反抗期ならぬ発情期の看板娘のいる宿と、漢女の登場は次回になります。
新たにシアとスラッグを仲間に加えた亮牙達は、樹海の境界でカム達の見送りを受けた後、二台の魔力駆動二輪に乗り込んで平原を疾走していた。これもまたハジメが作製した発明品で、アメリカンタイプの「シュタイフ」とサイドカー付きの「アリオン」の二種類がある。
何故グリムロックとスラッグのビーストモードで移動しないかというと、スラッグに早く人間態に慣れさせるためと、これから向かう先を考えての判断だ。位置取りは、シュタイフにハジメとユエが、アリオンには亮牙とシア、そしてサイドカーにスラッグが乗っている。
なおシアは無意識か狙っているのか、密着することで自慢の巨乳を亮牙の背中に押し付けていた。初めて感じるムニュッ♡という柔らかい感触に亮牙が内心戸惑っていると、肩越しにシアが質問してきた。
「亮牙さん、そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」
「ん?そう言えば伝えそびれてたな…。次はライセン大峡谷だ」
「ライセン大峡谷?」
「ああ。一応峡谷も七大迷宮があるそうだからな。魔人族の縄張りのシュネー雪原はまだ面倒くせぇし、取り敢えずグリューエン大火山を目指すつもりなんだが、東西に伸びる峡谷を通りながら行けば、途中で迷宮も見つけられるだろう」
「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか…」
そう言われ、シアは思わず頬を引き攣らせた。トータス人にとってライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識であり、彼女に至ってはつい最近一族が全滅しかけた場所でもあるため、想い人がそんな場所を唯の街道と一緒くたに考えている事に動揺を隠せなかった。
密着しているために彼女の動揺が手に取るように分かった亮牙は、落ち着かせるよう話しかけた。
「自信を持て。俺達と会う前なら兎も角、今のお前なら谷底の魔物にも負けん。それに峡谷じゃあ放出された魔力を分解するから、身体強化に特化したお前の独壇場だ。無論、俺やスラッグもな」
「俺スラッグ、早く戦いたい!」
「えへへ〜、ありがとうございますぅ。ではライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか?それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」
「町だ。今後のために素材の換金や物資の調達もしたいからな…。前に見た地図通りなら、この方角に町があった筈だ」
亮牙自身は問題なかったが、いい加減ハジメとユエにまともな料理を食べさせてやりたいと思っていたところだ。それに今後、町で買い物なり宿泊なりするなら金銭が必要になる以上、腐る程持っている素材を換金しておきたかった。それにもう一つ、ライセン大峡谷に入る前に落ち着いた場所で、やっておきたいこともあったのだ。
それを聞くと、シアは何故か安堵の表情を見せた。
「はぁ~そうですか。…よかったです」
「ん?どうしてだ?」
「いやぁ~、亮牙さんとハジメさんのことだから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして…。ユエさんはハジメさんの血があれば問題ありませんし、スラッグさんも大丈夫そうですから…。どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。亮牙さんもまともな料理食べるんですね!」
「俺スラッグ、ちょっとは肉も食うけど、基本的に
「…まあ俺も元々野生動物だから今更選り好みなんざしないんだが、人間生活のうちに結構舌も肥えてきたからな…。にしてもお前、俺を何だと思ってるんだ…?」
「…プレデターという名の新種の魔物?」
「酷くないか?まあ
「「良いのかよ⁉︎」」
とんでもなく失礼なことを言うシアだったが、元々が捕食者の亮牙はそこまで気にしなかった。まあこれがクラスメイトに言われてたらタコ殴りにしていただろうが…。
「でも、亮牙さんと一緒に旅する事が出来て良かったです!亮牙さん、とっても優しいですもん!」
「………ありがとよ」
「俺スラッグ、グリムロック照れてるな?」
「うるせぇ…」
シアにそう言われて照れ臭そうにする亮牙をスラッグが茶化し、隣を並走するハジメとユエが微笑ましそうに見ていた。そんな感じで五人は、非常に仲の良い様子で騒ぎながら草原を進んでいった。
数時間ほど走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に堀と策で囲まれた町が見えてきた。街道に面した部分には門が立てられ、その傍には門番の詰め所と思しき小屋も建っていた。小規模とはいえ門番を配置する程度の規模はあるなら、それなりに充実した買い物が出来るだろう。
奈落から出て空を見上げた時のような「戻ってきた」という気持ちが湧き出したからか、ハジメとユエはワクワクした様子で頬を綻ばせ、お互い微笑みを浮かべ合っていた。
「よし、これから久々に町に入るが、その前に幾つか注意だな」
流石に乗った状態で町の傍まで行けば確実に騒がれるため、亮牙達は町の門からある程度離れた所で魔導二輪から降りた。その他にも幾つか事前に打ち合わせておくべき事項があった。
「まずハジメはステータスプレートの隠蔽だな」
「だね。でも、亮牙の場合はどうするの?」
ハジメが懸念したのは天職と年齢の事だ。プレートはステータスの数値や習得技能は隠せても、名前・年齢・天職といった基本情報は隠すことは出来ない。それまで隠蔽可能となれば身分証明書としての効力が失われるからだ。
「俺の天職はありふれなさ過ぎるし、年齢もぶっ壊れておかしくなったとか言って誤魔化すのも難しいからな…。有料とは言え再発行も出来るみたいだから、紛失したってことにするよ。最初から持ってないユエやスラッグもそれで通せばいいだろう」
「了解。武器は一端全部宝物庫に仕舞った方が良いかな?」
「ああ。まあこの世界の人間じゃ最強クラスらしいヘナチョコ帝国も俺の前じゃあ蛆虫同然だったし、誰が絡んでこようが問題ないさ。最後にシアに関してなんだが…」
少し言い淀む亮牙に、シアが軽く首を傾げた。
「…シアはプレート云々以前に懸念すべきことがあるからな。そのために今後はこれを付けて行動してもらうぞ…」
そう言って亮牙が取り出した物を見てシアは「えっ⁉︎」っという表情になった。
そうして歩いていくこと少し、町の門にたどり着いた亮牙達は、そこで門番をしていると思わしき冒険者風の男に呼び止められた。
「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」
規定通りの質問なのか、どことなくやる気なさげな門番に対して、ハジメはステータスプレートを取り出して答えた。
「食料の補給がメインです。旅の途中なもので」
「ふ〜ん」
気のない声で相槌を打ちながらハジメのステータスプレートをチェックした門番は、問題なしと判断してステータスプレートを返した。
「それで、その四人は…」
門番は亮牙達に視線を向けるが、ユエとシアを見た瞬間硬直し、みるみると顔を真っ赤に染め上げると、ボーと焦点の合わない目で交互に見惚れていた。二人とも絶世の美少女なので、見惚れるなと言う方が無理だろう。
その様子に呆れつつも、亮牙がわざとらしく咳払いして門番を正気に戻して答えた。
「俺達三人のステータスプレートは、道中襲撃してきた魔物と戦っているうちに無くしちまってな…。もう一人の兎人族は、察しろ…」
その言葉に門番は成る程と納得したように頷き、亮牙達に羨望の眼差しを向けた。
「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか?あんたらって意外に金持ち?」
「彼女なら奴隷狩りをしていたカス共から奪ってきた。そいつらを皆殺しにしてな」
流石に鬱陶しくなってきたのか、さらっととんでもない事を口にした亮牙に、門番は凍りついた。
「冗談だ、本気にするな」
「アハハ、すみません。彼、ユーモアのセンスが悪くて…」
「何だ、びっくりした…。趣味が悪いぞ…」
冗談だと知った門番はホッと胸を撫で下ろした。実際は一人だけ谷底に投げ捨てて魔物に食わせ、残る帝国兵は全て亮牙が抹殺したのだが。
「まぁいい。通っていいぞ」
「どうも。あっ、そう言えば素材の換金場所って何処にありますか?」
「あん?それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」
「成る程。ありがとよ」
「いいってことよ」
門番から情報を得て、亮牙達は門の中に入っていった。門のところで確認したがこの町の名前はブルックと言うらしく。町中はそれなりに活気があった。ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。こういう騒がしさは訳もなく気分を高揚させるもので、ハジメとユエも楽しげに目元を和らげていた。
しかし、シアだけは先程からぷるぷると震えながら、怒鳴ることもなくただジッと涙目で亮牙を睨んでいた。理由の分かっている亮牙は成るべく気にしないようにしていたが、スラッグが不思議に思って彼女に尋ねた。
「俺スラッグ、どうしたシア?腹減ったのか?」
「違いますよスラッグさん!これです!この首輪です!これのせいで奴隷と勘違いされたじゃないですか!亮牙さん、分かっていて付けたんですね!うぅ、酷いですよぉ~、私達、仲間じゃなかったんですかぁ~」
そう、今のシアの首には、門に着く前に亮牙が渡した首輪が着けられていた。これもハジメが作ったもので、黒を基調として小さな水晶が散りばめられている。
シアが怒っているのは、旅の仲間だと思っていたのに、意図して奴隷扱いを受けさせられたことが相当ショックだったからだ。もちろんこの首輪は本来の奴隷用の物ではなく、彼女を拘束するような力はないのは彼女自身も分かっている。それでも、やはりショックなものはショックなのだ。
一方の亮牙もそれについて罪悪感があるのか、謝りながら彼女に理由を伝えた。
「だからごめんって……。兎人族の中でもお前は珍しいから、ヘナチョコ帝国の連中みたいな輩がちょっかいをかけて来ないように、俺の物だっていう証が必要だから………っておい、どうした?」
そう、唯でさえ愛玩奴隷として人気が高い兎人族であるのに、珍しい髪色に容姿もスタイルの抜群の美少女であるシアは、格好の人攫いの的だ。奴隷、即ち所有物としておけば、手を出せば当然罰則を食らう事になるので、彼女を守るにはこうするしか他にない。
言い訳あるなら言ってみろやゴラァ!という感じで亮牙を睨んでいたシアだったが、彼の謝罪と理由を聞いている内に照れたように頬を赤らめながらイヤンイヤンと身体をクネクネし始めた。そんな姿にハジメとユエも呆れ果て、スラッグは頭に?マークを浮かべていた。
「も、もう!亮牙さんったらこんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。私が容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だから俺の物にするだなんて、そんな~、大胆すぎますよ~!」
「んな事言ってないだろうが…。ハジメに頼んで念話石と特定石も埋め込んで貰ったから、魔力を流せば連絡も取れるし何かあった時は直ぐに駆け付けられる。特定量の魔力でちゃんと外せるようにもなってるし、不快にさせるのは申し訳ないが、お前を守るための必要悪として大目に見てくれ…」
「むぅ…。言ってることは判りますけど…」
理屈も有用性も、何より亮牙が自分の事を想ってくれているのは理解しつつも、やはりシアは納得し難いようで不満そうな表情となった。今まで一族の皆とは違う生まれをしていると言う点から同族や仲間と言うものに人一倍強い憧れを持っていたが故に、簡単には割り切れないのだろう。
そんな彼女の気持ちを察して、ユエが傍に歩み寄り声を掛けた。
「…有象無象の評価なんてどうでもいい」
「ユエさん?」
「…大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分。…違う?」
「…そう、そうですね。そうですよね」
「ん、不本意だけど、シアは私が認めた相手…。…小さい事気にしちゃダメ」
「…ユエさん。えへへ、ありがとうございますぅ」
それは大衆の為に生き、けれどその果てに孤独になったユエだからこそ、その言葉に重みがあった。だからこそその言葉はシアの心にストンと落ちた。自分が亮牙達の大切な仲間であるということは、一族の皆も亮牙達も理解している。万人に認められるような奴なんて早々居ない以上、いらぬトラブルを招き寄せてまで無理に万人に理解してもらう必要など無いのだ。
ユエの言葉に照れたように微笑んだシアを見て、肩を竦めながら亮牙は言葉を紡いだ。
「納得してくれて何よりだ。まぁ仮に奴隷じゃない事がバレたって見捨てたりはせんよ」
「街中の人が敵になってもですか?」
「国中だろうが全人類が敵になろうとな。カムと約束したんだ。父親同士として、その誓いを破るつもりはない」
「くふふ、聞きました、皆さん?亮牙さんったらこんなこと言ってますよ?よっぽど私が大事なんですねぇ~」
「…言っとくがお前だけじゃねえ。それがハジメやユエ、スラッグであっても同じだ。ほら、行くぞ」
「あっ、亮牙さん!待ってくださいよぉ〜」
照れ臭くなり、そうぶっきら棒に言いながら早足で突き進む亮牙を、慌ててシアが追いかける。そんな彼の背を見ながらスラッグが嬉しそうに呟いた。
「俺スラッグ、グリムロックの奴、暫く見ないうちに面白くなった気がする」
その意味が理解できるハジメとユエは、からかう様な視線や生暖かな視線を向けながら、スラッグと共に後を追うのであった。
そうやって何処か賑やかにメインストリートを歩いていった亮牙達は、一本の大剣が描かれた看板を発見した。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だが、規模は此方の方が二回りほど小さかった。
看板を確認した亮牙は、重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。南雲家で学んだ創作物での知識から、冒険者のイメージは無頼漢ばかりで、中も薄汚れた雰囲気だと思っていたが、予想に反して中は清潔だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようで、何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしていた。誰一人飲酒をしておらず、アルコールの匂いすらしない事から、酒は取り扱っていないみたいだ。
中の冒険者達は一度亮牙達に視線を向けた後にユエとシアを見つけ、ぼーと見惚れて恋人に殴られる者が続出した。なお女性陣にも、亮牙やスラッグ、ハジメに見惚れている者が僅かながらにいた。地球でクラスメイトの阿呆どもに向けられていたものより遥かにマシな視線の中を、亮牙は特に気にする事なく歩いていきカウンターにたどり着いた。
カウンターには、横幅がユエ二人分と恰幅の良い中年女性が笑顔を浮かべて待っていた。内心、美人の受付を期待していたハジメだが幻想だったと悟り、こっそり落胆してユエから冷めた視線を向けられていた。
それに気づいたのか、女性がニコニコ笑いながら話しかけてきた。
「可愛い彼女がいるのに、まだ足りなかったのかい?残念だったね、美人の受付じゃなくて」
「い、いえ。そんなつもりは…」
「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ?男の単純な中身なんて簡単に分かっちまうんだからね。まあ、そっちの兄ちゃんはそんなこと考えなかったようだけどね。そっちの兄ちゃん見習わないと、いつか愛想尽かされちまうよ?」
「彼女の言う通りだハジメ。いつの世も、男ってのはそういう点じゃ女には敵わんよ」
「…肝に銘じて置きます…」
亮牙がそう親友を嗜めながら周囲を見渡すと、冒険者達が「あ~あいつも説教されたか~」みたいな表情でハジメを見ていた。どうやら冒険者達が大人しいのは、この女性の手腕と肝っ玉の太さのおかげみたいだ。
「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」
「ああ、仕留めてきた魔物の素材の買取を頼む」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「え?買取にステータスプレートの提示が必要なんですか?」
ハジメの疑問に女性は「おや?」という表情をした。
「あんたら冒険者じゃなかったのかい?確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」
「成る程、冒険者ギルドのない異国から来たものだから、勉強になったよ」
他にも冒険者になると色々な特典があるらしい。ギルドと提携している宿や店は一、二割程度は割引きが利き、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするようだ。まあ移動手段については一切問題はないのだが。
「う~ん、そうか。なら折角だし登録しておこうかな。悪いけど持ち合わせが全くないんで、買取金額から差し引いて貰えませんか?もちろん、最初の買取額はそのままでいいので」
「可愛い子二人もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」
「感謝する。手間をかけてすまんな」
「若いのに細かい事なんて気にしてんじゃないよ。あんたとそこの兄ちゃんはいいのかい?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「俺スラッグ、特に気にしない」
そう言うと女性はそうかい、とそれ以上言ってこなかった。ユエとシアも同様だ。ハジメがステータスプレートを差し出し、少しして女性が返すと、職欄の横に出来た職業欄に冒険者と表記され、更にその横に青色の点が付いている。この点は冒険者ランクで、上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。なおこの世界の貨幣「ルタ」も冒険者ランクと同じ種類で、日本の貨幣価格と同じ価値で上がっていく。
つまり、今のハジメは1ルタ程度の価値しかないと言われているみたいなものだ。この制度を考えた人間の性根の捻くれ具合が伺える。
「男なら頑張って黒を目指しなよ?お嬢さん達に格好悪いところ見せないようにね」
「勿論です。それで買取は、ここでいいんですか?」
「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」
「ああ、頼む」
この女性は買取品の査定もできるらしく、亮牙はあらかじめ宝物庫のポーチから出して、魔物の皮革で作った袋に入れ替えておいたハルツィナ樹海の魔物の毛皮・爪・牙・魔石をカウンターに取り出していった。それを見た女性は、驚愕の表情をしながら素材を手に取った。
「こ、これは…!とんでもないものを持ってきたね…。樹海の魔物の奴だね?」
「ああ」
「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ…。でも、いいのかい?中央ならもっと高く売れるよ?」
「いや。面倒臭いし、さっきも言ったが路銀もないから、ここで頼む」
「そうかい」
全ての素材を査定した女性が提示した買取額は487000ルタと、中々の金額だった。しかも本来はこれにギルドの登録料が上乗せされているのだから、正確にはもっと高額なのだろう。
亮牙は51枚の貨幣を受け取ってから、ふと思い出したかのように尋ねた。
「そう言えば門番から、ここならこの町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが…」
「ああ、ちょっと待っといで…。ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」
女性が手渡した地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。世間一般の簡易な地図が子供の落書きに見えるレベルだ。
「これ程立派な地図を無料で貰ってもいいのか?有料でも構わない代物だぞ…」
「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」
「…俺スラッグ、あんた、結構お偉いさんか?」
「いい女には秘密が付きものさ。あんまり詮索するもんじゃないよ?」
「まあ、確かにな…」
正にこのギルド最強のオカンと呼ぶに相応しい貫禄だ。これこそまさに年季の違う大ベテラン、若い時期を越えてもなお、人に慕われる良い女の一つの形と言う奴だ。
亮牙にとってもこういう女性の方が好感が持てる。下手に容姿だけが整ってるだけの香織や雫よりは遥かにマシだ。
「色々と助かった。ありがとう」
「いいってことさ。それより金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」
「そうします」
ハジメがそう苦笑しながら返事をし、亮牙達と共に入口に向かって踵を返してギルドを後にした。
「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね…」
後には、そんな女性の楽しげな呟きが残された。
〜オリジナルアーティファクト〜
・アリオン
本作でハジメがシュタイフと共に発明した、サイドカー付きね魔力駆動二輪。基本性能はシュタイフと同じ。
元々出発時は亮牙、ハジメ、ユエの三人だったので、人に目立ちやすい所やビーストモードで進むには狭い所での移動手段として開発された。現在は亮牙が運転し、その後ろにシア、サイドカーにスラッグが乗り込んで移動する。
名前はギリシャ神話に登場する神馬アリオンから。サイドカーと言う設定は、恐竜戦隊ジュウレンジャーのサイドザウラーと、久正人氏の漫画『ジャバウォッキー1914』へのオマージュ。
感想、評価お待ちしております。