グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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前話で伝え忘れましたが、本章終了までの期間で本作における雫の行く末をアンケートで決めたいと思います。
宜しければご参加ください。

前話まで結構アンチ続きで、一部の方にとっては胸糞な展開続きだったかもしれませんが、今回から再びギャグ&下ネタ多数の展開に戻ります。
寧ろこちらの方が不快になってしまうかもしれませんが、ご了承ください。


砂漠での出会い

 トータス最大の砂漠地帯・グリューエン大砂漠は、まさに「赤銅色の世界」と表現する以外にない場所だった。砂の色が赤銅色なのは勿論だが、砂自体が微細なのだろう。常に一定方向から吹く風により易々と舞い上げられた砂が大気の色をも赤銅色に染め上げ、360度、見渡す限り一色となっているのだ。

 また、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。刻一刻と表面の模様や砂丘の形が変わっていく様はまさに、砂丘全体が「生きている」と表現したくなる程だ。照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む砂の大地が強烈な熱気を放っており、気温は軽く40度を超えているだろう。舞う砂と合わせて、旅の道としては最悪の環境だ。

 もっとも、それは「普通の」旅人の場合である。マキシマル一行には全く問題ではなかった。

 彼らは現在、そんな過酷な環境を、知ったことではないと言わんばかりにパイロに乗って突き進み、砂埃を後方に巻き上げながら爆走していた。道なき道だが、それは車内に設置した方位磁石が解決してくれている。

 

「…外、すごいですね…。普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです」

「全くじゃ。この環境でどうこうなるわけではないが…。流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ」

「なんだデカパイ。ド変態のテメェなら喜んで飛び込むと思ってたんだがな」

「余計なこと言うな馬鹿、ガチでお嬢が飛び出したらどうすんだ…。ほらよ、チェックメイトだ」

「げっ、また俺の負けかよ…」

 

 車内の後部座席で窓にビシバシ当たる砂と赤銅色の外世界を眺めながら、シアとティオがしみじみした様子でそんなことを呟いた。いくらティオがドMの変態でも、流石にこの環境は鬱陶しいだけらしい。

 そんな彼女に亮牙が憎まれ口を叩き、ストレイフがツッコみを入れる。二人は現在、暇潰しにとチェスをやっていたが、何度目かの勝負でまたストレイフが勝利を収めたようで、亮牙は悔しそうに顔を歪めていた。

 

「前に来たときとぜんぜん違うの!とっても涼しいし、目も痛くないの!パパは凄いの!」

「うん、ハジメ凄い。でも俺スラッグ、もっと凄い!だから俺、ミュウの分のジュースも貰うぞ!」

「あっ⁉︎おやぷん、ずるいの!ミュウも飲むぅ~!」

 

 同じく後部座席の窓際の席で座るミュウが、以前、誘拐されて通った時との違いに興奮したように万歳して、快適空間を生み出したハジメにキラキラした眼差しを送っていた。

 無理もないだろう。海人族であるミュウにとって砂漠の横断は、多種族に比べて非常に過酷なものだった筈だ。四歳という幼さを考えれば、むしろ衰弱死しなかったことが不思議なくらいだ。そんな環境を耐えてきた彼女からすれば、ギャップも相まって驚きもひとしおだろう。なにせ、この車両、きちんと冷暖房完備なのである。

 そして、ハジメを称えるミュウに賛同しながら、スラッグは砂漠では望めるはずもない冷たいジュースを取り出して飲み始めた。それに気づいたミュウは、今度は横取りされてなるものかと、慌てて自分の分のジュースを確保した。ちなみにこのジュースは、やはり車内備え付けの冷蔵庫から取り出したものだ。

 

「も〜スラッグ、大人気ないことしないでよ…」

「ふふっ、ハジメも、すっかりパパ。私達の未来も明るい」

「茶化さないでよユエ。ミュウ、僕らの分も貰える?」

「おっ、ミュウちゃん。俺達の分も頼むよ」

「んみゅ!分かったの!」

 

 運転席でハンドルを握りながらハジメは、大人気ないスラッグを嗜める。ミュウにパパと呼ばれるのにはまだ少し抵抗感こそあるものの、以前と比べてあまり気にしなくなっていた。

 そんな恋人の姿を、助手席に座るユエは微笑ましげな表情で茶化す。照れ臭くなったハジメは話題を変えようと、ミュウに自分と彼女の分も取ってくれと頼み、ストレイフも自分を含めた残るメンバーの分も便乗して頼んだ。ミュウは冷蔵庫を開けて各々にジュースを配っていくが、一人分だけ足りない。亮牙の分をスラッグが飲んでしまったのだ。

 

「おいスラッグ⁉︎テメェ俺の分まで飲みやがったな⁉︎」

「ワハハハハ!俺スラッグ、早い者勝ちだ!」

「巫山戯んなテメェ!返しやがれ!」

「俺スラッグ、もう飲んだものは返せない!」

「お前ら、いい歳こいて下らない喧嘩するんじゃねぇよ…」

「ったく二人とも、ミュウの教育に悪いから止めてよ…」

「ん、本当に大人気ない…」

「も〜亮牙さん、私の半分上げますからその辺にしといてくださいよ」

「わ、妾の分もご主人様に上げるのじゃ!」

 

 怒った亮牙がスラッグに食ってかかり、しょうもない言い争いが始まった。今ではこうした喧嘩は日常茶飯事なので、他のメンバーは呆れながらも二人を宥めていた。

 しかし今回は意外なことに、ミュウが二人の言い争いを止めた。彼女がもの凄い爆弾発言をしたからだ。

 

 

 

 

 

「う~、おやぷんもぐりみぃも喧嘩しちゃめっなの!ぐりみぃはジュースがないなら()()()()()()()()()()()()飲めばいいの!

 

 

 

 

 

 一行で最年少のミュウのその一言に、車内の空気が凍りついた。スラッグだけは頭に?マークを浮かべてポカンとしていたが。

 やがて静寂を破り、ティオがミュウを膝に乗せて問いかけた。

 

「み、ミュウよ。ご主人様はシアの乳を吸えば良いとはどう言う意味じゃ?」

「んみゅ。この前の夜、起きた時に見たの。ぐりみぃがシアお姉ちゃんのおっぱい吸ってたの。だから今日もおっぱい飲めばいいの!」

「「!?!?」」

 

 どうやら亮牙とシアが夜中にお楽しみ中の光景の一部を、偶然目覚めたミュウが目撃していたらしい。幸い当人が幼いこともあって、シアが亮牙に授乳しているのだと勘違いしたようだ。

 その事実を知ったシアは、穴があったら入りたいと言わんばかりに顔を真っ赤にして、耳を折り曲げて顔を隠してしまった。亮牙は顔こそ真っ赤になってはいないものの、ミュウにどう説明すべきか考えを巡らせるが、その前にストレイフの拳骨が頭に直撃した。

 

「こんな幼い子どもに何てもの見せてんだこの馬鹿!!!」

「痛ぇ⁉︎殴る事ねぇだろうが!事故だろ事故!」

「シアちゃんは兎も角、お前が自重しなさ過ぎなんだよ!!!」

「そうじゃご主人様!そんなに乳が恋しいのなら、妾の乳だってあるというのに!」

「ちょっ⁉︎ティオさん!さり気なく亮牙さんを誘惑しないで下さい!亮牙さんも見ちゃ駄目です!」

「「二人とも、後で話があるから…」」

 

 今度は亮牙とストレイフの喧嘩が始まった。それに便乗してティオがさり気なく自らの胸の谷間を強調して亮牙に見せつけ、シアがハッとなって亮牙の目を塞ぎにかかる。後部座席は先程よりも騒がしくなってしまった。

 運転席と助手席ではハジメとユエがらひとまず落ち着いたら、亮牙とシアへの説教を考えていた。自分達も人の事をとやかく言える立場ではないのだが、この二人のバカップルぶりも大概なものなので、少し自重させないとミュウの教育に悪いと判断したのだ。ティオについては、元からただの変態なので放置したが。

 

「んみゅ、みんなまた喧嘩し出しちゃった…。おやぷん、どうしよう?」

「俺スラッグ、馬鹿馬鹿しいから放っとけば良い……ん?お前ら、喧嘩止めろ。俺スラッグ、あっちの方で何か変なの見つけた」

 

 スラッグと亮牙の喧嘩を宥めようとしたら、今度は別の喧嘩が始まってしまったことにキョトンとするミュウに対して、同じくあまり意味を理解していないスラッグはどうでも良さげだ。暇潰しに窓の外の景色を眺めていた彼だったが、不意に何かを発見したらしく、口喧嘩を続けていた皆に注意を促した。

 亮牙達が言われるままにそちらを見ると、どうやら右手にある大きな砂丘の向こう側にミミズ型の魔物が相当数集まっているらしく、砂丘の頂上から無数の頭が見えていた。

 

「何だありゃ?ドリラーか?」

「いや、違うな。あれはサンドワーム、トータスの在来種だ」

 

 その姿からドリラーかと思った亮牙がそう呟くが、ストレイフが直ぐにその正体に気づいて訂正する。

 その魔物・サンドワームは、平均的な全長は20m、最大のものは100mにもなる大型の魔物だ。トータスではこのグリューエン大砂漠にのみ生息する固有種で、普段は地中を潜行していて、獲物が近くを通ると真下から三重構造のずらりと牙が並んだ大口を開けて襲いかかる。察知が難しく奇襲に優れているので、大砂漠を横断する者には死神のごとく恐れられている。

 幸い、サンドワーム自身も察知能力は低いので、偶然近くを通るなど不運に見舞われない限り、遠くから発見され狙われるということはない。なので、砂丘の向こう側には運のなかった者がいるという事なのだが…

 

「ん?なんでアイツ等、あんなとこでグルグル回ってんだろう?」

 

 そう、ただサンドワームが出現しているだけなら、別にスラッグも疑問顔をして亮牙達に注視させる事はなかった。ハジメ達の感知系スキルならサンドワームの奇襲にも気がつけるし、パイロの速度なら直前でも十分攻撃範囲から抜け出せるからだ。異常だったのは、サンドワーム達に襲われている者がいるとして、何故かサンドワーム達がそれに襲いかからずに、様子を伺うようにして周囲を旋回しているからなのである。

 

「まるで、食うべきか食わざるべきか迷っているようだな?」

「まぁ、そう見えるね。そんな事あるの?」

「妾達の知識にはないのじゃ。奴等は悪食じゃからの、獲物を前にして躊躇うということはないはずじゃが…」

「俺スラッグ、まるで昔のグリムロックだな」

「ぶっ飛ばすぞスラッグ!あんなミミズと俺を一緒にするな!」

 

 ドMの変態であるティオだが、ユエ以上に長生きな上、彼女と異なり幽閉されていたわけでもないので知識は結構深い。なので、魔物に関する情報などではストレイフと同様に頼りになる。その二人が首をかしげるということは、何か異常事態が起きているのは間違いないだろう。

 

「おいグリムロック、お前何が起きてるか確認してこい」

「はぁ⁉︎別にわざわざ関わる事ねえだろ!てか何で俺なんだよ⁉︎」

「さっきのチェスの負けとミュウちゃんに変なもの見せた罰だ。それにああいう屍肉食動物との争いは、同類のお前の得意分野だろうが」

「俺スラッグ、グリムロック、昔の意地汚い本能を呼び覚ませ!」

「得意分野じゃねえよ馬鹿野郎!大体、昔の俺はちゃんと生きた獲物も食ってたわ!」

「んみゅ!ぐりみぃ、良い子だから行ってくるの!」

「俺は犬か!!?絶対行かねえからな!ハジメ、距離取ってそのまま進んでくれ!」

「はいはい…」

 

 わざわざ自分達から関わる必要もないことなのだが、ストレイフが先程の罰として亮牙に確認してこいと言い、スラッグやミュウまで便乗する。当然、亮牙は面倒くさいから断固拒否して、ハジメに巻き込まれる前にさっさと距離を取るよう指示を出す。

 と、そのとき…

 

「っ⁉︎皆、掴まれ!」

 

 ハジメはそう叫ぶと一気にパイロを加速させた。直後、パイロの後部にかすりつつ、僅かに車体を浮き上がらせながら砂色の巨体が後方より飛び出してきた。サンドワームが大きな口を開けて、水中から飛び出した鮫の如く襲い掛かってきたのだ。どうやら、不運なのはマキシマル一行も同じだったらしい。

 ハジメは、さらに右に左にとハンドルをきり、砂地を高速で駆け抜けていく。そのSの字を描くように走るパイロの真下より、二体目、三体目とサンドワームが飛び出してきた。

 

「ひぅ!」

「わわわ!」

 

 強烈な遠心力に振り回され、ミュウ、シアの順に悲鳴が上がる。

 そうこうしているうち、現れた三体のサンドワームが、地中より上体を出した状態で全ての奇襲をかわしたパイロを睥睨し、今度はその巨体に物を言わせて頭上から襲いかかろうとした。

 これが唯の馬車であったなら、その攻撃で終わっていたかもしれない。しかしこれは、ハジメのオタク魂の片鱗が作り出したアーティファクトだ。ただ食らいつかれたくらいではビクともしないし、黙って攻撃を受けるつもりはない。

 

「そう言えば、何げに使うの久しぶりだなっと!」

 

 そんな事を言いながらハジメは、パイロをドリフトさせて車体の向きを変え、バック走行すると同時に四輪の特定部位に魔力とオーアを流し込み、内蔵された機能を稼働させる。

 ギゴガゴゴ!とお馴染みの機械音が響き渡るのと同時に、パイロの側面がスライドして開き、中から四発のロケット弾が装填されたロケットランチャーがせり出してきた。獲物を探すようにカクカクと動くランチャーは、迫り来るサンドワームの方へ砲身を向けると、バシュ!という音をさせて、火花散らす死の弾頭を吐き出した。

 オレンジの輝く尾を引きながら、サンドワームの大きく開いた口の中に飛び込んだロケット弾は、一瞬の間の後に盛大に爆発し、サンドワームは無惨に爆殺された。バラバラに吹き飛ばされた真っ赤な血肉がシャワーのように降り注ぎ、バックで走る四輪のフロントガラスにもベチャベチャとへばりついた。

 

「うへぇ…。シア、ミュウが見ないようにしてあげて」

「もう、してますよ~。あんっ!ミュウちゃん、苦しかったですか?でも、先っぽを摘むのは勘弁して下さい」

「……」

「こらこらグリムロック、子ども相手に嫉妬すんな…」

 

 更に、迫り来るサンドワームにロケット弾を放つハジメは、ミュウには刺激が強いだろうとシアに配慮を頼む。そのあたり大分、皆と呼吸の合ってきたシアは、既にミュウを対面方向で胸元に抱きしめて見えないようにしていた。

 ただ、シアの巨乳に顔を包まれて苦しかったのか、ミュウが抜け出そうとしたようで、その際、思わず何処か、シアが喘ぐような場所を触ってしまったようだ。ハジメは聞こえなかったことにしたが、しっかり聞こえていた亮牙はじーとミュウを睨んでおり、ストレイフから呆れられていた。

 三体のサンドワームをパイロに内蔵したロケット弾で粉砕したハジメは、その爆音と衝撃を感知したのか砂丘の向こう側のサンドワーム達が動き出したのを見てもう一戦かと視線を鋭くする。

 ハジメが砂丘の上へと四輪を走らせると、下方に地中の浅い部分を移動してくるサンドワームの群れが見えた。向こうも、マキシマル一行が気がついていることを察して、奇襲よりも速度を重視しているのか、微妙に砂が盛り上がっており隠密性がなかった。

 ハジメはロケットランチャーをしまい、代わりの兵器を起動しようとするが、突如として亮牙が待ったをかけた。

 

「待てハジメ、俺が行く」

「え?さっきは嫌だって言ってたじゃん…」

「ちょっと気が変わった」

「も〜、勝手なんだから…」

 

 そう愚痴るハジメを尻目に、パイロから降りた亮牙は忽ちグリムロックの姿に戻ると、口から強力な爆炎のブレスをお見舞いした。

 

爆炎壁攻(ボルケーノバースト)‼︎」

 

 まるでナパームに着火したかのような爆炎が、砂地をこもこと盛り上げて進んで来るサンドワーム達に襲いかかった。新たな獲物に目が眩んで浅い部分を掘り進んで来たのが災いし、サンドワーム達は一瞬で黒焦げの死体と化し、不毛の大地へのささやかな栄養として還っていった。

 敵を殲滅し尽くした事を悟り、グリムロックは得意げに鼻を鳴らすと、雄叫びを赤胴色の世界に響かせた。

 

「グルゥオオオオオッ!!!」

「キャー♡亮牙さん、カッコいいですぅ♡」

「ご主人様〜♡次は妾にもお見舞いして欲しいのじゃ〜♡」

「…あの馬鹿、ミュウちゃんにやきもち焼いたから、シアちゃんに格好つけたくなっただけだろ」

「「「同感」」」

「んみゅ?」

 

 シアが恋人の勇姿に歓声を上げ、ティオが鼻息を荒げて自分にもやってくれと言う中、ストレイフが呆れた表情でそう呟き、ハジメとユエ、スラッグも苦笑しながら賛同する。ミュウはキョトンとした表情だ。

 

「ん?おい皆、あれ見てみろ」

「…白い人?」

 

 炎が消えたのと、何かに気づいたストレイフが前方に指を差すのは同時だった。彼が指を差した先には、ユエが呟いたように白い衣服に身を包んだ人が倒れ伏していた。恐らく先程のサンドワーム達は、あの人物を狙っていたのだろう。しかしなぜ食われなかったのかは、この距離からでは分からず謎だ。

 

「お〜い亮牙。向こうに誰か倒れてるみたいだから、連れてきて〜」

「俺グリムロック、分かった」

 

 何故あの状態で砂漠の魔物に襲われないのか興味が湧いたハジメは、グリムロックにそう指示を出す。何か、魔物を遠ざける方法やアイテムでもあるのかもしれない。実際、ハルツィナ樹海には魔除けの効果を持つフェアドレン水晶があった。あの石は魔物が寄り付きにくくなるという程度の効果しかなかったが、もしかしたらより強力なアイテムがある可能性は否定できない。グリムロックも同じ考えだったので、そのまま倒れている人の近くまでやって来ると、口先で咥えてパイロの待つ場所まで戻ってきた。

 その人物は、エジプト民族衣装のガラベーヤに酷似した衣装と、顔に巻きつけられるくらい大きなフードの付いた外套を羽織っていた。フードで隠れていたのに加えて、グリムロックが口から下ろした際にまたうつ伏せに倒れてしまったので、顔は分からなかった。ストレイフが溜息を吐きながらパイロから降りると、倒れる人物に近づいて仰向けにした。

 

「これは…」

 

 フードを取り露わになった男の顔は、まだ若い20歳半ばくらいの青年だった。だがストレイフが驚いたのはそこではなく、彼の状態だった。苦しそうに歪められた顔には大量の汗が浮かび、呼吸は荒く、脈も早い。服越しでも分かるほど全身から高熱を発している。しかも、まるで内部から強烈な圧力でもかかっているかのように血管が浮き出ており、目や鼻といった粘膜から出血してら明らかに尋常な様子ではなかった。ただの日射病や風邪というわけではなさそうだ。

 

「…俺グリムロック、此奴もしかして何かに感染してるのか?」

「さあな。調べてみなけりゃ分からん」

 

 まるでウイルス感染者のような青年に、流石のグリムロックも警戒するが、ここはマキシマルの軍医兼科学者であるストレイフに任せて、大人しく様子を見ることにした。ストレイフは両目から光を放つと、CTスキャンの如く倒れ伏す青年を包み込んで、状態を診察していく。

 

「…魔力が過剰に活性しているな。発熱だけじゃなく、毛細血管もかなり破裂してやがる…」

「俺グリムロック、何か分かったか?」

「ああ、此奴は水分と一緒に摂取した毒物で、魔力暴走状態になってやがる…。おまけに体外に排出できねぇもんだから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が追いついてねえんだよ…。これじゃそのうち内臓が破裂して、失血死か衰弱死するな…。おうグリムロック、此奴が死なない程度に()()頼む」

「任せろ。パワードレイン!」

 

 ストレイフの診断結果を聞いたグリムロックは、彼の指示に従って単純かつ強引な応急措置を採ることにした。

 パワードレイン。これは一定範囲内において効果のある、いわばドレイン系の魔法に似た能力だ。但し、似たような能力を持っていたカトレア配下のアブソドの固有魔法とは違い、使用者の任意で敵の魔力か体力、どちらかを吸収する事ができる。

 苦しむ青年にこれを使ったのは勿論、体内で荒れ狂い体を圧迫する魔力を体外に排出するためだ。ストレイフは「体外への排出不可」と診断したものの、非常識の塊である自分達の強制ドレインならばあるいは、と試すことにしたのだ。

 どうやらパワードレインは有効だったようで、徐々に青年の呼吸が安定し、体の赤みも薄まり、出血も収まってきたようだ。ストレイフはグリムロックにパワードレインを中断させると、スプレー容器に入れた神水を取り出し、青年の身体中に振りかけて傷ついた血管を癒していった。

 

「…取り敢えず落ち着いたが、圧迫を減らす程度にしか魔力を抜き取ってねえからな。何れまた魔力暴走の影響で内から圧迫されるか、肉体的疲労でそのまま衰弱死するかもしれん…。俺の記憶にある限りじゃあ、トータスの病気でこんな症状のものは初めてだ。空気感染の可能性もあるから、念のためお前達全員も診察しておくよ。まぁ、魔力暴走ならミュウちゃんの心配は無用だがな」

 

 そう言うとストレイフは全員をスキャンして調べたが、特に異常は見当たらなかった。その為、おそらく呼吸するだけで周囲の者にも感染するということはないようだと、マキシマル一行は胸を撫で下ろした。

 そうこうしていると、青年が呻き声を上げ、その瞼がふるふると震え出した。お目覚めのようだ。彼はゆっくりと目を開けて周囲を見わたした。

 

「こ、ここは…」

「俺グリムロック、此奴起きたぞ」

「(゚д゚)」

 

 目を覚ましたら見た事のない巨大な生物が自分を見下ろしており、おまけに言葉まで喋ったので、青年はあんぐりと口を開ける。更に自分を取り囲むマキシマル一行と背後の見たこともない物体に、彼は目を白黒させて混乱していた。

 

「…あ、ああ、そうか…。とうとう地獄に堕ちてしまったのだな…」

「安心しな、お若いの。まだ此処は現世だよ。まあ、この星自体がある意味地獄だがな…。おいグリムロック、いい加減人間態に戻れよ」

 

 自分が死んで地獄に堕ちたのだと錯覚した青年の顔が絶望に染まっていくが、取り敢えずストレイフが宥めるとともにら何があったのか事情を聞いた。漸く正気を取り戻した彼は大雑把な事情を聞くと、マキシマル一行が命の恩人であると理解し、頭を下げて礼を言うと共に事情を話し始めた。

 青年の着ているガラベーヤ風の衣服や外套は、グリューエン大砂漠最大のオアシスである「アンカジ公国」の特徴的な服装だったなと、亮牙とハジメは半年前に調べた知識を思い出した。彼がアンカジで何かに感染でもしたのだというなら、これから向かうはずだった場所が危険地帯に変わってしまうので、是非ともその辺のことを聞いておきたかったのだ。

 亮牙とハジメは、どこに行ってもトラブルが付き纏うことに、よもやエヒトとメガトロナスの嫌がらせではないだろうかと、若干疑わしそうに赤銅色の空を仰ぎ見るのだった。

 

 

 

 

 




〜用語集〜
・グリムロックとストレイフのチェス
 第4作『ロストエイジ』公開時の公式バイオにて、ストレイフはグリムロック相手にボードゲームで4012勝している事が明かされている。





感想、評価お待ちしております。

本作での雫について現在検討中なのですが、読者の皆様はどんな展開が良いですか?

  • 光輝の被害者だし救済してあげて(泣)
  • 取り敢えず主要メンバーのヒロイン入り
  • 救済する必要なし。悲惨な末路にしろ
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