グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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楽しみにしてたのにまさかのゴジラVSコングの延期、泣きたくなりました(泣)
早く普通に映画を楽しめる日常に戻ってくれないかなぁ…。


モブは所詮モブ

 オルクス第迷宮の89層の最奥付近の部屋、そこにある四つの入口のうち、二つの入口の間にはもう一つ通路があり、奥には隠し部屋が存在している。入口は、上手くカモフラージュされて閉じられており、隠し部屋は十畳ほどの大きさだ。

 そこでは、敗走して来た光輝達が思い思いに身を投げ出し休息をとっていた。だがその表情は、全員満身創痍であるが故に、一様に暗く深く沈んだ表情で顔を俯かせる者ばかりだ。いつもなら光輝が己のカリスマを以て皆を鼓舞する筈だが、今は壁に背を預けたまま口を真一文字に結んで黙り込んでいた。

 そしてこういう時、いい意味で空気を読まず場を盛り上げてくれるクラス一のムードメイカーたる鈴は、血の気の引いた青白い顔で、やはり苦痛に眉根を寄せながら荒い息を吐いて眠ったままだった。香織の治療により、ドリラーの触手で大きく切り裂かれた腿の怪我は既に完治したが、重要な血管を切り裂かれた事で彼女は体から大量の血を失った。香織の治療が間に合ったおかげで一命は取り留めたが、流石に失った大量の血を直ぐさま補充することは出来ず、今は目が覚めるまで安静にするしかなかった。

 香織が、鈴にかかりきりになっているため、他の者はまだ治療を受けていない。自分達も早く治療してくれと言い出すのは小悪党組ぐらいだが、今やその4人は全滅した。その末路を目の当たりにした事で、他の者たちもそんな事を言う気力もなかった。

 薄暗い即席の空間に漂う重苦しい空気に、雫は生来の面倒見の良さからが何とか皆を鼓舞しなければと頭を捻らせた。だが、元来の彼女は寡黙な方なので鈴のように場を和ませるのは苦手だし、流石に死人が出ている今、彼女も心身共に限界が近づいていた。

 すると、即席通路の奥から野村健太郎と辻綾子が現れた。実は、この空間を作成し入口を周囲の壁と比べて違和感がないようにカモフラージュしたのは、土系統の魔法に高い適性を持つ「土術師」の野村なのだ。

しかし土術師ははっきり言って能力的には錬成師の下位互換であり、手持ち魔法陣で大雑把に壁に穴を開ける事は出来たが、ハジメのように周囲と比べて違和感のない壁を「造形」することは完全に領分外であり、一から魔法陣を構築しなければならなかった。辻は香織と同じ治療師として、野村に同行し怪我の治療をしていた。

 

「お疲れ様、野村君。これで少しは時間が稼げそうね」

「…だといいんだけど。もう、ここまで来たら回復するまで見つからない事を祈るしかないな。浩介の方は、あっちも祈るしかないか…」

 

 隠れ家の安全性が増したという話に、僅かに沈んだ空気が和らいだ気がして、雫は頬を綻ばせて野村を労い、対する野村も苦笑いしながら、今はここにいないもう一人の親友・遠藤の健闘を祈った。

 そう、今この場所には小悪党組だけでなく、遠藤もいなかった。遠藤は特に暗いわけでも口下手なわけでもなく、また存在を忘れられるわけでもない、誰とでも気さくに話せるごく普通の男子高校生なのだが、何故か極端に影が薄く、日本にいた頃から本人が全く意図しない神出鬼没さを発揮していた。

 遠藤本人は極めて不本意らしいのだが、今はそれを活かして単身、パーティーを離れてメルド達に事の次第を伝えに行ったのである。本来ならいくら異世界から召喚されたチートの一人でも、80層台を単独で走破するなど自殺行為だ。光輝達が少し余裕をもって攻略できたのも、15人という仲間と連携して来たからである。だが「影の薄さでは世界一ぃ!」と胸を張れそうな遠藤なら、隠密系の技能をフル活用して、魔物達に見つからずメルド達のいる70層に辿り着ける可能性があると考えて、光輝達は遠藤を送り出したのである。

 本当なら、光輝達も直ぐにもっと浅い階層まで撤退したかったのだが、如何せん、それをなすだけの余力がなかった。4人が死んで、鈴が戦闘不能、残るメンバーも満身創痍で弱体化している今、とても80層台を突破できるとは思えなかったのだ。

 もちろん、メルド達が救援に来られるとは思っていない。メルドを含め70層で拠点を築ける実力を持つのはたったの6人。彼等を中心にして、次ぐ実力をもつ騎士団員やギルドの高ランク冒険者達の助力を得て、安全マージンを考えなければ70層台後半くらいまでは行けるだろうが、それ以上は無理だ。仮にそこまで来てくれたとしても80層台は光輝達が自力で突破しなければならず、遠藤を一人行かせたのは救援を呼ぶためではなく、自分達の現状と魔人族が率いる魔物の情報を伝えるためなのだ。

 光輝達は確かに、聖教教会から魔人族が魔物を多数、それも洗脳など既存の方法ではなく明確な意志を持たせて使役するという話を聞いていたが、あれほど強力な魔物とは聞いていなかったし、驚異なのは質よりも量の筈だった。だが実際は数に加えて個体の強さも脅威となっており、更には魔物なのかロボットなのか分からない、正体不明の敵まで出現した。この情報は、何が何でも確実に伝えなければならないと光輝達は判断したのである。

 それから数十時間、光輝達は交代で仮眠を取りながら、少しずつ体と心を癒していった。しかし、誰一人として、ショックウェーブが放った2匹のインセクティコンのうち、1匹だけ遠藤から離れてこの場に留まっている事に気づいていなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、一人、撤退と魔人族の情報伝達を託された遠藤は、ただの一度も戦闘をせず全ての魔物をやり過ごしながらメルド達のいる70層を目指して着実に歩みを進めていた。80層台で魔物に気づかれれば、一対一ならどうにかなるが複数体ならアウトだ。そのためできる限り急ぎつつ、それでも細心の注意を払って進んでいた。そのためか、背中に付着していた1匹のインセクティコンには全く気づいていなかった。

 

「急がないと…」

 

 遠藤は、自分が課せられた役割を理解している。そして光輝達が、情報の伝達以外にもそのまま生き延びろという意味合いを含めて送り出してくれたことも察していた。親友である永山と野村の「戻ってくるなよ」という思いは言葉に出さずとも伝わっていたのだ。

 だがそれでも、役目を果たしたあと、遠藤は光輝達のもとに戻るつもりだった。なんと言われようと、このまま自分だけ安全圏に逃げて、のうのうとしていることなど出来なかったのだ。

 遠藤は、悩みの種である影の薄さが、今は最大の武器になっているのだと自分に言い聞かせつつ、頭に叩き込んである帰還ルートを辿った。そして遂に70層の、メルド達が待つ転移陣のある部屋に辿り着いた。

 

「団長!俺です!気づいてください!大変なんです!」

「うおっ⁉︎何だ⁉︎敵襲かっ⁉︎」

「だから、俺ですって!マジそういうの勘弁して下さい!」

「えっ?って、浩介じゃないか。驚かせるなよ。ていうか他の連中はどうした?それに、何かお前ボロボロじゃないか?」

「ですから、大変なんです!」

 

 だが到着してもメルド達は気付かず、遠藤が声をかければ敵襲かと勘違いされ、そんなコントじみたことを繰り返して漸く気づいてもらえた。しかし戻ってくるには少々予定より早く、満身創痍な状態の遠藤がたった一人で戻って来たことに、直ぐさま何かがあったと察したメルド達は険しい表情となった。

 そして遠藤から告げられた事の次第に、最初は訝しげな表情をしていたメルド達だったが、遠藤の話が進むにつれて表情が険しさを増していった。そしてたった一人逃がされたことに、話しながら次第に心を締め付けられたのか涙をこぼす遠藤の頭を撫で回した。

 

「泣くな、浩介。お前は、お前にしか出来ないことをやり遂げんたんだ。他の誰が、そんな短時間で一度も戦わずに20層も走破できる?お前はよくやった。よく伝えてくれた」

「団長…。俺、俺はこのまま戻ります。あいつらは自力で戻るって、今度は負けないっていってたけど、あのザ○モドキやミミズの化け物に檜山達がまるで虫でも潰すみたいに殺されて、逃げるので精一杯だったんだ。皆かなり消耗してるし、傷が治っても今度襲われたら…。クソったれな魔物だってあれで全部かはわからないし…。だから、先に地上に戻って、このことを伝えて下さい」

 

 泣いたことを恥じるように、袖で目元を擦った遠藤は決然とした表情でメルドに告げた。対するメルドは悔しそうに唇を噛むと、他の団員共々、自分の持つ最高級の回復薬全ての入った道具袋を遠藤に手渡した。

 

「すまないな浩介。一緒に助けに行きたいのは山々だが、私達じゃあ、足でまといにしかならない…」

「あ、いや、気にしないで下さいよ。大分、薬系も少なくなってるだろうし、これだけでも助かります」

 

 そう言って、回復薬の類が入った道具袋を振りながら苦笑いする遠藤だったが、メルド団長の表情は、むしろ険しさを増した。それは、助けに行けない悔しさだけでなく、苦渋の滲む表情だった。

 

「…浩介。私は今から、最低なことを言う。軽蔑してくれて構わないし、それが当然だ。だが、どうか聞いて欲しい」

「えっ? いきなり何を…」

「…何があっても、()()()()()連れ帰ってくれ」

「え?」

 

 その言葉に、遠藤がキョトンとなる。

 

「浩介、今のお前達ですら窮地に追い込まれる程敵が強力になっているというのなら、勇者を失った人間族に未来はない…。もちろん、生き残ったお前達全員が切り抜けて再会できると信じているし、そうあって欲しい…。だがそれでも私は、ハイリヒ王国騎士団団長として言わねばならない。万一の時は、光輝のみを生かしてくれ」

「……」

 

 漸くメルドの意図を察した遠藤が唖然とした表情をする。それはより重要な何かを生かすための犠牲の発想、上に立つ者がやらなければならない「選択」であり、遠藤にできるものではなかった。故にその表情はひどく暗いものになっていった。

 

「…俺達は、天之河程価値がないから、おまけ扱いですか?」

「断じて違う。だが4人も戦死し、残った面々も窮地に陥っている以上、光輝という希望までも失うわけにはいかんのだ…。せめて今の言葉を雫と龍太郎には伝えて欲しい」

「……」

 

 そう言われて暗く澱んだ気持ちになる遠藤。メルド達と過ごした時間は長く濃密だ。右も左もわからない頃から常に傍らにいて、ずっと共に戦ってきたのだ。特に前線に出ている遠藤達からすればメルドは兄貴的な存在で、この世界の者では誰よりも信頼している人物だった。だからこそ自分達を切り捨て光輝を優先するような言葉に、遠藤は裏切られたような気持ちになったのだが、それでも頭の片隅ではそれが必要なことだと理解もしており、衝動のまま罵ることは出来なかった。遠藤は、暗い表情のままコクリと頷くだけで踵を返した。

 が、その瞬間…

 

「団長、浩介ッ⁉︎危ない!!!」

「えっ!?」

 

 突然、騎士の一人・アランが遠藤とメルドを弾き飛ばした。次の瞬間、チュドォッ!という音を上げて何かがアランに直撃した。勇敢な騎士は、一瞬にして全身を焼き尽くされ、骨と鎧がカランコロンと地面に転がり落ちた。弾き飛ばされて地面に尻餅を付いた遠藤の顔が、みるみる青ざめていく。その光景は、90層で見た中野の最期と同じだったのだ。

 

「そ、そんな。もう追いついて…」

 

 その言葉がまるで合図となったかのように、三つの影が現れた。しかしその正体はショックウェーブとドリラーでも、カトレア配下の魔物達でもなかった。それは明らかにトータスのものではなく、遠藤の故郷である地球で見られたものだ。

 まず一つ目は、カーキ色のカラーリングに6輪の車輪、そして前方に巨大なクローを装備した地雷除去車・バッファローだ。ただしそのクローは、実際のバッファローよりも遥かに巨大で、まるで怪物の腕のようだ。

 次に二つ目は非常に錆びついたフォルクスワーゲン・タイプ2で、車体の横から古びた外見とは裏腹にSFチックなブラスターが展開され、今発砲されたのか硝煙を放っている。これがアランを殺した犯人で間違いないだろう。

 最後に三つ目は、これまた2台より小型だが、アクション映画に出てきそうな銀色のオフロードバイクだ。バイク好きの相川なら、これがコンフェデレート・モーターサイクルズのP51コンバットファイターだと気づいただろう。しかし乗っているのは人間ではなく、遠藤達を追い詰めたあの魔人族・カトレアだ。その服装故に、今の彼女は地球人のバイク乗りにも見えなくないが、その姿を確認した遠藤にそんな事を考える余裕などなかった。

 

「全く、あんた達が味方でホント良かったよ。勇者君達の居場所はもう分かってるし、唯一逃げたコイツにも簡単に追いつけたんだからさ」

「と〜ぜんさカ〜トちゃん、俺らがこんな子猿どもに遅れを取るわけね〜じゃん」

 

 髪をかきあげながら感心したようにそう言ってカトレアがコンバットファイターから降りると、突如として聞いた事のない男の声がした。彼女を見て臨戦態勢となるメルド達も、その声にギョッとなる。

 そんなメルド達などお構いなしに、3台はギゴガゴゴと音を立てて変形を始めた。バッファローは背中にクローが変形した触手を備えた身長7m程の巨人に、タイプ2は四つの瞳にしゃくれた顎・腕にアクセサリーのようにイルミネーション用のLEDライトを巻きつけた身長5m程の巨人に、そしてコンバットファイターは身長3m程だが全身にナイフを装備したモヒカン風の頭部のロボットへと姿を変えた。

 それぞれ、破壊兵ボーンクラッシャー、強盗兵ドレッドボット、特攻兵モホークだ!3体とも、ディセプティコンの中でも屈指の凶暴性を誇る、残忍な戦士だ。

 彼ら3体とカトレアは、ショックウェーブが遠藤に張り付かせたインセクティコン2体の信号を追い、配下の魔物達より速く進めるビークルモードで追跡した。して1体が隠れている光輝達に張り付いたのを知ると、口封じのために転移陣へと向かった遠藤へ一直線にやって来たのだ。光輝達は居場所が分かっている以上、後で殺せば良いと判断して。

 ドレッドボットは、残忍そうに顔を歪ませながら愛用のブラスターを構えると、足下のカトレアに話しかけた。

 

「コイツらは俺らに殺らせろ。ショックウェーブ様からの許可は得たし、久々に人間を殺したくてウズウズしてるんだ」

「ふん、好きにしな」

 

 その会話を聞いていたメルド達は王国の最精鋭として相応しい迅速な陣組みで身構えると、未だ呆気に取られて尻餅をついたままの遠藤に叫んだ。

 

「円陣を組め!転移陣を死守する!浩介ッ!いつまで無様を晒している気だ!さっさと立ち上がって地上へ逃げろ!」

「えっ⁉︎」

 

 その言葉に思わず疑問の声を上げる遠藤。逃げるなら一緒に逃げればいいし、どうせこの場を離脱するなら地上ではなく光輝達のもとへ戻ってメルドの言葉を伝える役目があると思ったからだ。

 

「ボサっとするな!コイツらの事を地上に伝えろ!」

「で、でも、団長達は…」

「我らはここを死地とする!浩介!向こう側で転移陣を壊せ!なるべく時間は稼いでやる!」

「そ、そんな…」

 

 メルドの考えは明確だ。地上へ逃げるにしても誰かが僅かでも時間を稼がねば、直ぐに敵達も転移して追っ手を撒く方法がなくなってしまい、追いつかれて殺されるだけだ。なので一人を逃がして、残り全員で時間稼ぎをするのがベストなのだ。時間を稼げれば、対となる30層の転移陣を一部破壊することで、完全に追っ手を撒ける。転移陣は、直接地面に掘り込んであるタイプなので「錬成」で簡単に修復できる。逃げ切って、地上の駐屯部隊に事の顛末を伝えた後、再び、光輝達が使えるように修復すればいい。

 そして、その逃げる一人に選ばれたのが遠藤なのだ。遠藤は、先程、光輝以外の自分達を切り捨てるような発言をしたメルドが、今度は自分達を犠牲にして自分一人を逃がそうとしていることに戸惑い、それ故に行動を起こせずにいた。見かねたメルドは、心根と願いを込めた雄叫びを上げた。

 

「無力ですまない!助けてやれなくてすまない!選ぶことしか出来なくてすまない!浩介!不甲斐ない私だが最後の願いだ!聞いてくれ!生きろぉ!」

 

 兄貴のように慕った男の言葉に、戸惑っていた遠藤は理解した。メルドが本当は、遠藤達の誰にも死んで欲しくないと思っていることを。誰かを犠牲にして誰かを生かすなら、自分達が犠牲となり、光輝に限らず生徒達全員を生かしたいと思っていたことを。先程告げた「選択」が、どれだけ苦渋に満ちたものだったかを。

 遠藤は、グッと唇を噛むと全力で踵を返し転移陣へと向かった。ここで、メルド思いと覚悟に応えられなければ男ではないと思ったからだ。

 

「いい台詞だ、感動的だな。だが無意味だ!」

「「「「アイエエエッ⁉︎」」」」

 

 そうボーンクラッシャーが嘲笑うように呟きながら背中のクローを伸ばし、まるでトングで掴むかのように容易くメルド以外の残る4人の騎士を捕まえた。そのまま4人を自らの足下に引き摺り下ろすと、彼はその巨大な剛腕を振り下ろして何度も殴りつけた。

 グシャリバキリと骨が砕け肉の潰れる嫌な音を聞いて、遠藤は噛み切るほど唇を強く噛み締めながらも、転移陣へと駆け抜ける。

 

「走れ浩介!走れぇ!!!」

「おーおー泣けるねぇ〜。けど無駄だよ〜ん!」

「ぐあっ⁉︎」

 

 メルドはそう叫びながら剣を振りかぶってモホークに飛びかかった。だがモホークは腕に装備したナイフの一本をかまえると、そのままメルドの剣を握った右腕を切り落とした。

 メルドの苦悶の叫びが響くと同時に、遠藤が転移陣を起動し終え、その姿を消した。しかしそれと同時にドレッドボットが一瞬でその場に辿り着くと、同じく転移陣の光と共に消えた。

 

「くっ、一体、送られてしまったか…。浩介、死ぬなよ…」

「いやいや死んじゃうよ〜。ドレちゃん俺らの中でも結構残忍だしねぇ〜」

 

 片腕を切り落とされその場に崩れ落ちたメルドの呟きは、切り落とされた彼の右腕を掴んだモホークの嘲笑にかき消された。それと同時に、メルドは激痛から意識を失ってしまった。

 後方では、ボーンクラッシャーが拳を返り血で真っ赤に染めながらも、未だに足下の騎士達を殴り続けていた。4人とも最早、完全に原型を留めないレベルまでミンチにされており、後ろで控えていたカトレアも流石にドン引きしていた。

 こうして70層の部屋に再び静寂が戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあああー!」

 

 そんな悲鳴とも雄叫びとも付かない叫び声を上げながら30層の転移陣から飛び出した遠藤は、直ぐさまショートソードを振りかぶり、眼下の魔法陣の破壊を試みた。

 

「な、何だ⁉︎ってお前!何をする気だ!」

「やめろ!」

「取り押さえろ!」

 

 転移陣から現れた黒装束の少年が、いきなり雄叫びを上げながら手に持つ剣で魔法陣を傷付け始めたことに、周囲の騎士達は一瞬呆然となるも、直ぐに怒号を上げながら遠藤に飛びかかりその破壊活動を妨害する。

 彼等は実力不足で30層での警備が限界故に、30層側の転移陣を保護する役目をおったメルドの部下達だ。一撃で魔法陣を破壊できなかった遠藤が、二撃、三撃と加えあと一歩で陣の一部を破壊できるというところで、辛くも魔法陣破壊を阻止する事ができた。

 

「は、放せ!早く、壊さないと!奴等が!放せ!」

「なっ、君は勇者一行の⁉︎なぜ、君が…」

 

 狂乱とも言える行為を行った人物が、よく見知った勇者の仲間の一人と分かると、驚愕の声を漏らしながら思わず手を緩める団員達。その隙に再度、ショートソードを振りかぶって魔法陣の一部を破壊しようと遠藤だったが、一歩遅かった。

 

「Hello, you spawn of a glitch!」

 

 魔法陣が再び輝き起動した次の瞬間、ブラスターを構えたドレッドボットが現れ、遠藤達に襲い掛かった。

 

「くそっ!」

「あぎゃっ!」

 

 遠藤は咄嗟にその場を飛び退いたが、事態が飲み込めない団員の一人は回避などできるはずもなく無防備なままドレッドボットに撃たれ、アランの二の舞となった。いきなり同僚が骨だけにされてしまった事に、騎士達は動揺を露わにするが、遠藤は必死さと焦燥の滲む声音で叫んだ。

 

「コイツは魔人族の仲間だ!魔法陣を破壊しないと、他の連中がどんどん出てくるぞ!」

 

 その絶叫とも言うべき遠藤の声に、ハッと我を取り戻す団員達だったが、その時には更に一人が射殺されていた。30層の転移陣の警備をしている団員は全部で7名、既に2人も殺られてしまった。遠藤はその事実に歯噛みしながら、「暗殺者」の技能「壁走」を利用して天井に駆け上がりながら頭上から魔法陣の破壊を狙った。

 驚いた事に、ドレッドボットはそれに気づいていながらも一切迎撃しようとはしなかった。彼は勝手にやっとけと言わんばかりに、動揺する団員達の抹殺を楽しんでいた。

 そのうちに遠藤は渾身の力をもってショートソードを魔法陣に突き刺し、魔法陣を破壊した。転移の際に使われた魔力残滓が霧散し、パァン!という澄んだ音が響き渡った。

 

「お〜お〜、無駄な努力ご苦労さん」

 

 転移陣の破壊に成功し、これ以上の追っ手はないと思わず安堵の吐息を漏らす遠藤だったが、その声を聞いてハッとなり振り向いた。

 そこには、不敵な笑みを浮かべたドレッドボット一人しかいなかった。周囲には彼に撃たれて骨だけにされた騎士達の亡骸が転がっていた。結局、30層の警備をしていた騎士達は皆殺しにされてしまったのだ。

 

「お前ッ!よくも皆を…!」

「あ?やんのか、猿が」

 

 仲間と引き離されたこと、メルド達を置き去りにさせられたこと、知り合いの団員達を殺されたこと、その他に様々な怨嗟を込めた声を上げながらドレッドボットを睨みつける遠藤。だが、頭蓋骨の一つをグシャリと踏み潰したドレッドボットの殺気を浴びて、「うっ…」とたじろいてしまう。

 

「ククク、逃げたきゃ逃げな。さっさと行け」

「な、何⁉︎」

「お前みてぇな虫けらなんぞ何時でも殺せる。地上で仲間の猿共に伝えな。お前らの時代は終わりだってな」

 

 ドレッドボットの予想外の言葉に、キョトンとなる遠藤。命拾いしたと分かっても、その表情は喜びどころかむしろ泣きそうなほど弱々しかった。何度も「ちくしょう!」と叫びながら涙を流すと、最後の抵抗と言わんばかりにドレッドボットをキッと睨みつけ、おもむろに踵を返して地上へと急いだ。その顔は幽鬼のように青白く、目は虚ろで覇気がなかった。

 「また自分だけ生かされた」という思いに加え、敵にとって自分は何時でも殺せる虫けら程度にしか見られていない事実に、遠藤の心は重く冷たい鎖で締め付けられた。しかし今はただ、託された役割だけを支えに機械的に体を動かして、ひたすら地上を目指すしかなかった。こんな時でも背中に張り付いたまま無事だったインセクティコンに気付かぬまま…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜あ、地上までのルートを把握するためとは言え、あのガキもぶっ殺したかったなぁ〜」

 

 遠藤が立ち去った後、ドレッドボットは呑気にそう呟いた。実は、遠藤を逃したのは、彼に張り付かせたインセクティコンを介して地上までのルートを把握するためだったのだ。彼は直ぐにサウンドウェーブに通信を繋いだ。

 

「ドレッドボットよりサウンドウェーブ様、応答願います」

「こちらサウンドウェーブ、何だ」

「命令通り人間1匹を地上まで逃しました。例の新兵器どもの転送をお願いします」

「ご苦労、今直ぐ送る」

 

 通信が終わると、30層に忽ちスペースブリッジが開いた。そこから出て来たのは、ディセプティコンでも魔人族でもない2頭の生き物だった。しかしその大きさはドリラーにこそ劣るが、カトレア配下の魔物達より遥かに巨大だ。

 

「ククク、行くぞお前ら。狩りの始まりだ」

 

 ドレッドボットはニタァと歪んだ笑みを浮かべると、そのうちの1頭の背に飛び乗った。彼らが目指すは地上、ホルアドの町だ。遠藤に張り付けたインセクティコンの後を追跡すればそれでいい。

 

「ぎ〜っちょんぎ〜っちょん!」

「チャクバライ〜!」

 

 ドレッドボットに率いられた2頭の怪物は、意味不明かつ不気味な鳴き声を上げながら、地上目指して駆け出した。

 ホルアドに今、破滅の危機が迫る。

 

 

 

 

 




〜用語集〜
・破壊兵ボーンクラッシャー
 実写版第1作目に登場した、みんな大好きボンクラ。地雷除去車バッファローに変形する。トレーディングカード『ヒートスクランブル』での役職は「装甲鬼」だが、本作ではG1に合わせて「破壊兵」とした。
 兎角凶暴な性格で、実際の車両より大きなクローで目につく者全てを破壊する。
 ちなみに劇中彼の台詞は『仮面ライダーディケイド』における仮面ライダーグレイブの名言が元ネタ。

・特攻兵モホーク
 第5作目『最後の騎士王』にて登場したモヒカン頭のディセプティコン。バイクメーカーとしては新参のコンフェデレート・モーターサイクルズの、P51コンバットファイターに変形する。武器は腕に無数に装備したナイフ。
 劇中ではメガトロンをメガちゃん呼ばわりするなど中々個性的なキャラだったが故に、目立った活躍もなく直ぐに退場したのは残念だった。
 ちなみに劇中ではホログラムでライダーを映し出して擬態してたが、本作ではカトレアがライダースーツっぽい服装って事で組ませてみた。

・強盗兵ドレッドボット
 同じく『最後の騎士王』に登場したディセプティコン。錆びついたフォルクスワーゲン・タイプ2に変形し、ロボットモードではイルミネーション用のLEDライトをアクセサリー代わりにしている。
 サイバトロン星由来の遺物を探して博物館を襲撃してたなら納得するが、ただ殺戮を楽しみたいがために銀行強盗を繰り返してた変な奴。
 因みに彼とモホークの役職は、『最後の騎士王』公開時の映画秘宝のキャラ紹介の二つ名を作者なりに変えてみたオリジナルのもの。

・メルドの発言
 一応原作でも最悪光輝以外を切り捨てる発言をしたメルドさん。本作では死人が既に出ている事から、原作以上に危機感を持たせようと思いあえて省かなかった。
 




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