グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

67 / 105
『ゴジラVSコング』の日本版主題歌であるMAN WITH A MISSIONの「INTO THE DEEP」。まだサビだけしか聴けませんが、劇中のパワフルなイメージに合ってて、配信が待ち遠しいです!

そして、遂にここまで来ました。相変わらずアンチがあるので、ご了承ください。


地中より忍び寄る魔の手

 トータスの大地の奥深くを突き進む者達がいた。地中を掘り進みながら進むそれは、一般的なトータスの生物と比べて遥かに巨大だった。その大きさときたら、さながらサッカー場三個分ぐらいはあるだろう。

 その者達が目指す先にあるのは宿場町ホルアドと、七大迷宮の一つ「オルクス大迷宮」だ。多くの冒険者達の集うその地はこれから、この者達の手によって地獄のような惨劇が齎される事になるのだが、誰もそんな事知る由もなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、今回の『グリムロックは宇宙最強』は再び、迷惑カルテット達に話題を戻すとしよう。

 亮牙とハジメが墜落した後、実践訓練をしているのは勇者パーティーと小悪党組、そして永山パーティーの計15人のみであった。一行は亮牙とハジメが150階層でユエと出会った頃、その半分にも満たない65階層で再び遭遇したベヒモスと再戦、連携の末に討伐に成功して自信をつけていた。その知らせに居残り組から歓喜が上がったり、ハイリヒ王国の同盟国であるヘルシャー帝国から皇帝と使者達が謁見に来るなどして、かつて亮牙がアーティファクトも魔法もなしに単身ベヒモスを倒した事は、すっかり忘れられていた。

 現在、淡い緑色の光だけが頼りの薄暗いオルクス大迷宮の89層に、苛烈な剣戟と爆音が壁を振動させながら響いていた。銀色の剣線が虚空に美しい曲線を無数に描き、炎弾や炎槍、風刃や水のレーザーが弾幕のごとく飛び交う。強靭な肉体同士がぶつかる生々しい衝撃音や仲間への怒号、気合の声が本来は静寂で満たされているはずの空間を戦場へと変えていた。

 

「万象切り裂く光、吹きすさぶ断絶の風、舞い散る百花の如く渦巻き、光嵐となりて敵を刻め!『天翔裂破』!」

 

 聖剣を腕の振りと手首の返しで加速させながら、自分を中心に光の刃を無数に放つ光輝。今まさに襲いかかろうとしていた体長50cm程のコウモリ型の魔物は、十匹以上の数を一瞬で細切れにされて、碌な攻撃も出来ずに血肉を撒き散らしながら地に落ちた。

 

「前衛!カウント、十!」

「「「了解!」」」

 

 ギチギチと硬質な顎を動かす蟻型の魔物、空を飛び交う蝙蝠型の魔物、そして無数の触手をうねらせるイソギンチャク型の魔物。それらが直径30m程の円形の部屋で無数に蠢いていた。部屋の周囲には八つの横穴があり、そこから魔物達が溢れ出しているのだ。

 前衛を務める光輝、龍太郎、雫、永山、檜山、近藤に、後衛からタイミングを合わせた魔法による総攻撃の発動カウントが告げられる。何とか後衛に襲いかかろうとする魔物達を、光輝達は鍛え上げた武技をもって打倒し、弾き返していく。

 厄介な飛行型の魔物である蝙蝠型の魔物が、前衛組の隙を突いて後衛に突進するが、頼りになる「結界師」が城壁となってそれを阻む。

 

「刹那の嵐よ、見えざる盾よ、荒れ狂え、吹き抜けろ、渦巻いて、全てを阻め、『爆嵐壁』!」

 

 鈴の攻勢防御魔法が発動する。呪文を詠唱する後衛達の一歩前に出て、突き出した両手の先にそよ風が生じた。見た目の変化はない。蝙蝠達も鈴の存在など気にせず、警鐘を鳴らす本能のままに大規模な攻撃魔法を仕掛けようとしている後衛組に向かって襲いかかった。

 しかし、その手前で、突如、魔物の突進に合わせて空気の壁とでもいうべきものが大きくたわむ姿が現れる。何十匹という蝙蝠が次々と衝突していくが、空気の壁はたわむばかりでただの一匹も彼等を通しはしない。

 そして、突進してきた蝙蝠達が全て空気の壁に衝突した瞬間、たわみが限界に達したように凄絶な衝撃とともに爆発した。その発生した衝撃は凄まじく、それだけで肉体を粉砕されたものもいれば、一気に迷宮の壁まで吹き飛ばされてグシャ!という生々しい音と共にひしゃげて絶命するものいる程だ。

 

「ふふん!そう簡単には通さないんだからね!」

 

 クラスのムードメイカー的存在である鈴の得意気な声が激しい戦闘音の狭間に響くと同時に、前衛組が一斉に大技を繰り出した。敵を倒すことよりも、衝撃を与えて足止めし、自分達が距離を取ることを重視した攻撃だ。

 

「後退!」

 

 光輝の号令と共に、前衛組が一気に魔物達から距離を取った次の瞬間、完璧なタイミングで後衛六人の攻撃魔法が発動した。

 巨大な火球が着弾と同時に大爆発を起こし、真空刃を伴った竜巻が周囲の魔物を巻き上げ切り刻みながら戦場を蹂躙する。足元から猛烈な勢いで射出された石の槍が魔物達を下方から串刺しにし、同時に氷柱の豪雨が上方より魔物の肉体に穴を穿っていく。

 自然の猛威がそのまま牙を向いたかのような壮絶な空間では生物が生き残れる道理などありはしない。ほんの数十秒の攻撃。されど、その短い時間で魔物達の九割以上が絶命するか瀕死の重傷を負うことになった。

 

「よし!いいぞ!残りを一気に片付ける!」

 

 光輝の掛け声で前衛組が再び前に飛び出していき、魔法による総攻撃の衝撃から立ち直りきれていない魔物達を一匹一匹確実に各個撃破していった。全ての魔物が殲滅されるのに五分もかからなかった。

 戦闘の終了と共に、光輝達は油断なく周囲を索敵しつつ互いの健闘をたたえ合った。

 

「ふぅ、次で90層か…。この階層の魔物も難なく倒せるようになったし、迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな」

「だからって気を抜いちゃダメよ。この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから」

「雫は心配しすぎってぇもんだろ?俺等ぁ、今まで誰も到達したことのない階層で余裕持って戦えてんだぜ?何が来たって蹴散らしてやんよ!それこそ魔人族が来てもな!」

 

 感慨深そうに呟く光輝に雫が注意をするも、木偶の坊の龍太郎が呑気に笑ってそんな舐めた事を言いながら、光輝と拳を付き合わせて不敵な笑みを浮かべ合った。

 数ヶ月前、自分達の下した決断がクラス全員の命を賭けさせる事になり、結果として反対派だった亮牙とハジメが死んでしまったというのに、なんとも能天気な話だ。恐らくこの二人にとっては亮牙とハジメの犠牲など、自分達の栄光の未来を引き立てるスパイスぐらいにしか感じていないのだろう。

 そんな救いようがなくおめでたい幼馴染達に溜息を吐きながら、雫は眉間の皺を揉みほぐした。これまでも何かと二人の行き過ぎをフォローし続け、苦労人姿が板に付いてしまい、最近では皺ができていないか鏡を見る機会が微妙に増えてしまったほどだ。それでも結局、光輝達に限らず周囲のフォローに動いてしまう辺り、つくづく甘い女である。

 

「檜山君、近藤君、これで治ったと思うけど、どう?」

 

 周囲が先程の戦闘について話し合っている傍らで、香織は治癒師として、先程の戦闘で怪我をした人達を治癒しているのである。一応、迷宮での実戦訓練兼攻略に参加している15名の中にはもう一人、治癒師を天職に持つ辻綾子が永山グループにいるので、今は2人で手分けして治療中だ。

 

「…ああ、もう何ともない。サンキュ、白崎」

「お、おう、平気だぜ。あんがとな」

 

 香織に治療された檜山が、ボーと間近にいる香織の顔を見ながら上の空な感じで返答する。見蕩れているのが丸分かりだ。近藤の方も耳を赤くし、どもりながら礼を言った。前衛職であることから、度々、香織のヒーリングの世話になっている檜山達だが、未だに香織と接するときは平常心ではいられないらしい。近藤の態度は、ある意味、思春期の子供といった風情だが、檜山の香織を見る目の奥には暗い澱みが溜まっていた。それは日々、色濃くなっているのだが、気がついている者はそう多くはない。

 二人にお礼を言われた香織は「どういたしまして」と微笑むと、スっと立ち上がり踵を返した。そして、周囲に治療が必要な人がいないことを確認すると、目立たないように溜息を吐き、奥へと続く薄暗い通路を憂いを帯びた瞳で見つめ始めた。

 

「……」

 

 その様子に気がついた雫には、親友の心情が手に取るように分かった。香織の心の内は今、不安でいっぱいなのだ。あと10層で迷宮の最下層に辿り着くというのに、未だ、ハジメの痕跡は僅かにも見つかっていなかった(無論、亮牙の痕跡もだが、香織の眼中には一切なかった)。

 それは希望でもあるが、遥かに強い絶望でもある。自分の目で確認するまでハジメの死を信じないと心に決めても、階層が一つ下がり、何一つ見つからない度に押し寄せてくるネガティブな思考は、そう簡単に割り切れるものではない。まして、ハジメが奈落に落ちた日から既に4ヶ月も経っている。強い決意であっても、暗い思考に侵食され始めるには十分な時間だ。自身のアーティファクトである白杖を、まるで縋り付くようにギュッと抱きしめる香織の姿を見て、雫はたまらず声をかけようとした。

 と、雫が行動をおこす前に、ちみっこいムードメイカーが不安に揺れる香織の姿など知ったことかい!と言わんばかりに駆け寄ると、ピョンとジャンプし香織の背後からムギュッと抱きついた。ただの変態オヤジと化した鈴が、人様にはお見せできない表情でデヘデヘしながら香織の胸をまさぐり、雫から脳天チョップを食らって撃沈した。ついでに鈴と香織の百合百合しい光景を見て一部男子達も撃チンした。頭にタンコブを作ってピクピクと痙攣している鈴を、何時ものように中村恵里が苦笑いしながら介抱する。

 

「うぅ~、ありがとう、雫ちゃん。恥ずかしかったよぉ…」

「よしよし、もう大丈夫。変態は私が退治したからね?」

 

 涙目で自分に縋り付く香織を、雫は優しくナデナデした。最近よく見る光景だったりする。雫は、香織の滑らかな髪を優しく撫でながらこっそり顔色を覗った。しかし香織は困った表情で、されど何処か楽しげな表情で恵里に介抱される鈴を見つめており、そこには先程の憂いに満ちた表情はなかった。どうやら、一時的にでも気分が紛れたようだ。ある意味、流石クラスのムードメイカー鈴おっさんバージョンと、雫は内心で感心する。

 

「あと十層よ。…頑張りましょう、香織」

 

 雫が、香織の肩に置いた手に少々力を込めながら、真っ直ぐな眼差しを香織に向けた。それは、親友が折れないように活を入れる意味合いを含んでいた。香織もそんな雫の様子に、自分が少し弱気になっていたことを自覚し、両手で頬をパンッと叩くと、強い眼差しで雫を見つめ返した。

 

「うん。ありがとう、雫ちゃん」

 

 雫の気遣いが、どれだけ自分を支えてくれているか改めて実感し、瞳に込めた力をフッと抜くと目元を和らげて微笑み、感謝の意を伝える香織に、雫もまた目元を和らげると静かに頷いた。傍から見ると百合の花が咲き誇っており、光輝達が何だか気まずそうに視線を右往左往させているだが、二人の世界に入った雫と香織は気がつかなかった。

 

「今なら、守れるかな?」

「そうね、きっと守れるわ。あの頃とは違うもの…。レベルだって既にメルド団長達を超えているし…。でも、ふふ、もしかしたら彼らの方が強くなっているかもしれないわね?あの時だって、結局、私達が助けてもらったのだし」

 

 ハジメの生存を信じて、今度こそ守れるだろうかと今の自分を見下ろしながら何となく口にした香織に、雫は冗談めかしてそんな事を口にした。

 実際は的を得ており、色んな意味で度肝を抜かれる事になるのたが、そのことを知るのはもう少し先の話だ。

 だが…

 

「?彼ら?何言ってるの雫ちゃん?探してるのは南雲君だけでしょ?」

「ッ⁉︎そ、そうだったわね、ごめんなさい…」

「もうっ、雫ちゃんったら冗談が過ぎるよ〜」

 

 香織のその一言に、雫はかつてのように戦慄する。亮牙の事は最早存在しなかったものとして扱い、ハジメの事しか考えていなかった。 

 雫としては亮牙の身も案じていたのだが、香織にはその気が一切ないことに、親友として過保護過ぎる彼女も、流石に寒気を感じずにはいられなかった。だが、それを指摘すると話がややこしくなると考え、香織に甘過ぎる雫は敢えて聞かなかった事にした。

 後にこの過保護さが、香織だけでなく雫自身にも大きな災いをもたらしてしまう事になるのだが、そんな事今の二人が知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在。この場にいるのは光輝達15人のみであり、メルド団長達は70層で待機している。実は、70層からのみ起動できる、30層と70層をつなぐ転移魔法陣が発見され、深層への行き来が楽になったのであるが、流石にメルド達でも70層より下の階層は能力的に限界だった。もともと60層を越えたあたりで、光輝達に付き合える団員はメルドを含めて僅か数人だった。70層に到達する頃には、彼等は既に光輝達の足を引っ張るようになっていたのである。

 メルドもそのことを自覚しており、迷宮でのノウハウは既に教えきっていたこともあって、自分達は転移陣の周囲で安全地帯の確保に努め、それ以降は光輝達だけで行くことにさせたのだ。

 たった4ヶ月ほどで超えられたことにメルドは苦笑い気味だったが、それでも光輝達に付き合う過程で、たとえ70層でも安全を確保できるほどの実力を自分達もつけられたことに喜んでいた。彼らもまた実力を伸ばしていたのである。

 特に香織の回復魔法と光属性魔法は極まっていた。本来の技能数だけを見るなら、香織は4人の内でもっとも少ないにもかかわらず、現在の総技能数は勇者たる光輝すら超えるほどだ。それもこれも、全ては二度と約束を違えないようにするため、想い人の生存を信じて、今度こそ守るため、寝る間も惜しんで、ひたすら自分の出来ることを愚直に繰り返してきた結果だ。しかし当のハジメは亮牙達と共に遥かに強くなって迷宮を攻略していたので、無駄な努力に過ぎなかったが。

 

「そろそろ、出発したいんだけど……いいか?」

 

 光輝が未だに見つめ合う香織と雫におずおずと声をかける。以前、香織の部屋で香織と雫が抱き合っている姿を目撃して以来、時々、挙動不審になる光輝の態度に香織はキョトンとしているが、雫はその内心を正確に読み取っているので「いつまで妙な勘違いしてんの、このお馬鹿」とジト目を送った。

 雫の視線に気づかないふりをしながら、光輝はメンバーに号令をかける。既に89層のフロアは9割方探索を終えており、後は現在通っているルートが最後の探索場所だった。今までのフロアの広さから考えて、そろそろ階下への階段が見えてくるはずである。

 その予想は当たっており、出発してから10分程で一行は階段を発見した。トラップの有無を確かめながら慎重に薄暗い螺旋階段を降りていく。体感で10mほど降りた頃、遂に光輝達は90層に到着した。

 一応、節目ではあるので何か起こるのではと警戒していた光輝達だが、見た目、今まで探索してきた80層台と何ら変わらない作りのようだった。さっそく、マッピングしながら探索を開始する。迷宮の構造自体は変わらなくても、出現する魔物は強力になっているだろうから油断はしない。

 警戒しながらも光輝達は、変わらない構造の通路や部屋を探索していった。探索は順調だったのだが、やがて、一人また一人と怪訝そうな表情になっていった。

 

「…どうなってる?」

 

 一行がかなり奥まで探索し大きな広間に出た頃、遂に不可解さが頂点に達し、表情を困惑に歪めて光輝が疑問の声を漏らした。他のメンバーも同じように困惑していたので、その疑問に同調しつつ足を止めた。

 

「…何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

 

 既に探索は、細かい分かれ道を除けば半分近く済んでしまっていた。今までなら散々強力な魔物に襲われてそう簡単には前に進めず、ワンフロアを半分ほど探索するのに平均2日はかかるのが常だったのだ。にもかかわらず、光輝達がこの90層に降りて探索を開始してから、まだ3時間ほどしか経っていないのに、未だ一度もこのフロアの魔物と遭遇していなかった。

 最初は、魔物達が光輝達の様子を物陰から観察でもしているのかと疑ったが、彼等の感知系スキルや魔法を用いても一切索敵にかからないのだ。魔物の気配すらないというのは、いくら何でもおかしい。明らかな異常事態である。

 

「…なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

 

 能天気な龍太郎ですら困惑して、同じようにメンバーも口々に可能性を話し合うが、答えが見つかるはずもなかった。

 

「…光輝。一度、戻らない?何だか嫌な予感がするわ。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし…」

 

 警戒心を強めた雫の提案に、何となく嫌な予感を感じていた光輝も乗るべきかと考えた。だが、何らかの障碍があったとしてもいずれにしろ打ち破って進まなければならないし、89層でも割りかし余裕のあった自分達なら何が来ても大丈夫ではないかという楽観視もあって、答えに迷っていた。

 すると不意に、辺りを観察していたメンバーの何人かが何かを見つけたようで声を上げた。

 

「これ、血、だよな?」

「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど、あちこち付いているよ…」

「おいおい、これ、結構な量なんじゃ…」

 

 表情を青ざめさせるメンバーの中から永山が進み出て、血と思しき液体に指を這わせる。そして、指に付着した血をすり合わせたり、臭いを嗅いだりして詳しく確認した。

 

「天之河、八重樫の提案に従った方がいい…。これは魔物の血だ。それも真新しい」

「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど、いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

 楽観視する光輝の反論に、永山は首を振った。彼は亮牙、龍太郎と並ぶクラスの三大巨漢だが、亮牙程ではないにしろ非常に思慮深い性格をしている。頭空っぽで光輝の腰巾着に過ぎない龍太郎とは大違いだ。

 そんな永山が臨戦態勢になりながら立ち上がると、周囲を最大限に警戒しながら光輝に自分の考えを告げた。

 

「…天之河、魔物は何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり…」

「…何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことね?」

 

 後を継いだ雫の言葉に永山が頷いた。光輝もその言葉に漸くハッとした表情になると、永山と同じように険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。

 

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど、人であると考えたほうが自然ってことか…。そしてこの部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは…」

「ここが終着点という事さ」

 

 光輝の言葉を引き継ぎ、突如、聞いたことのない女の声が響き渡った。男口調のハスキーな声音だ。光輝達は、ギョッとなって、咄嗟に戦闘態勢に入りながら声のする方に視線を向けた。

 コツコツと足音を響かせながら、広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは燃えるような赤い髪をした妙齢の女。その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。

 女のその特徴に、光輝達が驚愕したように目を見開いた。実際には見たことはなかったが、イシュタル達から叩き込まれた座学において、何度も出てきた種族の特徴。聖教教会の掲げる神敵にして、人間族の宿敵。そう…

 

「…魔人族」

 

 誰かの発した呟きに、魔人族の女・カトレアは薄らと冷たい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、本当の危機は今まさに地下から迫ってきている事に、光輝達は誰一人として全く気づいていなかった。これから光輝達は「戦争」というものをどれだけ舐めていたのか、その身をもって知る事になる…。

 

 

 

 

 

 




感想、評価お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。