自分は本日、2回目のワクチン接種を受けますが、副反応が気になりますね…。
今話は、広島と長崎に原爆が投下された6日と9日の間の投稿でもあり、私なりに戦争の悲惨さを訴えるのも込めて、光輝達にかなりのアンチがあります。ご了承下さい。
マキシマル一行の活躍で、協力者である二体のディセプティコンは倒され、ホリブルシットを含めた配下の魔物達も一匹残らず死滅した。今のカトレアには、最初に勇者一行と出会した際の余裕など完全になく、絶望的な状況に顔は真っ青になっていた。
そんな彼女の内心などお構いなしに、亮牙はゆっくりと近づいてくる。ユエとハジメもボーンクラッシャーの亡骸から離れてその後に続いた。二人ともアマゾンとインパクターを宝物後にしまい、本来の姿に戻っており、それを見た香織は「南雲君!」と状況を忘れて嬉しそうに喜んでいた。
シアは亮牙の宝物庫から取り出した魔物のなめし皮で、今もなお裸の状態でぐったりとしている辻を介抱していた。最愛の恋人を蔑んでいた連中の一人とは言え、敵に犯されるという、殺されるより惨たらしい目に遭わされた辻の哀れな姿には、流石の彼女も同情せずにはいられなかったので、少しばかりの情けをかけたのだ。
「ち、畜生!!!」
「逃がすわけないでしょ」
「あがぁあ!!」
まるで死刑執行人の如く無言で近づいてくる亮牙達三人に震え上がりながらも、カトレアはせめてもの抵抗と言わんばかりに、悪態をついてその場から逃げだそうとした。しかし、すかさずハジメが冷めた目をしながらドンナーを二発発砲して正確無比に彼女の両足を撃ち抜き、カトレアは堪らず悲鳴を上げて崩れ落ちた。
敵の殆どが死に絶えて静寂が戻った部屋に響き渡ったその悲鳴と、あの大人しかったハジメの無慈悲な攻撃に、背後にいた勇者パーティ六人は息を呑んだ。しかし亮牙達はそんな事は微塵も気にしておらず、亮牙はうつ伏せに倒れたカトレアの頭を乱暴に掴むと、自分の方に顔を向けさせて話しかけた。
「さてと。生憎俺達はテメェらトータス人どもの事情なんざ知った事じゃねえんだが、聞きてえ事が二つほどある。何でコンズを引き連れてまでわざわざ敵対種族の縄張りに踏み込んできやがった?…それと何より、彼処でくたばってるガラクタ共の仲間があと二体いる筈だが、其奴らは今何処にいやがる?」
「あたしが話すと思うのかい?人間族の有利になるかもしれないのに?バカにされたもんだね」
髪を乱暴に掴まれながらも、カトレアは屈するものかと嘲笑するように鼻を鳴らした。だが亮牙はそんな彼女の態度を鼻で笑って返した。
「答えたくなけりゃ結構。別にある程度は予想つくがな。…狙いは迷宮を攻略して神代魔法を得るためだろ?テメェの種族が最近活発化してるのもそれが原因、残る二体のコンズは攻略のために先に進んでるってところか?」
「ッ!!?」
亮牙の推測を聞いて、カトレアの顔はより一層青ざめていった。そう、彼女とショックウェーブの真の狙いは、オルクス大迷宮を攻略して「生成魔法」を得るためであり、この場にいないショックウェーブは攻略のために先行したのだ。
そもそも、カトレア配下の魔物達は全て、彼女の上官である「魔人族の攻略者」が変成魔法を使い生み出した産物なのだ。ショックウェーブもまたその攻略者であり、ウルの町を襲った魔人族・レイスや今回のホリブルシットのような怪人を生み出す薬品も、地上を襲ったジェットストームとクイックストライクも、その変成魔法を悪用して生み出したのだ。
「…アンタ達、あれだけの力を持ちながら、神代魔法を得ているのか⁉︎ショックウェーブ達みたいに、まだ強さを求めているのか…!」
「…ショックウェーブか。聞いた話じゃ確か、コンズの幹部格だったな。どうやら其奴が現在オルクスを攻略中ってわけか…」
青ざめながらカトレアが呟いたショックウェーブという名を聞いて、亮牙は成る程と納得する。オプティマス達と会った頃には既に戦死していたディセプティコンの科学者だ。恐らくドレッドボットやモホークと同様、メガトロナスがこのトータスに転生させたのだろう。
聞きたい事は充分聞けた。そう判断した亮牙はカトレアの頭を掴んでいた手を離し、彼女は再びその場に崩れ落ちた。だが彼は容赦なくスルトを構えて、その鋒をカトレアの首に突き付けた。
「これで話は終わりだ。生憎10万ルタPONと貰ったわけじゃねえが、ギルドからテメェとコンズどもをぶち殺せと依頼されてるんでな…。その首取らせてもらうぞ」
「…どうやらあたしもここまでのようだね。アンタ達は其処の勇者君どもに比べりゃ遥かに英雄っぽいし、そんな奴らに討ち取られるならある意味本望だね…」
最早逃げる事も出来ないし、反撃して勝てるような相手じゃない。カトレアは覚悟を決めてそう呟いた。彼女自身、兵士として戦場に立っている以上、いつかこうなる日が来る覚悟はしていた。
捕虜にされるくらいならばどんな手を使っても自殺してやる。出来ることなら戦いの果てに死にたい。そんな気持ちを彼女の表情が物語っていた。最後にカトレアは道半ばで逝くことの腹いせに、負け惜しみと分かりながら亮牙達に言葉をぶつけた。
「覚悟しな。いつかあたしの恋人が、仲間達が、アンタ達を倒すよ」
「出来るもんならやってみろ。絶対無理だろうがな」
そう不敵に笑いながら返答すると、亮牙はスルトを振り上げる。同じ戦士としての情けだ。苦しませずに一瞬で殺してやる。
だがそれに水を指すように、光輝がフラフラしつつも立ち上がり、大声で制止をかけた。
「待て!灘なんだろう⁉︎待つんだ!彼女はもう戦えないんだぞ!殺す必要はないだろ!捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。灘も南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」
「「「……」」」
亮牙はスルトを振り下ろすのを止めるも、心底冷めた目で光輝を睨みつける。だが光輝は全く気づいておらず、余りにツッコミどころ満載の言い分を述べる始末だ。
つくづく救いようのない馬鹿だな、最早聞く価値すらないと即行で切り捨てた亮牙は、カトレアの首を刎ねるためにスルトを振り下ろそうとする。だが、そこへ同じく光輝の戯言を聞いていたハジメが待ったをかけた。
「待って、亮牙」
「…何だよ?」
「僕が代わりにやる。
そう呟きながら、ハジメは冷めた目のまま、光輝の後ろにいる香織達を見やる。香織は先程まで死にかけていたのが嘘のように、嬉しそうにハジメを見つめている。大方今の光景も、優しいハジメが乱暴な亮牙を宥めているとでも思っているのだろう。その隣では、雫がどう声を掛ければよいのか戸惑っていた。
「…分かった。任すぞ」
「うん…」
亮牙はそう言うと、スルトを振り下ろすのを止めた。それを見て、ハジメが亮牙を宥めてくれたと見做した光輝達もほっ、と一安心する。
次の瞬間、ハジメは無言のまま目にも止まらぬ速さでドンナーを発砲した。乾いた破裂音が室内に木霊し、解き放たれた殺意は、狙い違わずカトレアの額を撃ち抜き、彼女を一瞬で絶命させた。
静寂が辺りを包んだ。生き残っていた勇者パーティの面々は同じクラスメイト、それもあの大人しいハジメが、目の前で躊躇いなく人を殺した光景に息を呑み、戸惑ったようにただ佇む。
そんな彼等の中でも一番ショックを受けていたのは香織である事は、親友である雫には手に取るように分かった。そして日本にいるとき、普段から散々聞かされてきたハジメの話から、香織が何にショックを受けているのかも察していた。
雫自身も、人を殺してもなお涼しい顔をしているハジメを見て、確かに変わり過ぎだとは感じていた。しかし、何も知らない自分がそんな文句を言うのはお門違いもいいところだということも理解していたので、結局何をすることも出来ず、ただ香織に寄り添うだけに止めた。
だが当然、偽善に満ち溢れた光輝が黙っているはずもなく、静寂の満ちる空間に押し殺したような声を響かせた。
「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか…」
ハジメも亮牙も、自分達を鋭い眼光で睨みつける光輝の事など一切眼中に入れていなかった。亮牙はカトレアの亡骸へと近づいていくと、スルトでその首を刎ね落とし、ハジメが宝物庫から取り出した魔物の皮の袋へと入れた。
最後に残った彼女の亡骸にレーザーファイヤーを放つと、一瞬で焼き尽くした。せめてもの情けで荼毘に伏せてやったのだ。
そんな様子を勇者一行が黙って見ている中、亮牙は辻を介抱するシアの方へと歩み寄っていった。必死に感情を押し殺した光輝の声が響くも、一切無視していた。
ハジメとユエも、カトレアの亡骸が完全に焼き尽くされたのを見届けると、やるべき事は終わったと言わんばかりにディセプティコン達の残骸の方へと向かう。今後の戦いに備えて、必要なパーツや武器を回収する事にしたのだ。
「シア、其奴の容態はどうだ?」
「命に別状はないですね。ただ、精神が崩壊しちゃったみたいで、さっきから死なせてくれって繰り返すばかりで…。まあ、無理もないんですが…」
「そうか…。同じ女として思うところがあるのかもしれんが、同情する事はないぞ。こういう目に遭うのか『戦争』だというのを理解してなかった此奴らの落ち度だからな」
シアは辻に神水を飲ませて、裸になった身体を魔物のなめし皮で包むなど、出来る限りの介抱を施した。だが当の辻は目から光を失い「こ…殺して…」と譫言のように繰り返すばかりだった。目の前で両想いの相手だった野村を殺され、自身は敵、それも人間ではない生き物に犯されて純潔を奪われたのだから、無理もないだろう。
しかしそれは、亮牙から言わせれば「自業自得」以外の何者でもなかった。戦争とは命や尊厳が踏み躙られるのは当然、ましてやこのトータスは現代の地球のような人権や道徳などは微塵もないのだ。今の辻に出来るのはただ、過去の自身の軽率さを後悔するだけだった。
用は済んだ。未だ辻が気がかりな様子のシアを促すと、地上へ戻る準備をしようとしたが…
「亮牙さん⁉︎」
突如として何かが飛んできて、亮牙の頭に直撃し、シアが思わず叫ぶ。彼の頭にぶつかったのは、野球ボールくらいの大きさの石だった。常人なら大怪我を負っていたのだが、トランスフォーマーである亮牙がその程度で怪我するはずもなく、逆に石の方が粉々に砕け散った。
亮牙が鬱陶しそうに石が飛んできた方を振り向くと…
「この化け物!南雲君に、なんて事をさせたの!!!」
さっきまで佇んでいた勇者一行の中から、香織が今まで見た事ないくらい怒りと憎しみの籠もった瞳で、亮牙を睨みつけていた。その手には先程投げつけられた石と同じくらいの石が握られており、彼女が投げつけてきたのは明白だった。
再び石が亮牙目掛けて投げつけられる。今度は直ぐに反応した亮牙は、逆にその石を受け止めた。それを見て、親友の思いがけない行動に呆然としていた雫はハッとなり、慌てて香織を羽交い締めにして制止しようとした。鈴と恵里は怯えた様子で佇んでいる。
「やめなさい香織!落ち着いて!何て事するの⁉︎」
「止めないでよ雫ちゃん!此奴の、この化け物のせいで南雲君は!!!」
雫が必死に宥めようとするも、香織は聞く耳を持たず、亮牙に敵意を剥き出しにする。原因は勿論、先程ハジメがカトレアを殺した光景に誰よりもショックを受けたからだ。
人を殺したことにではない。それは香織自身覚悟していたことだ。迷宮で魔物を相手にしていたのはあくまで実戦訓練。この世界で戦いに身を投じるというのは、敵対した人を殺さなければならない日が必ず来ると覚悟していたつもりだ。自分が後衛職で治癒師である以上、直接手にかける事はないだろうが、代わりに友人達が手を血で汚した際は例え僅かでも、一瞬であっても忌避したりしないようにと心に決めていた。
寧ろショックを受けたのは、カトレアを殺した際のハジメに、人殺しに対する忌避感や嫌悪感、躊躇いというものが一切なかった事だ。息をするように自然に人を殺した。香織の知るハジメは、弱く抵抗する手段がなくとも他人の為に渦中へ飛び込める、暴力的ではなく「他人を思いやれる」優しく強い人だった。だから、無抵抗で戦意を喪失していたカトレアを何の躊躇いも感慨もなく殺せたことが、自分の知るハジメと余りに異なり衝撃だったのだ。
そして直ぐに、ハジメが
奴がハジメを狂わせた。日頃から暴力的で誰からも嫌われていたあの男が、ハジメを道連れにして自分から奪っただけでは飽き足らず、その心までも歪めてしまったのだと。
そんな的外れな考えを抱きながら、香織は再び亮牙目掛けて石を投げようとする。ハジメがそうならざるを得なかった真の原因など、これっぽっちも考えもせず。
「いっ!!?」
「キャッ!!?」
突如、乾いた破裂音が再び響き、香織が投げつけようと握り締めた石が弾け飛んだ。香織は手に怪我こそ負わなかったが、思わず手を押さえた。それに続いて、今度は何か大きな物が香織達の傍に投げつけられ、雫は思わず尻餅をついた。
「…君達、いきなり何するんだよ?」
「もう一度言ってみなさい!私の大切な人が何ですって!!?」
犯人はハジメとシアだった。香織が石を投げつける前に、ディセプティコン達の亡骸を回収したハジメがドンナーを発砲して石を弾き飛ばしたのだ。シアに至っては、最愛の人を化け物呼ばわりされた事に怒りを露わにしてテラクサドンを一体投げつけ、必要ならばもう一本投げつけてやると言わんばかりに構えている。
まさかのハジメに攻撃を受けた事に、香織は「な、南雲君…」と狼狽えて黙り込んでしまった。雫達もどうしたものかとオロオロする中、再びあの愚か者が割り込んできた。
「とうとう本性を現したな、南雲!奴らと同類の灘と連んで、無抵抗の人を殺した挙句、香織にまで武器を向けるなんて!今すぐ香織達から離れろ!」
龍太郎に支えられつつ歩み寄ってきた光輝が、何処かハジメと亮牙を責めるように睨みながら罵声を浴びせてきた。単に、香織に心配されているのが気に食わないのか、それとも人殺しの傍にいることに危機感を抱いているのか。あるいはその両方かもしれない。
「ちょっと!香織も光輝も何て事言うの⁉︎ 南雲君も灘君も、私達を助けてくれたのよ⁉︎そんな言い方はないでしょう⁉︎」
「だが雫!彼女は既に戦意を喪失していたんだぞ⁉︎殺す必要はなかったのに殺した南雲も、それを見逃した灘も許されることじゃない!ましてや灘は、メルドさんや永山達を殺したあのロボットどもの同類なんだぞ!」
「違う!南雲君は悪くない!あの化け物が南雲君に無理矢理やらせたんだ!悪いのは全部あの化け物だよ!」
「二人ともいい加減にしなさいよ⁉︎大体…」
光輝や香織の物言いに、流石に我慢出来なくなった雫が目を吊り上げて反論する。頭の悪い龍太郎と、どっちつかずの鈴と恵里はどうしたものかとオロオロするばかりで、次第に議論が白熱し始めた。
そんな彼等に、今度は比喩的な意味で冷水を浴びせる声が一つ。
「…二人が言ってた通り、本当にくだらない連中。皆、もう行こう?」
「全くだ。だがどうする?まだ地下深くに敵がいて、それも迷宮攻略を狙っているようだが…」
「いや、ここは一旦地上に戻ろう。このまま進むにも敵の戦力が未知数な分リスクが高いし、何よりミュウを待たせてるから…」
「あ〜。確かにストレイフさんがいるとは言え、スラッグさんとティオさんじゃ不安なとこがありますからね…」
ユエが絶対零度と表現したくなるほどの冷たい声音で、光輝達を「くだらない」と切って捨てた。その声は小さな呟き程度のものだったが、光輝達の喧騒も関係なくやけに明瞭に響いた。一瞬で、静寂が辺りを包み、光輝達がユエに視線を向けた。
亮牙達四人が此処まできたのは、ギルドより依頼された魔人族とディセプティコンの掃討のためだ。残念ながらショックウェーブは迷宮攻略のために既に地下深く潜っているらしく、今から追いかけるのは困難だし、敵が何か罠を張り巡らせているリスクがある。
それに地上では、スラッグ・ストレイフ・ティオ・ミュウの四人を待たせている。ストレイフはしっかり者だが、スラッグにティオという問題児が二人もいてはミュウの事が心配だ。なのでユエに従い、他の三人も部屋を出て行こうとした。
「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲の本音や灘の正体を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ?助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて、失礼だろ?一体、何がくだらないって言うんだい?」
「……」
だが光輝はしつこく待ったをかけ、またズレた発言をする。言っている事自体はいつも通り正しいのだが、状況と照らし合わせると、「自分の胸に手を置いて考えろ」と言いたくなる有様だ。ここまでくると、最早病気か呪いと言っても不思議ではない。
一方のユエは既に光輝に見切りをつけており、会話する価値すらないと視線すら合わせなかった。そんな彼女の態度に少し苛立ったように眉をしかめる光輝だが、直ぐにいつも女子にしているように優しげな微笑みを携えて再度話しかけようとした。
このままでは埓があかないどころかユエを不快にさてしまうと感じたハジメは、凄まじくイヤそうな表情で溜息を吐きながらも、代わりに少しだけ答えることにした。
「あのさぁ天之河君。存在自体が色んな意味で冗談みたいな君に、いちいち構ってやる義理も義務もないんだけど、心底ウザいから指摘させてもらうね」
「指摘だって?俺が、間違っているとでも言う気か?俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」
日頃からやる気のないダメな奴と見做していたハジメからそんな表情を向けられ、不機嫌そうに反論する光輝。だがハジメは取り合わずに、言葉を続けた。
「誤魔化すのは見苦しいよ」
「いきなり何を…」
「君が怒っているのは、僕が奴を殺した事じゃない。
「ち、違う!勝手なこと言うな!お前が無抵抗の人を殺したのも、灘がそれを止めもしなかった挙句遺体を焼いたのも事実だろうが!」
「敵を殺す、それが戦争だよ。今更何言ってるの?」
「黙れ!人殺しは悪いに決まってるだろ!よくもいけしゃあしゃあと!」
「いけしゃあしゃあだと?その台詞、そっくりそのまま返してやるよ!」
ハジメから散々指摘されてもなお、自分の過ちを棚に上げて非難してくる光輝。黙ってそれを聞いていた亮牙だったが、遂に堪忍袋の尾が切れて口を開いた。その剣幕に、光輝達は思わずたじろぐ。
「こうなる未来はこの世界に来た時から、俺もハジメも先生も、散々警告した筈だ。だがテメェは聞く耳を持たず、あの気色悪いジジイの言い分をホイホイ鵜呑みにして、戦争に加担する道を選んだ。そこのペットのアンポンチンパンジーも、テメェのお気に入りの二大情婦も、幼馴染がやるならって嬉々とした表情で賛同してたよな?そうやってテメェらがクラス全体を巻き込んだ挙句がこのザマだ」
「ち、違う!俺達は、こんな事になるなんて…!魔人族にも心があると知ってたら、こんな事には…」
「ハッ!この後に及んで、『知らなかった』や『こんな筈じゃあ』なんて言い訳が通用すると思うなよ!戦争の悲惨さを知る日本で生まれときながら、テメェらの親類のジジイどもは碌な教育をしてこなかったようだな!」
「だ、黙れ!俺の爺ちゃん達は立派な人達だ!お前のような化け物が見下して良い人間じゃない!」
「何処か立派な人間だ!空想と現実の区別もつけられねえテメェらの醜態を見てりゃあ、其奴らやテメェらの親が碌な教育してこなかったのは明白だろうが!そんなんで日頃ハジメの趣味をクラス全体で見下せたもんだな!」
亮牙からの容赦ない言葉に、光輝は必死で言い訳しようとするが、後ろで控えている雫達の心にはグサリと突き刺さった。
あの時、先生はイシュタルに対して自分達を巻き込むなと訴えていたのに、光輝はイシュタルの言葉を鵜呑みにして真っ先に賛成し、龍太郎も直ぐに追従し、雫と香織も親友がやるならと消極的ながらと賛成した。亮牙やハジメが愛子と共に警告したにもかかわらず、スクールカーストの上位四人が決定したからと、鈴達クラスメイトもあっさりその決定に従ってしまった。
そもそも戦争の悲惨さは、人気タレントが主人公として登場するドラマや映画、歴史の授業などで散々学んできたし、それこそ祖父母や戦争経験者の親戚から聞かされてきたはずだった。だと言うのに、イシュタル達に煽てられて調子に乗った光輝達は、不死身になった訳ではないと言うのに、チート能力を持っている自分達は無敵だと増長し、そんな事などあっさり忘れていた。
自分達の愚かさを指摘され動揺する光輝達だが、再びハジメが口を開いて更なる指摘をする。
「大体さ。こんな惨状を招いた彼女を捕虜にしたところで、牢屋に閉じ込めて終わりで済むと思ってるの?今は戦争中なんだからさ、魔人族側の情報を引き出すために拷問のフルコース付きの尋問の末に、死刑台か奴隷市場送りにされるのが目に見えてるよ」
「なっ!!?馬鹿な事を言うな南雲!イシュタルさん達や王国の皆に限ってそんな酷い事をするはずがない!」
「…あのさ。君達に歪んだ人種差別思想を植え付けて人殺しを強要してきたのは、他ならぬ其奴らだよ。やるにしても秘密裏に行って、殺した後は自決したとでもでっち上げるだろうさ」
「巫山戯るな!黙って聞いていれば、お前はただ、彼女を殺した事を正当化したいだけだろう!」
「…はぁ、そんなに僕達を悪者にしたいならどうぞご自由に。僕も亮牙も戻ってきたわけじゃないし、ましてや君達を仲間だなんてこれっぽっちも思ってない。冒険者として、魔人族の掃討という依頼を引き受けただけさ。最後に一つ…」
そう呟くと、ハジメはドンナーの銃口を壁に串刺しにされたホリブルシットへと向けると、その膨らんだ腹を撃ち抜いた。パァン!という破裂音とともにホリブルシットの腹が裂け、内臓とともにあるものがドバァと零れ落ちた。
「あれが、君達が戦争を選んだ結果だ。お綺麗なものしか見ようとしなかったその目によーく焼き付けなよ」
そう告げながらハジメが指差したのは、ホリブルシットの股間の触手に食い殺され、その腹に呑み込まれていた吉野の亡骸だった。強力な消化液によって着ていた服は完全に溶かされており、肉体もかなり消化が進んで表面が溶けかけている。
そのあまりにも無残な光景に、雫達は戦慄して口を手で押さえて黙り込み、鈴に至っては耐えられずにその場で嘔吐してしまった。光輝も同様だが、それでもしつこく何かを言い募ろうとしたため、うんざりした雰囲気のユエのキツイ一言によって阻まれた。
「…戦ったのも、汚れ役を背負ったのも私達。手を汚す恐怖に負けて逃げ出した負け犬に、とやかくいう資格はない」
「なっ、俺は逃げてなんて…」
実はマキシマル一行が、ピンポイントであの場所に落ちてこられたのは偶然ではなかった。ちょうど上階を移動している時に莫大な魔力の奔流を感じて光輝達だと察し、グリムロックが重力魔法で一気に自分の体重を増加させて突き破ったというのが真相だ。
そしてその時感じた魔力の奔流こそ、光輝の「覇潰」だった。感じた力の大きさからすれば、少なくともカトレアなら討てたはずだと四人は分かっていた。なのでその後の現場の状況と合わせて、光輝が人殺しを躊躇い、そのためにあの窮地を招いたのだと看破していたのだ。それが、ユエの言う「恐怖に負けて逃げ出した」という言葉である。
ユエに反論しようとする光輝だったが、当の彼女も亮牙達も全く相手にせず、その場を立ち去ろうとする。それを見て、呆然としていた雫が慌てて声を掛けた。
「ま、待って!灘君も南雲君も、遠藤君からの依頼で私達を助けにきてくれたんじゃないの⁉︎」
一悶着あったとは言え、救いの手が差し伸べられたと内心安堵していた雫は、何事もなかったように立ち去ろうとする亮牙達の姿に、顔を青くして問いただす。先程まで蚊帳の外だった鈴や恵里、日頃亮牙達を見下していた龍太郎ですら、亮牙達に連れ帰って貰えると思っていたらしく、狼狽えた。
だが、当の亮牙は心底呆れ果てた目で雫達を睨み、冷酷に吐き捨てた。
「誰がテメェらなんぞを助けに来たと言った?テメェらのせいで地上にまで被害が及んだから、冒険者としてその後始末を依頼されただけだ。大体テメェらにとって、俺はコンズと同類の化け物で、ハジメはその化け物に魂を売った人殺しに過ぎんのだろう?なら今更都合良く助けなど期待するな!どうせ地上にはもうテメェらの居場所なんぞないから、そこで永遠に冷たくなってな!」
そう告げると、彼はビーストモードに変身すると、頭上にハジメ・ユエ・シアを乗せて、ノッシノッシとその場を後にした。
あまりにも冷酷で容赦ない言葉に凍りついていた雫達だったが、四人が部屋から出て行くとハッとなり、置いていかれては堪らないと大慌てでその後を追いかけた。光輝はホリブルシットの死骸から聖剣を抜き取ってから未だ虚な瞳をした辻を抱え、悪臭を放つ吉野の亡骸は龍太郎が抱えていった。
勝手に後をつけてくる連中など知ったことかと言わんばかりにドスドスと進んでいくグリムロックに、六人は息も絶え絶えになりながら必死にその後を追った。幸運にも、道中に現れた魔物達はグリムロックの姿を見るなり、怯えて逃げ出したりその場で震え上がっていたので、疲弊した六人が襲われる事はなかった。だが、どの魔物も六人を見やると、その醜態を嘲笑うかのような唸り声を上げ、僅かに残っていた雫達のプライドを粉々に打ち砕いていく。光輝に至っては屈辱のあまり、辻を放り出して魔物に食ってかからんばかりに苛立ちを募らせていた。
そうこうしているうちに、オルクス大迷宮の入場ゲートが見えてきた。遂に一行は地上へと辿り着いたのだ。
〜用語集〜
・10万ルタPONと貰った
本作では定番ネタとなっている『コマンドー』テレビ朝日版にて、悪役ベネットがシュワちゃん演じる主人公に言った「10万ドルPONとくれたぜ」が元ネタ。因みにこの後、お前をぶち殺せと言われたらタダでも喜んでやる、と続けている。
反戦を訴えながら不謹慎かもしれませんが、ベネットは悪役ながらも元軍人として戦争の意味は光輝達よりは理解していたと思います。不快に感じてしまったのなら申し訳ありません。
感想、評価お待ちしております。