グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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今回は久々に短くなりました。

タイトルは2010年の映画『タイタンの戦い』の予告編に使われた、ザ・ユーズドの楽曲からです。


The Bird and the Worm

 ギルの先導で、亮牙とハジメとユエ、ハウリア族、そしてアルフレリックを中心に周囲を亜人達で固めた隊列で濃霧の中を歩いていった。既に一時間ほど歩いたことから、ギルが向かわせた伝令のザムは相当な駿足だったことが伺える。

 暫く歩いていると突如、霧が晴れた場所に出た。晴れたといっても全ての霧が無くなったのではなく、まるで霧のトンネルのように一本真っ直ぐな道が出来ているだけの場所だ。よく見ると、道の端に誘導灯のように青い光を放つ拳大の結晶が地面に半分埋められており、そこを境界線に霧の侵入を防いでいるようだ。

 青い結晶に注目しているハジメに気が付いたのか、アルフレリックが解説を買って出てくれた。

 

「あれは、フェアドレン水晶というものだ。あれの周囲には、何故か霧や魔物が寄り付かない。フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲んでいる。まぁ、魔物の方は比較的という程度だが」

「なるほど。そりゃあ、四六時中霧の中じゃあ気も滅入りますもんね…。住んでる場所くらい霧は晴らしたいか」

 

 そうこうしている内に、彼らの眼前に巨大な門が見えてきた。太い樹と樹が絡み合ってアーチを作っており、其処に10mはある木製の両開きの扉が鎮座していた。天然の樹で作られた防壁は高さが最低でも30mはありそうで、亜人の『国』というに相応しい威容を放っていた。

 ギルが門番と思しき亜人に合図を送ると、重そうな音を立てて門が僅かに開いた。人間が招かれているという事実に動揺を隠せないようで、周囲の樹上から亮牙達三人に視線が突き刺さっているのが分かった。アルフレリックがいなければ、ギルがいても一悶着あったかもしれない。おそらくそれも考慮して長老である彼自ら出てきたのだろう。

 門をくぐると、そこは別世界だった。直径数十m級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れていた。人が優に数十人規模で渡り歩けるだろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成していた。樹の蔓と重り、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるようだ。樹の高さはどれも20階くらいありそうだ。

 

(やはり自然の中にいると、恐竜時代を思い出して落ち着くな…)

 

 そう感じながら、亮牙は懐かしい感傷に浸っていた。見るとハジメとユエもポカンと口を開けてその美しい街並みに見蕩れており、アルフレッドが咳払いをした事で正気に戻った。

 

「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

 アルフレリックの表情が嬉しげに緩んでいる。周囲の亜人達やハウリア族の者達も、どこか得意げな表情だ。三人はそんな彼等の様子を見つつ、素直に称賛した。

 

「ええ、こんな綺麗な街を見たのは初めてですから…。空気も美味しいし、見事に自然と調和してますね」

「ん、綺麗…」

「確かに良い土地だ…。俺達の故郷じゃあ、もうこのような見事な自然は殆ど残ってないからな…」

 

 三人の掛け値なしのストレートな称賛にどの亜人達も、流石にそこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いていた。だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしていた。

 亮牙達は、フェアベルゲンの住人に好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながらも、アルフレリックが用意した場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…成る程。試練に神代魔法、それに神の盤上、そしてトランスフォーマー、か……」

 

 現在、亮牙達とアルフレリックは向かい合って、互いが持つ情報を交換していた。

 亮牙達は神の本性と解放者達の真実、大迷宮とは解放者達が後の世の者に神に抗うために残した「神代魔法」を受けとるための試練場であること、亮牙とハジメが異世界から来たこと、そして亮牙とこの樹海に住まうスラッグが金属生命体トランスフォーマーであることなどだ。

 アルフレリックはこのトータスの残酷な真実についてはそれほど動揺しなかった。ハジメが理由を聞いてみたところ、神が狂っていようがいまいが、この世界が亜人に優しくないのは今更なのだ、とのことだ。忌々しいカルト教団の権威もないこの場所では信仰心なんぞより、自然への感謝の念だという。

 亮牙達の話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に付いた者に伝えられる掟を話した。それは何とも抽象的な口伝で、「この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つのが現れたらそれがどのような者であれ敵対しない」と、「その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行く」の二つであった。

 ハルツィナ樹海の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が解放者いう存在である事、その解放者の仲間の名前と共に伝えたもので、フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたそうだ(流石に解放者がどういう存在かや、プライム達の名前以外の詳細については伝えていなかったが)。最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。

 そして、ハジメが見せたオルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「それで、僕達三人は資格を持っているというわけですか…」

 

 ハジメは己の指輪を確認しながらそう言うも、そうなるとこの迷宮は少なくとも一つの迷宮を攻略しなければ入れない可能性が考えられた。最悪、他にも条件があるかもしれない。

 ハジメとアルフレリックが話を詰めようとした時だ。急に亮牙が何かに気づいたように立ち上がった。

 

「ん、どうしたの亮牙?」

「…階下に何か来た。シア達が危ない…」

「「「え?」」」

 

 ハジメとユエ、アルフレリックが首を傾げると、何やら階下が騒がしくなった。亮牙達のいる場所は最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機しており、どうやら彼女達が誰かと争っているようだ。その声を聞き、ハジメとアルフレリックも顔を見合わせて同時に立ち上がった。

 階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。カムが必死に立ち塞がってシアを庇っていたが、二人とも既に殴られたらしく頬が腫れていた。

 まず亮牙、続いてハジメとユエ、最後にアルフレリックが階段から降りてくると、その亜人達は一斉に鋭い視線を送るが、亮牙は目もくれずにシア達の傍に近づいた。

 

「二人とも、大丈夫か?」

「亮牙さん…」

「すまん、誰か一人は待機しておくべきだった…」

 

 赤くなった頬を押さえながら涙目になっているシアに、亮牙はそう謝るとポーチから神水を入れた試験管二本とハンカチを取り出し、彼女とカムの頬を冷やすように応急処置を施した。

 自分達など眼中にもないという亮牙の態度に怒りを露わにしつつ、熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言した。

 

「アルフレリック…。貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた?こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど…。返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

 熊の亜人は必死に激情を抑えているのか拳を握りわなわなと震えていた。亜人族にとって不倶戴天の敵である人間族だけでなく、忌み子のシアと彼女を匿ったハウリア族まで招き入れたのが相当気に食わなかったようだ。他の亜人達も同じ気持ちなのかアルフレリックを睨んでいたが、当のアルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

「何が口伝だ!そんなもの眉唾物ではないか!フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

「なら、こんな人間族の小僧どもが資格者だとでも言うのか!敵対してはならない強者だと!」

「そうだ」

 

 あくまで淡々と返すアルフレリックだが、熊の亜人は信じられないという表情で彼を、そして亮牙達を睨んだ。

 話を聞く限りアルフレリックは歴史を重んじているのだろう。それに引き替え熊の亜人は、まさに老害という単語しか思いつかない。ハジメとユエは口に出さなかったものの、心の中で抱いたイメージは一致していた。

 やがてシア達の応急処置が終わった亮牙は、熊の亜人を睨みつけるが、直ぐに興味をなくしたようにアルフレリックに向き直り、呆れたように文句を言った。

 

「おい、気をつけろよ。()()()()()が逃げてるじゃねえか」

「ば、晩飯?亮牙殿、それはもしや、ジンのことを言ってるのか…?」

「あ?見りゃわかるだろ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――そこで吠えてる()()に決まってる」

 

 その一言に、その場にいた亜人族が凍りついた。対してハジメとユエは、ブフォと吹き出していた。

 やがてその古狸、ジンはわなわなと身体を震えさせ、顔を茹で蛸みたいに真っ赤にして叫んだ。

 

「き、貴様!この俺が古狸だと⁉︎」

「よく喚く狸だ。躾けられてねえからペットなわけないだろうし、だとしたら今日の晩飯の食材だとしか考えられねぇからな。にしてもこんな筋張って臭そうな肉なら、早めに下ごしらえしといた方がいいだろ」

「いや、ジンは狸ではなく熊人族で、一応長老なのだが…」

「俺の世界じゃあ、狸も熊も分類上はイヌの仲間だぞ」

「貴様ぁ!このジン・バントンを愚弄するとは良い度胸だ!いいだろう!ならばこの場で資格があるか、試してやる!」

 

 怒り狂ったジンは、亮牙に向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できず、アルフレリックもまさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いていた。

 そして一瞬で間合いを詰め、身長2m半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、亮牙に向かって振り下ろされた。

 亮牙は今なおジンのことを狸だと思っていたが、熊人族は亜人の中でも特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば一線を画す破壊力を持っていた。シア達ハウリア族と傍らの亜人達は、皆一様に、肉塊となった亮牙を幻視した。

 対してハジメとユエは落ち着いていた。亮牙に突っ込んでいくジンに抱いた感情は二人とも同じだった。

 

((馬鹿だなこの狸…))

 

 次の瞬間、轟音と共に剛腕が叩きつけられ、同時にバキボキッ!という骨の砕ける音と、グシャアッ!という潰れる音が響き渡った。その場にいた亜人達は亮牙が潰された音だと疑わず、シアは顔を青ざめさせた。

 だが、落ち着いているハジメとユエの様子から分かるように、それは間違いであった。

 

「え…あ、あ、あぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 何と、ジンの方が凄まじい絶叫を上げ、殴った腕を抑えながら後ずさると膝をついた。そのありえない光景に目を見開く周囲の亜人達だったが、その腕を見て更に驚愕した。なんと、ジンの逞しい腕はまるで押し潰されたかのようにグニャリと折れ曲がり、更に折れた骨が皮膚を突き破って剥き出しになっており、見るも無残な状態となっていたのだ。

 一方殴られた亮牙自身は全くの無傷で、撫でられた程度ぐらいにしか感じていなかった。しかし、その目には確かに怒りの炎が宿っていた。

 

「やっぱり狸だな。奈落の熊公の方がまだよっぽど骨があったし、相手の力を見極めることも出来んとは聞いて呆れる…。丁度いいハイピスト、少し離れてろ。俺の真の姿を見せてやるよ」

 

 そう言うと亮牙はたちまち元の姿、巨大な金属のティラノサウルスに変身した。ハジメとユエ、シア達ハウリアは彼の巨体を知っているからしっかり離れていたし、アルフレリックも言われた通り距離を取ったが、大きく変化したその姿に恐怖ではなく畏敬の念を抱き、目を奪われていた。

 対して、他の長老達はグリムロックの姿を見て、恐怖のあまりがくがくと震え上がっていた。ドワーフらしき亜人に至ってはかつて自分に死の恐怖を植え付けたあの巨獣を思い出し、顔面蒼白となって腰を抜かしていた。

 グリムロックはそんな長老達に目もくれず、足元にいるジンを睨みつけた。ジンはと言うと、まるで鳥から逃げ回るイモムシのように這いずり回っていた。

 

「ア、アイエエエ……」

 

 さっきまでの傲岸不遜な態度から一変、まるでニンジャリアリティショックに陥ったかのような悲鳴を上げて涙目となっているジンに対し、グリムロックは至近距離で凄まじい雄叫びを浴びせた。

 

「ゴガアアアアアアッ‼︎」

 

 その迫力に、改めて周囲の亜人達は震え上がり、それを至近距離でぶつけられたジンはショックのあまり、全ての頭髪が白熊のように白髪と化し、股間から盛大に失禁すると、そのまま茫然自失となってしまった。

 

「俺グリムロック、この狸、弱過ぎる」

 

 そう一言吐き捨てると、彼はジンに興味をなくし、再び亮牙としての姿に戻った。

 

「ん、亮牙…。流石にやりすぎ…」

「そうか?ただ吠えただけだろ。俺としちゃあ腕喰い千切ってやりたかったが…」

「…うん、そこまではやらなくて良かったね。まあどう見ても、先に手を出した向こうが悪いんだけど」

 

 流石にそんなスプラッタシーンとならなくて良かったと思わずにはいられないハジメであった。

 

 

 

 

 




グリムロックがジンに吠えるシーンは、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』で、インドラプトルが老害ハンターことケン・ウィートリーを襲ったシーンのオマージュです。

最初はインドラプトルみたいにジンの腕を喰い千切ってやろうかと考えましたが、流石にグロすぎるかと考え止めました(笑)

良かったね、狸さん!





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