グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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最初見た時は信じられなかったです。一度は打ち切りも考えた本作ですが、これだけの方々が気に入って読んでいらっしゃる事を改めて実感することができ、嬉しい限りです。

遂に、光輝たちの地獄が始まります。お気に入りのキャラがいる方々、ご了承ください。




愚者達を揺るがす衝撃波

 光輝達の目の前に現れた赤い髪の女魔人族・カトレアは、冷ややかな笑みを口元に浮かべながら、驚きに目を見開く光輝達を観察するように見返した。

 瞳の色は髪と同じ燃えるような赤色で、服装は艶のない黒一色のライダースーツのようなものを纏っている。体にピッタリと吸い付くようなデザインなので彼女の見事なボディラインが薄暗い迷宮の中でも丸分かりだった。しかも、胸元は大きく開いており、見事な双丘がこぼれ落ちそうになっている。また、前に垂れていた髪を、その特徴的な僅かに尖った耳にかける仕草が実に艶かしい。

 そんな場合ではないと言うのに、幾人かの男子生徒の頬が赤く染まる。馬鹿だろ此奴ら。

 

「勇者はあんたでいいんだよね?そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」

「あ、アホ…⁉︎う、煩い!魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ!それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」

 

 あまりと言えばあまりな物言いに軽くキレた光輝が、その勢いで驚愕から立ち直ってカトレアに目的を問いただした。

 しかしカトレアは、煩そうに光輝の質問を無視すると心底面倒そうに言葉を続ける。

 

「はぁ~、()()()の言ってた通り、こんなの絶対いらないだろうに…。まぁ、命令だし仕方ないか…。あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」

「な、なに?来ないかって、どう言う意味だ!」

「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?」

 

 光輝達としては完全に予想外の言葉だったために、その意味を理解するのに少し時間がかかった。そしてその意味を呑み込むと、クラスメイト達は自然と光輝に注目し、光輝は、呆けた表情をキッと引き締め直すと魔人族の女を睨みつけた。

 

「断る!人間族を、仲間達を、王国の人達を裏切れなんて、よくもそんなことが言えたな!やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ!わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、一人でやって来るなんて愚かだったな!多勢に無勢だ。投降しろ!」

 

 光輝の言葉に、安心した表情をするクラスメイト達。光輝なら即行で断るだろうとは思っていたが、ほんの僅かに不安があったのは否定できない。もっとも、龍太郎や雫など幼馴染達は、欠片も心配していなかったようだが。

 一方のカトレアは、即行で断られたにもかかわらず「あっそ」と呟くのみで大して気にしていないようだ。むしろ、怒鳴り返す光輝の声を煩わしそうにしている。

 

「一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど?それでも?」

「答えは同じだ!何度言われても、裏切るつもりなんて一切ない!」

 

 お仲間には相談せず代表して、やはり即行で光輝が答えた。そんな勧誘を受けること自体が不愉快だとでも言うように、光輝は聖剣を起動させ光を纏わせた。これ以上の問答は無用。投降しないなら力づくでも!という意志を示していた。

 だがその後ろで、永山や雫は内心で舌打ちしつつ、カトレアより周囲に最大限の警戒を行った。二人は場合によっては一度、嘘をついて彼女に迎合してでも場所を変えるべきだと考えていたのだが、その考えを伝える前に光輝が怒り任せに答えを示してしまったので、仕方なく不測の事態に備えているのだ。

 普通に考えて、いくら魔法に優れた魔人族とはいえ、こんな場所に一人で来るなんて考えられない。この階層の魔物を無傷で殲滅し、あまつさえその痕跡すら残さな真似が出来るくらい魔人族が強いなら、はなから人間族は為すすべなく魔人族に蹂躙されていたはずだ。

 それに、この階層に到達できるほどの人間族15人を前にしてもカトレアは全く焦っていなかった。戦闘の痕跡を隠蔽したことも考えれば最初に危惧した通り、ここで待ち伏せしていたのだと推測すべきで、だとしたら地の利は彼女の側にあると考えるのが妥当だ。何が起きても不思議ではないだろう。

 そんな二人の危機感は、直ぐに正しかったと証明された。

 

「そう。なら、もう用はないよ。あと一応、言っておくけど、あんたの勧誘は最優先事項ってわけじゃないから、殺されないなんて甘いことは考えないことだね。ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから短時間で、光輝達は窮地に陥っていた。

 カトレアの最初の号令と共に、突如として光輝達の左右の空間が揺らいだかと思うと、姿どころか気配すら消していた3体のキメラが襲い掛かった。鈴が本能的な危機感に従って咄嗟に張った障壁魔法は、ガラスでも割るかのように破壊され、雫と永山が一撃で吹き飛ばされて行動不能に陥った。

 幸い、すぐさま香織がほとんど無詠唱かと思うほどの詠唱省略で同時に三つの光系魔法を発動して2人を回復させ、2人と鈴に咄嗟に防御魔法を張って攻撃を逸らした。

 その隙に光輝と龍太郎がキメラに飛び掛かり、恵里が強力な炎系魔法を発動させた。だが更に、体長2m半程の見た目も能力もブルタールの上位互換の魔物の攻撃で光輝と龍太郎は吹き飛ばされ、恵里の魔法は同じく割り込んできたタラスクを彷彿とさせる6本足の亀に呑み込まれてしまった。

 そのまま亀は、背中の甲羅と開いた口の奥を輝かせながら、レーザー砲のように超高熱の砲撃を放つが、鈴が咄嗟に斜め45度に10枚のシールドを張り、粉砕されながらも砲撃を上方へと逸らした。逸らされた砲撃は、激震と共に迷宮の天井に直撃し周囲を粉砕しながら赤熱化した鉱物を雨の如く撒き散らした。

 そこまでの事態になってようやく他の連中も悪態を付きながらも混乱から抜け出し完全な戦闘態勢を整えた。傷を負っていた雫や永山も完全に治癒されて、それぞれ眼前の見えるようになったキメラに攻撃を仕掛け始めた。

 だが、雫の自慢の八重樫流奥義を用いた剣術でも、キメラに全く致命傷を与えられず、それどころか徐々に雫の速度を捉えられ始めてしまった。雫の表情に焦りが生まれ始める。

 さらに雫達の不幸は続き、高みの見物と洒落こんでいたカトレアの肩に、いつのまにか止まっていた双頭の白い鴉が「キュワァアア!」と鳴き声を上げると、雫達がやっとの思いで与えてきた魔物達の傷が即座に癒されてしまった。唯でさえ時間が経てば経つほど順応されて勝機が遠のくというのに、後方には優秀な回復役が待機している現実に、雫達の悲痛な叫びが上がった。

 

「だいぶ厳しいみたいだね。どうする?やっぱり、あたしらの側についとく?今なら未だ考えてもいいけど?」

 

 そんな様子を腕を組んで余裕の態度で見物していたカトレアが、再び勧誘の言葉を光輝達にかけた。もっとも、答えなど分かっているとでも言うように彼女の表情は冷めたままであり、その予想は実に正しかった。

 

「ふざけるな!俺達は脅しには屈しない!俺達は絶対に負けはしない!それを証明して──」

 

 カトレアの舐めきった言葉と態度に、再び憤怒の表情を浮かべた光輝は、再びメイスを振り下ろしてきたブルタールモドキの一撃を聖剣で弾き返すと、一瞬の隙をついて「限界突破」を使おうとした。

 だが光輝が詠唱を唱えようとした瞬間、階層全体が揺れ始めた。突然の揺れに、戦いで疲弊していた光輝達は誰もが転倒した。カトレアはよろめいただけで倒れはしなかったが、苦虫を噛み潰したような表情となる。

 

「チッ、漸く来たのかい…。お前ら!その獲物達は一旦放っといて下がりな!」

 

 彼女の号令と共に、配下の魔物達は目の前の光輝達を放置して一旦下がった。突然の不可解な行動に、誰もが疑問の表情を浮かべた。

 

「逃げるつもりか⁉︎臆病者め‼︎」

「ハッ、つくづくおめでたい奴だね!()()に巻き込まれないよう道を開けてやったのさ‼︎」

 

 光輝の煽りに対して、カトレアは心底馬鹿にした表情を浮かべながらそう告げた。そうしている間に振動はどんどん大きくなっていく。

 

「みんな気をつけて!下から来るわ!!!」

 

 雫は冷静になるよう自分に言い聞かせると、振動が地下から近づいている事に気づき、皆に足元を警戒するよう呼びかけた。光輝達は足元を警戒するが、やがて誰かがポツリと呟いた。

 

「…この音、ドリルか?」

 

 そう、近づいてくる音は生物の出す音よりも、むしろ工事現場で使われる掘削機のドリルに近い音だった。しかし、この異世界トータスの文化や技術は地球では中世レベル。ドリルはおろか、機械すらない筈だ。

 

「グルォアアアアアアッ!!!」

「「「「「ッ!!?うわあああっ!!?」」」

 

 次の瞬間、まるで恐竜のような、だが何処か機械的な唸り声を上げて、大量の土砂を噴き上げながら、巨大な何かが地面を突き破って現れた。

 その衝撃に光輝達はおろか、安全な場所まで後退していたカトレアまでもがよろめいて倒れた。

 

「な、な、何なの!!?」

 

 倒れながらも即座に立ち上がった雫は、襲撃者の正体を見極めようとしたが、犯人は彼女達の予想以上に巨大過ぎて中々全体像がつかめなかった。巨体に似合わず凄まじい勢いで動く姿を注意深く観察し、雫は漸く似たような生き物に気づいた。

 それは彼女を含めて女性が苦手な生き物の代表格、ミミズだ。だが、雫達の知るミミズとは明らかに異なる。まずその大きさ自体、少なく見積もっても全長100m以上、胴体の直径ですら10mはあるだろう。おまけに柔らかいミミズとは違い、全身が硬い金属で出来ている。更にはイカの足のように生えた5本の触手の先端は回転式の丸鋸が組み合わさったようになっており、口などまるでトンネル掘削用のシールドマシンのようだ。これで硬い岩盤を掘り進んできたのだろう。

 その正体は、サイバトロン星に棲息する金属生命体の一つ、ドリラーだ!本来は鉱山の採掘場でトランスフォーマー達に使役される家畜だが、この個体は通常個体より遥かに巨大だ。だが、トランスフォーマーの存在しない時空で育った光輝達に、そんな事分かるはずもなかった。

 ドリラーは目の前で無様に倒れ伏す人間の一人に狙いを定めると、その長くて鋭利な触手の一本を突っ込ませた。狙われたのは、あまりの出来事に未だ尻餅をついたままの、小悪党組の一人・斎藤だ。

 

「ひぃっ⁉︎やめろ!来グヴォエアアアッ!!?」

 

 斎藤は高速で迫る触手から逃げようとするも、それより先にドリラーの触手が腹に食らいついた。丸鋸状の触手はそのまま斎藤の腹をバターでも切るかのように容易く切断し、真っ二つに裂かれた上半身は内臓と血の尾を引きながら吹き飛ばされた。ドスンと地面に落ちた斎藤の両眼と口は全開され、口からは血が垂れていた。

 

「良樹!!?うわぁああああああ!!?」

 

 友人の無惨な最期に、同じく小悪党組の近藤は悲鳴を上げると、武器であるアーティファクトの槍を投げ捨て逃げ出そうとした。だが、恐怖のあまり腰が抜けてしまい、さながら芋虫のように這いつくばっていた。

 そんな無様な獲物を、ドリラーが逃すはずもない。彼は斎藤を殺したのとは別の触手を伸ばすと、這いずり回る近藤を捕まえた。

 

「ぎゃあああっ⁉︎は、離してくれぇ〜!!!」

 

 必死に踠きながらやめてくれと泣き叫ぶ近藤だが無駄だった。ドリラーはそのまま触手を上へと伸ばすと、掴んでいた近藤を天井へと叩きつけた。

 常人なら即死していたのだが、不幸なことに今の近藤は一般的なトータス人よりチートなステータス故のしぶとさから、致命傷にはならなかった。背骨と腰骨をへし折られ、激しい激痛に悲鳴をあげながら地面へと叩き落とされてしまい、そのまま悶絶しながら泣き叫ぶことしか出来なかった。

 

「クソッ、何なんだこの魔物は!!?」

 

 既に仲間が一人殺され一人が戦闘不能に陥ったのだが、光輝達残る13人はドリラーの相手をするのに必死で気づく余裕はなかった。悪態をつきながらも攻撃を加えようとするが、今まで倒してきた魔物の柔らかい肉とは違い、相手は硬い金属で出来ている上に、襲いかかる触手には先端の丸鋸だけでなく多数の刃が生えている。アーティファクトの籠手を装備しているとはいえ、肉弾戦しか手段のない龍太郎や永山は攻めあぐねていた。

 おまけに地中からトリッキーに襲い来るドリラーの攻撃スタイルは中々予測がつかず、足場も悪くなってくる。結界師である鈴も、防御魔法を発動しようにも発動出来ないのだ。それを見透かしたように、ドリラーの触手は鈴を次の獲物として狙いを定めると、彼女に襲い掛かった。

 

「あぁああああああっ!!?」

「「「「「「鈴(ちゃん)!!?」」」」」

 

 鈴の悲鳴に、勇者パーティーが叫ぶ。ドリラーの触手は鈴を捕まえ損ねたが、その鋭い刃が彼女の左足を掠めたのだ。腿の肉を切り裂かれた鈴は、あまりの激痛にその場に崩れ落ち、香織が慌てて治癒魔法をかけるが、ショックで意識を失ってしまっていた。

 すると、ドリラーが突如として大人しくなり、攻撃を止めた。一体どうしたのだと疑問顔になる光輝達だが、この隙に気絶した鈴の守りに入ろうとした。しかし、悪夢はまだ終わらなかった。突如としてドリラーの背中がギゴガゴゴと展開すると、中から何かが現れたのだ。

 出てきたのは、身長9mはある筋骨隆々とした紫色の巨人だった。側頭部には一対の角が生え、赤く光る瞳は一つしかなく、さながらサイクロプスのようだ。だが身体はドリラーと同じく金属で出来ており、左腕には巨大なブレードを装備し、右腕に至ってはそのまま巨大な粒子波動砲となっている。

 そう、彼こそはディセプティコン科学参謀にして軍事作戦司令官、そしてドリラーの主人であるショックウェーブだ!

 元来のショックウェーブは無用な感情を持たず、任務遂行に徹する冷静沈着な兵士だ。しかし前世では、地球人との戦いで手酷い目に遭わされた挙句オプティマスに討ち取られたからか、彼は目の前の地球人達で少々憂さ晴らししようと考え、ドリラーから降りてきたのだ。

 ショックウェーブは無表情のまま、右腕の粒子波動砲を構えた。その照準は今、一番彼の近くにいた檜山と中野に定められた。

 人間、追い詰められると本性が露わになるとはよく言ったものだ。砲口を向けられて本能的に死の危険を感じとった檜山は、生き汚い卑劣漢としての本性を露わにした。隣にいた親友の中野を前に突き飛ばして盾にし、逃げようとしたのだ。

 

「ヒィィィィィッ!!!」

「うわっ⁉︎大介、何す──」

 

 あり得ない光景にキョトンとしていた中野は、突然自分を突き飛ばした檜山に文句を言おうとしたが、何すんだよ!と言い切る前に、ショックウェーブの粒子波動砲が発射された。M1戦車ですら溶かしてしまう強力なプラズマが直撃し、中野の肉体は一瞬で焼き尽くされ、焼け残った頭蓋骨がコロンコロンと転がった。

 檜山は中野を盾にした事で直撃こそ免れたが、その衝撃の余波に吹き飛ばされ、ドリラーが掘り起こした土砂に埋もれてしまった。

 

「貴様ら!よくも!」

 

 惨劇を目の当たりにして激昂した光輝は、感情に任せてショックウェーブとドリラーに突貫しようとした。だがストッパーの雫が声を張り上げて諌めると、撤退に全力を注げと指示を出した。

 

「待ちなさい!光輝、撤退するわよ!退路を切り開いて!」

「なっ⁉︎あんなことされて、逃げろっていうのか!」

 

 しかし、仲間を殺され傷つけられた事に怒り狂う光輝は、キッと雫を睨みつけて反論した。光輝から放たれるプレッシャーが雫にも降り注ぐが、柳に風と受け流した彼女は険しい表情のまま説得した。

 

「聞きなさい!一度引いて態勢を立て直す必要があるのよ!それに三人も殺されて、今あんたが飛び出したら、次の攻勢に皆はもう耐えられない!本当に全滅するわよ!」

「ぐっ、だが…」

「それに無闇に限界突破を使えばあんたもヤバイでしょ?この状況で、光輝が弱体化したら、本当に終わりよ!冷静になりなさい!悔しいのは皆一緒よ!」

 

 理路整然とした幼馴染の言葉に、光輝は唇を噛んで逡巡するが、雫が唇の端から血を流していることに気がついて、茹だった頭がスッと冷えるのを感じた。大事な仲間をやられて、出来ることなら今すぐ敵をぶっ飛ばしてやりたい程悔しいのは、彼女も同じなのだ。

 

「わかった!全員、撤退するぞ!雫、龍太郎!少しだけ耐えてくれ!」

「任せなさい!」

「おうよ!」

 

 そう言うと、光輝達は大急ぎで撤退しようとした。皆ショックウェーブの追撃に警戒するが、不思議な事に敵は一切仕掛けて来なかったのだ。

 ショックウェーブは任務達成を優先する性格上、これ以上光輝達の相手をする必要はないと結論を下したのだ。彼の目的は光輝達の勧誘などではない。狙いは地下にある。

 まるでお前達などいつでも殺せる、精々逃げ回れと言わんばかりのショックウェーブの様子に、光輝達のはらわたが煮えくりかえるが、必死に怒りを押し殺して通路を抜けた。気絶した鈴は龍太郎が抱えて、追跡されないよう暗殺者の天職を持つ遠藤浩介が魔法で匂いや魔力の残滓などを消しながら。

 だが、遠藤は自分達の痕跡を消すのに夢中で、ショックウェーブが放った2匹のインセクティコンが自分の背中に付着した事に一切気づいていなかった。更に皆、檜山がまだ生きている事に誰も気づいていなかった。

 ボロボロの体と目を覚まさない鈴に悔しさ半分、生き残った嬉しさ半分の気持ちで口数少なく逃げ続ける光輝達。だが、これらの見落としが更に取り返しのつかない事態を引き起こす事になるとは、まだ誰一人として気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいショックウェーブ‼︎折角追い詰めてたのに何逃してるんだい!!?」

 

 巻き添えを喰らわないよう安全地帯まで後退していたカトレアだったが、ショックウェーブが光輝達をあっさり逃したのを見て、文句を言いながら彼のもとに近づいた。配下の魔物達も、折角の獲物の殆どに逃げられてしまい、恨めしそうに唸り声を上げている。

 だが、ショックウェーブは表情を変えず冷静沈着に反論した。

 

「論理的に考えて、これ以上相手にする必要はないと判断したまでだ。予測通り奴等は戦力としての価値はゼロだ。捕まえる必要もない」

「確かにアンタの言った通り戦力にはならなそうだったけどねぇ、その場合は始末しろってあたしは命令されてるんだよ!」

「無駄な労力だ。我々が此処に来た目的は別にある。先を急ぐぞ」

 

 そう、カトレア達魔人族にとっては光輝達の勧誘もあったものの、彼女達とディセプティコンはある目的のためにこのオルクス大迷宮に訪れたのだ。ショックウェーブが優先する任務はそれだけだ。彼はそのままドリラーに乗ろうとしたが、カトレアは引き下がらなかった。

 

「待ちな、あたしは奴等を追わせてもらうよ。万が一地上まで逃げられて援軍でも呼ばれたら面倒だ。アンタも仲間なら協力しな!」

「好きにしろ。だが私は先に進ませてもらう。代わりに部下達を貸してやる」

 

 鬱陶しそうにそう告げるとショックウェーブは、通信でサウンドウェーブに座標を伝えると、何人か部下達を呼ぶよう告げた。直ぐにスペースブリッジが開かれて三体のディセプティコンが現れた。

 

「よ〜ショッキー!俺ら呼び出すなんて何の用だ〜い?」

「彼女を手伝え。対象の人間にはインセクティコンを潜ませておいた。見つけたら殺して構わん」

「了解〜。俺っちもコイツらも暫く欲求不満だったからね〜!」

 

 馴れ馴れしく話す一体のディセプティコン。残る2体もこれから殺戮を楽しめる事に心底嬉しそうに顔を歪ませた。

 一方近くでは、吹き飛ばされて土砂に埋もれながらも這い出した檜山が、息を殺して震え上がっていた。アーティファクトの西洋剣は乱戦のうちに破壊されてしまい、更には光輝達に置いてかれてしまったため、今や絶体絶命の窮地に陥った檜山は、目の前の敵達が早く立ち去るよう祈っていた。

 

「そこの人間。気づいていないと思ってたのか?」

「馬鹿なガキだねぇ。お前ら、捕まえな!」

 

 しかしそう上手くはいかなかった。ショックウェーブ達には既に気づかれており、カトレアの命令を受けたブルタールモドキ達に引き摺り出された。

 目の前には4体の巨人と、光輝ですら歯が立たなかった魔物の軍勢が立ち塞がっている。恐怖から目を逸らした檜山の目に、同じ小悪党組の悪友達の変わり果てた姿が映った。上下真っ二つにされた斎藤の死骸や盾にした中野の骨に、魔物達が食らい付いている。

 そしてふと、まだ生存者がいる事に気づいた。背骨と腰骨を折られて倒れ伏す近藤だ。

 

「だ…大介……助けて…」

 

 激痛に意識が朦朧となりながらも、親友がまだ近くにいる事に気づいた近藤は助けを求めた。だが次の瞬間、あの多足亀が近藤の身体に食らいつき、バリボリと骨が噛み砕かれる音と共に断末魔の叫びが響き渡った。

 

「ヒィィィッ⁉︎ま、待ってくれ!俺は天之河の馬鹿とは違う!降参する、いや降参します!アンタ達に従います!何でもしますから殺さないでください!お願いします!!!」

 

 近藤の最期を目の当たりにした檜山は再び、生き汚い本性を露わにした。必死に土下座しながら降伏宣言し、とにかく確実に生き残ころうとしたのだ。

 この卑劣漢はトータスに来た頃から常に、自分と香織だけは生き残りたいと考えていた。敵に寝返っても本気で自分の有用性を示せば重用してもらえる可能性は十分にあるし、そうなれば香織を手に入れることだって出来るかもしれない。もちろん、首輪をつけて自由意思を制限した状態で。檜山としては、別に香織に自由意思がなくても、とにかく自分の所有物に出来れば満足なのだ。

 恐怖で失禁して自分の周囲に小便の水溜りを作り、それでもなお土下座し続けて小便まみれになった檜山を、カトレアは心底汚いものでも見るかのように見下ろしていた。やがて彼女は、既にドリラーのコックピットに乗り込んだショックウェーブに振り返って尋ねた。

 

「どうする?とても使い物にはならなそうな感じだけどねぇ…」

「論理的に考えて、廃物利用すれば良い」

 

 廃物利用、という言葉にはらわたが煮えくり返る檜山だったが、首の皮一枚繋がった事に内心安堵した。しかし次の瞬間、ショックウェーブはとある薬品を詰めた弾丸を右腕の砲口に装填し、檜山に向けて発射した。弾丸は檜山に当たると破裂し、中の薬品が身体中に注がれた。

 

「ウギャアアアアアアアアア!!?」

 

 突如として全身を激しい激痛が襲い、檜山の悲鳴が階層中に響き渡った。徐々にその肉体が肥大・変化していくが、ショックウェーブはお構いなしだ。

 

「今から其奴の名前はホリブルシットだ。上手く使うといい」

 

 そう告げるとショックウェーブはドリラーに乗って更に地下深くへと潜っていった。

 

 

 

 

 




~用語集~
・科学参謀兼軍事作戦司令官ショックウェーブ
 『ダークサイド・ムーン』に登場したディセプティコン側のメインキャラ。一応設定上はエイリアンタンクに変形するが、劇中では前日談のアメコミでの戦いでTFコグを損傷したらしく終始ロボットモードのままだった。
 身長35フィート(約10.6m)とオプティマスやメガトロンを凌ぐ巨漢だが、基本的に冷静沈着で、同時に優秀な科学者でもある。右腕の粒子波動砲と左腕のブレードを武器とする。
 作者としては光輝達を襲う相手は最初から彼に決めていた。

・ドリラー
 ショックウェーブの相棒たる巨大なワーム型金属生命体。もとは鉱山などで使役される家畜だったが、ディセプティコンによって品種改良されて巨大化している。
 ちなみに全長はサッカー場の3倍とされていることから推定329.2m。ユニクロンを除けば、実写版トランスフォーマーに登場した金属生命体では最大の体躯を誇る。

※ちなみにこのコンビ、メガトロンを探して地球に来たのだが、着陸に失敗して「ツングースカ大爆発」を引き起こした事がアメコミで明かされている。第三作の前日譚となるゲーム版DOTMでは、その後旧ソ連の研究施設に冷凍保存されていたが、メガトロン達によって救出されたらしい(第三作のメガトロンのビークルモードはその施設でスキャンしたもの)。





次回はお休みしますので、続きは来月9日になります。
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