主人公の戦闘スタイルはアクションゲーム『ゴッドオブウォー』と、原始人と恐竜のコンビを主人公とした海外アニメ『Primal』を参考にしました。
他の作品と比べて見劣りするかもしれませんが、楽しんで読んで頂けると幸いです。
10m級の魔法陣から出現したこの魔物は、地球上の生物で例えるならトリケラトプス等の角竜に似ていた。だがその姿は、赤黒い瞳に炎を放つ角、鋭い牙と爪と、とても植物食とは思えなかった。
その魔物、ベヒモスは大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げ、正気を取り戻したメルドが矢継ぎ早に指示を出した。
「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!俺達も…」
「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!ヤツは六十五階層の魔物、かつて最強と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
鬼気迫る表情を見せたメルドに一瞬怯む光輝だったが、見捨てておけないと踏み止まり、メルドが早く逃がそうとしているうちにベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。そうはさせまいとメルド達は動いた。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず 聖絶!!」」」
四方2m、最高級の紙に描かれた魔法陣と四節の詠唱、さらに三人同時発動、たった一回・一分間しか発動しないが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現した。展開された純白に輝く半球状の障壁にベヒモスが衝突すると凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が砕け散り、石造りの端が激しく揺れた。その揺れと衝撃波に生徒たちは悲鳴を上げて転倒する。
そんな中、亮牙はふとベヒモスの姿に盟友スラッグの事を思い出していた。だが、大きさも迫力も彼の方が遥かに上だ。それでもメルドの話から察するにこんなのでもこの世界では上位の強さなのだろう。クラスメイト共なら簡単に殺される筈だ。
舌打ちをしながらも冷静に周囲を確認した彼は、隣で呆然としていたハジメに指示を出す。
「ハジメ、お前は退路を確保してくれ。出来るか?」
「え⁉︎わ、分かった!でも亮牙は?」
「俺はあの肉の塊を相手にする。悪いが頼むぞ」
そう言って亮牙はハチェットとナイフを手に、ベヒモスの方へと向かい駆け出した。
階段側の橋の入口に出現したトラウムソルジャーは、本来三十八階層に現れる魔物で、生徒達がさっきまで倒してきた魔物とは一線を画す戦闘能力を持っていた。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。
騎士団員が必死に宥めようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はおらず、隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。
その内の一人、園部優香という女子が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。うっ、と呻きながら顔を上げた彼女の眼前には、剣を振りかぶる一体のトラウムソルジャーがいた。
あ、という一言と同時に園部の脳天目掛けて剣が振り下ろされ、彼女が死ぬと感じた次の瞬間、トラウムソルジャーの頭蓋骨がタァンという音と共に砕け散った。ハジメがジャンゴで撃ち抜いたのだ。
「大丈夫⁉︎立てる⁉︎」
「…あ、ありがとう!」
ハジメにそう言われ、園部は慌てて立ち上がった。
こんな時に、いつもリーダー気取りのあの四人は何やってるんだ。ハジメは内心毒付きながらも、トラウムソルジャー達を相手に奮戦した。向こうには亮牙が向かった。親友ならなんとかしてくれるはずだ。
一方、その問題の迷惑カルテットは、後ろのクラスメイト達の状況にも気づかずにいた。メルドが幾ら撤退するよう命じても、光輝が駄々を捏ねるように言うことを聞かなかったためだ。
この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しいため、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだった。その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであり、今の四人に出来るはずもなかった。だが戦闘の素人達にまずは褒めて伸ばしてやろうとしたメルドの方針が裏目に出て、光輝は己の力に過信してしまっていた。
唯一状況を理解出来ていた雫が光輝を諌めようとするも、龍太郎が空気を読まず何時もの腰巾着ぶりを発揮して光輝を更に増長させてしまう。空気の読めない野郎共に雫は苛立ち、香織はただオロオロするだけだ。
次の瞬間、ベヒモスの左目にナイフが突き刺さり悲鳴が上がった。メルド達や迷惑カルテットが後ろを振り向くと、亮牙が走ってきた。彼がベヒモス目掛けて正確無比に投げつけたのだ。
「さっさと他の連中助けに行け。あれは俺が仕留める」
「な、何言ってるんだ灘!ここは君のようなサボリ魔がいていい場所じゃない!ここは俺達に任せて…」
「喧しい疫病神共!死にたくなかったら引っ込んでろ!」
殺気を込めて怒鳴り散らした亮牙は最早彼らには見向きもせず、そのままベヒモスに突進し、左前足目掛けてハチェットを振るった。流石に足を切り落とすことは出来なかったが、骨が砕ける鈍い音が響きベヒモスが再び悲鳴を上げる。
「ッ、任せたぞ亮牙!お前達、撤退するぞ!」
「は、はい!行くわよ皆!」
その悲鳴に呆然としていたメルドと雫がハッとなり、亮牙の怒鳴り声に震え上がっていた三馬鹿トリオを促して撤退した。
今のベヒモスは足の一本が折れて動けない。敵わないと思われたが、この少年なら何とか出来るかもしれない。歴戦の軍人であるメルドは亮牙に光輝以上の素質を見出しており、ここは彼に賭けてみることにしたのだ。
唯一光輝だけは撤退しながらも、忌々しそうに亮牙を睨みつけていた。
亮牙は素早い動作でベヒモスの頭部に飛び乗ると、1本の角目掛けてハチェットを振り下ろし始めた。ベヒモスは怯えた様子で頭を振るい、頭に熱を溜めてこの捕食者を振り落とそうとするが、彼の手は止まらない。返り血を浴びながらも、何度もハチェットを振り下ろし続けた。
痛みに悶えながらベヒモスは悟った。目の前のこれは人間じゃない、人間の皮を被った
角の根元がグラついてくるのとハチェットの刃が大きく砕けたのは同時だった、亮牙はハチェットを手放して角を掴むと、渾身の力を込めて角をへし折った。バキリという音と共にベヒモスが痛みに悶え悲鳴を上げると、彼を振り落とした。しかし亮牙は怯まず、そのまま角の先端を、最初にナイフを投げて潰したベヒモスの眼窩目掛けて突き刺した。
やっぱり銃は良いな。他の武器より使い易く、威力も高い。この世界に合金技術はないし所詮は素人の作品だから威力などは弱いが、自分でも十分に戦える。アイデアをくれた亮牙に感謝しないと。
迷惑カルテットの遅い登場に漸く平静を取り戻し始めたクラスメイト達につくづく呆れるハジメだったが、今は文句を言ってる場合じゃない。
「クソ、弾が尽きた!」
そう毒付きながらもハジメはジャンゴの先端に装備した銃剣でトラウムソルジャーを倒していく。本来非戦闘職である彼がここまで活躍できるのは、彼自身の努力の賜物であった。
クラスメイト達も前線を押し始めたので親友の安否を確かようと振り向くと、凄まじい悲鳴が聞こえた。
「…嘘でしょ?」
そこには自らの角をへし折られた末に眼窩に突き刺されたベヒモスと、その返り血で真っ赤に染まった亮牙の姿があった。
「グギャアアアアァァァ!」
潰された眼窩に直接角を突き刺されたベヒモスは脳を潰され、断末魔の悲鳴を上げた。脳を潰されたら最後、如何にこの魔物が厄介だろうと死んだも同然だ。
「よくやった亮牙!戻ってこい!お前達、ありったけの魔法を撃て!」
それを見たメルドが透かさず生徒達に命令し、この世界の人間基準で見て強力な部類に入る魔法が、死んだも同然のベヒモスに殺到した。
亮牙からすればもうベヒモスにはとどめを刺したので、余計な事をするなど言いたかったが、今はそんな場合ではない。先程までの戦闘の余波で橋はボロボロになっていた。
「亮牙、走って!」
そうハジメが叫び、亮牙は親友の待つ方へと走り出した。橋は崩れそうだが、まだ十分間に合う。
自分で撒いた種とはいえ本気で恐怖を感じていた檜山は、直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。だがふと脳裏に、昨晩の宿での情景が頭に浮かんだ。
緊張のせいか中々寝付けずにいた檜山は、トイレついでに外の風を浴びに行き、リラックスすると部屋に戻ろうとしたのだが、その途中に痴女同然の格好の香織を見かけたのだ。初めて見る香織の姿に劣情を抱いた檜山は気になってストーカー同然に後をつけると、香織はとある部屋の前で立ち止まりノックをした。その部屋は檜山が忌み嫌うハジメと亮牙の部屋だった。そして、扉からハジメの姿が当たり前のように出て来た。
香織に好意を抱いていた檜山は頭が真っ白になった。自分では彼女とは釣り合わないと思っており、光輝のような相手なら所詮住む世界が違うと諦められたのだが、自分より劣っていると見做しているハジメが、成績が常にトップクラスでも香織に気を使わせ直しもしないキモオタ風情が香織の傍にいるのはおかしいだろ!それなら自分でもいいじゃないか!などと言う身勝手かつ気色悪い考えを本気で持っていた。まあこの世界のハジメならどうぞどうぞとさし出すだろうが。ストーカー同士十分釣り合う気もする。
しかしハジメに当たり散らす事は出来なかった。常に彼の側には亮牙という守護者がおり、ハジメを嬲ろうとしては何度も彼に完膚無きまでに叩きのめされてきた。その度に溜まらせてきた不満は、このストーカー行為の時点で憎悪にまで膨れ上がっていた。それが焦りとなり、香織が見蕩れていたグランツ鉱石を手に入れようとしてしまった。
その時のことを思い出した檜山は、たった一人でベヒモスを圧倒する亮牙の姿に、ふと卑劣な考えを思い付いた。
こいつさえいなくなれば、南雲なんか後で簡単に始末出来る。そうすれば香織は自分の者だ…!
唐突に魔法の一つが亮牙に襲いかかった。別段痛くも何ともない火の玉だったが、明らかにわざと自分に向けられた一撃に、ギロリとクラスメイト達を睨みつけた。それに唯一反応した檜山は、勝ち誇ったかのように醜い笑みを浮かべた。
「クソッタレが!」
その胸糞悪い面を見て毒づく亮牙だが、橋に火球がぶつかり爆発、目の前から崩れ始めた。それでも亮牙は崩れていく瓦礫を駆け抜けた。
だが其の甲斐もなく、遂に橋は完全に崩壊した。それでも彼は常人離れした脚力で落ちてくる瓦礫を足場に掛け上ろうとした。しかし、とうとう間に合わなかった。
「亮牙ぁ!」
ハジメは自身の危険も顧みず飛び出し、亮牙に向かって手を伸ばしたが届かない。香織が必死に止めようとするが、彼には親友を見殺しにする事は出来なかった。ハジメは無我夢中で亮牙の元へ飛び降りた。
亮牙は親友が飛び降りた事に驚きながらも、対岸のクラスメイト達の方へ視線を向けた。あの忌まわしい香織が
「グルオオオオォォォォッ!」
この報復は必ずしてやる。亮牙は怒りの咆哮を上げながら、そのままハジメと共に奈落の底へと落ちていった。
次回、奈落編です。原作崩壊となるかも…。
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