唯一の不満点はスラージが破損してたことかな(泣)
早速タカラトミーモールに連絡したけど。
それでは、本章の最終話となります。
ウルの町の戦いは終わった。
荒れた大地や破壊された家屋の一部の整備など頭の痛い問題は多々ある。それでも大半の家屋は無事で、魔物達の死骸も跡形もなく片付けられており、死者も司祭一人だけで済んだという、起きた事態に対してまさに奇跡としか言い様のない結果だ。その吉報は直ちに避難した住民達や周辺の町、王都に伝えられた。
町の周囲にはハジメが作った防護壁がそのまま残っており、戦いの一部始終を見届けた者達は、いかに常識を超えた戦いだったのか、避難させた家族や友人達に必ず語り聞かせようと心に誓った。避難していた商人達もハジメの防護壁の存在を知れば、抜け目なくウルの町の新たな名物として一儲けしようと考えるだろう。
そして町の人々は、愛子と亮牙達の間にあったことを知らないので、未だに五人のことを『豊穣の女神』が遣わした御使いだと信じており、ハジメの防護壁を『女神の盾』と名づけて敬った。
では、力尽きて倒れた亮牙とスラッグはどうなったのであろうか…?
「………ん、ここは?」
ふと亮牙は目を覚ました。どうやら何処かの家屋の一室で寝ていたようだ。窓を見ると、どうやら夕方になる頃だった。ふと腹部に重みを感じ、そちらを見てみると…
「シア?」
シアが亮牙の横になったベッドに上半身を預けるように眠っていた。可愛らしい寝顔ですやすやと眠る彼女の姿に、彼は思わず美しい長髪の頭をそっと撫でてあげた。
「シア、大丈夫か?」
「ん……亮牙…さん?」
恋人の問いかけに、うとうとしながらも目を覚ましたシア。やがて、目をウルウルと潤ませると、涙まみれになりながら亮牙に思いきり抱きついた。
「ゔぇ〜ん‼︎よがっだぁ〜、よがっだですぅ〜!!!」
「お、落ち着け…!大丈夫だから…」
わんわんと泣き喚きながらギュ〜と抱きついてくる彼女の頭を、苦笑しつつも優しく撫でて宥める亮牙。ふと彼は、気になることを問いかけた。
「心配させてごめんな。力を使い過ぎちまって倒れたのは覚えてるんだが、あれからどれくらい経ったんだ…?」
「ぐすっ、それはですね…」
シアは涙を拭いながら、あの後の事について話し出した。
亮牙とスラッグが力尽きて倒れた後、愛子達もシード投下などの余波に驚き、大慌てで駆けつけた。倒れた二人に加えてストレイフも意識を失っており、更に愛ちゃん護衛隊も優香以外の五人が負傷していた。
そんな中、避難せずに留まったフォスが助け舟を出してくれた。町を守ってくれたせめてもの礼にと、『水妖精の宿』の部屋を療養のために貸し与えてくれたのだ。
ハジメがパイロを使って、エネルギーの切れた三人を抱えて『水妖精の宿』へと運んだ後、オーアと神水のミックスを口に漏斗を咥えさせた上で流し込み、後は目が覚めるまでベッドに寝かせていたとの事だ。
そうしてるうちにスラッグは既に昼頃に目が覚め、今はハジメやユエと共に壊した家屋の瓦礫の撤去にあたってるとの事だ。そうして亮牙も一日が終わろうとしていた先程、漸く目を覚ましたのだ。ストレイフはまだ眠っているそうで、ティオが看病をしているらしい。
ちなみに愛ちゃん護衛隊の五人はさほど重症ではないのだが、今は何の役にも立てなかった事に罪悪感を抱いたウィルが、優香と共に看病を務めているそうだ。
「そうか、ストレイフも見つかったのか…」
まさかストレイフが敵に捕まり操られていたのには驚いたが、無事が確認できて何よりだ。
それにしても、自分がアストロトレインと戦っているうちに、まさか町中にまで敵が乗り込んできたとは思いもよらなかった。もしシア達がいなかったら、それこそ大惨事となっていただろう。
「よく頑張ったなシア。お疲れ様」
「亮牙さんこそお疲れ様です。もう一回ギュ〜ってしてあげるですぅ」
二人がお互いに労いの言葉をかけながら仲良く抱きしめ合っていると、扉がノックされて部屋に誰かが入ってきた。
「失礼します、シアさん。灘君の様子は…」
入ってきたのは愛子だった。だが彼女は、亮牙が目を覚ました挙句、ベッドの上でシアと抱きしめ合っている光景を見て固まると、下を向いて沈黙してしまった。
「おう、話は聞いたよ。大変だったみたいだな」
何事もなかったかのように亮牙はシアを抱き寄せたまま話しかけるが、声をかけられた愛子は目に涙を溜めながら、キッと睨みつけてきた。その怒っているのか喜んでいるのか色々ない交ぜになったその顔を見て、彼はどうしたんだと首を傾げる。
「おい、どうした?腹でも減ったのか?」
そんな呑気な事を言ってくる生徒に対して、愛子はたちまち茹でタコみたいに顔を真っ赤にすると、雷を落とすのであった。
「貴方って人は〜!!!」
その凄まじい怒声に亮牙は顔を顰めながら耳を塞いだ。一方のシアは「耳が〜⁉︎」と叫びながら目を回してしまった。
愛子はふうふうと息を荒げながらも、やがて落ち着きを取り戻すと、目に涙を溜めながら再び口を開いた。
「良かったです。君が無事でいてくれて…」
「………心配かけて悪かったな」
「いえ、私こそごめんなさい…」
「ど、どうした?」
涙を流して自分の無事を安堵する愛子の姿に、亮牙は苦笑しながら謝罪の言葉を述べた。だが彼女は罪悪感と自己嫌悪に苛まれた表情で謝ってきたので、流石の彼も動揺してしまった。
「そうか。敵にそう言われたのか…」
「はい…」
愛子は亮牙に詳しい事情を話した。敵の狙いが自分の抹殺であった事、清水はその敵に唆されて裏切った事、自分を探しに追ってきた護衛騎士達が敵に捕まった事、そして五人とも用済みとなり、敵に殺されてしまった事…。
話しているうちに、彼女の目には再び涙が溢れ出した。
「彼の言った通り、全部私のせいです。私さえいなければ、君達に戦いを強要する事も、清水君が敵に寝返る事も、彼とデビッドさん達が殺される事もなかったんです…。挙句私が潔く降伏しなかったせいで、園部さん達にまで危険な真似を…」
「愛子さん…」
そう言いながら愛子は俯き、手で顔を覆ってしまった。この戦いはあまりにも多くの問題が降りかかり、それら全てが彼女の心を大きく抉ったのだ。優し過ぎる彼女には耐えられないのだろう。
戦いの最中は詳しい事を知らず、ついカッとなって愛子の頬を叩いたシアも、事情を聞いて彼女に同情した。彼女自身、自分の能力のために一族諸共故郷を追われ、挙句帝国兵に仲間の一部を殺された末に奴隷にされかけた過去から、自分自身を責めたことがある。だからこそ、今の愛子の苦しみが痛いほど分かるのだ。
一方、黙って聞いていた亮牙は、やがて愛子の両肩を掴むと、涙で顔を濡らした彼女に語りかけた。
「これだけは伝えておく。この騒動はアンタのせいじゃない。確かにアンタは敵に命を狙われ、泥水に裏切られた。だが連中の真の目的はシードを使って『鉱脈』を作る事だった」
「シードに、鉱脈、ですか…?」
「ああ。有機物を変換して、俺達トランスフォーマーのボディを構成する金属を生成する爆弾だ。町の外に魔物の死骸が残ってないのも、奴等が全部金属に変えて持ってったからだ。つまり、アンタがいなくてもこの町は連中の鉱脈作りに襲われてた。寧ろ、アンタがいたからこの町は守られたんだ」
そう、アストロトレイン達の目的は最初からシードの投下と、それによる資源の獲得だ。だからこそ魔物達を大量に調達し、どうせなら人間ごと鉱脈にしようとウルの町を襲ったのだろう。
むしろ愛子がいなかったら、亮牙達はさっさとフューレンに帰還して、町の人々は避難する事もできず、魔物達と仲良く『資源』としてディセプティコン共に回収されていたのがオチだ。彼女が彼らを説得したからこそ、町の大勢の人命は救われたのだ。
「でも、清水君が裏切ったのも、デビッドさん達が死んだのも、園部さん達が傷ついたのも、私のせいですよ…」
それでも愛子は、清水達の件は自分の所為だと己を責めた。対して亮牙は呆れて苦笑しながらも彼女を諭した。
「それに関してもアンタの所為じゃねえよ。寄生虫共は護衛を引き受けたんだから、命を張ってアンタを守るのが義務だ。泥水とあのレイシスト共に至っては、勝手に彷徨いてた挙句そうなったんだ。自業自得としか言いようがねえ」
そう、愛子の護衛を引き受けたのは優香達自身だ。ならば彼女を守るのは当然の義務だし、敵に痛めつけられたのは彼女達が鍛えておらず弱かったのが悪い。清水とデビッド達に至っては、片や護衛を投げ出し、片や愛子の言いつけを無視した結果こうなったのだ。同情のしようがない。
「それに泥水が敵に寝返った時点で、アンタが何と言おうと俺はアイツを殺すつもりだった。今回はその手間が省けただけだ」
「な…⁉︎なんて事を…!」
「訂正するつもりはないぞ。奴はアンタの制止を無視して勝手に死にかけたところを、アンタの情けで戦争から抜け出せたっていうのに、その恩を仇で返した。どんな理由であれ許される事じゃない」
そう、護衛隊に参加していたという事は、清水も死の恐怖に怯えていたのを愛子に助けられて兵役から逃れられたという事だ。そんな一生モノの大恩があると言うのに、敵に寝返って彼女を殺そうとしたなど、万死に値する大罪だ。
「まあどのみち生け捕りにしたところで、奴に待ってたのは生き地獄だったろうな。話は聞いたが、魔人族も連中の仲間だったらしいから、その時点で敵種族へ利敵行為を働いた事になる。この人種差別の酷い世界じゃ間違いなく極刑モノの重罪だ」
「でも、王宮で暫く預かってもらえば…」
「いや。そうなれば連中も泥水の免罪と引き換えに、アンタに二度と口出しするなとか条件出して、また生徒全員徴兵しただろうさ。そうなればクラスのアホ共は、俺とハジメがいなくなった以上、泥水にヘイトの矛先を向けるのは目に見えてる。正義の鉄槌とか抜かして虐められ、奴にとっちゃ死んだ方がマシな目に遭わされてたろうよ…」
「……」
そう言われて愛子は何も言えなくなる。確かに、清水が行った事は到底許されるものじゃない。何よりこの世界は今戦争中なのだから、利敵行為など働けば極刑は免れないだろう。
何とか無罪放免になるよう懇願したところで、そうなれば再び生徒全員を徴兵しようと目論んでいる教会や王国に弱みを握られてしまう。そうなれば生徒達を守る事は叶わないし、何より亮牙の言った通り清水が他の生徒達から私刑を受けるのは目に見えていた。
愛子は「先生」としての矜持から、生徒達を信じ守りたいと考えてきた。でもこの世界に来てからは、迷惑カルテット四人の身勝手な決断で生徒全員が徴兵され、檜山による亮牙への殺人未遂、そして今回の清水の裏切りと死。怒涛の如く辛い現実に見舞われ、その心は整理されていない情報が散乱しグチャグチャの状態だった。
そんな彼女に、亮牙はスっと心に響くような声音で語りかけた。
「今は辛いかもしれんが、これだけは聞いてくれ。失ったものばかり数えるな。どれだけ後悔したところで、過去は変えられん…」
「灘……君?」
「選択の連続、それが生きるって事だ。誰もがより良い未来に向かって舵を切るが、そのための選択が常に良い結果となるわけじゃない。アンタは心の底から『人』として、目の前の困っている奴を助けたかったから、俺達に命懸けで頭を下げた。結果は全員ってわけじゃないが、大勢の命を救う事が出来たんだ。アンタの選択は間違ってねえよ」
「…でも、私の選択で死者が出てしまったのは事実です。それを忘れる事は…」
「なら背負って歩け。己が下した選択を下ろす事なく責任を持って、最高も最悪も全部、死ぬまでな。忘れたくても忘れられないのなら、忘れちゃならないって事だ…」
そう言い終えた亮牙は、話は終わりだと言わんばかりにシアを連れて、扉へと歩いていった。
「悪いがハジメ達と合流して、直ぐにでも経つ。これでも仕事の最中だからな。魔物の死骸とかはもう残ってないが、土壌のダメージとかは俺達じゃどうしようも出来ん…。落ち着いてきたらでいいから、そうした後始末は任せるぞ。少し体を動かせば、多少は気も紛れるはずさ」
「灘君…」
そう言い終えると亮牙はシアと共に部屋を出て、ハジメ達を探しに行った。その後ろ姿を黙って見送った愛子だが、入室した時と比べて、気持ちは幾分か落ち着きを取り戻しつつあった。
部屋を出た亮牙達は、わざわざ部屋を貸してくれたフォスに礼を言うと、ハジメ達と合流して出発の準備を始めた。町の重鎮達は、ハジメのアーティファクトや亮牙達自身を目的に引き止めたかったが、流石に町の危機を救ってもらいながら失礼だろうと思い、TPOを弁えて自重した。
ストレイフはまだ目を覚ましていなかったが、既に充分回復しつつあり、穏やかな寝息からまだ疲れが残っているようだ。恐らく、フューレンに到着するくらいには目を覚ますだろう。
一行はパイロに乗り込み、町の事後処理等で後ろ髪を引かれる様子だったウィルも、これ以上我儘は言えないと車内に乗り込んだ。全員が乗り込んだのを確認し、亮牙とハジメも乗り込もうとした時だ。
「ま、待って!二人とも!」
「あ?」
「園部さん?」
ウィルと共に他の護衛隊の看病をしていた優香が、大慌てで走ってきたのだ。その姿を見た亮牙とハジメは、何のようだと顔を顰めた。
「何しに来た?『今度こそ死ねば良かったのに』とでも言いにきたのか?」
「ち、違うの灘!そんな事を言いに来たんじゃないの…!」
亮牙からの皮肉めいた問いかけに、びくりと体を震わせた優香はオロオロとする。だが少しして、ふぅと息を吐いて落ち着きを取り戻した彼女は、亮牙とハジメを見据えると頭を下げて謝罪した。
「二人とも、本当にごめんなさい。これまでの事も、今回の事も…」
「………は?」
謝罪という予想外の言葉に、亮牙はキョトンとなる。対してハジメは黙って優香を見つめていたが、防衛戦の前のような嫌悪感は見られなかった。
「地球では天之河達に流されるままにアンタ達の事を蔑んで、こっちに来てからもアンタ達が止めるのを無視して馬鹿な決断下しちゃって…。そんな私達を、アンタ達はあの日の迷宮の騒動で救ってくれたっていうに、私達はその恩を仇で返した…」
優香も多くのクラスメイト達と同様、亮牙とハジメのことを光輝や香織に迷惑をかける奴らと見做してきた。かつて亮牙が起こした暴力沙汰についても、彼に非はないと愛子やハジメが弁護したにも拘らず、「灘が先生達を脅して隠蔽しようとした!」などとほざく光輝の戯言を鵜呑みにしてしまった。
故にトータスに転移した時も、二人の警告など無視し、いつも通り光輝達に任せればなるだろうと楽観視していた。しかしその結果危うく死にかけてしまい、光輝達が役に立たない中、何とか二人のおかげで救われた。だというのに、自分達のうちの誰かの裏切りで二人は奈落に落ち、自分達はあっさりそれを事故として片付けた。
「そんな私達を見捨てずに守ってくれた愛ちゃん先生に恩返しがしたくて護衛を引き受けたけど、灘に言われた通り打算があったのも事実…。挙げ句の果てには清水に裏切られちゃうし、肝心の護衛も務まらなくって、アンタ達がいなかったら、この町の人達諸共あの世行きだった…」
ギュッと手を握り締め、悔し涙を流す優香。王国や教会からはチート持ちの英雄だと持て囃されたが、実際は大好きな先生も守り切る事すら出来ない、文字通りの穀潰しだった現実を思い知らされた。
更に親友である菅原と宮崎から聞かされた清水の裏切り。もし自分達が亮牙達の件をはっきりとさせ、犯人に然るべき罰を与えていれば、清水が増長して敵に寝返る事もなかっただろう。
本当は護衛隊全員で謝りたかったが、男子三人はまだ気絶しており、菅原も宮崎もまだ気持ちに整理がついていなかったので、せめて二人が立ち去る前に、自分だけでも謝っておきたかった。
「だからこそ、本当にごめん。今更許してくれなんて都合の良い事は言わない…。けど、アンタ達に二度も助けもらったこと、絶対に無駄にしない!必ずこの恩には報いるから!」
とても真剣な表情でそう告げる優香。もうハジメにも亮牙にも、助けた事を後悔させるような真似はしない。その強い想いが表れていた。
亮牙もハジメも、暫く優香を黙って見つめていた。やがて亮牙は振り返ってパイロへと歩いていきながら、優香に声を掛けた。
「先生の護衛、まだ続けるつもりか?」
「う、うん!」
「なら地球に帰るまで、ちゃんと守り抜け。俺からはそれでチャラにしてやるよ、
そう告げると、亮牙はそのままパイロに乗り込んだ。ハジメは親友を揶揄うような表情で見つめていたが、やがて優香に向き直った。
「良かったね、亮牙も少しだけ君のことを認めたみたいだよ」
「灘が、私を…?」
「うん。恩に報いるのなら、無事地球に戻った後、君の実家の食堂で僕ら何か奢ってよ。僕はそれで構わない」
「う、うん!」
そう言い終えると、ハジメは運転席に乗り込み、パイロを出発させた。優香はその姿が見えなくなるまで見送ったが、彼女の顔つきは以前に比べて、幾分か明るさが戻っていた。
それから愛子と優香は、ハイリヒ王国からデビッド達の後釜となる護衛が派遣されるまで、回復した他の護衛隊の面々を指揮し、ウルの町の復興支援などに尽力した。
命懸けでこの町を、自分達を守ってくれた亮牙達の活躍を無駄にしない、という思いをそれぞれ胸に抱きながら…。
北の山脈地帯を背に、亮牙一行は南へと街道を疾走した。砂埃を上げるパイロは、サスペンション付きの車輪で振動を最小限に抑えながら、快調にフューレンへと向かって進んでいった。
運転は当然ハジメ、その隣は定番の席でユエだ。後部座席に他の面々が乗り込み、ストレイフが簡易ベッドに寝かされていた。やがてウィルが気遣わし気に、亮牙に話しかけた。
「あのぉ~、本当にあのまま出発してよかったのですか?話すべきことがあったのでは…?特に愛子殿は…」
「大丈夫だ、あの人はそこまで軟弱じゃねえ。いずれ立ち直るさ」
会ったばかりの冒険者達の死に本気で嘆き悲しみ、自分とは関係ない町がこれから魔物の大群に襲われるのを知ると自殺行為も同然だというのに残り、恨みの対象であるティオを許した。そんなウィルは今、自分を散々な目に遭わせた亮牙と愛子達との関係を心配していた。王国の貴族でありながら、冒険者を目指すなど随分変わり者だとは思っていたが、それを通り越して思わず心配になるぐらいお人好しだ。
そんな彼に、亮牙は呆れながら言葉を続けた。
「人の心配より自分の心配したらどうだ?このままフューレンに戻って、チャングや家族と再開してめでたし、だと思ってるのか?」
「え?どういう事ですか?」
「山でも言っただろ…。今回お前の我儘に大勢の人間が振り回され、結果的に五人死んだ。お前の実家がどれだけ権力あるか知らねえが、政敵共にとって絶好の弱みを握らせた事になったんだぞ?」
「うっ…⁉︎」
そう言われたウィルは言葉を詰まらせる。今回の騒動で実家にもイルワにも多大な迷惑をかけてしまったのは事実だ。自分は貴族に向いてないと実家を飛び出したのに、クデタ伯爵家の名に泥を塗ってしまった。
その事実を突きつけられたウィルは一気に落ち込む。ハジメは運転中のため振り向かないままだが、流石にそれを察知出来たので、苦笑しながらもウィルを励ました。
「まあまあ亮牙、その辺にしときなよ。ウィルさんも責任を感じてるのなら、死んだ冒険者の遺族への弔慰金とか、ウルの町の復興支援に協力してあげて下さい。多少なりとも償いにはなりますから」
「ハジメ殿、ありがとうございます…。そうですね、ゲイルさん達には感謝しきれないですから…」
ハジメの慰めの言葉に、幾分か元気を取り戻したウィルだった。
なおここだけの話、ウィルを守って殉職した冒険者の一人・ゲイルは、同性愛者かつ本名もゲイル・ホモルカと、正に名は体を表す人物だったらしい。
「と・こ・ろ・で・亮牙さ〜ん?随分と愛子さんには甘くなかったですかぁ〜?」
ふと、シアが思い出したかのように、隣に座っている亮牙に話しかけてきた。口には笑みを浮かべているが目は笑っておらず、流石の亮牙も一瞬たじろいだ。
「そ、そんな事ねぇよ…。あの人は地球じゃ世話になったのもあるから借りを返したかっただけだ。変な意味はねえって…」
「へぇ〜。…でも最後に見た時の愛子さんの顔、生徒を見送る先生の顔じゃなかったですよぉ〜?」
「は?気のせいだろ…」
「い〜え、気のせいじゃありません!女の勘を甘く見ないでください!あの目は亮牙さんを異性として意識していましたよ‼︎」
「あの人が俺を異性として?んな馬鹿な…」
「間違いないですよ!ウィルさんを探している最中も幼馴染みたいに仲良くしてましたし、命懸けで守られた挙句あんな優しい言葉をかけられたら、誰だって惚れちゃいますよ!まったくもう、やっぱり女たらしじゃないですか⁉︎」
「お、落ち着け…。シアの気のせいだって…」
話しているうちに次第にヒートアップして、顔を真っ赤にしてプンプンと怒り出すシア。恋人の凄まじい剣幕に流石の亮牙もたじろぎ、座席に座りながら彼女とは反対側に後ずさった。
その姿はまさに嫁の尻に敷かれる恐妻家のようで、ハジメとユエ、ウィルは思わず苦笑いし、スラッグは「ティラノサウルスらしいなぁ〜」などと恐竜時代を懐かしんでいた。
ふと後ずさっていた亮牙の後頭部に、何か柔らかいモノがぶつかった。その感触は、普段彼がシアに抱きしめられた時によく感じるあの感触だ。
まさか、と亮牙がゆっくり見上げてみると…
「あぁ〜ん♡ご主人様ったら早速妾の胸に飛び込んでくるとは、積極的過ぎるのじゃ!し、下着が不味いことになりそうじゃ…!」
ハァハァと息を荒げながら恍惚の表情を浮かべるティオの顔が見えた。
それを見て亮牙は気づいた。今の自分は隣にいたティオの胸の谷間にもたれかかった状態となっている事に。更に彼女は興奮した様子で、ぬいぐるみを抱くみたいに彼を抱きしめた。
「お、おい離せ!てか何でお前まで乗ってるんだよ⁉︎俺達が用があるのはストレイフだけだ!さっさと降りろ!」
「何を言っておるのじゃ?叔父上が気を失ってる以上、姪の妾が付き添うのは当然の義務。それに妾自身、ご主人様に付いて行くと決めたからの。叔父上とはどうやら旧知の仲みたいじゃし、竜人族としての役目も果たせそうじゃし、責任もとってもらわねばならんし、別れる理由が皆無じゃ!ご主人様がなんと言おうと付いて行くぞ。絶対離れんからな!」
「知るか!てかいつまで抱きしめてるんだよ⁉︎」
「くぅ〜!顔を真っ赤にして、意外とご主人様は初々しいの〜う。そんなに妾の胸が気持ち良いのじゃな〜♡」
「巫山戯んな‼︎いいから離──」
離せと言おうとした瞬間、亮牙は前方から悪寒を感じ取った。恐る恐るそちらに視線を向けると、シアがどす黒いオーラを放ちながら、顔を伏せてプルプルと体を震わせていた。
「シ、シア…。これは事故だからな?頼むから落ち着──」
青ざめた顔で弁明しようとする亮牙だったが、それより先にシアが顔を上げると、涙目で睨みながら大声で怒鳴った。
「亮牙さんの浮気者〜!!!」
「誤解だぁ〜!!?」
車内からシアの怒りの声と亮牙の悲痛な叫びが響き渡り、寝ているストレイフの顔が僅かにしかめっ面となる。
こうして亮牙一行は新たな仲間、ストレイフとティオを加え、中立商業都市フューレンへと向かうのであった。
主人公が愛ちゃんにかけた言葉は、『オール・ヘイル・メガトロン』でのドリフトと、相撲漫画『バチバチ』三部作の山ノ上親方の台詞が元ネタです。
前者はサンストリーカーの裏切りが発覚してショックを受けるアイアンハイドに対してドリフトがかけた言葉を参考にしました。
後者は主人公・鯉太郎の同期の一人・蒼希狼が自分の決断に後悔して挫折した際、師匠である山ノ上親方がかけた言葉で、名言の多いバチバチ三部作の中でも作者が一番好きな名言です。
感想、評価お待ちしております。