稚拙な文章ですが、今回は若干、マイケル・ベイ顔負けの下ネタとお色気シーンがあります。
ガイドブックも同然な地図を見た亮牙達は、「マサカの宿」という宿屋に宿泊することにした。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるみたいだ。その分少し割高だが、金も充分手に入ったし問題ないだろう。
宿の中は一階が食堂になっているようで、複数の人間が食事をとっていた。亮牙達が入るとお約束のようにユエとシアに視線が集まった。それらを無視してカウンターらしき場所に行くと、15歳くらいの少女が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませー!ようこそ『マサカの宿』へ!本日はお泊りですか?それともお食事だけですか?」
「宿泊だ。ギルドから貰ったこの地図を見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」
そう告げる亮牙が持っている地図を見て、少女は合点がいったように頷いた。
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
少女がテキパキと宿泊手続きを進めようとするが、ハジメはあのギルドの受付嬢の名前がキャサリンだったことが何となくショックだったらしく、何処か遠い目をしていた。
「おいハジメ、もう眠いのか?」
「あ、ああ、ごめん。何でもないよ…」
「ならいいが…。取り敢えず一泊だ。食事と風呂付きでな」
「はい。お風呂は15分100ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが…」
「ふむ、じゃあこの時間帯で2時間頼む」
「えっ、2時間も⁉︎」
時間帯表を亮牙達に見せた少女は、彼の返答に驚いた。
亮牙・ハジメ・ユエにとってはオルクスを脱出してから、シアは一族共々フェアベルゲンを追放されてから暫く風呂に入っていなかったし、スラッグに至っては多分トータスに来てから一度も入っていないだろう。故になるべくゆっくり入浴したかったし、男女で分けるとして2時間は確保したかった。17年間日本で育った亮牙やハジメとしては譲れないところだ。
「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋や三人部屋が空いてますが…」
少女はそう尋ねながら、ちょっと好奇心が含まれた目で亮牙達を見た。そういうのが気になるお年頃だ。だが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたいと思うハジメ。
ユエもシアも美人とは思っていたが、想像以上に二人の容姿は目立つようだ。出会い方が出会い方だったし若干ハジメの感覚が麻痺しているのだろう。亮牙に至っては、そもそもシアに告白されるまで人間の女性に興味すらなかった。
「いや、五人部屋で頼む」
躊躇いなく即答した亮牙に周囲がざわつき、少女も少し頬を赤らめた。本人としては金は出来たもの、今後のことも考えて節約しようと考えての判断だ。
だが、そんな彼の言葉にユエが待ったをかけた。
「…ダメ。二人部屋二つに一人部屋、もしくは三人部屋と二人部屋で…」
周囲の客達、特に男連中が亮牙やハジメ、スラッグに向かって「ざまぁ!」という表情をしていた。ユエの言葉を男女で分けろ、もしくは自分は一人部屋にしろという意味で解釈したのだろう。だが、そんな表情は、次の彼女の言葉で絶望に変わる。
「私とハジメで一部屋。…スラッグには悪いけど、亮牙はシアと寝てあげて」
「「コラコラ何言ってんだ」」
「わ、私も亮牙さんと一緒に寝たいですぅ!」
「「お前もかい…」」
ユエとシアの言葉に、絶望の表情を浮かべた男連中が、次第にハジメや亮牙に対して嫉妬の炎が宿った眼を向け始めた。宿の少女は既に顔を赤くしてチラチラとハジメとユエ、亮牙とシアを交互に見ていた。
ハジメが、これ以上羞恥心を刺激される前に止めに入ろうとするが、その目論見は少し遅かった。疑問顔となっていたスラッグが、とんでもない爆弾発言をしたからだ。
「俺スラッグ、ユエはハジメと、シアはグリムロックと交尾したいのか?」
静寂が舞い降りた。誰一人言葉を発することなく、物音一つ立てない。今や宿の全員が亮牙達に注目、もとい凝視していた。厨房の奥から、少女の両親と思しき女性と男性まで出てきて「あらあら、まあまあ」「若いっていいね」と言った感じで注目している。
やがて、ハジメは顔を真っ赤にしながら、静寂を破るかのように絶叫した。
「ちょっとぉぉぉぉぉ⁉︎なんて生々しいこと真顔で言うんだよぉぉぉぉっ!!?」
「え、だって俺スラッグ、ユエとシアのフェロモンレベル嗅いでみたけど、そうとしか思えないぞ?」
「そ、そうなんですスラッグさん!亮牙さんに私の処女を捧げたいんですぅ!だから亮牙さんと一緒に寝させてください!」
「ほら、シアも認めてるぞ」
「…あのなスラッグ、そういうのは分かっても言わないのが人間社会のマナーらしいぞ。てかシアもそんな事簡単に口にするなよ…」
「うーむ、俺スラッグ、人間社会って中々面倒臭い…」
「ん、スラッグにも、いつか好きな人が出来たら分かる…」
「言ってる場合かお前らぁぁぁぁぁっ!!!」
あまりにもマイペース過ぎる仲間四人の発言に、ハジメは最早ツッコみが追いつかなくなってきた。
暫くして息も絶え絶えになりながら、漸く落ち着きを取り戻したハジメはクルリと少女に向き直り、その視線を受けた少女はビシィと姿勢を正した。
「はぁはぁ…。騒がせてすみません…」
「い、いえ、ご心配なく…」
「こりゃ男女に分けてもユエが我慢出来ずに忍び込むだろうな…。スラッグ、一人でも大丈夫か?」
「俺スラッグ、ガキじゃないから心配するな!」
「くれぐれもベッドを壊したり、枕や布団を引き裂かないでね…。じゃあ、二人部屋二つと一人部屋で頼みます…」
「す、凄い…!はっ、まさかお風呂を2時間も使うのはそういうこと⁉︎お互いの体で洗い合ったりするんだわ!それから、あ、あんなことやこんなことを…。なんてアブノーマルなっ!」
話し合いの末、部屋割りを決めたのだが、少女は良からぬ妄想に浸りトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと彼女を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。部屋の鍵を渡しながら「うちの娘がすみませんね」と謝罪するが、その眼には「男だもんね?分かってるよ?」という嬉しくない理解の色が宿っていた。絶対、翌朝になれば「昨晩はお楽しみでしたね?」とか言うタイプだ。
何を言っても誤解が深まりそうなので、急な展開に呆然としている客達を尻目に、亮牙達はそのまま三階の部屋に逃げるように向かった。暫くすると、止まった時が動き出したかのように階下で喧騒が広がっていたが、ハジメは何だか異様に疲れたので気にしないようにしていた。それぞれの部屋に別れて入ると、彼はベッドにダイブして意識をシャットダウンした。
夕食の時間には目覚め、階下の食堂に向かったのだが、何故かチェックインの時にいた客が全員まだ其処におり、ハジメは一瞬頬を引き攣らせ、亮牙も同感なのか呆れた表情をしていた。それでも何とか冷静を装って席に着く彼らのもとに、初っ端から滅茶苦茶顔を赤くした宿の少女が給仕にやって来た。「先程は失礼しました」と謝罪してはいるが、瞳の奥の好奇心が隠せていなかった。注文した料理は確かに美味かったのだが、せっかく久しぶりに食べたまともな料理はもう少し落ち着いて食べたかったなと、亮牙とハジメは内心溜息を吐くのだった。
そのため、風呂だけはせめてゆっくり入浴したいと考えた亮牙とハジメは、男女で時間を分けると女性陣を先に入浴させ、自分達男性陣は後から入浴する事にした。当然、ユエとシアは一緒に入りたいと駄々をこねたのだが、流石に苛立ってきた亮牙が、
「…お前らに気を遣って黙ってきたが、はっきり言ってお前ら二人とも、周囲のガチムチ野郎どもより汗臭いぞ。特にユエ…」
と言ったら二人とも顔を真っ青にして、大人しく時間帯を守って入浴した。流石に、好きな男の前でいつまでも不潔でいるのは嫌だったようで、念入りに汗や汚れを洗い落としていた。おかげで男性陣もゆっくり入浴する事ができ、亮牙とハジメは安堵した。
なお、こっそり風呂場の陰から宿の少女が覗こうとした挙句、女将さんにバレて尻叩きされていたのは、ここだけの話である。
「ふぅ、久々に布団で寝られるな…」
夜になると、亮牙はそう呟きながら、上着を脱いでラフな格好になってベッドに横になった。
ハイリヒ王国で割り当てられた部屋やホルアドの宿泊施設のベッドの方が豪華だったが、あの時は警戒心からしっかり寝れてはいなかった。オスカーの隠れ家のベッドもハジメとユエに使わせて自身はリビングのソファーで横になっていたし、迷宮脱出後は野宿と言う事で見張りのために全く寝ていなかった。
故に亮牙がトータスに来てからゆっくり布団で眠れるのは、今回が初めてであった。だが、今回は別の意味で一筋縄ではいかなかった。
「…シア、ベッドなら隣にもう一個あるだろ?態々こっちに来なくてもいいんだぞ?」
「良いじゃないですか。好きな人と相部屋になれたんですから、一緒に寝ない方がおかしいですよ。…それとも亮牙さんは、私と一緒は嫌ですか?」
「いや、俺は図体がでかいから、お前が狭いんじゃないかと…」
「もう、そんな事ないですよ。寧ろ亮牙さんと密着出来て嬉しいですぅ///」
そう、相部屋であるシアが、二つあるベッドの一つを使わず、亮牙が横になっているベッドに潜り込んできたのだ。
しかも今の彼女、出会ってから着ていた服でさえビキニのような露出度の高さだったのに、今はユエがこっそり用意してくれた下着一着の姿なのだ。フリルやリボンが可愛らしいが、ブラジャーの真ん中には彼女の巨乳を強調するかのように穴が空いて、胸の谷間を覗かせていた。
亮牙は人間になってから17年間異性に興味を抱いた事はなく、ユエの事も良き友人として見ていた。だがシアに対しては、自分と同じく理不尽に故郷を追われ家族を殺された境遇にシンパシーを感じていたが、告白されてからはやけに彼女を意識するようになっていた。
地球ではたまにハジメが隠し持っていたエロ本を興味本位で少し見てみたが、掲載されていた裸や水着姿の女性は誰一人として魅力的には感じなかった。シアのスタイルは確かにそのモデル達よりナイスバディだが、それだけが彼女を意識してしまう理由ではないだろう。
そんな状況の中、アリオンに乗っていた時みたいにシアが密着することで、再びムニュッ♡という柔らかい感触が亮牙を戸惑わせる。それに気づいたシアが、悪戯っぽく微笑んだ。
「ふふふ、やっぱり亮牙さんっておっぱいが好きなんですね?移動中に私が密着していた時、意識していたのには気づいてましたよ?女性はそういうのには敏感ですから」
「す、すまん。そういうつもりは…」
「謝らなくていいですって。私の純潔は亮牙さんに捧げるって決めてますから、ムラムラしてきたら何時でも良いですからね?思う存分私のおっぱいを堪能させてあげますから♡」
「…ったく、あまり大人を揶揄うな」
そう言ってウインクするシアに、亮牙は自身の顔が赤くなってきたのを悟られないよう顔を背けるしかなかった。その夜、彼は隣ですやすやと眠る少女に対して、何千万年ぶりに湧き上がってきたとある欲求を必死に堪えていたため、やはりしっかりと眠れなかった。
翌朝、朝食を食べた後、亮牙とハジメはユエとシア、スラッグに金を渡し、旅に必要なものの買い出しを頼んだ。チェックアウトは昼なのでまだ数時間は部屋を使えるため、三人に買出しに行ってもらっている間に、部屋で済ませておきたい用事があったのだ。
「お二人とも、用事って何ですか?」
シアが疑問を素直に口にすると、ハジメは、
「ちょっと作っておきたいものがあってね。構想は出来ているし数時間もあれば出来るはずだから、昨日のうちにやろうと思っていたんだけど、疲れて出来なかったからさ…」
「俺も寝不足だから、ハジメの手伝いしつつ休みたいんだ。スラッグとの親睦も兼ねて、今回は三人で行ってきてくれ…」
「そ、そうだ!ユエさん、スラッグさん!私、服も見ておきたいんですけどいいですか?」
「…ん、問題ない。私は、露店も見てみたい。スラッグもいい?」
「俺スラッグ、賛成だ!人間の食い物、食ってみたい!」
そう言われたユエとシアはサッと視線を逸らし、スラッグを交えてきゃいきゃいと買い物の話をし始めた。ハジメと亮牙の寝不足は自分達が原因だと分かってはいるが、心情的に非を認めたくないので、阿吽の呼吸で話題も逸らしていた。
「…まあ頼むぞ。スラッグ、二人の言う事しっかり聞くんだぞ」
「俺スラッグ、ガキじゃないやい!」
町に出たシアとユエ、スラッグの三人は、食料品や薬関係、そしてシアとスラッグの衣服の調達に出かけた。
町の中は既に喧騒に包まれており、露店の店主が元気に呼び込みをし、主婦や冒険者らしき人々と激しく交渉をしていた。飲食関係の露店も始まっているようで、朝から濃すぎるくらい肉の焼ける香ばしい匂いやタレの焦げる濃厚な香りが漂っていた。
そうした香りに誘われたスラッグが足を止める事があったが、流石に道具類の店や食料品は時間帯的に混雑していたので、女性陣はまずシアとスラッグの衣服から揃えることに決め、ごねる彼を促した。
あの受付嬢、キャサリンの地図には、きちんと普段着用の店、高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けてオススメの店が記載されていた。痒いところに手が届いており、彼女が如何に出来る人間であるかを改めて再認識できた。
三人は早速、ある程度の普段着もまとめて買えるという点から、とある冒険者向きの店に足を運んだ。その店は、流石はキャサリンがオススメするだけあって、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店だった。唯一の欠点は、店長であった…。
「あら~ん、いらっしゃい♡可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♡」
店長のクリスタルベルは、この世の物とは思えぬ姿をしていた。身長2m強で劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めた、シュワちゃんが可愛く見えるくらいに筋肉モリモリマッチョマンの変態だったのだ。動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組みながらくねくねと動かし、逞しい手足と腹筋が丸見えの服装は、まるでクレヨンし◯ちゃんに出てくるキャラクターみたいだ。
そんなユエとシアは硬直した。シアは既に意識が飛びかけていて、ユエは奈落の魔物以上に思える化物の出現に覚悟を決めた目をしていた。
「あらあらぁ~ん?どうしちゃったの二人共?可愛い子ちゃんがそんな顔してちゃだめよぉ~ん。ほら、笑って笑って?」
どうかしているのはお前の方で、笑えないのはお前のせいだ!と盛大にツッコミたいところだったが、ユエとシアは何とか堪えた。人類最高レベルのポテンシャルを持つ二人だが、物凄い笑顔で体をくねらせながら接近してくるこの化物には勝てる気がしなかった。
一方、スラッグは二人とは違う雰囲気で黙っていたが、やがて歓喜の声を上げた。
「凄え!あんた、新種のアンキロサウルスか⁉︎」
どうやらスラッグは、6600万年ぶりに恐竜の生き残りを見つけたと思ったようだ。その瞬間、クリスタルベルが怒りの咆哮を上げた。
「だぁ~れが、先史時代から蘇った、全身ガッチガチの化物だゴラァァアア‼︎」
「え、違ったのか?じゃあ、パキケファロサウルスの新種か?」
「ブッ飛ばされてぇのか小僧ォォォオオオオ!!?」
「ス、スラッグ、謝って…!」
「え?俺スラッグ、何か悪い事したか?」
「いいから…!ごめんなさい…」
シアはへたり込んで少し下半身が冷たくなってしまった。ユエがふるふると震え涙目になりながら後退り、なぜ怒られたのか理解出来ていないスラッグの頭を下げさせながら必死に謝罪すると、クリスタルベルは再び悍しい笑顔を取り戻し接客に勤しんだ。
「いいのよ~ん。それでぇ?今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」
「俺スラッグ、冒険者?の着る服を買いに来た。こっちのシアもだぞ」
「任せてぇ~ん」
スラッグはそう言って自分とシアの衣服を探しに来た旨を伝えた。へたり込んだシアはもう帰りたいのか、ユエの服の裾を掴みふるふると首を振っているが、クリスタルベルはまずシアの服を用意すると言い、彼女を担いで店の奥へと入っていってしまった。その時のユエとスラッグを見つめるシアの目は、まるで食肉用に売られていく家畜のようだった。
結論から言うと、クリスタベルの見立ては見事の一言だった。店の奥へ連れて行ったのも、シアが粗相をしたことに気がつき、着替える場所を提供するためという何とも有り難い気遣いだった。
シアの新しい服は以前着ていた服と殆ど同じ露出度だが、ブラジャーと言うよりも布を巻いて胸を隠しているようだった以前の物とは違い、水色を基調としたチューブトップにスカートという冒険者用の服装だ。一方、当初は亮牙が貸したズボンだけしか履いていなかったスラッグの方も、今はユエやクリスタルベルの薦めで民族衣装っぽい男性服を着ている*1。
満足出来る服を買えた三人は、クリスタベルにお礼を言い店を出た。その頃には彼女?の笑顔も愛嬌があると思えるようになっていたのは、クリスタルベルの人徳故だろう。
「いや~、最初はどうなることかと思いましたけど、意外にいい人でしたね。店長さん」
「ん、人は見た目によらない」
「俺スラッグ、やっぱりあいつエドモントサウルスの仲間かな?」
「「いい加減、その話題から離れて(ください)」」
そんな風に雑談しながら、次は道具屋に回ることにした三人だが、唯でさえ目立つ故にすんなりとは行かず、気がつけば数十人の男達に囲まれていた。冒険者風の男が大半だが、中にはどこかの店のエプロンをしている男もいる。
その内の一人が前に進み出た。三人共覚えていないが、この男、実は亮牙達がキャサリンと話しているとき冒険者ギルドにいた男だ。
「ユエちゃんとシアちゃんで名前あってるよな?」
「?…合ってる」
「俺スラッグ、何故無視される?」
ユエは何のようだと訝しそうに目を細め、シアは亜人族であるにもかかわらずちゃん付けで呼ばれたことに驚いた表情をする。スラッグは何故か自分の名前だけ呼ばれていないことイラッとした。
ユエの返答を聞くとその男は、後ろを振り返り他の男連中に頷くと覚悟を決めた目で彼女を見つめた。他の男連中も前に進み出て、ユエかシアの前に出ると…。
「「「「「「ユエちゃん、俺と付き合ってください‼︎」」」」」」
「「「「「「シアちゃん!俺の奴隷になれ‼︎」」」」」」
つまり、まぁ、そういうことである。ユエとシアで口説き文句が異なるのはシアが亜人だからだろう。奴隷の譲渡は主人の許可が必要だが、昨日の宿でのやり取りでシアと亮牙達の仲が非常に近しい事が周知されており、まず彼女から落とせば亮牙も説得しやすいだろう、という魂胆のようだ。
ちなみに、宿でのことは色々インパクトが強かったせいか、奴隷が主人に逆らうという通常の奴隷契約では有り得ない事態についてはスルーされているようだ。でなければ、早々にシアが実は奴隷ではないとバレているはずである。契約によっては拘束力を弱くすることもできるが、そんな事をする者はいないからだ。だが…。
「俺スラッグ、腹減った!何か食おう!」
「…まだ我慢して、スラッグ。先に道具屋に行く…」
「そうですよ。一軒で全部揃ったら、何か食べましょう」
二人は何事もなかったように、早く何か食べたいとごねるスラッグを宥めながら、歩みを再開した。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!返事は⁉︎返事を聞かせてく『『断る(ります)』』…ぐぅ」
まさに眼中にないという彼女達の態度に男は呻き、何人かは膝を折って四つん這い状態に崩れ落ちた。しかし、何処の世界にも諦めが悪い奴はいる。まして、ユエとシアの美貌は他から隔絶したレベルだ。多少、暴走するのも仕方ないといえば仕方ないかもしれない。
「なら、なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」
暴走男の雄叫びに、他の連中の目もギンッと光を宿すと、二人を逃さないように取り囲み、ジリジリと迫っていく。そして遂に、最初に声を掛けてきた男が、雄叫びを上げながらル◯ンダイブでユエに飛びかかった。
ユエは冷めた目付きで魔法を放とうとするが、それより先に動いた者がいた。
「ウガァァァッ!!!」
「ひでぶぅっ!!?」
スラッグだ。彼が凄まじい怒気を纏いながら飛び上がり、ダイブしてきた男の顔面を殴り飛ばしたのだ。一応亮牙から、万が一の時はやり過ぎないようにと釘を刺されていたので、彼なりに手加減はした。
だがそれでも彼の腕力は凄まじく、男は歯を全部へし折られた挙句、そのまま上半身を地面にめり込ませ、地上に出ている足をピクピクと痙攣させていた。さっきまで同じようにダイブしようとした周囲の男達はその一部始終を見て、途端にシンと静まり返った。
「おい猿ども」
「「「「「「─────ッ!!?」」」」」」
先程まで子どもっぽく早く食事がしたいと駄々を捏ねていたスラッグの、一転して剣呑な声に男達の顔は真っ青になる。
ユエやシアも、様子のおかしいスラッグを心配そうに見つめた。
「俺は、俺は……………………………………………さっきから腹が減ってるから、早く買い物終わらせて飯が食いたいんだよ!!!」
「「そんなにお腹空いてたの(ですか)!!?」」
「なのに買い物の邪魔しやがって!俺を餓死させようとはいい度胸だ!腹が減ってムシャクシャしてきたから、腹いせにお前らを酷い目に遭わせてやる!!!」
そう怒鳴ると、スラッグは地面に上半身をめり込ませた男の股間目掛けて踵落としを喰らわせた。グシャアッ!という、男の象徴が潰れる音が響き渡り、めり込んだ男の足がさらに痙攣した。周囲の男は、囲んでいた連中も、関係ない野次馬も、近くの露店の店主も関係なく崩れ落ちて自分の股間を両手で隠した。
スラッグはさらに周囲を睨みつけて怒鳴った。
「俺スラッグ、次はどいつだ⁉︎」
「「「「「「───ア」」」」」」
「「はい?」」
「「「「「「アイエエエエエエエ!!?サヨナラ!!!」」」」」」
目の前の青年が喧嘩を売ってはいけない相手と悟った男達は、踵を返すと我先にと逃げ出した。食事の時間を遅らせたという理由で、大事なタマタマを潰されちゃあ堪らない。
なおこの日一人の男が死に、第二のクリスタベル、後のマリアベルちゃんが生まれた。彼は、クリスタベル店長の下で修行を積み、二号店の店長を任され、その確かな見立てで名を上げるのだが、それはまた別の話だ。
スラッグに「暴食の狂戦士」という二つ名が付き、後に冒険者ギルドを通して王都にまで名が轟かせるのも、また別の話だ。
「俺スラッグ、邪魔者片付いた!早く用事済ませて飯食おう!」
「ん、ご苦労様」
「スラッグさんも、亮牙さん並みにマイペースですねぇ〜」
スラッグに呆れと感謝の言葉を述べると、ユエとシアは畏怖の視線を向けてくる周囲の視線をさらっと無視して買い物の続きに向かった。
※おまけ
買い物から帰ると、シアはくるりと体を一回転させながら、新しく買った服の感想を亮牙に聞いてみた。
「亮牙さん亮牙さん!この服どうですか?」
「…………水着か?そんなに肌見せて…」
「違いますよ!他の服だと窮屈で動きが鈍るんですよ。…似合ってませんか?」
「い、いや、そういう訳じゃない。ただ、目のやり場が…」
「むふふ、なら良かったです!私のお色気も強調出来るし、亮牙さんを悩殺して私の虜にして見せますぅ〜!」
以前の服ですらお色気ムンムンだったのに更に魅力的な服装になり、呑気にそんな事を言ってくるシアに、人知れず頭を悩ませる亮牙であった。
シアの下着姿は、公式の壁紙が元ネタです。
書いてて思ったけど、やっぱりシアってさ、ムラムラします(`・ω・´)キリッ
あんな魅力的な少女がヘソ出しルックで迫ってくるのにスルーし続けたハジメの神経を疑います。
もし自分が同じ立場なら、シアの巨乳に顔をうずめてますよ(笑)
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