グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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『ビースト覚醒』、噂ではビースト戦士達がスキャンする化石や、スカージのビークルモードらしき車両が撮影現場で目撃されているそうです。どうなるか楽しみです。

前話は結構アンチが強めだったので、原作ファンの方々から怒りを買うのではと心配してましたが、意外と好評で何よりです。
まあ二次創作でどれだけ改悪しても、此奴なら絶対これくらいは言う、って思えるのが光輝なんですよね(苦笑)



狂気の胎動

 マキシマル一行がホルアドを出発してから暫く後、勇者一行は駐屯騎士達に護衛され、なんとか今まで利用してきた王国直営の宿屋まで逃げ帰る事が出来た。不幸中の幸いか、この宿屋は昼間の襲撃の被害には晒されなかったので、心身ともに疲弊した勇者一行が避難するにはもってこいであった。

 もう夜更けだというのに、未だ怒りの収まらない民衆の一部が「さっさとこの町から出てけ!」と宿屋の中にいる勇者一行に罵声を浴びせており、守衛の騎士達が必死に諫めている。辛うじて暴動に発展しないのは、昼間に光輝がストレイフにぶちのめされて皆の気分が晴れたのと、怒りの捌け口として亮牙が持ち帰ったカトレアの首があるからだ。彼女の首は現在町の中心で晒されており、大抵の民衆はそちらに怒りをぶつけているか、負傷者の手当てに必死なのかである。

 ストレイフから手加減されたものの、今尚気絶している光輝は龍太郎が付き添って看病し、その他の六人は皆個別の部屋に篭っている。皆心身共に疲弊しているから、一旦一人になった方が気が休まるだろうと考えた恵里の判断だ。明日は今回の騒動の報告のため、早急に王都へ帰還せねばならず、各々は一人きりで夜を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その宿の一室、防音となっているために外に漏れる事はないが、呪詛の声を上げて荒れ狂う者が一人いた。

 

「クソッ!クソッ!クソッ!あのキモオタに半グレ野郎めぇ!あれだけ女囲ってるんだし、戻ってきたなら一緒に連れてきゃ良いのにぃ!おまけにメルドも檜山もあっさりくたばりやがって!あれだけ細心の注意を払って準備してきたボクの計画が滅茶苦茶じゃないか!!!」

 

 怒りに震えるその者の正体は、勇者パーティの一人、中村恵里だ。

 そう、半年近く前、亮牙を突き落とした犯人が檜山である事にすぐに気付き、その件で脅迫して自分の手駒にしていたのは、他ならぬ彼女だったのだ。そこまでして彼女が企んでいた計画というのは、魔人族に寝返って意中の相手である光輝を手に入れる、というものだ。

 このような計画に至った経緯は、幼少期の恵里の身に降りかかった悲劇が関係している。恵里は元々両親と三人で暮らしていたが、5歳の頃に彼女を庇って父親が交通事故で他界してから、彼女の人生は大きく狂い始めてしまった。

 恵里の母は元々は裕福な家庭の生まれだったのだが、夫に惚れ込んだあまり周囲の反対を押し切り、駆け落ち同然に結婚したため、夫には依存のレベルでぞっこんだった。故に最愛の人を喪った悲しみは、その原因となってしまった娘への憎悪へと変わり、母は恵里を虐待するようになった。恵里自身は自分が父の死の原因である罪悪感から黙ってそれに耐えるしかなく、母の虐待も巧妙だったこともあり、周囲はそれを見抜く事が出来なかった。そんな日々故に当時の彼女の表情は暗く、友達も一人もいなかった。

 追い討ちをかけるように恵里が9歳の頃、母は新たな男を恋人にしたのだが、見るからに柄の悪いその男は事もあろうに恵里にまで色目を使ってきた。幼心に危機感を抱いた彼女は、髪を短く切り一人称をボクに変えるなど、まるで少年の様な振る舞いで必死に自分を守ったが、その所為でどんどん孤立し、ましてやその程度で何とかなる筈もなく、母の留守中に危うく男から性的虐待を受けそうになってしまった。幸い、近所の人達も男を警戒していた事から、恵里の悲鳴を聞いて直ぐに通報があったため、男は逮捕された。これで漸く母も正気に戻ってくれると期待した恵里だったが、待っていたのは「お前があの人を誑かした」などという筋違いな罵倒であった。

 恵里は全てに絶望し、近くの河川敷に赴いて投身自殺を図ろうと考えたが、其処で彼女は()()()()運命の出会いを果たした。そう、幼少期の光輝だ。

 しつこく事情を聞いてくるので、恵里は今までの経緯をかなり要約して説明すると、光輝は今と変わらず碌に理解もしてないくせに勝手に自己解釈して、ある意味呪いの言葉をかけた。

 

『もう一人じゃない。俺が恵里を守ってやる』

 

 全てに絶望し、死すら考えていた恵里にとって、その一言は強烈だった。それこそ万病を治す良薬どころか、全てを蝕む猛毒の如く。

 それからは学校に行ってからも、友達が増えれば何とかなるだろうという光輝の浅慮さから、誰かしらが話しかけてくれるようになった。故に母と同様、恵里は光輝の虜となってしまった。故に光輝と引き離されてなるものかと、児童相談所が母の虐待を疑って捜査に及んだ際は反吐が出そうになるくらい「仲の良い母娘」を演じ、今までの報復とばかりに脅したら、母は蒼白になり悲鳴を上げて逃げ出していった。

 しかしそれでも、いつも光輝の傍には、忌々しい白崎香織と八重樫雫がいた。今まで邪魔になりそうな奴は何人も秘密裏に破滅させてきたが、この二人だけは光輝にとってお気に入りであり、正に正真正銘のヒロインといった存在だったので、引き離す事はできなかった。唯一、香織の方は南雲ハジメに惚れ込んでいるのを知ってから、二人をくっつけようとしたり、邪魔者となる灘亮牙を破滅させようと画作したが、肝心のハジメが香織を好いていなかったこともあり、中々上手くいかなかった。

 そんな中、今回の異世界転移は、恵里にとってまたとないチャンスとなった。地球の法律など気にする必要のないこのトータスなら、地球では出来なかった手段を平然と行なって、今度こそ愛しの光輝を自分のモノに出来る。そう考えた彼女は、ステータスプレートで判明した自分の天職・降霊術士を大いに活用する事にした。

 降霊術士は、端的に言えばファンタジーにおけるネクロマンサーの事だ。恵里は周囲には自分に降霊術が苦手だと嘘を言い、亮牙を突き落とした件で弱みを握った檜山に、従えば香織をくれてやると言って手駒にした。そして、一応はチート持ちの一人である檜山を使って王宮の騎士達を密かに暗殺していき、自らの降霊術で傀儡兵、簡単に言えばゾンビへと変えていったのだ。

 無論、この所業は中々リスクが大きいのだが、恵里には異世界のチート持ちの一人として天才的な才能があった。彼女の降霊術でゾンビと化した騎士達は、やや覇気がない事を除けばちゃんと受け答えもできるので、誰もが既に死んでいるなどとは気づきもしなかった。おまけに今まで自分を偽り続けてきた恵里の嘘を誰も見抜ける筈もなく、彼女の「自分は降霊術が苦手」という嘘を信じて疑いもしなかった。

 おかげで彼女は、どんどん配下のゾンビを増やしていった。狙いは、この大量のゾンビ兵を取引材料として魔人族に取り入り、自分の身の安全を確保する事だ。そして光輝を降霊術で自分に忠実な存在へと変え、いつまでも二人っきりで愛の世界に浸ろうと…。

 しかし今日、その計画に綻びが生じ始めた。遂に魔人族との接触を果たしたが、相手側の予想だにしない戦力に危うく殺されかけた。おまけにこの戦いで、手駒である檜山が醜い化け物になった挙句に死亡し、ゾンビとすれば最高の切り札になったメルドも遺体すら残さず戦死してしまった。生きていたハジメと亮牙のおかげで何とか命は助かったが、邪魔者の一人である香織を連れていってくれればよいのに、結局置き去りにして何処へと去ってしまった。

 

「クソッ!ある程度傀儡兵は集まったけど、ここで檜山とメルドが殺されたのは痛かったな…!おまけにあの女の仲間に接触しようにも、肝心の死体があの状態じゃ降霊術は使えないし…!灘の奴、余計な事しやがって!」

 

 やや落ち着きを取り戻しつつも、まだ怒りの収まらない恵里は、亮牙への呪詛の言葉を吐く。檜山が死んだ以上、更にゾンビを増やすには自分でやっていくしかないし、遺体がない以上メルドをゾンビとする事はできない。おまけに他の魔人族と接触するために降霊術でカトレアの亡骸を利用しようにも、彼女の首から下は亮牙に焼き尽くされてしまい、その首も町の中心で晒し首にされている。勇者一行の一人として民衆から恨みを買ってしまった今の自分では、迂闊に近づく事などできない。

 再び計画を練り直す事になってしまった苛立ちから、髪を乱暴に掻きむしる恵里。そんな彼女に突然、謎の声が囁く。

 

『そんなに我々の軍門に降りたいか?』

「っ⁉︎だ、誰⁉︎」

 

 恵里はハッとなって声がした方を振り向くと、テーブルの上に彼女に取って忘れられない存在がいる事に気づいた。小型の虫型ロボット、インセクティコンだ。ただしこの個体は昼間、恵里達の居場所をカトレア達に漏らした個体ではなく、遠藤に張り付いて地上に這い上がった個体だ。あまりに小さかった故に、マキシマル一行に殲滅される事なく生き延びていたのだ。

 思わず身構える恵里だったが、インセクティコンはその体躯に見合わない、人間大の立体映像を瞳から映し出した。彼女の前に映し出されたのはサイクロプスの様な単眼の巨人の顔、そう、ショックウェーブだ。

 

「お前は、昼間の…」

『正直我々の戦力は足りているのだが、論理的に考えて手駒は少しでも多い方が良い。魔人族の代表には私から紹介してやっても良いが、どうする?…まあ、今の貴様に私との協力関係以外の選択肢はあり得まい』

 

 無機質な声ながらも明らかに上から目線の見下した態度に、恵里は内心怒りに震える。皮肉にもこの状況は、彼女が檜山を脅して下僕にした状況と殆ど同じだった。まさか自分が同じ立場になってしまうとは、あの時は思いもしなかった。

 しかしこんな状況となってしまった今は、恵里にとって取るべき選択は一つしかなかった。故に彼女は、立体映像のショックウェーブにこう返答した。

 

「…分かったよ。その取引に乗る。その代わり、ボクの身の安全は保証してもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、此方は香織の部屋。現在香織はたった一人、今までにないくらい生気の失われた表情で、目に見えて落ち込んでいた。

 ハジメによって落とし穴に落とされた挙句、麻痺性の手榴弾まで投下されて意識を失った香織は、あの後雫によって掘り起こされた後、彼女に抱えられて光輝達のもとへと戻り、共に宿屋まで逃げ帰ったのだ。

 幸い光輝と違い早く目覚めたのだが、目覚めた時はかなり取り乱しており、今直ぐにでも宿屋を抜け出してハジメの後を追いかけようとした程だ。雫が必死に宥めて制止した事で何とか一旦は落ち着いた香織だったが、その後は一気に塞ぎ込んでしまった。あれ程好意を抱いていたハジメから明確な拒絶を受けた挙句、まるでゴミ箱に捨てられるゴミのように落とし穴に落とされた事が相当ショックだったのだ。

 故に香織は、その身を案じて共に休もうと言う雫の提案も断り、今なお気絶している光輝の治療もせずに、そのまま部屋に引き篭もってしまった。雫も鈴も心配していたものの、彼女達自身も今日の騒動の所為でかなり追い詰められていた事もあり、仕方なく香織自身の気持ちに整理がつくまでそっとしておく事にした。

 

「どうして…ハジメ君…」

 

 目を涙で潤ませながら、香織はハジメの名を呟いた。どうしてこんな事になってしまったのか、香織には理解出来なかったのだ。

 今まで大抵の人間が自分に親切にしてくれ、自分も誰にでも分け隔てなく優しく接してきたから、誰かから嫌われるなんて経験などなかった。無論ハジメに対してもそうしてきたし、随分と心を砕いた心算で、彼からの好感度はそれなりに高いと思っていた。彼が奈落に落ちた後もその生存を信じ続け、そして遂に今日、多くの力を得て救いに来てくれた彼と再会を果たした。

 無論今までのハジメとは変わっていた事はショックだったが、知らない部分は今までのように傍にいて知っていけばいいのだ。あんな連中に想いの強さで負けるわけがない、自分が傍に加わって何が悪い。そう考えたからこそ、決意と覚悟を抱いて彼に想いを伝えたのだ。

 しかし、ハジメから帰ってきたのは明確な拒絶の言葉だった。地球にいた頃から君が嫌いだった、もう関わってほしくない。香織にとっては予想外かつ、決して聞きたくなかった言葉だった。

 

「何が…駄目だったんだろう…?私の…所為なの…?私には…ハジメ君の傍にいる資格がないの…?」

 

 そう呟きながら香織は、ハジメに拒絶された理由を自問自答する。日頃からハジメに辛く当たる光輝を止められなかったからか。それとも「無能」と嘲笑されていた時に庇ってやれなかったからだろうか。もしくはあの顔の傷を負った際に、傍にいて癒してあげられなかったからだろうか。あの裏切り者の檜山を、今日の今日まで仲間として仲良く接していたからだろうか。いや、もしくはあの灘亮牙に毒されているのだろうか…。

 未だに自分の一方的な愛情の押し付け、ハジメの優しさに惚れたなどと言いながら簡単に戦争参加を表明して彼を巻き込んだ事、そしてハジメの「大切」の一人である亮牙を疎んでいた事、それらがハジメに愛想を尽かされる原因だという事には全く気づかない香織。どうすればやり直せるのか、どうすればハジメに振り向いてもらえるのか、必死に考えを巡らせるものの、中々良い考えは浮かばず、再び瞳を潤ませたその表情は更に暗くなる。

 

「ほぅ、随分と強い憎しみを抱いているな」

「…え?」

 

 突如として、禍々しい男の声が耳に響き、意気消沈していた香織は顔を上げる。部屋中を見渡してみたが、誰もいる様子はない。だが、謎の声は構わず香織に語りかける。

 

「誤魔化す事はない。今のお前は強い憎しみの炎を滾らせている。そう、あの灘亮牙に対してな」

「っ、灘君…いや、灘亮牙…!」

 

 謎の声の言葉から亮牙の名が出て来て、ハジメに拒絶された悲しみに打ちひしがれていた香織の中に、どす黒い負の感情が浮かび上がる。そう、怒りだ。

 今思い返せば、あの化け物はいつもハジメに付き纏っており、自分がハジメと仲良くなろうとする度に邪魔をしてきた。ハジメの事を知りたくて、唯一の友人らしいという事から話を聞いてみようと最初に話しかけてみた時も、

 

「話しかけるな、うざってぇ」

 

 と酷い言葉を浴びせてきた。今まで誰もが親しくしてくれた香織にとって、ここまで明確に拒絶されたのは初めての経験であり、以来亮牙に対しては苦手意識を持っていた。その後も容赦ない粗暴な面や大抵の人間と距離を取るぶっきらぼうな態度、()()()()()()()()()()所為なのか周囲に疎まれるハジメの姿に、徐々に亮牙への苦手意識は嫌悪へと変わりつつあった。

 このトータスに転移してからも、自分達は困っている人を助け、皆で協力して地球に帰ろうとクラスをまとめ上げる中、あの無頼漢はまたしてもハジメを巻き込んで身勝手な事をし始めた。挙句、余計な恨みを買いまくってその仕返しをされただけに留まらず、ハジメを巻き添えにした。戻ってきた時には、ハジメは半年近くも毒された所為なのか、平然と殺人を行うようになってしまい、自分は酷い言葉を浴びせられ拒絶されてしまった。

 奴さえいなければ、ハジメは自分を受け入れてくれた筈だ。奴の所為で自分の恋路は滅茶苦茶にされてしまった。そう考えているうちに、香織の怒りはだんだん強くなり、亮牙への憎悪へと変わっていく。それを見透かしたように、謎の声は問いかけた。

 

「人間の娘よ、力が欲しいか?」

「…力?」

「そうだ、力だ。本来のお前の運命を狂わせ、愛する者と引き離した、あの灘亮牙に復讐する力だ。そして同時に、お前と結ばれる筈だったあの小僧を取り戻す力だ」

「ハジメ君を…取り戻せる…?」

「この俺に全てを委ねろ。そうすれば力を与えてやる。邪魔者を全て消し去り最愛の者と結ばれる、お前が辿る筈だった未来を取り戻す力をな」

「……」

 

 旧約聖書でアダムとイブを唆した蛇の如く、甘い囁きが香織の傷ついた心を蝕んでいく。本能がこの声に従ってはならないと警鐘を鳴らすが、今の香織の心はその警告に従える状態ではなかった。

 もし灘亮牙さえいなければ、自分とハジメは結ばれていた筈だ。もし力があれば、奴を含めた邪魔者を排除して、ハジメの心を取り戻す事が出来るかもしれない。歪んだ欲望に支配された香織は遂に、禁断の果実に手をつける道を選んだ。

 

「お願い…します…!あの化け物を倒す力をください…!何より奴の呪縛からハジメ君を救う力を!」

「良かろう。俺がお前の復讐を果たしてやる」

 

 謎の声がそう告げた瞬間、香織の首筋にチクリと痛みが走る。一匹インセクティコンが、彼女のうなじにかみついたのだ。この個体こそ、カトレアとの戦いで勇者パーティの居場所を彼女とディセプティコンに伝えた個体だ。マキシマル一行の攻撃を掻い潜り、今まで密かに彼女の服に張り付いていたのだ。

 

「う…ぐ…ぎゃあああああああ!!!」

 

 最初は虫刺され程度にしか感じなかった香織だが、徐々に痛みは全身へと広まるとともに強くなる。やがて身体中がまるで溶鉱炉に沈められたかのような熱と痛みに支配され、流石の香織も堪らず悲鳴を上げた。

 

「香織!一体どうしたの⁉︎何があったの⁉︎」

「カオリン!大丈夫なの⁉︎返事をして⁉︎」

 

 防音となっているとは言え、所詮は地球の現代建築に比べれば古い造り故、悲鳴は外にも響いた。偶然、香織の様子を伺いに来た雫と鈴は、あまりの凄まじい悲鳴に大慌てで何度もノックをする。返答がないため、ドアを突き破ってもらうために龍太郎を呼んでこようとする二人だが、やがて悲鳴が収まると、ドアの鍵を開けて香織が何事もなかったかのように出てきた。

 

「もうっ、二人ともそんなに慌ててどうしたの?」

「それはこっちの台詞だよ⁉︎いきなり凄まじい悲鳴が聞こえてきたんだから、何事かと思ったじゃん⁉︎」

「アハハハ、心配させちゃってごめんね。今日は色々あり過ぎた所為で疲れてたから足攣っちゃって、思わず悲鳴あげちゃったの…」

「あ、足攣っただけぇ⁉︎も〜カオリン、心配させないでよ〜」

 

 悲鳴の原因が足を攣った所為だと苦笑しながら説明する香織に、鈴は呆れたように溜息を吐くも、何事もなかった事に安堵する。雫も同じ気持ちのようだが、ふと親友を見てある事に気づいた。香織の瞳が、まるで紅蓮の炎のように真っ赤となっていたのだ。

 

「ねえ香織、貴方なんだか目が赤くなってるんじゃない?」

「さっきまで泣いてたから多分その所為だよ。今日は色々あったしね…」

「そうね…。取り敢えず今日はもう寝ましょう。明日は早いから、少しでも疲れを取らないと…」

「うん、二人ともお休み」

 

 気になって問いただしてみる雫だが、香織からそう返答され、そんなになるまで泣いてしまった理由も理解できたのでそれ以上は追求しなかった。明日も早いこともあり、そのまま鈴と共に自室へと戻る事にした。

 しかし、雫が気づいた違和感は気の所為ではなかった。香織の瞳が赤くなっていたのは、泣き過ぎて充血したわけではなかった。寧ろその色は、昼間彼女達勇者パーティを殺そうとした、ディセプティコン達の瞳の色と同じ色だった。

 

「まずは一つ」

 

 一人きりとなった部屋の中で、香織は今までした事のない邪悪な笑みを浮かべてそう呟いた。彼女に噛みついたインセクティコンは、まるで役目を終えたかのように息絶えていたが、うなじの噛み跡にはその長髪で隠れて見えないものの、薄らとディセプティコンのエンブレムを象った焼印のようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、ミュウの故郷である海上町・エリセン。ミュウがフリートホーフに攫われてから、この町は現在、人間族にとって地獄のような惨劇が繰り返されていた。

 

「サルゼ隊長!また奴が現れました!王都から来た援軍は軍艦ごと沈められて全滅です!」

「何だと!クソッ!我が国の精鋭部隊が全く歯が立たないとは!」

 

 慌てて駐屯所内に駆けつけてきた部下からの報告に、ハイリヒ王国駐在部隊の隊長・サルゼは悔しそうに悪態を吐く。

 数ヶ月前、海人族の幼女が攫われ、その母親が深傷を負わされて以来、まるでワニとも竜とも形容すべき謎の巨大な怪物が度々海から上がってきてはエリセンを荒らすようになった。しかもこの怪物、海人族には一切手を出さないのに、人族に対しては蛇蝎の如く嫌悪しているのか、老若男女問わず殺しまわっているのだ。

 おかげでエリセンの人族の大半が命を落とし、辛うじて生き延びた町民はエリセンではもう暮らせないと他の町に亡命していった。唯一残ったサルゼ達駐在部隊はこれまで何度もこの怪物を討伐しようとしたが、如何なる魔法も武器も全く通用せず、出動した軍艦も背中に生えた大量の棘で船底を切り裂かれ沈められる始末だ。

 そして今回、最早自分達だけでは手に負えないと、王都に報告して精鋭部隊を送ってもらったが、その希望も一瞬で絶たれてしまった。サルゼは悔しそうに机をドンと叩くと、耐え難い屈辱に震えながらその場にいる部下達に指示を出した。

 

「…悔しいが、エリセンを放棄する。あの化け物は我々の手に負えん。王都に戻って陛下に説明し、勇者様達に奴を討伐してもらうしか──」

 

 サルゼの言葉はそこで途切れた。突如として大量の巨大な杭が駐屯所に降り注ぎ、駐屯所は容赦なく破壊されてしまった。当然中にいたサルゼ達駐在部隊は、バラバラの肉片と化していた。これでエリセンの人族は、遂に一人もいなくなってしまった。

 その光景を浜辺から見ていた者がいた。そう、一連の騒動を引き起こしてきた怪物だ。その外見は地球人が見れば、恐竜の一種スピノサウルスに似ている事に気づいただろう。だが、その大きさは通常のスピノサウルスの倍以上あり、全身は鱗ではなく金属で覆われている。背中にはスピノサウルスの特徴である帆の代わりに大量の棘が生えており、どうやらこれを発射してサルゼ達を殺したようだ。

 

「グルゥオオオオオッ!!!」

 

 怪物は大きな唸り声を上げる。だがその声は、害獣どもを駆除し尽くした喜びと言うより、寧ろ大切なものを失った悲しみに満ちた悲痛な声だった。

 

 

 

 

 




何とか本章最終話まで書けました。結構長引いてしまい、誠に失礼しました。

感想、評価お待ちしてます。

本作での雫について現在検討中なのですが、読者の皆様はどんな展開が良いですか?

  • 光輝の被害者だし救済してあげて(泣)
  • 取り敢えず主要メンバーのヒロイン入り
  • 救済する必要なし。悲惨な末路にしろ
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