グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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非正規実写版グリムロックの玩具「G-creation MTST-01 Wrath」が遂に届きました。

余りの素晴らしい出来栄えに感動が止まらない…!


クリアしたけど…

 辺りにもうもうと粉塵が舞い、地面には放射状のヒビが幾筋も刻まれていた。激突した浮遊ブロックが大きなクレータを作っており、その上に胸部を漆黒の杭で貫かれたミレディザラックが横たわっていた。

 その上で、ドリュッケンを支えにして息を荒げるシアのもとに、亮牙達四人がやって来た。ハジメとスラッグは感心したように目を細め、亮牙とユエは優しげな眼差しを向けていた。

 

「やったじゃんシア、見直したよ!」

「俺スラッグ、最後のは凄い気迫だったぞ!俺には負けるけど!」

「ん、頑張った」

「えへへ、有難うございます!」

 

 疲れた表情を見せながらもハジメ達の称賛にはにかむシアだが、実際、つい最近まで争いとは無縁だったとは思えない活躍だった。それはひとえに、亮牙達と同じステージに立ちたい、ずっと一緒にいたいという彼女の願いあってのことだろう。深く強いその願いが、彼女の潜在能力と相まって七大迷宮最大の試練と正面から渡り合わせ、止めを刺すというこれ以上ない成果を生み出した。

 温厚で争いごとが苦手な兎人族であり、つい最近まで戦う術を持たなかったのに一度も「帰りたい」などと弱音を吐かず、恐怖も不安も動揺も押しのけて大迷宮の深部までやって来たのだ。結果は上々、凄まじい気迫と共に繰り出された最後の一撃には、シアの想いの強さが衝撃波となって届いたのかと思うほどで、長年戦士として戦い続けた亮牙が見惚れるほど見事なものだった。

 そんな頑張りと根性を見せられては、つい絆されてしまうのも仕方ないことだろう。柔らかい眼差しで見つめながら亮牙はシアのもとへと歩み寄ると、乱れた髪を直すように優しく彼女の頭を撫でた。

 

「ふぇっ?り、亮牙さん?」

「お疲れさん。よく頑張ったな」

「亮牙さん…うぅ、あれ、何だろ?何だか泣けてぎまじだぁ、ふぇええ〜」

「全く、まだまだ泣き虫だな。まあ、今回は許してやるか…」

 

 シアは最初のうち亮牙の突然の行動に戸惑っていたが。褒められていると理解すると緊張の糸が切れたのか、ポロポロと涙を流しながら彼に抱きつき泣き出してしまった。やはり、初めての旅でいきなり七大迷宮というのは相当堪えていたのだろう。それを亮牙達に着いて行くという決意のみで踏ん張ってきたのだ。褒められて、認められて、安堵のあまり涙腺が崩壊してしまったようだ。

 胸の中で「ふぇええ~ん」と嬉し泣きだか安堵泣きだかをして甘えているシアを優しげに見つめながら頭を撫でている亮牙、そんな光景を微笑ましげに眺めるハジメ・ユエ・スラッグ。そんな彼らに突如、物凄く聞き覚えのある声が掛けられた。

 

「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、そろそろヤバイんで、ちょっといいかなぁ~?」

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

 亮牙達がハッとしてミレディザラックを見ると、消えたはずの眼の光がいつの間にか戻っていた。咄嗟に飛び退くと、確かに核は砕いたはずなのにと警戒心もあらわに彼らは身構えた。

 

「ちょっと、ちょっと!大丈夫だってぇ~!試練はクリア!あんたたちの勝ち!核の欠片に残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~、もう数分も持たないから」

 

 その言葉を証明するように、ミレディザラックはピクリとも動かず、眼に宿った光は儚げに明滅を繰り返していた。今にも消えてしまいそうな様子を見ると、どうやら嘘はついてなさそうだ。

 亮牙は少し警戒心を解くと、ミレディ・ゴーレムに話しかけた。

 

「ったく、今度は何だ?また巫山戯た真似するようなら、お前の本名はゲリピー・デブセンだと世間に言いふらすぞ。最期は下痢してくたばったとか付け加えてな」

「ちょっ、やめてよぉ~!レディに向かって何その酷い嫌がらせ?」

「お前が言うな。…メガトロナスと似非神どもをぶっ殺せっていう話なら必要ないぞ?奴らは必ず殺す」

 

 機先を制するようにそう告げる亮牙に、ミレディザラックは何となく苦笑いめいた雰囲気を出した。

 

「言わないよ、言う必要もないからね…。話したい、というより忠告だね。訪れた迷宮で目当ての神代魔法がなくても、必ず私達全員の神代魔法を手に入れること、君達の望みのために必要だから…。プライムの皆からも聞いただろうけど、概念魔法の獲得には全ての神代魔法が必須だからさ…」

「分かってる。あと、残る五つ迷宮の場所を教えてくれ。現代じゃ失伝して不明だし、プライム達も全て教えてはくれなかったからな…」

「あぁ、そうなんだ…。そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど、長い時が経ったんだね…。…うん、場所、場所はね…」

 

 いよいよミレディザラックの声が力を失い始めた。どこか感傷的な響きすら含まれた声に、ユエやシアの表情が神妙になる。長い時を、使命、あるいは願いのために意志が宿る器を入れ替えてまで生きた者への敬意を瞳に宿した。

 ミレディは、ポツリポツリと残りの七大迷宮の所在を語り始めた。

 次に亮牙達が目指そうとしていた砂漠の中央のグリューエン大火山にある「忍耐の試練」、西の海の沖合のメルジーナ海底遺跡にある「狂気の試練」、正教教会総本山たる神山にある「意思の試練」、ハルツィナ樹海にある大樹ウーア・アルトの「絆の試練」、魔国ガーランド近郊のシュネー雪原に存在する氷雪洞窟の「反面の試練」。

 予想外な場所に残りの迷宮がある事を知った五人は、この旅は長いものになると予期した。

 

「以上だよ……頑張ってね」

「…俺スラッグ、お前、散々挑発してきたくせに、何で急にしおらしくなる?」

 

 スラッグがそう指摘した通り、今のミレディは迷宮内のウザイ文を用意したりあの人の神経を逆撫でする口調とは無縁の誠実さや真面目さを感じさせた。恐らく消滅を前にして取り繕う必要がなくなったのか、戦闘前に亮牙の目的を聞いたときに垣間見せた、彼女の素顔が出ているのだろう。

 

「あはは、ごめんね~。でもさ、あのクソ野郎共って、ホントに嫌なヤツらでさ…。嫌らしいことばっかりしてくるんだよね…。…だから、少しでも、慣れておいて欲しくてね…」

「…生憎、性根の腐り果てた奴らのウザったい所業は、俺やハジメは育った星で嫌という程体験してるぞ」

「うん、確かにね…」

 

 地球でのクラスメイト達による忌々しい所業を思い出して、思わず不機嫌になる亮牙とハジメの声に、ミレディは意外なほど楽しげな笑い声を漏らした。

 

「ふふ、つくづく自分に正直だね…。君達は君達の思った通りに生きればいい…。君達の選択が、きっと、この世界にとっての、最良だから…」

 

 いつしかミレディザラックの体を燐光のような青白い光が包み、蛍火の如く淡い小さな光となって、死した魂が天へと召されるように登っていった。

 そんな神秘的な光景の最中、彼女の傍へとユエが寄って行き、既にほとんど光を失っている眼をジッと見つめた。

 

「何かな?」

「…お疲れ様。よく頑張りました」

「……」

 

 囁くような声のミレディに、同じく囁くようにユエが一言、消えゆく偉大な「解放者」に労いの言葉を贈った。たった一人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物だ。本来なら遥かに年下の者からの言葉としては不適切かもしれないが、やはりこれ以外の言葉をユエは思いつかなかった。

 ミレディにとっても意外な言葉だったのか、言葉もなく呆然とした雰囲気を漂わせていたが、やがて穏やかな声でポツリと呟いた。

 

「…ありがとね」

「…ん」

「…さて、時間の、ようだね…。君達のこれからが、自由な意志の下に、あらんことを…」

 

 オスカーと同じ言葉を亮牙達に贈ると、「解放者「の一人ミレディ・ライセンは淡い光となって天へと消えていった。

 辺りを静寂が包み、余韻に浸るようにユエ・シア・スラッグが光の軌跡を追って天を見上げた。

 

「…最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

「…ん」

「俺スラッグ、こんな事なら酷いこと言わなきゃ良かった…」

 

 三人共、どこかしんみりとした雰囲気で言葉を交わしていた。

 だが、残る二人、亮牙とハジメのコンビは何処かうんざりした様子で二人に話しかけた。

 

「…お前らなぁ、もういいだろ?さっさと先に行くぞ。言っとくが奴の性根の捻くれ具合は素だと思うがな」

「同感だね。あの意地の悪さは演技ってレベルじゃないよ」

「ちょっと、お二人とも。そんな死人にムチ打つようなことを…。ヒドイですよ、亮牙さんったら時々空気読めませんよね?」

「…ハジメと亮牙、KY?」

「俺スラッグ、お前ら最低だな」

「ちょっと、そこまで言う?」

「よせハジメ、言っても無駄だ。じきに三人共後悔することになるさ…」

 

 そんな雑談をしていると、いつの間にか壁の一角が光を放っていることに気ついた亮牙達は、気を取り直してその場所に向かった。上方の壁にあるので浮遊ブロックを足場に跳んでいこうとブロックの一つに跳び乗ると、その途端足場の浮遊ブロックがスィーと動き出し、光る壁まで亮牙達を運んでいった。

 

「わわっ、勝手に動いてますよ、これ!便利ですねぇ」

「…サービス?」

「俺スラッグ、なんかサイバトロン星を思い出す仕掛けだ」

「…ねえ亮牙。やっぱりこれ見てると、結末が予想つくよね…?」

「黙っといてやれ、今は楽しませてやろう。直ぐに後悔するだろうがな…」

 

 勝手に自分達を運んでくれる浮遊ブロックにシアは驚き、ユエは首を傾げ、スラッグは何処か懐かしんでいた。だが、亮牙とハジメは何かを予測しているのか嫌そうな表情をしていた。

 10秒もかからず光る壁の前まで進み、その手前5m程の場所でピタリと動きを止めると、光る壁はまるで見計らったようなタイミングで発光を薄れさせていき、スっと音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られた。奥には光沢のある白い壁で出来た通路が続いていた。

 亮牙達の乗る浮遊ブロックは、そのまま通路を滑るように移動していった。どうやらミレディ・ライセンの住処まで乗せて行ってくれるようだ。そうして進んだ先には、オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があった。五人が近づくと、やはりタイミングよく壁が横にスライドし奥へと誘い、浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった。

 そしてくぐり抜けた壁の向こうには、

 

「やっほー、さっきぶり!ミレディちゃんだよ!」

 

 小さなロボ娘の風貌なミレディがいた。

 

「「「………」」」

「ほらな、後悔したろ?」

「うん、こんなことだと思ったよ」

 

 ユエ・シア・スラッグは言葉を失い、予想がついていた亮牙とハジメはウンザリした表情となった。

 亮牙とハジメがこの状況を予想できたのは、単にふざけたミレディも真面目なミレディも両方が彼女であることに変わりはないということを看破していたからだ。ウザイ文のウザさやトラップの嫌らしさは、本当に真面目な人間には発想できないレベルだった。

 またミレディは、意思を残して自ら挑戦者を選定する方法をとっていたので、一度の挑戦者が現れ撃破されたらそれっきり等という事は、一度のクリアで最終試練がなくなってしまう事になるため有り得なかった。それらの点から、二人はミレディザラックを破壊してもミレディ自身は消滅しないと予想していた。それは彼女だけが意図的に動かせる筈の浮遊ブロックが、自分達を乗せて案内するように動き出した時点で確信に変わっていた。

 黙り込んで顔を俯かせるユエ・シア・スラッグに、ミレディが非常に軽い感じで話しかけてきた。

 

「あれぇ?あれぇ?テンション低いよぉ~?もっと驚いてもいいんだよぉ~?あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか?だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」

 

 目の前のミレディロボは、蠍の意匠が見られたミレディザラックとは異なり、ロボ娘と形容するかのように人間らしいデザインだった。金髪のポニーテールを彷彿とさせる頭部に青いオプティック、女性らしい華奢なボディと、何処か可愛らしいデザインが微妙に腹立たしかった。そんなミニ・ミレディは、語尾にキラッ!と星が瞬かせながら五人の眼前までやってきた。

 未だ、ユエ・シア・スラッグの表情は俯き、垂れ下がった髪に隠れて分からなかった。もっとも亮牙とハジメは先の展開は読めるので、三人から一歩距離をとっていた。

 やがて三人がぼそりと呟くように質問した。

 

「…さっきのは?」

「ん~?さっき?あぁ、もしかして消えちゃったと思った?ないな~い!そんなことあるわけないよぉ~!」

「でも、光が昇って消えていきましたよね?」

「ふふふ、中々よかったでしょう?あの『演出』!やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて!恐ろしい子!」

「つまり、全部俺達をおちょくるためだったと…」

 

 テンション上がりまくりのミニ・ミレディは、ウザさまで比例するかのようにうなぎ上りだ。そんな彼女を前にして、ユエ・シア・スラッグは三人共戦闘態勢を取った。

 

(あれ?やりすぎた?)

 

 それを見て、流石のミレディも動きを止めた。だが、時すでに遅し。

 

「え、え~と…」

 

 ゆらゆら揺れながら迫ってくる三人に、ミニ・ミレディは頭をカクカクと動かし言葉に迷う素振りを見せると意を決したように言った。

 

「テヘ、ペロ☆」

「…死ね」

「死んで下さい」

「俺スラッグ、お前を酷い目に遭わせる」

「ま、待って!ちょっと待って!このボディは貧弱なのぉ!これ壊れたら本気でマズイからぁ!落ち着いてぇ!謝るからぁ!」

 

 しばらくの間、ドタバタ、ドカンバキッ、いやぁーなど悲鳴やら破壊音が聞こえていたが、亮牙とハジメは一切無視して、部屋の観察に努めた。

 部屋自体は全てが白く、中央の床に刻まれた魔法陣以外には何もなかった。唯一、壁の一部に扉らしきものがあり、おそらくそこがミレディ本体の住処になっているのだろうと二人は推測した。

 亮牙とハジメはおもむろに魔法陣に歩み寄って勝手に調べ始めた。それを見たミニ・ミレディが慌てて二人のもとへやって来る。後ろからは、無表情の吸血姫とウサミミがドドドドッと音を立てながら迫って来ている。

 

「君達ぃ~勝手にいじっちゃダメよぉ?ていうか、お仲間でしょ!無視してないで止めようよぉ!」

 

 そんな文句を言いながらミニ・ミレディは亮牙の背後に回り、三人の怒れる猛獣に対する盾にしようとした。

 

「…亮牙どいて、そいつ殺せない」

「退いて下さい、亮牙さん。そいつは殺ります。今、ここで」

「俺スラッグ、そいつをドロドロに溶かしちまおう」

「はいはい、その辺にしろ。やる事やるぞ」

「そうだ、そうだ、真面目にやれぇ!」

 

 亮牙は若干呆れつつも三人を嗜めた。背後のミレディもはやし立てたので、素早くロボットモードに戻って彼女を摘み上げ、口を大きく開けて飲み込もうとする仕草をした。

 

「さっさとお前の神代魔法をよこせ。でなきゃお前を食っちまうぞ?」

「あのぉ~、言動が完全に悪役だと気づいて───」

「よし食おう。あ〜ん」

「了解であります!直ぐに渡すであります!だからストープ!ミレディたんを食べても獲得出来ないよぉ!!!」

 

 喰われそうになる恐怖を味わってもがくミレディの醜態に、取り敢えず溜飲を下げたのかユエ・シア・スラッグも落ち着きを取り戻し、これ以上ふざけると本気で喰われかねないと理解したのかミレディもようやく魔法陣を起動させ始めた。

 魔法陣の中に入る亮牙達。今回は、試練をクリアしたことをミレディ本人が知っているので、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていった。亮牙・ハジメ・ユエは経験済みなので無反応だったが、シアとスラッグは初めての経験にビクンッと体を跳ねさせた。

 ものの数秒で刻み込みは終了し、あっさりと五人はミレディ・ライセンの神代魔法を獲得した。

 

「これは、やっぱり重力操作の魔法か」

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってねって言いたいところだけど、君とウサギちゃんは適性ないねぇ~、もうびっくりするレベルでないね!」

「余計なお世話です。それくらい想定済みさ」

 

 ミレディの言う通り、ハジメとシアは重力魔法の知識等を刻まれてもまともに使える気がしなかった。亮牙とユエが生成魔法をきちんと使えないのと同じく、適性がないのだろう。

 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんとダイナボット二人は適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」

「ああ、生成魔法とは違って、身体に凄く馴染みやがる気がするな」

「俺スラッグ、確かになんか気分が良い!」

 

 ミニ・ミレディの幾分真面目な解説に、亮牙とスラッグは心底嬉しそうだ。元々重力魔法の真髄は星のエネルギーに干渉する魔法なのだ。何千万年も生き続け、最早生きる自然災害とも言える彼らダイナボットは適性があって当然だろう。

 他の三人だと、ハジメは肩を竦め、ユエは頷き、シアは打ちひしがれた。せっかくの神代魔法を適性なしと断じられ、使えたとしても体重を増減出来るだけと知っては、ガッカリ感が凄まじいだろう。また、重くするなど論外だが、軽くできるのも問題だ。油断すると体型がやばい事になりそうで、むしろデメリットを背負ったんじゃとシアは意気消沈した。

 落ち込む彼女を尻目に、亮牙は遠慮も容赦も一切なく、更に要求を突きつけた。

 

「さてと、次は攻略の証を貰おうか」

「それから、アンタが持っている便利そうなアーティファクト類と感応石みたいな珍しい鉱物類も貰いますよ」

「…君達、セリフが完全に強盗と同じだからね?自覚ある?」

 

 ジト目で睨みつけるも気にしない様子の二人に呆れつつ、ミレディは懐から取り出した一つの指輪を放り投げ、亮牙が受け取った。ライセンの指輪は、上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインだ。

 彼女は更に、自身の宝物庫から保管していた大量の鉱石類を出現させる。やけに素直に取り出したところを見ると、元々渡す気だったのかもしれない。メガトロナス達と戦うのだから、このくらいの協力は惜しまないつもりだったのだろう。

 だが、亮牙とハジメは満足しなかった。出された鉱物類を自分達の宝物庫に仕舞うと、冷めた目でミレディを睨みつけた。

 

「ねえ、それも宝物庫でしょう?どうせ中にアーティファクト入ってるなら、それごと下さいよ」

「あ、あのねぇ~。これ以上渡すものはないよ。宝物庫も他のアーティファクトも迷宮の修繕とか維持管理とかに必要なものなんだから」

「ふん、散々調子に乗った迷惑料にはまだ足りねえよ」

「あっ、こらダメだったら!」

 

 本当に根こそぎ奪っていこうとする彼らに、ミレディは焦った様子で後退った。彼女が所有しているアーティファクト類は全て迷宮のために必要なものばかりで、むしろそれ以外には役に立たないものばかりのため、亮牙一向が持っていても仕方がないだろう。その辺りのことを掻い摘んで説明するが、亮牙は「どうせ攻略しに来る奴なんて俺達以外いねえよ」と一蹴し、容赦なく引渡しを要求した。

 

「ええ~い、あげないって言ってるでしょ!もう、帰れ!」

 

 ジリジリと迫ってくる亮牙とハジメにミレディはそう叫ぶと、勢いよく踵を返して壁際まで走り寄り、浮遊ブロックを浮かせ天井付近まで逃げた。

 

「おい、俺達は今後メガトロナスと戦うんだぞ?それにはまだまだ戦力が足りんのだ。お前には自分達の尻拭いをする若者達を助けようという気持ちがねえのか?」

「だからってレディから身包み剥がそうとする君達の価値観はどうかしてるよ!うぅ、いつもオーちゃんに言われてたような事を私が言う様になるなんて…」

「生憎、これはオスカーの迷宮で培った価値観ですから」

「オーちゃぁーん!!!」

 

 そう言う亮牙とハジメに加勢して、ユエ・シア・スラッグも今まで散々弄ばれた復讐をせんとジリジリとミレディ包囲網を狭めていった。半分は自業自得だが、もう半分はかつての仲間が創った迷宮のせいという辺りに、ミレディは何ともやるせなさを感じていた。

 

「はぁ~、初めての攻略者達がこんなキワモノだなんて…。もぅ、いいや。君達を強制的に外に出すからねぇ!戻ってきちゃダメよぉ!」

「「「「「は!!?」」」」」

 

 今にも飛びかからんとしていた亮牙達の目の前で、ミレディは、いつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った。

 一瞬、呆気に取られる五人だが、その耳に嫌というほど聞いてきた、ガコン!というトラップの作動音が聞こえてきた。

 その音が響き渡った瞬間、轟音と共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできた。正面ではなく斜め方向へ鉄砲水の様に吹き出す大量の水は瞬く間に部屋の中を激流で満たすと共に、部屋の中央にある魔法陣を中心にぽっかりと空いた穴に向かって一気に流れ込んだ。

 ハジメは直ぐに屈辱に顔を歪めた。これはまるで水洗便所、自分達は排泄物も同然だ。

 

「ックソ!この性悪ババアっ!」

「クソだけに、嫌なものは水に流すに限るね☆」

「来…」

「させなぁ~い!」

 

 そう告げてウインクするミレディに苛立ちつつ、ユエが咄嗟に「来翔」で全員を飛び上がらせようとした。この部屋の中は神代魔法の陣があるせいか分解作用がないため、彼女の残された僅かな魔力でも全員を激流から脱出させる程度のことは可能だった。

 だがミレディはそうはさせまいと右手を突き出し、重力魔法で上から数倍の重力を亮牙達に掛けた。五人は上から巨大な何かに押さえつけられるように激流へと沈められてしまった。

 

「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」

「クソッタレがぁ!この外道ババアが!」

「ごほっ、次会ったら屈辱的な姿に改造してやる!」

「ケホッ、許さない」

「殺ってやるですぅ!ふがっ」

「俺スラッグ、お前が流されろ!ゲリピー・デブセン!」

 

 亮牙達はそう捨て台詞を吐きながら、なすすべなく激流に呑まれ穴へと吸い込まれていった。だが穴に落ちる寸前、ハジメだけは仕返しとばかりに何かを投げつけていた。

 五人が穴に流されると、流れ込んだときと同じくらいの速度であっという間に水が引き、床も戻って元の部屋の様相を取り戻した。

 

「ふぅ~、濃い連中だったねぇ~。それにしても人間の一人はオーちゃんと同じ錬成師、か。ふふ、何だか運命を感じるね。願いのために足掻き続けなよ…。さてさて、迷宮やらインちゃん達の修繕で暫く忙しくなりそうだね…。ん?なんだろ、あれ?」

 

 汗などかくはずもないのに額を拭う仕草をしながらミレディはそう独りごちったが、ふと視界の端に、壁に突き刺さったナイフとそれにぶら下がる黒い物体を発見した。何だろう?と近寄り、そのフォルムに見覚えがあることに気がついた。

 

「へっ⁉︎これって、まさかッ⁉︎」

 

 黒い物体の正体は、ハジメお手製の手榴弾だった。穴に落ちる寸前でせめてもの仕返しにとナイフに括りつけた手榴弾を投擲したのだ。しかもこの手榴弾、亮牙お手製の厄介な仕掛けがあった。

 何度か迷宮内でも使っていたので、ミレディもそれが爆発物だと察し、焦りの表情を浮かべながら急いで退避しようとした。実は、重力魔法は今の彼女にとってすこぶる燃費が悪く、さっきので打ち止めだったため、爆発を押さえ込むことが出来なかった。

 わたわたと踵を返すミレディだったが、時すでに遅し。彼女が踵を返した瞬間、白い部屋がカッと一瞬の閃光に満たされた瞬間、中から大量の何かが飛び散った。

 飛び散った中身の正体、それは亮牙一行がオルクス大迷宮や旅の途中で仕留めた魔物の内臓や血を程よく発酵させたものを大量に濃縮したエキスであった。敵を追っ払うためのアイテムとして亮牙が考案したもので、その悪臭はシュールストレミングを凌ぎ、元ティラノサウルスの彼の鼻が曲がるぐらいのレベルだ。

 

「うぎゃあああああああっ!!?く、臭過ぎぃぃぃぃぃっ!!!」

 

 迷宮の最奥にミレディの悲鳴が響き渡った。エキスは部屋中に撒き散らされ、彼女も直に浴びてしまったのだ。オスカーのおかげで生前と同じ五感を感知できるボディのため、流石の彼女もこの悪臭には耐えられなかった。

 その後彼女は、修繕してもなおこびりついてしまった悪臭に泣くことになったが、まあ自業自得としか言いようがないだろう。

 

 

 

 

 

 




〜用語解説〜
・メカ・ミレディ
 本作におけるミレディの本体。デザインは『零』のミレディをロボ娘とした感じ。
 インフェルノからミレディザラックまで、ライセン大迷宮内の全ての人造トランスフォーマーとトラップを操作、管理している。
 当初はミレディザラックのヘッドマスターとして考えていたが、最終的にはIDW版のメガザラックを参考に、ボディを遠隔操作しているという設定になった。



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