グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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始まりました。ライセン大迷宮。さて、どうなるでしょうか?

ジェネレーションセレクトの最新作のリカラー版ボルカニカス、多少気になる点はありましたけど、自分はPOTPを持ってないので迷わず購入しちゃいました。


ラビリンスならぬ腹立つっス

 シアのおかげで亮牙達はライセン大迷宮への攻略に挑んだが、此処は彼らの想像以上に厄介な場所だった。

 まず、谷底より遥かに強力な分解作用が働いており、上級以上の魔法は使用できず、中級以下でも射程が5mも効果を出せれば御の字という状況だ。魔法特化のユエにとっては大きな痛手で、何とか瞬間的に魔力を高めて実戦でも使えるレベルに持ち越しているが、今までのように強力な魔法で一撃とは行かなくなった。

 また、魔晶石シリーズに蓄えた魔力の消費が激しく、考えて使わなければならなかった。ユエが魔法に関して天才的だからこそ中級魔法が放てるのであって、大抵の者は役立たずになってしまうだろう。

 ハジメにとっても体の外部に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て使用不可となっており、頼みの「纏雷」もその出力が大幅に下がってしまっている。よって彼の愛用武器であるドンナー・シュラークも威力が半減、シュラーゲンも通常のドンナー・シュラークの最大威力レベルにまで弱体化していた。

 故にこの大迷宮で何より重要なのは身体強化であり、まさに亮牙・スラッグ・シアの独壇場となる領域なのだ。だが、当の身体強化組なのだが…

 

「殺ルですよぉ…。絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」

「グルルルルル…!」

「フゥー、フゥー!」

 

 シアは現在、ドリュッケンを担ぎ、据わった目で獲物を探すように周囲を見渡していた。誰がどう見ても怒り狂っており、言葉のイントネーションも所々おかしく、遂に、「フヒヒ」と奇怪な笑い声を発するようになっていた。そして亮牙とスラッグは、目が一層真っ赤に血走り、心底怒り狂っていると言わんばかりに唸ったり鼻息を荒げていた。その様子はまるで怒り狂う猛牛の様であり、鼻息の荒さは最早蒸気機関車のようだ。ミレディ・ライセンの意地の悪さを考えれば、三人がこうなってしまう理由も容易に想像がつくだろう。

 ハジメもユエも三人の気持ちはよく分かるので、何とも言えなかった。二人が落ち着いていられるのは、凄まじく興奮している人が傍にいると逆に冷静になれるという心理状態であるからだ。

 現在、それなりに歩みを進めてきた彼らだが、ここに至るまでに実に様々なトラップや例のウザイ言葉の彫刻に遭遇しており、亮牙達が激昂してなければ二人とも我慢出来ず怒り狂っていた筈だ。苛立ちを隠せない親友達を横目に、ハジメはここに至るまでの悪質極まりない道程を思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シアが最初のウザイ石板を破壊し尽くした後、亮牙達は道なりに通路を進むと、まるで積み木を無造作に組み合わせたかのように、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなく繋がり合った広大な空間に出た。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が何もない唯の壁だったりと、ある意味迷宮らしいと言える場所だった。

 

「…こんなに無茶苦茶じゃあ、迷いそうだ…」

「ふん、流石は腹の奥底まで腐った奴の迷宮ですぅ!このめちゃくちゃ具合が奴の心を表しているんですよぉ!」

「いい加減落ち着け…。さて、どう進むか…」

 

 未だ怒り心頭のシアに呆れ半分同情半分の視線を向けながら、亮牙が思案すると、ハジメが声を掛けた。

 

「考えても仕方ないよ、亮牙。取り敢えずマーキングとマッピングしながら進もう」

「ん、ハジメの言う通り…」

「そうだな」

「俺スラッグ、ハジメが小便した匂いを辿ってくのか?」

「「そっちのマーキングじゃない!」」

「スラッグ、ハジメは俺たちみたいに元野獣じゃねえんだぞ…」

 

 迷宮探索でのマッピングは基本だが、こうも複雑な構造の迷宮じゃあどこまで正確に作成できるか、ハジメは思わず面倒そうだと顔をしかめた。

 なおハジメのいう『マーキング』とは、決してスラッグが考えたように、多くの野生動物が排泄物などで自身の縄張りを主張するマーキングの事ではない。これは彼が持つ固有魔法の一つで、自分の触れた場所に魔力でマーキングすることでその痕跡を追う事ができる『追跡』の技能の事だ。

 生物にマーキングした場合はその生物の移動した痕跡がハジメに見えるようになり、今回の場合は壁などにマーキングすることで通った場所の目印にするつもりだ。マーキングは可視化することもできるので他の四人にも分かるし、魔力を直接添付しているので分解作用も及ばない効果があるようだ。ハジメは早速、入口に一番近い場所にある右脇の通路にマーキングして進んでみることにした。

 通路は幅2m程で、レンガ造りの建築物のように無数のブロックが組み合わさって出来ていた。やはり壁そのものが薄ら発光しているので視界には困らないが、緑光石とは異なる鉱物のようで薄青い光を放っていた。ハジメが試しに鉱物系鑑定を使ってみると、この鉱物は「リン鉱石」で、空気と触れることで発光する性質をもっているようだ。最初の部屋はおそらく何かの処置をすることで最初は発光しないようにしてあったのだろう。

 名作アニメに似たような鉱石があった気がするな、とハジメが思い浮かべながら長い通路を進んでいると突然、ガコンッという音を響かせてハジメの足が床のブロックの一つを踏み抜いた。そのブロックだけ彼の体重により沈んでおり、五人とも思わず「えっ?」と一斉にその足元を見た。

 次の瞬間、シャァアアアと刃が滑るような音を響かせて、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する巨大な丸鋸が飛び出してきた。右の壁からは首の高さで、左の壁からは腰の高さで前方から薙ぐように迫ってくる。

 

「回避!」

 

 ハジメは咄嗟にそう叫ぶと、某SF映画の主人公のように後ろに倒れ込みながら二本の凶悪な刃を回避し、元々背が小さいユエもしゃがむだけで回避した。

 

「シア!伏せろ!」

「はわわわわ!」

 

 亮牙はシアの反応が遅れたのに気づき、咄嗟に彼女を地面に押さえつける形で回避させた。だが、シアを庇う形で押さえつけたので、ちょうど左側の丸鋸が彼の頭部目掛けて近づいてきた。また、スラッグは避けずにその場に立ったままだ。しかし二人は動じなかった。彼らはそれぞれ自分の頭目掛けて迫る丸鋸に大きく口を開けて食らいつき、バリボリと耳障りな音を立てて噛み砕いた。

 ハジメは親友達の常識外れな回避に呆気に取られながらも、第二陣を警戒してしばらく注意深く辺りを見回した。どうやら今ので終わりか、と安堵した途端、彼は猛烈な悪寒を感じた。なんと、彼らがいる場所の頭上からギロチンの如く無数の刃が、先程の刃と同じく高速振動しながら射出されたのだ。

 ハジメ・ユエ・シアはすぐさま、勢いそのままに前方に身を投げ出して回避するが、やはり亮牙とスラッグはその場に留まったままだ。亮牙はモーニングスターナックルを展開すると、上に向かってアッパーカットを繰り出した。勢いに乗って砲弾のように射出されたモーニングスターは、全ての刃を容赦なく粉々に粉砕した。

 

「…完全な物理トラップか。パーセプターじゃあ感知できないわけだ」

 

 ハジメ達がまんまとトラップに掛かった理由は、魔法のトラップに集中していたからだ。今までの迷宮のトラップと言えばほとんどが魔法を利用したものであり、それを看破するためにハジメが右目に装備したパーセプターがある。それ故に過信し、パーセプターに反応しなければ大丈夫という先入観を持ってしまっていたのだ。

 

「…今後は注意すべきだな。にしてもさっきの丸鋸、酷い味だったな…」

「俺スラッグ、同感。まるでベリリウムバローニーみたいな味だった…」

「馬鹿言うな。あの味はセシウムサラミだろ」

「ベリリウムバローニーだ!」

「セシウムサラミだ!」

「…亮牙さんもスラッグさんも本当にマイペースですぅ…」

「「同感…」」

 

 呑気に丸鋸の味について口論となっている亮牙とスラッグに、シアは戦慄の表情を浮かべ、ハジメやユエも否定できなかった。

 それに気づいたのか、亮牙が口論を止めてシアに話しかけてきた。

 

「おいシア、さっきは危なかったぞ…」

「うっ…す、すみません…」

「…まだまだ未熟、お漏らしウサギめ」

「おもっ、おもらっ、撤回して下さい、ユエさん!いくらなんでも不名誉過ぎますぅ!」

 

 ユエがシアの「○○ウサギ」シリーズに新たに不名誉な称号を加えると、シアが我慢できず猛抗議した。この迷宮に入ってからこの短時間で既に二度も死にかけたというのに意外に元気な姿を見ると、彼女の最大の強みは打たれ強さなのだろう。本人は断固として認めないだろうが。

 

「でもまぁ、あれくらいじゃあ僕らなら問題ないか」

「だな。問題は…」

 

 シアとユエの喧嘩を尻目に、ハジメと亮牙がそう呟いた。先ほどのトラップは唯の人間を殺すには明らかにオーバーキルというべき威力が込められており、並みの防具では歯牙にもかけずに両断されていただろう。

 しかし、ハジメは奈落の鉱物と魔物の皮革を用いた武器・防具で武装しており、どれだけ威力があっても唯の物理トラップなんかに殺されはしない。そしてユエには自動再生があるからトラップにかかっても死にはしない。亮牙とスラッグに至っては全てにおいてぶっ飛び過ぎていているから心配する必要がない。

 となると、必然的にヤバイのはシアだけである。そのことに気がついているのかいないのか分からないが、彼女のストレスが天元突破するであろうことだけは確かだった。

 

「あれ?亮牙さんもハジメさんも、何でそんな哀れんだ目で私を…」

「シア、強く生きろ…」

「え、ええ?何ですか、いきなり?何か凄く嫌な予感がするんですけど…」

 

 そう言いながら肩に手を置いて励ます惚れた男の姿に、不安を隠せないシアなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 亮牙達は、トラップに注意しながら更に奥へと進んでいった。先頭にはマーキングの関係もあってハジメが立ち、亮牙とスラッグは最後尾で後方からの罠を警戒に当たった。ダイナボット二人が最前列に立てばそれだけで大抵の罠を物理的に無力化できるかもしれないが、それでは意味がないと考えての配置だ。

 今のところ魔物は一切出てきていなかった。この環境では魔物も十全に力を発揮できないだろうから、迷宮内に魔物がいないとも考えられるが、それは楽観が過ぎるというものだろう。それこそトラップという形でいきなり現れてもおかしくない。

 亮牙達が通路の先にある空間に出ると、その部屋には三つの奥へと続く道があった。取り敢えずマーキングだけしておき、彼らは階下へと続く階段がある一番左の通路を選んだ。

 

「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」

 

 階段の中程まで進んだ頃、突然シアがそんなことを言い出した。言葉通り、彼女のウサミミがピンッと立ち、忙しなく右に左にと動いている。

 

「ちょっとシア、変なフラグ立てないでよ…。そんな事言うと大抵、直後に何か『ガコン』…ほら言わんこっちゃないっ!」

「わ、私のせいじゃないですぅッ⁉︎」

「⁉︎…フラグウサギッ!」

「お前ら、案外余裕だな…」

「俺スラッグ、同感」

 

 嫌な音が響いたかと思うといきなり階段から段差が引っ込み、かなり傾斜が酷い下りの階段だった事もありスロープになったのだ。しかもご丁寧に地面に空いた小さな無数の穴からタールのようなよく滑る液体が一気に溢れ出してきた。

 

「クソッタレ!皆、俺かスラッグに掴まれ!」

「わ、分かった!」

「ん!」

「俺スラッグ、任せろ!」

 

 そう言うと亮牙とスラッグは拳だけを元の金属の姿に戻し、鉤爪のような指をスロープに突き立てて体を固定した。ハジメも咄嗟に靴の底に仕込んだ鉱石を錬成してスパイクにし滑り落ちないようにしながら、ユエと共に近くにいたスラッグにしがみついた。

 しかし、まだ経験の浅いシアはそうはいかなかった。

 

「うきゃぁあ⁉︎」

 

 彼女は段差が消えた段階で悲鳴を上げながら転倒、後頭部を地面に強打して身悶えている間に、液体まみれになり滑落していった。

 

「おいシア⁉︎ああもう!」

 

 亮牙は呆れつつも指を突き立てるのを止めて、そのまま勢いをつけて滑ってシアに追いつくと、すかさず彼女を抱き寄せた。そして予め展開しておいたスルトをスロープに突き立てて、滑落を止めた。二人が無事だった事にハジメ達は安堵した。

 

「お前って奴は…!あれ程用心しろと言っただろうが…」

「うぅ〜、しゅみません~」

「ったく…。よしスラッグ、そのままハジメとユエを抱えて、ゆっくり下って来てくれ」

「俺スラッグ、分かった!」

 

 そう言ってスラッグ達が追いつくのを待った後、亮牙達はそのままゆっくりとスロープを下っていった。

 

「見て、道が途切れてる…」

 

 ユエが指さした先を見ると、確かに道が途切れていた。亮牙達は慎重に下っていき淵にたどり着くと、そっと顔を出して下を覗き込んだ。そしてすぐに彼らはその行いを後悔した。

 下には夥しい数の蠍が蠢いていたのだ。どれもこれも大きさ10cm程と普通の蠍サイズだが、生理的嫌悪感はユエの封印の番人だった蠍モドキより圧倒的に勝っていた。

 あのまま落下していたらあの中に飛び込んでいた事を想像した五人は、顔をしかめながら目を背けるように顔を上げると、ぴたりと動きを止めた。天井にはあの石板のように文字が彫られており、読みやすい様に光っていたのだ。既に察しはついているが、五人ともつい読んでしまう。

 

『彼等に致死性の毒はありません』

『でも麻痺はします』

『存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー‼︎』

 

 わざわざリン鉱石の比重を高くしてあるのか、薄暗い空間でやたらと目立つその文字。ここに落ちた者はきっと、蠍に全身を這い回られながら、麻痺する体を必死に動かして、藁にもすがる思いで天に手を伸ばしながら、この巫山戯た言葉を目にする事になっているのだろう。

 

「…俺スラッグ、この製作者、殴りてぇ…」

 

 また違う意味で黙り込んでいた亮牙達だったが、スラッグのその言葉には否定できず頷いていた。相手するなと自分に言い聞かせつつ、何とか気を取り直すと周囲を観察した。

 

「…皆、あそこ」

「ん?」

 

 すると、ユエが何かに気がついたように下方のとある場所を指差した。そこにはぽっかりと横穴が空いていた。

 

「横穴か…。どうする?このまま落ちてきたところを登るか、あそこに行ってみるか」

「俺スラッグ、戻るより、進む方が気分がいいと思う」

「…ん」

「はいです」

「俺も異議なしだ。にしてもシアの選択未来が何度も使えれば、もっと楽なんだがな…」

「うっ、それはまだちょっと。練習してはいるのですが…」

 

 仮定の先の未来を垣間見れるシアの固有魔法だが、一日一回しか使用できない上、魔力も多大に消費してしまう。彼女の強みは身体強化なので、魔力が枯渇しては唯の残念なウサギになってしまう。一応日々鍛錬をしており、消費魔力が少しずつ減ってきていたりするのだが、十全に使いこなすにはまだまだ道のりは遠そうである。

 まぁ、ないものねだりしても仕方ないだろう。そう思いつつ亮牙達は横穴へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある通路の出入り口、そこは何故か壁になっていた。普通に考えれば唯の行き止まりと見るべきだが、その壁の部分、実はほんの数分前まで普通に奥の部屋へと続いていたのだ。

 静寂が漂う中、突如として壁が紅いスパークを放ち始めたかと思うと、人が中腰で通れる程度の穴が空くと、亮牙達五人が這い出してきた。

 

「…少し焦ったな」

「俺スラッグ、流石にペチャンコは嫌だ…」

 

 彼らは蠍部屋の横穴からしばらく迷宮を彷徨よった後、辿り着いた部屋で天井がまるごと落ちてくるという悪辣で定番なトラップが発動し潰されかけたのだ。逃げ場はなく、奥の通路までは距離がありすぎて間に合いそうになかったため、亮牙とスラッグの強靭な膂力で天井を支え、その隙にハジメが天井を錬成し穴を開けたのだ。しかし強力な魔法分解作用のせいで錬成がやりにくい事この上なく、錬成速度は普段の四分の一、範囲は1m強で、数十倍の魔力をごっそりと持っていかれた。そうやってなんとか小さな空間で五人密着しながらハジメの錬成で穴を掘りつつ、出口に向かったのである。

 全員が出ると、亮牙が宝物庫のポーチから神水入りの水筒を取り出してハジメを回復させ、再び出発しようとしたその時、何時ものウザイ文を発見した。どうやら全てのトラップの場所に設置されているらしい。

 

『ぷぷー、焦っていうやんの~、ダサ~い』

 

「あ、焦ってませんよ!断じて焦ってなどいません!ダサくないですぅ!」

 

 シアのミレディに対する敵愾心は天元突破しているらしく、ウザイ文が見つかる度にいちいち反応していた。今も「ガルルゥ!」という唸り声が聞こえそうな様子で文字に向かって反論している始末だ。もしミレディが生きていたら「いいカモが来た!」とほくそ笑んでいることだろう。

 

「シア、我慢だ我慢…」

「うぅ、はいですぅ」

 

 その後も、進む通路、たどり着く部屋の尽くで罠が待ち受けていた。突如、全方位から飛来する毒矢、硫酸らしき、物を溶かす液体がたっぷり入った落とし穴、アリジゴクのように床が砂状化し、その中央にワーム型の魔物が待ち受ける部屋、そしてウザイ文。亮牙達のストレスは頂点に達しつつあった。

 それでも全てのトラップを突破し、この迷宮に入って一番大きな通路に出た。幅は6〜7m程で、螺旋状に下っていくのか結構急なスロープ状の通路で緩やかに右に曲がっていた。当然、こんな如何にもな通路で何のトラップも作動しないなど有り得ないため、亮牙達は警戒を解かなかった。

 そして、その考えは正しかった。もう嫌というほど聞いてきた「ガコンッ!」という何かが作動する音が響いた。最早、スイッチを押そうが押すまいが関係なく発動しているだろう。周囲を警戒する亮牙達の耳に、ゴロゴロと明らかに何か重たいものが転がってくる音が聞こえてきた。

 

「「「「「またか…」」」」」

 

 五人はそう呟きながら顔を見合わせ、同時に頭上を見上げた。スロープの上方はカーブになっているため最初は見えなかったが、異音が次第に大きくなってくると、カーブの奥から通路と同じ大きさの大岩が転がって来た。フィクションでは定番のトラップだ。確認してはいないが、必死に逃げた先にはまたあのウザイ文があるに決まっている。

 ユエとシアが踵を返し脱兎のごとく逃げ出そうとするが、少し進んで直ぐに立ち止まった。男性陣が付いて来ないからだ。

 

「…ん、三人とも?」

「皆さん⁉︎早くしないと潰されますよ!」

「俺スラッグ、いつもやられっぱなしじゃあ、性に合わない!」

 

 二人の呼びかけにスラッグはそう答えると、身体中に電撃を纏って飛び上がり、まるでドリルのように回転しながら大岩目掛けて突っ込んだ。

 

雷角回弾(サンダーバズーカ)!」

 

 ゴガァアアンと凄まじい破壊音を響かせながらスラッグの一撃が大岩に直撃し、轟音を響かせながら木っ端微塵に粉砕した。彼はそのまま足を地につけて体勢を立て直すと、「やってやったぜ!」と言わんばかりの表情で四人の方へ振り返った。彼自身も相当、感知できない上に作動させなくても作動するトラップとその後のウザイ文にストレスが溜まっていたようだ。

 満足気な表情で戻って来たハジメをユエとシアがはしゃいだ様子で迎えた。亮牙はハジメに纏雷の参考にとスラッグの技を見させたのだがら、ストレスが溜まっていたこともありハジメもスッキリしたと言わんばかりに興奮していた。

 

「スラッグさ~ん!お見事ですぅ!すっごくスッキリしましたぁ!」

「…ん、すっきり」

「どうだハジメ、今後の纏雷の使い方の参考になったろ?」

「うん!カッコ良かったし、何よりスカッとしたよ!」

「俺スラッグ、照れるぜ…」

 

 四人に称賛に気分よく答えるスラッグだが、その言葉は途中で遮られた。再びゴロゴロという聞き覚えのある音に、亮牙達は笑顔のまま固まり、無表情のユエも頬が引き攣らせた。ギギギと油を差し忘れた機械のようにぎこちなく背後を振り向いたスラッグの目に映ったのは、黒光りする金属製の大玉だった。

 

「マジか…」

 

 ハジメが思わず笑顔を引き攣らせながら呟いた。

 

「あ、あの皆さん。気のせいでなければ、あれ、何か変な液体撒き散らしながら転がってくるような…」

「…溶けてる」

「酸だな。流石に俺やスラッグもあれには触りたくないな…」

 

 そう、こともあろうに金属製の大玉は表面に空いた無数の小さな穴から液体を撒き散らしながら迫ってきており、その液体は付着した場所がシュワーという実にヤバイ音を響かせながら溶かしていたのだ。強力な酸性の液体であるのは明白だ。

 

「よし、逃げよう!クソッタレがぁーっ!」

 

 ハジメがそれを確認し一度息を吐くと、笑顔のまま再度皆を見ると、笑顔をスっと消して叫びながら、いきなりスプリンターも真っ青な見事な踏切でスロープを駆け下りていった。他の四人も一瞬顔を見合わせるとクルリと踵を返しハジメを追って一気に駆け出した。

 背後からは、溶解液を撒き散らす金属球が凄まじい音を響かせながら徐々に速度を上げて迫ってきた。

 

「いやぁあああ‼︎轢かれた上に溶けるなんて絶対に嫌ですぅ~!」

「…ん、とにかく走って」

 

 通路内をシアの泣き言が木霊するが、必死に逃げながらも、しっかり文句は言っており、ユエが呆れたような目線を向けていた。

 そうこうしている内に通路の終わりが見えた。ハジメが遠見で確認すると、どうやら相当大きな空間が広がっているようだが、部屋の床がずっと遠くの部分しか見えないのだ。おそらく部屋の天井付近に亮牙達が走る通路の出口があるのだろう。

 

「皆、真下に降りよう!」

「分かった!」

「おうよ!」

「んっ」

「はいっ!」

 

 ハジメの号令と共に、一行はスライディングするように通路の先の部屋に飛び込み、出口の真下へと落下した。そして出口の真下を見るなり、三者三様の呻き声を上げた。

 

「げっ⁉︎」

「んっ⁉︎」

「ひんっ⁉︎」

「ダァッ⁉︎」

「のわぁっ⁉︎」

 

 無理もないだろう。出口の真下には、明らかにヤバそうな液体で満たされたプールのようになっていたのだ。

 

「巫山戯やがって!」

 

 亮牙はそう悪態を吐くと、素早くシアを片腕に抱き抱えて、もう片方の腕にスルトを握り締めると壁に突き刺し、落下を防いだ。スラッグもトランスフォーマー時代からの愛刀である「トレイルカッターソード」を展開して、同じように落下を防いでいた。そしてハジメは、あらかじめ左腕に装備していた籠手からアンカーを射出して壁にぶら下がり、右手でユエを捕まえ落下を防いでいた。

 直後、頭上を溶解液を撒き散らしながら金属球が飛び出していき、眼下のプールへと落下するや、そのままズブズブと煙を吹き上げながら沈んでいった。ユエが透かさず風壁を放って飛び散った溶解液を吹き散らした。暫く周囲を警戒したが特に何も起こらないので、亮牙達はようやく肩から力を抜いた。

 

「シア、咄嗟とはいえすまんな。大丈夫か?」

「…うぅ〜、ユエさんが羨ましいですぅ」

「は?何を言ってるんだよ…」

「だって、ユエさんはハジメさんに優しく抱っこされてて、私は脇に抱えられてるんですよぉ。亮牙さ~ん、いい加減、少しくらい私にデレてくれてもいいんですよ?」

「ちゃんと助けただろうが…」

「違うんですぅ!もっとこう女の子らしい助け方をされたいというか、分かりますでしょ⁉︎私も亮牙さんに抱っこされて助けられたいですぅ!」

「お前って奴は…」

 

 下は溶解液のプール、自分達は壁にぶら下がり状態、にもかかわらず呑気な事を言うシア。やはり結構余裕である。

 ハジメとユエはアンカーを利用して振り子の要領で移動し、溶解液のプールを飛び越えた。亮牙とスラッグはそのまま壁を這う形で進んだが、流石に片腕に人を抱えたままじゃあ進み辛いので、亮牙はシアを背負いながら進んだのだが、再びムニュッ♡と言う柔らかい感触が背中に伝わり戸惑っていた。そんな感じで、彼らは今度こそ部屋の地面に着地した。

 

 

 

 

 




〜用語集〜
・ベリリウムバローニー、セシウムサラミ
 サイバトロン星にあるトランスフォーマーの食べ物の一種。ナンセンスの意味合いにも使われるらしい。
 『ザ・ムービー』の原語版でもグリムロックとスラッグが惑星クインテッサで口論になった際に使われており、『Fall of Cybertron』でもグリムロック編で二人の会話に出ている。

・ハジメの籠手
 原作における義手の代わりにハジメが作製した籠手。
 外観・能力は『ダークサイド・ムーン』でサムがキューから授かり、スタスクとの戦いでも利用したあの籠手とまんま同じ。

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