グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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皆さ〜ん、バレンタインは貰えましたか〜?
自分は母と行きつけのお店の人からだけでした(泣)

今回もマイ○ル・ベイ顔負けの無茶苦茶な設定・展開が多数あります。
ご了承して頂けると幸いです(苦笑)

3/2 ストレイフの人間態の身長を変更しました。



Seed

 ストレイフが襲来した時、ユエとティオはハジメの指示に従い、防護壁に近づこうとする魔物達の殲滅に集中していた。大抵の魔物は彼女達が戦うまでもなく、亮牙とスラッグの咆哮に怯えて将棋倒しとなっていたり、グリムロックとアストロトレインの死闘に巻き込まれて踏み殺されたりしてだいぶ数は減っていた。

 それでも清水に洗脳されたリーダー格とその群れの一部が、僅かながらも逃げずにしぶとく生きていた。とは言えその数もまばらなので、彼女達だけで充分対処できる数だ。

 だが、上空からアストロトレイン襲来の時と同じ光が現れたと思うと、そこからストレイフが出現、そのまま町内に降下してスラッグに襲い掛かった。二体は取っ組み合いになりながら再び上空に飛び上がり、そして反対側の町の外に墜落した。

 

「お、叔父上⁉︎何をしておるのじゃ⁉︎」

 

 それを見ていたティオは驚愕の表情となる。二手に別れて行動していた筈のストレイフが、何故敵に加勢してこの町を襲うのか、何より古くからの友人であるスラッグを攻撃するのか。

 ティオは叔父達が墜落した方へ向かおうとしたが、ユエが彼女の服を掴んで静止した。

 

「勝手な事、しないで…!私達の役目は、この壁の死守…!」

「じ、じゃが叔父上が⁉︎」

「…くどい!私達じゃ、足手纏い。目の前の、やるべき事をやって!」

 

 ユエはそう一喝すると、再び魔物達の対処に集中した。彼女とて仲間達の援護に駆けつけたかったが、今のこの状況では勝手な行動は命取りになりかねない。だから彼女は、恋人から受けた指示に従った。

 ティオは自分の無力さに苛立ちつつも、ストレイフのもとに駆けつけたいという感情を押し殺して、目の前の戦いに集中した。ふと彼女の目に映ったのは魔物達の群れではなく、その後ろで今なお壮絶な死闘を繰り広げるグリムロックとアストロトレインの姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリムロックとアストロトレインの一騎打ちは壮絶を極めた戦いだった。

 グリムロックはこの強敵をウルの町から遠ざけようと、ビーストモードとなって体当たりを喰らわせ、鋭い牙の並んだ顎で喰らい付こうとした。だがアストロトレインもそう甘くはない。迫る顎を寸前で躱すと、カウンターで右フックをお見舞いし、続けて左アッパーで彼の顎をかち上げた。

 

バゴォオオオオオオッ!!!

 

「ウグゥッ!!?」

 

 強烈な一撃に流石のグリムロックも大きく仰け反った。それでも彼は必死に体勢を立て直すと、再び敵に噛みつこうとする。

 

「ふん、馬鹿の一つ覚えみたく噛み付くだけか‼︎」

 

 だがアストロトレインはこれも避けると、カウンターで左フックをグリムロックの顔に食らわせた。更に前腕からまるで鋸歯の如く無数の刃を展開し、追撃のエルボーバットで彼の顔面を切り裂いた。

 これにはグリムロックも堪らず転倒してしまうが、アストロトレインは容赦などしなかった。このディセプティコンは世界最強の蒸気機関車に変形するだけあり、すかさず彼の長い尾を掴むと、そのまま何度も振り回して地面に叩きつけた。

 壮絶な戦いに、逃げ遅れた魔物達は容赦なく巻き込まれていき、今も振り回されるグリムロックの下敷きになったり、血や内臓を撒き散らして吹き飛ばされていく。

 

(クソッ!ビーストモードじゃ、キツい…‼︎)

 

 ここは再びロボットモードになって体勢を立て直した方が良いと考えたグリムロックは、尾を掴むアストロトレインの手が緩んだ一瞬の隙をついて変形した。しかし、それは罠だった。

 

「相変わらず馬鹿だな、お前は‼︎」

「ッ!!?」

 

 振り向いたグリムロックに、アストロトレインは嘲笑うような表情で、彼が変形中にすかさず両肩から展開した「アストロブラスター」を発射した。

 

チュドォォォォォォォォォン!!!

 

 勢いよく放たれた砲撃を腹部に喰らい、グリムロックは小山に叩きつけられたように倒れ込んだ。だがそれでも彼は立ち上がると、左腕に愛刀スルトを展開した。

 

「このトー○スのパチモン野郎が!叩き斬ってスクラップにしてやる…‼︎」

 

 彼はその紅蓮の瞳を怒りの炎で激らせていたが、目の前のディセプティコンは上等と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。

 

「接近戦はお前だけの十八番じゃないぞ」

 

 そう告げるとアストロトレインは、両腕から新たな武器を展開した。それはオプティマス・プライムがよく使用するエナジーソードと同じくエネルゴンの刀剣だったが、それとは違いチェーンソーのような可動式鋸歯が備わっている。これこそアストロトレインの接近戦用武器である「プラズマチェーンソー」だ。

 炎を纏いながら回転する刃に、グリムロックも警戒を強める。だが今更逃げるつもりなどない。剣の腕前ならこちらの方が上だ。

 

「「ウォオオオオオオオオオッ!!!」」

 

 大地を揺るがす勢いの雄叫びが上がると、再び壮絶な殺し合いが始まった。

 アストロトレインはチェーンソーで振り下ろされるスルトを受け止めては、ガラ空きになったグリムロックのボディを斬り裂き、更には追撃で肘打ちもお見舞いする。更には大きく右腕を振り下ろして彼を叩き斬ろうとするが、間一髪のところで避けられ、その背後にあった大岩を両断した。

 グリムロックもやられっぱなしではなかった。アストロトレインが大岩にめり込んだチェーンソーを引き抜こうとしているうちに、すかさず右腕からモーニングスターナックルを展開、勢いよく彼の鳩尾を殴り飛ばした。

 

「グゥッ⁉︎貴様‼︎」

 

 吹き飛ばされたアストロトレインは大きく後ずさるが、倒れまいと両足を踏ん張り、更に肩からターボコアディレイザーを展開してミサイルを発射する。しかしグリムロックは同じ手は食わんと、すかさず左腕から巨大な盾を展開して防御し、ミサイルの直撃を防いだ。

 

「何度も同じ手が通用するか‼︎」

 

 グリムロックは右腕に重力魔法を発動すると、モーニングスターナックルを大きく振りかぶる。すると、チェーンが伸びて大地に振り下ろされたナックルに、砕けた岩やへし折られた大木、巻き添えになった魔物達の死骸が、磁石に吸い寄せられた砂鉄の如く集まってゆく。それから、まるで礫を投擲するかの如く、突進してくるアストロトレインへと投げ飛ばした。

 

「グラビティスリング!!!」

 

ドォガアアアアアアッ!!!

 

「グゥオオオオオオッ…!!?」

 

 この予想外の攻撃は流石のアストロトレインも避けきれず、顔面へとそれらを叩きつけられた彼は、地響きを上げて倒れた。

 しかし、それでも致命傷には至らず、目を血走らせながら立ち上がると、再びグリムロックへと突進していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ウルの町の外の反対側ではスラッグが、ディセプティコンによって操られているストレイフと対峙していた。

 スラッグは両手に愛刀であるトレイルカッターソードを、ストレイフも脇差のような双剣を構え、お互いに睨み合っていたが、やがてスラッグの方が沈黙を破り動いた。

 

「俺スラッグ、先手必勝‼︎」

 

 そう叫ぶと彼はその巨体とは裏腹に素早い突きを放つ。喰らったら最後、体を刺し貫かれるだけでは止まらず、上下真っ二つにされてしまう程の威力がありそうだ。

 しかし相手は並のディセプティコンではなく、伝説の戦士に名を連ねるストレイフだ。まるで闘牛士の如く、洗脳下に置かれているとは思えない華麗な動きで躱すと、手にしている双剣でスラッグに斬りかかった。

 

ガキィィィィンッ!!!

 

 スラッグもすかさずもう一本のトレイルカッターソードで受け止め、凄まじい金属音が響き渡る。そうしてお互い何度も剣をぶつけ合い、鍔迫り合いの状態のまま均衡状態となる。だが、ストレイフは赤黒く濁った瞳を細めると、一瞬の隙をついてスラッグの腹に回し蹴りを喰らわせた。

 

「ウグゥッ⁉︎」

 

 容赦ない一撃に蹌踉めいたスラッグが後ずさると、ストレイフはその巨体とは裏腹に、忍者の如く突進してきた。だがそのままスラッグに突っ込まず、彼の周囲を回り始めたかと思うと、そのまま目にも止まらね速さで何度も斬りつけてきた。

 

幻舞連爪(カゲロウ)!!!」

 

 

ジャキンジャキンジャキン!!!

 

「グアアアアアアアッ!!?」

 

 流石のスラッグもこの猛攻には堪らず、苦悶の声を上げた。だがストレイフは容赦しない。ズサァァァッ!と駆け抜けた後、スライディングのように急停止すると、新たな武器を腕から展開した。

 それはダイナボットとしては珍しい、飛び道具のボウガンだ。だがダイナボットが使うだけあって、サイズが大き過ぎる。さながら古代に使われたバリスタのようだ。

 これぞストレイフの愛用する弩「ブリッツウィングボウ」だ。

 彼が引き鉄を引くと、さながらハジメのパイルバンカーの杭程もある巨大な矢が放たれた。しかしその矢は金属ではなく濃縮されたエネルギーで出来ており、さながらミサイルのようだった。

 

チュドォォォォォォンッ!!!

 

「ウガァアアアアアアッ!!?」

 

 スラッグの身体に直撃した矢は大爆発を起こし、彼は爆炎に包まれた。彼の悲鳴を聞いたストレイフは沈黙しつつも、己の勝利を確信した。

 だが爆炎が止むと、スラッグはまだ立っていた。身体中に深いダメージを負っているが、致命傷とはなっていないようだ。だが、何か様子がおかしい。

 

「……………さっきから痛えなぁ」

「ッ!!?」

「俺スラッグ、もう怒ったぞォォ!!!」

 

 どうやら仲間が相手とは言え好き放題攻撃された事で、遂にスラッグの堪忍袋の尾が切れたようだ。鬼のような形相で雄叫びを上げている。

 

「スラッグ、変身‼︎来雷蓄電(エレクトリックチャージ)!!!」

 

 スラッグはそのままビーストモードに変形、トリケラトプスとしての姿に戻ると、自らの発電能力で全身に電気を纏った。この「来雷蓄電」は重力魔法獲得後に新たに得た力で、周囲に存在する微量な電気を全身に吸収し、肉体強化・体力回復を行う能力だ。怒りで興奮状態にあったのも重なり、たちまち彼は全快となった。

 その気迫にストレイフが僅かに怯んだ隙を見逃さず、スラッグは彼に向かって突進すると、まるで相撲のかち上げのようなぶちかましを喰らわせた。

 

「グゥッ!!?」

 

 その一撃に堪らず仰反るストレイフだが、まるで猛牛のように興奮状態のスラッグは止まらない。彼の狙いは友が操られている元凶と思われる、胸につけられた偽マトリクスだ。

 

瞬雷千烈(ガトリングスパーク)!!!」

 

 その掛け声とともに、スラッグは頭部に電気を集中させると、ストレイフのボディに頭突きの連打をお見舞いした。しかしその巨体に強力な電撃を纏っているのだから、威力は生易しいものではない。まるで落雷の豪雨のようだ。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 

「ウゴォォォォォォォォォッ!!?」

 

 まるで承○郎のような掛け声で電撃の頭突きのラッシュを喰らわすスラッグ。流石のストレイフも防戦する事も出来ず、先程の意趣返しと言わんばかりに一方的に攻撃を受けた。

 漸く攻撃が終わると、スラッグはすかさずロボットモードに変形し剣を構えた。対するストレイフはまだ立っていたものの、全身からプスプスと煙を上げていた。だが、胸からコトリと音を立てて偽マトリクスが外れたかと思うと、そのまま仰向けにドスゥゥゥンと倒れ込んだ。

 

「やれやれだぜ」キリッ

 

 そのまま自分の足元に転がってきた偽マトリクスをグシャリ!と踏み潰すと、そう決め台詞を告げるスラッグ。ハジメがこの場にいたら、「なんでジョ○ョ知ってんだよ⁉︎」とツッコんでいそうだ。

 一方、ストレイフの身体にも変化が起きていた。見慣れた甲冑風の金属の巨体が、徐々に金属が折り畳まれるかの如く縮小していき、やがて一人の人間へと姿を変えた。

 彼の人間態は、ティオと同じ竜人族の特徴を備えていた。身長は180cm程とスラッグ達には劣る体格だが、引き締まった細マッチョな体型で、着流しに似た青を基調とした服装、髪色も同じく青だ。

 しかしダメージが酷いのか、そのまま意識を失ったままだ。息がある様子を見ると、命に別状はないようだが…。

 

「俺スラッグ、やり過ぎたかな?まあ後で謝れば良いか…」

 

 そう呟きながらスラッグはストレイフを掌に乗せて飛び立つと、ウルの町へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙ではサウンドウェーブがこの戦いの一部始終を見ていた。ストレイフのボディにインセクティコンを一匹忍ばせて見張っていたのだが、スラッグの猛攻によって気づかれる事なく、完全に破壊されてしまったのだ。

 部下を二人も失った挙句、折角主君から授かったアーティファクトで洗脳した強力な手駒も奪還されたことに、冷静沈着な彼も苦虫を噛み潰したような表情となった。

 

「………最終段階に入るか」

 

 苛立たしげに彼は、現在も地上で戦闘中のアストロトレインへと連絡を送った。この屈辱の借りは必ず返すと誓って…。

 なお近くを漂っていたプーム・ミンの死骸が、サウンドウェーブから腹いせに銃撃を受けて木っ端微塵に吹き飛ばされたのは、ここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上で今もなおグリムロックと死闘を繰り広げるアストロトレイン。現在は銃火器で応戦していたが、突如として宇宙空間にいるサウンドウェーブから通信が入った。

 

『こちらサウンドウェーブ。応答せよ』

「何だ⁉︎こっちはまだ戦闘中だぞ!」

『ダイナボットは敵に奪還され、レーザービークとラヴィッジも戦死した…。作戦を最終段階に移行する。戦線から離脱し、切り札を投下せよ』

「馬鹿な⁉︎ストレイフにはマトリクス・オブ・マリスを与えておいたんだぞ⁉︎」

『マトリクス・オブ・マリスは戦闘で破壊された』

「チッ、つくづく使えん奴らだ!…まあ良い、直ぐに実行する」

 

 他の連中が悉く敗北した事に苛立たしげに舌打ちしながらも、アストロトレインは素直に指示に従った。まだまだ不完全燃焼だが、メガトロナス・プライム直属のシーカーにして歴戦の軍人である彼には、私情で作戦を放棄するなどという選択肢はなかった。

 一方のグリムロックは、目の前の敵が突如として攻撃をやめたために、一瞬何の真似だと動揺しつつも身構えた。

 

「…テメェ、いきなり何の真似だ?」

「ふん、次の作戦に移れと指示を受けただけだ。まだまだ物足りんが、勝負は一旦お預けだ」

「作戦だと?まさか地球人のアホなガキ唆して、軍事拠点でもない観光地に殴り込む事がか?随分ディセプティコンも落ちぶれたもんだな」

 

 作戦と言う言葉を聞き、そう嘲笑するグリムロック。魔物達を操った下手人は清水一人だろうが、アストロトレインが乱入した事で、ディセプティコンの手引きがあったのだろうという予測はしていた。とは言え、政治家や金持ちなら兎も角、あんなクソガキなんかを利用するとは愚かしいなと心底呆れていたが。

 だがアストロトレインは、フッと鼻で笑った。

 

「ああ、あのクソガキか…。あんなゴミ屑、最初から捨て駒でしかないさ。ただ一箇所に大量の『()()()』を集める必要があったから、奴に下等生物どもを集めさせたに過ぎんよ」

「有機物…だと?どう言う事だ?」

「フッ、お前達がよく知ってるコレを使う為さ」

 

 そう告げるとアストロトレインは腹部のハッチを開いた。彼の役職は「輸送参謀」。あらゆる物資や兵器、自分より小柄の兵士達を輸送することができ、こうして体内に保管することも出来るのだ。

 だが、グリムロックは彼の体内に収納されていた()()を見て、言葉を失った。それは彼もよく知っている、決して忘れられない忌まわしいモノだったのだ。

 

「テメェ、何処でソレを…⁉︎」

「俺は探索者(シーカー)だ。こうしたモノを調達するなど容易いさ。それより、俺に構っていて良いのか?あの町には沢山()()()があるんだがな…」

 

 そう嘲笑うように告げると、アストロトレインはその場から飛び上がり、ギゴガゴゴと変形を始めた。だが、今度は蒸気機関車ではない。むしろ正反対となる最新鋭の乗り物、スペースシャトルだ。

 コレこそが、ある時は蒸気機関車、ある時はスペースシャトルへと変形する、ディセプティコンのトリプルチェンジャー、輸送参謀アストロトレインの真の能力だ。

 グリムロックは空高く登っていく敵を追いかけようとするも、彼の真の狙いを知った以上、このままでは町にいるハジメやシア達が危ない。

 

「畜生が!!!」

 

 彼は悔しそうに悪態を吐くと、直ぐ様ビーストモードに変形し、ウルの町へと引き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃のウルの町、戦いを終えたハジメ達は、巻き添えを喰らった住民達の救出活動に当たっていた。ストレイフの襲撃で破壊された家屋から、シアは身体強化を施し、ハジメはパイロを使用することで中の住民達を救助していた。

 不幸中の幸いか、巻き込まれた住民達は軽い怪我程度で済んでおり、死亡したのはレイスに食い殺された司祭だけだった。護衛隊の方も、一撃でレイスに敗北した男子三人は奇跡的に気絶してただけだったので、一通り片付くと二人は愛子達に後を任せ、ユエとティオの待つ防護壁へと向かった。

 防護壁の方も、運良く生き延びながらも往生際悪く攻めてきた魔物達はユエとティオによって悉く殲滅され、残っているのは最初の亮牙とスラッグの雄叫びに怯えて将棋倒しになったまま動けない連中ぐらいだ。

 心配する必要はなかったなと安堵しつつも、ハジメとシアは彼女達のもとへと合流する。更には町の反対側からスラッグも掌に何かを抱えながら帰還した。

 

「叔父上!!!」

 

 彼の掌の上で横たわっているのがストレイフだと気づいたティオは慌てて駆け寄った。ハジメ達も心配そうに近づき、容態を確認する。

 

「俺スラッグ、ストレイフは大丈夫。少し寝てるだけ…」

「…スラッグ、明らかに彼気絶してるよね?か〜な〜りやり過ぎたんじゃない?」

「………俺スラッグ、黙秘する」

 

 ばつが悪そうな表情でそう告げるスラッグに、一行は呆れてジト目で見つめる。仲間ならもう少し手加減しろよ、と…。

 とは言え、これで此方側は大丈夫だ。後は亮牙だけだ。

 そう五人が考えていると、大地を揺るがす地響きと共に、グリムロックが疾走してきた。しかし、その顔は焦燥感に駆られたかのような表情だ。敵に怯えて逃げてきたようには見えないが、一体何があったのだろう…?

 五人が理由を聞く前に、グリムロックはロボットモードに変形して大急ぎで叫んだ。

 

「ユエ、デカパイ!俺に構わず今すぐ結界を張れ!スラッグはこっち来て手伝え!」

「ちょ、ちょっと亮牙!何があったのさ⁉︎」

「説明している暇はねえ!アストロトレインの奴、()()を落とすつもりだ!早くしろ‼︎」

「ッ⁉︎俺スラッグ、アレってまさか…!」

 

 一体何のことだと困惑するハジメ達だったが、グリムロックと付き合いの長いスラッグは「アレ」の正体を悟り、顔を青くして彼のもとに駆け寄った。

 二人の尋常じゃない様子に只事ではないと悟ったユエとティオは、すかさず結界魔法を発動して防護壁を覆った。

 

「「大地土盾(アースバリア)!!!」」

 

 そしてその外部に出たグリムロックとスラッグは、残っている全てのエネルギーを込める勢いで重力魔法を発動、周囲の岩石や土を集めて自分達の背丈程の壁を作り出した。

 そんな彼らを上空から見下ろしながら、シャトルモードのアストロトレインは()()を投下した。一見すると植物の種子に似た形状だが、金属で出来ている上に、大きさも人間の腕ほどもある。()()は丁度、将棋倒しとなって動けない魔物達の真上まで降下すると、中心から青い光を放ちながら表面の外装が四つに分かれながら展開した。

 

 

 

 

 

 次の瞬間、()()は大爆発した。

 

 

 

 

 

 その衝撃波はグリムロック達が即席で作った防護壁まで到達し、結界越しにも伝わった。グリムロックとスラッグの二体もその衝撃にふらつきながらも、死力を尽くしてエネルギーを注ぎ込み、防護壁の維持に専念した。

 漸く衝撃が収まると、力尽きた二体は人間態へとなってその場に倒れ込み、それと同時に防護壁も崩壊した。ハジメ達は慌てて決壊を解除すると二人のもとへ駆け寄るが、ふと目にした外の光景に四人とも言葉を失った。

 壁の外は辺り一体、金属で覆われていたのだ。それも唯の金属ではない。周辺に生えてた木々、殲滅された魔物の死骸、そして将棋倒しになりながらもまだ生きていた魔物達、その場に存在していた有機物全てが、金属へと置換していたのだ。

 そう、アストロトレインが投下したのは、かつてグリムロック達の時空において恐竜を絶滅させた『シード』だ。

 

「これってまさか、亮牙が言っていた…⁉︎」

 

 ハジメがそう呟く中、上空にいたアストロトレインが地上に降り立った。思わず身構える四人だったが、当の彼は相手にもせず、サウンドウェーブと通信を取っていた。

 

「作戦終了だ。町は連中のおかげで落とせなかったが、最初の予定通り『鉱脈』は作れた。さっさとあの()()()()()に回収させろ」

『了解。今スペースブリッジを開く』

 

 通信が終わるとともにスペースブリッジが開き、アストロトレインはビッグボーイに変形するとその中へと走り去っていった。

 彼と入れ替わるように出て来たのは、巨大な頭だった。大きさや顔つきは恐竜に似ているが、グリムロック達と比べると何処か歪な外見だ。その頭の持ち主は、不気味な唸り声を上げながら口を大きく開くと、凄まじい勢いで辺り一体の金属へ置換した有機物を容赦なく吸い込んでいった。

 やがて全ての金属が吸い取られると、巨大な頭は口を閉じてスペースブリッジの中へと戻っていった。それと同時にスペースブリッジも消え、あとにはまるで最初から何もなかったかのようにまっさらな大地が広がっていた。

 

「亮牙さん!スラッグさん!大丈夫ですか⁉︎」

 

 その一部始終を見ていた四人は呆気に取られていたが、やがてシアが倒れ伏す亮牙とスラッグに慌てて駆け寄っていき、ハジメ達も後に続いた。

 壮絶を極めたウルの町の防衛戦は、こうして終結したのであった。

 

 

 

 




〜用語集〜
・輸送参謀アストロトレイン
 本作オリジナルキャラクターとなるディセプティコン。身長83フィート(約25.2m)。世界最大・最強クラスの蒸気機関車ユニオン・パシフィック鉄道4000形ビッグボーイとスペースシャトルに変形するトリプルチェンジャー。
 メガトロナス・プライム直属の部隊「シーカー」の一人で、サイバトロン星の遺物の探索や、自分より小柄の兵士や軍需物資の輸送を担ってきた。同時に歴戦の戦士で、グリムロック達ダイナボットとも、かつてのマトリクスを巡る戦いで矛を交えた実力者。
 モデルはG1でもお馴染みのアストロトレイン。実写シリーズでは『ダークサイド・ムーン』の前日弾アメコミで、ショックウェーブの部下として登場している。武器名は『シージ』が元ネタ。
 性格としてはアニメよりも、『オールヘイルメガトロン 』や『クラウド』での武骨な軍人気質な性格をイメージしている。グリムロックに匹敵する巨漢としたのは、『サイバーバース』の国内未放送のシーズン3で他のディセプティコンを乗せられるよう4〜5倍のサイズとしていたのを参考とした。
 ちなみに、接近戦武器のプラズマチェーンソーで気づいた方もいるかもしれないが、『パシフィック・リム:アップライジング』のオブシディアン・フューリーもモデルの一つとした。

・マトリクス・オブ・マリス
 外見はクリエーション・マトリクスに似ているが、悪意を意味する「Malice」の名が示す通り、毒々しい緑色の輝きを宿している。
 元ネタは2016年度のTCCのTFSSにおいて、スクランブル合体戦士サンダーメイヘムの右足を担当するディセプティコン、ウィンドスウィーパーに付属したアイテム。

・シード
『ロストエイジ』に登場したキーアイテム。有機体をトランスフォーマーを構成する特殊金属に置換する爆弾で、戦術核兵器に匹敵する破壊力を持つ。
 トランスフォーマー達の創造主によって、白亜紀末期の地球を含めた各惑星に投下され、恐竜を絶滅させると同時にトランスフォーマーを生み出した。





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