよ……。

まあ、この場合、喜ばれるのは……。

 

「……命令だ。アン、ヒナ、直ちに帰還せよ」

 

それを聞いて、二人はビシッと海軍式の敬礼を見せ、嬉しそうに部屋を出て行った。

 

「はぁ……やっと帰ってくれたか……」

 

あの年頃の女の子を相手にしたことが無いから、勝手が分からん……。

まあ、他を分かっているわけでも無いが……。

 

「島にあのテのタイプがいなくてよかったぜ……。ったく……」

 

ベッドへ倒れるように寝ころぶと、一気に睡魔が襲ってきて、まるで気絶するかのようにして、その日は眠りに就いた。

 

 

 

翌朝。

島へ戻る許可がおり、船の準備が出来るまでの時間で、加賀さんと瑞鶴さんを訪ねた。

 

「雨宮君」

 

「おはようございます。昨日はすみませんでした……」

 

「ううん。いいのよ。ここ、座って?」

 

促されるまま、椅子に座る。

娘二人はまだ眠っているのか、部屋には加賀さんと瑞鶴さんの二人しか居なかった。

 

「昨日、娘たちが部屋に行ったんだって?」

 

「え?」

 

「娘から聞いたわ。迷惑かけてごめんなさい」

 

「い、いえ……」

 

結局、自分から親に言ったのか……。

はたまた、バレて自白したのか……。

 

「驚いちゃったわよ。検査を終えて、寝ようと思ったら、二人が私たちの部屋に来て言うわけ!「戦争の事を教えて欲しい!」って……」

 

「なんでも、再び戦争が起きるから、貴方の為に戦いたいのだと言っていたわ。詳しくは教えて貰えなかったのだけれど、どういう事なのかしら?」

 

加賀さんの鋭い目が、俺を見つめる。

俺は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、動けなくなってしまった。

 

「ちょっと加賀さん! 雨宮君が怯えちゃっているじゃない! 雨宮君、別に加賀さんは怒っている訳じゃないのよ? 元々こういう顔なの」

 

「怯えさせてしまったのならごめんなさい。これでも、柔らかい表情をしているつもりなのだけれど……」

 

「そ、そうなんですか……」

 

正直、めっちゃ怖かったけどな……。

 

「それで? 娘二人にどんなファンサービスをしちゃったのよ? あの子たち、寝る間も惜しんで、図書室で戦争関連の本を読み漁っていたらしいのよ」

 

だから、ここに居ないのか……。

 

「再び戦争が起きるって、どういうこと?」

 

まあ、そこまで話が通っているのなら……(つーか、誰にも話さない約束だったろ……)。

 

「実は……」

 

 

 

説明している間、山風が部屋を訪ねてきた。

事情を説明すると、少しムッとしながらも、俺を気遣ってか、二人への説明を買って出てくれた。

 

「――今のような話を、雨宮君は娘二人に話しちゃったんだよね?」

 

そう言う山風の目は、どこか――。

 

「納得してもらうには仕方がなかったんだ……。加賀さん、瑞鶴さん、娘二人に変な事を吹き込んでしまい、申し訳ございませんでした……」

 

謝る俺に、二人は怒ったりするわけでもなく、何やら考え込んでいるようであった。

 

「雨宮君の言うその夢……私も、似たようなの見たことがあるの」

 

「え?」

 

「島にいる時にね。そうよね、加賀さん」

 

「えぇ」

 

「どういう事ですか?」

 

「いやね? ある時から……そう、赤城さんが島を出て、私と加賀さんが同室になってからかしら? 夢を見るようになったのよ。それも、かなりリアルな夢でね? 雨宮君の言うように、ニオイとか色々感じ取れる夢で――何故か加賀さんも同じ夢を見ていて……」

 

間違いない。

シンクロだ。

 

「成長した艦娘や、私たちの知らない艦娘達が、深海棲艦と戦う夢なんだけど、そこで指揮を執っていたのが、提督さん――あ、佐久間肇って人がいたんだけど――その人にそっくりでね。夢の中にまで出てきちゃうんだって、二人して笑った記憶があるわ」

 

そうか。

二人は、親父がいた頃、まだ島に居たのか。

 

「加賀さん? どうしたの? ぼうっとして……」

 

「え? え、えぇ……ごめんなさい……。その……夢で指揮を執っていたのは、確かに提督そっくりなのだけれど……」

 

加賀さんは、じっと、俺を見つめていた。

その目は、先ほどとは違い、どこか感情が込められているように見えた。

なんの感情なのかは分からなかったが……。

 

「んん? なんとなくだけど、雨宮君の方が、夢に出てきた人に似ているような……」

 

「似ているなんてものじゃないわ……。貴女は提督が好きだったからそう思えるのでしょうけれど……」

 

「べ、別に好きだったわけじゃ……!」

 

加賀さんは近づくと、俺にしか分からないように、スンスンとニオイを嗅ぐ仕草を見せた。

 

「夢と同じ……」

 

そう言うと、加賀さんは表情を和らげた。

そう分かるほどの変化であった。

 

「確かに、戦争が再び起こる可能性はあるわ」

 

「え?」

 

「私たちが見た夢も、貴方の話と似たような展開だった。そして、指揮を執っていた人は……」

 

その先を、加賀さんは言わなかった。

だが、その目は――。

 

「それ、覚えています。早朝から、瑞鶴さんが「提督さんが死んじゃったー」って、泣き出した時ですよね?」

 

「や、山風! あんた、そんなこと覚えて……」

 

「忘れられませんよ。けど、まさか、その夢がそうだったなんて……」

 

「もしかしたら、お二人が見た夢は、俺が見たものと同じかもしれません……」

 

「それって……」

 

永い沈黙が続く。

皆、何かを確信してはいるのだろうが、それが何なのか分からず、閉口してしまっているのだろう。

 

「……とにかく、そういう話です。だからこそ、お二人にあんなことを言ってしまったのかもしれません……。巻き込むような事を言ってしまって、申し訳ございません……」

 

そう言って頭を下げると、加賀さんと瑞鶴さんは、そっと、俺の手を取ってくれた。

 

「別にいいわよ。それに、もし再び戦争になったら、頼まれなくても、きっと私たちは参加するわ」

 

「え?」

 

「それが、私たちが生まれてきた意味だと思っているわ。もう一度戦えるのかどうかは分からないけれど、力になれるのなら本望よ」

 

「そーそー! 他の艦娘が参加してくれるのかは分からないけれど……夜戦以外だったら、私と加賀さんだけで十分よ! ね、加賀さん!」

 

「私だけでも十分。せいぜい足を引っ張らないことね」

 

「何よそれ!? こっちの台詞なんですけど!?」

 

ぐぬぬと睨み付ける瑞鶴さんに、クールな加賀さん。

戦時中の二人を知らない俺でも分かる。

これが、本来の二人の関係性なのだろう。

 

「フフフ、相変わらず仲がいいですね、二人とも」

 

「「良くない(わ)!」」

 

 

 

船の準備が出来たようで、それを知らせる警笛が、遠くから聴こえてきた。

 

「そろそろ行かないと……」

 

「あら、もうなの? 残念ね」

 

「すみません。貴重なお話をありがとうございました」

 

「いいのよ。それと、なんか気持ち悪いから、今度から敬語はやめてね。さん付けも禁止、ね?」

 

加賀さんもそうして欲しいのか、ゆっくりと頷いていた。

 

「恐れ多いですが、努力します」

 

「雨宮君、そろそろ……」

 

「あぁ。では、また。娘さん二人によろしくお伝えください」

 

「うん! あ、そうだ。雨宮君!」

 

「?」

 

「シミュレーション、正規空母には、私たちを配置してね?」

 

「え?」

 

「それとも、他に当てがあるわけ?」

 

「い、いえ……そういう訳ではないのですか……」

 

「なら、私たちを選んで! 損はさせないわ!」

 

「少なくとも、五航戦よりは役に立つわ」

 

そういう瑞鶴さんと加賀さんは、どこか頼りになりそうな顔を俺に見せてくれた。

 

「……ありがとうございます! そうさせていただきます!」

 

「うん! 私たちの事、たっくさん勉強して、上手に運用してよね! 提・督・さんっ!」

 

「期待しているわ……提督」

 

「お二人とも……。あぁ、任せてくれ! よろしくな、加賀、瑞鶴!」

 

加賀と瑞鶴は、娘二人と同じように、海軍式の敬礼で俺を見送ってくれた。

本当に親子なんだな。

 

 

 

島に戻ると、皆は、いつだったか怪我の治療をして帰ってきた時のように、それはそれは丁寧に俺を出迎えてくれた。

 

「……で、なんだこれは?」

 

「なにって……リアカーですよ」

 

「んなことは分かってんだよ! 俺が訊きたいのは、どうして俺をリアカーに乗せたんだってことだよ!」

 

リアカーを引く大和は、どこか申し訳なさそうな表情をしていた。

 

「だって、病み上がりなんでしょ? 本当は車いすみたいなのがあればいいのだけれど、そんなものは無いし、ちょうどいいのがこれだったってわけよ」

 

「別に、車いすに乗らなきゃいけないほどの事じゃ……」

 

「それでも心配なんですよ。提督は覚えていないのかもしれませんけれど、倒れた時、頭を打っていたんですよ? 人間にとって、脳は重要な役割を持つと言いますし、もし何かあったらって……」

 

以前の大淀だったら、却って体に障ると、皆を遠ざけてくれていたんだがな……。

今回は、目の前で倒れてしまったものだから――しかも頭まで打っているし――流石に心配になっているんだろうな……。

 

「だとしても過剰だ……。それに、全員で来る必要あったか? 山城なんて、押してもいないじゃねぇか……」

 

「私は……提督が落ちてしまわないか、見守っているのよ……」

 

「んなもん、お前が見ていなくても分かるし、落ちやしねぇよ……」

 

そう言ってやっても、やはり心配なのか、山城はじっと、俺のことを見つめていた。

 

 

 

結局その日は、過剰に介護され、一人にさせられないと、寮に泊まることとなった。

 

「はぁ……」

 

「お疲れ様です、提督」

 

「大和……。なんだ、今度はお前が俺を監視する番か?」

 

「えぇ、そのようです」

 

どうやら、交代制で俺を監視することが決まったらしく、何をするにも、誰かしらがついてきていた。

 

「ったく……さっきは焦ったぜ……。夕張の奴、風呂にまで入ってこようとしていたんだぜ?」

 

「一緒に入ったら良かったじゃないですか。裸の付き合いも大事だと、聞いたことがあります」

 

「冗談じゃねーよ……。全く、いつまでこんなことが続くのやら……」

 

「ご心労お察しいたします。大和は過剰に介護することはありませんので、ご自由におくつろぎください」

 

と言っても、やはり目を離すことは出来ないようで、大和が部屋を出ることは無かった。

 

「さて……」

 

ノートを取り出すと、大和はササっと近づき、それを没収した。

 

「……過剰な介護はしない、のではなかったのか?」

 

「えぇ、しません。過剰な介護は、です」

 

「勉強くらいはいいだろう?」

 

「勉強のし過ぎで倒れたんです。その様子だと、本土でも勉強していたのでは?」

 

俺が何も言えないでいると、大和は小さく笑った。

 

「不安になる気持ちは分かりますが、倒れては元も子もないですよ」

 

雪風から事情を聞いているのか、分かっているとでも言いたげに、俺の反応を待っていた。

 

「……分かっているさ」

 

なら、どうしたらいいのか。

そう訊くことも出来ず、永い沈黙が続いた。

 

「……戦時中」

 

「?」

 

「戦時中、こんなことがあったんです。あれは、私が初めて――鎮守府へ挨拶に行った時の事です――」

 

大和は突然、過去の話を始めた。

何故、急に……と思いつつも、戦時中の暗い話なのだろうと、身構えて聴いていたのだが――。

 

「――そうしたら、皆さん大慌てで! そこに、武蔵も来たものだから、もうパニックになっちゃいまして。間宮さんなんか、仕入れを大量にしちゃって――でも、結局、赤城さんと加賀さんを呼んだら、むしろ足りなくなってしまいまして――」

 

戦時中の笑い話であった。

大和の話し方が上手いのもあるが、あまりにも可笑しそうに、笑いながら話すものだから、気が付くと俺も、笑ってしまっていた。

 

「――そんな事が、たくさんあったんです。本当、愉快な艦隊でした」

 

「フッ、そのようだな。しかし、緊張感のない艦隊だ。戦時中だというのに、そんな」

 

「えぇ、そうです。戦時中でも、そうだったんですよ。実際は」

 

そう言うと、大和は俺をじっと見つめた。

その目を見て、ハッとした。

 

「……なるほど。気を遣わせた……か……」

 

戦時中の暗い話しか知らない俺に、大和はわざと、明るい話をしてくれたのだ。

 

「大和たちは何も、辛い経験ばかりしてきたわけではありません。それを知って欲しかっただけです」

 

「だから、倒れるまで勉強する必要はない、と?」

 

「それもあります。けど……」

 

大和はそっと、俺の手を取った。

 

「戦いに目を向けるばかりが、提督のお仕事ではありません……。敵ばかり見ていないで、少しは私たちの事を見てください……」

 

そう言う大和の目は、どこか――。

しかし……そうか……。

 

「……そうだよな。悪い……。自分の不安ばかりに目がいっていた……。本当に守らなきゃいけないのは、お前たちなのにな……。お前たちの……笑顔なのにな……」

 

「それが、貴方が目指すべき強さであり、最も得意とすることでしょう? ペテン師さん」

 

そう笑う大和に、俺もまた、笑顔になることが出来た。

 

「あぁ、そうだな。すまん……いや、ありがとう、大和。確かに、過剰ではない介護だったよ」

 

「加減する方も大変なんです。それに、あれでも皆さん、抑えている方なんですよ?」

 

あれで抑えている方なのか……。

だとしたら、一体……。

 

「でも、そっか……。提督には、厳しい戦時中よりも、そっちの方がいいのかもしれませんね……。きっと、その方が艦娘達も――……」

 

そう言うと、大和は何か思いついたかのように、顔を上げ、俺を見た。

 

「そうだ。提督」

 

「ん?」

 

「今夜、大和と一緒に寝ませんか?」

 

「……へ?」

 

突然の事に、俺は思わずフリーズしてしまった。

コンヤ、ヤマトトイッショニネマセンカ?

 

「え……あ……え……?」

 

フリーズする俺を、大和は不思議そうな表情で見ていた。

聞き間違いか?

 

「えーっと……え? 一緒に寝よう……って言ったのか?」

 

「え? はい、そうですけど……」

 

聞き間違いじゃない!?

 

「え……は……なんで一緒に……?」

 

様子のおかしい俺に、大和は怪訝そうな表情を見せた。

そして、何かに気が付いたようで、目を大きく見開き、顔を赤くさせると、必死に説明を始めた。

 

「あ……そそそ、そういう意味ではないですよ!? その……! あの……! だから、夢! 夢を……雪風さんに頼んで……明るい方を……暗い方じゃなくて……だから……あの……えと……」

 

焦る大和を見て、俺は少しだけ冷静になることが出来た。

そして、大和が何を言わんとしているのか、なんとなく理解できた。

 

「お、落ち着け……。言わんとしていることは、なんとなく分かったよ。雪風に頼んで、戦時中の明るい夢を一緒に見ようって言いたいんだろ?」

 

大和は何度も何度も頷いた。

 

「そ、そう……だな……。それは……名案だな……」

 

永い永い沈黙が続く。

 

「そ、そうと決まれば! 雪風さんに相談してきますので……」

 

「あぁ……分かった……」

 

「で、では……失礼します……」

 

大和はそそくさと、部屋を出て行った。

監視、しなくていいのか……。

 

「はぁ……」

 

焦る大和を――赤くなった表情を見て、俺は何故か――。

 

「あんな表情を……見せてくれるようになったんだな……」

 

 

 

消灯時間になると、何故か、明石が部屋へとやって来た。

 

「……なんで枕を持ってきているんだ?」

 

「え、だって……か、監視? しないといけないと思って……」

 

明石を部屋からつまみ出してやると、入れ替わるようにして、雪風がやって来た。

 

「一番害が無いだろうと、雪風が選ばれました」

 

「……だろうな。つーか、こんなところまで監視はいらねーよ……。まあ、今回は都合が良かったな。大和から話は聞いているだろ?」

 

そう訊くと、雪風は何故か、不機嫌そうに頷いて見せた。

 

「なんだよ? 不満か? 戦闘の夢の方がいいと?」

 

「いえ……そういう訳では……」

 

「じゃあなんだよ? 不貞腐れたような顔しやがって……」

 

雪風はムッとした後、小さく言った。

 

「雪風だって……同じように考えていたんです……」

 

「え?」

 

「戦闘ばかりじゃなく……戦時中の艦娘達の雰囲気を体験してもらって……羽休めしてもらおうって……。辛い事ばかりじゃないと……知ってもらおうって……」

 

雪風は、見たことも無いような表情で、俯いていた。

 

「……もしかして、嫉妬しているのか? 先に提案されたものだから――お前じゃなく、俺が大和を頼ったと、思っているのか?」

 

雪風は何も言わなかった。

 

「フッ……はははは」

 

「な、何を笑っているのですか……!」

 

「いや、悪い。なんだ、案外かわいい所があるんだな」

 

「……雪風をなんだと思っていたんです?」

 

「つかみどころのないガキだと思っていたよ。けど、そうか。なんやかんや言って、お前はお前なんだな」

 

「……どういう意味です?」

 

「お前は、お前が夢に見て来た『雪風』なのではなく、今、ここにいる雪風なんだってことだよ」

 

「なんですか……それ……。意味が分かりません……」

 

雪風は、そっぽを向いてしまった。

こんな事を言ってはいるが、しっかりと俺の言っていることが理解できているのか、耳はほんのりと赤くなっていた。

 

「さて、ぼちぼち始めようか」

 

「……はい」

 

大和は先に隣の部屋で寝ているらしく、俺たちは跡を追うように、眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

気が付くと――いつだったか曙と会話した『執務室』そっくりの場所に居た。

 

『ここは……』

 

『わぁ……!』

 

驚く声の方を向くと、大和が窓の外を眺めていた。

 

『大和』

 

『あ……提督……。ここが、夢の世界……なんですか?』

 

『あぁ、そうだ』

 

なんて、涼しい顔して言ってはいるが、実は動揺している。

やはり何度来ても、不思議な感じというか、キモチワルイ感じがして……。

 

『しれえ』

 

振り返ると、何故か大人の姿をした雪風が立っていた。

 

『今回はお前もいるんだな』

 

『いけませんか……?』

 

『いや、いけないことは無いが……』

 

ムスッとする雪風。

ずっと機嫌が悪いんだな。

 

『雪風さん!? その姿は一体……』

 

雪風が何故か説明しなかったので、俺が代わりに説明してやった。

しかし、なんだ……。

自分で説明していてなんだが、本当、意味不明だよな……この状況……。

 

『……よく分かりませんが、なんとなく分かったような気がします』

 

『その認識で正しいぜ。現に、俺もよく分かっていないんだ。本人(雪風)もそうらしいし』

 

雪風はやはり、何も言わなかった。

大和も、これ以上は不毛だと感じたのか、再び窓の外に目を向けた。

 

『で? ここはどんな世界なんだ?』

 

『大和さんの記憶を頼りに、創造した世界です。雪風には覚えのない場所ですが……』

 

『ここは――鎮守府です。空母を中心とした艦隊が集まる場所なので、馴染みは無いと思います。大和も、何回か訪れたことがあるだけで、そこまで詳しくは無いのですけれど……』

 

なるほど。

だからか、何だかキモチワルイ感じなのは……。

よく見ると、本棚にある本の背表紙は、何か文字のようなものがぼんやりと書かれているだけで、読むことが出来なかった。

曖昧な記憶を頼りに創造された世界……か……。

 

『――鎮守府って、お前が話してくれた鎮守府だよな? ってことは、加賀や赤城なんかもいるのか』

 

『えぇ。瑞鶴さんや翔鶴さんもいて、その四隻とは、よくお話ししましたよ。特に、加賀さんと瑞鶴さんは、喧嘩しているようで実は仲が良くて――』

加賀と瑞鶴がいるのか……。

しかも、大和は二隻について詳しい……。

 

『その加賀と瑞鶴に会いたいのだが』

 

『お二人に……ですか?』

 

『あぁ、実は――』

 

俺は、島の外で二人に会ったことを話してやった。

共に戦う約束をしてくれたことも――。

 

『――本当にそうなるのかは分からないが、二人の事をよく知っておきたいんだ。出来る事であれば、二人の戦闘スキルもみたい』

 

『なるほど。演習や実戦も、多くはありませんが見てきましたので、それがこの夢で再現できるのであれば……』

 

大和は雪風に目を向けた。

 

『できますよ。出来るだけ鮮明に思い出していただければ』

 

『だ、そうです』

 

『そうか。そうしてくれるとありがたい』

 

『少しだけ、思い出す時間をいただけませんか? なんせ、70年以上前の事ですから……』

 

むしろ、時間さえあれば、70年以上前の記憶も思い出せるのか……。

 

『では、その間に、二人と日常会話してみませんか? 加賀さんと瑞鶴さんなら、雪風もお話ししたことありますし、再現できると思います』

 

『そうか。じゃあ、頼む』

 

『はい』

 

雪風が目を瞑る。

すると、辺りが急に騒がしくなって、廊下の方から、ドタドタと誰かが走ってくる音が聴こえてきた。

 

『来ますよ』

 

そして、扉が急に開かれると――。

 

『え……』

 

声を漏らしたのは、雪風であった。

 

「提督さん!」

「て、提督……!」

 

そこには、加賀と瑞鶴――ではなく――。

 

『アン……ヒナ……!?』

 

二人の娘である杏子と雛菊は、目を輝かせながら、俺を見つめていた。

 

 

 

二人は俺に近づくと、嬉しそうに話し始めた。

 

「聞いてよ提督さん! あたしたち、すっごく優秀らしいのよ! なんと、百発百中だったのよ!? しかも、ア……じゃなかった……。加賀姉なんかは全部中心に当ててね!?」

 

「瑞鶴ちゃんほど動いていないから、実戦で使えるかは分かりませんが……。一応……一番優秀だと言われました……」

 

そう言うと、二人は反応を待つよう、じっと俺を見つめていた。

思わず雪風を見る。

だが、雪風は驚きの表情のまま、首を横に振って見せた。

 

「もしかして提督さん……疑っている? あたしたちが優秀な訳ないって……」

 

『え……いや……』

 

「だ、だったら! 証明しようよ! 提督、演習場に来てください……! 私たちの動き、見てください……!」

 

「そうね。それが一番手っ取り早いわ。じゃ、提督さん、演習場に来てね。じゃーね!」

 

二人は、そそくさと部屋を飛び出していった。

まるで嵐が過ぎ去った後のように、執務室は静まり返っていた。

 

『今のは、一体誰なんです!?』

 

雪風がそう問い掛けたのは、大和に対して、であった。

 

『え……』

 

『この夢は、大和さんの記憶を頼りに創造されているはずですから、知っているはずですよね!? どうして加賀さんと瑞鶴さんが、あの二人になるのですか!?』

 

『い、いえ……大和も……知りません……。あの二人……加賀さんと瑞鶴さんに似てはいましたが……。会ったことない人たちです……』

 

『では一体……』

 

困惑する二人。

だが、あの二人の正体を知っている俺は、もっと困惑していた。

 

『あれは……加賀・瑞鶴の娘たちだ……』

 

『『え!?』』

 

『本土で加賀と瑞鶴の二人に会った話をしたが、実は、娘二人とも会っているんだ……』

 

驚く二隻。

だが、何に驚いたのかは、違っているようであった。

 

『加賀さんと瑞鶴さん、娘さんがいたのですね……』

 

まあ、大和はそっちだろうな……。

 

『雪風、どうして俺の記憶の方から二人が? これは、大和の記憶のはずだろう?』

 

『……分かりません。しれえの記憶からは何も……。それに、あの二人……雪風の影響を一切受けていませんでした……』

 

『影響を?』

 

『間違ったものを生み出してしまったと思い、消そうとしたのです……。しかし……』

 

二人は消えなかった……か。

雪風の影響を受けないなんて、あり得るのか……?

ヘイズの感染量によって、夢での自由度は変わると考えていいだろう。

だからこそ、感染量の多い雪風は自由に夢を創造できるし、干渉できるのだ。

それが間違っていたのか、はたまた俺の感染量が……。

いや……。

おそらく、雪風が嘘をついているのだろう。

なぜ嘘をついているのかは分からないが――そうでなければ、この状況はありえない。

ありえないはずだが……。

 

『と、とにかく……演習所に行ってみませんか……? 二人が待っているとのことですから……』

 

『そ、そうですね……。大和さん、案内をお願いします……』

 

雪風の反応……。

これが、嘘をついている奴の反応か……?

だとしたら、大した役者だが……。

 

 

 

演習場は海上にあるようで、的のようなものがいくつか浮かんでいた。

 

「あ、来た来た! 提督さん、遅いよ!」

 

『す、すまない……』

 

「雪風さんと大和さんも来てくれたんですね……。なんだか緊張しちゃうなぁ……」

 

二隻は返事をしなかった。

一応、認識されてはいるんだな……。

 

「まずは、あたしからね! ほいっと!」

 

海へと飛び込む雛菊。

だが、全身が浸かることは無く、海に立っていた。

 

「見てて、提督さん!『瑞鶴』を継承した、あたしの実力を!」

 

そう言うと、雛菊は海を滑り始めた。

 

「よっ!」

 

まるでスケートのように、軽快に海を滑る。

そしてそのまま弓を構えると、的に向かって矢を放った。

 

「はい、命中! 次はもっと凄いよ!」

 

それから雛菊は、アクロバットな姿勢だったり、目を瞑りながらなど、芸でも披露するかのように矢を放って見せた。

その命中精度は、百発百中。

中心からズレての命中とは言え、あれだけの動きで――しかも、的は波に揺れているのにもかかわらず――。

 

「ふぅ……ざっとこんなもんかしら? 提督さん、どお!? あたし、凄くない!?」

 

俺は、思わず大和を見た。

凄い事は凄いが、正直、これが戦闘で役に立つのかは分からなかったのだ。

 

『凄いです……。海上であれだけの動きが出来ることもそうですが、どんな体勢からも矢を放てるというのは、見たことも……』

 

雪風も同じなのか、何度も頷いていた。

 

『……大和が褒めるくらいだ。その腕は本物なんだろうよ』

 

「本当!? やったー! 提督さん、褒めて褒めて~! なでなでして~!」

 

『お、おう……。よ、よくやった、ヒナ』

 

「もう、提督さんったら! 今のあたしは瑞鶴よ! ヒナって呼ぶのは、二人っきりの時だけにして?」

 

そう言いながらすり寄る瑞鶴を見て、アン――いや、こちらは加賀か――は、何やら不機嫌そうな表情を見せていた。

 

「……提督、次は、私の番です」

 

『え? お、おう……』

 

加賀は静かに海上へおりると、深呼吸をしたのち、海を走り始めた。

 

「私だって――……」

 

何やらぶつぶつ呟きながら、弓を構える。

そして、矢を放つと――。

 

『『『え!?』』』

 

放った矢は、一本ではなかった。

複数の矢が、それぞれ別の軌道を描き、そして、別々の的へと命中した。

それも、ど真ん中へ……。

 

「私だって――だし――提督に――だし……」

 

体幹がブレることはなく、次々と矢を放つ加賀。

瑞鶴ほどの動きはないが、矢を放つ速度、本数、命中精度は、瑞鶴以上であった。

 

「加賀姉ー! もう、矢、無くなっているよー!」

 

「え? あ、本当だ……」

 

どうやら集中していたようで――というよりは、何か別の事に気を取られているように見えたが――我に返ったようであった。

加賀は海から上がってくると、感想を求めるように、俺をじっと見つめた。

 

『す、凄いな……。なんというか……』

 

俺は再び、大和を見た。

 

『集中力もそうですが、一度にあれだけの矢を放てるのは、見たことがありません。そうですよね?』

 

『あ、あぁ……そうだ……』

 

「本当ですか……? じゃあ……えへへ……」

 

加賀は目を瞑り、頭を俺に向けた。

撫でろってことか……。

 

『よくやったな、加賀』

 

そう言って撫でてやると、加賀は満足そうに笑っていた。

 

「司令官! 私も見てください!」

 

『え?』

 

見知らぬ顔の少女。

 

「私も、お願いします!」

 

「あ、ズルい! 提督、アタシも!」

 

次々と出てくる少女たち。

中には、陸奥や鹿島と同じくらいの歳であろう女性も――。

 

『こりゃ、一体……』

 

思わず雪風に目を向ける。

その雪風は――。

 

『雪風……?』

 

 

 

 

 

 

「んん……」

 

目を覚ますと、そこはいつもの執務室であった。

 

「あれ……もう起きちまったのか……」

 

暗くてよく分からないが、どうやら陽が昇り始めたばかりの時間帯に目を覚ましたようであった。

 

「うっ……」

 

頭が重い。

軽く頭痛もする。

 

「クソ……そうだった……。夢を見た後だと……」

 

ふと、隣に目を向けると、何やら思いつめた表情の雪風が、自分の手の平をじっと見つめていた。

 

「雪風……?」

 

「しれえ……」

 

雪風は俺に目を向けた。

その目は、どこか悲しげであった。

 

「……変な夢だったな。どうして娘二人が出たんだろうな?」

 

雪風は何も反応しなかった。

 

「雪風?」

 

突如、電話が鳴った。

 

「びっくりした……。こんな朝早くからなんだ……?」

 

電話に出ると、何やら騒ぐような声が聴こえてきた。

 

「なんだぁ!? もしもし!?」

 

『――しもし! 本部の――だ!』

 

本部の?

あぁ――上官か……。

 

「どうかされましたか? 随分騒がしいですが……」

 

『今すぐ本土に戻ってきなさい! 元艦娘達とその子供が君に会いたいと……えぇい! 今、呼び出しているところだ! 邪魔しないでくれ!』

 

ギャーギャー騒ぐ声。

司令官、だとか、提督、だとか聴こえるが、どれも聞き覚えのない声であった。

 

『とにかく! 早急に戻って来てくれ! 鈴木を行かせたから……だから! 今! 呼んで! いる! んだ!』

 

そこで電話は切れてしまった。

 

「なんだったんだ……?」

 

ふと、雪風が居なくなっていることに気が付く。

 

「……あいつも、なんだったんだ?」

 

 

 

皆が起きてくる前に、鈴木はやって来た。

 

「こんな朝早くからご苦労だな。しかも、昨日の今日で」

 

「本当だぜ……。ったく……。たまたま夜勤だったから良かったけどよ……」

 

「それで? 何があった? 元艦娘とその子供がどうだとか言っていたが……」

 

「あぁ……まあ……行けば分かるぜ……」

 

「あ?」

 

 

 

本土に着くと、すぐに多目的室に連れていかれた。

 

「早く! 早く行きなさい!」

 

急かされながら、部屋に入ると――。

 

「あ! 来た来た! 提督さーん!」

 

「ヒナ……?」

 

と、アンに、鈴蘭寮のメンバーや――加賀と瑞鶴もいて――それと、見知らぬ顔の女性たち――いや、どこかで見覚えのある顔もいくつかあったが――そいつらに囲まれる。

 

「司令官!」

「提督!」

「この人が?」

「佐久間さんそっくり!」

 

何が何だか分からず、俺は助けを求めるように鈴蘭寮の連中に目を向けた。

 

「皆、雨宮君に会いに来たみたいだよ」

 

そう言う山風は、どこかムッとした表情を見せていた。

 

「俺に会いに……」

 

そういえば、以前もこんなことがあったな……。

最上が指導艦になると聞いた時――あぁ、そうか……。

見覚えのある顔は、あの時の……。

 

「司令官、私たちも戦います!」

 

「え?」

 

「雛菊ちゃんから聞きました! 必ずお力になれるかと!」

 

今度はヒナに目を向ける。

 

「協力者は多い方がいいと思って。ほら、あたしって人望は厚い方だから! 現に、これだけ集まった訳だし!」

 

いや、まあ、人望が厚いのかもしれないが……。

 

「心配しなくても、この事は、ここにいる人たちにしか言っていないわ。尤も、情報が漏れたところで、誰も信じないでしょうけれどもね」

 

もう一度、山風に目を向ける。

どこか呆れたように、小さく頷くだけであった。

 

「まあ、あたしの人望があったのもあるけれど、皆、あたしほどではないにしろ、提督さんの事が気になっていたのよ。と・い・う・わ・け・で! 自己紹介ターイム! 皆、これから提督さんと一緒に戦うのだから、たくさん自分たちの事を知ってもらおー!」

 

オー! という掛け声と共に、皆、一斉に自己紹介を始めた。

 

「お、おいおい……。一斉に喋られても……」

 

それから、何が何だか分からないまま、自己紹介を受けたり、交流としてゲームをしたりと、とにかく揉みくちゃにされた。

 

 

 

結局、解放されたのは、陽が落ちた頃であった。

 

「はぁ……疲れた……」

 

鈴木が夜勤明けだったため、その日は本土で過ごすことになった。

 

「で? お前らは帰らなくていいのか?」

 

残ったのは、大井と青葉、そして、指導艦四人であった。

 

「いいのよ。行動は自由だし、色々と訊きたいこともあるし」

 

そう言う大井は、どこか怒っているように見えた。

まあ、大方、戦いの事を聞いていなかった、そして、それを又聞きで知ったことについて、何かしらの不満があるのだろうな……。

 

「司令官、大井さんは怒っているんですよ? どうして私には話してくれなかったのかって!」

 

そして青葉……。

お前、本当に野暮だよな……。

あぁ……ほら、大井の機嫌が一気に悪く……。

 

「まあまあ、仕方ないよー。雨宮君は、皆に心配かけたくなかったんだよねー?」

 

そして、北上が庇ったことで、大井の機嫌は更に悪く――いや、もう触れないようにしよう……。

 

「でも……それでも、杏子ちゃんや雛菊ちゃんだけじゃなく、あたしたちにも教えて欲しかったなって……。知ったのも又聞きだったし……。皆も、雨宮君に信用されていないんじゃないかって、落ち込んでいたよ……?」

 

そう言う山風は、どこか寂しそうな表情を見せていた。

 

「悪い……。島の連中に話した時も、結構揉めてしまってな……。心配させたくなかったのもあるが、信じてくれないと思っていたし、俺も信じ切れていないと言うか……」

 

「だからって……どうしてあの二人なのよ……。私たちの方が……」

 

ボソッと言う大井。

訊きたいことが何なのか、今のでよく分かった気がする。

機嫌が悪い理由も……。

 

「でも司令官……司令官が戦いに出る必要はないんじゃないですか……? 戦うだけなら、青葉たちだけでも……」

 

「それで納得する男じゃないわよ……。分かってんでしょ……?」

 

大井がそう言うと、皆は黙り込んでしまった。

島でも、似たようなやり取りがあったな……。

 

「……でも、良かったよね。結果として、あれだけの人数が集まった訳だし。ボクたちだけだったら、きっと、あれだけの人数を集めることは出来なかったと思うよ。実際に戦うかどうかは分からないけれど、貴重な話も聴けたし、霞ちゃん攻略の参考にはなったんじゃないかな? ね、先生」

 

「あ、あぁ……そうだな……」

 

ほどんどが質問攻めであったのだが、確かに、元艦娘から、戦術などの貴重な話も聴けていた。

 

「それにしても、凄いメンツだったねー。みーんな独身で、完全に雨宮君を狙いにいっている感じがしてさー。ま、あたしも狙っているんですけどねー。なんちって」

 

「北上さん!」

 

北上の冗談で、ようやく場が和み始めた。

そんな中、どこか深刻そうな表情で俯いているのは、秋雲であった。

そう言えば、今日はまだ一言もしゃべっていなかったような……。

 

「秋雲、どうした?」

 

「え……?」

 

「珍しいじゃないか。今日は一言も、童貞がどうとか聞いていないぜ?」

 

皆が笑う。

釣られて秋雲も――と思っていたが、秋雲は――。

 

「あ……うん……。ちょっとね……」

 

「流石に反省したってことでしょ? 全く……秋雲はいつもいつも――」

 

山風の説教に、再び笑いが起きる。

秋雲は苦笑いを見せるだけで、結局その後も、何も話すことは無かった。

 

 

 

翌日。

また囲まれたらまずいと思い、早朝に本土を出ることとなった。

 

「ふわぁ……。さて……行くか……」

 

船へと向かう道中、秋雲に声をかけられた。

 

「雨宮君」

 

「秋雲、おはよう。早いな。散歩か?」

 

「ううん……。雨宮君が早朝に出るって聞いて、待ってた……」

 

どこか、しおらしい秋雲。

昨日も様子がおかしかったが……。

 

「そうか。何か用か?」

 

「あ……うん……。用って言うか……。伝えたいことがあるって言うか……」

 

「なんだ? 童貞ならやらんぞ」

 

冗談っぽく言ってやったつもりだったが、秋雲は真剣な表情で「うん……」と答えた。

 

「うんってお前……。ようやく諦めてくれたのか?」

 

首を横に振る秋雲。

諦めはしないのかよ……。

 

「雨宮君……」

 

「うん?」

 

「絶対……童貞でいてね……」

 

「へ?」

 

「どんなに誘惑されても……艦娘の人化を終わらせたとしても……絶対……童貞でいてね……」

 

いや……どういうことだよ……。

 

「……お前がもらいたいから、ってことか?」

 

「それもあるけど……。そうじゃないと……きっと、皆は――……」

 

俯く秋雲。

その表情は――。

 

「……秋雲?」

 

秋雲は、しばらく黙っていたが、顔を上げると、弱弱しく笑って見せた。

 

「……なーんてね。ほら、昨日来ていた人たちもさ、みーんな独身で、処女っぽかったからさ。心配になったって言うか、若い人たちもいて、危機感を覚えちゃったーみたいな……」

 

いつもの冗談――ではないように見えた。

それは「本当にそういう危機感を持っているから」というよりも、何かを隠すような――そんな冗談に見えたのだ。

 

「――……」

 

それが何なのかを問おうとしたが、秋雲の手が小さく震えているのを見て、俺は何故か、何も言うことが出来なかった。

 

「おーい、慎二!」

 

遠くで鈴木が呼んでいる。

 

「……行かないと」

 

「……うん。あ、ちょっと待って……。これ……」

 

秋雲は、何やら封筒を俺に手渡した。

中身は――。

 

「お、おい……これ……」

 

中には、秋雲の生まれたままの姿を写した写真が何枚も入っていた。

 

「な、なんつーもんを渡して……! こんなもん――」

「――それで我慢してっ!」

 

秋雲の表情は、真剣そのものであった。

 

「それで抜けないというのなら……雨宮君の性癖に合わせた本を描くから……。だから絶対……童貞でいて……」

 

何やら真に迫る秋雲に、俺は気圧されてしまった。

 

「じゃあ……ね……」

 

秋雲は、名残惜しそうに離れると、そのまま寮の方へと走って行ってしまった。

 

「秋雲……」

 

写真の秋雲は、いつも見せる粘度のある笑いなどしておらず、真っ赤な顔で、どこか恥ずかしそうな表情をしていた。

 

 

 

島に戻ると、雪風が出迎えてくれた。

 

「おう。今日はお前か」

 

「……はい」

 

雪風の表情に、俺は妙な既視感を覚えた。

――あぁ、そうだ。

さっきの秋雲と同じような表情をしているんだ。

そういや、昨日、目が覚めた後にも、同じような顔をしていたような……。

 

「……しれえ」

 

「ん?」

 

「少し、散歩しませんか……? 少しでいいんです……」

 

「あぁ、別に構わんが……。どうした? 珍しい」

 

そう訊いてやっても、雪風は答えず、どこか困ったような表情で微笑むだけであった。

 

「雪風?」

 

「……行きましょう」

 

歩き出す雪風。

小さな背中が、今日に限って何故か、本当に小さく見えていた。

 

 

 

小さな背中と、小さな足跡。

それを追う、俺の大きな影。

駆逐艦の中でも、かなり小さな奴だなとは思っていたが、どうして今日に限って、より強く、そう思えてしまうのだろうか。

やがて、雪風は足を止めると、近くにあった流木に座った。

俺も同じように座り、海を見つめた。

永い沈黙が続く。

 

「……何かと縁があるぜ、この場所には」

 

「え……?」

 

「色んな奴と、ここに座って話をしたんだ。何故か皆、ここを選ぶんだよな」

 

そう言って笑って見せると、雪風も小さく笑ってくれた。

 

「昔、よくここでキャンプファイヤーをしたので、それでかもしれません」

 

「キャンプファイヤー?」

 

「えぇ。キャンプブームになったことがあって、毎日のように、ここでキャンプしたんです。寒くなってから、全くやらなくなっちゃいましたが……」

 

辺りを見渡してみるが、そんな痕跡は一切見当たらなかった。

一体、いつ頃の話なのだろうか……。

 

「……して、どうした? お前も皆と同じように、話したいことがあって、俺をここに連れ出したのだろう?」

 

「えぇ……」

 

と、言いつつも、雪風は中々切り出せずにいるようであった。

 

「フッ……」

 

「……なんで笑ったんです?」

 

「いや、珍しい顔をするもんだと思ってな。何でもお見通しって感じだったのに、今は、どうも子供っぽく見えてしまうと言うか、可愛げがあると言うか」

 

「……前々から思っていましたが、しれえの趣味というか、好みというか……悪すぎます……。敷波さんの時もそうでしたが……そんなに、女の子が憂いているような表情が好きですか……?」

 

「確かに、そうかもな。尤も、そうさせてしまう時に――そういう表情を見ている時に、交流に大きな進展があったりするから、パブロフの犬のように、反応してしまうのかもしれないな」

 

それが俺の気遣いだと分かっているのか、雪風は小さく笑った後、肩の力を抜いて、話し始めた。

 

「実は……雪風の力……というか、夢を支配できる力が、弱まっているようです……」

 

「え?」

 

「この前見た夢で、雪風の力が及ばない存在が出てきましたよね?」

 

アンとヒナの事か。

 

「その他にも、雪風の知らない存在が出て来ていて――そんなことは初めてで――目が覚めた後も、何が起きたのか、ずっと考えていたんです……」

 

だからか。

様子がおかしかったのは。

 

「そして、昨日の夜……。もう一度確かめてみようと思い、大和さんに頼んで、夢の中に入ったのです……。しかし……」

 

「しかし……?」

 

「夢を見ることは出来ました……。けど、やはり雪風の力が及ばない存在が現れて……。全てではないにしろ……力が弱まっているように感じて……」

 

雪風の手が、小さく震えていた。

なるほど……。

 

「自分の存在価値が無くなると思い、恐れているのだな」

 

雪風は驚いた表情で、俺を見た。

 

「最近、余計なことばかり気が付くようになってしまってな。尤も、お前が大和に嫉妬している姿を見れば、誰でも察しがつくのやも知れんがな。だが、俺にしては冴えている、だろ?」

 

「……フフ、そうですね。しれえにしては、察しが良すぎます」

 

俯く雪風の頭を、俺は撫でてやった。

 

「そんな事で悩むなんて、やはり可愛げがあるじゃないか」

 

「そんな事ってなんですか……。こっちは、原因はなんだとか、どうすればいいのかとか、必死に悩んでいるんですよ……?」

 

「そんな事だろ。確かに、お前の力は凄いし、色々と役にも立つ。霞との交流にも、必要な力だろう」

 

「…………」

 

「だが、そんなものが無かったとしても、お前の存在価値が消える訳ではないだろ。お前にはお前の魅力がある」

 

そういや、鳳翔とも、同じような話をしたな。

まさに、この場所で。

 

「雪風」

 

雪風は顔を上げると、俺の目をじっと見つめた。

 

「お前は、様々な俺を見て来たし、様々な『雪風』にもなって来ただろうと思う。けど、俺の知っている雪風は、お前だけだ。そして、お前の目の前にいるこの俺も、お前だけが知っている俺なんだ」

 

なにが言いたいのか、雪風は分かっているようであった。

そう思える根拠が――零れそうになっているその『証拠』を、俺は指で、そっと拭ってやった――。

 

「フッ……やはり俺は、そういう表情が好きらしい。それが分かっているから、そんな顔をするのだろう?」

 

そう笑う俺に、雪風は――。

 

「……えぇ、そうです。ちょっとは、ときめいてくれたりしましたか?」

 

「俺には、まだまだ子供に見えるよ。だが、可能性はあるかもな」

 

そう言ってやると、雪風は俺にそっと寄り添い、小さく言った。

 

「悪党ペテン師ですね……」

 

「それが分かっていて、離れないのは何故だ?」

 

雪風は小さくため息をつくと「本当、余計なことばかり……」と零した。

 

「フッ……」

 

それでも、雪風が離れることは無かったし、俺も離そうとはしなかった。

 

 

 

しばらくすると、大和が俺たちを探しにやって来た。

 

「ここに居ましたか。雪風さんが迎えに行ったきり、中々帰ってこなかったので、心配していたんです」

 

「そうであったか」

 

雪風は何事も無かったかのように、大和に笑顔を向けていた。

大和の声が聴こえる直前まで、顔を赤くして寄り添っていた癖に……。

大した女優だぜ。

 

「お二人で何を話していたのです? もしかして、夢のことですか?」

 

事情を説明してやると、大和はどこか、深刻そうな表情を見せていた。

 

「雪風さんの力が弱まっているのかもしれないというのは、昨日の夢で大和も感じています……。徐々に弱まっているのか、一時的なのかは分かりませんが、前者であった場合、時間がないと言えるのかもしれませんね……」

 

時間がない……か……。

確かにそうかもしれない。

だが、本当にそうなのだろうか……。

 

「しれえ……急ぎましょう……。この力が無くなったら、きっと、霞さんは……」

 

そうだ。

元々は、霞を説得するために始めた事なのだ。

だが、徐々にその意味は無くなって――己の不安を解消する為となってしまい――皆を巻き込み――そして――。

 

「しれえ……?」

 

こいつを――……。

 

「……やめだ」

 

「え……?」

 

「もう、やめだ。馬鹿らしい」

 

雪風は、困惑した表情を見せていた。

だが、大和は何かを察したのか、小さくため息をついて見せた。

 

「冷静に考えて、夢の中で戦ったからなんだってんだ。実戦に近いからとは言え、結局は実戦と異なるだろう。そもそも、実際に戦いが起きるかも分からないし、力をつけたとて、霞が人化するわけでも無い」

 

雪風は、俺が何を言わんとしているのか、徐々に理解しているようであった。

その証拠に、表情もまた、徐々に険しくなって行く。

 

「……雪風に気を遣っているのですか?」

 

「そうだ」

 

あっさり認めたところで、大和は思わず笑ってしまっていた。

 

「すみません。あまりにも可笑しくて。だって、提督の仰っていることって、最初から分かり切っていたことですから」

 

嘲笑の中に、どこか、安心している表情があった。

なるほど、どうして大和が夢を見せようとしたのか、今、分かった気がする。

 

「ようやく、不安を解消したようですね」

 

「どうかな。不安はある。だが、それ以上に……」

 

雪風の表情に、大和もまた、俺と同じ気持ちになった事だろうと思う。

 

「雪風さん」

 

「……はい」

 

「あとは、大和にお任せください。夢なんてなくても、大和なら、必ず、提督と霞さんを――霞さんの人化に貢献できますから」

 

そう言う大和は、どこか、馬鹿にするかのようにして、雪風を見ていた。

そんな大和に、雪風は――。

 

「…………」

 

雪風は何故か、俺を睨んでいた。

その顔は、赤く染まっていて、どこか恥ずかしそうであった。

 

「……なーんて。もうやめましょう。雪風さん、貴女は提督の事が好きなのでしょう? 大和は知っています。だから、貴女を煽ったのです。貴女もそれを察してしまい、そうして提督を睨んでいるのでしょう?」

 

「ん? どういうことだ?」

 

そう訊く俺に、今度は二隻が一緒に噴き出していた。

 

「ね? こういう人なんです。だから貴女も、気を遣わせるようなことをしない方がいいですよ」

 

「……そうですね。分かりました……。もう、やめましょう。でも、協力はさせて欲しいです」

 

「それは、どういう理由で?」

 

「大和さんと同じ理由、とでも言っておきましょうかね」

 

そう言われ、大和は俺を睨んで見せた。

もう、何が何だか……。

 

「……そっか。確かに、しれえには――しれえだからこそ――……」

 

雪風は、何か考えるようにして、しばらく目を瞑っていた。

そして、結論が出たのか、大和に視線を送った。

大和も何かを感じたようで、小さく頷いていた。

 

「雪風にいい考えがあります」

 

「いい考え?」

 

「えぇ、しれえが、ずっとやってきたことです。ですよね、大和さん?」

 

「ふふ、そうですね」

 

二隻が笑う。

 

「……して、そのいい考えとは?」

 

「それは、自分で考えてください」

 

「はあ?」

 

「大和達で、舞台を整えますから。そこからは、提督がいつもしていることをなさってください」

 

「いや……意味が分からんのだが……」

 

「それでいいんです。それだからいいんです」

 

再び笑う二隻。

マジで何を言っているんだ……。

 

「とにかく、そういう事です。これから、雪風さんと作戦会議をします。提督は今日、寮に来ないでください。作戦が固まり次第、皆さんにも伝えなきゃいけませんので」

 

「俺が知ってはマズい作戦……ということか?」

 

「その方がいいと思います。一つだけ言えることは、もう戦いの事は忘れてください。しれえはしれえのままで――『提督』ではない、いつものしれえでいてください!」

 

よく分からんが、とにかく『鈍感な俺』で居ろ、という事らしい。

それが分かってしまう時点で、鈍感とは違うように思えるが……。

 

「……分かった。夢を見るのをやめたとはいえ、いい作戦があるわけでも無いしな。お前たちの作戦とやらに乗ってやるよ」

 

「乗る、のではなく、乗せられる、ですよ」

 

「フフ、間違いないですね」

 

俺はとうとう参ってしまい、何も言えず、二隻が寮へと帰っていく背中を、間抜けな表情で見守ることしかできなかった。

ただ、分かることが一つだけある。

 

「……こんな姿が役に立つ、ってことだろう?」

 

それは強がりか、それとも――。

 

 

 

家でぼうっとしていると、霞が朝食を持ってやって来た。

 

「あんたの調子が悪いから、大和さんが持って行けって」

 

なるほど、そういうテイで……。

すると、俺だけではなく、霞も作戦を知らされていない訳か。

俺と霞をどうにかする作戦……ということなのだろうか……。

 

「そうか。そりゃ悪かったな」

 

「ご丁寧に、私の朝食も持たせてくれたわ。あんたと一緒に食べろ、ってことなんじゃないかしら?」

 

どこか、試すような瞳を俺に向ける霞。

どうやら、何かを察しているらしい。

 

「フッ……俺は何も企んでいないよ。大和と雪風に、こうして家に居ろと言われただけだ」

 

「……あの二人がなにか企んでいるとは思っていたのだけれど、あんたは何も知らないって言うの?」

 

「信じられないかもしれないが、そうなんだ。何も知らない方がいい……そう言われている」

 

霞は俺をじっと見つめた後、信じたのか、小さくため息をついた。

 

「せっかくだ、乗せられてみようぜ。こうして二人っきりで何かするってのも、あまりなかったことだしな」

 

「それもそうね……」

 

霞は素直に座って見せた。

どんなことであろうとも、自分を説得するに至らないという自信の表れだろうか。

 

 

 

朝食を摂っている間、霞は、やたらと話しかけて来た。

 

「本土の方はどうだったのよ?」

 

「元艦娘たちや、その子供が押しかけてきたようでな。その対応に追われていたよ」

 

「そう……。あんたに会いに来たってわけ?」

 

「そのようだな」

 

「ふぅん……」

 

霞は味噌汁を啜ると、俺をチラリと見た。

 

「どうした?」

 

「……別に。訓練の方は進んでいるの?」

 

「あぁ……それなんだが……やめることにしたんだ」

 

霞の手が止まる。

 

「どういうことよ……?」

 

俺は、今朝の事を全て、霞に話してやった。

 

「……つまり、雪風を想って、やめることにしたと?」

 

「そうだ。あの二人も、それに賛成してくれたのか、こうして俺とお前を二人っきりにしているらしい」

 

二人っきり、か。

もしかして、それこそが、作戦の根幹なのか?

 

「不安はどうなるのよ……? あんたはいいとしても、大淀さんたちは……」

 

「分からん。それも含め、何か作戦があるという事なのだろうとは思う」

 

「何よそれ……。そんな事でいいわけ?」

 

「それでいいらしい。いや……それでないといけないというような言い方であった。俺は俺のままで居てくれとのことだった」

 

霞は納得していないのか、ムッとした表情のままであった。

 

「不安という点なら、あの二人も、皆と同じように思っていただろう。それでも『戦いは忘れろ』とのことだから、何か、あいつら自身も、不安を解消する術を見つけたのかもしれないぜ。そして、皆も同じように思えるのだと、確信したんじゃないか?」

 

「そんなものがあるとは思えないけれど……。それに、最終的には私を人化に導くってことでしょ? 私は絶対人化しないし、そもそも、不安を解消する術があるというのなら、まず私に試すべきだわ……」

 

確かに、その通りだな。

 

「不安……か……。お前の不安ってのは、戦争が起きた時、俺が死んでしまう事を指しているんだろ?」

 

「それだけじゃないわ……。戦争は起きない方が良いに決まっているじゃない……」

 

「お前が人化しなければ、戦争は起きないという保証はあるのか?」

 

「……少なくとも、人化した後のリスクはあるでしょ。全ての艦娘の人化は、確実に世界情勢の変化に関わるわ……」

 

夢でも言っていたしな……。

 

「……もういいでしょ?」

 

そう言うと、霞は食器を持って、立ち上がった。

 

「あの二人の思惑には乗ってあげる。それでも、私は人化しないから……」

 

「あの二人が皆を味方につけることが出来たのなら、それも分からんぜ……」

 

霞はそれに返事をせず、そのまま家を出て行ってしまった。

 

「さて……どうなることやら……」

 

 

 

その日の昼に、寮へ戻れることとなった。

 

「随分早かったのだな」

 

「えぇ、皆さんが早々に納得してくださったので。山城さんだけは、あまり納得していないようでしたが……」

 

山城だけか……。

どんなことを話したのやら……。

 

寮に着くと、ちょうど昼食の時間だったようで、食堂に皆が集まっていた。

 

「お、来ました!」

 

何故かカメラを構えている明石。

 

「……何してんだ?」

 

「何って……動画を撮っているんです! チャンネル用の!」

 

あぁ、そうか……。

そういや、最近撮っていなかったな。

 

「だったら、もっと他の連中を撮ってやれ。俺になんか、誰も興味ないだろうに」

 

「ありますよ! 雪風ちゃんから聞きましたよ? 本土に戻ったのは、元艦娘やその子供に会いたいとせがまれたからだって」

 

雪風にその事は話していないはずだが――ああ、そうか。

昨日、電話があった時、傍にいたもんな。

いつの間にか居なくなっていた癖に、ちゃっかり内容を聴いていたんだな……。

 

「そのニーズに応えるためにと?」

 

「そうです! それに、朝潮ちゃんに頼まれましたから。提督と霞ちゃんの仲を定期的に動画で報告して欲しいって!」

 

そんな事、頼まれていたのか……。

 

「だからか? 霞の隣の席に、俺のと思わしき食事が置かれているのは……」

 

霞はムスッとした表情で、俺を睨んでいた。

面倒ごとに巻き込まれたのは、お前の所為だ……とでも言いたげに……。

 

「分かっているのなら、ささ……」

 

明石に促され、霞の隣に座る。

 

「あら~! なんだかお似合いな感じ!」

 

明石の謎のノリに、霞は心を閉ざすように目を瞑っていた。

朝潮の為、と言われたら、断れないのだろうな……。

 

 

 

食事中も、明石はノリノリで俺たちを撮影していた。

 

「――提督は、本当にコロッケ好きですよね~。提督が寮に来てから、週に三回くらいはコロッケが出るようになりましたし。今日だって、ほら」

 

「まあな。コロッケ定食がある店をわざわざ選ぶほどには好きだぜ」

 

「コロッケ定食って……」

 

そう呟いたのは、霞であった。

 

「なんだよ? 文句あんのか?」

 

「コロッケ定食って……コロッケだけをおかずにご飯を食べるってことでしょう? 合わないったら……」

 

「いや、合うだろ普通に……」

 

「炭水化物と炭水化物じゃない……。ナポリタンとご飯を一緒に食べるくらいあり得ないわ……」

 

「ナポリタンと米は合うだろ」

 

「合わないわよ……。気持ち悪い……」

 

「おっと~? 痴話げんかですか~?」

 

痴話げんかって……。

 

「……お前な、あまり変なこと言ってくれるな。その動画、世界に公開されるんだぞ? 俺がロリコンだと思われたらどうするんだよ?」

 

「年齢なんて関係ありませんよ。愛があれば、どんなことでも乗り越えられるってもんです」

 

俺は、チラリと霞を見た。

案の定、心を殺しているようであった。

 

「……却って朝潮を心配させてしまう。もうこれくらいでいいだろ……」

 

そう言って、俺は席を移動しようと立ち上がった。

――が……。

 

「駄目ですよ! 今日は一日、提督と霞ちゃんのラブラブ動画を撮るつもりなんですから!」

 

「「はぁ!?」」

 

と、動画のコンセプトふさわしく、二人同時に反応してしまった。

 

「なんだよそりゃ!?」

 

「そ、そうよ! そんなの……姉さんに見せられる訳ないじゃない!」

 

「お、息ぴったりですなぁ~。雨×霞てぇてぇってやつですね!」

 

コイツはマジで何を……。

つーか……。

 

「……どうして誰も止めないんだ?」

 

大淀も、夕張も――何か言い出しそうな奴らが、どうして……。

 

「……そういうこと」

 

霞は食器を置くと、大和と雪風に目を向けた。

 

「これが、作戦ってわけ……」

 

「え?」

 

大和と雪風は、何か反応するわけでも無く、ただただ霞の発言を待っていた。

 

「おかしいと思ったのよ……。姉さんに頼まれて、コイツと私の仲を報告して欲しいって……。そんな事、頼むわけないわ……。頼むとしたら、私が元気にしているかどうかで、コイツと絡める必要はないもの……。だって姉さんは、私がコイツを……」

 

そこまで言って、霞は閉口した。

 

「……とにかく、作戦ってのは、こういうことでしょ? 私とコイツをくっつけて、私に恋をさせ、島を出て行った皆と同様に――ここに残っている皆と同様に、コイツと同じ時間を生きたいと思わせるように仕向ける……でしょ?」

 

俺は、二隻に目を向けた。

その二隻の表情は――。

 

「え……そうなのか……?」

 

俺の問いかけに、やはり二隻は答えない。

だが――。

 

『大和達で、舞台を整えますから。そこからは、提督がいつもしていることをなさってください』

 

俺がいつもしていること……。

 

『しれえはしれえのままで――『提督』ではない、いつものしれえでいてください!』

 

いつもの俺……。

鈍感な俺……。

 

『島を出て行った皆と同様に――ここに残っている皆と同様に、コイツと同じ時間を生きたいと思わせるように仕向ける……でしょ?』

 

『皆さんが早々に納得してくださったので。山城さんだけは、あまり納得していないようでしたが……』

 

俺は、山城に目を向けた。

目が合うと、山城はムスッとした表情のまま、顔を背けてしまった。

……なるほど。

 

「……いずれにせよ、私はあんたたちとは違うわ。コイツに恋なんて……」

 

「では、どうしてしれえの布団に?」

 

「ふぇ……?」

 

「雪が降った日――しれえが寮に泊まって、食堂で眠った日です。霞さん、何故かしれえの布団に入って行きましたよね?」

 

「な、ななな……何言ってんのよ!? そ、そんなことするわけ……!」

 

「しれえは気が付いていましたよね? 気が付いた上で、寝たふりしていましたよね?」

 

霞が俺を睨みつける。

いや、雪風には話していないはずだが……。

つーか、やはり俺の勘違いではなかったのだな……。

 

「それに、雪風は知っています。霞さんは、しれえの夢を何度も見ていて、その夢での霞さんは、しれえに――んぐっ……」

「――ワ―ワ―ワ―!」

 

霞は顔を真っ赤にさせ、雪風の口を塞いだ。

 

「……なるほど、事情は分かった。だからこそ、俺には話してくれなかったのだな……。自然体の方が、受けがいいと?」

 

それに、誰も反応しなかった。

 

「それにしても、流石は霞さんですね。まさか、作戦の事を察していたとは。そうならないように、提督にも伝えなかったのですが……」

 

「……まるで、伝えたらすぐにバレるとでも言いたげだな?」

 

まあ、実際そうなるのやも知れんが……。

 

「バレるのは時間の問題だと思いましたけどね……。明石が隠し事出来ないのは、周知の事実でしょうし……」

 

そう言うと、大淀は明石の横っ腹を突っついていた。

本当、仲いいよな……。

 

「……まあ、バレる前提であったのなら、これで正解なのでしょうが」

 

今度は、大和に視線を送る大淀。

その通りなのか、大和はニコッと笑うのみであった。

 

「……だ、そうだが? どうするよ、霞?」

 

「……どうでもいいけど、皆はそれでいいわけ? コイツ、戦う準備をやめるとか言っていたけれど……」

 

それに答えたのは、何故か夕張であった。

 

「大丈夫じゃない? だって、元艦娘がこぞって提督に会いに来ているんでしょ? 夢の話が本当なら、人化した艦娘も戦えるようだし、その元艦娘達も戦ってくれるはずよ。そうさせるだけの魅力が、提督にはあるってことでしょ? むしろ、そっちを伸ばすことに専念した方がいいと思うわ」

 

言い終えた夕張は、何故か不機嫌そうな表情を見せていた。

 

「そういう事です。しれえには、それだけの力があります。むしろ、それしかないのかもしれませんが」

 

皆が笑う中、霞は何か考えているようであった。

 

「霞さん」

 

雪風が、霞の手を取る。

 

「霞さんが救いたいのは、誰ですか? 朝潮さんですか? 世界ですか? それとも、夢の住人にそっくりな、しれえですか?」

 

全部――であろうと思うのだが、何故か霞は、答えられずにいた。

 

「……どうやら、まだ迷っているようですね。でも、いずれ分かります……。雪風がそうでしたから……」

 

そう言うと、雪風は俺をじっと見つめた。

 

「雪風?」

 

「しれえ……大好きです……」

 

「へ?」

 

「雪風は……貴方が……ここにいる【雨宮慎二】が、大好きです……。誰でも無い――誰の代わりでもない、貴方が好きです……」

 

その表情は、今まで見て来たどんな雪風の表情よりも、幼く見えた。

 

「霞さんも、同じようになります。いえ……雪風が必ずして見せます……。気づかせてみせます……。それが、雪風が出来る、最後の仕事です……」

 

最後の仕事……。

 

「雪風は、霞さんの人化を以って、島を出ることにします……」

 

皆が驚きの声を上げる。

それと同時に、雪風は宣言した。

 

「ですから、この作戦だけは必ず成功させます! 霞さんに恋をさせる……その作戦名は――」

 

雪風が、大きく息を吸う。

 

 

 

この時の発言は、のちに起こる戦争を象徴するものとして、語り継がれることになる。

 

 

「作戦名は……」

 

 

いや……『なってしまう』のであった……。

 

 

「【ドキッ! 推しと夢の中でイチャイチャしていたら、現実に推しのそっくりさんが現れて、私を奪おうと戦争を始めた件について~The War of Love~】です!」

 

 

 

 

 

 

……だっせぇ。

 

 

 

 

 

 

残り――7隻

 

 

 

――続く

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