自分の住んでいる地域では緊急事態宣言が解除され、仕事がまた忙しくなるため、今後は投稿のペースが遅れるかもしれません。
ですがまだ油断できないため、皆様もお気をつけてください。
翌朝、亮牙達はオルクス大迷宮へと潜った。ここは光を放つ「緑光石」の鉱脈のため、地下でもランタンや松明無しで周囲が視認できる。
まさに王道ダンジョン・ゲームの世界を彷彿とさせる光景に、生徒の大半がはしゃいでいた。亮牙はそんな彼らを、よくもまあハジメの趣味を虚仮にすることが出来たなと、冷めた目で見ていた。
まず一同は訓練した通りの隊列でラットマンという、頭部はネズミのそれだが胴体は筋肉モリモリマッチョマンの変態、とでも形容すべき外見の魔物と戦った。生徒達の誰もがゲーム感覚で、オーバーキルで仕留めていく。
訓練に加わっていなかった亮牙とハジメには訓練したフォーメーションなどないため、メルドは取り敢えず二人で組ませる事にした。
まずはハジメの番だ。彼は錬成で落とし穴を作りラットマンの身動きを封じると、背中に背負っていた筒状の物を袋から取り出した。その取り出された物に生徒達は目を見開き、メルド達騎士団が疑問に思っていると、タァンと破裂音がなり響いた。ラットマンは頭から血を流し、そのまま事切れた。
「銃⁉︎何でこの世界に⁉︎」
「銃?ハジメの使っているあのアーティファクトの事か?」
そう、ハジメが使ったのは銃だ。それも猟師が使うようなライフルに似た物だった。それを見て、思わず雫が亮牙に尋ねた。
「な、灘君。まさかあの銃、南雲君が作ったの?」
「ああそうだ。ハジメの努力の成果だ」
「はは、ありがとう亮牙」
銃を作るというアイデアは亮牙が出した。銃は剣や槍などと違い、使い方さえ覚えれば誰でも使えるという利点がある。錬成士という天職を持つハジメなら作れるのじゃないかと。
そう言われたハジメはガンマンに憧れていた事もあり、早速製作に取り掛かった。しかし流石の彼も細かい構造を理解しているわけではなく、引き金を引くと撃鉄が動き火薬を炸裂させ玉を打ち出すなど、大抵の者が知っている簡単な構造を基としたため、一丁製作するのがやっとだった。
流石にこの原始的な世界では合金技術などなく、弾丸も本物に使う物と違いただの鉄の玉のため、威力は本物に比べ大分劣る。それでも素人ながらにこの「ジャンゴ」を完成させたのは、ハジメの才能と努力の結果である事に間違いはないだろう。
「ま、まあ良い。ほら、次は亮牙だ。援護は必要か?」
「要らん」
そう言って亮牙が前に出た。彼の武器はハジメが作ってくれたハチェットとナイフが一丁ずつだ。王国のアーティファクトにしっくりくる武器がなかったのと、何より亮牙が傀儡国家の骨董品なんぞよりもハジメの腕を信頼していたからだ。
亮牙はゆっくりとラットマンに近づくと、軽くハチェットを振るい、一瞬でラットマンの首を斬り落とした。ラットマンの頭が地面に転がり、切断面から大量に血を吹き出しながら胴体が地面に倒れた。その光景に生徒達の大半がひっと叫び、ベテランの軍人であるメルド達も凍り付く。返り血を浴びながらも亮牙は気にした様子もなく、更に近づいてきた数匹のラットマンを睨みつけ肉食獣のように喉を鳴らす。
「グォルルルル…」
「「「チュウウウウ!!!」」」
まるで普通のネズミが捕食者と出会ったかの如く、ラットマン達は蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出した。亮牙は直ぐに興味を無くすと、自分が仕留めたラットマンの死骸に近づき、ナイフでその腹を切り裂き始めた。メルド達も生徒達も思わずギョッとする。
「お、おい亮牙。何してるんだ?」
「見りゃ分かるだろ。仕留めた獲物を解体してる」
「いや、魔石を取り出すなら、俺達騎士がやるから…」
「俺は遊びで殺したんじゃない。仕留めた奴が責任を持って処理するのが狩りのルールだ」
亮牙はそう言って血塗れになりながらも死骸から魔石を取り出した。その光景に生徒の大半が震え上がっていたが、メルド達騎士団は亮牙が一番命のやり取りを理解出来ていると評価した。彼は兵士として必要な心構えを持っている、参戦してくれないのが残念だと。
一方、ハジメも亮牙のその言葉を聞いて自分が仕留めたラットマンを解体しようとしたが、血で汚れて引金を引くのが滑ると困るだろ、と亮牙が代わりに解体した。だが他の生徒達は騎士達に任せて自分でやろうとは一切しなかった。
騎士団達がフェアスコープというアイテムと長年の経験からトラップを見つけてくれるので、亮牙達はスムーズに進み、現在は二十階層を探索していた。亮牙は最初の戦闘以来、出会す魔物が彼を恐れるかのように逃げ出すので、ハジメと共に後方で待機する事になった。彼らにとっては面倒ごとが減ったので良かったが。
迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるのが普通だ。オルクス大迷宮は現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされていたため、迷う事もトラップに引っかかる心配もないはずだった。
二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形となっていた。この先を進むと二十一階層への階段があり、そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりらしい。神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないそうなので、また地道に帰らなければならない。一行は若干弛緩した空気の中、せり出す壁のために横列を組めず、縦列で進んだ。
すると、先頭を行く光輝達やメルドが立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物を見つけたようだ。
「擬態しているぞ!周りをよく注意しておけ!」
メルドが忠告するが、これも訓練の一環として生徒達だけで見抜かせようとする。
その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始める。カメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。その外見を見て亮牙は、龍太郎の親戚かと本気で思った。
「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!豪腕だぞ!」
メルドの声が響くと共に光輝達が前に出た。飛びかかってきたロックマウントの豪腕をそっくりさんな龍太郎が拳で弾き返し、光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。流石に平地での訓練で洞窟内のフォーメーションを鍛えるにはもっと時間が必要だった。
己と瓜二つな人間の守りを抜けられないと判断したロックマウントは、後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸うと、部屋全体を震動させるような強烈な咆哮『威圧の咆哮』を上げた。
「ぐっ⁉︎」
「うわっ⁉︎」
「きゃあ⁉︎」
これは魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させるというロックマウントの固有魔法だ。ダメージ自体はないものの身体中に衝撃が走り、まんまと喰らった光輝達前衛組は一瞬硬直してしまった。
ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げた。霊長類そっくりな風貌だけあり魔法支援の厄介さを理解する知恵があるらしく、香織達後衛組目掛けてその岩を投げつけた。
避けるスペースが心もとなかったため、後衛組の香織・谷口鈴・中村恵里の三人は準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けるが、衝撃的な光景に思わず硬直してしまった。
投げられた岩もロックマウントだったらしく、腕を広げたのだ。まるで某怪盗3世が同僚兼想い人に迫るかの如く「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえそうで、おまけに妙に目も血走り鼻息も荒く、三人とも思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。
だが空かさずハジメがジャンゴを発砲、ロックマウントは頭を打ち抜かれてそのまま地面に墜落し絶命した。
「白崎さん、谷口さん、中村さん、大丈夫?」
「あ、ありがとう南雲君…」
「た、助かったよ南雲君〜!」
「あ、ありがとう…」
彼女達三人はハジメに感謝しつつも、顔を青くしていた。ゴリラなら龍太郎で見慣れてるはずだが、気持ち悪い動作で寄ってきた挙句、ハジメが撃ち抜いた事で辺りに血が飛び散ったからだ。
そんな様子を見た光輝が、いつもの発作を発動させてしまう。気持ち悪さで青褪めたのを死の恐怖を感じたためだと勘違いしたらしく、その見当違いな怒りに呼応するかのように聖剣も輝き出した。
「貴様、よくも香織達を、許さない!万翔羽ばたき、天へと至れ、『天翔閃』!」
「あっ、こら馬鹿者!」
メルドの声を無視し、光輝は詠唱により強烈な光を纏わせた聖剣を振りかぶると一気に振り下ろし、光の斬撃を放った。斬撃はロックマウントを左右泣き別れに両断するだけには留まらず、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく霧散した。
ふぅと息を吐くと、如何にもキザな笑みを浮かべ香織達の方に向きなおる光輝だが、メルドの拳骨がその頭に直撃した。
「へぶぅ⁉︎」
「この馬鹿者が!気持ちは分かるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうすんだ!」
そう叱られる光輝を含めたクラスメイト達に、亮牙はほとほと呆れ果てていた。どいつもこいつも強くなれたと天狗になって、その力で何れ殺人をするという自覚が全くない。愛子には可哀想だが、遅かれ早かれ誰か死ぬだろう。
「ん、何だありゃ?」
「どうしたの亮牙?あ、確かに何かある。」
クラスメイト達に関心をなくした亮牙は、ハジメと共に気晴らしに周りの景色を見ていると、光輝が壊した場所にやけに綺麗な石を見つけた。その視線に気づいた女子達は吐息を漏らした。
「あれはグランツ鉱石だな。見た目だけは美しく特に何の効力もないが、主にプロポーズに選ばれる宝石だな」
「素敵…」
メルドの説明を聞いた香織がハジメをチラチラ見ながら呑気な事を言い出す。それがいけなかった。それを聞いた檜山が香織の気を引こうと、グランツ鉱石を取るために崩れた壁を登り出したのだ。それをメルドが慌てて止めようとするが、この愚者は聞く耳持たずとうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。
メルドが止めようと追いかけると同時に、騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認し、一気に青褪めた。
「団長!トラップです!」
「ッ⁉︎」
しかし、メルドも騎士団員の警告も一歩遅かった。檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がった。そのトラップは、さながら食虫植物が甘い香りで虫を誘い出すのと同じだった。
魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、亮牙達がこの世界に召喚されたあの日を再現するかのように輝き出した。
「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」
メルドの叫びと共に生徒達が急いで部屋の外に向かい、亮牙は馬鹿諸共グランツ鉱石を破壊するためハチェットを投擲しようとしたが、間に合わなかった。
このトータスに初めて召喚された瞬間の如く、白い光が辺りを覆い浮遊感が彼らを襲い、気づくと巨大な石造りの橋の上に転移していた。ざっと長さ百メートル、天井も二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。
橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだろう。亮牙達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。
それを確認したメルドが、険しい表情をしながら指示を飛ばした。
「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け!急げ!」
雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達だったが、迷宮の罠がこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現しからだ。更に通路側にも魔法陣は出現し、そちらからも一体の巨大な魔物が出現した。
その魔物を呆然と見つめるメルドの呻く様な呟きが、やけに明瞭に響いた。
「まさか、ベヒモス、なのか…⁉︎」
・オリジナル武器「ジャンゴ」
本作でハジメがドンナー&シュラークより先に作った銃。外見は狩猟などに使うライフルに似ているが、まだまだ知識や物資不足もあり、銃弾は普通の鉄の弾を発射するのみとなっている。
完成はしたものの、教会や王国の悪用を恐れたハジメは設計図などを全て破棄し、世話になったウォルペンらにも沈黙を約束させた。
名前はマカロニウエスタン等に登場するジャンゴから。ライフルにしたのはコンボイ司令官のレーザーライフルへのオマージュのつもり。
主人公にハチェット持たせたのは、2018年版のゴッドオブウォーで投げ斧にハマったためです。
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