聖杯戦争?どうでもいい。いちごタルトちょーだい? 作:エクソダス
「…辞めることができないってどういうことだよ」
当然、納得できるわけが無い、士郎は聞き返す。
「令呪とは聖痕でもある。マスターとは与えられた試練だ。都合が悪いからと言って放棄することはできん」
言峰は士郎に向けて、そう答える。
予想はしていたが、ここまで士郎を逃がす気はないとは…、怒りを通り越して呆れる。
「さて……この戦いは7人のマスターが願いを叶える聖杯をかけて行う争奪戦。というくらいは凛から聞いているか?」
「……聞いてるよ。ふざけてる、心底そう思う」
零は言峰を心底見下すように吐き捨てる。彼がどんな境遇でこの場所にいるのかはしらない、知るよしもない。
零は状況整理のためにこの場を訪れたんじゃない。
士郎を守るためにここに来たのだ。
「聖杯……ホントに願い叶うの?」
「勿論です、ご婦人」
言峰は、零に微笑んで話を続ける。
「その証拠にサーヴァントなどという法外な奇跡が起きているだろう?物の真贋など、その事実の前には無価値だ」
……よくもまあ、そんな言葉をぬけぬけと。エセ野郎が……。
「ならなんだって聖杯戦争なんてことをさせるんだ。そんなに凄いものなら皆で分ければいいだろう」
「最もな意見だが、聖杯戦争を手にするのはただ一人。それは私達ではなく聖杯が決めることだ」
零は足を組み直しながらその話を聞く。
どうやら聖杯とは、自分が神とでも思っているらしい。
「聖杯は自らを持つにふさわしい人間を選び、競い合わせ、ただ一人の持ち主を選定する。それが聖杯戦争。聖杯に選ばれ、手に入れるために殺し合う降霊儀式と言うわけだ」
士郎はふと、自分にできた腕のアザをちらっと見る。零も一瞬だけ、見ていて痛々しいそのアザを見る。
「納得行かない。一人しか選ばれない…、だから殺し合う?ふざけるのも大概に──」
零が我慢できず、言峰に殴りかかろうと立ち上がる。
しかし、とれを止めるかのように凛が零の腕を掴む。
「……離して、遠坂さん」
「落ち着いてください、零先生。少し誤解していますよ。必ずしもマスターを殺す必要はないんです」
「…彼は、殺しあうと言っているようだけど?」
零はそういいながら言峰に目配せをする。しかし遠坂は首を横に振る。
「この町に伝わる聖杯っていうのは霊体なんですよ。霊体である以上、私たちは触れられない…」
「…そうか、だからサーヴァントが必要なのか…!」
「そう。聖杯はサーヴァントでしか触れないからね」
「……つまり、聖杯戦争は他のサーヴァントを排除するためで、マスターが殺しあう必要はない?」
「……さすがです、零先生。状況分析がお早い」
遠坂は素直に零をほめる。
正直生徒に褒められるのはなんだかむず痒い……、少し頬が熱くなるのを感じる。
「…なるほど、そういう考え方もできるか。では衛宮士郎。君は自分のサーヴァントが倒せると思うか?」
遠坂のような考えはこの男にはなかったらしい。言峰は心底驚いた。と言わんばかりの声のトーンで士郎に聞く。
「……そんなの無理に決まってるじゃないか」
「その通りだ…。本来サーヴァントはサーヴァントをもってしても破りがたいもの……」
「……なるほど」
零は納得したように立ち上がる。癪だが、私もこの男の立場だったら、同じ、マスターは『殺しあうもの』と考えたであろう。
「サーヴァントの所有者である。マスターを殺すのが手っ取り早い、あと。多分だけどマスターとして、権限が残ってる限り、何度でも召喚……契約ができる…ってとこ?」
「ふふ……。ご婦人、貴方は『イレギュラー』だと思っていたが、もしかしたら聖杯が選んだ人間かもしれませんな」
すばやい情報整理に、言峰はゆっくりと拍手を送る。
零は決して頭がいいほうとは言えない、むしろ先生なのに悪いほうだ。しかし彼女は『非常事態時』にも冷静で、誰よりも頭が切れる。
「じゃあ、令呪を使い切ったら?」
「まって、それは───」
士郎の質問に、遠坂は待ったをかけようとするが、言峰は遠坂をむしし、令呪を使い切った時、どうなるかを口にする。
「ふむ、確かにそれならマスターからの責務からは解放されるな。もっとも、強力な魔術を行える令呪を無駄に使うなどという魔術師がいるとは思えんが、いたとしたらそいつは半人前どころか、ただの腑抜けということだろう?」
小ばかにしやがる、この男。明らかに士郎をあおっている。
「…………」
おそらく、何を言っても無駄だ、士郎はこの男の話をのむしかない。
癪だが、零はそう思ってしまった。
──────
────
─
「…ご婦人」
「……?」
士郎が聖杯戦争に参加することを決め、この教会から立ち去ろうとしたその時、言峰が突然話しかけてきた。
「貴女は、今少し厄介な立ち位置にいる。ご婦人が聖杯戦争の被害者にならないことを、私は心から願うよ」
「……どーも」
零は言峰に一礼をし、教会を出る。まだあの男を完全に信頼したわけではないが、自分の生徒の士郎と遠坂がいるのだ。
「待たせたね」
零はそういいながら待たせてしまったセイバーの頭をよしよしと子供のようになでる。
「…………」
無反応、せんせーかなし。
「行きましょう」
遠坂の言葉にうなずき、士郎と零はゆっくりと歩を進める。そして歩いてるさなか、士郎は何か引っかかるように遠坂に聞く。
「そういえ遠坂。あいつ、監督役なんて言ってたけど、お前のサーヴァントを知ってるのか」
ああ……。そういえばそんなこと言ってたな。どうせそれは建前上の話で、たぶん横取りしそうな気もしなくはないが……。
「知らないはずよ、わたし、教えてないもの」
零にとっては想像通りの答えが返ってきた。
言峰の口ぶりからして、遠坂は毛嫌いして言峰のもとにほとんどあっていない。
おそらく、遠坂も言峰のことを信用してはいないのだろう。
「………あのね衛宮君。忠告しておくけど、自分のサーヴァントの正体は誰にも教えちゃだめよ。たとえ信用できる相手でも黙っておきなさい」
そんなことを言っているが、やっぱりこの子は優しい。そんなことは教師である零がよくわかっている。
心配してくれているのだ。
「零先生も、できる限り外出は控えて下さい。あなたはただの部外者なんですから」
「……ん」
彼女の優しい言葉に、零は笑みをこぼしてうなずく。
「ま、衛宮君はあれだから、いっそ知らないほうが良いかもね」
「なんでさ」
顔をしかめる士郎に、少し零は苦笑いをする。
「零さん…なんでわらってんですか?」
「士郎、隠し事苦手でしょ?ならむしろ深くは遠坂さんから聞かないほうが良いかも」
「俺、普通に駆け引きくらいはできるつもりなんだが……」
「そういうのは先生にポーカーで一回でも勝ってから言うんだね」
「ぐぬぬ…………」
そんな二人の会話をよそに見て、遠坂に少し笑顔が戻る。
やはり、この子の笑顔はとてもきれいな顔だ。
「……ここでお別れね」
道路の交差点、ちょうど分かれるところで遠坂はそういった。
「これ以上一緒にいると何かと面倒でしょ。きっぱり分かれて、明日からは敵同士にならないと」
これ以上いると面倒……か。確かにそうだ。何はともあれ、士郎と遠坂は戦わなければならない。
肩入れしてしまっては、やりずらくなる。
何となく。私にはその気持ちがわかってしまう。
「……ありがと、遠坂さん」
「……零先生?」
突然感謝され、遠坂は目が点になる。
「貴女は、本当にまじめで優しい子。ほんとに、私の自慢の生徒だよ」
「……………どうも」
遠坂は軽く返し、そっぽを向く、その頬は少し赤くなっている気がする。
ちょっと素直じゃないところも、彼女の良いところだ。
「ねえ、お話は終わり?」
「っ!?」
突然の殺気、零は反射的に遠坂と士郎を守るように手を広げる。
一方セイバーも気づいたらしい。おそらく剣を構えている。覇気でわかる。
「こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」
「……バーサーカー」
そこにいたのは、白い髪のロングヘアーにふわふわな帽子と服を被っている10代くらいの女の子だった。
そして、その横には人間とも思えない黒い巨大な化け物が大きな武器を持って少女の後ろに立っている。
……やばい。そう本能で零は感じる。
どうにかにげなきゃ……!
「士郎。下がってて」
零は士郎に下がるように手で指示する。
見るだけでわかる。あいつはやばい。
「初めまして、リン。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン…っていえばわかるでしょ?」
「………アインツベルン」
どこかの一族の家系か?おそらく魔術師の家系なのだろう。そして、この隣にいる化け物はこの少女が呼び出した。
「へんなおねーさんいるけど…。まっいいや。やっちゃえ♪バーサーカー」
「っ!?」
刹那─────
少女にバーサーカーと言われた怪物は力強くアスファルトを踏みつけ、そのまま高々と跳躍をする。
「下がって!!」
すかさず、セイバーが着ていたローブを脱ぎ捨て、落下してくるバーサーカーと直撃する。
その瞬間、轟音とともに砂煙が充満し、零は思わず一度目を手で隠す。
「セイバー!」
零が声を上げると、そこにはバーサーカーとかち合っているセイバーの姿があった。
体格差は2倍くらいありそうなのに、どれだけの力を彼女は秘めているのだろうか。
「くそっ………!」
「零さん!?」
「零先生っっ!」
零は我慢できず、一目散に突っ走る、手ごろなパイプを広い。バーサーカーの頭をめがけて振りかぶる。
「いいいいいぃぃぃやぁぁぁぁああああああ────っ!!!」
ガンっ!!
しかし、そのパイプは鈍い音しか出ず、まったく効いていない様子だった。
それでも関係ない、バーサーカーの体に向けて、何度も何度も何度も何度もパイプをぶつける。
「この…化け物───っっ!!!」
「あはははっ!駄目だよおねーさん。おねーさんじゃバーサーカーに傷一つ付けることもできない」
そんな零が心底面白うかのようにイリヤは笑う。しかしそんなこと、零にとってはどうでもいい。
「下がってください!邪魔です!」
「下がらない!!!」
セイバーに怒鳴られるが、それでも何のその、パイプで応戦する。零の手はもう血だらけになるほどパイプを振り回している。
「私は…!たとえ化け物が相手でも…!年頃の子を見捨てる理由にはならないっっっ!!!」
彼女は、彼女も覚えていない記憶の中、何度も助けられた。
自分が『コピー人間』でも。愛を教えてくれた人たちがいる。
その瞬間、ポケットの愚者と女帝が光っているような気がした。
「────」
「ぐぁっ!!!!」
しかし、その抵抗もむなしく、バーサーカーによって近くの電灯にぶつかる。
「ぐ……ぁ………」
全身に痛みが走る…このまま倒れてしまいたい。
このまま……
『俺の生徒に…手ぇ出すんじゃねえよ!!!』
「─────っ!」
一瞬………
そうだ…、私は自分のために戦ってるわけでも、聖杯のためでもない。
生徒を守るために戦う。ただそれだけの………『人形』だった。
「あれ。まだ立てるの?おねーさん、もうやめといたほうが良いと思うけどなー」
そんなイリヤの言葉も何のその、零は不敵に笑う。
「そ……、どうでもいい。私。いつも通り突っ込むだけだから」
「零さん!」
「だいじょーぶ、士郎。私…リィエル=レイフォードに任せて」
零は…、いや。リィエル=レイフォードは、士郎に微笑みを見せると、得意技の詠唱を開始する。
彼女にしか使えない、上級魔術。常人が見様見真似でやったら確実に廃人になることお墨付きの彼女の
万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を