グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

30 / 105
タイトルの「extermination」は絶滅や駆除といった意味です。
今回はタイトルどおりの暴力描写があるため、ご注意下さい。

『最後の騎士王』でも描かれていましたが、実写グリムロックは人間でもケイドやイザベラのように親しい者には敬意を払い守りますが、TRFのように敵対したら容赦しないと思います。


Extermination

 42人にも及ぶ兎人族達を連れて、亮牙達は峡谷を進んでいった。その光景は魔物達にとってはご馳走が並んで歩いてる風景で、普通なら躊躇いなく襲ってくるだろう。

 しかし彼らにとって不運な事に、一行には亮牙という最大の守護者がおり、それは叶わなかった。今はハジメとユエ、シアだけでなく40人以上もの人数でいるため、流石に全員は乗せられないという事もあり、グリムロックから人間態へとなっていたが、魔物達がちょっかいをかけてこないようにと威圧を放っており、魔物達も怯えているのだ。時々、諦め切れず隙をつけないかと覗き込んでくる魔物もいるのだが、そういった愚か者どもはハジメがドンナーとシュラークで殲滅していった。

 亮牙達のその様子に大人達は畏敬の念を抱き、子供達はまるでヒーローを見るかの様な視線を送っていた。

 

「ふふふ、亮牙さん。チビッ子達が見つめていますよ~。手でも振ってあげたらどうですか?」

 

 シアは先程褒められた件が相当嬉しかったのか、「うりうり~」と亮牙を指で突つき、ちょっかいを掛けてくる。亮牙自身は恐れられるのは慣れているが、逆にこういったのには慣れていないので、苦笑しつつも軽く手を挙げて応えた。そこにカムも加わってきた。

 

「はっはっは、シアは随分と亮牙殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて、シアもそんな年頃か…。父様は少し寂しいよ。だが、亮牙殿なら安心か…」

 

 そう呟く彼は、目尻に涙を貯めて娘の門出を祝う父親の表情をしていた。周りの兎人族達もシアの楽しそうな姿に生暖かい眼差しを向けていた。

 

「流石に能天気過ぎる気がするんだが…」

「まあまあ亮牙、にしても隅に置けないねぇ〜」

「ん、まあ亮牙も魅力的。ハジメには敵わないけど…」

 

 ハウリア族の天然ぶりに呆れる亮牙だったが、ハジメやユエも殺伐とした状況よりはマシだと言わんばかりに揶揄ってくる。

 そんな感じで比較的穏やかに峡谷を進んでいた一行の視界に、やがてライセン大峡谷の出口へと辿り着いた。ハジメが「遠見」の技能で見る限り、50mほど進む度に反対側に折り返すタイプの、岸壁に沿って壁を削って作ったらしき立派な階段が見えた。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見え、出口から徒歩で半日くらいの場所が樹海となっているようだ。

 

「あそこみたいだね…」

「…帝国兵はまだいるでしょうか?」

 

 漸く出口に着いたみたいだと、ハジメは安堵の声を出しながら遠くを見ていると、シアがそう不安そうに話しかけてきた。

 亮牙は匂いを嗅ぎ、顔を顰めながら応えた。

 

「残念だが、まだいるな。匂いからして30匹ぐらいか…。あとシア、残念だがお前らの同族の死臭も僅かにする。多分お前が言ってた、捕まった仲間達だろう…」

『ッ⁉︎』

 

 仲間の死臭という不吉な言葉に、シアも他のハウリア族達も悲痛な表情を浮かべた。恐らく自分達を逃すために囮になったり、逃げ遅れた仲間達だろう。奴隷狩りに遭ったら最後、赤子や老人など売れそうにない者は殺される運命だ。

 

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら、亮牙さん達…どうするのですか?」

 

 シアは未だ動揺しつつも、意を決したように尋ねた。周囲の兎人族も聞き耳を立てていた。

 

「…シア、お前、未来が見えたんだろう?」

「はい、見ました。帝国兵と相対する貴方を…」

「それがどうした?」

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと…」

 

 しかしそんな彼女達とは裏腹に、亮牙は何時もと変わらない様子で答えた。

 

「別にどうでもいい」

「えっ?だ、だって、同族じゃないですか…⁉︎」

 

 戸惑った表情で亮牙の肩を掴み問いかけてくるシアだが、亮牙は呆れたような表情になって応える。

 

「連中と生物学的に同族なのはハジメだけだし、俺に至っては有機生命体ですらない。それにお前達だって、同族に迫害されて追放されてるだろうに…」 

「それは、まぁ、そうなんですが…」

「それに連中の狙いが十中八九お前達である以上、どの道争いは避けられん。何より俺たちは樹海探索と、スラッグに会うためにお前達と契約を交わした。今後一生守ってやるわけじゃないが、それまではしっかり筋は通す。今更人間が相手だからって、反故にするつもりはない」

「そ、そうですか…」

 

 そう言いつつも、シアは未だ何処か納得がいかないようだ。そんな彼女を尻目に、亮牙はハジメとユエに指示を出した。

 

「ハジメ、ユエ。上は俺が片付けてくるから、お前達二人は此処でハウリア達を警護しながら待機しててくれ。終わったら大きく吠えるから、そしたら連中を連れて上がって来てくれ」

「「え?」」

 

 その指示にハジメとユエは戸惑った。てっきり自分達も一緒に登っていくと思っていたからだ。

 

「ま、待ってよ亮牙!僕らだって戦えるよ!」

「ん、私達だって、覚悟は決めてる…」

 

 そう抗議する二人だが、亮牙は諭すように反論した。

 

「お前らが強いことも、覚悟を決めていることもしっかり理解してるよ…。だが今回の一件は俺が首を突っ込んだ以上、汚れ仕事は引き受けるつもりだった。それに…」

「それに?」

「お前達は優しい奴らだ。何千万年も戦い続けて血に染まり、殺し慣れている俺とは違う。この先そんな余裕なんざないのは分かってるんだが、出来る限りお前らの手を汚させる真似はさせたくねぇ。お前らを巻き込んでおいて身勝手なのは百も承知なんだがな…」

「亮牙…」

「だから、今回は暫く待っててくれ。直ぐに片付けてくる」

 

 そう言うと、亮牙はグリムロックの姿に戻り、階段から少し離れた岸壁に噛み付いて穴を掘ると、そのまま地上を目指して掘り進んでいった。そんな彼の後ろ姿を、シア達ハウリア族は複雑そうに、ハジメとユエはすまなそうな表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ〜あ…」

「おい、少し気が緩みすぎだぞ」

 

 一方崖の上では、ヘルシャー帝国の兵士30人がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と野営跡が残っており、全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えていた。

 彼らは帝国軍第三連隊隊長グリッド・ハーフの部隊の兵士であり、フェアベルゲンから亡命してきたハウリア族を襲撃し、シア達をライセン大峡谷へと追い詰めた後、逃げ遅れた者達から商品価値のない老人などを始末し、奴隷となりそうな者達は隊長であるグリットが一部の部下と共に祖国へと攫っていった。しかしグリットは珍しい外見だったシアに目をつけており、万が一生き残っていたなら捕えるようにと小隊長をはじめとした30人を残しておいたのだ。

 それから三日経ち、どの兵士も兎人族達は全滅しただろうと考えてた。一人の兵士が退屈そうに欠伸をして、小隊長に嗜められた。

 

「んな事言っても小隊長〜、もう奴らが峡谷に逃げ込んで三日ですよ。あんな雑魚どもが峡谷の魔物に敵うわけないですって。今頃魔物のクソになってますよ」

「そう愚痴るな…。俺だって同じ考えだが、ハーフ隊長はあの白髪の兎人を欲しがってだからな。あと四日程は我慢しろ。流石に一週間もライセン大峡谷に潜って生きていられるはずがねえからな」

「あぁ〜、こんな事ならハーフ隊長が残りゃあ良かったのに…」

「そう腐るなって。帝都に戻りゃあ、娼館ぐらい奢ってやるからよ」

「マジっすかぁ⁉︎ひゃっほ~、流石小隊長!思う存分兎人の女で鬱憤晴らしてやるか〜!」

 

 現代の地球人が聞けば胸糞悪くなる内容の会話だが、これがこのトータスにおいて普通なのだ。創造神エヒトに選ばれたのは人族であり、他種族のうち、特に魔力を持たない亜人族は神から見放された下等生物という認識なのだ。

 特に傭兵国家であるヘルシャー帝国では、大多数の民が傭兵か傭兵業からの成り上がり者で占められ、信仰よりも実益を取りたがる者が多いのだが、使えるものは何でも使う主義故に奴隷売買が非常に盛んでもある。故に正教教会の意向が強く亜人など側にも置きたくないと考えているハイリヒ王国とは違い、亜人族を家畜感覚で奴隷とし、その事に一切の罪悪感などなかった。ある意味、最もエヒトを愉悦させている国家とも言えるだろう。

 そう呑気に雑談していた帝国兵達だったが、彼らが祖国に帰る事は永遠に叶わなくなった。

 

「ヒヒィィン‼︎」

「ん?ど、どうしたんだ?」

 

 突如として待機させていた馬達が騒ぎ出し、兵士達は首を傾げた。馬達はまるで何かに怯えるように、綱を外して逃げ出そうとしていた。確かに峡谷には魔物が多いが、ここまで怯えるのは見たことがない。

 更に地面が揺れた。一瞬地震かと思った小隊長だが、それにしては様子がおかしい気がする。

 

「じ、地鳴り?地震か?」

 

 そう小隊長が叫ぶと同時に、グリムロックが地面を突き破って飛び出してきた。真上にいた五人ほどの兵士が宙高く吹き飛ばされ、そのまま地上へと落下した。五人とも突然の事に受け身など取れるはずもなく、鈍い音を立てて地面に墜落し、血反吐を吐いた。

 

「ゴガアアアアッ‼︎」

『ッ⁉︎う、うわあああああああっ!!?』

 

 突然の襲撃に呆然としていた帝国兵達だったが、グリムロックが唸り声を上げた事で漸く正気を取り戻し、悲鳴を上げた。

 何だこの魔物は⁉︎見た目はダイヘドアそっくりだが、頭は一つしかないしデカ過ぎる⁉︎おまけにこいつの肌、金属なのか⁉︎

 

「ひ、怯むなお前ら!迎え撃て‼︎」

 

 帝国兵達は驚愕しつつも、この未知の生物に立ち向かおうとした。小隊長の合図と共に後衛が詠唱を唱えようとし、前衛が武器を構え突撃していった。しかし、今回ばかりは相手があまりにも悪過ぎた。

 グリムロックは片足を上げると、突進してくる前衛達に目掛けて思い切り振り下ろした。グシャリ!という鈍い音と共に5人が蟻のように踏み潰され、更にそのまま彼は腰を捻り、長い尾で他の前衛を吹き飛ばした。吹き飛ばされた兵士達は肋骨が砕け内臓が破裂し、そのまま肉塊となって地面に転がっていく。一部は綱のせいで逃げられず暴れている馬達にも突っ込んでいき、哀れな馬達を道連れにした。

 ようやく後衛が魔法を放とうとした瞬間、グリムロックは口からレーザーファイヤーを放った。巨大な業火のブレスは、後衛達を放った魔法ごと飲み込み、肉の焼ける臭いと断末魔の叫びが辺りに響いた。

 30人もいた兵士達は、あっという間に小隊長と、先程まで彼と談笑していたあの兵士の二人だけになってしまった。小隊長は最後尾で指示を出し、兵士の方は後衛の中でも後ろにいたためにレーザーファイヤーが放たれた瞬間大慌てで後ろに逃げたことで命拾いした。

 

「グルォオオオオオオ‼︎」

 

 取り敢えず片付いた。もう上がってきても良いだろう。

 そう判断したグリムロックは谷底にいるハジメ達に向けて合図となる雄叫びを上げると、ロボットモードに変形して生き残り二人を睨みつけた。その光景に小隊長は驚愕し、兵士に至っては腰を抜かしていた。

 そんな彼らの様子などお構いなしに、グリムロックは彼らへの尋問を始めた。

 

「おい、害虫ども。質問に答えろ。捕らえた兎人族はどうした?」

「ッ⁉︎テメエ、まさかゴーレムか⁉︎ 操ってるのは誰だ⁉︎俺達帝国兵にこんな事して、ただで済むと思───」

「質問に質問で返すな」

 

 怒りに震えて怒鳴り散らす小隊長だが、その言葉は続かなかった。グリムロックは片膝をつくと、そのまま片腕の指一本を立てて小突いた。しかし身長25.6mの金属の巨人が2mにも満たない人間にそんな真似をすれば当然、人間は潰される。小隊長は指圧て潰された小虫のように、口から血や内臓を撒き散らしながら絶命した。

 上官の惨劇を目の当たりにした兵士は、最早生き残ってるのは自分しかいない事を悟り、恐怖と絶望で顔を歪ませた。顔中涙と鼻水塗れになり、腰が抜けて立ち上がることもできない。

 

「ひ、ひぃぃぃ‼︎い、嫌だ!し、死にたくない!た、頼む!助けてくれ!」

「ならさっきの質問に答えろ。俺は気が短いんだ」

「…こ、答えたら殺さないか?」

「質問に質問で返すなって言ったよな?」

「ひぃ!ごめんなさいごめんなさい!」

 

 グリムロックのドスの効いた声に、兵士は恐怖のあまり失禁して股を濡らし、恥も外聞もなく泣き喚いて謝った。

 

「話します!話しますから!…多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから…」

「どっちに行った?」

「は、はい…あ、あっちです!」

 

 それを聞き終わると、グリムロックは兵士が指差す方を見て、嗅覚を研ぎ澄ます。確かに離れてはいるが、自分が全速力で走ればまだ追いつける距離だ。依頼を受けた以上、出来るだけ最善は尽くそう。

 一方、帝国兵は尚も命乞いを続けており、グリムロックは汚物でも見るような目で見下ろした。

 

「た、頼みます!言われた通り話したんです!命だけは見逃してください!足りなきゃ帝国に関する事でも話しますから!」

「ああ、殺さないでやるよ。()()()

「へ?」

 

 そう言うとグリムロックはキョトンとする帝国兵を掴み、野球ボールでも投げるように峡谷の、階段からなるべく離れた地点目掛けて投げ飛ばした。

 

「神に選ばれたお偉い人間様なんだろ?なら落ちても死なねえはずだ。テメエの強さでも証明してこい」

「うわあああああああああっ⁉︎」

 

 絶叫しながら飛んでいく帝国兵に最早見向きもせず、グリムロックはビーストモードに変形すると全身のエネルギーを巡らせ、匂いのする方へ全速力で走り出した。

 一方、投げ飛ばされた帝国兵は、ライセン大峡谷の出口から500mほど離れた地点へと墜落した。不運な事に頭からではなく足から墜落したことで即死せず、下半身の骨が全て砕けて激痛にのたうち回るが、最早立ち上がることすら出来なかった。更に不幸は続き、悲鳴を聞きつけて魔物達がぞろぞろと集まってきた。グリムロック達のおかげでハウリア達を襲う事が出来ず飢えていた彼らは、一匹だけだが新たに来た新鮮な獲物に、舌舐めずりをしながら近づいていった。

 

「い、嫌だ!どっか行け!助けてくれ!」

 

 帝国兵は泣き喚くが逃げることも出来ず、ましてや魔物達が餌の命乞いなど聞くはずもなかった。魔物達は一斉に襲いかかり、帝国兵は断末魔の悲鳴を上げながら、跡形もなく食い尽くされてしまった。

 皮肉にも、自分自身が魔物のクソとなる運命を辿る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘルシャー帝国軍第三連隊隊長グリッド・ハーフは上機嫌であった。

 部隊を引き連れハルツィナ樹海へ訪れたら、大量の兎人族と出会した。それだけでも思わぬ拾い物だというのに、その中には見たことない白髪の少女もいた。あれは是非とも欲しいものだ。

 ある程度捕まえたものの、その少女は大半の仲間と共にライセン大峡谷へと逃げられてしまった。流石に峡谷まで追いかけるつもりはなかったが、最弱種族の兎人族どもが大峡谷の魔物達に敵うわけがないし、すぐに逃げ帰ってくるだろうと考え、小隊長を含めた30人を待機させ、自身は他の部下達と共に捕らえた兎人族どもを引き連れて帝都へ目指した。

 あれから三日、グリッド達はまだ帝都には辿り着いていなかった。小隊長達が追いつけるようにペースを落として移動していたからだ。

 あの白髪の兎人は小隊長達が捕まえてくるだろうし、もし死んでても、いい小遣い稼ぎが出来た。そうグリッドはほくそ笑んでいた。

 

 突如として地鳴りが響いた。地震かと思うグリッドだったが、地響きはこちらに近づくかのように響いてきた。

 嫌な予感がしたグリッド達帝国兵は後ろを振り返り、一気に顔色を青ざめさせた。見たこともない巨大な魔物が、大地を蹴り上げながらこちらに突進してきたのだ。

 

「グオオオオオオオオッ‼︎」

 

 追いついたグリムロックは大きく飛び上がると、そのまま恐怖で凍りついていた帝国兵を馬ごと踏みつけた。更に彼は変形してロボットモードになると、ドラゴントゥースメイスを振り回して瞬く間にグリッド以外の帝国兵を殲滅した。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ‼︎」

 

 先程までの上機嫌から一転して、グリッドは恐怖と絶望に顔を歪ませ、涙やら小便やらを撒き散らしながら尻餅をついた。

 グリムロックはそんなのお構いなしと言わんばかりに亮牙の姿になり、グリッドは更に驚愕し喚き散らした。

 

「さて、お前がボス猿のようだな」

「な、何なんだよお前は⁉︎近づくな!俺はヘルシャー帝国軍第三連隊隊長グリッド・ハーフだぞ!」

「あっそ、まあ別に下っ端でもいいけどな」

 

 亮牙はどうでも良さそうにグリッドの喚き声を聞き流すと、足元に落ちていた帝国兵の剣を拾い、その醜い首を跳ね飛ばした。ゴロンとグリッドの頭が地面に転がり、胴体はピクピクと痙攣しながら倒れた。

 やはりハジメの鍛えた剣に比べりゃ、こいつは鈍だな。まあ折角の親友の作品を、こんな汚物の血なんかで汚さずに済んで良かったが…。

 そう思いながら帝国兵の剣を投げ捨てた亮牙は、宝物庫のポーチから魔物の皮で作った簡素な袋を取り出してグリッドの生首を詰め込むと、彼はハウリア達を乗せた馬車へと近づいた。巻き添えにしないよう気を付けていたが、どうやら無事のようだ。

 一方、ハウリア達は気が気ではなかった。檻に入れられ、見せしめに何人か殺されたことによる恐怖で逃げ出すことも叶わず絶望していたが、突如として帝国兵達を遥かに凌ぐ暴力の化身が襲撃し、瞬く間に帝国兵を殲滅してしまった。更にその生物は人族の男の姿になり、唯一生き残っていた隊長の首を跳ね落とすと、こちらに近づいてきた。

 まさか殺し足りず、こちらに狙いを定めたのか⁉︎ハウリア達が更なる絶望に見舞われた時だった。

 

「お前ら、シア・ハウリアの一族で間違いないな?」

『へ?』

 

 その男はこちらに殺意など向けず、シアの名前を口にしてこちらに質問してきた。死を覚悟していただけに、誰もがキョトンとなる。

 

「どうなんだ?シア・ハウリアの仲間なのか?」

「は、はい!確かに、私達はシアと同じくハウリア族の者ですが…」

「俺はシアに雇われた者だ。安心しろ、シアも他の連中も無事だ。今は俺の仲間達が保護している」

「シ、シアが⁉︎皆も無事なんですか⁉︎」

「まあな。取り敢えず彼奴らと合流するぞ。全員しっかり掴まってな」

 

 そう言うと亮牙はグリムロックに戻り、ロボットモードのまま両脇にハウリア達を乗せた馬車を担ぐと、ハジメ達の待つライセン大峡谷へと早足で戻っていった。ハウリア達は仲間の無事と帝都へ連れて行かれずに済んだ事に安堵しつつも、地響きを上げながらの移動に振り下ろされぬようしっかり檻にしがみついた。

 一方、首を斬り落とされたグリッド達帝国兵の死骸はそのまま野晒しにされた。やがて、死臭に誘われて普通の動物から魔物まで様々な屍肉食動物がやって来て、跡形もなく全ての死骸を食べ尽くしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間を少し遡る。ハジメとユエはシア達ハウリアの警護をしながら、亮牙が峡谷の上で帝国兵達を片付けるのを待っていた。頭上では岩の砕ける音とともに帝国兵の物と思われる怒号と悲鳴が響き渡り、ハウリア族が震え上がっていた。

 やがて頭上が静かになったかと思うと、亮牙の雄叫びが響き渡った。これが合図のようだ。

 

「どうやら片付いたみたいだね…。それじゃあ行くよ」

 

 そうハジメは淡々と告げてハウリア達を促すと、一行は彼を先頭に順調に登っていった。帝国兵からの逃亡を含めてほとんど飲まず食わずだったはずの兎人族だが、その足取りは軽かった。亜人族が魔力を持たない代わりに身体能力が高いというのは嘘ではないようだ。

 途中、何かが喚きながら峡谷目掛けて飛んで行った気もしたが、ハジメ達は気にせず階段を上りきり、遂にライセン大峡谷からの脱出を果たした。

 そこはまさに死屍累々といった状況だった。野営地だったと思われる場所で、丸焦げになった者やぺしゃんこに踏み潰された者、首や手足が変な方向に曲がった者など、様々なヘルシャー帝国兵の死骸がいくつも散乱していた。

 

「…やっぱりこの世界の人間は亮牙の敵じゃないか」

「ん、圧倒的過ぎる…」

 

 ハジメとユエはこの惨状を目にし、改めて亮牙の強さに感服するとともに息を呑んだ。彼が敵じゃなくて味方で良かったと、心の底から安堵した。後ろを見ると、シア達ハウリア族は顔を青ざめて戦慄していた。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。

 やがて、シアがおずおずと口を開いた。

 

「あ、あの、ハジメさん、ユエさん。亮牙さんはどこに行ったんでしょうか…?」

「あ、確かにいないや。どこ行ったんだろう?」

「ん、ハジメ、これ見て…」

 

 そう言われて首をキョロキョロさせるハジメだが、ユエに肩を叩かれて彼女が指差す方向を見ると、亮牙のものらしき巨大な足跡が、一直線に伸びていた。

 何かを見つけて追いかけていったのか?そう考えたハジメはカムに問いかけた。

 

「あの、こっちの方角って何があるんですか?」

「そ、その方角は、ヘルシャー帝国側の方向ですが…」

「…ハジメ、まさか亮牙、帝国に喧嘩売りに行ったの…?」

「いやいや、幾ら亮牙でも流石にそんな真似…する、かも…」

 

 親友は何処か気の短いところがあるから、この転がってる連中に何か腹立つことを言われ、怒りのままに帝国に殴り込みに行ったのかな?いや、流石にそこまでは…。

 少し不安になって来たハジメだが、暫くすると地響きと共に、ロボットモードの亮牙が駆け足で戻ってきた。両脇には馬車らしきものを抱えていた。彼はハジメ達の前で止まると、両脇に抱えていたものを下ろした。抱えていたのはやはり馬車で、中には兎人族達が入れられていた。それを見てカムとシア、他のハウリア達も駆け寄ってくる。

 

「お前達、無事だったのか!」

「みんな!」

「族長!シア!良かった…!」

 

 どうやらシアの言っていた捕まった仲間のようだ。既に帝国に移送されたかと思っていたが、亮牙が助け出したようだ。

 再開できたことを喜び合うハウリア達を眺めながら、ハジメは亮牙に語りかけた。

 

「どうやら無事助けられみたいだね。三日も経ってるからもう間に合わないかと思ってたよ」

「ああ。連中、ここに転がってる猿どもが直ぐに追いつくだろうと高を括ってチンタラしてたみたいだったから、難なく追いつけたよ。とは言え久々に全力疾走したから、流石に疲れたがな…」

 

 そう言って亮牙はポーチから液状化したオーアを入れたハジメ特製の水筒を取り出し、一気に中身を飲み干した。

 やがて、カムが近づいてきて頭を下げた。

 

「ありがとうございます亮牙殿。我々だけでなく、攫われた仲間達まで助けて頂いて、なんとお礼を言えば…」

「礼などいらん。契約した以上、それに見合う働きをしただけだ…。それにそこの猿どもで唯一生き残った奴を尋問したら、やはり何人かは殺されちまってたみたいだしな…」

「そう…。で、亮牙、そいつはどうしたの?」

「ん?ああ、峡谷の方に投げ飛ばした。どいつもこいつも散々偉そうなこと抜かしてたからな、今頃は魔物達と仲良く喧嘩してるだろうよ」

「ああ、階段登ってる時何か飛んでったと思ったら、そうだったんだ…」

 

 ユエの質問にそう答えた亮牙に、ハジメとユエは成る程と納得する。すると、亮牙が掘り抜いてきた穴から、ひょっこりと何かが出て来た。その二つの頭を見て、直ぐに正体に気づいたシアが悲鳴を上げた。

 

「ひぃっ⁉︎ダ、ダイヘドア⁉︎」

 

 そう、出て来たのはあの双頭のティラノサウルス型の魔物ダイヘドアだった。しかもこの個体、亮牙達と出会う前のシアを襲ったのと同一個体だ。

 彼女の悲鳴にハウリア達は喜びも束の間、恐怖で震え上がり、ハジメとユエは応戦しようとした。しかし、亮牙は落ち着いた様子でそれを静止した。

 

「まあ待て二人とも、此奴から敵意は感じない」

「ん、どういう事?わざわざ登って来たなら、私達を襲いに来たんじゃ…」

「まあ大方予想は出来るがな…。グォッグォッ、グゥウウウ?」

「ガァ、グァッグァッガァアアア…」

「グォオオオオ。ゴガアアアア」

「グォッ⁉︎クゥゥゥン!」

 

 そう言うと亮牙はダイヘドアに獣の言葉で話しかけ、そのまま何かやりとりをする様に会話を続けた。魔物と会話すると言う有り得ない光景に、シア達ハウリアは改めて驚愕した。

 やがて会話が終わると、ダイヘドアはお礼を言うかのように唸って亮牙が掘った穴から這い上がって来た。更に驚いた事に、その足元には四頭、それより遥かに小さなダイヘドア達が続いてきた。

 

「え⁉︎こ、子ども⁉︎」

「ああ、奴さんは子育て中の母親で、雛たちの飯を探していたらしいんだが、丁度俺がこの猿どもを仕留めた匂いを嗅ぎつけたらしくて、お零れに預かりたいそうだ。俺としちゃこんなの食いたくないし全部やるよって言ったら、物凄く感謝されたよ」

「ああ、だから敵意がなかったんだ…」

「ちなみにシアを襲ったのも、自分が食うんじゃなくて雛たちに食わせるためだったそうだ」

「私、その子たちのご飯にされる予定だったんですか…」

 

 真実を知ったシアは、その場で食い殺される訳じゃなかったとは言え、結局食われる事に変わりはなかった事に、複雑そうに苦笑いした。

 

「よし、取り敢えず樹海に行くぞ。馬車は無事みたいだし、俺が引っ張って行くからよ」

 

 そう言って亮牙はビーストモードになり、最初と同様に頭上にハジメとユエ、シアを乗せると、残るハウリア達が乗り込んだ大量の馬車を難なく引っ張っていった。

 ダイヘドアの親子達は樹海へと去って行く彼らに感謝の意味を込めた唸り声を上げて見送ると、その場に残された大量の御馳走を、思う存分喰らって腹を満たした。

 

 

 

 

 




まさかの攫われたハウリア達とダイヘドアが救済されました(笑)
だがグリッド、テメーはダメだ。

流石に追いつくのは無理じゃないか?と思うかもしれませんが、グリムロック達ダイナボットは映画とは言え、墜落した武隆から香港までかなり離れているというのに短時間で辿り着く俊足ですから(笑)

感想、評価お待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。