本作では愛ちゃんはヒロインなので、愛ちゃんアンチ気味の方々には納得いかない展開となるかもしれませんが、ご理解頂けると幸いです。
行きよりも速い速度で、ウルの町を目指して飛行するグリムロックとスラッグ。整地を気にする必要のない上空での移動のため、二人の掌に乗っているハジメ・ユエ・シア・愛子には問題ないが、それぞれの片足に縛り付けられたティオとウィルは堪ったものじゃない。二人とも声にならない悲鳴(ティオだけ若干恍惚の表情を浮かべ)を上げていたが、ダイナボット達は無視してそのまま突き進んだ。
ウルの町と北の山脈地帯のちょうど中間辺りの場所まで来た時、地上で完全武装した護衛隊の騎士達が猛然と馬を走らせている姿を発見した。昨晩亮牙に殴られたデビッドは、鼻が潰れて前歯の大半が折れてしまった顔を、その醜さに相応しく鬼の形相となって先頭を突っ走っていた。チェイス達もその横を焦燥感の隠せていない表情で併走していた。
四人とも、いつも通りの時間に起床したらようやく愛子がいなくなっている事に気づき、彼女の置き手紙から亮牙達に同行したと分かると、愛子があの野蛮人共に攫われた!と見做して追いかけて来たのだ。まだ出発してないだろうという僅かな希望を抱き門に向かうと、呆然と立ち尽くしていた優香達から、既に出発した後だと聞かされ、急いで追って来たのだ。その際、怒りと焦りからデビッドは優香達に対して、
「散々我々にデカい態度で威張り散らしときながら、碌に護衛も出来んのか⁉︎この穀潰し共が‼︎」
と、愛子の前なら言わない罵声を容赦なく浴びせてきた。チェイス達はそこまで言わなかったものの、同じ気持ちなのか否定もフォローもしなかった。
しばらく走ると、山脈側の上空から二体の巨人が飛んで来たかと思うと、地上にいる四人には目も暮れずに飛び去っていった。流石に精鋭揃いの四人も、これには呆気に取られた。
やがて、ハッとなったデビッドが山脈の方を見つめると、顔を青くして叫んだ。
「た、唯でさえあんな野蛮人共に攫われたのに、あんな化け物共がいるところに…⁉︎あ、愛子ぉ~!今助けに行くからなぁ〜‼︎」
と、まるで無理やり引き裂かれた恋人を助けに行くかの如く、猛然と山脈目掛けて馬を走らせた。チェイス達三人も同じ気持ちなのか、手綱を強く握り締めて隊長の後に続くのであった。
当然、グリムロックとスラッグは地上の事など見向きもしてなかったので、デビッド達には気づいてなどいなかった。グリムロックの掌に乗っている愛子に至っては、空を飛んでいるのが怖くて目を瞑っていたので、地上を駆け抜けるデビッド達に気づく筈もなかった。
これが永遠の別れになるとは、愛子もデビッド達も予想だにしなかった。
ウルの町に着いたグリムロックとスラッグは、愛子の案内で町長のいる役場へ降り立った。グリムロックの掌から降りると、愛子は足をもつれさせる勢いで飛び出していった。ウィルは口から泡を吹きながら気絶しており、ティオは恍惚とした表情でビクンビクンと痙攣していたが、皆敢えて無視した。
料理が多彩で豊富、近くには湖もあるこの町には、自然と人も集い、活気に満ちていた。まさか一日後には、魔物の大群に蹂躙されるなどは夢にも思わないだろう。
駆けつけた愛子の報告に、町の役場は騒然となった。ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭、更に置いていかれて呆然となっていた優香達が集まっており、喧々囂々たる有様だ。皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子に掴みかからんばかりの勢いで問い詰めていた。
普通なら、明日にも町は滅びますと言われても狂人の戯言と切って捨てられるのがオチだろうが、何せ『神の使徒』にして『豊穣の女神』たる愛子の言葉である。そして最近、魔人族が魔物を操るというのは公然の事実であることからも、無視などできようはずもなかった。
ちなみに愛子は、報告内容からティオの正体と黒幕が清水幸利である可能性については伏せていた。ティオに関しては、竜人族の存在が公になるのは好ましくないので黙っていて欲しいと本人から頼まれたため、黒幕に関しては愛子が、未だ可能性の段階に過ぎないので不用意なことを言いたくないと譲らなかったためだ。
愛子の方は兎も角、竜人族は聖教教会にとっても半ばタブー扱いであることから、混乱に拍車をかけるだけということと、ばれれば討伐隊が組まれてもおかしくないので面倒なことこの上ないと秘匿が了承された。
ちなみにグリムロックとスラッグについては、皆最初は新種の魔物かと怯えていたが、降りて来た愛子がアーティファクトの鎧と伝えた事で、皆それを信じて深くは追求しなかった。
そんな喧騒の中に亮牙一行が、周囲の混乱などどこ吹く風だと言わんばかりにやって来た。ウィルはまだ気絶しており、スラッグに足を掴まれて引きずられていたが。
愛子を酷い目に遭わせると見做していた優香達は、無事彼女を連れ帰ってきた彼らの姿に複雑な気持ちとなった。
「義理は果たしたぞ、先生。それじゃ俺達は、このバカ息子を連れてフューレンに向かうぞ」
亮牙のその言葉に愛子達は驚いたように彼を見た。他の重鎮達は「誰だ、こいつ?」と、危急の話し合いに横槍を入れた亮牙に不愉快そうな眼差しを向けた。
「な、灘君、どういう事ですか?この町を見捨てると…?」
そう問いかける愛子に、亮牙は呆れた表情で返答した。
「ここは観光の町だ。防備なんてたかが知れてるし、どの道放棄して救援が来るまで避難するしかない。それに今の俺達は仕事中、このバカ息子を連れ帰るという依頼の途中なんだよ」
そう冷めた目でウィルを見る亮牙に、周囲は絶句していた。だが、彼は構わず続けた。
「それに、俺達が早くフューレンに戻れば、ギルド長のチャングやコイツの実家に依頼する事が出来る。この町から避難して来た民衆の保護に護衛、それに襲撃が終わった後の復興支援とかな。コイツの実家はチャングと仲が良いそうだから、充分な支援が期待出来るだろうよ」
そう告げると、亮牙一行は未だ気絶したままのウィルを連れて役場を出ようとした。余りにも的を得た発言に、周囲の者達が何も言えずに彼らを見ながら動けないでいると、ふと愛子が進み出て亮牙の袖を掴んだ。
振り返った亮牙に、彼女は決然とした表情で彼をを真っ直ぐな眼差しで見上げた。
「灘君、南雲君。君達なら魔物の大群をどうにかできますよね?」
愛子はどこか確信しているような声音で、亮牙達なら魔物の大群をどうにかできる、すなわち、町を救うことができると断じた。そんなにわかにも信じられない言葉に、周囲で様子を伺っている町の重鎮達が一斉に騒めいた。
当の亮牙は、彼女の強い眼差しに鬱陶しそうな表情で返答した。
「ああ、出来るだろうな。だがさっきも言ったように、俺達は仕事中なんだ。アンタも教師としての職務を全うしているからこそ、そこで突っ立ってるだけの寄生虫どもの面倒を見てるんじゃねえか…」
そう冷めた目で見てくる亮牙に優香達はサッと目を逸らした。だが愛子は、亮牙に更に真剣な表情のまま頼みを伝えた。
「灘君、南雲君。どうか力を貸してもらえませんか?このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」
「その犠牲を無くすために避難しろって言ってるだろうが。それに俺達がフューレンに早く着けば、そうした犠牲を減らせる。町はこの際諦めろ。文句は犯人の泥水にでも言え」
「それでは多くの人たちが苦しんでしまいます。例え異世界であろうと、ここで出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います」
「生憎、俺はこの世界の連中にそこまでする価値があるとは思えん。ノブレス・オブリージュの精神もなく横暴に振る舞う権力者、歪んだ選民思想に基づいた人種差別や奴隷制度、地球では過去のものとなったそれらが未だに蔓延しまくっている。そんな原始的で醜い世界に救う価値があるか?」
「……」
愛子よりも広い視野でトータスを見てきた亮牙は、容赦なく彼女にそう告げた。更に、ハジメも愛子の物言いに我慢できなくなったのか、同じく揶揄するように告げた。
「…先生、そもそもこの町を救いたいと言うのなら、僕らより遥かに優秀な園部さん達にやらせれば良いじゃないですか。散々貴方の言うこと聞かずに好き放題やって、命が惜しくなったら掌返して泣きついてきたんですから、それくらいさせるべきですよ。それとも、最初から貴方に協力してきた僕や亮牙は、どうせクラス中に嫌われてるはみ出し者なんだから、切り捨てても構わないとでも?」
「「「「「「ッ!!?」」」」」」
その言葉に、優香達はビクリと身体を震わせる。本来、自分達はチート持ちの神の使徒として、人々を守らなければならないのだが、未だに恐怖が拭えない。ハジメの愛子に対する苦言にも文句を言いたかったが、早朝に亮牙からも指摘された自分達の愚行を痛感し、何も言い返せなかった。
しかし、愛子は動じなかった。その表情は、ついさっきまでの悩みに沈んだ表情ではなく、決然とした『先生』の表情で、一歩も引かない姿勢で向き直った。
「…私が君達に言ってる事がどれだけ矛盾しているか、先生としてどれだけ最低なのかは分かっています。ですが、手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔してしまう。それが嫌だから手を伸ばすんです。例え、それが自分にとって不利益となっても…」
そう告げた愛子は、一つ一つ確かめるように言葉を紡いでいく。
「君達がそこまで言うということは、誰かを慮る余裕などない、想像を絶する経験をしてきたのだと思います。君達が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など軽いかもしれません…」
亮牙もハジメも黙ったまま、先を促すように愛子を見つめ返した。
「先生に失望しても構いません。それだけ無理を言ってるのは百も承知してます。ですが、決して自分に失望するような真似だけはしないで下さい。君達がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は、とても『寂しい事』だと、先生は思うのです…。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから、他者を思い遣る気持ちを捨てないで下さい…」
頭を下げる愛子の、一つ一つに思いを込めて紡がれた言葉が、向き合う亮牙やハジメに余すことなく伝わってゆく。町の重鎮達や優香達も、愛子の言葉を静かに聞いていた。
亮牙とハジメは、例え世界を超えても、どんな状況であっても、生徒が変わり果てていても、全くブレずに『先生』であり続ける愛子に、感心のあまり内心苦笑いをせずにはいられなかった。
二人は、愛子からすぐ傍にいるユエやシア、スラッグへと視線を転じた。ユエはどういうわけか懐かしいものを見るような目で愛子を見つめていたが、ハジメの視線に気がつくと真っ直ぐに静かな瞳を合わせてきた。シアは心配そうに亮牙を見つめ、スラッグは一見呑気そうだが、三人ともその瞳には、亮牙とハジメがどんな答えを出そうとも付いていくという意志が見えた。
だが、簡単にハイ解ったと言えるような問題ではない。自分達にそこまで言うのなら、そちらも覚悟を見せてもらおう。亮牙とハジメはお互いの目を見合わせると、ポーチからある物を取り出した。
それはハジメの発明した作品の一つである回転式拳銃だ。ギョッとなる周囲に目も暮れず、亮牙は弾を一つ抜くと回転式シリンダーを回してから、愛子に手渡した。
「な、灘君?これは…?」
「ロシアンルーレットだ。俺達にそこまで言うのなら、アンタも命を賭ける覚悟を見せろ。その銃はシリンダーに六発入れられるようになっていて、弾は今五発入ってる。見事空砲を引き当てたら、アンタに従ってやる。出来ないならこのままフューレンに行かせてもらう」
「ッ!!?ちょっと灘、何考えてるのよ⁉︎愛ちゃんにそんな──」
流石にそんな真似は許さないと優香が食ってかかるが、すかさずスラッグが彼女の胸ぐらを掴んで黙らせた。
「俺スラッグ、グリムロックはお前の話、聞いてない!今度喋るとお前を料理するぞ‼︎」
「〜ッ!!?」
スラッグの鬼の形相に、優香も他の生徒達も何も言えなくなり、下を向いて黙りこくった。
一方の愛子は、顔を青くして亮牙から渡された拳銃を見つめていたが、やがて何かを決意すると拳銃を自身の額に向けた。
「そうですね。貴方達に命をかけるような真似をさせるのなら、私もそれ相応の覚悟を見せるべきですね…」
そう告げると、彼女は覚悟を決めて引き金を引いた。思わず優香達は目を覆うが、当の彼女は無事であった。
空砲を引き当てたのかと思う愛子に、亮牙は近づいて拳銃を返してもらうと、シリンダーの中身を見せた。それを見て彼女は驚いた。確かにシリンダーに弾は五発入っていたが、五発全てに弾頭がなかったのだ。
「見事に騙されたな。この銃は全て空砲だよ。…とは言え、アンタの覚悟は分かった。ここまでやらせといて何もしないと、恥をかくのは俺達のようだ」
「な、灘君?」
「この先、僕達は先生の望まない結果となるような選択をするかもしれません。それでも、僕達の教師でいるつもりですか?」
「先生の役目は、生徒の未来を決めることではありません。より良い決断ができるようお手伝いすることです。灘君や南雲君が先生の話を聞いて、なお決断したことなら否定したりしません」
亮牙とハジメはしばらく、その言葉に偽りがないか確かめるように愛子と見つめ合った。わざわざ言質をとったのは彼ら自身、できれば彼女と敵対はしたくなかったからだ。愛子の瞳に偽りも誤魔化しもないことを確かめた亮牙とハジメは、ユエ・シア・スラッグも連れておもむろに踵を返し出入口へと向かった。
「流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しておきたいですからね。話し合いはそちらにお任せします」
「灘君!南雲君!」
ハジメの返答に顔をパァーと輝かせる愛子に、亮牙は苦笑いしつつも答えた。
「今回はアンタの勝ちだ。取り敢えず、やれるだけはやってやるよ」
パタンと閉まった扉の音で、三人の空気に呑まれて口をつぐんでいた町の重鎮達が、一斉に愛子に事情説明を求めた。
愛子は肩を揺さぶられながら、亮牙とハジメが出て行った扉を見つめていた。ウルの町の人々を見捨てられなかったが、結果として最初から自分に協力してくれた二人に戦闘を強要させたことに、もっとやりようはなかったのかと、内心、自分の先生としての至らなさや無力感に肩を落としていた。
「妾、重要参考人のはずじゃのに…。こ、これが放置プレイ…!流石、ご主ry」
亮牙達と共に役場に来ていたティオは、火照った表情でそう呟いていたが、ごく自然にスルーされていた。
一方、町へと進軍する魔物の群れを、黒ローブの男が下卑た笑みを浮かべながら眺めていた。そう、行方不明になっている清水幸利だ。
「もうすぐだ。もうすぐ俺は、英雄になるんだ…」
そう呟く清水、その正体は真性のオタクである。但し、オタクであることをオープンにしているハジメに対する迫害を間近で見てきたので、本人が徹底的に隠した事もあり、その事実を知る者はクラスメイトの中にはいなかった。
クラスでの清水は、亮牙が根暗と称したように、親しい友人もなく常に一人でいる、まさにモブだ。元々、性格的に控えめで大人しかったため、中学時代は虐められて登校拒否となり、毎日自室に引き篭って創作物の類に手を出して時間を潰していた。そんな日々に親からはずっと心配され、兄弟からは疎まれてしまい、家での居場所すら失いつつあった。そんな鬱屈した環境は清水に、表には出さないが内心では他者を扱き下ろすという陰湿さをもたらし、ますます創作物や妄想に傾倒させてしまった。
そんな清水であるから、まさに憧れであり夢であった異世界召喚の事実を理解したときの脳内は、まさに「キター‼︎」とでも言ったように、ありえないと思っていた妄想が現実化したことに舞い上がってた。愛子の抗議や迷惑カルテットの息巻く様、それに対する亮牙の苦言も、清水の頭の中には入らず、何度も妄想した異世界で華々しく活躍する自分の姿一色で、異世界召喚の後に主人公を理不尽が襲うパターンは考えてすらいなかった。
だが実際は、確かにチート的なスペックを秘めていたがそれは他のクラスメイトも同じだし、「勇者」の称号も女が寄って行くのも光輝であり、自分は地球にいた頃と同じく「その他大勢の一人」に過ぎなかった。
念願が叶ったにもかかわらず、望んだ通りではない現実に陰湿さを増す清水は、内心で不満を募らせていった。都合の悪いことは全て他者のせい、自分だけは特別という自己中心的な考えが心を蝕んでいった。
そんな折だ。自分の有能さが証明されるチャンスと思っていたオルクス大迷宮への実戦訓練で、清水は漸く自分が決して特別な存在などではなく、ましてご都合主義な展開などもなく、ふと気を抜けば次の瞬間には確かに死ぬ存在なのだと気づいた。トラウムソルジャーに殺されかけて、遠くでより凶悪なベヒモスを捻り殺す亮牙を見て、抱いていた異世界への幻想がガラガラと音を立てて崩れた。そして、亮牙とハジメが奈落へと落ちて〝死んだ〟のを目の当たりにし、遂にその心はへし折られた。
清水は、王宮に戻ると再び自室に引き篭ったが、故郷のように心を慰めてくれる創作物は当然ないので、自分の天職「闇術師」に関する技能・魔法に関する本を、浮かれた気分などすっかり吹き飛んだ陰鬱な心で読んで過ごした。そしてふと、闇系統魔法は極めれば対象を洗脳支配できるのでは、と思いついたのだ。
その仮説に興奮した清水は、一心不乱に修練に励んだ。最初に期待していた人間に対しての洗脳は、その難しさから断念せざるを得なかったが、魔物ならば可能なのではと、夜な夜な王都外に出て雑魚魔物相手に実験を繰り返した。その結果、既に闇系統魔法に極めて高い才能を持っていたチートの一人だった事もあり、人に比べて遥かに容易に洗脳支配できることが実証できた。
王都近郊での実験を終えた清水は、どうせ支配下に置くなら強い魔物がいいと考えた。ただ、光輝達について迷宮の最前線に行くのは気が引けたため、どうすべきかと悩んでいた時に愛子の護衛隊の話を耳にすると、それに同行して遠出をすればちょうどいい魔物とも遭遇出来るだろうと考えた。そうしてウルの町に来ると、ちょうどいい魔物達がいる北の山脈地帯で配下を集めるため姿を眩ませたのだ。次に再会した時は、誰もが自分のなした偉業に畏怖と尊敬の念を抱いて、特別扱いすることを夢想して。
本来なら僅か二週間と少しという短い期間では、いくら清水が闇系統に特化した天才でも、そして群れのリーダーだけを洗脳するという効率的な方法をとったとしても精々千に届くか否かという群れを従えるので限界だっただろう。
だが、ここでとある者達の助力と、偶然支配できたティオの存在が、効率的で四つ目の山脈の魔物まで従える力を清水に与えた。と同時に、その者達との契約と日々増強していく魔物の軍勢に、清水の心のタガは完全に外れてしまった。そして遂に、やはり自分は特別だったと悦に浸りながら、満を持して大群を町に差し向けようとしていた。
「よう、準備は万端のようだな」
やって来た協力者の一人がそう話しかけてきて、ほくそ笑んでいた清水はそちらへと振り向いた。
その協力者は、人間どころかトータス人ですらなかった。外見は一言で言えば鳥なのだが、猛禽類の胴体にペンギンか梟のような顔つき、首は蛇のように長くくねらせている。何より全身を構成するのは羽毛と血肉ではなく硬い金属であり、翼にはダクテットファンが装備されていた。
そう、かつてシカゴの惨劇で討ち取られたディセプティコンの一人、尋問兵レーザービークだ!
「ああ、もうすぐ俺の価値が証明される。散々俺をモブ扱いしてきた無能どもも、俺の偉大さに跪くことになるさ」
そう得意げに答えた清水は、下卑た笑みを浮かべて更に顔を歪ませた。その頭の中には、これから自分が行う所業に対しての罪悪感は一切なかった。あるのは醜く歪んでしまった承認欲求だけだ。
それを聞くと、レーザービークは心底愉快そうにケタケタと笑った。
「そうかそうか、やっぱりお前は俺のお気に入りだぜ幸利。俺達の為によく働いてくれた。だから──
そう告げたレーザービークは二丁のアサルトライフルを身体から展開して、え?と間の抜けた声を出す清水の身体を撃ち抜いた。清水は当然避けることなど出来ず、胸を撃ち抜かれて大きな穴がポッカリと空いた。幸か不幸か心臓は避けられていたが、傷口から大量に出血しており、もって数分だろう。
「な、何の真似だよ……は、話が違う……俺を、英雄にしてくれるって…」
「ああ。このまま死んどけば、お前は魔物の軍勢と戦おうとして殉死した英雄として褒め称えられるだろうよ」
血反吐を吐きながらもあり得ないと言った表情でそう言う清水に、レーザービークは嘲笑うかのようにそう告げた。
「そもそも、己の承認欲求なんぞで仲間を裏切るような奴を、信用するとでも思っていたのか?そんな悪い子はな、俺達みたいなより悪〜い奴らにとっちゃ格好の餌食なんだよ。…それに、俺達はお前ら地球人が憎くて憎くて堪らねぇんだよっ!!!」
「や、やめ…… 何でもする……助け──」
清水の命乞いはそこで途切れた。レーザービークが刃物を縫い合わせたような翼で首を跳ね飛ばしたからだ。首はゴロゴロと転がり、胴体は切断面から大量の血を噴き出し、暫く痙攣したかと思うと動かなくなった。
清水が死んだのを見て、嬉しそうに顔を歪めるレーザービークに、他の協力者達が近づいて来た。
「捨て駒はもう片付けたようだな」
「ああ、今日一日何も殺してなくて欲求不満だったからな。もうコイツは用済みだったし構わないだろ、ボス?」
「ああ、それにこっちも捕虜の尋問は終わった。欲しければお前の戦利品にしろ」
その内の一人、レーザービークからボスと呼ばれた者は、そう言って自分の足元で跪く四人を指差した。その正体は、愛子を追って来たデビッドら護衛騎士達だ。四人とも金属製の拘束具で捕縛され、目は虚となっていた。
愛子を亮牙達から奪還せんと山脈地帯へ駆け付けたデビッド達だったが、それを察知して待ち構えていた黒幕達に瞬く間に無力化されてしまった。更にそれだけには留まらず、表皮を滑りのある黄緑色のジェルで覆われた、イカに似た金属生命体を四人全員が口に入れられ、脳内の情報を強制的に引き出されてしまったのだ。
そんな目に遭わされては、流石の精鋭騎士だろうと耐えられる筈がなく、脳にダメージを受けて朦朧としているのだ。そんな四人を見て、レーザービークは新たな玩具が来たと更に喜んだ。
「…しかし、インセクティコンの情報によると、伝説のダイナボットが来てるようだ。面倒な事になったぞ、シーカー」
「別に構わんさ」
レーザービークの主がそう呟くが、シーカーと呼ばれたもう一人は大した問題とは見做していなかった。その者はレーザービークの主より更に巨大で、グリムロックのロボットモードと同じくらいの長身を誇る巨漢であった。
「こっちには切り札が二つもある。まあ当初は一つだけだったが、あの地球人が竜人族の姫を手懐けたおかげで、此奴を隷属させるのに良い人質となったからな。そうだろう、ダイナボット?」
そう告げる巨漢が掴んでいる鎖には、一頭の巨大な竜が繋がれていた。但し、やはり此方も普通の竜ではなかった。
その竜は体格でこそグリムロックやスラッグに劣るものの、竜形態のティオより遥かに巨大であった。身体はやや青みがかった金属に覆われており、猫又の如く二又に別れた尾、巨大な翼、そして何より二つの頭を持っており、まさに双頭竜と称してよい外見だ。
「「ギャオオオオオオオオオオ‼︎」」
双頭竜は赤黒く濁った四つの瞳を見開きながら、唸り声を上げるのであった。
〜用語集〜
・手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔してしまう。それが嫌だから手を伸ばす
『仮面ライダーオーズ』の主人公・火野映司の名言の一つ。この時の愛子に相応しい言葉だと思い使用した。
決してプトティラコンボから思いついた訳ではない。
・私達に失望しても、自分には失望するな
『ダークサイド・ムーン』で、ディセプティコンとセンチネルの策略で地球から追放される際、オプティマスがサムに告げた言葉。
作者が実写シリーズで一番好きな台詞でもある。
・尋問兵レーザービーク
『ダークサイド・ムーン』に登場した、鳥に似た外見のディセプティコン。偵察や暗殺を専門とする。
シカゴの決戦でバンブルビーの操縦する飛行艇に頭を吹き飛ばされて死亡した筈だが…?
・イカに似た金属生命体
『リベンジ』でドクターがサムの尋問中に、彼の脳内の情報を知るために使ったアイツ。
最初はデビッド達ではなく、優香達にやらせようかと考えていた。
・インセクティコン
『リベンジ』と『ロストエイジ』に登場した、姿も大きさも昆虫程しかない小型のディセプティコン。その極小の身体を活かした隠密行動を得意とする。
はい、清水とデビッド達ですが、早々に退場して頂きました。
ありふれ読者の中には、清水は環境のせいで歪んでしまった「哀しき悪役」と評価し、救済される二次創作も多いですが、私個人としては愛子に守られた恩を仇で返した挙句、承認欲求を満たすためだけに冒険者五人を殺して大虐殺を行おうとした事は、到底許される事ではないと思います。
あの後生かしておいても、この件で王国や教会につけ込まれて余計愛子を苦しめただろうし、スクールカースト最下位のハジメがいないために他のクラスメイト達から自分達の立場を悪くしたと虐められる未来しかなかったと思います。だから、ハジメの決断は愛子と清水の両方にとって救いだったと個人的に感じています。
デビッドども?アイツらシアを侮辱したのに謝らず威張り散らすだけだし、さっさとぶっ殺したかった。後悔も反省もない。
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