スタジオシリーズのグリムロックとウィーリーも予約しないと!
今回もアンチ描写や、少しキツイ言葉が多いです。ご注意下さい。
散々吠えた後、愛子は他の客の目もあるからとVIP席の方へ亮牙達を案内した。そこで愛子や優花達から怒涛の質問を投げかけられつつも、当の亮牙達は目の前の食事に夢中のためぶっきらぼうに答えを返していった。
Q、橋から落ちた後、どうしたのか?
A、上に戻れなかったから下から出た。
Q、その目や顔の傷はどうしたのか?
A、戦いの古傷に決まってるだろ。
Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか?
A、面倒臭かったし戻りたいとも思わなかった。
そこまで聞いて愛子が、「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒るが、憐れなことに迫力どころか愛嬌しか感じられなかった。
案の定、亮牙はどうでも良いのか目を合わせることもなく、注文したステーキを美味そうに食べていた。山で採れたハーブをまぶしてあり、味も香りも絶品だ。ハジメとユエは今日限りとなるトータス版カレーことニルシッシルに、スラッグとシアはウルティア湖で獲れた海老を使った海老チャーハンに舌鼓を打つ。それぞれ感想を言い合いながら、五人とも表情は非常に満足そうだ。
なお異世界のトータスに、名前も見た目も地球と同じ海老チャーハンがある事には、亮牙とハジメもツッコまずにはいられなかった。フォスに聞いたところ、遥か昔この街に住んでいたチバット・ローンなる戦士が考案した料理で、痰を絡ませながら「俺の海老チャーハンどこ行った?」と言う程大好物だったらしい。
だが五人の様子に、愛子専属護衛隊隊長のデビッドが激怒した。亮牙達にその気は一切ないのだが、愛する女性が蔑ろにされていると思い耐えられなくなり、拳をテーブルに叩きつけながら怒鳴った。
「おい、お前ら!愛子が質問しているのだぞ!真面目に答えろ!」
「五月蝿ぇな、唾が飛んで汚ねぇだろ。折角の料理が不味くなる」
だが当の亮牙は、デビッドなど眼中にもないと言わんばかりに、最後の一切れとなったステーキにフォークを伸ばしていた。
デビッドは神殿騎士にして重要人物の護衛任務の隊長を任せられる地位にいる故に、自然とプライドも高くなり傲慢だった。そんな自分を眼中にもないという亮牙の態度に我慢ならないと顔を赤くして睨みつけるが、相手は仮にも四ヶ月前の時点でアーティファクトも魔法もなしにベヒモスを仕留めた怪物だ。それを思い出し踏みとどまったデビッドは、亮牙の隣のシアに視線を向けた。
「貴様ッ、その言葉そのまま返してやる!薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるお前達の方が不潔極まりない!しかも何だそのふしだらな格好は、汚らわしい!」
「デビットさん!なんてことを…!」
「愛子も教会から教わっただろう。魔法は神より授かりし力、それを使えない亜人共は神から見放された下等種族だ」
「私達とほとんど同じ姿じゃないですか!どうしてそこまで…!」
「ならばその醜い耳を切り落としたらどうだ?それなら少しは人間らしくなるだろう」
侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれながら罵声を浴びせられ、シアはビクッと体を震わせると、シュンと顔を俯かせた。
ブルックの町ではキャサリンをはじめ友好的な人達が多かったし、フューレンでも奴隷と認識されていたからか直接的な言葉を浴びせかけられる事はなかった。つまり彼女にとって、亮牙達との旅に出てから初めて亜人族に対する直接的な差別的言葉の暴力を受けたのだ。有象無象の事など気にしないと割り切ったはずだったが、少し外の世界に慣れてきていたところへの不意打ちだったので、思いの他ダメージがあった。
思わず愛子は怒るものの、よく見ればデビッドだけでなく、チェイス達他の騎士達も同じような目でシアを見ていた。いくら彼女らと親しくなろうと、所詮は亜人族に対する差別的価値観の発信源である聖教教会の狂信者である以上、たった数ヶ月で長年染み付いた歪んだ価値観を捨て切れる筈もないだろう。
だが、それは自殺行為も同然の愚行だった。亮牙はナイフとフォークを置いて、俯く恋人の頭を優しく撫でると、絶対零度の視線でデビッドを睨み返した。ハジメやユエ、スラッグも同様だ。
一瞬たじろぎながらも逆上したデビッドは、諌めようとするチェイスを無視して立ち上がった。
「何だ、その眼は⁉︎無礼だぞ!冒険者風情が神殿騎士に逆らうのか!」
対して亮牙は、ゴミでも見るような目でデビッドにこう告げた。
「おい、ロリコンのゴミ屑野郎。今すぐそこに手ェついてシアに謝罪しろ。そうすりゃ俺からは許してやる」
唯でさえ怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって愛子の前で罵倒された挙句、亜人に頭を下げて謝罪しろと言われ、歪んだ怒りを爆発させた。
「獣風情に頭を下げろだと⁉︎無礼な異教徒め!番の獣と一緒に地獄へ送ってやる!」
デビッドはそう怒声を上げると傍らの剣に手をかけた。突如現れた修羅場に、生徒達はオロオロし、愛子やチェイス達は止めようとするが、デビッドは周りの声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた。
まるで何かが潰れるような音が「水妖精の宿」全体に響きわたると同時に、今にも飛び出しそうだったデビッドが弾かれたように、折れた歯や血を撒き散らしながら後方へ吹き飛び、そのまま背後の壁にバゴォッ!と凄まじい音を立てて頭からめり込んだ。足はピクピクと死にかけの魚の如く痙攣し、手から剣が派手な音を立てて放り出され床に転がった。
誰もが今起こった出来事を正しく認識できず硬直し、視線は白目を向いて倒れるデビッドに向けられたままだ。とそこへ、騒ぎを聞いて何事かとフォスがカーテンを開けて飛び込んできて、目の前の惨状に目を丸くして硬直した。これによりようやく我を取り戻した愛子達は、デビッドに向けていた視線を自然に吹き飛ばした方へと向けると、驚きを隠さずにはいられなかった。
犯人は亮牙だった。彼は座席に座ったまま、デビッドが剣を抜くのと同時に右腕をすかさずモーニングスターナックルへと変形させた。そしてそのまま右腕を突き出し、チェーンで射出されたモーニングスターでデビッドの顔面を殴り飛ばしたのだ。
拳がモーニングスターに変わるというあり得ない光景に一瞬呆気に取られたチェイス達だったが、殺気を放ちながら一斉に剣に手をかけた。だがその瞬間、ドパンドパンドパンッ!という三発の乾いた破裂音が響き渡ると共に、チェイス達の剣は砕け散った。そう、ハジメのドンナーだ。愛子達が驚愕する中、スラッグがトレイルカッターソードを展開し、チェイス達三人の首に突き付けた。
突然の惨劇に愛子達も騎士達も頭の整理が追いつかないでいると、
ゆっくりと立ち上がった亮牙が濃厚な殺意を解き放った。
ただの殺気などではない。恐竜王国最後の時代の王者として君臨し、戦闘民族であるトランスフォーマー達から伝説の騎士と呼ばれた男の殺意だ。それこそ肌が焼けるような凄まじいものだった。
チェイス達は戦場に出て敵の殺気を浴びた経験なら何度もあったが、これには耐えられず顔面蒼白となり震えが止まらなかった。チェイス達ですらそうなのに、そんな経験などある筈もない生徒達が当然耐えられるわけもなく、六人全員が失禁しており、中には口から泡を吹いて気絶してしまう者もいた。
亮牙は愛子には直接殺意を浴びせてはいなかったが、流石にこれほど濃厚な殺意を間近で放てば感じない方に無理があり、彼女は顔を青ざめさせてガクガクと震えていた。そんな周囲の様子など無視し、亮牙はゆっくり口を開いた。
「折角情けをかけてやったのに愚かな連中だ。上等だ、先生以外は仲良くまとめて殺してやる。まずはお前だ、ゴミ屑が」
そう言って亮牙は腕を元に戻すと、宝物庫のポーチから一本の斧を取り出した。普通の斧と違い何処か機械的な意匠の両刃斧だ。彼はそれを手に取ると、壁に頭をめり込ませて動かないデビッドへと近づいていった。
それを見た愛子はようやくハッとなり、気づいた。亮牙はデビッドを殺すつもりだと。彼女は慌てて立ち上がり、彼の左腕にしがみついた。
「ま、待って下さい灘君!殺人なんてダメです!止めてください!」
「何の真似だ?さっきはこのゴミの罵詈雑言を咎めておきながら、何故庇う?」
「デビッドさんの非礼は私が代わりに詫びます!もうこんな真似をしないように言っておきますから、どうか!」
そう必死に懇願する愛子だったが、亮牙から返ってきた言葉は侮蔑であった。
「ふん、四ヶ月ってのは人が腐るには充分な時間だったようだな」
「ど、どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だ。四ヶ月もありゃ、この世界の価値観が現代社会に比べてどれだけ醜悪で歪んだものか、嫌と言う程学べた筈だ。アンタは社会人として、教育者としてしっかり理解していると思っていたよ。だが、こんなレイシスト共をホストクラブみたく侍らせた挙句、生徒の恋人嗤い者にして殺そうとした外道の肩を持つとは、どうやら全く理解していなかったようだな。はっきり言って失望したよ」
「ッ!!?」
軽蔑するような顔でそう吐き捨てた亮牙に、愛子は酷いショックを受けた。確かにこの四ヶ月、聖教教会の掲げる選民思想が如何にトータスに浸透してしまっているかは理解していたつもりだった。けれど、デビッド達護衛騎士の四人は、自分達との交流を経て最初の頃より幾分か柔軟な思考になってくれたと信じていた。だが、その期待は先程あっさりと裏切られた。
それでも生徒に殺人なんてさせまいとデビッドを庇ったものの、亮牙の失望したの一言は愛子の心を深く抉った。彼女達にとってその一言は、アンタは教師失格と言われたも同然だった。
ショックで呆然となる愛子を振り払うと、亮牙はデビッドの身体を細切れにしてやろうと斧を振りかぶった。惨劇が始まろうとした次の瞬間、意外な人物が待ったをかけた。そう、ハジメだ。
「亮牙、その辺にしときな。もう充分でしょ」
「ハジメ、何故こんなクズ共を庇う?」
怒りの収まらない亮牙は、親友が目の前のクズ共を庇う理由が分からず、睨みながら問いかけた。対してハジメは溜息を吐きながら親友を宥めた。
「僕だってこんなクズ共に情けをかけるつもりはないさ。けど、この世界の価値観が原始的で歪んでるのは僕らだって嫌と言う程理解してたでしょ?クソッタレ共の戯言なんかに一々キレてたら、男が廃るよ」
「…………分かったよ」
そう、デビッド達の歪んだ価値観は、このトータスでは一般的なものなのだ。そんな原始人共を一々相手にして指名手配され、親友の名誉が傷つくのを、ハジメは見過ごすわけにはいかなかった。
親友に諭された事で少しは頭が冷えてきた亮牙は、ふとシアを見た。今もシュンとしており、ユエに慰められる彼女の姿に、怒りに我を忘れて彼女へのフォローを怠ってしまった事に気づいた。
彼は斧を宝物庫にしまうと自分の席に戻り、再びシアの頭を優しく撫でた。スラッグもそれを見て、チェイス達の喉元に突き付けていたトレイルカッターソードを下ろした。
亮牙はシアの手を取りながら立ち上がると、再びデビッド達を絶対零度の視線で睨みつけた。
「ハジメに感謝するんだな。もしこいつが止めてくれなかったら、今頃お前ら全員バラバラの肉の塊になって、山の獣どもの餌になってたぞ。今後そうなりたくなかったら、二度と俺達の前に現れないことだ」
そう言って、亮牙はシアを連れてその場を後にし、ハジメとユエも続き、最後にスラッグが「グルルル」と軽く唸り声を上げて優香達を震え上がらせると、満足したかのように出ていった。
残された愛子は何も言えずに見送るしかできなかった。死んだと思っていた二人が生きていたのは嬉しかったが、ハジメはその性格を変えており、亮牙は地球にいた頃より遥かに恐ろしいナニカに変貌していたのだ。何より亮牙に言われた一言が彼女の心を大きく抉り、離れていく二人を引き止めることができなかった。
優香達に至っては、地球で蔑んでいたこと、檜山たちのハジメに対する苛めを見て見ぬふりをした挙句、あの誤爆事件、その全てが負い目となり、何も言えなかった。そして亮牙の凄まじい殺意を浴びて、間違いなく恨まれている、次は本当に殺される、そういった恐怖心を募らせていた。
食事はすっかり冷めてしまい、先ほどまでと一転して食欲も失せた。目の前の料理を何となしに眺めながら、誰もが皆一様に沈んだ表情で、その日は解散となった
「ごめんシア、あのクズ共と同席したせいで嫌な思いさせちまって。おまけに怒りに我を忘れて、お前のことを放りっぱなしにしちまってた…」
「いえ、亮牙さんは悪くないです…。私の方こそ、迷惑をかけちゃって…」
部屋につくと、亮牙はシアにそう謝罪した。本来ならあの時すぐにでも彼女をフォローするのが先だったが、彼女を愚弄したデビッドへの殺意で頭が一杯になっていた。昔に比べれば我慢強くなったと思うが、まだまだ怒りの沸点の低さは改める必要がありそうだ。
「…やっぱり、人間の方には、この耳は気持ち悪いのでしょうね」
「そんなことあるもんか」
シアは自嘲気味に、自分のウサミミを手で撫でながら苦笑いをした。そんな彼女に、亮牙は真っ直ぐな瞳で慰めた。
「今更だが、さっきのは躾のなってない馬鹿犬に吠えられたと思って気にするな。あのゴミ屑どもは、聖書を読みながらテメェの股間を弄ってるような変質者なんだから、価値観がおかしいのさ。キャサリン達はそんなこと思ってなかったし、ハジメの世界の文化じゃウサギの耳は可愛さとか色気の象徴みたいなもんさ」
そう言って不器用ながらも励ます亮牙。シアはまだ自信なさげではあるものの、頬を染めながら上目遣いで亮牙に尋ねた。
「あ、あの、因みに亮牙さんは、どう思いますか?私のウサミミ…」
「今更何言ってんだ…」
亮牙は呆れて苦笑しながらシアの傍に近づくと、そのまま優しく彼女を抱き締めた。
「ふえ?」
「惚れた女にケチをつけるわけないだろ。俺は、可愛いとかそういった感情とは無縁だったけど、これだけははっきり言える。お前の耳も尻尾も、とっても可愛いよ」
「えへへ、ありがとうございます////」
そう言いながら彼は、照れ臭そうに優しくシアの耳を撫でた。対する彼女も嬉しそうに微笑んだ。
「そうだ、少ししたらハジメとちょっと出かけるから、明日に備えて先に休んでてくれ」
「え、何処に行くんですか?」
「まあ、ちょっとした野暮用さ」
その日の深夜、一日の活動とその後の予想外の展開に心身共に疲れ果て、誰もが眠りついた頃、愛子だけは未だ寝付けずにいた。彼女の頭の中は整理されていない本棚のように、あらゆる情報が無秩序に並んでいた。
考えねばならないこと、考えたいこと、これからのこと、ぐるぐると回る頭は一向に建設的な意見を出してはくれなかった。大切な教え子二人が生きていたと知ったときの事を思い出し頬が緩むも、その後に起きた諍いや容赦ない一言にに眉を八の字にする。それでも大切な仲間、それも慕ってくれる恋人が出来ていたことを思い出し、再び頬を緩めた。
そこへ、突如誰もいないはずの部屋の中から声が掛けられた。
「先生、なに百面相してるんですか?」
「ッ⁉︎」
ギョッとした愛子が声がした方へ振り向くと、ハジメと亮牙が入口の扉にもたれながら腕を組んで立っていた。驚愕のあまり舌がもつれながらも何とか言葉を発する愛子。
「な、南雲君に灘君?な、なんでここに、どうやって…」
「普通にドアから入ってきたに決まってるだろ。もう呆けたのか?」
「えっ、でも鍵が……」
「僕の天職は錬成師ですよ?地球の鍵じゃないんですから、こんな単純な構造の鍵くらい開けられますよ」
「こんな時間に、しかも女性の部屋にノックもなくいきなり侵入とは感心しませんよ。わざわざ鍵まで開けて…」
「自惚れるな。色気ゼロの幼児体型のくせに」
「んなっ⁉︎ま、まあいいでしょう…。一体、どうしたんですか?」
亮牙の憎まれ口に思わずムカッとする愛子だが、もしや戻ってくるつもりなのではと期待に目を輝かせた。生徒からの相談とあれば、まさに教師として名誉挽回のチャンスだ。だが、二人はその期待を即行で否定した。
「生憎、僕らは戻るつもりはありません。今から話したい内容は、先生が一番冷静に受け止められると思ったので。内容的にあのカルト連中が聞いたら発狂して暴れそうだったから、さっきは言えなくて…」
「それだけ厄介な話だ。聞けばアンタも危険な目に遭う可能性が高くなる。それでも聞くか?」
「も、勿論です!私は貴方達の先生なんですから!」
そう言われて一瞬ビクッとなる愛子だったが、二人が腹を割って話してくれるのだからと、覚悟を決めた。
そして二人は、オルクス大迷宮でオスカーとプライム達から聞いた「解放者」と狂った神の遊戯の物語を話し始めた。このトータスに生きる全ての種族はエヒトの玩具に過ぎず、仮に人族が魔人族を倒したところで、矛先を他の種族か同じ人間同士に向けた新たな遊戯が始まるだけだと。そしてエヒトはこの世に顕現するために器を求めていて、自分達は新たな玩具としてだけでなくその候補として召喚された事もだ。無論、トランスフォーマーのことも少し交えてだ。
あまりにもスケールのデカすぎる話に、愛子はどう受け止めていいか分からず呆然となる。情報を咀嚼し、自らの考えを持つに至るには、まだ時間が掛かりそうだ。
「以上が俺達が伝えたかったことだ。はみ出し者共がイカれた末にほざいた戯言と一蹴しても、真実として行動を起こすも、アンタの自由だ。何かを無理強いするつもりはねえよ」
「な、灘君と南雲君は、もしかして、その『狂った神』をどうにかしようと、旅を…?」
「まあな。別にトータス人どもを助けるつもりなんざ一切ないが、好き放題やっときながら反抗されたら被害者面するエヒトは気に食わねえし、メガトロナスはこの手で殺さなけりゃならねえからな」
「僕も同じです。このまま帰ろうにもエヒトが黙って見逃す筈がないし、何より僕にとって大切な人が狙われてますからね」
「アテはあるんですか?」
「ええ、さっき話した大迷宮が鍵です。興味があるなら探索してみるといいですよ。オルクスの場合だと、百層目を超えた先から更に百層ありますから。…まあ、あの程度でチビってベソかいてるようじゃ、瞬きする間に皆殺しにされますけどね」
「それは、天之河君達に伝えるべき何でしょうか?神の件も含めて」
「やめときな。あのピーターパン症候群のアホったれが聞くわけないし、二大情婦にペットのゴリラも奴に賛同するだろうからな。他の連中も聞くわけねえよ」
「…それも、そうですね」
たった二人のはみ出し者達の言葉と、大多数の救いを求める声、どちらを信じるかなど考えるまでもない。むしろ、大勢の人たちが信じ崇めるエヒト様を愚弄しただの、戦争から逃げる為の見苦しい言い訳だのと非難されるのがオチだろう。そう言う意味からも、ハジメも亮牙も光輝達に関わるつもりは毛頭なかったのである。
愛子もそのあたりは否定できなかった。真っ先に戦争に反対した自分の言葉を無視して、戦争に参加するなどとほざき、今の事態を招いた四人だ。思うところがあるに決まってる。
しばらく沈黙が続いた後、亮牙とハジメはもう用はないと、踵を返して扉へと手をかけた。その背中に、オルクス大迷宮という言葉で思い出したとある生徒の事を伝えようと愛子が話しかけた。
「白崎さんは諦めていませんでしたよ」
「……」
愛子から掛けられた言葉にハジメの歩みが止まり、彼女は背中を向けたままの彼にそっと語りかけた。
「皆が君達は死んだと言っても、彼女だけは諦めていませんでした。自分の目で確認するまで、君達の生存を信じると。今も、オルクス大迷宮で戦っています。天之河君達は純粋に実戦訓練として潜っているようですが、彼女だけは君達を探すことが目的のようです」
「…………先生、それは本当に
「え?そ、それは…」
「やっぱり、白崎さんも
ハジメの追求するような言葉に、愛子は言葉を詰まらせ、何も言えなくなる。
対して亮牙とハジメは呆れたように答えた。但し、ハジメの言葉には確かに怒りが混じっていた。
「あの寄生虫共の態度見てりゃ分かるよ。どうせ俺が勝手にドジった挙句、ハジメを道連れにしたと思ってたんだろうよ。まあハジメはともかく、俺のことはクラス全員が『頼むから死んでくれ』と思ってたのは丸分かりだったから、死んでなくてさぞ残念だったかもな」
「灘君、そんな…」
「…先生、はっきり言っときます。あの日、亮牙が奈落に落ちたのは事故じゃありません。混乱に乗じて、檜山の奴が亮牙に魔法をぶつけたんです」
「ッ!!?」
「どうせ白崎さんの件で、僕を虐げるのに邪魔者となる亮牙を始末しようとした魂胆ですよ。まあ、白崎さんは亮牙が僕を巻き込んだとでも思ってるんでしょうが、あの日僕は、亮牙を助けるために自ら飛び込んだんです。それだけは理解しておいてください」
顔面を蒼白して硬直する愛子にそう言い残し、ハジメは部屋を出ていった。亮牙も続いて出て行こうとしたが、ふと何かを思い出したかのように彼女の方に振り向いた。
「ああ、そう言えば俺から最後に一つ言っておく」
「…な、何でしょうか?」
「さっきは腐っただの失望しただのとか言ってすまなかった。シアが侮辱されて、頭に血が上り過ぎてた…」
「灘君…」
そうバツが悪そうに謝ると、亮牙は部屋を出て行った。
その謝罪に少しだけ心が安らいだ愛子だったが、まだ悩みは深いままで、普段に増して眠れぬ夜を過ごすこととなった。
本作で亮牙が使おうとした斧、実はある機能がありますが、それは次回までお待ち下さい。
あと、原作でシアを慰める時の台詞ですけど、流石に奴隷を例えに出すのはデリカシーがなさ過ぎだろ、と感じたので、本作ではアレンジしました。
感想、評価お待ちしております。