グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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二度目のワクチン、無事接種完了しました。やはり接種後一日は熱が出て怠かったですね…。

今日で終戦から76年、自分が小・中学生の頃はこの時期になると、さまざまなドキュメンタリーや終戦ドラマが放送されていましたが、近年はあま見なくなりましたね。結構重い内容が多いのですが、戦争の虚しさを我々若い世代に伝えるという意味で結構好きだったのですが…。

今回もタイトル通り、勇者一行にアンチがあります。原作で個人的に感じた点や私の意見を思う存分指摘したので、我ながらラジー賞ノミネート作並みに詰め込みまくっています。ご了承ください。


訣別

「な、何なのよこれは…」

 

 地上へと帰還を果たした雫は、眼前に広がる光景に愕然とし、そう呟いた。

 彼女達六人がまだ健在の永山達を含めた15人で攻略のために潜る前は、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付嬢が迷宮への出入りをチェックするための受付窓口まであった。入口付近の広場には所狭しと並び建った露店がしのぎを削っており、まるでお祭り騒ぎのようだった。

 だが現在、雫達の目に広がるのは、まるで嵐でも通過したかのような瓦礫の山だ。入り口は乱暴に突き破られたかのようで、受付窓口も露店も滅茶苦茶に破壊されており、所々に巨大な生き物の足跡や飛び散った血痕、更には千切れた肉片や焼け焦げた人骨までもが転がっている。広間だけですらそうであるのに、ふと町の方を見れば、幾つもの建物が倒壊し、一部は燻っている。

 

「お、おい灘、南雲!お前達、一体この町に何をした!!?」

 

 雫達と同様、ホルアドの惨状を目の当たりにして唖然となっていた光輝だったが、そう叫びながらキッとマキシマル一行を睨みつけた。既にグリムロックは亮牙としての姿に戻り、ユエとシアもアマゾンを脱いで元の姿に戻っていたが、四人とも「はあ?」とでも言わんばかりの呆れた表情で光輝を睨みつけると、亮牙が代表して答えた。

 

「何寝ぼけた事抜かしてんだ?こうなったのはテメェらの所為だろうが」

「なっ⁉︎どういう意味だ⁉︎」

「テメェらがあの魔人族とコンズにビビって逃げ出した所為で、連中の一部が地上まで這い上がって町を襲ったんだよ。あの影の薄いモブ野郎の後をつけてな。俺達はその後始末をギルドから依頼されたって、さっき話したばかりだろ」

「な、何で俺達の所為になるんだ⁉︎悪いのは襲撃者達だろう⁉︎」

「確かに一番悪いのは其奴らだが、この世界の連中の為に命を賭けると宣言した以上、テメェらは玉砕してでも奴等を食い止める義務があった。なのに命惜しさに逃げ回ってたもんだから、テメェらより弱い一般的なトータス人共に食い止められる筈もなく、襲撃者どもはまんまと地上まで到達してこの有様ってわけだ」

「そ、そんな…」

 

 亮牙から侮蔑の混じった表情で何が起きたかを告げられ、光輝と共に聞いていた雫が青褪めた表情で、ガクンと膝から崩れ落ちた。

 あの時、ショックウェーブの攻撃で既に三人死亡し、自分達では敵わないのは明白だった。だからこそ光輝に撤退を促し、遠藤にメルド達への伝令に向かわせて自分達は隠れて回復するという判断を下した。正史の世界なら、カトレアの狙いの一つは雫達勇者一行だったので、この選択は正しかった。

 しかし今回は、ディセプティコン達が加勢した事で、却ってその判断は最悪の結果をもたらした。元々彼らは地上の制圧と、何より殺戮を楽しむのが狙いであり、勇者一行は玉砕してでも彼らを食い止めなければならなかったのだ。敵う筈もないのだが勇者一行が食い止めなかった結果、それより弱いトータス人達に食い止められる筈もなく、メルド達は全滅し、ホルアドも甚大な被害を被ったのだ。

 自分達が招いてしまった事態に愕然となる雫に、香織達が慌てて駆け寄り、光輝がまたも逆上したのか亮牙達を睨みつけるが、当の亮牙達は無視を決め込んだ。殺伐とした雰囲気となる中、それを打ち消すような幼女の元気な声が響き渡った。

 

「パパぁー!みんなぁー!おかえりなのー!!!」

 

 幼児用の特注のアマゾンを身に纏ったまま元気な声を張り上げるミュウが、ステテテテー!と可愛らしい足音を立てながらマキシマルの四人、正確にはハジメへと一直線に駆け寄ってきたのだ。彼女はハジメが受け損なうなど夢にも思っていないようで、そのままの勢いでハジメへと飛びついた。

 テンプレだと、ロケットのように突っ込んで来た幼女の頭突きを腹部に受けて身悶えするところだが、生憎、ハジメの肉体はそこまで弱くない。むしろ、ミュウが怪我をしないように衝撃を完全に受け流しつつ、しっかり受け止めた。

 

「ミュウ、迎えに来てくれたの?皆はどうした?」

「うん。おやぷんとストレイフお兄ちゃんは町のお片付けしてるの。ティオお姉ちゃんが、そろそろパパ達が帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。ティオお姉ちゃんは…」

「妾は、ここじゃよ」

「おう、俺達も片付けは終わったぞ」

 

 そう言いながら、妙齢の黒髪金眼の美女、更に続いて青髪の和装の青年と、黒焦げになった巨大な蠍らしきものを片手に掴みながら貪り食う紫の髪の青年がやってきた。言うまでもなく、ティオ、ストレイフ、スラッグだ。

 

「おうデカパイ。ちゃんと面倒は見てただろうな?」

「勿論じゃよ。ただ、叔父上やスラッグ殿が戦っていた魔物共の残党が妾達にもちょっかいをかけてきたのでな。妾がきっちり締めておいたのじゃ」

「俺スラッグ!この変な蠍、結構美味いぞ!グリムロックも食うか?」

「お前なぁ、無闇矢鱈と変なもん食うな……あ、美味いなこりゃ」

「「「いやお前も食うのかよ」」」

 

 どうやらクイックストライクの幼虫やジェットストームに寄生していたミニトロンが暫く暴れ回っていたらしく、スラッグとストレイフはその残党狩りに勤しんでおり、それを逃れて冒険者ギルドを襲った連中も、ティオが撃退したので、目立ったトラブルはなかったらしい。それを聞いてひとまず安心した亮牙は、スラッグが食べていたクイックストライクの幼虫の丸焼きを受け取って食べ始め、ストレイフやハジメ、ユエから呆れられていた。

 

「え?え?何でハジメ君に子どもがいるの?其奴の子それとも其奴の子ねぇどういう事ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君」

 

 勇者一行がホルアドの惨状に愕然となり、ハジメとミュウの関係に気づく余裕もない中、香織は光の消えた瞳で何度も壊れたラジオのようにハジメの名を呟く。そのあまりにも不気味な様子に、流石のマキシマルもドン引きする。

 

「…俺スラッグ。おいグリムロック、何だあの気色悪い生き物は?」

「目ぇ合わすな。ハジメだけに執拗に付き纏う寄生虫の一種だ」

 

 気味が悪いと言わんばかりの表情で香織を指差すスラッグに亮牙がそう答えていると、多数の人間が集まってきた。先頭にいるのはロア支部長と遠藤、部下のギルド職員が数名、他に駐屯騎士や傭兵、冒険者達、それから一部の市民もだ。

 

「おお!亮牙、無事だったか!」

「バワビスか。町の方は大丈夫だったか?」

「まぁ、彼方此方でかなりの被害が出たが、スラッグとストレイフが奮闘してくれたおかげで何とか壊滅は防げたよ」

「こっちも片付けたぞ。一人は既にいなかったが、他の連中はしっかり殲滅しといた。ほら、証拠だ」

 

ロアと依頼達成についての会話をすると、亮牙はその証として持っていた袋からカトレアの首を取り出して掲げた。それを見て、集まってきた人々から鬨の声の如く歓声が上がる。ちなみにミュウは情操教育に悪いからと、しっかりハジメが目を塞いでおいた。

 

「ご苦労だったな。流石、イルワが見込んだだけあるな。さて、報酬についてだが…」

「いや、報酬はいらねぇ。町の全部を救えたわけじゃねぇし、既にいなかったとはいえ敵を一人逃しちまってるからな…。その分の金は復興にでも回してくれ」

「そうか、気を遣わせちまってすまんな」

「気にすん「ま、待ってくれ灘!」…何だモブ野郎」

「な、なあ、健太郎は?重吾は?吉野さんは?辻さんはいるのに、三人とも一体何処にいるんだよ…?」

 

 ロアとの会話に、突如として遠藤が割り込んできた。自分が敵を招いてしまった事実に放心状態となっていた遠藤だったが、亮牙達が戻ってきた事で、勇者一行が救出されたと思い急いで駆けつけたのだ。

 だがその場にいたのは、光輝達勇者パーティの六人と、布に包まれた状態で虚な目をした辻の七人だけだ。共にパーティを組んでいた永山、野村、吉野の姿は何処にもなく、遠藤は顔を青くして亮牙を問いただす。

 

「死んだ。三人ともな」

 

 亮牙は短くぶっきらぼうにそう告げた。それを聞かされた遠藤は一瞬放心状態になると、その場にへたり込んでしまい、大声で泣き崩れた。

 

「あ、ああ…あああああああああああっ!!!」

 

こんなはずでは…。そう言わんばかりの遠藤の慟哭が周囲に響き渡る。兄貴分のメルド達だけでなく親友の永山達まで喪ったのだから、無理もないだろう。しかしこれも全て、軽率に戦場に飛び込んだ遠藤達の自業自得でしかない。今はただ、あの日光輝達にホイホイ従ってしまった自分達の浅慮さを後悔するしかなかった。

 その慟哭を聞き、漸く放心状態から立ち直った光輝達は、どう声をかけるべきか迷いながらも遠藤に近づいていった。だが…

 

ヒュンッ!!!

 

ガッ!!!

 

「ぎゃあっ⁉︎痛え!」

「り、龍太郎⁉︎だ、誰だ⁉︎」

 

 突如として飛んできた石が龍太郎の頭に直撃し、龍太郎は痛みのあまり直撃したこめかみを押さえて片膝をついた。光輝達が慌てて龍太郎に駆け寄り、何事だと石が飛んできた方向を見やると…

 

「よくものうのうと戻って来やがったなぁ!このペテン師共がぁ!」

 

 一人の青年が、憎悪に満ちた瞳で光輝達を睨みつけていた。そう、彼こそはジェットストームの襲撃時に兄を殺されながらも、ストレイフに助けられたあの冒険者だ。

 あの後無事生還した彼は、他の冒険者達と協力して生存者の救出にあたっていた。そんな中、兄達の敵を討ってくれた亮牙達の帰還を知り、せめて感謝の言葉を述べようと駆けつけたのだ。だが来てみると、目の前には更に死んだ筈の勇者一行がおり、怒りが込み上げてその場に転がっていた石を投げつけたのだ。

 親友を傷つけられたことに光輝は怒り、青年を睨みつける。

 

「おい!いきなり何をするんだ⁉︎」

「黙れ!お前らが食い止めなかった所為で、魔物達が地上まで溢れ出したんだぞ!おかげで俺の兄貴は死んだんだ!」

「此奴の兄貴だけじゃねぇ!俺の妻と娘はゴーレムに骨まで残さず焼き尽くされちまった!」

「うちの婆ちゃんは魔物に生きたまま食べられちゃったわよ!この人達がいなかったら私達も餌食になるところだったのよ!」

「今までお前達を信じてた!お前達なら俺達を魔人族から救ってくれると思ってたのに!何で肝心な時に戦ってくれなかったんだよ⁉︎俺達の家族を、ダチを、家を返せよ!!!」

「お、おいお前ら!落ち着けって!」

「そ、そうだ、止めなさい!勇者様一行に無礼だろう!」

「止めるなよ!アンタ達だって奴等の所為で同僚を殺されてるだろ!」

 

 その青年の怒りの叫びを皮切りに、集まってきた冒険者や市民達から一斉に罵声が浴びせられ、一部からは石やゴミが投げつけられる。なお、マキシマル一行は龍太郎に瓦礫がぶつけられた時点で直ぐに離れていたので一先ず安全だ。

 ロア達ギルド職員や駆けつけた駐屯騎士達は必死に暴徒と化しそうな民衆を必死に宥めようとするが、却って火に油を注ぐ結果となった。中には民衆の一人から、メルドを含めた同僚達の犠牲を指摘され、思うところがあるのか言葉に詰まる騎士もいる。本来なら町の司祭達も止めに入るのだが、生憎聖職者達は皆倒壊した教会に埋もれて圧死したり食い殺されており、今のホルアドには一人も残っていなかった。

 止まない罵声の嵐に、勇者一行は戸惑いを隠せない。中でも一番困惑の極みの中にいたのは光輝だ。

 

(何でだ⁉︎どうしていきなりこんな事になる⁉︎)

 

 昨日まで自分は勇者として上手くやって来た、何一つとして間違った事なんてしてなかった筈だった。だと言うのに今日になって全てが崩れそうになっている。

 仲間達は六人も死に、メルド達も犠牲となり、檜山は敵に寝返った末に死んだ。挙句、魔人族の女を殺したハジメと亮牙が賞賛され、今までこの世界のために戦ってきた自分達は現在、守ってきた民衆から謂れ無い罵声を浴びせられる始末だ。

 光輝にとって世の中全て上手くいく為の真理、それは勧善懲悪だ。心に根付いたその思想は事此処に至っても「正しさ」を求めており、今の状況もそれを証明できれば改善される筈だと判断した。そうして思い返したのは、魔人族との遭遇と敗北、結果として陥った混乱と窮地、そしてそこに現れた亮牙とハジメ。

 

(…あ、なんだ。よくよく考えたらおかしいじゃないか!)

 

 そして光輝のご都合主義はいつも通り、己が正しい事を証明する事の出来る結論を出した。

 

「皆、落ち着いてくれ!皆は騙されてるんだ!」

 

 突如として声高に叫んだ光輝に、狼狽えていた勇者パーティの面々も、怒りに震える民衆も、出発の準備をしようとしたマキシマル一行もどういう意味だと耳を傾ける。すると光輝は、亮牙とハジメを指差して言葉を続けた。

 

「其処にいる灘亮牙は、俺達やこの町に甚大な被害を齎したロボット共と同じ姿になるし、腰巾着の南雲ハジメも同じようなロボットを操ることが出来る。つまり、今回の騒動は全てこの二人が仕組んだ自作自演だったんだ!灘は日頃から俺に反発してたし、南雲はこう言う展開を好むオタクだからこそ、勇者である俺を陥れて自分達こそが勇者になろうと考えて、こんな卑劣な所業に至ったんだ!そもそも檜山が俺達を裏切って魔物になったのも、あの魔人族が人間の領地に入り込めたのも、その二人が仕向けたんだ!可哀想に檜山も彼女も奴等に利用された挙句、その口止めの為に殺された、皆と同じ被害者なんだ!」

 

 そう、光輝は自分が正しい事を証明するため、地球で亮牙を貶めたように、これらの騒動全てが亮牙とハジメの仕込んだマッチポンプと見做したのだ。全ては自分が正しく正義だと示す為の、明確な悪を求めて。

 最早ナルシストを通り越してサイコパス。自分達はそもそも光輝達を助けにきたなどとは一言も言ってないのに、被害妄想たっぷりの無茶苦茶な言い掛かりをつけてくる光輝に呆れ果てる亮牙とハジメ。だが光輝は一切気づかず、自分を正義とし亮牙達を悪とする為の言葉を続けた。

 

「それに奴等を良く見るんだ!女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで…。しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき灘の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そこにいる二人組ともグルになって、そう呼ぶように強制させているんだ。其奴らは女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない」

 

 挙げ句の果てにはスラッグとストレイフまでも貶め、勝手に仲間面して自分達に協力するのは当然と曰う光輝に、亮牙はもうこの場で殺しとくか、と考え始める。そんな事はつゆ知らず、ヒートアップした光輝の視線はユエ達に向けられる。

 

「君達もだ。これ以上、そんな奴等の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう!君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな?安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」

 

 そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ユエ達に手を差し伸べる光輝だったが…

 

ヒュン!!!

 

ガンッ!!!

 

「ぐわっ!!?」

 

「テメェ!魔人族を庇いやがったな⁉︎テメェこそ魔人族と内通してこの騒動を引き起こした裏切り者じゃないのか⁉︎」

「この勇者黙って聞いてりゃ、俺達の命の恩人に罪を擦りつけるつもりかよ⁉︎今すぐ謝りやがれ!」

「おまけに仲間が裏切って魔物になっただと⁉︎穢らわしい!異端者め!」

「若い娘は此奴に近づいちゃ駄目だ!この痴漢勇者に攫われちまう!」

 

 だがその迷(?)演説は、民衆を更に怒らせただけであった。静まりかえっていた広場は再び罵声の嵐が飛び交い、更に石や生ゴミが光輝目掛けて投げつけられ、その頭に直撃する。

 彼らからしてみれば、たとえ見た事ない姿になったり変わった力を使うマキシマル一行が何者であろうと、自分達を救ってくれた恩人であることに変わりはなかった。何せ光輝達が迷宮内で狼狽する中、這い出してきた魔物を蹴散らし、瓦礫に生き埋めになった人々を救ってくれたのが他ならぬスラッグとストレイフだ。助けられた多くの人々にとって、あれが自作自演などではない事はちゃんと分かっていた。

 おまけに光輝はよりにもよって、魔人族であるカトレアと裏切り者の檜山の肩を持った。魔人族は人族にとって最大の敵、おまけにこの惨劇を引き起こした奴など同情の余地もないのに「被害者」と宣い擁護などすれば、寧ろ光輝の方こそ内通者にしか見えないだろう。檜山に至っても既にその悪行はギルドに暴露されていたので、そんな奴を庇った光輝をロア達ギルド職員も「マジかよ此奴…」と侮蔑の籠もった目で見ている。

 挙げ句の果てには最後にユエ達へのあの発言も、逆に光輝は気に入った女は無理矢理手に入れようとする変態野郎だと、周囲に捉えられてしまった。そもそも亜人族を奴隷とするのも、女性を複数侍らせるのもトータスでは一般的なので、亮牙やハジメを責める者などいる筈もなかった。ユエ達に至ってはもう光輝から視線を逸らし、気色悪さのあまり素肌に鳥肌が立った腕を両手で摩っている。ティオでさえ「これはちょっと違うのじゃ…」と眉を八の字にして寒そうにしており、三人とも気持ち悪そうに亮牙とハジメの影にそそくさと退避した。

 予想とは正反対の展開に光輝は更にショックを受け、激しく混乱した末にその感情を怒りへと転化させ、無謀にも亮牙とハジメを睨みながら聖剣を引き抜いた。もう止まらないと言わんばかりに聖剣を地面に突き立てると、二人に向けてビシッと指を差し宣言した。

 

「灘、南雲っ!俺と決闘しろ!武器を捨ててあのロボットも使わずに、素手で勝負だ!俺が勝ったら、町の人達に償ってもらうぞ!そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」

 

 もはや光輝が自分の正義を証明するには、悪である亮牙とハジメを懲らしめる事しか思い浮かばなったのだ。けれど武器を使えばロボットを操る二人の方が有利だし、万一二人を殺してしまったら自分も「悪」の仲間入り、だから聖剣を地面に突き立てて素手の勝負にしたのだろう。

 あまりの醜態に、亮牙もハジメもユエ達も、ホルアドの民衆までもが呆れ果てドン引きするが、完全に自分の正義を信じ込んだ光輝は一切気づいていなかった。元々の思い込みの強さと猪突猛進さなどが合わさり、亮牙とハジメに不幸にされている大勢の人々を救ってみせると息巻き、完全に暴走しているようだ。

 すると、黙ってそれを聞いていたストレイフが、亮牙とハジメの前に出ると、そのまま無言で光輝の元に歩み寄っていった。

 

「何だい、貴方は?邪魔だから引っ込ん…グフォッ!!?」

 

 思わぬ邪魔が入ったと苛立ち混じりにストレイフに退いてくれと言おうとする光輝だったが、それより先に彼の鉄拳が顔面に突き刺さった。

 亮牙やスラッグには劣るものの、常人の腕力を遥かに凌ぐパンチを喰らい、光輝はその場に倒れ伏す。ストレイフは更に何度も光輝を蹴りつけた。その容赦なさはまさに極道そのものだ。

 やがてストレイフは攻撃をやめた。光輝は辛うじて生きていたが、顔は大きく腫れ上がり、ピクンピクンと痙攣して見るからに無様であった。そんな醜態を見下ろしながら、ストレイフはこう吐き捨てた。

 

「傀儡とは言え立派な役職貰えりゃ偉くなったと勘違いするかもしれねぇがなぁ、達者な口先だけで何でもかんでも上手くいくと思ったら大間違いだぞ」

 

 

 

 

 

「修羅の世界で粋がりたけりゃ、鬼か悪魔にでもなってからにしろ」

 

 

 

 

 

 そう吐き捨てると、ストレイフは最早光輝には見向きもせず、マキシマルの仲間達のもとに歩み寄っていく。勇者パーティは突然の惨劇に硬直しており、見ていた民衆は「かっけえ〜」や「あ〜、スカッとした」と口々に呟いている。

 

「悪かったな、二人とも。ついカッとなっちまった」

「良いんだ。寧ろスカッとしたからさ」

「ああ。じゃあバワビス、俺らはもう行かせてもらうよ」

「そ、そうか。色々すまなかったな」

 

 ロアにそう告げると、マキシマル一行は次の目的地へ出発するためにその場を後にする。元々ホルアドへはロアにイルワからの手紙を届ける為だけに寄った様なものなので、旅用品で補充すべきものもなく、直ぐにでも出発する予定だった。今回は偶々騒動に巻き込まれたので、仕方なく後始末を手伝っただけだ。

 

「ッ!ま、待って南雲君!」

「ち、ちょっと香織!待ちなさい!」

 

 もう用はないと町の出入り口付近の広場目指して彼らが移動するのを見て、香織は意識を失った光輝を放り出して、慌ててその後を追いかけ始めた。雫はそれを止められず、仕方なく一緒についていくのだった。

 後に残されたのは、気絶した光輝を必死に解放する勇者一行と、その醜態に心底軽蔑した視線を向ける民衆だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホルアドの出入り口付近、マキシマル一行がパイロに乗り込み、最後にハジメと亮牙が乗り込もうとした瞬間、香織が息を切らしながら駆けつけた。それを見て、二人とも心底嫌そうな顔をするが、直ぐに相手にせず乗車しようとする。だが香織は全く気づいた様子もなく、口を開いた。

 

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな?…ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」

「………………は?」

 

 第一声から前振りなく挨拶でも願望でもなく、ただ決定事項を伝えるという展開に、嫌な予感がして眉を顰めていたハジメの目が点になる。だが香織はお構いなしに、両手を胸の前で組み頬を真っ赤に染めながら告げた。

 

「貴方が好きです。傍にいたいの。だから一緒に行かせて」

「…テメェ、この期に及んで何巫山戯た事抜かしてやがる。どうやら死にたいようだな」

「…亮牙、先に乗ってて。僕自身でケリをつけるから」

「…分かった」

 

 普通ならロマンチックに見える光景なのだが、あれだけの事をしでかしておきながら空気を一切読まない香織の態度に、殺意を抱いた亮牙が拳を握り締めて前に出ようとする。

 しかしハジメはそれを制すると、彼に先に乗るよう促した。そして彼は、香織を真っ直ぐ見やると、はっきりこう告げた。

 

「はっきり言う。僕は惚れている女性がいるし、何より君の事は大嫌いなんだ。だから一緒にはいられない。寧ろもう二度と関わらないでほしい」

 

 ハジメは胸の内をはっきり告げた。それに対して、漸く追いつきながらも一部始終を聞いていた雫が口を挟んだ。

 

「か、香織!あんたいきなり何言ってるの⁉︎というか南雲君!香織のどこがダメなのよ!!?」

「一々口出ししないでよ八重樫さん。これは僕と彼女の問題だ」

 

 地球では見せた事のない絶対零度の視線で睨みつけて雫を黙らせると、黙り込んでいる香織に向き直って話を続けた。

 

「さっき迷宮内で僕と亮牙が言ったこと、もう忘れちゃったの?檜山に関しては同情の余地はないけど、君達四人の所為で大勢の命が失われたんだよ。彼らの遺族の殆どは空っぽの棺桶に泣き縋る事になったのに、その償いもせずに使命を放り出して僕らのチームに入ろうなんて、随分と虫が良すぎるんじゃない?」

「ち、違うよハジメ君!私はそんな打算じゃなくて本当に貴方が…!」

 

 そう、ハジメの言った通り、今回は香織達の所為で多くの犠牲者が出た。地上の被害は言わずもがな、戦死した永山達六人やメルド達騎士団の犠牲も、結果として彼女達に原因がある。

 永山達に関しては死の直前に永山自身も自覚していた通り、戦争の恐ろしさを軽んじて光輝達にホイホイ従った結果の自業自得でしかないが、それでもスクールカーストの上位に君臨していた香織達が巻き込んだ事実に変わりはない。結果として六人とも遺体の原型すら残さず殺され、辻に至っては凌辱されて心に一生モノの傷を負ってしまったのだ。

 メルド達に関しても、軍人である以上戦場で散る覚悟は出来ていた筈だし、何より半年近くも勇者一行の指導を担当しながら「殺人」に関する訓練を全くしてこなかったメルドにも今回の責任がある。だが、あの日宣言した以上、メルド達だって香織達が守らなければならなかった筈だ。それなのに彼らに勝てる筈もない敵を野放しにして、彼らの事も死なせてしまったのだ。

 それらの罪があるというのに、何事もなかったかのようについて行くなどと宣えば、自らの責任を放棄した挙句、自分を守ってくれそうな強者達に取り入って保身を図ろうとしているようにしか見えない。それに気づいたのか必死に弁明しようとする香織だが、ハジメは相手にせずに話を続けた。

 

「元々僕は地球にいた頃から君の事が苦手だった。確かに僕の行動にも非があったのは認めるけどさ、頼んでもないのにストーカーみたいに執拗に絡んできて、その所為で天之河君や檜山が中心となってクラス全体で僕を蔑んでさ…。八重樫さんもどっかのコントみたいに『悪気はないんや。許してやったらど〜や』とか言うだけだったしね…」

「そ、それは…」

 

 今度は雫が言葉を詰まらせた。彼女自身はハジメを「自分とは違い、周囲の圧力などものともしない強い人」と評価しており、香織が暴走しても受け止めてくれるだろうと見做していた。だがハジメだって普通に辛いことは辛いし嫌なものは嫌に決まっている。結局雫は幼馴染達のお目付役を自負しておきながら、ハジメに甘えていたのだ。

 

「そんな中でも、亮牙だけは僕の事を友人として、兄弟のように接してくれた。僕が虐げられた際は自分も誤解されるのを気にせず助けてくれたし、僕の力や強さもずっと前から認めてくれていた。奈落に落ちてから今日まで、亮牙は自分の正体も明かして僕に選択を委ねてくれたし、何より僕や仲間達の事を思い遣って、何度も率先して汚れ役を引き受けてくれたんだよ。…なのに、君はそんなあいつを執拗に蔑んだ挙句、あまつ化け物と罵り拒絶した。その事に一切謝罪もないのに、平然とした顔で仲間に加えろだって?巫山戯ないでよ!大体僕らを戦争に巻き込んで殺人を強要したのは、他ならぬ君達だろ!僕が手を汚す事になったのも全部君の所為なのに、いつまでもヒロインを気取るのも大概にしてよ!」

 

 今までの鬱憤を爆発させるかのようにハジメの怒りの声が響き渡る。地球で香織に付き纏われ始めた頃、亮牙に相談したら自分がぶん殴って追い払おうかと言ったので流石にそこまでやらなくても良いと止めはしたが、今となってはあの時止めるべきではなかったと後悔していた。実際、その後の光輝に着せられた冤罪騒動で、香織もまたこれを支持するようになったからだ。

 そしてトータスに転移してからは、優しい貴方が好きとか言いながら「幼馴染がやるなら私も!」と宣い自分達を戦争に巻き込み、天職の件で無能呼ばわりされた際も一切フォローなどしてくれなかった挙句、檜山に突き落とされた際は亮牙だけ早々に死亡扱いして犯人探しもしなかった。そして再会してみれば、彼の正体を知るなり化け物呼ばわりし、自分達の所業を棚に上げて非難する始末だ。

 そもそも今となっては香織達など足元にも及ばないほど自分は強くなったし、マキシマルではストレイフと自分が軍医を務めており、治療用の神水も大量にある。今更治療師などいらないし、あれだけ息巻いていたのに仲間すら守れず、あまつ自分が始めた事を放り出して逃げようとする奴に命など預けられないし、命を預かろうとも思えない。

 

「もう今回の件で、君には心底愛想が尽きた。『誰にでも優しい女神様』なんて持て囃されときながら、結局君は自分本位で無責任、他人の事なんか何一つ考えちゃいない。ただの我儘な疫病神だ。お似合いの天之河君とでも仲良くしてなよ」

「待ってハジメ君!私には貴方しかいないの!だから「くどい!近づくな!」きゃあああっ!!?」

「か、香織!!?」

 

 明確な拒絶を露わにするハジメに対して、香織は必死に宥めようと歩み寄るが、次の瞬間ズボッ!と音を上げてその姿を消した。ハジメがすかさず靴に仕込んだ魔法陣を使い、錬成で掘り起こした深さ4m程の落とし穴に落ちたのだ。彼は落とし穴を瞬時に元の石畳に戻すと、念には念をと宝物庫から転送し仕込んでおいた麻痺手榴弾を起爆させた。

 一応、ほんの少しばかりの情けで空気穴は開けておいたが、それを知らない雫は狼狽する。何するのよ!と言わんばかりにハジメを睨むが、直ぐに絶対零度の視線で睨み返され、再び狼狽えてしまう。

 

「八重樫さんさぁ、いつまでこんな事続けるつもりなの?」

「え…?」

「いつまで見苦しい身内贔屓を続けるつもりなのかって言ってるんだよ。相手を思いやるのと甘やかすのじゃ意味が違う。幼馴染だからって天之河君や白崎さんに遠慮して流されるままじゃ、いずれ君も永山君達の二の舞だよ」

「そ、それは…」

 

 そう言われた雫は黙り込んでしまった。彼女自身、幼馴染だからと光輝や香織を甘やかし続けた結果が、この事態を招いてしまった事は嫌と言うほど理解していた。しかし、八重樫流は身内を見捨てないという流儀故に、今更光輝達を見捨てる事も出来ず、かと言って今更どう言えば良いのか分からず、ハジメの言葉に何も言い返せなかった。

 その姿にハジメは呆れたように溜息を吐くと、もう相手に出来ないとそのままパイロの運転席に乗り込み、ホルアドの町を後にした。雫は黙ってそれを見送った後、仕方なしと言わんばかりに香織が落ちた落とし穴を掘り始めるのであった。

 大混乱に見舞われながらも、皮肉な事に天気は快晴。マキシマルが次に目指すはグリューエン大砂漠にある七大迷宮の一つ「グリューエン大火山」だ。

 

 

 

 

 




原作で絡んでくるもハジメにタマタマ潰されたチンピラどもは、本作では皆クイックストライクとジェットストームに食い殺されました(笑)

本作では、原作では犠牲者が軍人であるアラン達だけでしたが、「もしカトレアが地上にまで被害を及ぼしていたら?」というifを描くとともに、原作では描かれなかった香織へのアンチを個人的に強く描いてみました。
原作では想い人と漸く再会を果たし、二度と離れたくないから困難な道を選ぶ、と描かれておりました。ですが、本来守らなければならなかったアラン達を死なせ、光輝と同様にクラスメイトに「戦争」という選択を選ばせてしまった責任があります。おかげでハジメは奈落に落とされ、片目片腕を失う重傷を負い、更に本来の己を殺すという選択を取らざるを得なくなりました。
ですが香織は「好きな男について行くから後はよろしく〜」と言わんばかりに責任を放棄し、ハジメを巻き込んで結果的にそんな目に遭わせた謝罪すらなく、まるで自分を守ってくれそうな強者に取り入る尻軽女にしか見えませんでした。あまつ、雫も永山組もその事を一切指摘せず呑気に盛り上がる始末で、香織の自己中ぶりを強調しただけにしか見えませんでしたね。どいつもこいつも自分達の所為でアラン達が死んだのを分かっていたのやら…。





感想、評価お待ちしております。

本作での雫について現在検討中なのですが、読者の皆様はどんな展開が良いですか?

  • 光輝の被害者だし救済してあげて(泣)
  • 取り敢えず主要メンバーのヒロイン入り
  • 救済する必要なし。悲惨な末路にしろ
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