グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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遅れてすみません。

本作の展開への参考も兼ねて、ビースト覚醒を4回鑑賞してました(笑)だって最高過ぎたもん!!!
どのキャラも今まで以上に魅力的でしたが、個人的にはスカージがどハマりしました。スタジオシリーズも即売り切れとなるだけあります。
また、ロボセンでG1グリムロックも年内に発売予定で、それも購入しちゃいました。財布が…(涙)

今回のタイトルは読んだ事のある人なら分かる『ニンジャスレイヤー』のあるキャラの初登場時のキャッチコピーが元ネタです。当初はG1の迷言「どいつもこいつも裏切者ばっかりだ」にしようかと悩みましたが、初登場のキャラに合わせこちらに変更しました。



エヒトをも恐れぬ悪魔の所業

 時間は少し戻り、ちょうど、リリアーナ達が王宮内に到着した頃。

 

チュドドドドド!!!

 

ドカァァァァン!!!

 

「ッ!?一体なにっ!?」

「雫ちゃん!?」

 

 ロケット花火を発射したような音に続き、凄まじい爆発音が響き渡り、自室で就寝中だった雫は、シーツを跳ね除けて枕元の刀剣を手に取ると一瞬で臨戦態勢を取った。対する香織も、臨戦態勢ではないが、素早く起き上がり警戒を露わにする

 明らかに、普段から気を休めず警戒し続けている者達の動きだ。

 

「「……」」

 

 しばらくの間、抜刀態勢で険しい表情をしながら息を潜めていた雫だったが、室内に異常がないと分かると、香織とともに僅かに安堵の吐息を漏らした。二人がここまで警戒心を強めているのは、ここ数日、顔を合わせることの出来ないリリアーナ、愛子、優香の事が引っかかっているからだ。

 少し前から、王宮内に漂う違和感には気がついていた。あの日、愛子が帰還した日に、夕食時に重要な話があるといって別れたきり三人の姿が見えない事で、彼女たちの身に何か良くない事が起きているのではとも疑っていた。

 当然、二人の行方を探し、イシュタルから愛子達は総本山で異端審問について協議しているというもっともらしい話を聞き出したのだが、直接会わせてもらうことは出来なかった。なお食い下がった雫だったが数日後には戻ってくると言われ、またリリアーナの父で国王でもあるエリヒドにも心配するなと言われれば、渋々ではあるが一先ず引き下がるしかなかった。しかしホルアドの悲劇から、漠然とした不安感は消えず、今のように、どこぞのスパイのような警戒心溢れる就寝をしていたのである。

 雫は音もなくベッドから降りると、香織とともに数秒で装備を整えて慎重に部屋の外へ出た。廊下に異常がないことを確かめると、直ぐに向かいの光輝達の部屋をノックした。

 扉はすぐに開き、光輝が姿を見せた。部屋の奥には龍太郎もいて既に起きているようだ。どうやら、先程の大音響で雫達と同じく目が覚めたらしい。

 

「光輝、あなた、もうちょっと警戒しなさいよ。いきなり扉開けるとか……誰何するくらい手間じゃないでしょ?」

 

 何の警戒心もなく普通に扉を開けた光輝に眉を潜めて注意する雫。それに対して光輝は、キョトンとした表情だ。破砕音は聞こえていたが、王宮内の、それも直ぐ外の廊下に危機があるかもしれないとは考えつかなかったらしい。

 まだ、完全に覚醒していないというのもあるかもしれないが、この二人、雫が王宮内の違和感や愛子達のことで「何かがおかしい、警戒するべきだ」とここ数日は忠告をし続けていたのだが、考えすぎだろうと余り真剣に受け取っていなかった。ホルアドでの一件にちっとも懲りていなかったのだろう。

 

「そんな事より雫、香織。さっきのは何だ?何か割れたような音だったけど……」

「…分からないよ。とにかく、皆を起こして情報を貰いに行こう。何だか、嫌な予感がするよ…」

 

 香織がそう言ってる間に、雫は踵を返して他のクラスメイト達の部屋を片っ端から叩いていった。ほとんどの生徒が、先程の爆発音で起きていたらしく集合は速やかに行われた。不安そうに、あるいは突然の睡眠妨害に迷惑そうにしながら廊下に出てきた全生徒に光輝が声を張り上げてまとめる。

 と、その時、雫と懇意にしている侍女の一人が駆け込んで来た。彼女は、家が騎士の家系で剣術を嗜んでおり、その繋がりで雫と親しくなったのだ。

 

「雫様…」

「ニア!」

 

 ニアと呼ばれた侍女は、どこか機械的な表情で雫の傍に歩み寄る。いつもの凛とした雰囲気に影が差しているような、そんな違和感を覚えて眉を寄せる雫だったが、ニアからもたらされた情報に度肝を抜かれ、その違和感も吹き飛んでしまった。

 

「大結界が一つ破られました」

「…なんですって?」

 

 思わず聞き返した雫に、ニアは淡々と事実を告げる。

 

「魔人族と、その同盟軍の侵攻です。大軍が王都近郊に展開されており、彼等の攻撃により大結界が破られました」

「…そんな、一体どうやって…」

 

 もたらされた情報が余りに現実離れしており、流石の雫も冷静さを僅かばかり失って呆然としてしまう。

 それは、他のクラスメイト達も同じだったようで、ざわざわと喧騒が広がった。魔人族の大軍が、誰にも見咎められずに王都まで侵攻するなど有り得ない上に、大結界が破られるというのも信じ難いのだから、冷静でいられないのも仕方ない。

 

「…大結界は第一障壁だけかい?」

「はい。今のところは、ですが、第一障壁は一撃で破られました。全て突破されるのも時間の問題かと…」

 

 そんな中、険しい表情をした光輝がニアに尋ねる。王都を守護する大結界は三枚で構成されており、外から第一、第二、第三障壁と呼び、内側の第三障壁が展開規模も小さい分もっとも堅牢な障壁となっている。

 ニアの回答に、光輝は頷くと自分達の方から討って出ようと提案したが、その言葉に決然とした表情を見せたのは雫、香織、龍太郎、鈴だけだ。他のクラスメイトは目を逸らすだけで暗い表情をしている。

 何せどいつもこいつも、前線に立つ意欲を失った連中ばかりだ。愛ちゃん親衛隊の五人と遠藤はまだ戦えるかもしれないが、ニアから「同盟軍」も来ているという話を聞いて戦慄している。間違いなく、ディセプティコンとかいうロボット軍団だろう。

 

「…こんな時、灘っちがいてくれたら…」

 

 ふと、宮崎がそう呟く。それを聞いて、他の愛ちゃん親衛隊の面々や遠藤も、同じ気持ちなのか俯いている。完全に和解出来たわけではないので、こんな事願うのは烏滸がましいというのは彼らも分かっているのだが、ディセプティコン達を難なく蹴散らして来たあの勇姿を目にすれば、この場に亮牙がいない事が残念でならなかった。

 

「宮崎さん。この場にいない奴なんかの話をしたって仕方ないだろう?灘なんかいなくたって、俺達ならやれる筈だ。不安なら皆は王都の人達の避難に専念して、戦闘は俺達だけでも…」

 

 だが亮牙の名前を聞いた事で、光輝はムッとなり、より一層心を滾らせる。そんな中、意外な人物、中村恵里が待ったをかけた。

 

「待って、光輝くん。勝手に戦うより、早くホセさん達と合流するべきだと思う」

「恵里……だけど」

「ニアさん、大軍って、どれくらいかわかりますか?」

「…ざっとですが十万ほどかと」

 

 その数に、生徒達は息を呑む。

 

「光輝くん。とても私達だけじゃ抑えきれないよ。…数には数で対抗しないと。私達は普通の人より強いから、一番必要な時に必要な場所にいるべきだと思う。それには、ホセさん達ときちんと連携をとって動くべきじゃないかな…」

 

 大人しい眼鏡っ子の恵里らしく控えめな言い方ではあるが、瞳に宿る光の強さは光輝達にも決して引けを取らない。そして、その意見ももっともなものだった。

 

「うん、鈴もエリリンに賛成かな。さっすが鈴のエリリンだよ!眼鏡は伊達じゃないね!」

「眼鏡は関係ないよぉ……鈴ぅ」

「ふふ、私も恵里ちゃんにに賛成だね」

「そうね。私も少し、冷静さを欠いていたみたい。光輝は?」

 

 女子四人の意見に、光輝は逡巡する。しかし、普段は大人しく一歩引いて物事を見ている恵里の判断を、光輝は結構信頼している事もあり、結局、恵里の言う通り騎士団や兵団と合流することにした。

 光輝達は、出動時における兵や騎士達の集合場所に向けて走り出した。すぐ傍の三日月のように裂けた笑みには気づかずに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光輝達が、緊急時に指定されている屋外の集合場所に訪れたとき、既にそこには多くの兵士と騎士が整然と並び、前の壇上にはハイリヒ王国騎士団副団長のホセ・ランカイドが声高に状況説明を行っているところだった。月光を浴びながら整列する兵士達は皆、金属製のフルアーマーを身に纏った重武装ぶりだ。

 と、広場に入ってきた光輝達に気がついたホセが言葉を止めて光輝達を手招きする。

 

「…よく来てくれた。状況は理解しているか?」

「はい、ニアから聞きました」

「さぁ、我らの中心へ。勇者が我らのリーダーなのだから…」

 

 ホセは、そう言って光輝達を整列する兵士達の中央へ案内した。居残り組のクラスメイトが「えっ? 俺達も?」といった風に戸惑った様子を見せたが、無言の兵達がひしめく場所で何か言い出せるはずもなく流されるままに光輝達について行った。

 顔が兜で隠れ、全く表情の読めない周囲の兵士、騎士達の様子に、雫の中の違和感が膨れ上がっていく。それは、起きた時からずっと感じている嫌な予感と相まって、雫の心を騒がせた。無意識の内に、剣を握る手に力が入る。

 そして光輝達が、ちょうど周囲の全てを兵士と騎士に囲まれたとき、ホセが演説を再開した。

 

「みな、状況は切迫している。しかし、恐れることは何もない。我々に敵はない。我々に敗北はない。死が我々を襲うことなど有りはしないのだ。さぁ、みな、我らが勇者を歓迎しよう。今日、この日のために我々は存在するのだ」

 

 ホセがそう告げた次の瞬間……

 

 

 

 

 

「「「「「ザッケンナコラー!!!」」」」」

 

チュドドドドドドドドッ!!!

 

「「「「「ぎゃあああああ〜ッ!!?」」」」」

 

 ヤクザ染みた罵声が響き渡り、次いで機関銃の発砲音、そして最後に苦痛による悲鳴が上がった。そして、その直後に、ドサドサと人が倒れる音が無数に聞こえ始める。

 雫も例外ではなかった。広場に入ってからずっと最大限に警戒しており、ホセの演説もどこか違和感を感じていたのだが、まさか機関銃で銃撃されるなど予想もつかないだろう。とは言え、僅かな弾丸が片腕を掠めただけで済んだのは鍛錬の賜物だろう。

 漸くハッとなり周囲を見渡すと、他のクラスメイト達が全員、倒れ伏す姿が目に映る。誰もが血を流して倒れており、まさか全員殺されたのかと最悪の想像がよぎるが、皆、苦悶の声を上げながらも辛うじて生きているようだ。

 そのことに僅かに安心しながらも、予断を許さない状況に険しい視線を周囲の兵士達に向ける雫だったが、その目に信じられない光景が映り込み思わず硬直する。

 なんと、自分達を銃撃したのは、自分達を囲むように整列した兵士達だったのだ。但し、その手に機関銃は握られていない。腕そのものが銃へと変形しているのだ。まるでディセプティコン達と同じように。

 

「…ったく、少しは手加減しろよ!危うく僕まで蜂の巣だったじゃないか!!?」

 

「「「「「ドーモ、スミマセン!!!」」」」」

 

「えっ…?」

 

 更に、瀕死状態のクラスメイト達が倒れ伏す中、たった一人だけ平然と立っている生徒がいたのだ。その生徒は、普段とはまるで異なる攻撃的な声音で兵士達に怒鳴り散らす。対する兵士達は、息もピッタリ揃った状態で、綺麗なお辞儀をしながら謝罪している。

 その生徒の雰囲気が余りにも変わっているため、雫は言葉を詰まらせつつ反射的に疑問を投げ掛けようとした。だがその瞬間、雫の背後から一人の騎士がメイスを振り下ろして来た。

 

「テメッコラー!」

「くっ!?」

 

 よく知る相手の豹変に動揺しつつも、やはり辛うじてかわす雫に、その生徒は呆れたような視線を向ける。

 

「これも避けるとか…ホント、雫って面倒だよね?」

「何を言ってッ!」

「チェラッコラー!」

「シネッコラー!」

「ドグサレッガー!」

 

 更に激しく、そして他の兵士や騎士も加わり、囲んで棒で叩くかの如く振り下ろされるメイス。それらも全て凌ぐ雫だったが、突然、自分の名が叫ばれてそちらに視線を向ける。

 

「雫様!助けて…」

「ニア!」

 

 そこには、騎士に押し倒され踏みつけられた状態から、今まさにメイスを振り下ろされようとしているニアの姿があった。雫は咄嗟に「無拍子」からの高速移動で兵士達の攻撃をかいくぐり一瞬でニアのもとへ到達すると、彼女を撲殺しようとした騎士に鞘を叩きつけてニアの傍から吹き飛ばした。

 

「ニア、無事?」

「雫様…」

 

 倒れ込んでいるニアを支え起こしながら、周囲に警戒の眼差しを向ける雫の名を、ニアはポツリと呟き両手を回して縋りつく。

 そして…

 

 

 

 

 

「ウグェエエエエッ〜!」

 

「あぐっ!?」

 

 口からカメレオンの如く舌を伸ばして、雫の首を締め上げたのだ。まるで鎖で首を締め上げられているようで、雫は顔を歪めながら信じられないといった表情で、自分に抱きつくニアを見下ろすと戦慄した。

 そこにいたのは、普段の親しみのこもった眼差しや快活な表情を見せるニアではなかった。機械のように青く光る目で雫を見返すその顔は、肌が裂けて金属製の素顔を覗かせていたのだ。

 雫は、そこでようやく気がついた。最初は、ニアの様子がおかしい原因は王都侵攻のせいだろうと思っていたのだが、そうではなかった。彼女も兵士達も、明らかに本人達ではない。別の何かに入れ替わっていたのだ。

 ニアの偽者、プリテンダーはそのまま雫の首を締め上げていた舌を、身体へと巻きつけ、地面に押さえつけて拘束する。その頃には人間への擬態は解け、グロテスクな外見の金属生命体へと姿を戻していた。

 

「アハハハ、流石の雫でも、まさかその子に裏切られるとは思わなかった?うんうん、そうだろうね?だから、わざわざ成り代わって貰ったんだし?」

 

 全身を締め上げられる痛みと、油臭い粘着質な舌の不愉快な感触、そして頬に感じる地面の冷たさに歯を食いしばりながら、雫は認めたくはないが、この惨状を作り出したであろう、今もニヤニヤと普段では考えられない嫌らしい笑みを浮かべる親友の名を呼んだ。

 

「どういうこと…なの……恵里」

 

 そう、その人物は、控えめで大人しく、気配り上手で心優しい、雫達と苦楽を共にしてきた親友の一人、中村恵里その人だった。

 重傷を負いながらも、直ぐには死なないような場所を狙われたらしく苦悶の表情を浮かべて生きながらえている生徒達も、コツコツと足音を立てながら兵士達の間を悠然と歩く恵里を呆然とした表情で見つめている。

 恵里は、雫の途切れがちな質問には答えずに、眼鏡を外すと、何がおかしいのかニヤニヤと笑いながら光輝の方へ歩み寄った。

 

「え、恵里…っ…一体…ぐっ…どうし「アッコラー!ヴォラッケラー!」ぐわっ…!?」

「っておい!勝手な事するんじゃないよ!」

「テメセッゾコラー!スッゾオラー!」

「お前の方が五月蝿いよ!ったく、これなら僕の戦力の方が使いやすかったよ…」

 

 雫達幼馴染ほどではないが、極々親しい友人で仲間の一人である恵里の余りの雰囲気の違いに、体を貫く剣の痛みに堪えながら必死に疑問をぶつける光輝だが、側に立っていた兵士に顔面を蹴り飛ばされる。慌てて恵里が止めるが、何故か罵声で返答され、呆れたように溜息を吐く。

 

「あちゃあ〜、こんな状態じゃあキスなんて出来ないか~」

「は?な、何を言って「ワメッコラー!」ぐふっ!?」

「だから止めろっつてんだろ!」

 

 顔を蹴られたことで鼻や口が切れ、血塗れになった光輝の顔を見て、そんな事を言い出しながら溜息を吐く恵里。光輝はわけがわからず必死に振りほどこうとするが、数人がかりで押さえつけられている上に、また別の兵士から罵声とともに頭を踏みつけられて無理矢理黙らされてしまう。

 恵里は仕方ないと言わんばかりに溜息を吐くと、倒れ伏して血を流す生徒達を睥睨した。苦悶の表情や呆然とした表情が並んでいる。そんな光景に満足気に頷くと、最後に雫に視線を定めて笑みを浮かべた。

 

「とまぁ、こういう事だよ。雫」

「っ…どういう…「ソマシャッテコラー!」こふっ!?」

 

 わけがわからないといった表情で、恵里を睨みつけた雫だが、近くにいた兵士に蹴り飛ばされる。それを見た恵里は物分りが悪いなぁと言いたげな表情で頭を振ると、まるで幼子にものの道理を教えるように語りだしだ。

 

「うーん、まあこれだけじゃ分かりづらいかな?僕はね、ずっと光輝くんが欲しかったんだ。だから、そのために必要な事をした。それだけの事だよ?」

「……光輝が好きなら…告白でもすれば…こんな事…」

「ダメだよ、ダメ、ダ~メ。告白なんてダメ。光輝くんは優しいから特別を作れないんだ。周りに何の価値もないゴミしかいなくても、優しすぎて放っておけないんだ。だから、僕だけの光輝くんにするためには、僕が頑張ってゴミ掃除をしないといけないんだよ」

 

 ニヤつきながらそんな事もわからないの?と小馬鹿にするようにやれやれと肩を竦める恵里。ゴミ呼ばわりされても、余りの豹変ぶりに驚きすぎて怒りも湧いてこない。一人称まで変わっており、正直、雫には目の前にいる少女が初対面にしか見えなかった。

 

「ふふ、異世界に来れてよかったよ。日本じゃ、ゴミ掃除するのは本当に大変だし、住みにくいったらなかったよ。もちろん、このまま戦争に勝って日本に帰るなんて認めない。光輝くんは、ここで僕と二人、ず~とずぅ~~と暮らすんだから」

 

 クスクスと笑いながらそう語る恵里に、雫は、まさかと思いながら、ふと頭をよぎった推測を口からこぼす。

 

「…まさか…っ…大結界が簡単に…破られたのは……」

「アハハ、気がついた? そう、僕だよ。彼等を使って大結界のアーティファクトを壊してもらったんだ。管理をしていた王国お抱えの錬成師どもを皆殺しにしてね」

 

 雫の最悪の推測は当たっていたらしい。魔人族が、王都近郊まで侵攻できた理由までは思い至らなかったが、大結界が簡単に破られたのは、恵里の仕業だったようだ。恵里の視線が、彼女の傍らに佇む騎士や兵士達を面白げに見ている事から、彼等にやらせたのだろう。

 

「君達を殺しちゃったら、もう王国にいられないし…。だからね、魔人族とコンタクトをとって、王都への手引きと異世界人の殺害、お人形にした騎士団の献上を材料に魔人領に入れてもらって、僕と光輝くんだけ放っておいてもらうことにしたんだぁ」

「馬鹿な…魔人族と連絡なんて…」

 

 光輝が信じられないと言った表情で呟く。恵里は自分達とずっと一緒に王宮で鍛錬していたのだ。大結界の中に魔人族が入れない以上、コンタクトを取るなんて不可能だと、恵里を信じたい気持ちから拙い反論をする。

 しかし、恵里はそんな希望をあっさり打ち砕く。

 

「オルクス大迷宮での事件、流石に肝が冷えたね。魔人族側にあんな同盟がいたなんて思いもしなかったしさぁ…危うく死ぬところだったよ…おまけに手伝ってくれてた檜山も向こうに奪われた挙句死んじゃうしさぁ…。どうしようか焦っていた時にショックウェーブ、あのザ○もどきが手駒にしてやろうかって持ちかけて来たから、それに乗っかったのさ」

 

 オルクスとホルアドに甚大な被害を齎した、あのショックウェーブと取引していたという恵里の話を聞き、雫が唯でさえ血の気を失って青白い顔を更に青ざめさせた。雫達を包囲する兵士や騎士が腕を機関銃に変形させた事、そして、自分を抑えるニアに似た何かを見れば最悪の結論に至った。

 

「まさか…彼等は…王国の人達じゃなくて…」

「もっちろん、奴らディセプティコンの兵士だよ~。アハハハハハハ!ち・な・み・に〜、そいつらはみんなのよ〜く知ってる顔だよ〜。お〜い!素顔を見せてやりなよ〜!」

「「「「「アッハイ」」」」」

 

 恵里がそう告げると、兵士達は揃って応答すると、兜に隠された素顔を晒す。但し兜を脱いだわけではない。亮牙が変身するかの如く、ギゴガゴゴと音を立てながら、兜とともに全身を覆う甲冑も折り畳まれて、全身が露わになる。

 やがて全身を晒した兵士達の姿をみて、雫達は息を呑んだ。

 

 

 

 

 

「メ…メルドさん…!!?」

 

「いやいや、正確にはメルド本人じゃないよ〜」

 

 そう、兵士達の素顔は、メルドと全く同じ顔だったのだ。但し、有機的なのは顔だけであり、その他の身体はターミネーターの如く機械化し、目元はバイザーが装備されている。数百人の兵士全員が同様の姿をしているのだから、雫達が言葉を失うのも無理はない。

 驚愕のあまり声も出ないクラスメイトたちを嘲笑うかの如く、恵里はその無数のメルド達についての説明を始める。

 

「オルクスでディセプティコンの一人が『地獄へ堕ちた』とか言ったから、死んじゃったと思ってた?実際はショックウェーブが捕虜にして、新戦力を生み出す為の材料にしてたのさ。その研究の末に生まれたのがこの『ファクシミリ』!言うなればサイボーグ化されたクローン兵士さ」

 

 そう説明を続ける恵里は、まるで自分の研究成果というわけではないのに得意げだ。メルドの事も傀儡兵にする予定だったが、ディセプティコン達が先んじて捕らえた結果、当初の予定以上の成果となったので、調子に乗らずにはいられないのだ。

 なお、正史なら自らの降霊術でゾンビ化させた兵士達にやらせている筈だったが、それらのうちこの場にいるのはホセだけだ。残る全てはショックウェーブが実験材料として欲しいと言ったので、数も正史より集まっていなかった事もあり、早々に引き渡していたのだ。その見返りにこのファクシミリ達を手に入れ、彼らの擬態能力を使い王宮の兵士達に成り代わらせていたのだ。

 

「全く、国王まで側近達が敵に成り代わってるのをスルーしてくれたんだから凄いよね?代わりに危ない薬でもキメてる人みたいになってたけど。まぁ、そのおかげで一気に計画を早める事ができたんだ。くふふ、大丈夫!皆の死は無駄にしないから。ちゃ~んとショックウェーブが、檜山の時みたく再利用してくれるらしいからね!」

 

 ちなみに、恵里が即座にクラスメイト達を殺さなかったのは、ショックウェーブが実験動物を欲しがっているのを聞いたため、光輝以外の全員を引き渡してやろうと考えたからだ。

 

「ぐぅ…止めるんだ…恵里!敵に寝返るなんて、俺は…」

「僕を許さない?アハハ、そう言うと思ったよ。光輝くんは優しいからね。それに、ゴミは掃除してもいくらでも出てくるし……だから、光輝くんもちゃんと『縛魂』して、僕だけの光輝くんにしてあげるからね?他の誰も見ない、僕だけを見つめて、僕の望んだ通りの言葉をくれる!僕だけの光輝くん!あぁ、あぁ!想像するだけでイってしまいそうだよ!」

 

 恍惚とした表情で自分を抱きしめながら身悶える恵里。そこに、穏やかで気配り上手な図書委員の女の子の面影は皆無だった。クラスメイト達は思う。彼女は狂っていると。〝縛魂〟は、降霊術よりも死者の使い勝手を良くしただけで術者の傀儡、人形であることに変わりはない。それが分かっていて、なお、そんな光輝を望むなど正気とは思えなかった。

 

「嘘だ……嘘だよ!ぅ…エリリンが、恵里が…っ…こんなことするわけない!……きっと…何か…そう…操られているだけなんだよ!っ…目を覚まして恵里!」

 

 恵里の親友である鈴が痛みに表情を歪め苦痛に喘ぎながらも声を張り上げた。その手は、恵里のもとへ行こうとでもしているかのように地面をガリガリと引っ掻いている。恵里は、鈴の自分を信じる言葉とその真っ直ぐな眼差しにニッコリと笑みを向けた。そして、おもむろにファクシミリ達に視線を向ける。

 それに応えるかのように、ファクシミリ達は地面に倒れ伏すクラスメイト達の中から、王宮に引き篭もっていた居残り組達を引き摺り出して一箇所に集め始めた。居残り組の連中は嫌な予感でも感じたのか「ひっ」と悲鳴をあげて逃げようとするが、無駄だった。暫く訓練続きだったとは言え。愛ちゃん親衛隊の面々よりも動いていなかったから体力がなく、機関銃で足を撃ち抜かれて立ち上がる事も出来ない。

 ファクシミリ達が居残り組達を一箇所に集めたのを確認すると、恵里は、何をされるのか察して恐怖に震える居残り組達に向かって再び、ニッコリと笑みを向けると、ファクシミリ達に「やれ」と命じる。光輝達が、「よせぇ!」「やめろぉ!」と制止の声を上げるが無駄だった。

 

「「「「「トーリーボーシッ!」」」」」

 

チュドドドドドッ!!!

 

「ぎゃあっ!!?」

「やめっ…」

「ぐぁッ!!?」

 

 意味の分からない罵声とともに機関銃が乱射され、居残り組達の悲鳴が上がる。ひっきりなしに鳴り響く機関銃の音に、やがて悲鳴はかき消されていく。漸く銃撃が終わった頃には、居残り組達は全員、全身から血を流した冷たい肉の塊となっていた。

 変わり果てたクラスメイト達に近づいていった恵里は、その亡骸に手をかざすと今まで誰も聞いたことのない詠唱を呟くように唱える。詠唱が完了し「縛魂」の魔法名を唱え終わったとき、半透明の居残り組達が現れ、それぞれの遺体に重なるように溶け込んでいった。光輝達が固唾を呑む中、蜂の巣にされた居残り組達は、ゆっくりのその身を起こし、ゾンビとなって立ち上がった。

 

「は~い。ゾンビの出来上がり~」

 

 無言無表情で立ち尽くす居残り組達を呆然と見つめるクラスメイト達の間に、恵里の明るい声が響く。たった今、大勢の人を殺した挙句、その死すら弄んだ者とは思えない声音だ。

 

「え、恵里……なんで……」

 

 ショックを受けたように愕然とした表情で疑問をこぼす鈴に、恵里は追い打ちとも言える最悪の語りを聞かせる。

 

「ねぇ、鈴?ありがとね?日本でもこっちでも、光輝くんの傍にいるのに君はとっても便利だったよ?」

「……え?」

「参るよね?光輝くんの傍にいるのは雫と香織って空気が蔓延しちゃってさ。不用意に近づくと、他の女共に目付けられちゃうし……向こうじゃ何の力もなかったから、嵌めたり自滅させたりするのは時間かかるんだよ。その点、鈴の存在はありがたかったよ。馬鹿丸出しで何しても微笑ましく思ってもらえるもんね?光輝くん達の輪に入っても誰も咎めないもの。だから『谷村鈴の親友』っていうポジションは、ホントに便利だったよ。おかげで、向こうでも自然と光輝くんの傍に居られたし、異世界に来ても同じパーティーにも入れたし……うん、ほ~んと鈴って便利だった!だから、ありがと!」

「……あ、う、あ……」

 

 衝撃的な恵里の告白に、鈴の中で何かがガラガラと崩れる音が響いた。親友と築いてきたあらゆるものが、ずっと信じて来たものが、幻想だったと思い知らされた鈴。その瞳から現実逃避でもするように光が消える。

 

「恵里っ!あなたはっ!」

「グギェエエエエッ!」

 

 余りの仕打ち、雫が怒声を上げる。だが、ニアに擬態していたプリテンダーに髪を掴まれ地面に叩きつけられる。しかし、それがどうしたと言わんばかりに、雫の瞳は怒りで燃え上がっていた。

 

「ふふ。怒ってるね?雫のその表情、すごくいいよ。僕ね、君のこと大っ嫌いだったんだ。光輝くんの傍にいるのが当然みたいな顔も、自分が苦労してやっているっていう上から目線も、全部気に食わなかった。まあ、そればっかりはあん畜生と同意見だね…」

「っ…あん畜生…?誰の事よ…?」

「くふっ、気づいてなかったの?まあ、どうでもいっか…」

 

 呆れたようにそう告げると、恵里の視線は今度は香織に向けられる。

香織もまた、致命傷には至っていないものの、ファクシミリの銃撃で負傷し、倒れ伏したところをファクシミリに踏みつけられるかたちで押さえつけられている。

 そんな香織を見て。口元にニヤついた笑みを貼り付けた恵里は、

 

「檜山がお人形にして好きにしたい!っていうから、色々手伝ってもらったお礼に報酬としてあげようかなって思ってたけど、もうあの馬鹿死んじゃったからね〜。で・も〜、大好きな南雲に振られちゃった今となっちゃ、香織も生きてる意味なんかなさそうだし、地獄にいる檜山のもとにでも送ってあげるよ〜!おいお前達、やっちまいな!」

「「「「「ヨロコンデー!チャルワレッケオラー!」」」」」

 

 恵里の号令とともに、ファクシミリ達は腕からメイスを展開し。有無を言わさず地面に倒れた香織を、囲んで棒で叩き出した。

 

「アイエエエエエエエ!」

 

 あまりにも残忍な仕打ちに、香織はなす術もない。無慈悲なファクシミリ達に無様にめった打ちにされ、悲鳴をあげることしかできない。

 

「アハ、苦しい?痛い?案外、君に付き纏われてた南雲もこんな感じで苦しんでたんじゃないかな〜?好きな人と同じ痛みを味わえて幸せでしょ?南雲の奴もこの場にいたら『でかしたぞ』とか言ってくれるかもね〜」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる恵里は、嘲笑うように皮肉を浴びせるが、当の香織は殴られ過ぎて意識が朦朧としている。雫や光輝達は、居残り組達と同じように殺されて傀儡にされる光景を幻視したのか、必死の抵抗を試みる。

 特に光輝の抵抗は激しく、必死に制止の声を張り上げながら、「限界突破」の「覇潰」でも使おうというのか、凄まじい圧力がその体から溢れ出している。しかし完璧な拘束を行うファクシミリ達から、更に殴る蹴るの暴行を受け、どうあっても逃げられず、光輝の表情は絶望に染まっていく。

 

(誰か…誰か助けて…!)

 

 親友が嬲り殺しにされる光景を前にしながら、何も出来ない現状。絶望的な状況に、雫は必死に助けを願う。こんな事願っても無意味な事は理解していたが、願わずにはいられなかった。

 だが今回、奇跡が起きた。

 

ヒュウウウウッ!

 

ドガァァァァッ!

 

「ぐべっ!!?」

 

 突如として、1発の小型ミサイルが突っ込んできたかと思うと、恵里に襲い掛かった。香織が嬲り殺しにされる光景に夢中だった恵里は、避ける事出来ずに顔面に直撃し、爆発に包まれる。

 思わぬ光景に、ファクシミリ達もメイスを振り下ろす手を止めて、ミサイルが発射された方向へと視線を向ける。雫達も「まさか⁉︎」と思いながら必死にそちらへ視線を向けると…

 

 

 

 

 

「パーティに参加していいかな?あいにく招待状は持ってないけど!」

 

 ロケットランチャー片手に、ハジメが騎兵隊の如く立っていた。




〜用語集〜
・ディセプティコン量産兵ファクシミリ
 オルクス大迷宮でディセプティコンの捕虜となったハイリヒ王国騎士団長メルド・ロギンスを素体として、ショックウェーブが新たに生み出した生物兵器。
 メルドの遺伝子をベースに、ショックウェーブが変成魔法と生成魔法を用いて完成させた、機械生命体と有機生命体のハイブリッドであり、クローン技術により量産化されている。有機部分はメルドと同じとなった頭部だけで、身体は機械化しているが、動力機関はダイナボットと同じく、有機物を食べる事で燃料へと変換できる。
 テックスペックはオリジナルであるメルドを遥かに凌ぎ、光輝達に充分匹敵するレベル。今回は不意打ちだったが、真っ向から挑んでも充分勝算はあった。武器は腕から展開する機関銃と、普段はロッド上で収納しているメイス。このメイスを武器に集団で敵に襲い掛かり、囲んで棒で叩くかの如く殲滅していく。
 なお、何故かプログラミング障害によるものか、どの個体も共通して片言で独特の罵声を浴びせるように話す。この理由は如何に…?
 名前の由来はIDW版アメコミにてディセプティコンが製造・利用した人造人間ファクシミリから。大まかな設定は『ニンジャスレイヤー』のクローンヤクザを参考としており、タイトルも製造元であるヨロシサン製薬への「ブッダをも恐れぬ悪魔の所業」という評価に由来する。武器をメイスにしたのは『ニンジャスレイヤー』の「囲んで棒で叩く」と、『ゴッドオブウォーラグナロク』のエインヘリアルが元ネタ。





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