グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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2020年最後の投稿となります。今年は色々あり過ぎたので、来年は良い年になって欲しいですね。

意外と好評だった優香アンチ。安心しましたが、やり過ぎないよう気をつけたいです。
今更ですが、主人公と愛子はケンカップルみたいに描きたいと考えております。


行方不明者の発見

 前方に山脈地帯を見据えて真っ直ぐに伸びた道を、化学消防車に似たパイロが爆走する。サスペンションがあるので、街道とは比べるべくもない酷い道ではあるが、大抵の衝撃は殺してくれる上、他のハジメ作の車両と同じく錬成による整地機能が付いているので、車内での不自由さは全く感じられなかった。

 ちなみにパイロは消防車ではないのに、わざわざ消防ホースらしきものがついているのだが、これは放水用ではなく、毒液や化学薬品などを放出する仕組みとなっている。中々えげつない武装だ。

 車内は消防車とは違い、キャンピングカーのような造りとなっており、運転席には当然ハジメ、助手席にはユエが乗っている。後ろは簡易なベッドとなる横向き座席となっており、片側にスラッグが寝転がり、もう片側にシアと愛子に挟まれる形で亮牙が座っていた。

 亮牙がなぜそこまで着いてきたがったのかと聞くと、愛子は清水が行方不明となったため探している事を明かした。当の亮牙は清水をはじめとしたクラスメイト達の事など碌に覚えていなかったので、ハジメに言われてそう言えばいつも一人でいる根暗そうな奴がいたな、とようやく思い出した。世を儚んで富士の樹海で首を吊るように自殺しに行ったんじゃないかと思う亮牙だったが、流石に愛子の前じゃ不謹慎なので口には出さなかった。

 今度は愛子が昨晩聞かされたオルクス当時の状況を詳しく聞かせて欲しいと言い、亮牙は手っ取り早く墜落した時の光景を目から立体映像で映し出し、醜悪な笑みを浮かべながら魔法を亮牙に放つ檜山の姿を見せた(当然愛子は突然の立体映像にビビっていたが)。

 恋人を酷い目に遭わせた卑劣漢の醜悪な面に、シアは改めて強い怒りを抱き、もし檜山と会う事があれば必ず八つ裂きにしてやると心に誓った。一方の愛子は檜山が故意にやった事が事実だと確信し、人殺しで歪んでしまったであろう心をどうすれば元に戻せるのか、どうやって償いをさせるのかということに、また頭を悩ませた。

 うんうんと頭を唸って悩むうちに、走行による揺れと柔らかいシートの影響で、愛子は眠気に襲われた。それでも必死に起きてようと努める彼女に、亮牙が声をかけた。

 

「まだ到着まで時間がある。眠たきゃ寝てろ」

「だ、大丈夫です…!」

「厚化粧で誤魔化しても無駄だ。あの後眠れてねぇんだろ?なら眠れなくなる話をした俺らにも非があるからな…」

「うっ、す、すみません。ならお言葉に甘えて…」

 

 亮牙から許しを得た事もあり、遂に睡魔との戦いに限界を迎えた愛子は、そのまま夢の世界に旅立った。ズルズルと背もたれを滑ると、亮牙の膝にコテンと倒れ込んだ。

 彼女の寝不足の原因として罪悪感もあった亮牙は、特に文句もなかったので、仕方がないとそのまま寝かせてやることにした。

 だが、それを面白くないと感じる者が一人いた。勿論、シアだ。幾ら相手が恋人の教師とは言え、惚れた男に甘えられる姿を見ては女として我慢できないのだろう。彼女は可愛らしく頬を膨らませて、不貞腐れた。

 

「むぅ〜、愛子さん、ずるいですぅ〜」

「すまんなシア、彼女には色々迷惑掛けちまったから、多めに見てやってくれ…」

「亮牙さんの女たらし…」

「だから彼女とはそんな関係じゃねえって。頼むから拗ねるなよ…」

「…じゃあ私の頭撫でて下さい。それで許してあげますぅ」

「分かった分かった。全く甘えん坊だな」

「むふふ、亮牙さんだって私の前じゃ甘えん坊さんじゃないですか♡」

 

 愛子を膝枕しながら、それでも亮牙とシアはいつの間にか二人の世界を作ってイチャつき始めた。スラッグも呑気に寝ており、ハジメとユエは後部座席の仲間達に呆れつつ、お互いイチャついた。とてもこれから正体不明の異変が起きている危険地帯に行くとは思えない、ほのぼのとした光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北の山脈地帯は、標高1,000〜8,000m級の山々が連なり、どういうわけか生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。日本の秋の山のような色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木のように青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もある。

 また、普段見えている山脈を越えても、その向こう側には更に山脈が広がっており、北へ北へと幾重にも重なっている。現在確認されているのは四つ目の山脈までで、その向こうは完全に未知の領域である。何処まで続いているのかと、とある冒険者が五つ目の山脈越えを狙ったことがあるそうだが、山を一つ越えるたびに生息する魔物が強力になっていくので、結局その試みは失敗に終わったらしい。

 ちなみに、第一の山脈で最も標高が高いのは、あの忌々しい「神山」である。今回、亮牙達が訪れたのは、神山から東に1,600kmほど離れた場所だ。紅や黄といった色鮮やかな葉をつけた木々が目を楽しませ、知識あるものが目を凝らせば、そこかしこに香辛料の素材や山菜を発見することができる。ウルの町が潤うはずで、実に実りの多い山である。

 その麓にパイロを止めると、亮牙一行はしばらく見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れ、女性陣の誰かが「ほぅ」と溜息を吐いた。先程まで生徒の膝枕で爆睡するという失態を犯し、真っ赤になって亮牙に謝罪していた愛子も、鮮やかな景色を前に、彼女的黒歴史を頭の奥へ追いやることに成功したようである。

 

「…さてと。旅行ならもっと見てたいところだが、そろそろ行くぞ」

「だね。ゆっくり鑑賞したいけど、ここは我慢我慢…」

 

 亮牙の合図を受け、ハジメは宝物庫にパイロを戻すと、代わりにとある物を取り出した。

 それは昨晩、亮牙がデビッドを処刑するために使おうとしたあの両刃斧で、今度は全部で五本ある。斧なんかどうするつもりなのかと愛子が疑問に思っていると、ハジメは小さな石が嵌め込まれた指輪を自らの指につけ、声を上げた

 

「テラクサドン、変身!」

 

 するとあら不思議、五本の斧はギゴガゴゴと音を立てて変形を始めたのだ。変形が終わると、斧は全て小さなプテラノドンに似た小型ロボットに変わっていた。燻し銀と緑を基調としたカラーリングで、頭部には水晶が目のように埋め込まれている。

 愛子が「えっ⁉︎」と驚愕の声を上げる中、五体のロボットは翼を広げて飛び上がり、その場で少し旋回すると山の方へ滑るように飛んでいった。堪らず彼女はハジメに問いかけた。

 

「あの、あれは…」

「僕が開発したトランスフォーマーです。武器と無人偵察機の両方の役割を担ってくれます」

 

 このハジメの新作「テラクサドン」は、ライセン大迷宮で遠隔操作されていたインフェルノ達を参考に、貰った材料から作り出したものだ。生成魔法により、そのままでは適性がないために使い物にならない重力魔法を鉱物に付与して生成した、重力を中和して浮く「重力石」に、インフェルノ達を操る元になっていた感応石を組み込み、更に彼らの目に使われていた「遠透石」を頭部に組み込んだのだ。この鉱物は感応石と同じように、同質の魔力を注ぐと遠隔にあっても片割れの鉱物に映る景色をもう片方の鉱物に映すことができるというもので、ミレディはこれで亮牙達の細かい位置を把握していたらしい。ハジメはパーセプターにこの遠透石を組み込み、テラクサドンの映す光景をパーセプターで見られるようにした。

 もっとも、人の脳の処理能力には限界があるので、単純に上空を旋回させるという用途でも五体の同時操作がハジメの限界だった。一体、ミレディがどうやって50体ものインフェルノを操作していたのか全くもって不思議だ。

 一応、「瞬光」に覚醒してから脳の処理能力は上がっているようで、一体までなら自らも十全に動きつつ精密操作することが可能であり、「瞬光」使用状態ならタイムリミット付きではあるが同時に10体を精密操作することも可能だ。

 今回は、捜索範囲が広いので上空から確認出来る範囲だけでもテラクサドンで確認しておくのは有用だろうと取り出したのである。既に彼方へと飛んでいったテラクサドン達を遠くに見つめながら、愛子はもういちいちハジメや亮牙のすることに驚くのは止めようと、おそらく叶うことのない誓いを立てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者達も通ったであろう山道を進む亮牙達。魔物の目撃情報があったのは山道の中腹より少し上、六合目から七号目の辺りなので、ウィル達も、その辺りを調査したはずである。そう考えたハジメはテラクサドンをその辺りに先行させながら、ハイペースで山道を進んだ。

 なお、六人の中で一番体力のない愛子はどうしているかと言うと、

 

「うぅ〜、灘君、やっぱり降ろして下さいよ〜」

「文句言うな。アンタじゃ俺達のペースについていけないだろ」

「先生だって一人の女性ですよ!こんな情けない格好は嫌なんです!」

「安心しろ、アンタのスカートなんざ覗かねぇよ。どうせハロー○ティの描かれたパンツでも履いてるんだろ?」

「んなっ⁉︎そんな物履いてませんよ‼︎私だってちゃんと大人の下着を……って何言わせるんですか!!?」

「アンタが勝手に言ったんだろうが」

 

 亮牙の右肩に担がれながら、下らない内容の喧嘩をしていた。

 本来、愛子のステータスはこの世界の一般人の数倍を誇るので、六合目までの登山ごときでここまで疲弊することはないのだが、亮牙達はそれを遥かに凌ぐので、移動速度の速さについていけないのは明白だった。そのため亮牙が運んでいく事になったのだが、おんぶでもお姫様抱っこでもなく、荷物を運ぶかのように右肩に担いでいたのだ。それも愛子の尻が亮牙の顔に向く形でだ。

 我儘を言える立場ではないのは分かっているのだが、こんなみっともない担がれ方は嫌だと文句を言う愛子に、亮牙がまた憎まれ口を叩いてうが〜!と怒らせる。側から見るとケンカップルとも言える光景に、シアはまたヤキモチを焼いて、む〜!と頬を膨らませた。

 約一時間ちょっとで六合目に到着した亮牙達は、一度そこで立ち止まった。そろそろ辺りに痕跡がないか詳しく周囲を探る必要があるので、休憩がてら近くの川に行くことにした。ここに来るまでに、テラクサドン達からの情報で位置は把握していた。まずはウィル達も休憩がてらに寄った可能性があるので、川へ向かう事にした。

 山道から逸れて山の中を、シャクシャクと落ち葉が立てる音を何げに楽しみながら歩いていると、やがて耳に心地良い川のせせらぎが聞こえてきた。シアの耳が嬉しそうにピッコピッコと跳ねている。

 そうして六人が辿り着いた川は、小川と呼ぶには少し大きい規模のものだった。索敵能力が一番高いシアが周囲を探り、鼻の効く亮牙も念のため周囲を探るが、魔物の気配はしなかった。取り敢えず息を抜いて、亮牙は肩から愛子を降ろすと、ハジメ達と同様に川岸の岩に腰掛けつつ、今後の捜索方針を話し合った。途中、ユエとシアが「少しだけ」と靴を脱いで川に足を浸けて楽しむというわがままをしたが、休憩中ということもあり亮牙もハジメも大目に見た。どこまでも惚れた女には甘い男達である。

 

「もしかしたら、川沿いに上流へ移動した可能性もあるな…」

「だね。上流沿いにもテラクサドン達を飛ばしてみるよ」

 

 そう話し合いながら、亮牙とハジメは恋人達の姿を眺めた。ユエはパシャパシャと素足で川の水を弄んでおり、シアも素足となっているが、水につけているだけで、川の流れに攫われる感触に擽ったそうにしていた。

 愛子は川岸で腰を下ろし水分補給に勤み、スラッグはフォスから貰った海老チャーハンのおにぎりを美味しそうに食べていた。それを見た亮牙は、愛子に近づくと、自分の分のおにぎりを半分分け与えた。

 

「朝飯食ってないだろ?少ないが、取り敢えず食っとけ」

「ふふ、ありがとうございます。やっぱり灘君は優しいですね」

 

 愛子は微笑みながら亮牙にお礼を言った。それを見て、またヤキモチを焼いたシアが川から上がると、亮牙の背後からヒシッと抱きついた。突如、発生した桃色空間に愛子は頬を赤らめた。

 亮牙自身はシアを振り解く事はないが、背中に当たる彼女の胸の感触に、照れ臭そうな表情だ。そんな光景を微笑ましげに見つめていたハジメ達だが、次の瞬間、ハジメの表情は一気に険しくなった。

 

「…これは」

「ん、何か見つけた?」

 

 ハジメがどこか遠くを見るように茫洋とした目をして呟くのを聞き、ユエが確認する。その様子に、愛子達も何事かと目を瞬かせた。

 

「うん。川の上流に、盾や鞄がある。まだ新しいみたいだ…」

「でかしたぞハジメ。皆、そこに行って見るぞ」

「了解、案内は任せて」

「ん」

「はいです!」

「俺スラッグ、分かった」

「は、はい!」

 

 亮牙達は阿吽の呼吸で立ち上がると出発の準備を始め、再び猛スピードで上流へと登っていった。

 六人が到着した場所には、ハジメがテラクサドンで確認した通り、小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱していた。ただし、ラウンドシールドはひしゃげて曲がっており、鞄の紐は半ばで引きちぎられた状態だった。

 六人が注意深く周囲を見渡すと、近くの木は何かが擦れた拍子に皮が剥がれたのか、高さ2m位の位置の皮が禿げているのを発見した。高さからして人間の仕業ではないだろう。シアに全力の探知を指示すると、亮牙は自らの嗅覚を研ぎ澄まし、傷のある木の向こう側へと踏み込んでいった。

 先へ進むと、半ばで立ち折れた木や枝、踏みしめられた草木、更には、折れた剣や血が飛び散った痕など、次々と争いの痕跡が見つかった。それらを発見する度に、特に愛子の表情が強ばっていく。暫く争いの形跡を追っていくと、シアが前方に何か光るものを発見した。

 

「亮牙さん、これ、ペンダントでしょうか?」

「ふむ、遺留品かもな。確かめよう」

 

 シアからペンダントを受け取り汚れを落とすと、どうやらロケットらしく、留め金を外して中を見ると、誰かの妻か恋人なのか女性の写真が入っていた。大した手がかりではないが、古びた様子はないので最近のもの、冒険者一行の誰かのものかもしれないので、一応回収しておいた。

 その後も、遺品と呼ぶべきものが散見され、身元特定に繋がりそうなものだけは回収していった。どれくらい探索したのか、既に日はだいぶ傾き、そろそろ野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。

 未だ、野生動物以外で生命反応はなく、ウィル達を襲った魔物との遭遇も警戒していたのだが、それ以外の魔物すら感知されなかった。位置的には八合目と九合目の間と言ったところで、山は越えていないとは言え、普通なら弱い魔物の一匹や二匹出てもおかしくないはずで、亮牙達は逆に不気味さを感じていた。

 暫くすると、再びテラクサドンが異常のあった場所を探し当てた。東に300m程いったところに大規模な破壊の後があったのだ。ハジメに促され、全員がその場所に急行した。

 そこは上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい大きな川だった。本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在、その川は途中で大きく抉れており、小さな支流が出来ていた。

 

「まるでアウゲイアスの家畜小屋掃除だな」

「これは掘り起こしたってよりも、横合いからレーザーか何かで抉ったみたいだね…」

 

 ハジメがそのような印象を持ったのは、抉れた部分が直線的であったのと、周囲の木々や地面が焦げていたからである。更に、何か大きな衝撃を受けたように、何本もの木が半ばからへし折られて何十mも遠くに横倒しになっており、川辺のぬかるんだ場所には30cm以上ある大きな足跡も残されていた。

 

「ここで本格的な戦闘があったようだな…。この足跡の主は、大型で二足歩行みたいだから、山二つ向こうのブー太郎だろうな」

「えっ⁉︎なんでちび○る子ちゃんのキャラクターがいるんですが⁉︎」

「…ブルタールだよ亮牙。先生も間に受けないでください。でも、この抉れた地面は…」

 

 ハジメの言うブルタールとは、RPGで言うところのオークやオーガの事だ。大した知能は持っていないが群れで行動し、「金剛」の劣化版「剛壁」の固有魔法を持っているため、中々の強敵と認識されている。普段は二つ目の山脈の向こう側におり、それより町側には来ないし、川に支流を作るような攻撃手段は持っていない筈だ。

 亮牙はしゃがみ込むと、地球史上最高の嗅覚を研ぎ澄まし、人間の匂いを辿った。僅かだが、下流の方から人間の匂いがした。恐らくここで襲われたウィル達は、下流に逃げたのだろう。今度は亮牙が先頭に立って、六人は下流へ向かって川辺を下っていった。

 すると今度は、先ほどのものとは比べ物にならないくらい立派な滝に出くわした。六人は軽快に滝横の崖をひょいひょいと降りていき、滝壺付近に着地した。滝の傍特有の清涼な風が一日中行っていた探索に疲れた心身を優しく癒してくれた。するとそこでハジメの「気配感知」に反応が出た。

 

「おっ!これは…」

「ハジメ、何か見つけたのか?」

 

 水に匂いが掻き消されており、もう亮牙の嗅覚は使えない。ここは自分の出番だと、ハジメは暫く目を閉じて集中し、おもむろに目を開けると、驚いたような声を上げた。

 

「ビンゴ!気配感知に掛かった。感じから言って人間だと思う。場所はあの滝壺の奥だ」

「生きてる人がいるってことですか!」

「ハジメ、人数は?」

「う〜ん、一人だけみたいだ」

 

 シアや愛子は一様に驚いていた。それも当然だろう。生存の可能性はゼロではないとは言え、実際には期待などしていなかった。ウィル達が消息を絶ってから五日は経っており、もし生きているのが彼等のうちの一人なら奇跡だ。

 

「ん、任せて。『波城』、『風壁』」

 

 滝壺を見たユエが、魔法のトリガーと共に右手を振り払うと、滝と滝壺の水が真っ二つに割れ始め、更に飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。高圧縮した水の壁を作る水系魔法の「波城」と風系魔法の「風壁」である。

 詠唱をせず陣もなしに、二つの属性の魔法を同時に応用して行使したことに、愛子はもう何度目かわからない驚愕に口をポカンと開けた。

 魔力も無限ではないので、亮牙達は愛子を促すと、滝壺から奥へ続く洞窟らしき場所へ踏み込んだ。洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。

 その空間の一番奥に、20歳くらいの青年が倒れていた。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色だ。それでも目立った怪我はなく、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけのようだ。顔色が悪いのは、彼がここに一人でいることと関係があるのだろう。

 亮牙はポケットから、イルワに用意してもらったウィルの似顔絵を取り出し、目の前の青年と見比べてみた。間違いなく、ウィル・クデタ本人のようだ。

 

「間違いねぇ。コイツが捜索対象のバカ息子のようだ」

「な、灘君。人様のお子様をそんな呼び方は…」

 

 何事もなく目の前の青年をバカ息子呼ばわりする亮牙に、流石に失礼だろうと愛子が注意した。だが、亮牙は鼻で笑った。

 

「バカ息子で充分だ。ギルド支部長の話じゃ、コイツは貴族としての恵まれた生活に辟易して、冒険者になろうとしたんだとさ。この星じゃ、貧乏人や奴隷の子として生まれてきちまう奴だって大勢いるってのによ」

 

 まさにその通りだ。恵まれた環境で育ちながら、そんな身勝手な理由でイルワ達ギルド職員や両親、消息不明となった冒険者達など、大勢の人々に迷惑をかけたのだ。

 それを聞いて愛子もなんとも言えなくなるが、亮牙はお構いなしにスラッグを呼んだ。見ると、滝壺の水を口に含んだのか、口が大きく膨らんでいる。

 首を傾げる愛子を尻目に、スラッグはウィルの顔面目掛けて、ブー!と思いきり口に含んだ大量の水を吐きかけた。

 

「ゲボ、ガホ⁉︎な、何だ……って貴方方は⁉︎」

 

 突然大量の水が顔面にかかり、鼻や気道に入ったのか咽せるウィルだったが、目の前に立つ六人の男女に気づくと驚愕の声を上げた。

 代表して亮牙が冷めた目で見下ろしながら答えた。

 

「目が覚めたな。俺たちはイルワ・チャングからの依頼でお前の捜索に来た冒険者だ」

「イルワさんが⁉︎そうですか、また借りができてしまったようだ…。あの、貴方方も有難うございます。あの人から依頼を受けるなんて余程の凄腕なのですね」

「ああそんなとこだ。取り敢えず一旦ウルまで戻るぞ。先生を送り届ける必要もあるしな」

 

 ウィルは尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うが、亮牙はぶっきらぼうに返すと、そのままウィルを肩に担ぎ上げて下山の準備を始めた。ウィルは慌てながらも、自分達の身に起きた事を伝えようとした。

 

「ま、待ってください!ここで何かあったか話さなくちゃ!」

「後にしろ。もうじき日も暮れる。何があったかは帰る途中で話せばいい」

 

 夜中は大抵の肉食獣の活動時間なので危険だが、日の入りまでまだ一時間以上は残っており、急げば日が暮れるまでに麓に着ける筈だ。ウィル達に何が起きたかは、帰る途中かウルに着いてから聞くでも良いだろう。ハジメ達四人も異論はないようだ。

 ブルタールの群れなど気になることはあるが、それは亮牙達の任務外だ。戦闘能力が低い保護対象を二人も連れたまま調査などもってのほかである。愛子とウィルも足手纏いになると理解しているようで、撤退を了承した。

 だが、事はそう簡単には進まなかった。再度ユエの魔法で滝壺から出てきた七人を、熱烈に歓迎する者がいたからだ。

 

「グゥルルルル…」

「あぁ?」

 

 漆黒の鱗で全身を覆ったドラゴンが翼をはためかせ、低く唸りながら金の眼で亮牙達を睥睨していたのだ。

 

 

 

 

 




〜用語集〜
・テラクサドン
 本作でハジメがオルニスの代わりに製作した人造トランスフォーマーで、プテラノドン型メカから両刃斧に変形する。
 原作でのオルニスと同じく偵察に使われる他、戦闘時には重力魔法を纏った強力な一撃をお見舞いする。
 モデルは『シージ』のバトルマスターの一体であるテラクサドン。玩具ではサイバトロン(オートボット)所属だが、『ジェネレーションセレクト』のWEBコミックではクインテッサ配下かつ、テラートロンのカットスロートの眷属となっている。

・ハロー○ティ
 意外かもしれないが、トランスフォーマーはサンリオともコラボしている(例:キュートランスフォーマー)





次回は年末年始で少し休むので、少しお待ち頂けると幸いです。
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