グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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豚ってデブや愚鈍の例えによく使われますけど、実際の豚って筋肉質だし知能もかなり高い動物なので、デブや愚鈍な奴を豚呼ばわりするのは却って豚に失礼なんですよね(笑)


デブデブ上がれ〜

 大陸一の商業都市である中立商業都市フューレンは、あらゆる業種が日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでは大陸一と言えるだろう。

 その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類なども生産・直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区がそれだ。東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識らしい。メインストリートからも中央区からも遠い場所は闇市的な店が多いが、その分時々とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が、よく出入りしているようだ。

 亮牙達はモットー率いる商隊と別れると冒険者ギルドを訪れて依頼達成の報告をした後、宿を取ろうとしたのだが何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ案内人の存在を教えられ、その一人であるリシーを雇い、ギルド内のカフェで軽食を取りながらフューレンの基本事項を受けていた。

 

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

「そうか、なら素直に観光区の宿に泊まるとするか。ねーちゃん的にお薦めな所は何処だ?」

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

「そりゃそっか。そうですね、食事が美味くて、あと風呂があるなら、立地とかは考慮しなくていい。…これぐらいかな?」

「俺としちゃあ、防犯面もしっかりしてるとありがたいんだがな…。後は、従業員教育がしっかり行き届いている場所だな」

「ふむふむ、従業員の教育…。え?」

 

 亮牙が出したその条件にリシーは目を点にし、他の面々が「あー、確かに」と思い出したように声を上げた。

 

「あの~、従業員教育が行き届いていると言うのは……?」

「ああ。前泊まった宿の従業員教育が最悪でな…。毎度毎度止めろと文句を言っても客のプライバシーを侵害してくる所だったんだよ。一応慰謝料は払ってもらったが、今度泊まる宿じゃあそんな目には遭いたくねえからな…」

「そ、それは災難でしたね…」

「全くだ。兎に角、そういう事がない、あったとしてもきちんと対応してくれる、信頼できる場所を頼むぞ」

 

 亮牙がため息交じりにそう要望し、ハジメも同意するように頷き、ユエとシアはあはは、と小さく苦笑を浮かべていた。スラッグだけ呑気に菓子を食べていたものの、それだけで四人が実際にそんな目にあったと言う事が分かる。

 リシーは苦笑しつつも納得したように頷き、続いてユエ・シア・スラッグの方に目を向け要望がないか聞いた。

 

「…お風呂があればいい、但し混浴、貸切が必須」

「えっと、大きなベッドがいいです」

「俺スラッグ、飯が美味けりゃそれでいい」

「承知しましたわ、お任せ下さい」

 

 ユエとシアの要望にリシーも察したようですまし顔で了承するが、頬が僅かに赤く染まり、チラッチラッと亮牙とシア、ハジメとユエを交互に見ると更に頬を染めた。

 ちなみに、すぐ近くのテーブルでたむろしていた男連中が「視線で人が殺せたら!」と言わんばかりに亮牙とハジメを睨んでいたが、二人ともすっかり慣れた視線なので普通にスルーしていた。

 そのままフューレンの事を更に詳しく聞いていると、亮牙達は不意に強い視線を感じた。特に、シアとユエに対しては、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。視線など既に気にしないユエとシアだが、あまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を顰めた。

 亮牙達男性陣は一瞬目を合わせると同時に視線の先を辿ると、そこにいたのは見るからに醜悪な男だった。体重が軽く100kgは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ていた。そんな見るからにオークのような醜悪な男がユエとシアを欲望に濁った瞳で凝視していた。

 早速か、と亮牙とハジメが顔をしかめると、その腐れデブは重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら彼らの方へ近寄ってきた。

 リシーも傲慢な態度でやって来る腐れデブに営業スマイルも忘れて「げっ!」と何ともはしたない声を上げた。彼女の様子から推測するに、この腐れデブはこの辺りでは悪い意味で有名なのだろう。

 腐れデブは、亮牙達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかった亮牙達男性陣に、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をしてきた。

 

「お、おい、ガキ共。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

 そう言って腐れデブがユエに手を伸ばしてきたが、その瞬間、亮牙とハジメから尋常ではない殺気が周囲に向かって放たれた。周囲のテーブルにいた者達は顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後退りしながら必死に彼らから距離をとり始めた。

 腐れデブに至っては「ひぃ⁉︎」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で盛大に失禁していた。

 

「…ったく、大都市なら清掃業ぐらいしっかりしてほしいもんだ。肥溜めから汚物が溢れてやがるじゃねえか…」

「全くだね。すみませんリシーさん、続きは別の場所で…」

 

 そう言って亮牙達が立ち上がり、殺気を向けられず状況が飲み込めていないリシーに声をかけてギルドから出ていこうとすると、目の前に大男が立ち塞がった。腐れデブとは違う意味で100kgはありそうな巨漢で、全身筋肉の塊で腰に長剣を差している。

 

「そ、そうだ、レガニド!そのクソガキ共を殺せ!わ、私を殺そうとしたのだ!嬲り殺せぇ!」

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

「やれぇ!い、いいからやれぇ!お、女は、傷つけるな!私のだぁ!」

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

「おう、坊主共。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は、諦めてくれ」

 

 吠える腐れデブから報酬を聞いていやらしい笑みを浮かべるあたり、如何にも小悪党らしい守銭奴なチンピラだった。

 

「おいおい、レガニドって『黒』のレガニドか?」

「『暴風』のレガニド? 何であんな奴の護衛なんてしてるんだ?」

「そりゃ金払いが良いからじゃないか?『金好き』のレガニドなんだからよ」

 

 周囲がヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。天職を持っているかまで窺い知れないが、『黒』は上から三番目のランクで、戦闘系天職を持たない場合はこれが最高ランクだ。

 予想はしていたが、ハジメと亮牙は小さくため息を吐いた。だが、彼らにはこうした状況が大好物の男が一人いた。

 

「俺スラッグ、これ喧嘩だな?買っていいよな?」

「分かった分かった。殺さない程度に遊んできな」

「ヤッタァ!俺スラッグ、久々に喧嘩が出来る!」

 

 嬉しそうにこの喧嘩買っていいかと尋ねてくるスラッグに、亮牙は呆れつつも手加減はする様に伝えた。腹は立つ連中だが、こんな人前で殺人なんてしたら後々面倒だ。

 

「ヒャッハァーッ!!!」

「ひでぶっ!!?」

 

 嬉しそうな雄叫びを上げながらスラッグの右ストレートがレガニドの顔面に、ジャイアンパンチの如くめり込んだ。自分の実力に自惚れていたとはいえ、突然の事態にレガニドはそれを避ける事は出来ず、ドカァ!と言う異音と共に口から無数の歯が折れて飛び散った。だが、それでも勢いは止まらず、レガニドは思い切り吹き飛びギルドの壁に背中から激突した。

 その一撃でレガニドの意識は完全に刈り取られ、仰向けに崩れ落ちたが、スラッグはまだ満足しない。彼はそのままレガニドに近づくと、「さっさと起きろ!」と言わんばかりに何度も蹴り付け踏みつけた。しかも笑顔で楽しそうなのがまた怖い。

 突然の惨劇にギルド内は静寂に包まれ、誰も彼も身動き出来なかった。対して亮牙達四人は呆れていたが。

 

「スラッグさん、最近暴れ足りなくて退屈そうでしたからねぇ」

「お〜いスラッグ、やり過ぎんなよ。そのカス死んじまうから」

 

 シアと談笑した亮牙は面倒臭そうに大きく息を吐いて立ち上がると、腐れデブを睨みつけた。当の腐れデブは顔を青ざめさせて更に盛大に失禁していた。

 

「ひぃ!く、来るなぁ!わ、私を誰だと思っている!プーム・ミンだぞ!ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

「そんなに偉けりゃ神にでも会って来い」

 

 そう言うと亮牙はドスンと足を踏み鳴らした。するとあら不思議、腐れデブの身体が突如として宙に浮いたかと思うと、そのままギルドの建物の天井を突き破って天高く飛んでいってしまったのだ。

 

「デブデブ上がれ〜、風よくうけて〜、宇宙まで上がれ〜、あの世まで上がれ〜♫」

「ア、アイエエエッ!!?」

 

 亮牙が呑気に歌う中、腐れデブことプーム・ミンは悲鳴をあげるが、そのまま止まる事なく飛ばされた風船の如く空へと舞い上がっていった。やがてそのままトータスの外気圏すら突き抜けて終いには宇宙空間にまで到達してしまった腐れデブだったが、そんなトータス人初の偉業に気づく事すらなく窒息死していた。

 これぞ亮牙が重力魔法を極めた結果生み出した新技「重力支配(ゼロジースロー)」である。敵を無重力状態にしてサイコキネシスの如く持ち上げ、敵を翻弄するのだ。今回のように、手を出す事なく相手を抹殺するにはちょうど良い技だ。

 

「空〜に〜消えてった〜悪徳貴族〜♫」

「さて、それじゃあリシーさん、は無理そうだね…。これからどうする?僕らで宿を探す?」

 

 その間にスラッグを呼んできたハジメはリシーに目を向けるが、彼女は怯えたように「ひぃぃっ!」と悲鳴を上げていた。

 無理もないだろう。何せハジメの隣にいるスラッグは手足を返り血に染めながら、「俺スラッグ、楽しかった〜」などと呑気に笑っているのだ。反撃することもできずに袋叩きにされたレガニドに至っては、歯を全てへし折られた挙句、殴られまくった顔はアンパ○マンみたいに腫れ上がり、時折ピクピクと痙攣している始末だ。

 流石に並の女性がそんな惨劇を見せられて正気を保てる筈もなく、そんな状態の彼女に自分たちの案内をさせると言うのは酷だろう。

 

「…それもいいかも。折角広い街だし、少しぶらつくのもよし」

 

 そう言ったユエは乗り気で、シアや亮牙も異論はないとリシーに迷惑料としてチップを渡していた。そして五人がギルドから出ていこうとした瞬間、今更ながらギルドの職員がやって来た。

 

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

 そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員が五人を囲むように、全員腰が引けていながらも近寄った。もう数人は、スラッグに八つ裂きにされた哀れなレガニドの容態を確認していた。

 

「は?何もせずに傍観していたくせに何寝言吐かしてやがる。あの汚物が俺達の恋人を奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにしただけだろうが。それ以上、説明する事がない。そこの案内人のねーちゃんとか、その辺で随分と聞く耳立ててた野郎共も証人になるぞ。なぁ?」

 

 そう言いながら亮牙が周囲の男連中を睥睨すると、目があった連中はこぞって首がもげるほどの勢いで何度も頷いた。

 

「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので…。規則ですから冒険者なら従って頂かないと…」

「何が当事者双方だ。加害者側は片方が歯が全部折れて喋れない状態、もう片方はこちらが触ってもいないのに勝手に空に消えてったんだぞ。きっと天罰でも下ったんだろうよ。それとも何か?加害者側が貴族と高ランク冒険者だから贔屓するつもりか?」

「い、いや、ですが…」

「成る程成る程、この街の冒険者ギルドの質はよーく分かった…」

 

 顔を青くしながらもしつこく問答する職員達に、遂にカチンときた亮牙はそう告げると、職員達を無視してギルドの入り口に立つと、ショルダーポーチからある物を取り出した。

 取り出したのはメガホンだった。何をするのかと周囲が首を傾げる中、亮牙はメガホンを使い大声で叫んだ。

 

「お仕事や御旅行でフューレンを訪れている皆さん‼︎この街の冒険者ギルドは、恐喝・誘拐・殺人未遂の現行犯を高ランク冒険者にしときながら、その犯罪行為を一切止めもせず、挙げ句の果てに正当防衛で身を守った被害者を逮捕しようとしています!こうもあからさまな不正を行うとは犯罪組織との癒着があるやもしれません!皆さんも冒険者とは名ばかりの極悪人を雇わされないよう気をつけてください!!!」

 

「「「「「ッ!!?わ〜‼︎ 何言ってるんですか⁉︎やめてくださいやめてくださいっ!!!」」」」」

 

 大声で恐喝まがいの演説を始めた亮牙に、職員達が止めさせようと押し問答していると、突如、凛とした声が掛けられた。

 

「何を騒いでいるのです?これは一体、何事ですか?」

 

 そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目で亮牙達を見ていた。

 

「ドット秘書長!いいところに!これはですね…」

 

 職員達がこれ幸いとドット秘書長と呼ばれた男のもとへ群がった。ドットは職員達から話を聞き終わると、亮牙達五人に鋭い視線を向けた。

 どうやら余計面倒な事が起こりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、スラッグに八つ裂きにされたレガニドは、辛うじて一命は取り留めたものの、莫大な治療費に今までの稼ぎだけでなく装備などまで売り払う事になってしまい、破産してしまった。それ以来フューレンでは『欲張りレガニド』なる教訓話が、強欲は破滅を招くという見本として語り継がれていく事になったが、その話はどうでもいいだろう。

 




タイトルは『トランスフォーマープライム』第18話でウォーブレークダウンが『たこのうた』を歌っていたことに因んでいます。

また後半の大演説での恫喝シーンは、『こち亀』で両さんがインチキ不動産屋の羽生さんを脅すシーンへのオマージュです(笑)

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