グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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長老達との対峙、後編です。

今回、主人公がIDWコミックのキャラみたいに容赦無い苛烈な言葉を連発します。ご注意下さい。


獣の王

 その後、アルフレリックによってその場はとりなされ、彼と共に当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族のグゼが、亮牙達と向かい合って座っていた。亮牙の傍らにはハジメとユエと、シアとカムが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っていた。

 ちなみに熊人族の長老であるジンだが、潰れた腕は何とか回復薬で治ったのだが、精神や白髪となった頭髪はそうとも行かず、かなり深いトラウマを刻まれてしまった。特に精神面は恐怖のあまり幼児退行して一人称が『僕ちゃん』となった挙句、亮牙を見るなり、

 

「びぇぇぇん!怖いヨォ〜、お家帰るぅ〜!」

 

 などと泣き叫ぶ始末で、最早戦士として復帰するのは不可能となってしまった。

 なおそんなジンの醜態を目にした亮牙達は、心底気色悪いなと感じていた。

 

「それで、貴方達は僕達をどうしたいんです?僕達は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ干渉つもりは一切無いんですが、亜人族としての意思を統一してくれないと、いざって時は容赦しませんよ…」

 

 そう話を切り出すハジメを、土人族のグゼが忌々しそうに睨みつけてきた。

 

「こちらの仲間の一人を痛めつけておいてそれか…?友好的になれるとでも?」

「おい毛虫、さっき俺は怒鳴っただけで手を出してないぞ。あの狸が勝手に口伝を破って手を出してきた挙句、勝手に自爆しただけだろうが。それともハウリア族やハイピストの種族以外は、悪意を向けられたら笑顔で対応してやるのが流儀なのか?なら、今からお前の生皮引っぺがして内臓引き摺り出してやるから、最期までニコニコ笑っていろよ」

「ヒィッ⁉︎」

 

 亮牙の言う通り、先に手を出してきたのはジンの方であり、亮牙は吠えただけでやり返してはいない。ジンの自業自得、という正論に誰もが押し黙るしかなかった。

 ジンと親しかったグゼは言い返してやりたかったが、亮牙の真の姿を目にし、彼がかつて自分たち土人族を返り討ちにしたあの獣の同族だということを悟った。その事は知られていないだろうが、もしこれ以上怒らせたら、宣言通りの目に遭わせられるかもしれないという恐怖で震え上がった。

 そのことを理解してか、アルフレリックがグゼを嗜めた。

 

「グゼ、気持ちはわかるがそのくらいにしておけ。亮牙の言い分は正論だ」

「確かにこの者達は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼ら三人を口伝の資格者と認めるよ」

 

 そうルアは言い、糸のように細めた目で亮牙達三人を見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡すと、マオとゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示した。やがて代表して、アルフレリックが三人に告げた。

 

「灘亮牙、南雲ハジメ、ユエ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さん達三人を口伝の資格者として認める。故に、お前さん達と敵対はしないというのが総意だ。可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える…。しかし……」

「確約は出来ない、か?」

「…ああ、知っての通り、殆どの亜人族は人間族を快く思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな…」

「だから何だ?」

「お前さん達を襲った者達を殺さないで欲しい。お前さん達ならば可能であろう?」

「断る。さっきの古狸は口先だけのカスだったが、あの程度じゃビビらずに挑んでくる奴らだって大勢いるし、軽い情けは厄介な復讐を生む。そもそも殺す気で来ながら、殺される覚悟がないような奴等なんぞに情けを掛けるつもりなど毛頭ない」

 

 亮牙はそう言ってアルフレリックの頼みを一蹴した。死なせたくないのなら、長老達が死ぬ気で止めればいいだけの話だ。まあ、今のハジメとユエの実力なら一切心配はないし、流石に自分に敵う奴などこの世界の生命体にはいないだろうが。

 すると、ゼルが意地悪そうにニヤリと口を歪ませながら喋り出した。

 

「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

 その言葉に亮牙達は怪訝な顔をする。元々案内はハウリア族に任せているのに、何で自分達が案内をするような言い草をするのか、意味が分からないからだ。

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪、フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

 そう冷酷に告げるゼルに、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情を浮かべる。

 

「長老様方!どうか、どうか一族だけはご寛恕を!どうか!」

「シア、止めなさい!皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

「でも、父様!」

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

 その言葉に遂にシアは泣き出してしまい、それをカム達は優しく慰めた。

 そんな彼女達を嘲笑うかのように、ゼルは勝ち誇ったような表情を浮かべながら話を続けた。見ればグゼも同じように下卑た表情をしていた。

 

「そういうわけだ。これで、貴様等が大樹に行く方法は途絶えたわけだが?どうする?運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

 ゼルもグゼも、自分達の勝利を確信していたが…。

 

 

 

 

 

「フハハハハハハハハハハッ‼︎」

 

 それに対して亮牙は、心底馬鹿にするかのように、盛大に爆笑した。

 その様子に、その場にいた全員がキョトンとなり、やがてゼルが顔を真っ赤にして怒鳴った。

 

「な、何が可笑しい⁉︎何故笑う!」

「嗤わずにいられるか、ここまで馬鹿な連中だったとはな。どうやらハイピストとそこの狐以外は、俺が思った通り年功序列で族長の座についただけの老害のようだな」

「な⁉︎き、貴様!黙って聞いておれば──」

「黙って聞いてれば調子に乗るな、か?それはこっちの台詞だ、ゴミ屑どもが

『ッ!!?』

 

 そう言うと亮牙は、ギル達にぶつけたものより更に濃厚な殺意を放つ。それをまともに受けた長老達は皆顔を青くし身震いする。特にゼルとグゼは、少し失禁しかけていた。

 

「ハイピスト以外はさっきまでハルツィナの口伝を眉唾と一蹴していたくせに、自分達の都合のいい時に限り悪用するとはな…。大した偉業を成してもないクソ餓鬼風情が、先人達を愚弄するんじゃねえよ。それに、俺達三人の事を散々侮辱したお前らなんぞに頼るわけねえだろうが…」

「む、侮辱?それはどう言う意味だ?」

「…お前まで気付いてないのかハイピスト?ハウリア族は自分達を守るのと引き換えに、俺達を大樹まで案内するのを約束してくれた。特にシアに至っては最初、自分の身すら犠牲にしようとすらした…。だからこそ、俺達も契約が果たされるまでこいつらを守ると誓った。それをそこのドラ猫は俺達を、都合が悪くなれば簡単に約束を破るような卑怯者と見做しやがった。そうでなければさっきのような脅迫はせん」

「そ、それは…」

 

 図星を突かれ、ゼルは言葉を詰まらせた。だが、亮牙は容赦せずに続けた。

 

「それにお前らなんぞに案内を任すほど、俺達は阿呆じゃない。樹海じゃお前らは俺達と違い迷わないから、案内するふりをして闇討ちしたり、魔物の群れに誘導して俺達が応戦しているうちに逃げ出すに決まってる」

「わ、我々がそんな卑劣な真似をするとでも言うのか⁉︎」

「そうとしか思えないから言ってるんだ。少なくとも俺達は、お前らにとって最大最悪の天敵である帝国の一小隊を皆殺しにしてきて、お前達に仇なす気はないことを証明したはずだ。それをこの国の指導者であるお前らが悪意で返したというのに、信用すると思っているのか?」

 

 その言葉にハジメとユエは確かに、と考えた。案内を出すと言われたが、こんな悪意に満ちた連中が派遣するような案内人が信用できるとは思えない。

 亮牙の言った通りになれば、いずれは脱出できるだろうが、かなりの時間を浪費することは間違いない。その点から考えても、対等な取引に応じたハウリア達の方が信用できる。

 

「そもそも俺としてはお前らを問答無用で皆殺しにしても良かったんだが、流石にハジメやユエに悪影響だろうし、ハイピストやあのギルとか言う若造はまだ話の分かる奴だったから、チャンスをやろうと考えたんだ。今となっちゃ、後悔してるがな…」

「…流石に聞き捨てならんぞ。そこまで我々に殺意を抱く理由を聞かせてもらってもいいかな?」

 

 皆殺し、という不穏な言葉に、流石のアルフレリックも剣呑な表情で亮牙を睨みつけて問いただし、亮牙はふん、と鼻を鳴らした。

 

「俺達がお前らに今尚殺意を抱いてる理由は二つだ。まず一つ目は、16年前から大樹を縄張りとしている俺の盟友、スラッグにしようとした事だ」

 

 その一言に、グゼの顔から血の気が一気に引き、ガタガタと震え出した。

 

「何故俺がそのことを知ってるかって?ここに来る前に、カムが全部話してくれたよ。其処の毛虫が防衛のためじゃなく、欲に目が眩んでスラッグを殺そうとしたとな。まあ報復されなかった様子からして、彼奴自身はお前らなんぞ蝿程度にしか思ってないみたいだがら、多めに見てやるがな…」

「成る程、知らなかったとは言え、グゼ達がお前さんの友人にしようとした事はすまなかったな…。して、二つ目は…?」

「決まってる、お前らがシアにした事だ」

 

 そう言われた長老達は困惑してますます訝しむが、アルフレリックとルアはその理由を理解しているのか、動揺していなかった。

 亮牙は心底軽蔑するような視線を長老達に向けながら再び話し始めた。

 

「ふん、理解してるのはハイピストとそこの狐だけとは…。つくづく貴様らは老害だな」

「だ、黙れ!そいつは魔物と同じく、魔力を持っているんだぞ!」

「ああ、そして人間や魔人族とも同様にな。だがこの娘にはその三種類とは決定的に異なる強みがある」

 

 それを聞いたハジメとユエは、成る程と言わんばかりに声を上げた。

 

「そっか!人間や魔人族は魔力操作を持たないからどうしても初動に遅れが生じるし、魔物は魔力操作が出来てもそれを十全に活かせる知能がない。けどシアにはそうした欠点がない!」

「ん、私と同じ…。戦士として鍛えれば、この国にはシア以上に強力な戦士はいない…」

「二人の言う通りだ。魔法の適正はどうなのかは分からんが、少なくとも肉体強化に関しちゃあ中々のもんだ。それにシアの固有魔法は予知能力だ。うまく使えば、外敵や自然災害を察知するのに大きく役立つ筈だろうな」

「そ、そんな馬鹿な…」

 

 その言葉に長老たちは絶句したように声を震わせた。

 

「何よりシアのような存在は、少なくとも人間どもからの差別を終わらせる切り札になる。あのカルト教団ども曰く、お前ら亜人族は魔力を持たないから神に愛されない下等生物らしいが、民衆を使ってシアのような魔力持ちの者達を認知させれば、もうその言い分は通用しなくなって、海人族のように対等に扱わなけりゃならなくなる…。そしてそういった者達が子孫を残していけば、行く行くは大半の亜人族に魔力が受け継がれていく筈だ。時間こそかかるだろうが、お前ら亜人族は身体能力で勝っているんだから、魔力さえ身につければ最早他種族に見下されることはない」

 

 長老たちは二の句を告げられないと言うように目を見開きながら体を震わせ、ハジメとユエ、他のハウリア達も驚いたようにシアを見つめた。当のシアも、忌み子と蔑まれた自分が亜人族の希望となるかもしれない可能性を秘めていると言われ、困惑していた。

 

「それを理解していたのはハイピストと狐野郎だけみたいだな…。だが、それを指摘しても聞き入れられないし、下手をすれば自分達の一族まで迫害される。だから保身のために、見て見ぬ振りをした…」

「ああ…。下手をすれば我々も追放されていたかもしれぬ…。故に気づかぬ振りをするしかなかった…」

「うん、こうして他種族に指摘されなけりゃ、皆聞く耳も持たなかっただろうね…」

 

 アルフレリックとルアはすまなそうに口を開いた。どうやら、自分達の保身を選ぶしかなかった事を後悔しているようだ。

 そんな彼らを、グゼが掌を返して非難し始めた。

 

「アルフレリック、ルア!貴様ら、その可能性が解っていたなら何故黙っていた!話してく、グェッ!!?」

「何被害者面してやがる、老害が」

 

 そう言うと亮牙はグゼの首を掴み、締め上げ始めた。強靭な握力で鶏のように首を絞められたグゼは、たちまち目が充血して股間が濡れ始めた。

 

「冥土の土産に俺の能力も教えてやるよ。俺はシアと会う前、普通聞こえない筈の距離からこいつの声が聞こえた。最初は偶然かと思ったが、他のハウリアやお前らと会ってようやく理解した。俺はどうやらお前ら亜人族の心の声が聞けるらしい」

「亮牙、その能力ってまさか…」

「ああ、多分「獣の王」の技能だろうな。ユエと会った時は聞こえなかったんだが、シア達と出会ってからはやけに心の奥底が理解出来てるような気がしたしな…」

「ば、馬鹿な⁉︎出鱈目を──」

「黙ってろドラ猫、この毛虫の次はお前を殺してやる」

 

 思わず立ち上がったゼルだが、亮牙から殺害宣言と共に濃厚な殺意を浴びせられて尻餅をついてしまう。

 

「何故自分達がこんな目に遭わされるのかって面だな?お前らは国を守るためなどとほざいていたが、シア達を迫害した本当の理由は楽しむためだろうが…。長年魔力を持つ種族に追いやられた中、自分達亜人の中でも最弱種の兎人族の中から魔力を持つ者が生まれたんだ。憂さ晴らしをするには丁度良かったんだろう?」

「な、ち、ちが…⁉︎」

「違うなどとは言わさんぞ。お前らの魂の声は聞いたが、ハイピストと狐野郎以外は、心底愉快で堪らないと嘲笑う声しか聞こえなかったぞ?国のトップである自分達が決定したなら、どれだけ追い詰めようと報復できまい。16年隠してた以上、ハウリア達も今更引き渡すつもりもないだろうから、一族まとめて嬲れる。生まれて直ぐに始末しとけば良かったのに、馬鹿な連中だってな…」

「わ、我々はそんな──」

黙れ小僧!見苦しく言い訳を並べやがって!ただ人とは違う、そんな理由で我が子を殺せる親がいるか⁉︎ハウリアはそんな下劣な選択をしなかったが、貴様らはそうやって多くの罪なき命を虐殺しては優越感に浸ってきたんだろう⁉︎他種族から獣同然とされてきたようだが、貴様らの醜悪さは獣以下、人間どもと同類だよ‼︎」

 

 亮牙の容赦ない糾弾に、ゼルは耐えきれなくなったのか耳を塞いで目を瞑り、その場に蹲ってしまった。壊れたテープのように「違う、違う…」と呟くその姿は、もう亮牙の言葉を聞きたくないと、全身で体現していた。

 

「そこまでにしてくれぬか、亮牙殿。確かにお主の言う通り、ハウリア族の一件は我々の考え不足だった。それにゼル達はまだ若い。これ以上は彼等の心が壊れる。己を見つめ直すのに、時間をくれまいか?」

 

 怒り狂う亮牙をアルフレリックがなだめるように口を開くも、当の亮牙はまだ怒りが収まらない。

 

「だから許せと言うのか?少なくとも、ハウリア達は故郷を追われだ挙句、一部の仲間を価値なしと言う理由で殺され、奴隷にされかけたんだぞ。そもそもの原因は率先して迫害した此奴らだが、保身に逃げたお前らだって同罪だろうが」

「返す言葉もないね。確かに僕らが殺したも同然か…」

 

 そう言ってアルフレリックとルアは頭を下げた。聞こえてくる声からして、嘘偽りない、心の底からの謝罪だった。流石の亮牙も漸く怒りを収め、グゼの首を絞める手を止めた。おかげでグゼは死を免れたものの、親友のジンと同様に亮牙への恐怖心を刻まれてしまった。

 アルフレリックはふうと息を吐くと、ゼルの代わりにハウリア族の処分を述べた。

 

「ここはハウリア族はお前さん達の奴隷ということにする。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。…既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

 普通なら反対意見一つでも出そうなものだが、長老たちは何も言わなかった。亮牙の指摘を否定できなかった挙句、己の醜悪な内面を露わにされ必死に否定しようとして心が崩れてしまい、否を出せる筈がなかった。

 

「反対はないな?ならばハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、資格者である灘亮牙、南雲ハジメ、ユエの奴隷とする。そして、資格者三人には敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、彼らの一行に手を出した場合は全て自己責任とする…。以上だ。何かあるか?」

「…いいだろう。二人は構わないか?」

「大丈夫、問題ないよ」

「ん、異議なし…」

「そうか…。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが…」

「構わん。これ以上いたら殺意を抑えられなくなって、敬意を払ってくれたお前の事も殺したくなっちまいそうだからな…。あとそこのドラ猫に伝えといてくれ。次ふざけた真似をすれば、俺の手でお前から全身の骨と大事な()()()()を引っこ抜いて、薬膳酒の材料にしてやるってな」

 

 亮牙はそう言って立ち上がると、ハジメとユエ、シア達を促した。ハジメとユエはすぐに立ち上がるが、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がなかった。

 亮牙は仕方ないなと言わんばかりに、未だボーっとしてるシアの肩に手を置いた。

 

「どうした?話が長引いて、足が痺れちまったか?」

「あ、あの、私達、死ななくていいんですか…?」

「ああそうだ。さっきの話聞いてたろ?」

「い、いえ、聞いてはいましたが…。その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか…。…信じられない状況といいますか…」

 

 シアだけでなく、周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だが、ハジメとユエが語り掛けた。

 

「…素直に喜べばいい」

「ユエさん?」

「…貴方達は亮牙に救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

「だね。亮牙は誤解されやすいけど、基本的に心優しい奴だからさ。今回の君らが受けた仕打ちは、放ってはおけなかったんだろうね」

 

 二人の言葉を聞くと、シアは再び亮牙に視線を戻した。それに対して彼は不器用ながらも言葉を続けた。

 

「あの時、峡谷で俺はお前に、力を悪用したかどうかを聞いたな?」

「は、はい…。それが?」

「その時にお前の魂の声を聞いて、お前がそんな真似をしてない事を理解した。なのにお前らから理不尽に平穏を奪って、正義面するあの老害どもが許せなかった。それだけさ」

 

 その言葉にシアは肩を震わせる。樹海の案内と引き換えに彼女と家族の命を守る。亮牙が誓ってくれた約束だ。

 元々、「未来視」で亮牙達が守ってくれる未来は見えていたが、それで見える未来は絶対ではなく、選択次第でいくらでも変わるものなのだ。だからこそシアは彼らの協力を取り付けるのに必死だった。相手は亜人族に差別的な人間で、何も持たないシアにとって交渉の材料など、自分の「女」か「固有能力」しかなかった。 

 けれど事情を聞いた亮牙達が持ちかけてきたのは、シア達との契約だった。当初は途中で破棄されてもおかしくないと思っていたが、道中話している内に何となく、この人達なら約束を違えることはないだろうと感じていた。自分が亜人族であるにもかかわらず、差別的な視線が一度もなかったことも要因の一つだが、それはあくまで何となくであり、確信があったわけではなかった。故にシアは内心の不安に負けて、「約束は守る人だ」と口に出してみたり「人間相手でも戦う」などという言葉を引き出してみたりしたのだが、実際に亮牙は何の躊躇いもなく帝国兵と戦ってくれた。

 だが、今回ばかりはいくら亮牙でも見捨てるのではという不安がシアにはあった。長老衆の提案に従った方が彼らに損は無いし、口伝にある資格者として歓迎されないかもしれないが、一国丸ごと敵に回すよりはずっとマシだからだ。

 しかし、亮牙はフェアベルゲンと敵対してでも自分達の契約を選ぶと宣言し、更にシアが受けた仕打ちに対して心の底から怒ってくれた。そんな彼の姿と言葉はシアの胸に響いた。そしてユエの言う通り、シアと大切な家族は確かに守られたのだ。

 先程、一度高鳴った心臓が再び跳ねた気がした。顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくるが、これは家族が生き残った事への喜びだけではない事は、シアにも理解できた。彼女はユエの言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せ、亮牙に全力で抱きつく事で表した。

 

「亮牙さ~ん!ありがどうございまずぅ~!」

「ん、どうした?急に抱きついたりして」

 

 シアは全力で抱きつき、泣きべそをかきながらも安堵に緩んでいる顔を、ぐりぐりと亮牙の肩に押し付けた。そんな様子をハジメとユエは暖かい目で見守り、亮牙も最初は戸惑っていたが、すぐに仕方ないなと言う表情になって、彼女の頭を優しく撫でてあげた。

 シアの嬉しそうな様子を見て、カムや他のハウリア族もようやく命拾いしたことを実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っていた。

 

 

 

 

 




〜用語解説〜
・獣の王
 覚醒後の主人公が獲得していた技能。魔物を含めた全ての野生動物と意思疎通ができる他、亜人族のように獣の要素を持つ知的生命体の魂の声を聞き、考えを読むことが出来る。シアの助けの声も、彼女の魂の声が聞こえたためである。
 二章の第二話『情けは人の為ならず』にて、主人公がシアの額に自分の額を近づけたのも、彼女の言い分の真偽を確かめるためであり、それにより彼女が嘘をついていないと見抜けた。

・ゼルのタマタマ
 現在、野生の虎は全ての種類が生息地の開発や密猟のために絶滅の危機に瀕している。密猟される理由は毛皮だけでなく、強さの象徴として骨やタマタマに滋養強壮の効能があると信じられ、漢方薬や薬膳酒の原料にされるためである(無論、科学的根拠はない)。
 元々ゼルへの警告ではこのネタを使いたかったのと、シュワちゃん主演の映画『レッドブル』での主人公の台詞へのオマージュ。





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