まさか製作総指揮がMCUでハッピーを演じたジョン・ファヴロー氏だったのは予想外でした。
にしても登場する恐竜のリスト、絶対ジュラシックワールド意識してるよね(苦笑)
最後の仲間、スコーンとの再会を果たしてから三日が経った。
妙にハジメとの距離が近いレミアに、海人族の男連中が嫉妬で目を血走らせてハジメに突っかかってきた挙句、スコーンに拳骨を喰らって追い返されたり、ご近所のおばちゃん達がハジメとレミアの仲を盛り上げたり、それにユエが不機嫌になってハジメへのアプローチが激しくなったりした。シアとティオは幼児化した亮牙を溺愛して、どちらが面倒を見るかでキャットファイトを繰り広げたり、スラッグに至ってはいつの間にかミュウだけでなくエリセンに住まう海人族の子ども達のガキ大将になっていたり、遂にストレイフが寝込んだりと、まあ兎に角色々あった。
そんな騒動を繰り広げながらも、準備を万全にしたマキシマル一行は遂に、メルジーネ海底遺跡の探索に乗り出した。
しばしの別れに、物凄く寂しそうな表情をするミュウ。盛大に後ろ髪惹かれる思いのハジメだったが、何とか振り切り桟橋から修繕した潜水艇に乗り込もうとする。ミュウが手を振りながら「パパ、いってらっしゃい!」と気丈に叫ぶ。そして、やはり冗談なのか本気なのか分からない雰囲気で「いってらっしゃい、あ・な・た♡」と手を振るレミア。傍から見れば仕事に行く夫を見送る妻と娘そのままだ。
背後のユエからも周囲の海人族からも鋭い視線が飛んできて、迷宮から戻って来ることに少々ためらいを覚えるハジメ。スコーンは娘と孫が自分を忘れている事に少なからず落ち込んでおり、ストレイフが慰めていた。
海上の町エリセンから西北西に約300km。そこが、かつてミレディ・ライセンから聞いた七大迷宮の一つ「メルジーネ海底遺跡」の存在する場所だ。
だが、ミレディから聞いたときは時間がなかったため、後は「月」と「グリューエンの証」に従えとしか教えられず、詳しい場所は分かっていなかった。
マキシマル一行は海底遺跡というくらいだから、それらしき痕跡が何かしらあるのではないかと考えていた。長年エリセンと近海を住処としてきたスコーンによると、そのポイント周辺は周囲100kmの水深に比べると幾分浅いようになっているらしい。
取り敢えず方角と距離だけを頼りに大海原を進んできた一行だったが。昼間のうちにポイントまで到着し海底を探索したものの、特に何も見つけることは出来なかった。
仕方なく彼らは探索を切り上げて、ミレディの教えに従い月が出る夜を待つことにした。今はちょうど日没の頃。地平線の彼方に真っ赤に燃える太陽が半分だけ顔を覗かせ、今日最後の輝きで世界を照らしていた。空も海も赤とオレンジに染まり、太陽が海に反射して水平線の彼方へと輝く一本道を作り出していた。
どこの世界でも、自然が作り出す光景は美しい。ハジメは、停泊させた潜水艇の甲板で、沈む太陽を何となしに見つめながら、ふと、このまま太陽へと続く光の道を進んだならば、日本に帰れはしないだろうかと、そんな有り得ない事を思った。そして、何を考えているんだかと苦笑いを零した。
「俺スラッグ、どうしたハジメ?」
そんなハジメの様子に気がついて、スラッグが話しかけた。片手には昼間の探索の最中に捕まえた、アンモナイトそっくりな生き物の丸焼きを持っており、イカ焼きのような香ばしい匂いがする。
自分も後で分けて貰おうと考えつつ、質問に答えた。
「ちょっと、故郷を思い出していたんだよ。こういう自然の光景は、変わらないなぁって。まだ半年も経ってないけど、こっちでの日々が濃すぎて、なんだかすごく懐かしい気がするよ…」
「俺スラッグ、そう言われるとなんだかそんな気もする」
ハジメの言葉に、そう言えば故郷からこのトータスに転移して16年も経っていた事を思い出したスラッグは同意する。きっと、故郷サウスダコタで過ごしてきた日々を懐かしんでいるのだろう。
そのまま二人でアンモナイトの丸焼きに舌鼓を打っていると、ユエが疲れきった表情で歩み寄ってきて、ハジメの膝の上に腰をおろし、暑いだろうに背中をハジメの胸元にもたれかけた。
「どしたのユエ?すっごく疲れ切った表情してさ…」
「…ん、船内を見れば分かる…」
ぐったりした表情でそう告げるユエに、ハジメは嫌な予感がして甲板から船内に戻った。そこで彼が見たのは…
「おれぐりむろっく!おれぐりむろっく!」
「あひ〜ん♡ひひぃ〜ん♡もっとじゃご主人様〜♡もっとこのいやらしいメス馬の尻を引っ叩くのじゃ〜♡」
「うわぁ…」
…亮牙が四つん這いになったティオの背中に跨り、お馬さんごっこを楽しんでいた。
それだけなら微笑ましい光景に見えるかもしれないが、今のティオはロープを口に咥えて馬銜代わりにし、ハァハァと息を荒げながらクネクネと尻を振り、亮牙に鞭代わりの棒を持たせて自分の尻を打たせては、更に嬉しそうに鼻息を荒げている。文字通り、いやらしいメス馬と化していたのだ。
亮牙自身は幼児化している影響か気にした様子もなく、むしろ楽しんでいたようだが、今のティオは側から見れば幼児にSMプレイをさせる痴女にしか見えない。四つん這いになってその爆乳が強調され、クネクネといやらしく動く尻を見ても、色気よりも気色悪さしか感じられなかった。
そんな光景を前に流石のハジメもドン引きし、ユエが何故あんな疲れ切った様子だったのかを理解した。部屋の隅では、ストレイフが姪の醜態に膝を抱えて落ち込んでおり、普段ならティオを止めに入るシアもスコーンと一緒に彼を慰めている始末であった。
そうこうしているうちにあっという間に時間は過ぎ去り、日は完全に水平線の向こう側へと消え、代わりに月が輝きを放ち始めた。
そろそろ頃合かと、ハジメは懐からグリューエン大火山攻略の証であるペンダントを取り出した。サークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれていて、穴あきになっている。
エリセンに滞在している時にも、このペンダントを取り出して月にかざしてみたり、魔力を流してみたりしたのだが、特に何の変化もなかった。
月とペンダントでどうしろと言うんだ? と、内心首を捻りながら、ハジメは、取り敢えずペンダントを月にかざしてみた。ちょうどランタンの部分から月が顔を覗かせている。
しばらく眺めていたが、特に変化はなかった。やはりわけが分からないと、ハジメは溜息を吐きながら他の方法を試そうとしたその時、ペンダントに変化が現れた。
「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ」
「ふむ。穴があいているのに、不思議だな…」
シアが感嘆の声を上げ、スコーンも同調するように呟いた。二人の言葉通り、ペンダントのランタンは、少しずつ月の光を吸収するように底の方から光を溜め始めていた。それに伴って、穴あき部分が光で塞がっていく。他の仲間たちも興味深げに、ハジメがかざすペンダントを見つめた。
「昨夜も、試してみたんだけどね…」
「ふむ。おそらく、この場所でなければならなかったのではないかの?」
おそらく、ティオの推測が正解なのだろう。やがて、ランタンに光を溜めきったペンダントは全体に光を帯びると、その直後、ランタンから一直線に光を放ち、海面のとある場所を指し示した。
「俺スラッグ、あのゲリ野郎とは違って、なかなか粋な演出だと思う」
「同感。すんごいファンタジーっぽくて、僕、ちょっと感動してるわ」
『月の光に導かれて』という何ともロマン溢れる道標に、皆「おぉ~」と感嘆の声を上げた。特に、ミレディのライセン大迷宮の入口を知っているシアは、一番感動が深かった。
ペンダントのランタンが何時まで光を放出しているのか分からなかったので、早速マキシマル一行は、導きに従って潜水艇を航行させた。
夜の海は暗い、というよりも黒いと表現したほうがしっくりくるだろうか。海上は月明かりでまだ明るかったが、導きに従って潜行すれば、あっという間に闇の中だ。潜水艇のライトとペンダントの放つ光だけが闇を切り裂いている。
ちなみに、ペンダントの光は、潜水艇のフロントガラスならぬフロント水晶(透明な鉱石ですこぶる頑丈)越しに海底の一点を示している。
その場所は、海底の岩壁地帯だった。無数の歪な岩壁が山脈のように連なっている。昼間にも探索した場所で、その時には何もなかったのだが、潜水艇が近寄りペンダントの光が海底の岩石の一点に当たると、ゴゴゴゴッ!と音を響かせて地震のような震動が発生し始めた。そのまま岩壁の一部が真っ二つに裂け、扉のように左右に開き出すと、その奥には冥界に誘うかのような暗い道が続いていた。
「なるほど、道理でいくら探しても見つからないわけだ。あわよくば運良く見つかるかもなんてアホなこと考えるんじゃなかったよ」
「…暇だったし、楽しかった」
「俺スラッグ、美味そうな魚も沢山見れたし、結構面白かったぞ」
「おれ、ぐりむろっく!」
「亮牙さんも楽しかったって言ってますよ〜」
昼間の探索が徒労だったとわかり、ガックリと肩を落としたハジメだったが、仲間達は結構楽しんでいたようだ。
ハジメは潜水艇を操作して海底の割れ目へと侵入していく。ペンダントのランタンは、まだ半分ほど光を溜めた状態だが、既に光の放出を止めており、暗い海底を照らすのは潜水艇のライトだけだ。
「…海底遺跡と聞いた時から思っていたが、この潜水艇レベルの移動手段がなければ、まず、平凡な輩じゃ迷宮に入ることも出来なさそうだな」
「ああ、流石に海人族でも泳いで到達するのは無理そうだな…」
「…強力な結界が使えないとダメ」
「他にも、空気と光、あと水流操作も最低限同時に使えないとダメだね」
「でも、ここにくるのにグリューエン大火山攻略が必須ですから、大迷宮を攻略している時点で普通じゃないですよね」
「恐らく、空間魔法を利用するのがセオリーなんだろうな」
道なりに深く潜行しながら、マキシマル一行は潜水艇がない場合の攻略方法について考察してみた。確かにファンタジックな入口に感動はしたのだが、普通に考えれば、超一流レベルの魔法の使い手が幾人もいなければ侵入すら出来ないという時点で、他の大迷宮と同じく厄介なことこの上ない。彼らは気を引き締め直し、フロント水晶越しに見える海底の様子に更に注意を払ったその時だった。
突如、横殴りの衝撃が船体を襲い、一気に一定方向へ流され始めた。マグマの激流に流された時のように、船体がぐるんぐるんと回るが、そこは既に対策済みだ。組み込んだ船底の重力石が一気に重みを増し船体を安定させた。
「うっ、このぐるぐる感はもう味わいたくなかったですぅ~」
「おれぐりむろっく…」
グリューエン大火山の地下で流されたときの事を思い出したシアは、顔を青くしてイヤイヤと頭を振った。彼女に抱きかかえられている亮牙も同じ気持ちなのか、顔を顰めていた。
「直ぐに立て直したでしょ?もう、大丈夫だって。それより、この激流がどこに続いているかだね…」
そんな二人に苦笑いを浮かべつつ、ハジメはフロント水晶から外の様子を観察した。緑光石の明かりが洞窟内の暗闇を払拭し、その全体像を露わにしている。見た感じ、どうやら巨大な円形状の洞窟内を流れる奔流に捕まっているようだ。
船体を制御しながら、マキシマル一行は取り敢えず流されるまま進んでいくと、船尾に組み込まれている「遠透石」が赤黒く光る無数の物体を捉えた。
「なんか近づいてきてるね…。まぁ、エネルゴン反応がある時点であのシャークティコンとかいう奴らだろうけど」
「…殺る?」
「俺スラッグ、暴れたい」
ハジメがそう呟くと、隣の座席に座るユエが手に魔力に集めながら可愛い顔でギャングのような事をさらりと口にする。スラッグも電気を纏いながらいつも通り不敵な笑みを浮かべている。
「いや、武装を使おう。有効打になるか確認しておきたいし」
ハジメはそう二人を制すると、潜水艇の後部にあるギミックを作動させ、ペットボトルくらいの大きさの魚雷を無数に発射した。ご丁寧に悪戯っぽい笑みを浮かべるサメの絵がペイントされている。激流の中なので、推進力と流れがある程度拮抗し、結果、機雷のようにばら撒かれる状態となった。
潜水艇が先に進み、やがて、鋭い牙と鉤爪を剥き出しにしたシャークティコン達が、魚雷群に突っ込んだ。
「「「「「シャアアアッ!!?」」」」」
背後で盛大な爆発が連続して発生し、大量の気泡がシャークティコンの群れを包み込む。そして、衝撃で鉄屑と化したシャークティコンの残骸が泡の中から飛び出し、文字通り海の藻屑となって激流に流されていった。
「うん、威力は充分だね」
「ほ〜ら亮牙さん。今、窓の外を死んだ魚のような目をした物が流れて行きましたよ」
「おれ、ぐりむろっく!」
「シアよ、それは紛う事無き死んだ魚じゃ」
「改めて思うが、大した技術力だな。ミュウが褒めたぎっていただけはあるよ」
それから度々、シャークティコン達に遭遇するマキシマル一行だったが、容易く蹴散らし先へ進んでいった。
どれくらいそうやって進んだのか。代わり映えのない景色に違和感を覚え始めた頃、彼らは周囲の壁がやたら破壊された場所に出くわした。よく見れば、岩壁の隙間にシャークティコンの残骸が挟まっている。
「…ここ、さっき通った場所じゃないか?」
「…そうみたい。ぐるぐる回ってる?」
どうやらマキシマル一行は円環状の洞窟を一周してきたらしい。大迷宮の先へと進んでいるつもりだったので、まさかここはただの海底洞窟で道を誤ったのかと、誰もが疑問顔になる。結局、今度は道なりに進むのではなく、周囲に何かないか更に注意深く探索しながらの航行となった。
「おっ、ハジメ。あそこにもあるぞ」
「ありがとうストレイフ。これで、五ヶ所目か…」
その結果、洞窟の数ヶ所に50cmくらいの大きさのメルジーネの紋章が刻まれている場所を発見した。紋章は五芒星の頂点のひとつから中央に向かって線が伸びており、その中央に三日月のような文様があるというものだ。それが、円環状の洞窟の五ヶ所にあるのである。
じっくり調べるため、マキシマル一行は、激流の中船体の制御に気を遣いつつ、最初に発見した紋章に近付いた。
「まぁ、五芒星の紋章に五ヶ所の目印、それと光を残したペンダントとくれば……」
そう呟きながら、ハジメは首から下げたペンダントを取り出し、フロント水晶越しにかざしてみた。すると、案の定ペンダントが反応し、ランタンから光が一直線に伸びる。そして、その光が紋章に当たると、紋章が一気に輝きだした。
「こりゃあ、魔法でこの場に来る連中にはちと大変だな。直ぐに気づけなけりゃあ魔力が持たん」
魔法で何とか生命維持している者達にとっては相当酷な仕掛けに、ストレイフがそう呟いた。グリューエン大火山とは別の意味で限界ギリギリを狙っているのだろう。
その後、更に三ヶ所の紋章にランタンの光を注ぎ、最後の紋章の場所にやって来た。ランタンに溜まっていた光も、放出するごとに少なくなっていき、ちょうど後一回分くらいの量となっている。
ハジメがペンダントをかざし最後の紋章に光を注ぐと、遂に円環の洞窟の壁が轟音を立てて縦真っ二つに別れ、先に進む道が現れた。特に何事もなく奥へ進むと、真下へと通じる水路があった。ハジメが潜水艇を進めると、突然、船体が浮遊感に包まれ一気に落下した。
「おぉ?」
「んっ」
「ひゃっ!?」
「ぬおっ」
「うわっ」
「おっと」
「うぬっ」
「おれぐりむろっく」
それぞれ、八者八様の声を上げつつ、股間のフワッとする感に耐えた。直後、ズシンッと轟音を響かせながら潜水艇が硬い地面に叩きつけられ、激しい衝撃が船内に伝わった。
皆が顔を顰めつつフロント水晶から外を見ると、先程までと異なり、外は海中ではなく空洞になっているようだった。取り敢えず、周囲に魔物の気配があるわけでもなかったので、マキシマル一行は船外へと出た。
潜水艇の外は大きな半球状の空間だった。頭上を見上げれば大きな穴があり、どういう原理なのか水面が水滴一つ落ちることなくユラユラと波打っていた。どうやら彼らはそこから落ちてきたようだ。
「どうやら、ここからが本番みたいだな。海底遺跡っていうより洞窟だが」
「…全部水中でなくて良かった」
ハジメは潜水艇を「宝物庫」に戻しながら、洞窟の奥に見える通路に進もうと皆を促す寸前で、ユエに呼びかけた。
「ユエ」
「ん」
それだけで、ユエは即座に障壁を展開した。刹那、頭上からレーザーの如き水流が流星さながらに襲いかかった。圧縮された水のレーザーは、かつて彼女がライセン大迷宮で重宝した「破断」と同じだ。直撃すれば、容易く人体に穴を穿つだろう。
しかし、ユエの障壁は、例え即行で張られたものであっても強固極まりないものだ。それを証明するように、天より降り注ぐ暴威をあっさり防ぎ切った。ハジメが魔力の高まりと殺意をいち早く察知し、阿吽の呼吸でユエが応えたために、奇襲は奇襲となり得なかったのである。当然、ハジメが呼びかけた瞬間に、攻撃を察していた仲間達にも動揺はない。
同時に、亮牙とティオが火炎を繰り出し、天井を焼き払う。それに伴って、ボロボロと攻撃を放っていた原因が落ちてきた。
それは、一見するとフジツボのような魔物だった。天井全体にびっしりと張り付いており、その穴の空いた部分から「破断」を放っていたようだ。なかなかに生理的嫌悪感を抱く光景である。
水中生物であるせいか、やはり火系には弱いようで、亮牙のレーザーファイヤーとティオの「螺炎」により直ぐに焼き尽くされると、マキシマル一行は奥の通路へと歩みを進める。通路は先程の部屋よりも低くなっており、足元には膝くらいまで海水で満たされていた。
「う〜ん、ちょっと歩きにくいですぅ…」
「…おれぐりむろっく?」
「大丈夫ですよ、亮牙さん♡」
ザバァサバァと海水をかき分けながら、シアが愚痴をこぼすと、彼女におんぶされていた亮牙が気遣うように声をかけた。普段の彼なら問題ないが、幼児化した今の身長では、他の者より浸かる部分が多くなってしまうので、シアがおんぶしたのだ。
羨ましそうなティオの視線をスルーしつつ、シアは優しく問題ないと答えた。それを聞いた亮牙も、シアの首筋に手を回してぴったりとくっついた。益々、羨ましそうな眼差しを送るティオだったが、魔物の襲撃により、集中を余儀なくされる。
次に現れた魔物は、まるで手裏剣だった。高速回転しながら直線的に、あるいは曲線を描いて高速で飛んでくる。ハジメは、スっとドンナーを抜くと躊躇わず発砲し空中で全て撃墜した。体を砕けさせて、プカーと水面に浮かんだのはヒトデっぽい何かだった。
更に、足元の水中を海蛇のような魔物が高速で泳いでくるのを感知し、スラッグがダグザを振り下ろして撲殺する。
「…初めて挑む俺が言うのもなんだが、随分弱くないか?」
スコーンの嘆きに、全員が頷いた。大迷宮の敵というのは、基本的に単体で強力、複数で厄介、単体で強力かつ厄介というのがセオリーだ。だが、ヒトデにしても海蛇にしても、海底火山から噴出された時に襲ってきた海の魔物と大して変わらないか、あるいは、弱いくらいである。とても、大迷宮の魔物とは思えなかった。
その事に皆、首を傾げるのだが、その答えは通路の先にある大きな空間で示された。
「っ、何だ?」
一行がその空間に入った途端、半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだのだ。
「私がやります!うりゃあ!」
咄嗟に、最後尾にいたシア(亮牙はスコーンが交代して抱きかかえていた)は、その壁を壊そうとドリュッケンを振るったが、表面が飛び散っただけで、ゼリー状の壁自体は壊れなかった。そして、その飛沫が彼女の胸元に付着する。
「ひゃわ!何ですか、これ!」
シアが困惑と驚愕の混じった声を張り上げた。仲間達が視線を向ければ、何と、彼女の胸元の衣服が溶け出している。衣服と下着に包まれた、シアの豊満な双丘がドンドンさらけ出されていく。
「おれ、ぐりむろっく!」
咄嗟に亮牙が、絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くした。少し、皮膚にもついてしまったようでシアの胸元が赤く腫れている。どうやら、出入り口を塞いだゼリーは強力な溶解作用があるようだ。
「また来るよ!気を抜かないで!」
警戒して、ゼリーの壁から離れた直後、今度は頭上から、無数の触手が襲いかかった。先端が槍のように鋭く尖っているが、見た目は出入り口を塞いだゼリーと同じである。だとすれば、同じように強力な溶解作用があるかもしれないと、再び、ユエが障壁を張る。更に、ティオが炎を繰り出して、触手を焼き払いにかかった。
「正直、ユエの防御とティオの攻撃のコンボって、割と反則臭いよね」
「俺スラッグ、俺たちの攻撃力には負けるがな」
鉄壁の防御と、その防御に守られながら一方的に攻撃。ハジメとスラッグがそう呟くのも仕方ない。スラッグはさり気なく自分の方が強いと主張していたが。
亮牙はスコーンから降りると、心配そうな表情でシアの傍に近寄った。シアも露になった胸の谷間を殊更強調して、実にあざとい感じで頬を染めながらおねだりを始めた。
「おれぐりむろっく?」
「あぁ〜ん、亮牙さ〜ん♡おっぱいを火傷しちゃったので、お薬塗ってもらえませんかぁ?」
「…シア、状況わかってんの?」
「いやハジメさん、ユエさんとティオさんが無双してるので大丈夫かと…」
シアが、胸のちょうど谷間あたりに出来た火傷の幾つかを亮牙に見せつけながら、そんなことをのたまった。
すると…
「悪いなシアちゃん、これ以上お嬢の前でイチャつかれると、お嬢がますますイカれちまって、俺の身体が保たん」
ストレイフが疲れ切った表情でシアに神水を噴霧して、負傷を治してしまった。「あぁ~、折角亮牙さんにおっぱい触らせてあげられたのにぃ〜!」と嘆く彼女に、キョトンとした様子の亮牙以外の全員が冷たい視線を送る。
「む?皆、このゼリー、魔法も溶かすみたい」
嘆くシアに冷たい視線を送っていると、ユエがそう告げた。見れば、彼女の張った障壁がジワジワと溶かされていた。
「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」
ティオの言葉が正しければ、このゼリーは魔力そのものを溶かすことも出来るらしい。中々に強力で厄介な能力だ。まさに、大迷宮の魔物に相応しい。
そんなマキシマル一行の内心が聞こえたわけではないだろうが、遂に、ゼリーを操っているであろう魔物が姿を現した。
天井の僅かな亀裂から染み出すように現れたそれは、空中に留まり形を形成していく。半透明で人型、ただし手足はヒレのようで、全身に極小の赤いキラキラした斑点を持ち、頭部には触覚のようなものが二本生えている。まるで、宙を泳ぐようにヒレの手足をゆらりゆらりと動かすその姿は、クリオネのようだ。もっとも目の前の個体は全長10mに達する化け物だが。
「…此奴は、まさか『悪食』か?」
「俺スラッグ、スコーンは此奴、知ってるのか?」
「俺も昔、噂話で聞いたくらいだ。太古の昔から海に巣食う、天災とも言われる化け物らしい。目にするのはこの60年で初めてだがな.」
スコーンによって正体を明かされた巨大クリオネ・悪食は、何の予備動作もなく全身から触手を飛び出させ、同時に頭部からシャワーのようにゼリーの飛沫を飛び散らせた。
「ユエちゃんは防御に専念しろ!いくぞお前ら!」
そう告げるとストレイフはブラスターを構え、悪食へと発砲する。ユエはコクリと頷くと障壁に専念し、スコーンやスラッグは同じくブラスターを連射し、ティオと亮牙は火炎を繰り出した。シアもドリュッケンを砲撃モードに切り替えて焼夷弾を撃ち放つ。
全ての攻撃は悪食に直撃し、その体を爆発四散させた。いっちょ上がり!とばかりに満足気な表情をするユエ達だったが、それにハジメが警告の声を上げた。
「まだだ!反応が消えてない。ユエは障壁を維持して!…なんだこれ、魔物の反応が部屋全体に…」
ハジメの感知系能力は部屋全体に魔物の反応を捉えていた。しかも、パーセプターで見える視界は赤黒い色一色で染まっており、まるで、部屋そのものが魔物であるかのようだった。未だかつて遭遇したことのない事態に、自然と彼の眼が鋭さを帯びる。
すると、その懸念は当たっていたようで、四散したはずの悪食が瞬く間に再生してしまった。しかも、よく見ればその腹の中に、先程まで散発的に倒していたヒトデモドキや海蛇がおり、ジュワーと音を立てながら溶かされていた。
「成る程、どうやらスコーンの気のせいじゃなく、弱いと思ってた連中はただの野生個体で、此奴の餌だったようだな。…無限に再生されちゃあ面倒くせえ。魔石はどこだ?」
「そういえば、透明の癖に魔石が見当たりませんね?」
ストレイフの推測に頷きつつ、シアがハジメを見るが、彼は悪食を凝視し魔石の場所を探しつつも困惑したような表情をしていた。
「…ハジメ?」
ユエが呼びかけると、ハジメは頭をガリガリと掻きながら見たままを報告した。
「…ない。あいつには、魔石がない」
その言葉に全員が目を丸くする。
「俺スラッグ、じゃああのナメクジの出来損ないは、魔物じゃないのか?」
「分からない。強いて言うなら、あのゼリー状の体、その全てが魔石だ。僕のパーセプターには、あいつの体全てが赤黒い色一色に染まって見える。あと、部屋全体も同じ色だから注意して!あるいは、ここは既に奴の腹の中だ!」
ハジメが驚愕の事実を話すと同時に、再び、悪食が攻撃を開始した。今度は、触手とゼリーの豪雨だけでなく、足元の海水を伝って魚雷のように体の一部を飛ばしてきてもいる。
「おれ、ぐりむろっく!!!」
すかさず亮牙が、摂氏3000度に達するレーザーファイヤーを撒き散らた。狙うのは悪食でも、触手や飛沫でもない。周囲の赤黒い反応を示す壁だ。本体への対応は仲間達に任せる。
悪食には擬態能力まであるのか、何の変哲もないと思っていた壁が、亮牙の爆炎によって壁紙が剥がれるようにボロボロと燃え尽きていった。どうやら、壁そのものが悪食というわけではないようで、ハジメは少しホッとした。
しかし、半透明のゼリーは、燃やしても燃やしても壁の隙間や割れ目から際限なく出現し、遂には足元からも湧き出した。靴底がジューと焼けるような音を立てる。
マキシマル一行の本体への攻撃も激しさを増し、悪食もいよいよ本気になってきたのか、壁全体から凄まじい勢いで湧き出してきた。しかも、いつの間にか水位まで上がってきており、最初は膝辺りまでだったのが、今や腰辺りまで増水してきている。ユエに至っては既に胸元付近まで水に浸かっており、亮牙に至っては仕方なくスコーンに肩車される状態となっていた。
何度も悪食倒しているのだが、直ぐにゼリーが集まり、終わりが見えない。殲滅の方法が見つからない上に、戦闘力を削がれる水中に没するのは非常にまずい。なにせ悪食には籠城が通用しないのだ。魔法で障壁を張ろうとも、潜水艇を出して中に入ろうとも、殲滅方法がなくてはいずれ溶かされてしまう。
故に、ここは一度離脱するべきだとハジメは決断した。しかし、全ての出入口はゼリーで埋まっている。彼は必死に周囲を見渡し、地面にある亀裂から渦巻きが発生しているのを発見した。
「一度、態勢を立て直すよ!地面の下に空間がある!どこに繋がってるかわからないから、覚悟を決めて!」
「んっ」
「はいですぅ」
「承知じゃ」
「了解!」
「分かった」
「おうっ」
「おれぐりむろっく!」
全員の返事を受け取り、ハジメは渦巻く亀裂に向かって「錬成」を行った。亀裂を押し広げ、ドンドン深く穴を開けていく。
ハジメは水中に潜り、ポーチから長さ15cm・直径3cm程の円筒を取り出した。中程にシュノーケルのマウスピース部分のような突起がついている。これは小型の酸素ボンベだ。生成魔法で空間魔法を付与した鉱石で出来ており、中には宝物庫と同じく空間が広がっていて、空気が入れられている。
ただ、エリセンで準備していたときは、壊れた道具や喪失した装備を優先した上、空間魔法は扱いが物凄く難しく、宝物庫とは比べるべくもない狭い空間しか作れなかった。なので、この小型酸素ボンベは一本で三十分程度しか保たない。
タイムリミットを頭の片隅に、ハジメは水中で錬成を繰り返していき、やがて地面が反応しなくなると、宝物庫からパイルバンカーを取り出した。そして、アンカーで水中に固定すると一気にチャージし、階層破りの一撃を放つ引き金を引いた。
水中にくぐもった轟音が振動と共に伝播し、貫通した縦穴へ途轍もない勢いで水が流れ込んでいった。腰元まで上がってきていた海水が、いきなり勢いよく流れ始めたので、マキシマル一行は足をさらわれて穴へと流されて来る。
ハジメは激流の中、水中で必死に踏ん張りながら宝物庫から巨大な岩石と無数の焼夷手榴弾を転送しつつ、仲間達と共に地下の空間へと流されていった。
背後で、くぐもった爆音が響いた。悪食の追撃に対し、少しでも時間が稼げたのか確かめることは出来なかった。
※没ネタ
「あの〜亮牙さん。私の着替え、用意してくれますぅ?」
「おれ、ぐりむろっく!」
悪食に服や下着を溶かされかけたため、シアは着替えを用意してほしいと亮牙に頼む。
彼は任せろ!と言うようにそう告げると、宝物庫から彼女の着替えを用意し始めたが…
「………」
ふと、最後に取り出したのが、シアの下着だと気付いたのか、顔を赤らめて、まじまじと彼女のブラジャーとパンティを見つめてしまう。
「いや〜ん♡亮牙さんったら〜、そんなにまじまじ見てないで渡して下さいよ〜!」
仲間達とは言え、流石に恋人以外の男達に下着を見られたくないシアは恥ずかしそうに叫ぶが、恋人が自分の色香に興奮している姿にまんざらでもなさそうだ。
「ご、ご主人様!そんなにムラムラするなら、妾の下着をあげるのじゃ!」
「頼むからこれ以上恥をかかせないでくれ、お嬢!!!」
その光景を見て嫉妬の炎を燃やしたティオが下着を脱ごうとして、ストレイフが泣きながら必死に羽交締めにして止めるのであった…。
感想、評価お待ちしております。
本作での雫について現在検討中なのですが、読者の皆様はどんな展開が良いですか?
-
光輝の被害者だし救済してあげて(泣)
-
取り敢えず主要メンバーのヒロイン入り
-
救済する必要なし。悲惨な末路にしろ