グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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南雲ハジメだよ。今日も『グリムロックは宇宙最強』がはじまるよ〜!

ウォ〜、ウォ〜、争いはストップイッツ!

って僕が歌うんか〜い!!!


前々話でも描写があったので分かった方もいたかもしれませんが、今話はあの声優無法地帯アニメっぽくなります。ご注意下さい(汗)

なおタイトルはライセン大迷宮を言い表しているだけではありませんよ?



インフェルノ

 亮牙達が降り立ったその部屋は、長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。壁の両サイドには無数の窪みがあり、赤みがかった蟻の意匠をもつ身長2.6mほどの悪魔のような像が並び立っていた。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されていた。

 ハジメは周囲を見渡しながら微妙に顔をしかめた。

 

「いかにもな扉だね。ミレディの住処に到着かな?それなら万々歳なんだけど、この周りの悪魔みたいな像に嫌な予感がするのは僕だけかな?」

「…大丈夫、お約束は守られる」

「それって襲われるってことですよね?全然大丈夫じゃないですよ?」

「俺スラッグ、大丈夫!やっと戦える!」

「おい、気を抜くなよ。ハジメの言う通り、こりゃあただの彫刻じゃあないぞ…」

 

 亮牙がそう告げたのは、彼らが部屋の中央まで進んだ時だった。確かにお約束は守られた。毎度お馴染みのあのガコンッという音である。

 ピタリと立ち止まる亮牙達は、内心「やっぱりなぁ~」と思いつつ周囲を見ると、悪魔像の眼の部分がギンッと光り輝き、総勢50体もの悪魔像が窪みから抜け出てきた。

 

「ごっつんこぉ〜!敵だ、敵でありんすな⁉︎女王蟻様を狙う敵は容赦しないでありんす!インフェルノ、変身!ごっつんこぉ〜!」

「「「「「ごっつんこ〜!」」」」」

 

「「なんかイケボの変なトランスフォーマーがキター(ですぅ)!!?」」

 

 その悪魔像、インフェルノ達はやけに間の抜けた喋り方をしながら、たちまち巨大な赤い蟻に変形した。しかもその外見や喋り方とは対照的に声は結構イケボであり、別の意味で度肝を抜かれたハジメとシアは盛大にツッコんだ。

 そうこうしているうちに、インフェルノ軍団はビーストモードやロボットモードの両方の形態で窪みから這い上がり、まるで本物の蟻のような連携で瞬く間に亮牙達を包囲した。

 

「…どうやらこのアリンコ共がこの迷宮を守るトランスフォーマーみたいだな」

「ははっ、ホントにお約束だね…。動く前に壊しておけばよかったかな?」

「俺スラッグ、言っても仕方がない。戦うぞ!」

「んっ」

「か、数多くないですか?いや、やりますけども…」

 

 そう会話しつつ、ハジメはドンナーとシュラークを抜いた。数には機関砲のメツェライが有効だが、この部屋に仕掛けられているトラップの総数が分からない以上、無差別にバラまいた弾丸でそれらを尽く作動させてしまうのを避けるため、今回は愛用する二丁のレールガンを選択した。

 ユエはこの迷宮内では、自分が一番火力不足であることを理解していたが、足でまといになるつもりは毛頭なかった。自分の真実を確かめるためにこの旅に出て、恋人と友人と命を預け合う誓いを立てた以上、この程度の悪環境如きで後れを取るわけにはいかないのだ。

 亮牙とスラッグは、ハジメやユエと違い、この迷宮では影響なく力を発揮できるため、闘争心を剥き出しにしていた。今回は敵のサイズから敢えてトランスフォーマーに戻る必要もないと、人間態のまま右手にハジメが鍛えた武器を、左手にはそれぞれの愛用武器を部分武装化で展開した。

 一方でシアは、少々腰が引け気味だ。亮牙やスラッグと同様、影響なく力を発揮できるとは言え、実質的な戦闘経験はかなり不足していた。まともな魔物戦は谷底の魔物との僅か五日程度のことだし、ユエとの模擬戦を合わせても二週間ちょっとの戦闘経験しかなかった。元来温厚な部族出身だったことからも、戦闘に対して及び腰になるのも無理はないだろう。むしろ、気丈にドリュッケンを構えて立ち向かおうと踏ん張っている時点で、その根性には感服するほどだ。

 

「シア」

「は、はいぃ!な、何でしょう?亮牙さん」

 

 緊張に声が裏返っているシアに、亮牙が普段より柔らかい声音で声を掛けた。

 

「自信を持て、お前は充分強くなってるよ。だからそう怯えなくてもいい。それにお互い命を預け合ってるんだから、ピンチの時は必ず助けるさ」

「ん、亮牙の言う通り、弟子の面倒は見る」

 

 亮牙とユエにそう言ってもらい、シアは嬉しさのあまり思わず涙目になった。自分が付いて来たことが迷惑になっていないかと、少し不安になっていた彼女だが、杞憂だったようだ。ならば、未熟者は未熟者なりに出来ることを精一杯やらねばならないと、彼女は全身に身体強化を施し、力強く地面を踏みしめた。

 

「ふふ、亮牙さんが少しデレてくれました。やる気が湧いてきましたよ!ユエさん、愛の力ってやっぱり凄いですね!」

「…取り敢えずそのすぐ調子に乗る悪癖は治すべきだな」

 

 亮牙から呆れた眼差しを向けられるも、テンションの上がってきたシアは聞いておらず、真っ直ぐ前に顔を向けてインフェルノ達を睨みつけた。

 

「かかってこいやぁ!ですぅ!」

「いや、何でそのネタ知ってるのさ…。あっ、ツッコんじゃった」

「…だぁ~」

「ユエ、もうちょっと気合入れろ、ダァー‼︎」

「壊すの大好きぃー‼︎」

「あぁもう!校長先生怒るよぉ〜!」

 

 50体のトランスフォーマー軍団を前に、戦う前から何処か能天気な仲間達に、ハジメは疲れた表情になりながらも流されてしまった。

 

「アチキ達は兵隊蟻でありんす!巣を荒らす奴等は排除するでありんす!女王蟻様、万歳!ごっつんこ〜!!!」

 

 そんな彼の心情を知ってか知らずか、インフェルノ達は「ごっつんこ〜!」と叫びながら、兵隊蟻の如く一斉に侵入者達に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インフェルノ達の動きは、その巨体に似合わず俊敏だった。ジャキンジャキンと刃のような顎をすり合わせたり、両腕のドリルをキュイーンと回転させながら急速に迫るその姿は、まるで四方八方から壁が迫って来たと錯覚しそうなほど迫力があった。

 そんな中、先手を取ったのはハジメだ。両手に握り締めた二丁のレールガンで、普段の半分以下の威力しか出せないとは言え、対物ライフルの数倍の威力を以て撃ち放った。二条の閃光が狙い違わず二体のインフェルノの眉間を撃ち抜つが、倒れる仲間達を軽やかに飛び越えて「ごっつんこ!」と叫びながら後続のインフェルノ達が迫ってきた。ハジメも再度連続して発砲し、致命的な包囲をされまいと隊列を乱していった。

 嵐のような銃撃を盾と大剣と仲間の体で凌ぎながら、数体のインフェルノが遂に五人の目前へと迫った。だがそこは、亮牙・スラッグ・シアのキルゾーンだ。三人とも己の得物を大上段に構えたまま飛び上がり、限界まで強化したその身体能力を以て遠慮容赦の一切を排した問答無用の一撃を繰り出した。

 

「「「ストンピングハンマー!!!」」」

 

 打ち下ろされたドラゴントゥースメイス・ダグザ・ドリュッケンは、ドォガアアア!と凄まじい衝撃音を響かせながら、それぞれ目の前にいたインフェルノ数体を押し潰し、地面にまで亀裂を生じさせてめり込んだ。渾身の一撃を放って死に体となっていると判断したのか、衝撃に耐えていた傍らのインフェルノ達が両腕のドリルを回転させて襲い掛かった。

 だがそれは三人とも予測しており、しっかり横目で確認していた。亮牙とスラッグはそれぞれ片手から剣を展開し、横薙ぎにインフェルノ達の首を跳ね飛ばした。「ごっつんこ〜⁉︎」と独特な絶叫を上げながら、斬り落とされた首が宙を舞った。そのまま二人は両手に抱えた得物を武器に、容赦なく敵を粉砕していった。

 シアも負けてはいない。柄に付いているトリガーを引いてドリュッケンを跳ね上げ、勢いを殺さずその場で一回転すると、遠心力をたっぷり乗せた一撃を襲いくるインフェルノの脇腹部分に叩きつけ、気迫を込めて一気に振り抜いた。

 

「りゃぁあ‼︎」

「ごっつんこ〜⁉︎」

 

 直撃を受けたインフェルノは体をくの字に折り曲げながら吹き飛ばされ、後ろから迫って来ていた仲間達を盛大に巻き込んで地面に叩きつけられた。その胴体は原型を止めないほどひしゃげており、身動きが取れなくなっていた。

 シアの口元に笑みが浮かんだ。戦いに快楽を覚えたからではなく、自分がきちんと戦えていること、ちゃんと亮牙達の旅に付いて行けるのだと実感して、嬉しくなったのだ。

 だがその一瞬が気の緩みとなった。戦場でそれは致命的だ。シアが気がつくと、ビーストモードになった一体のインフェルノが噛みつこうと飛びかかり、鋭い牙が視界いっぱいに迫っていた。身体強化中のシアにとって致命傷になるか不明だが、これを機に一気に畳み込まれる可能性が高い。

 しまった!と思う余裕もなく、せめて襲い来るであろう痛みに耐えるべく覚悟を決めるシアだったが、インフェルノが彼女に噛みつく寸前、紅蓮の刃がその口に突き刺さり、そのまま左右泣き別れに両断した。

 

「こら、油断大敵だぞ」

「ふぇ、亮牙さん⁉︎す、すみません、ありがとうございます!」

「礼はいらん、今は目の前に集中しろ!」

「うっ、はい!頑張りますぅ!」

 

 亮牙に叱られてしまい、シアは少し浮かれて油断してしまったことを自覚し、反省しながら気を引き締め直した。改めて迫って来たインフェルノを倒そうとして、後方から飛んできたモーニングスターナックルが、密かにシアの背後を取ろうとしていたインフェルノを吹き飛ばしたのを確認した。亮牙が自分の背中を守ってくれていると理解したシアは心の内が温かくなり、惚れた男の前で無様は見せられないと、より一層気合を入れた。

 一方ユエは、空気中の水分を超圧縮してウォーターカッターを撃ち放つ水系の中級魔法「破断」で応戦していた。ハジメの宝物庫から取り出してもらった、金属製の大型の三つの水筒の水を圧縮することで、空気中の水分を集めるよりも魔力消費を節約しているのだ。また、照準は水筒の出口を向けることで付けており、飛び出たウォーターカッター自体は魔力を含まないものなので分解作用により消されることもなかった。

 インフェルノ軍団は、五人の連携を破ることができず、いいように翻弄されながら次々と駆逐されていった。そうやって、不用意に部屋そのものに傷を与えないようにしながら次々と敵を屠っていった亮牙達だが、ハジメが訝しそうに眉を寄せた。というのも、先程から相当な数のインフェルノ達を倒している筈なのだが、迫り来る彼等の密度が全く変わらないのだ。

 その疑問は他の四人も感じたらしく、よくよく戦場を観察してみれば、最初に倒したインフェルノの姿が何処にもない事に気がついた。

 

「…再生した?」

「みたいだね」

「そんな⁉︎キリがないですよぉ!」

 

 そう、インフェルノ達は破壊された後も、「ごっつんこぉーっ!」と叫びながら眼光と同じ光を一瞬全身に宿すと、瞬く間に再生して再び戦列に加わっていたのだ。

 どれだけ倒しても意味がないと悟ったシアが、迫り来るインフェルノ達を薙ぎ払いながら狼狽えた声を出した。だがそれに反して亮牙達四人は、経験の差もあることから冷静なまま、特に焦った様子もなく思考を巡らしながらインフェルノ達を蹴散らしていた。亮牙とスラッグは何千万年も戦士として生きた年の功もあったし、ハジメとユエはこの程度の逆境なら奈落の底で何度も味わったし、むしろあの頃より遥かに強くなった今は余裕すらあった。

 

「いや、人造とは言えスパークがあるはずだ。胸部を潰せば…」

 

 亮牙の言う通り、トランスフォーマーは胸部に核となるスパークを持っているのが通常であり、オスカーのモンストラクターなどの設計書にもスパークについて書かれていた。

 だが、親友のその提案にハジメは渋い表情をした。

 

「それなんだけど亮牙、此奴らスパークがないみたいだ…」

「確かか?」

「うん、パーセプターでも確認しているんだけど、此奴ら自体から微量の魔力が感知出来るだけで、スパークらしいのは…」

「むぅ、どうする?」

 

 スラッグがそう言うと、ハジメは「鉱物系鑑定」の技能で、インフェルノ達のボディを構成する鉱石を調べてみた。その結果、彼らの身体は魔力を定着させる性質を持つ「感応石」で構成されている事が分かった。おまけにこの感応石、同質の魔力が定着した二つ以上の鉱石が一方に触れていることで、もう一方の鉱石及び定着魔力を遠隔操作することができる性質を持っているらしい。

 即ちこのトランスフォーマー達は、さながら女王蟻に相当する者によって遠隔操作されているドローンのようなものなのだ。破壊されても再生していた訳ではなく再構築されていたようだ。よく見れば床にも感応石が所々に使われており、インフェルノ達の欠損部分の補充に使われたのか削り出したようにかけている部分もある。これは女王蟻を直接叩かないと本当にキリがないようだ。

 

「皆、こいつらを操っている奴がいる!これじゃキリがないから、強行突破しよう!」

「おうっ!」

「んっ」

「と、突破ですか?了解ですっ!」

「殿は俺に任せろ!」

 

 ハジメの合図と共に、皆一気に踵を返し祭壇へ向かって突進した。ハジメの連写とスラッグのダグザによる薙ぎ払いで進行方向のインフェルノ達を蹴散らし隊列に隙間をあけつつ、殿を務める亮牙が後方から迫ってきているインフェルノ達に向き直ると、口から巨大な火の玉を吐き出した。

 

爆炎大砲(ビッグファイアキャノン)!」

 

 火の玉はインフェルノ軍団にぶつかると、ナパームのように燃え移り、背後で大爆発が起こり、「ごっつんこ〜⁉︎」という悲鳴が上がった。

 前方に隙間が出来ると、空かさずシアが飛び込みドリュッケンを体ごと大回転させて周囲のインフェルノ達を薙ぎ払った。技後硬直する彼女に迫るインフェルノ達を、ハジメ・ユエ・スラッグが撃退していき、亮牙は殿を務めながら後方から迫るインフェルノ達を斬り裂き殴り飛ばしていった。その隙に一気に包囲網を突破したシアが祭壇の前に陣取り、続いてユエ、ハジメ、スラッグが祭壇を飛び越えて扉の前に到着した。

 

「ユエ、扉は⁉︎」

「ん、やっぱり封印されてる…」

「あぅ、やっぱりですかっ!」

「俺スラッグ、腹が立つ!」

 

 見るからに怪しい祭壇と扉なのだ。封印は想定内。だからこそ、扉の封印を落ち着いて解くために、最初は面倒な殲滅戦を選択したのだ。シアとスラッグは案の定の結果に文句を垂れつつも、それぞれ階段を上ってきたインフェルノを弾き飛ばした。

 やがて殿を務めていた亮牙がシアの隣に並び立つと、皆に指示を出した。

 

「ユエ、封印の解除はお前に任せる。ここじゃあお前は燃費が悪くなってるし、ハジメの錬成で突破するのも時間がかかっちまうだろうからな。頼めるか?」

「ん、任せて」

 

 ユエは二つ返事で了承すると、祭壇に置かれている黄色の水晶を手に取った。その水晶は正双四角錐て、幾つもの小さな立体ブロックが組み合わさって出来ているようだった。背後の扉を振り返ると三つの窪みがあり、彼女は少し考える素振りを見せると、正双四角錐を分解し始めた。分解して各ブロックを組み立て直すことで、扉の窪みにハマる新たな立方体を作ろうと考えたのだ。

 分解しながらユエが扉の窪みを観察すると、よく観察しなければ見つからないくらい薄く文字で、何時ものウザいあの文が彫ってあることに気づいた。

 

『解っけるかなぁ~、解っけるかなぁ~』

『早くしないと死んじゃうよぉ~』

『まぁ、解けなくても仕方ないよぉ!私と違って君は凡人なんだから!』

『大丈夫!頭が悪くても生きて……いけないねぇ!ざんねぇ~ん!プギャアー!』

 

 ユエは苛立ちのあまりいつも以上に無表情となり、扉を殴りつけたい衝動を堪えながらパズルの解読に集中した。

 一方亮牙達は、何となく背後から怒気が溢れているのを感じながらも、触らぬ神に祟りなしと、しぶとくわらわらと湧いてくる目の前の蟻型ロボット達の排除に集中した。

 

「俺スラッグ、こいつら、破壊力のある一撃で殲滅出来ないかな?」

「駄目だよ。階段付近じゃあ何が起こるか分からない」

「こんなにアリンコ達が踏み荒らしているんですし今更では?」

「いや、連中にだけ反応しない仕掛けとなってるかもしれんぞ」

「うっ、否定できません…」

 

 亮牙達はある意味、雑談を交わしながらインフェルノ軍団を弾き飛ばしていった。最初は際限の無さに焦りを浮かべていたシアも、亮牙達が余裕を失わず冷静である様子を見て、落ち着きを取り戻したようだ。

 

「でも、ちょっと嬉しいです」

「ん?」

 

 また一体、インフェルノを叩き潰し蹴り飛ばしながら、シアがポツリとこぼした。

 

「ほんの少し前まで、逃げる事しか出来なかった私が、こうして亮牙さん達と肩を並べて戦えていることが、とても嬉しいです」

「…お前も物好きだな」

「えへへ!私、この迷宮を攻略したら亮牙さんといちゃいちゃするんですぅ!」

「だからその直ぐ調子に乗る癖を治せ…」

 

 そんな雑談をしながら騎士達を退け続けて数分、ユエが少し得意気に任務達成を伝えた。

 

「…皆、開いた」

「ご苦労ユエ!皆、下がるぞ!」

「了解!」

「はいっ!」

「俺スラッグ、分かった!」

 

 亮牙が後ろを振り返ると、ユエの言った通り封印が解かれて扉が開いているのが確認できた。奥は特になにもない部屋になっているようで、扉を閉めればゴーレム騎士達の襲撃も阻める筈だ。彼は皆に撤退を呼びかけ、自らも奥の部屋に向かって後退した。最初にユエ、シア、スラッグ、亮牙の順に扉の向こうへ飛び込み、ダイナボット二人が両開きの扉の両サイドを持っていつでも閉められるように備えた。最後にハジメが、置き土産にと手榴弾を数個放り投げ、逃がすものかと殺到したインフェルノ軍団を吹き飛ばした。「ごっつんこ〜⁉︎」という叫びを無視しながらハジメが奥の部屋へと飛び込むと、亮牙とスラッグが扉を閉めた。

 部屋の中は、遠目に確認した通り何もない四角い部屋だった。てっきり、ミレディ・ライセンの部屋とまではいかなくとも、何かしらの手掛かりがあるのでは?と考えていたので少し拍子抜けする。

 

「これは、あれかな?これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチかね?」

「…ありえる」

「うぅ、ミレディめぇ!何処までもバカにしてぇ!」

「なあ、もしオスカーのように隠れ家に奴の遺骨が残ってたら、粉々に叩き壊しても構わねえよな?」

「俺スラッグ、その案に賛成」

 

 一番あり得る可能性に五人がガックリしていると、突如、もううんざりする程聞いてきた、ガコンッという音が響き渡った。それと共に部屋全体がガタンッと揺れ動き、亮牙達の体に横向きのGがかかった。

 

「っ⁉︎何だ⁉︎この部屋自体が移動してるの⁉︎」

「…そうみたッ⁉︎」

「うきゃっ⁉︎」

「ほわあああっ⁉︎」

「クソッ!お前ら、振り落とされるなよ!」

 

 ハジメが推測を口にすると同時に、今度は真上からGがかかった。急激な変化に、ユエが舌を噛んだのか涙目で口を抑え、シアは転倒してカエルのようなポーズで這いつくばった。

 部屋は、その後も何度か方向を変えて移動しているようで、約40秒程してから慣性の法則を完全に無視するようにピタリと止まった。ハジメは途中からスパイクを地面に立て、亮牙とスラッグは四つん這いになって爪を立ててしがみつくことで体を固定していたので急停止による衝撃にも耐えた。ユエは最初の方でハジメの体に抱きつき無事だったが、シアは亮牙が片手を掴んだものの、方向転換する度にあっちへそっちへ悲鳴を上げながら振り回され続けていたので、相当酔ったらしく顔色が悪かった。

 

「…ようやく止まりやがったか。お前ら、大丈夫か?」

「何とかね…」

「…ん、平気」

「俺スラッグ、二度とやりたくない…」

「うぅ、私もですぅ…。うっぷ」

 

 そう言いながら亮牙達は立ち上がった。周囲を観察するが特に変化はなく、先ほどの移動を考えると、入ってきた時の扉を開ければ別の場所ということだろう。

 青い顔で口元を抑えている今にも吐きそうな様子で四つん這い状態のシアが立ち上がれるようになるまで待つと、ハジメとユエは周囲を確認していく。そして、やっぱり何もないようなので扉へと向かった。

 

「さて、何が出るか…?」

「…操ってた奴?」

「かもね。ミレディは死んでいるはずだし、一体誰があのアリンコ軍団を動かしていたんだか…」

「何が出ても関係ない!俺スラッグ、ぶっ飛ばす!」

「スラッグさんの言う通りで…うぇっぷ!」

「…シア、大丈夫か?」

 

 扉の先は、ミレディの住処か、ゴーレム操者か、あるいは別の罠か…。五人とも「何でも来い」と覚悟を決めて浮かべて扉を開くとそこには…

 

「…ねぇ、何か見覚えない?この部屋…」

「…ああ、特にあの石板…」

「最初の部屋、みたいですね…?」

 

 扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。その部屋は中央に石板が立っており左側に通路があった。見覚えがあるのも当然だ。なぜならその部屋はシアの言う通り最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋だったのだ。

 よく似た部屋ではないことは、扉を開いて開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。

 

『ねぇ、今、どんな気持ち?』

『苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?』

『ねぇ、ねぇ、どんな気持ち?どんな気持ちなの?ねぇ、ねぇ』

 

「「「「「……………」」」」」

 

 亮牙達の顔から表情がストンと抜け落ち、額に血管が浮かび上がって来た。五人とも無言で文字を見つめていると、更に文字が浮き出始めた。

 

『あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します』

『いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです』

『嬉しい?嬉しいよね?お礼なんていいよぉ!好きでやってるだけだからぁ!』

『ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です』

『ひょっとして作ちゃった?苦労しちゃった?残念!プギャァー』

 

 

 

 

 

「「「「「……………………………巫山戯やがってぇ!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 暫し沈黙が続いたかと思うと、迷宮全体に届けと言わんばかりの怒りの絶叫が響き渡った。最初の通路を抜けてミレディの言葉通り、前に見たのとは大幅に変わった階段や回廊の位置、構造に更に怨嗟の声を上げたのも言うまでもないことだ。因みに亮牙とスラッグに至っては、絶叫と共に口から火を吐き散らしていた。

 何とか精神を立て直して再び迷宮攻略に乗り出したが、やはり順風満帆とは行かず、特にシアが地味なトラップの尽くにはまって怒り狂い、厄介な事に変わりはなかった。

 そうして、冒頭の光景に繋がるわけである。

 




〜用語集〜
・ライセン大迷宮攻撃兵インフェルノ
 オスカー・オルクスが作り出した人造トランスフォーマーの一種。巨大な赤蟻に変形し、ロボットモードでは両腕に装備されたドリルを武器とする。スパークがない代わりに、感応石で構成されたボディのおかげで、軍団として高い連携を誇る他、破損部位を素早く再構築できる。
 軍団兵を意識して蟻型にしたオスカーだったが、思った以上に蟻の本能の影響が強すぎて、ミレディを女王蟻とする兵隊蟻と化してしまった。しかし当のミレディは気に入っており、変な喋り方を覚えさせまくっていた。
 モデルは『ビーストウォーズ』に登場するデストロン地上攻撃指揮官インフェルノ。武装は玩具オリジナルのメタルスインフェルノから。

・巫山戯やがってぇ!!!
 映画『コマンドー』で、シュワちゃん演じる主人公メイトリックスが、ヴァーノン・ウェルズ演じる宿敵ベネットの猛攻に激昂した時の台詞。筋肉モリモリマッチョマンという単語が何度も使われてきた事から分かるように、作者のシュワちゃん好きの影響でもある。



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