まだまだ肩が完治してない事と、仕事が忙しかったりで中々執筆が進んでいませんが、今年も『グリムロックは宇宙最強』を宜しくお願いします。
今年はジュラシック・ワールド:ドミニオンが公開予定ですが、無事に放映してほしいですね。
見渡す限りの青。空は地平の彼方まで晴れ渡り、太陽の光は燦々と降り注ぐが、決して暑すぎるということはなく、気候は穏やかで過ごしやすい。時折、優しく吹くそよ風も何とも心地いいが、周囲をどれだけ見渡しても、何一つ「物」がないのは少々寂しいところだ。
尤も、それも仕方のないことだろう。なにせ、ここは大海原のど真ん中なのだから。
そんな大海のド真ん中で、ぷかぷか、ゆらゆらと波間に漂うのは一隻の船だ。いや、少なくともこのトータスの人々には「船」だと認識は出来ないだろう。
なぜなら、それは黒く光沢のある流線形のボディをしており、通常の船のように外側に乗り込む場所がないからである。本来なら更にそのボディの左右に小さな翼のようなものがVの字型についており、後部はスクリューのようなものと尾に見せかけた舵がついているのだが、今は見るも無残な感じで残骸が引っかかっているだけだった。それさえきちんとついていれば、少し平べったいシャチに見えなくもない、そんな形だ。
船というより新種の魔物と言われた方が、きっとトータスの人々は納得するだろうが、このシャチ型の船の正体は潜水艇だ。言わずもがな、グリューエン大火山のマグマの中を逞しく流されて、搭乗者に九死に一生を得させたマキシマル一行のアーティファクトである。代償に、ほとんど大破といってもいいレベルで壊れていたが。
そんな波間に浮かぶ潜水艇の上で両手を頭の後ろで組んで寝転びながら、大自然を目一杯堪能している少年がいた。この潜水艇の製作者であるハジメだ。
彼が暖かな日差しとゆりかごのような小波にうとうとしていると突如、背後のハッチが開いて、そこからひょっこりとユエが顔を覗かせた。
「もう大丈夫なの、ユエ?相当、疲弊していたでしょ?」
「ん、平気。シアにも血を分けてもらったから」
ハジメの気遣う言葉に、ユエは嬉しそうに返事をしながらいそいそとハッチから出て来た。
「場所は問題あるけど、ゆっくり休めそうでよかった」
「同感、まさに怒涛の展開だったからね。幸運なんだか不運なんだか…」
苦笑いするハジメに、ユエも困ったように眉を八の字にした。二人して、グリューエン大火山でマグマに呑み込まれたところから、大海原に漂っている現在に至るまでの経緯を思い出し、見舞われた事態の数々を不運だと嘆くべきが、それでも助かったことを幸運だと喜ぶべきか、微妙な心境になったのだ。
マキシマル一行は、マグマ溜りから何処かの地下に流されていったあと、ほぼ丸一日激流にさらされ続けた。いつまでもユエの「絶禍」に吸い寄せられた状態で体を固定しているわけにもいかず、荒れる船内で試行錯誤した末、何とかハジメが生成魔法で重力石を生成し浮遊する座席を作成した。
相変わらず、ゴガンッゴガンッ!とあちこちの壁にぶつかる音を響かせ玩具のように振り回される潜水艇だったが、この浮遊座席により、ある程度シェイクされるのは防ぐことができた。そして五人は緑光石の淡い光が照らす船内で、眠れぬ時間を過ごしたのである。
もしや、このままこの星のマントルまで行くんじゃないだろうな?とハジメが冷や汗と共に疑いを持ち始めた頃、遂に、先の知れない地下の旅にも終わりが来た。これまでで最大の衝撃がマキシマル一行を襲ったのである。その衝撃は凄まじく「金剛」の防御を貫いて直接潜水艇にダメージを与えるほどだった。そしてその衝撃と共に、潜水艇は猛烈な勢いで吹き飛ばされた。
激しい衝撃に、急いで「金剛」を張り直し、ハジメは何事かとクロスビットにも搭載されている遠隔カメラの機能をもつ鉱石「遠透石」で周囲を確認した。そうして目に入った光景は、マグマで満たされた赤の世界ではなく、蛇のようにのたうつマグマと猛烈な勢いで湧き上がる気泡で荒れ狂った「海」だった。
どうやらマキシマル一行は、何処かの海底火山の噴出口から、いわゆるマグマ水蒸気爆発に巻き込まれて盛大に吹き飛ばされたらしかった。その衝撃で、船体が著しく傷ついたわけだが、何とか浸水を免れたのは不幸中の幸いというべきか、それとも流石ハジメのアーティファクトと称えるべきか微妙なところだ。
九死に一生を得て、何とか地上に戻れたことに安堵した五人だったが、その後も、受難は続いた。
噴火によりくるくると回りながら、海中へと放り出されたマキシマル一行は、少し呆然としつつも、直ぐに潜水艇の制御を取り戻し航行を開始した。両翼や船尾が大破していたが、魔力の放出による航行も出来るので、スクリューや両翼・船尾を使った航行に比べると圧倒的に燃費は悪いものの問題はなかった。再び、噴火に巻き込まれては堪らないと、急いでその場を離れたが、そんなシャチ型の潜水艇を付け狙う無数の影があった。
それはサメに似ていたが、流線型ではなく寸詰りな顔つきや体型で、胸鰭ではなく手足が生えており、尾鰭に至ってはモーニングスターのようになっていた。おまけにこのサメ、全身が金属で出来ていた。
まさかと思ったハジメ達がスラッグに尋ねてみたところ、やはりこのサメはシャークティコンという金属生命体だった。知性は低いが貪欲で、ピラニアのように群れで獲物を捕食するらしい。そんな怪物が、潜水艇に容赦なく襲い掛かったのだ。
鋭い牙の並んだ口で噛みついてきたり、尻尾を叩きつけてくるなど、攻撃自体はシンプルだが、数の暴力で襲い来るシャークティコン達に、潜水艇搭載の武装(魚雷など)はあっという間に尽き、ユエの魔法頼りとなった。
ユエも魔晶石にストックした分の魔力すら使いきり、ハジメは操縦に集中せねばならず、ましてや亮牙やスラッグから吸血出来るはずもなかったので、シアから吸血するという状態だ。何とかシャークティコン達を撃退しながら逃げ切った頃には、先のグリューエン大火山での戦いもあり、流石のマキシマル達も精魂尽き果てたといった有様だった。小さくなった亮牙はシアの容態を心配していたが、「せめてこれくらいは」とユエに血を提供し続けて、彼女は貧血でぶっ倒れた。
仲間達を先に休ませ、ハジメは海面に出た。見渡す限り海しかない場所で天を仰ぎつつも、方角的に大陸があるであろう方向へ進んだ。そして半日ほど進んで、気候も波も極めて穏やかになったことから、ちょいと休憩しようと潜水艇を停めて、船外で日向ぼっこと洒落込んだというわけである。
グリューエン大火山攻略から現在まで、まさに怒涛の展開だった。どう考えてもマキシマル一行以外では生き残れる可能性はないと言える状況だった。思わずハジメが「不幸だー!」と叫びたくなったのも頷けるだろう。
「シアと亮牙とスラッグは?」
「…シアはまだ寝てる。沢山貰ったから、もうしばらくは起きないと思う。亮牙も一緒になって寝ちゃった…。スラッグは、食ったら治るって食べ続けてる…」
「シアは兎も角、子どもかよあいつらは…」
遠い目をしていたハジメが尋ねると、腰の上に乗っているユエがそう答えた。
ユエ曰く、ハジメからの吸血とシアからの吸血では、魔力への変換効率が段違いらしい。「血盟契約」の相手であるハジメと、そうでないシアでは同じ量でも数倍の差が出るようだ。「血盟契約」とは、吸血対象を特定の相手に定めることで、他の者から吸血効果は薄くなるが、逆に契約相手からは数倍の効果が現れるという「血力変換」の派生である。
「…まぁ、ゆっくりすればいいか。どの道、現在位置が分からない以上、どれくらい進めば陸にたどり着くかは分からないんだ。いつ何が起きるか分からないし、少しくらい回復も兼ねてのんびりしよう」
「…ん」
海は大陸の西にあるので、ただ大陸にたどり着くだけなら東に向かえばいい。水は魔法で作り出せるし、魚を採れば食料も問題ない。潜水艇と魔法から逃れられる魚などいはしないのだから、一見すると大海原に遭難状態とはいえ、それほど焦る状況ではなかった。夜に星の位置を確認すれば、大陸が見えてからの進路も取れる。そんなわけで、休める時に休んでおこうというわけだ。
暖かな日差しとそよ風に体の力を抜いてリラックスする、ハジメとユエであった。
「ふわぁ…よく寝たですぅ…」
暫くして、貧血から回復したシアが目を覚ました。まだ眠気でうとうとしているが、ふと身体の上に何かが乗っかっているような違和感を感じ、視線を向けると、小さくなったままの亮牙が「すぴぃ…」と可愛らしい寝息を立てながら、彼女にかけられた毛布にしがみついていた。
「お!シア、起きたのか?」
近くで座っていたスラッグが声をかけた。ハジメの宝物庫から取り出した大量の食料やオーアをバクバクと飲み食いしていたらしく、今もアンカジで貰ってきた果物を片手に掴み、口元は何かのタレで汚れている。
「はい。全快ってわけじゃないですけど、大分良くなりました。スラッグさんこそ大丈夫なんですか?」
「俺スラッグ、いっぱい食べて回復した!もっと食べたいくらいだ!」
「ふふ、その様子なら大丈夫そうですね。…ところで亮牙さんは?」
「俺スラッグ、グリムロックの奴、何も食おうとしない。シアから引き離そうとすると泣き出すから、好きにさせてたら寝ちまった」
呆れたような視線を亮牙に向けながらそう語るスラッグ。
シアが貧血で寝込んでしまった後、亮牙はまるで母親を失った幼獣のように、彼女の傍から離れようとしなかった。ハジメやユエがあやそうとしたり、スラッグが食べ物で気を紛らわせようとしても、全く相手にせずに泣き出す始末で、彼女と引き離されるのを拒んだ。仕方がないので三人は、満足するまで傍にいさせてやろうと判断した結果、泣き疲れて一緒に眠りこけてしまったようだ。
「そうだったんですか…亮牙さんには心配かけちゃいましたね…」
「…おれ…ぐりむろっく…?」
貧血で仕方なかったとはいえ、亮牙に心配をかけた事を反省するシアは、まだ眠っていた彼を優しく抱きかかえた。眠っていた亮牙は抱きかかえられたことで目を覚ましたのか、眠たそうに半目を開けて、鼻をくんくんと鳴らす。そして、シアの姿と匂いを確認すると、ぎゅうっと彼女の胸元に抱き着いた。
「ふふっ、亮牙さんったら本当に甘えん坊さんなんですから」
「俺スラッグ、グリムロックが元に戻ったら思う存分この事揶揄ってやろう」
オーアを飲みながらそう言って笑うスラッグを尻目に、シアは我が子をあやすかのように優しく亮牙の頭を撫で始めた。
可愛らしい寝息を立てる恋人の姿に愛おしい気持ちになると同時に、シアの脳裏にはグリューエン火山での戦いを思い返す。あの時も、自分は結局守られているだけだった。おかげで恋人は手酷く敵に痛めつけられ、危うく死んでいたかもしれなかった。結果として皆無事だったものの、今もこうして深い眠りについている事から、彼は相当無茶をしたのだろう。
昔に比べれば充分強くなったと思うが、まだまだ彼を支えるには自分は弱い。それを嫌という程痛感した戦いだった。
(もっと強くならなきゃいけないですね。私は亮牙さんのパートナーなんですから)
愛する人の為に強くなる。その決意を胸に、亮牙をギュッと抱きしめ返すシアであった。
暫くしてハジメとユエが船内に戻った後、未だ亮牙は眠ったままだったが、一行は潜水艇を東に向けて発進させた。時折、魔物に襲われつつもユエとスラッグが撃退し、進むこと丸一日。満天の星空の下を走り抜け、朝日が世界を照らす頃、遂に、一行の視界が陸地を捉えた。
昨夜に見た星の位置からすれば、マキシマル一行のいる場所は、エリセンの北である。なので、あとは陸地を左手側に南下すれば、少なくともエリセンとグリューエン大砂漠をつなぐ港が見えてくるはずだ。陸地が見えたことにホッとしつつ、一行は南へ二日進んだ。
その二日目の太陽が中天を越えた頃、マキシマル一行は、お昼休憩のため潜水艇を停めて、その上で波に揺られながら昼食をとっていた。亮牙の宝物庫はティオに貸していたので、ハジメの宝物庫から調理器具も調味料を使っている。他の食材は、スラッグが回復する為に大方食べ尽くしてしまったので、メニューは当然、海で採った魚だけだ。それでも、ボーと水平線を眺めながら食べる魚は、中々、美味しかった。
但し、一行が気にかけていることがあった。未だ幼児化したままの亮牙だ。あれから今に至るまで、目を覚ましたは良いが、神水を飲ませてみても元の姿に戻る兆候は見られなかった。副作用で何か重要な器官にダメージを受けたのではと皆が心配していたが、当の彼はそんな仲間達の心配など露知らず、瓶に入ったオーアを飲んでいる。
と、その時、亮牙の隣で見たこともない魚の丸焼きに舌鼓を打っていたシアのウサミミが、突如、ピコンッ!と跳ねたかと思うと、忙しなく動き始めた。次いで、ハジメやスラッグも「ん?」と何かの気配を感じたようで、全長1m近くもあるハタに似た魚を頬張りながら、視線を動かした。
直後、潜水艇を囲むようにして、先が三股になっている槍を突き出した複数の人が、ザバッ!と音を立てて海の中から一斉に現れた。数二十人ほどで、その誰もがエメラルドグリーンの髪と扇状のヒレのような耳を付けていた。どう見ても、海人族の集団だ。彼らの目はいずれも、警戒心に溢れ剣呑に細められている。
そのうちの一人、ハジメの正面に位置する海人族の男が槍を突き出しながら、彼問い掛けた。
「お前達は何者だ?なぜ、ここにいる?その乗っているものは何だ?」
ハジメとスラッグは頬を膨らませながら目一杯詰め込んだ魚肉を咀嚼し飲み込むので忙しい。敵対するつもりはないので、早く返答しようと思うのだが、如何せん、今食べている魚は弾力があってずっしりとボリュームのある強敵。今しばらく飲み込むのに時間がかかる。
二人としては、至って真面目な態度を取っているつもりなのだが、どう見ても、槍を突きつけられ、包囲までされているのに余裕の態度で食事を優先しているふてぶてしい奴らにしか見えなかった。
尋問した男の額に青筋が浮かぶ。どうにも、ただ海にいる人間を見つけたにしては殺気立ち過ぎているようで、そのことに疑問を抱きつつも、一触即発の状況を打開しようと、二人の代わりにシアが答えようとした。
「あ、あの、落ち着いて下さい。私達はですね…」
「黙れ!兎人族如きが勝手に口を──」
やはり兎人族の地位は、樹海の外の亜人族の中でも低いようだ。妙に殺気立っていることもあり、舐めた態度をとるハジメとスラッグ(海人族にはそう見える)に答えさせたいという意地のようなものもあるのだろう。槍の矛先がシアの方を向き、勢いよく突き出された。
身体強化したシアに、海人族の攻撃が通るわけがないのだが、突き出された槍は彼女が躱さなければ、浅く頬に当たっている位置だ。おそらく、少し傷を付けてハジメ達に警告しようとしたのだろう。やはり、少々やりすぎ感がある。海人族はこれほど苛烈な種族ではなかったはずだ。
だが、例えどんな事情があろうと、それは完全に悪手だった。例え警告でも、愛するシアを傷つけようとした相手に、
「ひでぶっ!!?」
口を聞くな、と男が言い切る前に、凄まじい勢いで何かが男の顔面に直撃した。男は大きく吹き飛ばされ、空中を錐揉みしながら飛翔して何度か海面をバウンドした挙句、海中へと沈んでいった。
唖然とした表情で、吹き飛んでいった男からマキシマル一行に視線を戻した残りの海人族達の目に飛び込んできたのは、拳を握り締めてグルルルと睨みつけてくる亮牙の姿だった。跳ね飛んだ海水が太陽の光に反射してキラキラと光り、剥き出しになった牙も、心なし光っているように見える。
「なっ、なっ」
狼狽する海人族達だが、幼児化した亮牙は意に介さず、ギロリと吹き飛ばした男の隣にいた男を睨みつけた。ただでさえ、目の前の幼児から発せられる今まで感じたことのない殺気に押し潰されそうになっていた海人族の男は、睨みつけられた事で恐慌を来たしたのか雄叫びを上げながら槍を突き出す。
「ゼェアア!」
「え?え?な、なんで…」
男の人生の中でも、会心と言っていい程の一撃。死を予感して、本能が繰り出させた必殺の一撃だった。
しかしその一撃は、亮牙の口先でいとも簡単に止められてしまった。彼はそのままバリボリとスナック菓子でも食べるかのように、槍の穂先を噛み砕いてしまった。そして、粉々に噛み砕いた金属の塊をぺっ!と他の海人族の顔面目掛けて吐きつけた。金属の塊が顔面に直撃し、その海人族は呻き声を上げて鼻血を撒き散らした。
槍を失い、呆然としていた海人族の男は、尋常じゃない殺気を放つ上に槍を容易く噛み砕くという目の前の非常識な幼児の姿に頬を引き攣らせた。直後、彼の視界に映ったのは、大きく振りかぶって迫り来る幼児の拳だった。
「グワーッ!!?」
呆然としていた男は、先の男と同じように思い切り殴り飛ばされて吹き飛んだ。
「おれ、ぐりむろっく!」
「モグモグ、ゴクンッ…。亮牙、分かったから落ち着いて…。さて、僕達としては海人族とは極力争いたくないんだ。だから、ここは落ち着いて話し合いといきませんか?流石に、本気で仲間に手を出されたら黙っている訳にはいかないし。?あ、ぶっ飛ばされた二人は流石に死んでないと思いますよ。彼も本調子じゃないみたいですし」
ふんっ!と鼻を鳴らす亮牙を宥めつつ、ハジメはそう提案した。マキシマル一行としても、ミュウと同じ海人族とは、あまり争いたくなかった。さっくり殺してしまった相手が、実は近所のおじさんですとか言われたら目も当てられない。
しかし、海人族の方は、提案を呑むつもりがないらしい。死んでいないとはいえ仲間を吹き飛ばされた挙句、海の上という人間にとって圧倒的に不利な状況で「お前達など相手にならない」という態度をとる(海人族にはそう見える)マキシマル一行に自尊心を傷つけられたらしい。
また、人間族に対する警戒が異常に高いようで、ハジメの言葉を全く信用していないようだ。油断させようとしてもそうはいかない! と、ハジメ達から距離を取りながら背中に括りつけた短い銛を投擲するように構えだした。
「そうやって、あの子も攫ったのか?また、我らの子を攫いに来たのか!」
「もう魔法を使う隙など与えんぞ!海は我らの領域。無事に帰れると思うな!」
「手足を切り落としてでも、あの子の居場所を吐かせてやる!」
「安心しろ。
何やら尋常でない様子だ。警戒心というより、その目には強烈な恨みが含まれているように見える。「我らの子を攫う」という言葉から、彼等が殺気立っている原因を何となく察するハジメ。もしかするとミュウ誘拐の犯人と勘違いされているのかもしれない。見たことのない乗り物に乗り、兎人族の奴隷を連れ、海人族の警戒範囲をうろつく人間。確かに誤解されてもおかしくないかもしれない。
亜人族は、種族における結束や情が非常に強く、他種族間でもそうだが、特に同種族において、その傾向は顕著だ。シアのために一族総出で樹海を飛び出したハウリア族しかり、族長を傷つけられて長老会議の決定を無視してまで復讐に飛び出した熊人族しかり。海人族も例に漏れず、例え他人の子であっても自分の子と変わらないくらい大切なのだろう。
ハジメは内心「わざわざ僕を父親扱いしなくても、父親っぽい奴等が沢山いるじゃんか」と少し拗ねの入った文句を、ここにはいないミュウに向けて苦笑い混じりに呟いた。そして、彼女の名前を出して誤解を解こうとした。
「あ~、あのな、そのさらわれ…」
「やれぇ!!」
しかしそれより早く、海人族は銛を次々と投擲し始めてしまった。下半身を海に付けて立ち泳ぎしながらだというのに、相当な速さで飛来する銛は、なるほど、確かに殺すつもりはないようで肩や足を狙ったものばかりだ。しかもご丁寧に、水中から船を突き上げているらしく、船体が激しく揺れている。
普通の人間なら、バランスを崩して回避行動が間に合わず銛に射抜かれるか、海に落ちて海人族に制圧されるかが関の山だろう。あくまで、普通の人間なら。
「波城」
ユエの呟き一つで海水が圧縮されながら盛り上がり全方位から飛んで来た銛を尽く阻んだ。そして、無詠唱で発動した魔法に海人族達が驚愕している間に、魚を食べ終えたスラッグが肩慣らしと言わんばかりに電気を纏い始める。
文字通り城壁と化していた海水がザバッと音を立てて元に戻ると同時に海人族達は、口をモゴモゴしているスラッグがバチバチと電気を纏っている姿を確認して顔を青くする。
「
「「「「「アイエエエ〜!!?」」」」」
急いで逃げようと踵を返した海人族達だったが、時すでに遅し。スラッグは勢い良く海中に飛び込むと、海人族達を一人も逃さず、ほどよく感電させた。
そこかしこで凄まじい悲鳴が聞こえ、しばらくすると、プカ〜と海人族達と魚やイカが、浮かび上がった。海面に浮上してきたスラッグは、新たな食料が手に入ったと嬉しそうだ。
「俺スラッグ、大漁大漁!」
「ん、そんな事より、この人達が言っていたのって…」
「まぁ、ミュウのことだろうね」
「エリセンに行っても色々ありそうですね。何の問題もなく過ごせた町が皆無という…」
「おれ、ぐりむろっく!」
「やめてよシア。実は、ちょっと気にしてたんだ…。ちくしょう。ミュウがいれば何の心配もなかったのに…」
ハジメは、頭を抱えながら溜息を吐き、取り敢えず、土左衛門になっている海人族達の回収に動き出した。
潜水艇を即席で改造し作った荷台に、白目を剥いてアフロになっている海人族達を乗せ海原を進むマキシマル一行。
スラッグも流石に殺さないよう手加減しておいたので、一人だけ暫くすると目を覚ましたので事情を説明し港に案内させた。
当初、マキシマル一行がミュウの名と特徴を知っていたことに、やはり貴様達が犯人か!と暴れ出そうとした海人族の男だったが、苛立った亮牙が殺気を込めた咆哮を至近距離から浴びせると、改心してきちんと話を聞いてくれるようになった。
そしてミュウが現在、アンカジまで戻ってきていることを話すと、一度エリセンまで行き、そこで同行者を決めて一緒にアンカジまで行って欲しいと頼まれた。海人族としても、真偽の確かめようがないマキシマル一行の話を鵜呑みにして、ミュウの手掛かりかもしれな彼らだけをアンカジに行かせるわけにはいかないのだろう。
目の前でエリセンに案内している青年の他にも、先程、ハジメに吠えた者達は直接ミュウを知っている者達だったらしい。ミュウ誘拐の折、母親が負傷したこともあって余計感情的になっていたようだ。ミュウと再会した時に、そんな知り合い達をぶっ飛ばした挙句、適当に放置しましたというのも気が引けたので、マキシマル一行は仕方なく青年の頼みを聞くことにした。
そうして海の上を走ること数時間、遂に海上に浮かぶ大きな町が見え始めた。海上都市・エリセンだ。しかし…
「…一体、何があったんですか?あちこちに船の残骸が浮かんでますぅ…」
「確かに、様子がおかしい…。観光や商売で賑わってるかと思ったけど…」
明らかに町の様子がおかしい。港には船は一隻も停泊しておらず、大きく破壊された木造船の残骸が浮かんでいるだけだ。町の方も、港なら商人や観光客で賑わっている筈なのだが、人の気配が殆ど感じられない。
マキシマル一行が海人族の青年に理由を尋ねると、青年はバツの悪そうな顔をして答えた。
「あの方…ミュウちゃんのお爺様の仕業だ…。娘が深傷を負わされ、孫が拐われた事で、憎しみに支配されてすっかり人が変わってしまってな…。人族全てに怒りの矛先を向け、手当たり次第に殺し尽くしたのだ。王国の駐屯兵達も悉く返り討ちに遭い、生き残っていた連中はエリセンを追われた…。我々もそれに影響されて、少し攻撃的になってしまっていたようだ…」
それを聞いて、マキシマル一行は顔を顰める。ミュウに祖父がいることは彼女から聞いていたし、イルワもエリセンでトラブルが起きていると言っていたが、どうやら、事態は相当深刻なようだ。
取り敢えず、船の残骸が少ない浅瀬に停留させようと、潜水艇を進めようとした時だ。
「っ⁉︎おれぐりむろっく!おれぐりむろっく!」
「ど、どうしたんですか亮牙さ……皆さん!何かが近づいてきてます!」
シアに抱きかかえられていた亮牙が、何かに気付いたかのように騒ぎ出したのだ。最初はどうしたのかと思ったシアも、直ぐに異変を察知してウサミミを激しく動かす。マキシマル一行は急いで接近する者の正体を確かめるべく、ハッチを開いて船外へと出た。
彼らの目に映ったのは、三列に並んだ無数の金属の巨大な棘だ。そんな異様な物体が、まるでサメの背鰭のように海面に出現し、もの凄い勢いで真っ直ぐこちらに向かってきているのだ。
「き、来た…!あの方だ…!」
「俺スラッグ、やっぱり
その光景に、海人族の青年は顔を真っ青にして震え上がる。一方でスラッグは、その棘の正体を悟り、苦虫を噛み潰した表情となる。
やがて、海中が青い二つの光が光ったかと思うと、凄まじい水音を上げて巨大な頭が浮上した。赤茶色の体色に、ワニに似た細長い頭部と巨大な牙、全てが金属でできている。
「ギャオオオオオオッ!!!」
最後のダイナボット・スコーンは、怒りに満ちた唸り声を上げ、潜水艇へ容赦なく襲い掛かった。
〜用語集〜
・シャークティコン
サイバトロン星に棲息する金属生命体の一種。全長は大型のホオジロザメ並みの巨体を誇り、群れで行動する。
獰猛な性格で、有機生命体から金属生命体まで、目についたものは何でも捕食してしまう。最大の武器は鋭い牙が無数に並んだ強靭な顎だが、前足の鉤爪やモーニングスターに似た尾も武器となる。
モデルはG1のシャークティコン(シャークトロン)。実写シリーズでも、アメコミ『バンブルビー』にてシャークティコンが登場している。
感想、評価お待ちしてます。
本作での雫について現在検討中なのですが、読者の皆様はどんな展開が良いですか?
-
光輝の被害者だし救済してあげて(泣)
-
取り敢えず主要メンバーのヒロイン入り
-
救済する必要なし。悲惨な末路にしろ