財布はピンチだけど(泣)
今回も下ネタたっぷりです。ご了承ください。
アンカジ公国より北方に進んだ先、約100kmの位置に、グリューエン大火山存在している。見た目は普通の成層火山のような円錐状の山ではなく、いわゆる溶岩円頂丘のように平べったい形をしており、山というより巨大な丘と表現するほうが相応しい。しかしその標高と規模が並外れており、直径約5km・標高3,000mにも達する。
この火山は七大迷宮の一つとして周知されているが、オルクス大迷宮のように冒険者が頻繁に訪れるということはない。理由は内部の危険性と厄介さ、そしてオルクス大迷宮の魔物のように魔石回収のうまみが少ないから、というのもあるが、一番の理由はまず入口にたどり着ける者が少ないからである。
その原因と言うのが、日本を代表する名作アニメにおいてかの天空の城ラ○ュタを包み込む巨大積乱雲のように、グリューエン大火山は巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。その規模は火山をすっぽりと覆って完全に姿を隠すほどで、砂嵐の竜巻というより流動する壁と行ったほうがしっくりくる。
しかもこの砂嵐の中にはサンドワームをはじめとする魔物も多数潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだ。並みの実力ではグリューエン大火山を包む砂嵐すら突破できないというのも頷ける話である。
「つくづく、徒歩でなくて良かったですぅ」
「俺スラッグ、さっき水浴びしたから外には出たくない」
「流石の妾も、生身でここは入りたくないのぉ」
「デカパイ、お前変態のくせに我が儘過ぎだろ…」
窓から巨大砂嵐を眺めるシアとティオ、スラッグすらも、パイロに感謝感謝と拝んでいる。ハジメは苦笑いしながら、それじゃあ行くかと一気に加速させた。今回は悠長な攻略をしていられない。表層部分では静因石はそれ程取れないため、手付かずの深部まで行き大量に手に入れなければならない。深部まで行けば恐らく、今までと同じように外へのショートカットがある筈なので、それで一気に脱出してアンカジに戻るのだ。
マキシマル一行としては、アンカジの住民の安否にそれほど関心があるわけではないのだが、一度手を差し伸べた以上、助けられるならその方がいい。そうすれば、少なくとも幼いミュウに衝撃の強い光景を見せずに済む。そんな事を考えながら気合を入れ直した彼らは、巨大砂嵐に突撃した。
砂嵐の内部はまさしく赤銅一色に塗りつぶされた閉じた世界で、シアの故郷であるハルツィナ樹海の霧のようにほとんど先が見えなかった。物理的影響力がある分、霧よりこちらの方が厄介かもしれない。ここを魔法なり体を覆う布なりで魔物を警戒しながら突破するのは、確かに至難の業だろう。太陽の光もほとんど届かない薄暗い中を、緑光石のヘッドライトで切り裂きながら、パイロは時速30kmのスピードで突き進んだ。事前の情報からすれば五分もあれば突破できるだろう。
とその時、シアのウサミミがピンッ!と立ち、一拍遅れてハジメも反応した。彼は「掴まれ!」と声を張り上げると、ハンドルを勢いよく切った。直後、三体のサンドワームが直下より大口を開けて飛び出してきたが、ハジメはパイロにS字を描かせながら回避し、構っていられるかとそのまま遁走に入る。この速度なら、いちいち砂嵐の中で戦うよりも、さっさと範囲を抜けてしまった方が良いだろう。
サンドワーム達を無視して爆走するパイロを、更に左右から二体のサンドワームが襲いかかった。タイミング的に真横からの体当たりを受けそうだ。たかだか体当たりで傷つく程ヤワな構造ではないが、横転の可能性はあったので、「気配感知」で奇襲を掴んだハジメは、咄嗟に車体をドリフトさせて回避しようとした。だが、それをユエとティオが制止した。
「…ん、任せて」
「任せるのじゃ、皆の衆」
二人の言葉を聞いたハジメは、切りそうになったハンドルをそのままに迷うことなく直進した。直後、赤銅色の世界から飛び出してくるサンドワーム達だったが、四輪に触れることすら叶わなかった。
「「風刃」」
ユエとティオはそれぞれ左右のサンドワームを一瞥してそう呟くと、車外に作り出された風の刃が瞬時に射出され、眼前まで飛びかかっていたサンドワームを横一文字に切断して肉塊へと変えた
「ふむ、流石ユエじゃ。よい風を放つ」
「…砂嵐の風を利用しない手はない。ティオも流石」
二人が一瞬で選択したのは、初級の風系の攻撃魔法「風刃」だが、外で激しく吹き荒れている風を利用したため、中級レベルの威力はあった。単に魔力に物を言わせて強力な魔法を放つだけでなく、その場の状況や環境も利用して最適な魔法を選択する。簡単そうに見えて実践するのは難しいので、二人の高い技量が伺える。
背後から先程の三体が追随してくるが、鬱陶しくなったハジメはパイロの後部をギゴガゴゴと音を響かせながら、一丁のグレネードランチャーを展開すると、複数の手榴弾を発射した。真後ろから地中をモコモコと追跡していたサンドワーム達は、交差した手榴弾の大爆発に巻き込まれ、衝撃で吹き飛んだ地面とともに肉片を撒き散らした。だがハジメはお構いなしに追加の手榴弾を発射した。更なる大爆発とともに、千切れ飛んだサンドワーム達の上半身は、宙を舞いながら砂嵐の中へと消えていった。
「フハハハハ!我がマキシマルの技術力は世界一ィィィィーーーーッ!」
「オメーもジョ○ョの読み過ぎだろ」
派手に飛び散ったサンドワームを尻目に、運転席のハジメが得意げな高笑いをする。元ネタの分かる亮牙は、苦笑しながらツッコんだ。
そんな余裕のマキシマル一行の前にはその後も、赤銅色の巨大蜘蛛やアリのような魔物が襲いかかってきた。しかし、パイロの武装やユエとティオの攻撃魔法の前に為すすべなく粉砕され、その進撃を止めることは叶わなかった。
「うぅ〜、今回の私、役立たずですぅ…」
「落ち込むなシア、それなら俺やスラッグもだろ。なに、砂漠を越えりゃ充分挽回出来るさ」
「そうですね。頑張りますぅ!」
「よしよし、頼りにしてるぞ」
「えへへへ〜♡」
「ご、ご主人様〜♡妾だってさっきから活躍してるのじゃから、何か労いの言葉くらい…」
「あーはいはい、よくやったよくやった」
「あぁ〜ん♡素っ気ないご主人様もイィ〜♡」
後部座席にいるシアは活躍の場面がない事に落ち込んでいたが、亮牙に励まされると一転して元気を取り戻した。頭を優しく撫でられ、嬉しそうに耳をピコピコさせる姿に、やきもちを焼いたティオが労いの言葉を要求し、彼が素っ気なくそう告げると気色悪い表情でクネクネし始めた。そんなこんなで六人は、数多の冒険者達を阻んできた巨大砂嵐を易々と突破したのだった。
砂嵐を抜け出た彼らの目に飛び込んできたのは、まるでエアーズロックを何倍にも巨大化させたような岩山だった。砂嵐を抜けた先は、竜巻の目にいるかのように静かで、周囲は砂嵐の壁で囲まれており、直上には青空が見えた。
グリューエン大火山の入口は頂上にあるとの事だったので、進める所までパイロで坂道を上がっていった。露出した赤黒い岩肌のあちこちから蒸気が噴出していた。活火山であるにも関わらず、一度も噴火したことがないという点も、大迷宮らしい不思議さだ。
やがて傾斜角的に厳しくなってきたところで、一行はパイロから降りて徒歩で山頂を目指すことになった。
「うわぅ…。あ、暑いですぅ」
「ん~…」
「確かに、砂漠の日照りによる暑さとはまた違うね…」
「俺スラッグ、こんなの全然へっちゃら!三人ともだらしないぞ!」
「あのなスラッグ、金属生命体の俺達と有機生命体のハジメ達じゃ、暑さの感じ方が違うんだよ…。こりゃタイムリミットに関係なく、さっさと攻略した方が良いな」
「ふむ、妾はむしろ適温なのじゃが…。熱さに身悶えることが出来んとは、もったいないのじゃ」
「アホな事抜かしてるとマグマの中に放り込むぞ」
外に出た途端、襲い来る熱気に、ハジメとユエ、シアがうんざりした表情になる。冷房の効いた快適空間にいた弊害で、より暑く感じてしまうというのもあるだろう。対する亮牙とスラッグ、ついでにティオは平然としていたが。
時間がないので素早く山頂を目指し、岩場をひょいひょいと重さを感じさせず、どんどん登っていく。結局六人は、一時間もかからずに山頂に辿り着いた。
頂上は、無造作に乱立した大小様々な岩石で埋め尽くされた煩雑な場所だった。尖った岩肌や逆につるりとした光沢のある表面の岩もあり、奇怪なオブジェの展示場のような有様だ。砂嵐の頂上がとても近くに感じる。そんな奇怪な形の岩石群の中でも群を抜いて大きな岩石があった。歪にアーチを形作る全長10mほどの岩石だ。
マキシマル一行はその場所に辿り着くと、アーチ状の岩石の下に火山内部へと続く大きな階段を発見した。先頭に立つ亮牙は階段の手前で立ち止まると、肩越しに背後に控える五人の仲間の顔を順番に見やり、自信に満ちた表情で一言、大迷宮挑戦の号令をかけた。
「Maximals!Roll out!」
「「「「「おうっ(ですぅ/のじゃ)!」」」」」
グリューエン大火山の内部は、オルクス大迷宮やライセン大迷宮以上に、とんでもない場所だった。但しそれは、難易度の話ではなく、内部の構造がだ。
まず、マグマが宙に浮いて、そのまま川のような流れを作っていた。シアの故郷フェアベルゲンのように、空中に水路を作って水を流しているのとは訳が違う。空中をうねりながら真っ赤に赤熱化したマグマが流れていく様は、まるで巨大な龍が飛び交っているようだ。
また通路や広間のいたるところには、当然マグマが流れており、迷宮に挑む者は地面と頭上、両方のマグマに注意する必要があった。
しかも厄介なことに、壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。本当に突然な上に、事前の兆候もないので察知が難しく、まさに天然のブービートラップだった。
「うきゃ!」
「おっと、大丈夫かシア?」
「はう、有難うございます亮牙さん。いきなりマグマが噴き出してくるなんて…。察知できませんでした」
突然噴き出してきたマグマがシアに襲い掛かるが、元ティラノサウルスであるが故に触覚が敏感な亮牙が直ぐに察知して、すかさず彼女を引き寄せて庇った。彼の触覚と、ハジメの技能「熱源感知」が無ければ、警戒のため慎重に進まざるを得ず、攻略スピードが相当落ちているところだった。
そしてなにより厳しいのが、グリューエン大火山の最大限に厄介な要素である、茹だるような暑さもとい熱さだ。通路や広間のいたるところにマグマが流れているのだから当然の話だが、まるでサウナの中にでもいるような、あるいは熱したフライパンの上にでもいるような気分だ。暑さなど問題ない亮牙とスラッグ、暑さに強いティオとは対照的に、ハジメ、ユエ、シアはダラダラと汗を流している。
六人は天井付近を流れるマグマから滴り落ちてくる雫や噴き出すマグマをかわしつつ進んでいると、とある広間で、あちこち人為的に削られている場所を発見した。ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れているのだが、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いていた。
「お?静因石、だよね?あれ」
「うむ、間違いないぞ」
「俺スラッグ、やっぱり亀の甲より年の功だな!」
「スラッグ殿!妾を年寄り扱いしないでほしいのじゃ!」
ハジメの確認するような言葉に、知識深いティオが同意、ついでにスラッグが茶化した。どうやら、砂嵐を突破してグリューエン大火山に入れる冒険者の発掘場所のようだ。
「…小さい」
「ほかの場所も小石サイズばっかりですね…」
「ハジメ、一応お前の探知能力でこれだけか確認してくれ」
「あいよ」
だが残されている静因石は、ユエとシアの言う通り、殆どが小指の先以下のものばかりだった。ほとんど採られ尽くしたというのもあるのだろうが、サイズそのものも小さい。やはり表層部分では回収の効率が悪過ぎるようで、一気に大量に手に入れるには深部に行く必要があるようだ。
亮牙は一応、ハジメの「鉱物系探査」で静因石の有無を調べさせると、簡単に採取できるものだけ宝物庫」 に収納して、皆を促して先を急いだ。
暑さに辟易しながら、六人は七階層ほど下に降りた。記録に残っている冒険者達が降りた最高階層であり、そこから先に進んだ者で生きて戻った者はいない。気を引き締めつつ、八階層へ続く階段を降りきった。
その瞬間、ゴォオオオオ!と強烈な熱風に煽られたかと思うと、突如、六人の眼前に巨大な火炎が襲いかかった。オレンジ色の壁が螺旋を描きながら突き進んできた。
「絶禍」
すかさずユエが重力魔法を発動し、黒く渦巻く直径60cm程の球体を皆の眼前に出現させた。この魔法「絶禍」は、対象を地面に押し潰す為のものではなく、それ自体が重力を発生させ、あらゆるものを引き寄せて内部に呑み込む盾なのだ。
人など簡単に消し炭に出来そうな死の炎も、ユエの超重力の渦になす術もなく引き寄せられて全て呑み込まれてしまった。すると、その射線上に襲撃者が姿を現した。現れたのは雄牛そっくりだが、マグマの中に立ち、全身にもマグマを纏わせていた。鋭い二本の曲線を描く角を生やし、口から呼吸の度に炎を吐き出しており、耐熱性があるにも程があると思わずツッコミを入れたくなる魔物だった。
だが…
「「ヒャッハー!ご馳走がキター!!!」」
「ブモッ!!?」
そのマグマ牛を見た瞬間、亮牙とスラッグは警戒するどころか、嬉々とした表情となり、口から涎を垂らした。大食漢の二人にとって、目の前の怪物は焼き肉が歩いているように見えたらしく、寧ろ食欲をそそったようだ。他の四人は「マイペースだなぁ」と呆れていたが。
自身の固有魔法であろう火炎砲撃をあっさり無効化されたことに腹を立てていたマグマ牛だったが、涎を垂らしながら自分を見てくる二人の反応を見て逆に寒気を感じていた。恐らく、生まれて初めて「餌」として見られたのだろう。
「ギ、ギ、ギュォオオ!!!」
本能が今すぐ逃げるよう命じるが、マグマ牛は自棄っぱちになったのか、悲鳴とも怒りの咆哮ともつかない叫びを上げると、侵入者を排除せんと猛烈な勢いで突進を開始した。それを見た亮牙は嬉々とした表情のまま、宝物庫からテラクサドンを二丁取り出すと、一丁をシアに手渡した。
「よ〜しシア!挽回のチャンスだ!あれやるぞ!」
「はい!愛の共同作業作戦Part2ですね!よっしゃーですぅ!やりましょう!」
砂漠では活躍できなかったから挽回したいのか、それとも恋人との連携が嬉しいのか、シアもテラクサドンを手に気合充分な感じで鼻息を荒くしている。
二人は大きくテラクサドンを振りかぶると、既に数mの位置まで接近していたマグマ牛に向かって、さながらケーキ入刀の如くお互いの斧を振り抜いた。
「「覇王!!!」」
「ブモッ!!?」
次の瞬間、振り抜かれた二人のテラクサドンから巨大な衝撃波の如き斬撃が放たれ、マグマ牛目掛けて襲いかかった。勢いよく突進してきたマグマ牛は、避ける事などできる筈もなく斬撃の餌食となり、断末魔の悲鳴すら上げる事なく頭を吹き飛ばされ、胴体も左右真っ二つに両断されて崩れ落ちた。
「むふふふふ、見ましたか皆さん?これぞ私と亮牙さんの愛の力ですぅ〜!」
「…亮牙の奴、絶対ワン○ース見て思いついたな」
「シ、シアばっかりずるいのじゃ!妾だってご主人様とあんな事したいのじゃー!」
なかなかの威力を発揮した二人の一撃に、シアが得意げに胸を張る。ハジメは技の元ネタが分かっているので苦笑しており、ティオは亮牙との抜群の連携を見せたシアが羨ましいのかそう呟く。
「フハハハハ!俺スラッグ、一番良い肉は貰った!」
「おいスラッグ!仕留めたのは俺とシアだぞ!」
「…二人とも、能天気過ぎ」
一方の亮牙はと言うと、仕留めたマグマ牛の亡骸をスラッグと取り合いになっていた。左右真っ二つに叩き斬ったのだから仲良く分ければ良いのだが、高温で程良く焼かれた肉は美味そうな匂いを漂わせており、二人ともすっかり食欲をそそられてしまったようだ。技の威力に感心していたユエも、これにはすっかり呆れて「やれやれだぜ」と言いたい気分だった。
その後、亮牙とスラッグがマグマ牛を半分ずつ取り分ける事で和解し、あっという間に全ての肉を平らげると、六人は先を急いだ。
その後、階層を下げる毎に魔物のバリエーションは増えていった。マグマを翼から撒き散らすコウモリ型の魔物や壁を溶かして飛び出てくる赤熱化したウツボモドキ、炎の針を無数に飛ばしてくるハリネズミ型の魔物、マグマの中から顔だけ出してマグマを纏った舌をムチのように振るうカメレオン型の魔物、頭上の重力を無視したマグマの川を泳ぐ赤熱化した蛇など、多種多様だ。
生半可な魔法では纏うマグマか赤熱化した肉体で無効化してしまう上に、そこかしこに流れるマグマを隠れ蓑に奇襲を仕掛けてくる魔物は厄介なこと極まりなかった。なにせ魔物の方は、体当りするだけでも人相手なら致命傷を負わせることが出来る上に、周囲のマグマを利用した攻撃も多く、武器は無限大と言っていい状況だ。更にいざとなればマグマに逃げ込んでしまえば、それだけで安全を確保出来てしまうのだ。
例え砂嵐を突破できるだけの力をもった冒険者でも、魔物が出る八階層以降に降りて戻れなかったのも納得だ。しかもそれらの魔物は倒しても、オルクス大迷宮の40層レベルの魔物と比べて魔石の大きさや質自体に変わりがなく、貴重な鉱物である静因石も表層のものとほとんど変わらないとあっては、挑戦しようという者がいないのも頷ける話だ。
そしてなにより厄介なのは、刻一刻と増していく暑さだ。
「はぁはぁ、暑いですぅ…」
「…シア、暑いと思うから暑い。流れているのは唯の水…。ほら、涼しい、ふふ」
「むっ、ユエが壊れかけておるのじゃ!目が虚ろになっておる!」
「仕方ねえ。ちょっと休憩するか」
暑さに強い亮牙・スラッグ・ティオは問題なかったが、ハジメ・ユエ・シアはそういうわけにはいかずダウン状態だ。一応、ハジメが冷房型アーティファクトで冷気を生み出しているのだが、焼け石に水状態だ。止めどなく滝のように汗が流れ、意識も朦朧とし始めている三人を見て、亮牙も少し休憩が必要だと考えた。
亮牙達は広間に出ると、マグマから比較的に離れている壁にハジメが錬成で横穴を空け、その中に入ってマグマの熱気が直接届かないよう入口を最小限まで閉じた。ウツボモドキやマグマの噴射に襲われないよう安全を確保するため、ハジメは更に部屋の壁を「鉱物分離」と「圧縮錬成」を使って表面だけ硬い金属でコーティングしておいた。
「ユエ、氷塊を出せるか?お前達三人は身体も頭も冷やした方が良い」
「ん、了解…」
亮牙にそう言われ、ユエは虚ろな目をしながらも、しっかり氷系の魔法を発動させ部屋の中央に巨大な氷塊を出現させた。更にティオが気を利かせて氷塊を中心にして放射するように風を吹かせたおかげで、冷気が部屋の空気を一気に冷やしていった。
「はぅあ~~、涼しいですぅ~、生き返りますぅ~」
「…ふみゅ~」
「ほれ、汗は拭いとけよ。冷え過ぎて動きが鈍ってめ困るしな」
「…ん~」
「了解ですぅ~」
女の子座りで崩れ落ちたユエとシアが、目を細めてふにゃりとする。一先ず安堵する亮牙だが、宝物庫からタオルを取り出すと、汗をかかない自分とスラッグ以外の全員に配った。間延びした声で、のろのろとタオルを広げるユエとシアを横目に、彼は座り込んだハジメに話しかけた。
「ハジメ、お前も暫く休んどけよ」
「そうさせてもらうよ…。こんな暑さだって分かってれば、もっといい冷房系のアーティファクトを揃えておくんだったよ…」
「ふむ、おそらく、この暑さこそがこの大迷宮のコンセプトなのじゃろうな」
「俺スラッグ、コンセプトって何だ?」
参るほどではないとは言え、亮牙やスラッグと違い暑いものは暑いので同じく汗をかいているティオが、タオルで汗を拭いながら言った言葉に、道中仕留めた魔物の肉を食べていたスラッグが首を傾げた。
「うむ。ご主人様達から色々話を聞いて思ったのじゃが、大迷宮は神に挑むための試練なんじゃろ?…なら、それぞれに何らかのコンセプトでもあるのかと思ったのじゃよ。例えば、ご主人様達が話してくれたオルクス大迷宮は、数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経て経験を積むこと。ライセン大迷宮は、魔法という強力な力を抜きに、あらゆる攻撃への対応力を磨くこと。このグリューエン大火山は、暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応といったところではないかのぉ?」
「…成る程。攻略することに変わりはないから特に考えたことなかったけど、試練そのものが解放者達の『教え』になっているってことか」
「デカパイ、普段のお前って救いようのない変態の癖によ、ごくたまにこういう時だけ役に立つよな…」
「俺スラッグ、能ある馬鹿は爪を隠すってやつだな!」
「ちょっ⁉︎ご主人様もスラッグ殿も酷いのじゃ!妾の事を何だと思ってるのじゃ⁉︎」
「「「残念な生き物」」」
「くふ〜ん♡」
知識深く思慮深くもある黒髪美女で、黙っていれば肉感的で匂い立つような色気があるのに、普段の変態ぶりの所為で全て台無しになっているティオに、亮牙達は物凄く残念なものを見る眼差しでそう告げる。対する彼女は最初こそ怒っていたが、容赦ない言葉にまた興奮したのか悶絶する始末だ。
しかしティオが悶絶する度に、その豊満な胸がブルンブルンと揺れ、汗のせいで更に色気が増してゆく。それを見て何となく顔を逸らした亮牙は、視線の先にいたシアに気づいた。現在の彼女とユエは、ティオと同じように汗で服が張り付き、濡れた素肌が見え隠れしており、彼の視線は吸い寄せらていく。
元々マキシマル一行の中では一番素肌の露出が多いシアだが、現在は暑さのため上気しておりほんのり赤みを帯びている。汗で光る素肌はなんとも艶かしく、普段より熱く荒い吐息と相まって物凄い色気を放っていた。亮牙はそんな恋人の姿に、思わず目を逸らすことも忘れて凝視してしまった。
一方のハジメも同じような状態のユエに見惚れていたが、不意に上げた視線が彼女とバッチリと合い、バツが悪そうに目を逸らそうとした。だが目を逸らす一瞬前に、ユエが妖艶な微笑みを浮かべハジメの視線を捉えると、服を着崩したままゆっくり四つん這いで彼の眼前に近付いて行くと、胡座をかいて座る恋人を下から上目遣いで見つめ、甘えるような、誘うような甘い声音で、
「…ハジメが綺麗にして?」
と告げると、持っていたタオルをハジメに手渡した。彼は視線をユエの瞳に固定したまま苦笑いし、そっと彼女の首筋に手を這わせようとした。その直後、シアから抗議の声が上がった。
「お・ふ・た・り・と・も!少しはTPOを弁えて下さい!先を急いでいる上に、ここは大迷宮なんですよ!もうっ!ほんとにもうっ!」
「いや、まぁ、しょうがないでしょ?ユエがエロ過ぎて無視できなくて…」
「…ジッと見てくるハジメが可愛くて」
「反省って言葉知ってます⁉︎私だって亮牙さんの視線に応えたいのを必死に我慢してたのにぃ〜!」
「あ、ごめんシア…」
「う〜!そっちがその気なら私達だって好きにしてやるですぅ!ねぇ亮牙さ〜ん♡私おっぱいのあたりが汗まみれなので舐めとってほしいですぅ〜♡」
「むぐっ!!?」
「そ、それなら妾だって胸元の汗を拭いて欲しいのじゃ!ご主人様〜♡さっき妾の胸に少し反応しておったじゃろ?もう一度罵りながら揉むなり吸うなり好きにして良いのじゃぞ〜?」
反省の素振りのないハジメとユエに堪忍袋の尾が切れたシアは、先程の自身の発言などもうどうでも良い!と言わんばかりに、亮牙に近づいていくと、彼の顔を自慢の巨乳へと埋めさせた。谷間に挟まった亮牙の鼻息がくすぐったいのか、彼女は「あぁん♡」と妖艶な声を上げる。
それを見たティオは、先程自身の胸元に亮牙の視線が吸い寄せられていた事にバッチリ気づいていたらしく、負けるものかと彼の背中に抱きつき、思う存分爆乳を押し付ける。前後からの乳圧攻撃に、もはや亮牙の理性は爆発寸前だ。
「俺スラッグ、お前ら五人とも、こんな卵も産めないような場所で交尾しようなんて馬鹿じゃないのか?」
そんな五人の姿を見て、未だ呑気に仕留めた魔物を貪り食うスラッグの呆れた呟きが、部屋の中に響くのであった。
〜用語集〜
・覇王
本作オリジナルの技。亮牙とシアの連携技の一つで、2人揃って同時にテラクサドンを振り抜き、衝撃波も同然の斬撃を飛ばして敵を破壊する。
元ネタは『ONE PIECE』の覇国。
感想、評価お待ちしてます。
本作での雫について現在検討中なのですが、読者の皆様はどんな展開が良いですか?
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光輝の被害者だし救済してあげて(泣)
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取り敢えず主要メンバーのヒロイン入り
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救済する必要なし。悲惨な末路にしろ