グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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お久しぶりです。お待たせして大変申し訳ございませんでした。

この約二ヶ月間、一度は本作の打ち切りすら考えてしまう程追い詰められていましたが、多くの読者の方々から励ましの言葉を頂き、何とか踏みとどまると同時に、大変嬉しかったです。おかげで家庭内トラブルも一先ず解決する事が出来ました。

また、待ち望んでいた『ゴジラVSコング』を無事見る事が出来たり、実写最新作『ビースト覚醒』や『ジュラシック・ワールド:ドミニオン』など期待の新作の情報もあり、良いストレス解消となりました。

ちなみに本作での「アイエエエ」などの表現は、私の好きな『ニンジャスレイヤー』へのオマージュです。前に悪質なユーザーから「気に食わないから変えろ」と言われましたが、元々はアメコミの表現を日本語にしたもので、トランスフォーマーのアメコミでも使われています。ご了承ください。

最後に、今回の話はストレス解消ってわけじゃないんですが、かなりのアンチや、残酷・胸糞描写があります。ご注意下さい。







愚か者どもが夢の跡

「うっ…。し、知らない天井だぁ~」

「「鈴(ちゃん)!」」

 

 一方、地上での騒動など梅雨知らず、オルクス第迷宮の89層で隠れながらやり過ごしていた勇者一行。その内の一人、ドリラーに襲われた際の怪我が原因で意識を失っていた鈴が、ようやく意識を取り戻した。

 瀕死の状態から意識を取り戻したクラス一のムードメイカーに、今の今まで沈んだ表情だったクラスメイト達も口元に笑みを浮かべたが、鈴の顔色は悪かった。疲労に加え出血量が多かったため、青白い顔で目の下にも薄らクマが出来ていた。それに彼女自身、斎藤と近藤の末路を目にしていたので、必死に皆を励まそうと見せる笑みも少々痛々しかった。

 

「何とか逃げ切ったみたいだね?みんな無事…ってわけじゃないか…。遠藤君、それに中野君や檜山君もいないけど、まさか彼らも…?」

「いや。遠藤だけ、先に逃がしたんだ。あいつの隠形なら一人でも階層を突破出来ると思って…。中野と檜山は、残念だが…」

「そっか…」

 

 戦闘中に意識を喪失していたので、中野と檜山が同じく戦死した事と、遠藤が救援を呼ぶために先に逃げた事を知らない鈴に、光輝達はそれを教えると共に現状の説明も行った。

 事態を把握した鈴は疲弊しつつも、いつも通りムードメーカーとして場の空気を和ませようとした。しかし仲間が四人も戦死し、彼女自身死にかけた事もあり、どんな言葉をかけて良いのか分からなかった。

 もう二度と生きて地上に戻れないんじゃないか。その場にいる殆どの者達の脳裏にそんな考えがよぎり、体力こそ回復してきたものの、心の余裕を中々取り戻す事は出来なかった。

 

「…こんな事になるならあの時、灘や愛ちゃん先生の忠告に、ちゃんと耳を傾けておくべきだったな。今更後悔しても遅いが…」

 

 そんな状況に追い討ちをかけるかのように、永山が自嘲気味に呟いた。それを聞き、野村や辻、吉野も同じ気持ちなのか、顔を俯ける。

 

「やめないか永山。もう死んだ人間や、今いない人間の事をどうこう言っても…」

「…どの面下げてそんな事が言えるんだ?こんな状況を招いておきながら…」

 

 思慮深い永山らしくない、場の空気を更に悪くするような発言に光輝が諌めようと口を出すが、火に油を注いだように永山は冷めた目で光輝を睨みつけた。

 

「てめぇ…!誰のおかげで逃げられたと思ってんだ⁉︎光輝が道を切り開いたからだろうが!」

「腰巾着も大概にしろよ坂上。そもそもそうなったのは、天之河が後先考えずに挑発に乗ったからだろ…。あの時、一先ず魔人族の提案を呑むフリをしておけば、隙を伺う事もできただろうに…」

「重悟の言う通りだよ。結果として4人死んで、谷口も死にかけて、浩介はたった一人で危険な役目を背負うことになったんだぞ?もしあいつにまで何かあったら、どうすんだよ…!」

 

 そんな態度に今度は龍太郎が切れ始め、立ち上がって永山の胸倉を掴んだ。だが永山も龍太郎を睨みつけながら反論し、親友の野村も立ち上がって追従する。彼らとしても、光輝の軽率さが招いた現状に、流石に我慢できなかったのだろう。

 

「龍太郎、俺はいいから…。永山、野村、さっきの責任は取る。今度こそ負けはしない!もう魔物の特性は把握しているし、不意打ちは通用しない。今度は絶対に勝てる!」

 

 握りこぶしを握ってそう力説する光輝だったが、吉野が暗い眼差しでポツリとこぼした。

 

「…でも、天之河君だって見たでしょ?あのロボットみたいな連中の強さを…」

「そ、それは…。こ、今度は大丈夫だ!今度は最初から『神威』を女魔人族とロボットモドキ共に撃ち込む。みんなは、それを援護してくれれば…」

「あれだけ狡猾な奴等だぞ?長い詠唱が完了する前に仕掛けてくるに決まってる。それに、あれで敵が全部とは思えん…」

「てめぇら、黙って聞いてればいい加減にしろよ!」

「坂上君こそいい加減にしてよ!そこまで言うなら、貴方がどうにかしてくれるって言うの⁉︎」

「みんな、落ち着きなさい!何を言ったところで、生き残るには光輝に賭けるしかないのよ!奴等に私達を見逃すつもりがないなら、光輝の『限界突破』の制限時間内に何としてでも倒すしかない。分かっているでしょ?」

 

 光輝が大丈夫だと言っても、不信感が芽生えた永山組は疑わしい眼差しを向けたまま口々に文句を言う。ここで光輝に責任やら絶対に勝てる保証などを求めても仕方ないのは彼等だって分かっているのだが、再び仲間達の死を目の当たりにした事実と、敵の有り得ない強さと数に平静さを保てなかったのだ。

 沸点の低い龍太郎が喧嘩腰で永山組に反論するのも、口論をヒートアップさせている要因となっていた。次第に険悪なムードが漂い始め、しまいには龍太郎は光輝の制止も無視して永山達に向けて拳を構える始末で、雫が間に入って必死に落ち着くように説得するも、やはり効果は薄かった。香織がいい加減、一度全員を拘束する必要があるかもしれないと、密かに拘束系魔法の準備をし始めた時だ。

 

ドォガアアアン!!!

 

パァァァァァン!!!

 

「きゃぁああ!!?」

「真央!!?」

 

 凄まじい勢いで隠し部屋と外を隔てる壁が粉微塵に粉砕された。衝撃によって吹き飛んできた壁の残骸が弾丸となって隠し部屋へと飛来し、直線上にいた吉野に直撃した。思わず尻餅をつく彼女だったが、そこから更に蛇の顎のような何かに捕まり、悲鳴を上げながら連れ去られた。

 辻が吉野の名を叫び、唖然としていた光輝達が急いで戦闘態勢に入ろうとするも、今度は毒々しい緑色の煙が立ち込めて、隠し部屋全体に蔓延した。明らかに毒としか思えないその煙に、香織と鈴、辻が急いで対処しようとするも、三人が魔法を詠唱する前に、その場にいた全員の身体が痺れて動けなり、その場に膝をついた。

 

「くっ、今度は毒ガス…⁉︎」

「ちくしょう…!なんで見つかったんだよ…⁉︎」

 

 毒ガスという予想外の攻撃に、雫と龍太郎が苦しそうに悶えながら悪態を吐いた。やがて煙が晴れ、それと同時に襲撃者の正体が明らかになった。苦しみ悶えながらも、また新手の魔物かと警戒を露わにする光輝達だったが、明らかとなったその正体に誰もが「えっ…」と絶句した。

 

「ひ、檜山…?」

 

 そう、光輝達の前に現れたのは、第90階層で戦死したと思われていた、檜山大介だった。だがその姿は、光輝達の見慣れた檜山とは大きくかけ離れていた。

 まず顔は檜山本人だったものの、その目は白く濁って虚ろになっており、頭髪は大部分が抜け落ちて中年オヤジのように禿げ上がっていた。口からは涎を滴らせると共に、あの毒ガスと同じ色の吐息がハァハァと吐き出されている。体格に至っても身長は見た限りでも5mにまで達しており、肋骨が浮き出る程痩せ細っているのに腹部は膨らんでいるその姿は、まさに餓鬼そのものだ。

 そして何よりパンツすら履かずに露わになった股間には、男の象徴の代わりに、蛇ともミミズとも形容すべきグロテスクな触手が生えていた。ワラスボの口のようになったその先端からは、先程捕まった吉野真央の下半身がピクンピクンと痙攣しながらはみ出している。まるで蛇が獲物を飲み込んでいるかのようだ。

 これこそがショックウェーブに改造された、小悪党組の檜山大介の成れの果て・汚濁獣ホリブルシットである。

 

「ぞうだよぉ、檜山大介だよぉ。お前らぁ、よぐもオデを見捨でで逃げだなぁ〜」

「ま、待ってくれ檜山!あ、あの時は非常事態だったし、まさか君が生きてるとは思わなかったんだ…!」

 

 毒ガスそのものであるその吐息を吐き散らしながら、ホリブルシットは呂律の回らない口調で、置き去りにされた事への恨み言を吐いた。そう言われた光輝は、全身を襲う激しい痺れに耐えながらも弁明しようとするが、その言い訳は更に相手を怒らせただけだった。

 

「ぢぐじょぉぉう!何奴も此奴も、折角オデがあの日、あの忌々じい灘の野郎をぶっ殺じでやっだのに、ぞの恩を仇で返じやがっでぇ〜!」

「「「「「「「ッ!!?」」」」」」」

 

 怒り狂いながらあの誤爆事件の真実を暴露したホリブルシットに、その場にいた殆どの人間が絶句する。事故だと思っていた、いや、思うようにしていたあの悲劇の真相が明らかにされたからだ。

 

「やっぱり、あの日灘君を突き落としたのはアンタだったのね…!」

「ぞうだよぉ〜、一緒にキモヲタ南雲まで道連れにじでぐれだのは最高だっだぜぇ〜!何奴も此奴もあの二人が死んでぐれで清々じでだじゃねぇか〜。ごんな事ならもっど早ぐ暴露じどぎゃ良がっだぜぇ〜」

「は?」

 

 全身を毒に蝕まれながらも、雫はホリブルシットを睨みつける。その怒りはあの日二人の命を奪った目の前の卑劣漢だけではなく、今までそんな奴の近くにいながら気づきもしなかった自分自身にも向けられていた。

 そんな彼女を嘲笑うように、ホリブルシットは悪びれずにハジメの事まで愚弄する発言をする。その一言に香織は、自分の回復魔法でも癒えない毒に苦しんでいるのも忘れ、光の消えた瞳で睨みつけた。

 

「げどごんな姿にされぢまっだ以上、もう何もがもどうでも良いぜぇ!お前ら全員、奴等のもどに送っでやるぅ〜!!!」

 

 怒りを込めてそう叫ぶホリブルシット。それと同時に股間の触手の顎が閉じ、はみ出ていた吉野の膝から下がブチリと切断されて地面に転がった。もう殆ど飲み込まれていた彼女の亡骸は、そのまま触手を通って膨れ上がった腹部へと進んでいった。

 吉野の無残な最期に、毒で動けない光輝達が戦慄する中、悪夢はまだ終わらなかった。

 

「おいコラ、ホリブルシット。奴隷の分際で勝手に突っ走ってんじゃね〜よ」

「ヒィッ⁉︎ず、ずみまぜんモホーク様…!」

「まぁ良いさモホーク。おい!毒で動けなくしたんなら、とっとと全員引き摺り出しな!」

「分がりまじだ、カトレア様〜!」

 

 隠し部屋の外から、聞き慣れない男の声が響き、ホリブルシットはビクリ!と身体を震わせた。何者だと警戒する光輝達の耳に、この場では聞きたくなかった女の声が響き渡る。

 その命令を聞いたホリブルシットは、股間の触手をタコの足のように伸ばして、倒れ伏す光輝達9人を絡め取ると、隠し部屋から外にある大きな正八角形の部屋に引き摺り出した。

 引き摺り出された光輝達の眼の前に現れたのは、大量の魔物に周囲を固めたながら、その奥で白鴉を肩に乗せて冷めた眼で佇んでいるカトレアであった。但し今の彼女は、このトータスには不釣り合いな防毒マスクで顔を覆っている。恐らく、ホリブルシットの毒への対応だろう。

 そして彼女達の傍には、先程自分達を襲ったあのサイクロプス擬きとはまた異なる2体の金属の巨人がいた。そう、モホークとボーンクラッシャーだ。その姿を見て、直ぐに彼等がショックウェーブの仲間だと気づいた光輝達は戦慄する。

 

「おや〜、その面は『ど〜して気づかれちゃったの?』って面だね〜?答えは簡単、俺らの上官が発信機代わりにコイツを仕込ませておいたからだよ〜ん」

 

 あれ程細心の注意を払っていたのに何故気づかれたのか。光輝達の共通の疑問に対して、モホークが嘲笑いながら答えを明かすと、一匹のインセクティコンが光輝達の中から飛び出して、彼の掌にとまった。

 あまりにも小さ過ぎたとは言え、敵が近くにいた事に全く気づけなかったことに、誰もが苦虫を噛み潰したような表情となる。だが、モホークは追い討ちをかけるように更なる事実を告げていく。

 

「ちなみに〜、このインセクティコンちゃんはもう一匹、先に逃げたお前らの仲間にも引っ付いてるからね〜。今頃は俺らの仲間がその信号を追って、地上を攻め滅ぼしてる筈だから、助けは来ないと思うよ〜」

 

 遠藤にも発信機がつけられ、地上にも敵の魔の手が及んだ。完全に助けを期待できない事実に、ホリブルシットの毒ガスに苦しみ悶える光輝達の顔がさらに青褪めていく。

 そんな無様な姿を、モホークとボーンクラッシャーは心底愉快そうに眺めている。カトレアはマスクで顔を覆いながらも、同盟者達のえげつなさにドン引きした表情となっており、彼女の配下の魔物達は、早く獲物にありつきたくて舌舐めずりをしている。

 

「そ・し・て・最後に、俺達から弱くて無様なお前らに最高のプレゼントがあるよ〜。ボンちゃ〜ん、見せてやんな〜!」

「ああ、よ〜く見ろよ猿ども。()()な〜んだ?」

 

 そう言いながらボーンクラッシャーは、巨大な指で摘んでいた何かを光輝達に見せつけた。最初は訝しげな表情となる光輝達だが、その正体が分かった瞬間誰もが凍りついた。

 それは引き千切られた人間の右腕だった。腕に装着している籠手や僅かに残された衣服の切れ端からして、間違いなくメルド・ロギンスの腕だ。

 

「おま、お前ぇ!メ、メルドさんに何をしたぁ!!?」

「見れば分かるだろ猿が。地獄に堕ちたのさ」

 

 毒に苦しみ悶えながらも激昂して叫ぶ光輝だが、ボーンクラッシャーは鼻で笑うと、そのままメルドの右腕を魔物達の方へ投げ落とした。直ぐに二頭のキメラが喰らい付き、奪い合いの末に真っ二つに食い千切って飲み込んでしまった。

 

「お前らぁぁぁ‼︎よくもメルドさんをぉー!!!」

 

 その一部始終を見ていた光輝は、遂に怒りを爆発させた。ホリブルシットの毒ガスで衰弱しているにもかかわらず、溢れ出した凄まじい光が奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がった。やがて光の奔流が体へと収束し始めると、光輝は聖剣を握り締めて立ち上がり、カトレアを睨みつけた。

 これこそ「限界突破」終の派生技能で、基本ステータスの五倍の力を得ることが出来る上位互換「覇潰」だ。ただし限界突破から更に無理やり力を引きずり出すため、効果が切れたあとの副作用も甚大。毒で衰弱した光輝には自殺行為も同然の諸刃の剣だ。

 しかしメルドの仇を討つという復讐の念に支配された光輝は、そんな事を意識することもなく、怒りのままにカトレアに向かって突進する。流石のカトレアも焦った表情を浮かべ、周囲の魔物をけしかけるが、当の光輝は目もくれずに聖剣のひと振りでなぎ払い、怒声を上げながら一瞬も立ち止まらず、彼女のもとへ踏み込んだ。

 

「メルドさんの仇だぁ!!!」

 

 躊躇いなく振り下ろされた聖剣を、カトレアは咄嗟に砂塵の密度を高めて盾にするが、たやすく切り裂かれて袈裟斬りにされた。後ろに下がっていたのが幸いして両断されることこそなかったが、彼女の体は深々と斜めに切り裂かれて、血飛沫を撒き散らしながら後方へと吹き飛んだ。

 背後の壁に背中から激突し、砕けた壁を背にズルズルと崩れ落ちたカトレアの下へ、光輝が聖剣を振り払いながら歩み寄る。ピンチになれば隠された力が覚醒して逆転するというテンプレな展開に、彼女は瞳に諦観を漂わせながら皮肉気に口元を歪めた。傍にいる白鴉が固有魔法を発動するが、傷は深く直ぐには治らないし、光輝もそんな暇は与えないだろう。完全にチェックメイトだと、カトレアは激痛を堪えながらも右手を伸ばし、懐からロケットペンダントを取り出した。

 

「まいったね、あの状況で逆転なんて…。まるで、三文芝居でも見てる気分だ…。ごめん、先に逝く…。愛してるよ、ミハイル…」

「ッ!!?」

 

 愛しそうな表情で手に持つロケットペンダントを見つめながら、そんな呟きを漏らすカトレア。剣を振り下ろそうとした瞬間、それを聞いた光輝は愕然とした表情となり、目をこれでもかと見開いて彼女を見下ろした。その瞳には、何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。

 しかし、戦場でその迷いは致命的だった。すかさずモホークの蹴りが鳩尾に炸裂し、光輝は大きく吹き飛ばされる。彼とボーンクラッシャーには、何が光輝の剣を止めたのかが理解できており、嘲笑いながら光輝を見下ろした。

 

「おやおやぁ〜?もしかしてお前、この下等生物共とカトちゃんが同類だと思ってたのかぁ〜?残念でした!少なくともお前ら猿どもよりはずーっとお利口な知的生命体だよ〜ん!つ〜ま〜り〜、お前のしようとした事は立派な殺人さ〜!!!」

 

 そう、光輝にとって魔人族とはイシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだ。実際、魔物と共にあり、魔物を使役していることが、その認識に拍車をかけた。散々亮牙や愛子から指摘されていたというのに、自分達と同じく『人』だとは思っていなかったのである。あるいは、無意識にそう思わないようにしていたのか…。

 その認識が、カトレアの愛しそう表情で愛する人の名を呼ぶ声により覆された。否応なく、自分が今、手にかけようとした相手が魔物などでなく、紛れもなく自分達と同じ『人』だと悟り、自分のしようとしていることがモホークの指摘したとおり()()であると認識してしまったのだ。

 やがて回復しきったカトレアが立ち上がった。彼女も光輝が躊躇った理由を正確に悟り、侮蔑の眼差しを返した。その眼差しに光輝は更に動揺する。

 

「ショックウェーブの言ってた通り、つくづく呆れた奴だ…。まさかあたし達を『人』とすら認めていなかったとは、随分と傲慢なことだね…」

「ち、ちが……俺は、知らなくて…」

「ハッ、『知ろうとしなかった』の間違いだろ?」

「お、俺は…」

「ほら、どうした?所詮は戦いですらなく唯の狩りなのだろ?目の前に死に体の一匹がいるぞ?さっさと狩ったらどうだい?お前が今までそうしてきたように…」

「…は、話し合おう。は、話せばきっと…」

 

 遂には聖剣を下げてそんな事を宣う光輝に、カトレアは心底軽蔑したような目を向けると、その後ろにいる雫達を睨みつけた。

 

「馬鹿野郎…!今更何抜かしてるんだ…⁉︎早く剣を構えろ…!」

「こ、光輝…!躊躇っちゃ駄目…!戦うのよ…!」

 

 毒に蝕まれながらも、永山と雫が悪態をつきつつ光輝に戦うよう促す。二人とも、戦争をするならいつかこういう日が来ると覚悟はしていた。武道を嗜んでいる上で、人を傷つけることの重さも理解していた。

 特に雫は、光輝の直情的で思い込みの激しい性格は知っていたはずなのに、本物の対人戦がなかったとはいえ認識の統一、すなわち自分達は人殺しをするのだと自覚する事を今の今まで放置してきた事に責任を感じ歯噛みする。

 しかし現実は残酷だった。ボーンクラッシャーが紅蓮の炎のように目を光らせると、まるで野獣の雄叫びのように罵声を浴びせた。

 

「馬鹿馬鹿しい!下等な猿のガキどもが、俺達ディセプティコンに勝てるはずも、対等なわけもねえだろ!お前らみたいな敗北した弱者は、勝ち抜いた強者たる俺達に黙って殺されりゃいいんだよ!!!」

 

 心底見下したようにそう告げた彼は、背中のクローを伸ばして、倒れ伏す永山を捕まえた。「ぐっ…⁉︎」と呻き声を上げる永山だったが、ボーンクラッシャーは容赦なく彼を足元に落とすと、騎士達にしたように何度も殴り始めた。永山は悲鳴をあげる暇もなく殴り潰されていき、血や肉片が雫達の前に飛び散る。

 その惨劇を心底愉快そうに眺めながら、モホークはカトレアに向き直った。

 

「後は俺とボンちゃんに任せな。やっぱ殺すならトータス人よりも地球人の方が楽しいからヨォ〜」

「好きにしな。毒で動けないとは言え、こんな殺し合いの自覚のない連中なんぞにもう興味もないからねぇ…」

「お任せ〜」

 

 そう告げるとモホークは、右手にナイフを握り締めて、倒れ伏す雫達へと近づいていく。雫達は逃げようにも、香織の回復魔法すら発動できない状態では、這いずり回ることすら困難のようだ。

 

「な、どうして!やめろぉ!」

「自覚のない坊ちゃんだ…。私達は『戦争』をしてるんだよ!そんな、甘い考えが通用すると思ってるなら大間違いさ!お友達がコイツらに嬲り殺しにされるのを黙って見てるんだね!」

 

 自分の提案を無視されて光輝が叫ぶが、当のカトレアは一切取り合わない。顔を青くして仲間達を助けに行こうとするも、『覇潰』のタイムリミットが来てしまい、膝から力が抜け、そのまま前のめりに倒れ込んでしまった。毒に体を蝕まれたままという無理に無理を重ねた結果、弱体化どころか体が麻痺したように一切動かなくなってしまった。

 

「こ、こんなときに!」

「強大な力は無闇に使うもんじゃないよ〜。オメーは最後に殺してやっから、お友達の屠殺ショーをそこで眺めてな〜」

 

 動けなくなった光輝を嘲笑いながら、モホークは倒れ伏す野村の胸倉を左手で摘み上げる。野村は苦しそうに顔を歪めるが、毒のせいでもがく事すら出来なかった。だが彼はお構いなしに野村を抱えて、カトレア配下の魔物達の前にやってきた。

 舌舐めずりをする魔物達の前に立つと、モホークはナイフをグサリと野村の胸の中心に突き立て、そのまま腹まで大きく切り裂いた。忽ち大きく切り裂かれた傷口から、大量の血飛沫と共に内臓が溢れ出した。

 

「グフッ…」

「さ〜寄ってらっしゃい見てらっしゃい!モホーク流・地球人の活け作りだよ〜」

「「「「「グギャキャギャギャ!!!」」」」」

 

 野村は口から血反吐を吐くと、そのまま息絶えた。モホークはお構いなしにそんな事を呟くと、まるで板前が魚を捌くかのように彼の亡骸を解体していく。周囲には引き摺り出した内臓や、細かく切り刻んだ肉片が撒き散らされ、魔物達が嬉々として食らいついた。

 

「いやぁ〜!!!健太郎!!?」

 

 それを見ていた辻が悲鳴を上げる。彼女と野村は付き合ってこそいなかったが、実は両想いであった。この戦いで、もしどちらかが命の危機に晒されたら、自分が体を張ってでも守ろうと心に誓っていた。しかし無常にも、野村はどんどん細切れにされて魔物達に食われていった。

 

「残念だっだなぁ辻〜?じゃあ野村に代わっで、彼奴らに慰めでもらえよぉ〜!」

「きゃあああっ!!!」

 

 そんな辻を嘲笑いながら、ホリブルシットは股間の触手で彼女を絡め取ると、モホークの所に集まっている魔物達とは別の方へ彼女を投げ飛ばした。

 受け身をうまく取れず痛みに悶える辻の前に現れたのは、数体のブルタールモドキだ。しかしどの個体も、空腹とは違った下卑た表情で、鼻息を荒くしながら彼女を見下ろしている。そのまま掴みかかると、彼女の衣服をビリビリと引き裂き、のしかかって腰を振り始めた。

 周囲に辻の悲鳴が響き渡り、流石のカトレアも不快そうに顔を顰めるが、ホリブルシットは心底愉快そうに笑っていた。

 

「グヘヘへへ!ざまあみろ!次はお前らの番だぜぇ?辻みたいに良い声あげろヨォ〜?」

 

 そう告げながら近づいていく裏切り者。今となっては、あれ程執着していた香織への歪んだ欲望などどうでも良くなっていた。最早女を抱く事すらできない身体となった今はただ、自分を見捨てた連中への復讐心があるだけだ。

 ボーンクラッシャーとモホークも、新たな生贄を求めて近づいてきた。永山は最早原型を留めないほど殴り潰されており、地面に真っ赤なシミを残すだけだ。野村に至っては、全ての部位が魔物達の腹の中に収まってしまっている。未だ止まない辻の悲鳴が、その惨劇の凄惨さと悍ましさを強調していた。

 残されたのは勇者パーティの六人のみ、全員が待ち受ける自分の運命を悟り身震いしていた。鈴に至っては恐怖の余り失禁してしまっている。結界師として聖絶を発動しようにも、恐怖で身体が動かないのだ。

 

(ごめんなさい灘君…。結局、貴方の言ったとおりになっちゃったわ…)

 

 そんな中、雫のみはただ一人、この場にいない亮牙への懺悔の念を抱いていた。こうなる事はこのトータスに来た時点で彼からあれ程警告されていたというのに、「幼馴染を放って置けない」からと結局光輝達に追従し、この事態を招いてしまった。友情と過保護を履き違えて、幼馴染を甘やかし続けた結果、多くの人の人生を狂わせ、今は幼馴染達とともに地面に這いつくばって辱めを受けるのを待っている始末だ。

 いや、心の底では自分もまた、己が才能に驕り、誰かの為に何かが出来るという万能感と使命感に酔ってしまっていたのだろう。代々受け継がれてきた八重樫流が実戦でどこまで通用するか。偉業を成し遂げたと知れば家族がどれだけ喜んでくれるか。そんな浅はかな考えがなかったとは言えない。

 

「よ〜し、次はお前だよ〜ん」

 

 そう言いながらモホークが雫のポニーテールを乱暴に掴む。光輝が苦しみ悶えながら「やめろォ!」と叫ぶも、最早駆けつける事もできない。

 

「ごめんなさい皆…。先に地獄で待ってるわ…」

 

 苦しみ悶えながらも必死に止めようともがく香織や龍太郎を見やると、雫は両目に薄らと涙を浮かべながら、自嘲気味に謝罪する。そのまま魔物達の前に連れて行かれた彼女の胸に、モホークは笑いながらナイフを突き刺そうとした。

 

ズゥゥゥゥン…

 

「グルルルルルル…」

 

 突如として、何か巨大な生き物の足音のような重々しい音が響き渡り、同時に何かの唸り声も聞こえてきた。

 それを聞き、血の匂いと屍肉の味に酔いしれていた魔物達が一転して怯え出した。辻を慰み者としていたブルタールモドキ達ですら、歪んだ性欲が一気に吹き飛んでしまい、悪事のばれた悪餓鬼のように震え上がった。

 

「お、お前ら⁉︎一体どうしたって言うんだよ⁉︎」

 

 勝利を確信していたカトレアも、必死に魔物を宥めようとするが、何かが近づいているのを察知した。ディセプティコン2体も同様で、モホークは雫のポニーテールを離し、ボーンクラッシャーは鈴達に振り下ろそうとした拳を止めた。

 

ドスゥゥゥゥン!!!

 

「「「「「グギャアアアアッ!!?」」」」」

 

 次の瞬間、轟音と共に魔物達の頭上の天井が崩落し、巨大な何かが降りたった。魔物達は慌てて散開して逃げ出すが、あの多足亀・アブソドをはじめとする何体かはその巨体が仇となって逃げ遅れた。アブソドは降り立った何かの下敷きになり、頑丈そうな甲羅が粉々に砕け散ってしまい、口から大量の血反吐や内臓を吐き散らして絶命した。他の逃げ遅れた連中も、崩落した天井の岩の下敷きになってしまった。

 現れたのは、カトレア配下の魔物達より遥かに巨大な怪物だった。外見はティラノサウルスそっくりだが、体格は4倍近くもあり、全身が金属で覆われている。その背中には、SFチックな鎧を着た二人の人間と、右腕が銛になったロボットが跨っている。

 

「俺グリムロック、お前らこてんぱんにやっつける!!!」

 

 マキシマル一行の四人が、遂に駆けつけたのだ!

 




〜用語集〜
・汚濁獣ホリブルシット
 小悪党・檜山大介が、ショックウェーブの魔の手にかかって変貌した成れの果ての姿。
 顔はかつてのままだが、外見はその腐った性根に相応しい醜悪なモンスターへと成り果てており、一言で言えば餓鬼そのもの。股間は男の象徴が変貌し、魚の一種ワラスボに似た形状となっており、蛇のように獲物を締め上げたり飲み込む事ができる。無論、二度と性行為は出来ないのだが、生殖機能とともに性欲も消失したので問題はない。
 固有魔法は口から吐息として吐き出す毒ガス「苦悶息」。致死性こそないが相手を痙攣させるとともに、魔力を乱れさせて魔法を発動出来なくしてしまう。
 名前の由来は、『超神マスターフォース』に登場した陸上攻撃兵士・ブルホーンの英名・ホリブル(Horri-Bull)から。「最低な」などを意味するhorribleに因んでいる事から、檜山の卑劣漢ぷりに相応しいと思い、更にホーリーシットやブルシットなどのスラングも組み合わせた。反省も後悔もない。

・永山組の末路
 原作ではハジメを蔑ろにしていた事に罪悪感を抱いていた癖に、結局謝る事も感謝の言葉もなかった中途半端なキャラクター達でしたが、本作では『ゴブリンスレイヤー』のテーマの一つ「一寸先は闇」を同じくテーマとしているので、残酷な目に遭わせました。ファンの方々、申し訳ありません(苦笑)





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