グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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まだスラッグの登場は先になります。 

今月25日に、実写トランスフォーマーのキャラの自作ショートフラッシュ動画で有名なYouTuberのOsroさんが、4年前から制作に取り掛かっていたグリムロックのショートフラッシュが完成したのですが、大変素晴らしい作品でした!


ハルツィナ樹海

 グリムロック達はハルツィナ樹海を目指して平原を進んでいた。何台もの大型の馬車にシア以外のハウリア族全員が乗っているのだが、グリムロックはその怪力で、まるで貨物列車用の機関車みたいに軽々と牽引して行った。 

 そうやって歩いていくと、遠方にハルツィナ樹海が見えてきた。かなり巨大な木々も生えているようで、凸凹と緑の凹凸が目立っていた。そのタイミングで、不意にシアが口を開いた。

 

「あの、あの!亮牙さん達のこと、教えてくれませんか?」

「俺グリムロック、さっき峡谷で話したろ?」

「いえ、能力とかそういうことではなくて、なぜ奈落という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、みなさん自身のことが知りたいです。」

「…聞いてどうするの?」

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。…私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で…。もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが、それでもやっぱり、この世界のはみだし者のような気がして…。だから、私、嬉しかったのです。皆さんに出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃないって思えて…。勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて、だから、その、もっと皆さんのことを知りたいといいますか…」

 

 話の途中で恥ずかしくなってきたのか、次第にシアは小声になり顔を赤らめた。確かに出会った当初も随分嬉しそうにしていたと三人は思い出し、シアの様子に何とも言えない表情をした。谷底では魔法が使える理由など簡単なことしか話していなかったため、きっと彼女なりにずっと気になっていたのだろう。

 

「…俺グリムロック、二人ともどうする?」

「僕は別に構わないけど…。ユエは?」

「ん、私も構わない。…亮牙の過去はどうする?」

 

 ユエが気を遣って小声で聞いてきた。グリムロックは少し考えるように沈黙すると、何かを決めたように口を開いた。

 

「…俺グリムロック、大丈夫だ。これっきりだけど、この姿見せたし、スラッグと会うなら教えた方がいい。でもシア、面白い話じゃないぞ…」

 

 グリムロックがそう言うと、三人はシアに今までの経緯や旅路についてを話し始めた。流石にグリムロックがビーストモードで移動している今は、彼が過去の記憶を立体映像で見せる事は出来なかったので、三人の口から語られる形ではあったが。

 

「うぇ、ぐすっ…、ひどい、ひどすぎまずぅ~、皆さん、がわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて…。うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

「俺グリムロック、だから面白くないって言った…」

 

 その結果、シアは何時かのユエ以上に号泣し、「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」と呟いていた。そして彼女は少しすると決然とした表情で顔を上げて口を開いた。

 

「亮牙さん、ハジメさん、ユエさん!私、決めました!皆さんの旅に着いていきます!これからは、このシア・ハウリアが陰に日向にみなさんを助けて差し上げます!遠慮なんて必要ありませんよ、私達はたった四人の仲間!共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

「俺グリムロック、要らない」

 

 グリムロックは一瞬の迷いも無い、見事なまでの即答でシアの申し出を却下した。ハジメとユエも、勝手に盛り上がる彼女に呆れるような冷めた視線を送っていた。

 

「即答っ⁉︎な、なんでですか?私の未来視だってきっと役に立ちますよっ‼︎」

「俺グリムロック、俺達三人、お互い信頼して命を預け合ってる。自分の身も守れないお前に、命は預けられない」

「同感だね。そもそも止めといた方がいいよ。僕らの目的は各地の大迷宮の攻略、つまりさっき話した地獄の様な場所を最大でもあと六箇所も回る事になるんだから…」

「ん、ライセン大峡谷の魔物程度に逃げ回るしかないんじゃ話にならない…。大迷宮攻略中にシアを守る余裕は、多分私達にも無い…」

 

 他の迷宮の詳細は未だ不明だが。恐らくオルクス大迷宮に迫る程の危険が待っている事は確実だ。だからこそシアがグリムロック達と一緒に大迷宮に挑むなど自殺行為も同然だし、完全な足手纏いを庇いながら攻略できる程の余裕は彼ら三人にも無かった。

 その言葉に表情を暗くして俯いてしまうシアの様子に、流石に言い過ぎたかと感じたグリムロックは、付け加えるように語りかけた。

 

「俺グリムロック、その気持ちだけで充分…。別に他人と違ったって、変じゃない。皆同じじゃあ、逆に気持ち悪い…。それに、同族の死に絶えた俺やユエと違い、お前はまだ想ってくれる家族、いる。なら態々それを、捨てなくてもいい…」

 

 以前聞かされたフェアベルゲンの掟等を考えると、もしシアが兎人族以外の種族に生まれていたら、間違いなく彼女はとっくの昔に殺されていただろう。だからこそ比較的恵まれた環境に生まれた彼女に、無理してそれを捨てて欲しくはなかった。

 そう告げるとグリムロックは、この話は終わりと言わんばかりに口を閉じた。シアは落ち込んだように黙りこくりながらも、難しい表情で何かを考え込んでいた。

 

(そうじゃないんです亮牙さん。皆が私を想ってくれるからこそ、私は…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、遂にグリムロック達はハルツィナ樹海と平原の境界に到着した。外から見る限りはただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 ハウリア達の降りた馬車をグリムロックが粉々に破壊した後、三人に対してカムが樹海での注意と行き先を確認した。

 

「それでは、御三方。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。貴方方を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「ああ、聞いた限りだとそこがスラッグの縄張りみたいだし、本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

 カムが言った「大樹」とは、ハルツィナ樹海の最深部にある巨大な一本樹木「大樹ウーア・アルト」の事で、亜人族からは神聖な場所とされて滅多に近づく者はおらず、16年前からは更にスラッグが住み着いているらしい。ライセン大峡谷脱出時に彼から聞いた話だ。

 当初は樹海そのものが大迷宮かと思っていた亮牙達だったが、それならば奈落の底と同レベルの魔物が彷徨いている魔境ということになり、とても亜人達が住める場所ではないだろう。故に彼らはオルクス大迷宮のように真の迷宮の入口が何処かにあるのではと推測した。そして、カムから聞かされた大樹が怪しいと踏んだのである。

 亮牙の言葉に頷くと、カムは周囲の兎人族に合図をして三人の周りを固めた。

 

「御三方、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は神聖な場所とされております上、今では亮牙殿の御友人が暮らしていらっしゃるためあまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

「大丈夫です。僕ら三人とも、ある程度隠密行動はできますから」

 

 そう言ったハジメは「気配遮断」の技能を使い、ユエも奈落で培った方法で気配を薄くした。亮牙に至っては元々が捕食者であるが故に、気配を消すくらい朝飯前だった。

 

「ッ⁉︎これは、また…。ハジメ殿、できれば亮牙殿やユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

「ん?…こんなもんすか?」

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く流石ですな!」

 

 元々兎人族は全体的にスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。地上にいながら、文字通り野生児の亮牙や奈落で鍛えたユエと同レベルと言えば、その優秀さは達人級と言えるだろうが、ハジメの「気配遮断」はそれを凌駕していた。普通の場所なら一度認識すればそうそう見失うことはないが、樹海の中では兎人族の索敵能力を以てしても見失いかねないハイレベルなものだった。

 人間族であるハジメに自分達の唯一の強みを凌駕され、カムは苦笑いだ。ユエは恋人の凄さに、その慎ましい胸を自慢げに張っていた。対してシアは、三人に指摘された実力差を改めて思い知らされ、どこか複雑そうだ。

 

「それでは、行きましょうか」

「ああ、頼むぞ」

 

 カムの号令と共に準備を整えた一行は、彼とシアを先頭に樹海へと踏み込むと、しばらく道ならぬ道を突き進んだ。

 直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくるが、現在位置も方角も完全に把握しているようで、カムの足取りに迷いは全くなかった。理由は分かっていないが亜人族は、亜人族であるというだけで樹海内でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。

 順調に進んでいると、魔物の気配を感じたカム達が立ち止まり、周囲を警戒し始めた。当然、三人も感知していた。どうやら複数匹の魔物に囲まれているようだ。

 兎人族達は本来なら、その優秀な隠密能力で逃走を図るのだそうだが、今回はそういうわけには行かず、樹海に入るに当たってハジメが貸し与えたナイフ類を構えた。皆、一様に緊張の表情を浮かべていた。

 

「そこだ!」

 

 そう言ったハジメは、小型のハンドガンを撃ち、微かにパシュという射出音が連続で響いた。

 樹海中では発砲音で目立つためにドンナー・シュラークを使えないため、今回はかつてユエ救出時に亮牙が倒したサソリモドキからヒントを得て発明した、散弾式のニードルガン「ニードルノーズ」を使用した。射出には同じく「纏雷」を使っているため、ドンナー・シュラークには全く及ばないもののそれなりの威力がある。射程10m程なのが欠点だが静音性には優れており、毒系の針もあるので中々に便利であった。

 

「「「キィイイイ⁉︎」」」

 

 三つの何かが倒れる音と、悲鳴が聞こえた。そして、慌てたように霧をかき分けて、腕を四本生やした体長60cm程の猿が三匹踊りかかってきた。

 内、一匹に向けてユエが手をかざし、風の刃を高速で飛ばす「風刃」を放ち、空中にある猿を何の抵抗も許さずに上下に分断、猿は悲鳴も上げられずにドシャと音を立てて地に落ちた。

 残り二匹は二手に分かれ、一匹は近くの子供に、もう一匹はシアに向かって鋭い爪の生えた四本の腕を振るおうとした。シアも子供も、突然のことに思わず硬直し身動きが取れず、咄嗟に近くの大人が庇おうとするが、無用の心配だった。

 音もなく近づいた亮牙が、容赦なく二匹の猿の頭を掴んだ。彼はそのまま一匹の頭を握り潰し、もう一匹を地面に叩き付けて踏み潰した。

 

「あ、ありがとうございます、亮牙さん」

「お兄ちゃん、ありがと!」

「気にするな。此奴らが嫌いな奴に似てて虫酸が走っただけだ」

 

 シアと子どもが窮地を救われ礼を言うも、亮牙はそう言って手を軽く振った。子どもは目を輝かせるが、シアは突然の危機に硬直するしかなかった自分にガックリと肩を落とし、カムは苦笑いした。

 

「あ〜亮牙、それってもしかして坂上君?」

「決まってるだろハジメ、俺の嫌いな猿なんざあのゴマすりコングだけだ」

「ん、其奴って確か、二人が言ってた勇者の子分?」

「ああ、テメエで考える脳味噌も利口になる努力もしてねえ癖に、やる気がどうのこうのでハジメを虚仮にしてた大馬鹿野郎だ」

「ん、もし其奴に会ったら、お尻を猿みたいに真っ赤になるまで燃やしてやる…」

「アハハハ…。ユエ、確かに腹立つ奴だったけど、程々にね…。取り敢えず、先を急ごう」

 

 ハジメから促されて、一行は先導を再開した。

 その後もちょくちょく魔物が襲ってきたが、亮牙達が静かに片付けていった。一般的には相当厄介なものとして認識されている樹海の魔物だったが、三人の敵ではなかった。

 しかし樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、一行は歩みを止めた。数も殺気も連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなく耳を動かし索敵を行うと、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 亮牙達も相手の正体に気がつき、面倒そうな表情になった。

 

「お前達、何故人間といる!種族と族名を名乗れ!」

 

 その正体は虎模様の耳と尻尾を付けた、筋肉モリモリマッチョマンの亜人だった。

 その亜人、ギルは両刃剣を抜身の状態で握りながら、樹海の中で人間族と亜人族が共に歩いているという有り得ない光景に、カム達を裏切り者を見るような眼差しを向けた。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いているようだ。

 

「あ、あの私達は…」

 

 カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前にギルの視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪の兎人族、だと?…貴様ら、報告のあったハウリア族か…。亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!もはや弁明など聞く必要もない!全員この場で処刑する!総員か───」

五月蠅(やかまし)い、喚くな」

「ッ!!?」

 

 ズン、と周囲の重力が増したと思うほどの威圧に、周囲の亜人達は皆硬直した。バランスを崩して木から落ちる者までいる。

 

「俺達三人はお前らに仇なすつもりはない。だが此奴らハウリアの命は俺達が保障しているからな…。手を出すと言うのなら、一人残らず喰い殺すぞ。骨一本残さずな」

 

 そう言うと亮牙は威圧感だけでなく、あまりにも濃厚な殺意を放ち始めた。更にハジメとユエも彼には劣るが相当な威圧感を放ち、そしてその差は亜人達にとっては感じ取れないレベルだった。それを真正面から叩きつけられたギルは冷や汗を大量に流しながら、ヘタをすれば恐慌に陥って意味もなく喚いてしまいそうな自分を必死に押さえ込んだ。

 

(冗談だろ!こんな、こんなものが人間だというのか!まるっきり化物じゃないか!)

 

 ギルは恐怖心に負けないように内心で盛大に喚いた。亮牙は興味を失ったように視線をはずすとハウリア族達に顎で先に行けと示す。

 

「ま、待て!」

「何だ?」

「あ、いや…」

 

 フェアベルゲンの第二警備隊隊長であるギルは、フェアベルゲンと周辺の集落間における警備が主な仕事で、魔物や侵入者から同胞を守るというこの仕事に誇りと覚悟を持っていた。その為、例え部下共々全滅を確信していても安易に引くことなど出来なかった。

 

「何が、目的だ?」

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」

「大樹の下へ、だと…?何のために?」

 

 てっきり奴隷狩り等といった自分達を害する目的なのかと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない大樹が目的と言われ、ギルは若干困惑した。大樹は彼ら亜人達にしてみれば、言わば樹海の名所のような場所に過ぎないのだ。

 

「俺達三人は七大迷宮の攻略を目指して旅をしていてな。その大樹に、本当の大迷宮があると考えている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」

「本当の迷宮?何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

「そんな筈はない。俺達は大迷宮の一つを攻略し、そこの魔物達の実力を理解している。ここが本当に大迷宮だとしたら魔物達が弱過ぎる。何より試練の場だというのに亜人だけ平然と進めたり、たかだが道に迷う程度が試練なんぞあり得ん。だから樹海自体が大迷宮というお前の言い分は辻褄が合わん」

 

 恐らく亜人に案内してもらえる信頼関係、というのも試練の一つなのだろう。亮牙の予想としてはこの樹海は亜人を守ると同時に亜人と共に歩ける者を選ぶための迷宮だ。

 困惑を隠せなかったギルだが、少しすると何かを決めたかのように口を開いた。

 

「…お前達が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

 その言葉に、周囲の亜人達が動揺する気配が広がった。樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろう。

 亮牙達の言葉には聞き覚えのない事ばかりであり、戯言と切り捨てるのは容易だが、今この場で圧倒的に優位な彼らにこちらを騙す理由はない。つまり彼らは本当に大樹が目的で、フェアベルゲンには危害は加えないのだろう。ならばさっさと目的を果たして帰ってもらうほうがいいとギルは判断したのだ。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前達の話も、長老方なら知っている方がおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

「…いいだろう。それに含むことがない証拠もある。受け取れ」

 

 亮牙はそう言うと、あの魔物の皮で作った袋をギルに投げ渡した。慌ててそれを受け取ったギルは袋の中身を取り出すと、更に驚愕の表情となった。その中身は勿論、亮牙によって駆除されたヘルシャー帝国軍第三連隊隊長グリッド・ハーフの生首だった。

 

「其奴はお前らにとって最大の外敵、ヘナチョコ帝国「亮牙、ヘルシャー帝国だよ…」…の部隊の隊長だ。俺達が奴隷狩りに来たのなら、態々取引相手になりそうな奴を殺したりせん。何よりお前達が長年手を焼いている外敵を抹殺して来た。これで充分だろう?曲解せずに伝えろよ」

「あ、ああ、無論だ。ザム!聞こえていたな!長老方に余さず伝えろ!」

「り、了解!」

 

 そう言ってギルは顔を少し青ざめさせながらも指示を出し、同時に霧の中の気配の一つが遠ざかっていった。それと共に亮牙達は殺意を霧散させ、同時に亜人達もほっと息を吐いた。意外にも今のうちに攻めようとはする者はいなかった。亮牙の殺意を浴びたこと、彼が仇敵であるヘルシャー帝国の軍隊を殲滅し隊長格の首を持ってきた事に、すっかり恐怖心を刺激されてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま待つこと数時間、流石に退屈になってきたのか、ハジメはユエの膝枕で寝っ転がり、亮牙はポーチからオーアを取り出し、寄り添って来たシアにお酌をしてもらいながら飲んでいた。

 すると霧の奥から数人の新たな亜人達が現れた。特に目を引くのは彼等の中央にいる初老の男だ。美しい金髪に深い知性を備える碧眼、容姿は人間にそっくりだが耳は尖り、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる細身の体躯に反して威厳に満ちた容貌をしている。年のせいで幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げており、長老と呼ばれるにふさわしい威厳をしていた。

 

「ふむ、お前さん達が問題の人間族かね?名は何という?」

「ハジメ、南雲ハジメです」

「…ユエ」

「灘亮牙だ。そう言うお前は何者だ?」

 

 何千万年も生きている亮牙にとっては目の前の長老も若造にしか見えないため、当然敬語など使わない。だがそんな事など知らない周囲の亜人達は、無礼だと憤りを見せた。それを片手で制すると、森人族の男性も名乗り返した。

 

「私はアルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが、その前に聞かせてもらいたい…。『解放者』とは何処で知った?」

「オルクス大迷宮を攻略後、解放者の一人オスカー・オルクスの隠れ家で知った」

 

 目的などではなく解放者の単語に興味を示すアルフレリックに訝しみながら、亮牙はそう答えた。一方、アルフレリックの方も表情には出さないものの内心は驚愕していた。なぜなら解放者という単語と、その一人がオスカー・オルクスという名であることは、長老達と極僅かな側近しか知らない事だからだ。

 

「ふむ、奈落の底か…。聞いたことがないがな…。…証明できるか?」

「証拠と言えるかは微妙だが、これはどうだ?」.

 

 アルフレリックは亜人族の上層に情報を漏らしている者がいる可能性を考えて、そう尋ねた。それに対して亮牙は宝物庫のポーチから、地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡した。

 

「こ、これは、こんな純度の魔石、見たことがないぞ…!」

 

 アルフレリックも内心驚いていてたが、隣に控えるギルが驚愕の面持ちで思わず声を上げた。

 

「後は、そうだな…。ハジメ、オルクスの指輪を…」

「あいよ。亮牙もマトリクスを」

 

 そう言ってハジメはオルクスの指輪を、亮牙は宝物庫から取り出した創世のマトリクスを見せた。その指輪に刻まれた紋章や、マトリクスの輝きを見てアルフレリックは目を見開き、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐いた。

 

「成る程…。確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが、よかろう…。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

 アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなくシア達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。無論、ギルを筆頭に周囲の亜人達からも猛烈に抗議の声があがった。かつてフェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから、無理もないだろう。そんな中、アルフレリックは厳しい表情でギル達を宥めた。

 

「彼等は客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

「待て、俺達は招かれざる客なんだろう?別に歓迎していない国に赴くつもりはない。俺達は大樹とそこに居座る者に用があるから、このまま向かわせてもらう」

「いや、お前さん。それは無理だ」

「え?どういう事ですか?」

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。…亜人族なら誰でも知っているはずだが…」

 

 アルフレリックは困惑した顔で「今すぐ行ってどうする気だ?」と三人を見たあと、案内役のカムを見た。亮牙達は聞かされた事実にポカンとした後、同じようにカムを見ると…

 

「あっ」

 

 まさに今思い出したという表情をしていたため、三人とも額に青筋が浮かべた。

 

「「「おい…」」」

「あっ、いや、その何と言いますか、ほら、色々ありましたから、つい忘れていたと言いますか…。…私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか…」

 

 しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、亮牙達のジト目に耐えられなくなったのか逆上し、シア達に当たり散らした。

 

「ええい、シア、それにお前達も!何故途中で教えてくれなかったのだ!お前達も周期のことは知っているだろ!」

「なっ、父様、逆ギレですかっ!私は父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って…。つまり、父様が悪いですぅ!」

「そうですよ、僕たちも『あれ、おかしいな?』とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって…」

「族長、何かやたら張り切ってたから…」

 

 逆上するカムにシアが更に逆上し、他の兎人族達も目を逸らしながらさり気なく責任転嫁をした。

 

「お、お前達!それでも家族か!これは、あれだ、そう!連帯責任だ、連帯責任!御三方、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

「あっ、汚い!父様汚いですよぉ!一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

「族長!私達まで巻き込まないで下さい!」

「バカモン! 道中の亮牙殿の容赦のなさを見ていただろう!一人で罰を受けるなんて絶対に嫌だ!」

「あんた、それでも族長ですか!」

 

 亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族だが、ハウリア達はぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた。情の深さは何処に行ったのか、流石、シアの家族だな…。総じて、残念なウサギばかりだった。

 亮牙は呆れたように溜息を吐くと、ハジメとユエに話しかけた。

 

「まったく、二人とも、また耳塞いでろ…」

「ん、分かった…」

「あいよ、長老さん方、耳塞いでおいてください」

「あ、ああ、承知した…」

 

 ハジメとユエもやれやれと言わんばかりの表情になりながら耳を塞ぎ、アルフレリックやギルも顔を痙攣らせながら耳を塞いだ。

 亮牙は思い切り息を吸うと、巨大な怒鳴り声を上げた。

 

「ゴルァアアアアアアッ!!!」

『――――アッーーーー!!!』

 

 樹海に耳を劈くような怒声と、ハウリア達の悲鳴が木霊した。ハジメとユエはもう慣れていたが、アルフレリックを含む周囲の亜人達は、耳を塞いでも響く怒鳴り声に驚愕していた。

 対してハウリア族は、喧嘩に夢中で耳など塞いでいなかった事から、凄まじい絶叫を上げて悶絶していた。その光景が、彼らの残念さを示していた。

 

「…まあ、追いつめられた状況だったからな。今回はこの程度で勘弁してやる」

 

 

 

 

 




〜オリジナル武器〜
・ニードルノーズ
 本作でハジメが義手を使わない代わりに作ったハンドガンタイプのニードルガン。
 名前はG1のターゲットマスターの一人ニードルノーズから。日本では知名度が低いが、IDWコミックでは『ロボット・イン・ディスガイズ』とその続編においてD軍側の主要キャラになっており、更にトラックスの弟という設定となっている。

・グリッドの生首
 ボス猿ことグリッド・ハーフの生首。
 グリムロックは戦利品としてだけでなく、もし亜人達と出会した時に敵意がない事を証明するのに役立つと考えて持ってきた。
 なお以降はもう必要なかったのでギル達に譲ったが、流石の亜人達も震え上がっていたらしい。

ハジメ「ずいぶんR-18Gな廃物利用だね」





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