章のタイトルの由来は勿論、『ジュラシック・ワールド/炎の王国(Jurassic World:Fallen Kingdom)』からです。
ここ最近は原作と似たり寄ったりなところもあったので、若干読者の皆様にはつまらなかったかな、と思います。
本章ではオリジナル展開、今まで以上のアンチ描写が沢山出てくる予定です。ご了承下さい。
異端上等
赤銅色の世界に再び足を踏み入れて一日半、マキシマル一行は砂埃を盛大に巻き上げつつ、パイロを駆りながら一路アンカジ公国を目指していた。本来の目的地はハルツィナ樹海ではあるのだが、再生魔法を習得した今なら、アンカジ公国のオアシスを元に戻せる可能性が浮上したからだ。
この魔法は文字通り、あらゆるものを「元に戻す」という効果があるので、浄化の効かない汚染されたオアシスでも、元に戻せるかもしれない。ちょうど通り道であるし、前回は名物のフルーツを食する暇もなかったことから、フルーツに目がないスラッグが是非にと懇願した事もあり、寄り道していく事にしたのだ。
そして現在、アンカジの入場門が見え始めたところなのだが、何やら前回来た時と違って随分と行列が出来ていた。大きな荷馬車が数多く並んでおり、雰囲気からして、どうも商人の行列のようだ。
「随分と大規模な隊商だね…」
「…ん、時間かかりそう」
「大方、救援物資が届いたってとこだろ。遅過ぎる気もするがな」
ストレイフの推測通り、長蛇の列を作っているのは、アンカジ公国がハイリヒ王国に救援依頼をし、要請に応えてやって来た救援物資運搬部隊に便乗した商人達である。王国側の救援部隊は、当然の如く先に通されており、今見えている隊商も、よほどアコギな商売でもしない限り、アンカジ側は全て受け入れているようだ。
何せ、水源がやられてしまったので、既に収穫して備蓄していたもの以外、作物類も安全のため廃棄処分にする必要があり、水以外に食料も大量に必要としていたのだ。相手を選んでいる余裕はないのである。
当然順番待ちするつもりなど亮牙には毛頭なく、ハジメに指示して、吹き荒ぶ砂と砂漠の暑さに辟易した様子で順番待ちをする隊商を尻目に、パイロを操作して直接入場門まで突入した。
突然、脇を走り抜けていく巨大な8輪の物体に、隊商の人達は「すわっ、魔物か!?」などと内心で叫びつつ、ギョッとしたように身を竦めた。それは門番も同じようで、砂煙を上げながら接近してくるパイロに、武器を構えて警戒心と恐怖を織り交ぜた険しい視線を向けている。
しかし、にわかに騒がしくなった門前を訝しんで奥の詰所から現れた他の兵士がパイロを目にした途端、何かに気がついたようにハッと目を見開き、誰何と警告を発する同僚を諌めて、武器も持たずに出迎えに進み出てきた。更に、他の兵士に指示して伝令に走らせたようである。
マキシマル一行は、門前まで来ると周囲の注目を無視してパイロから降車した。周囲の連中はいつも通り、女性陣の美貌に目を奪われたり、宝物庫に収納されて消えたように見えるパイロに瞠目している。
「ああ、やはりマキシマルの皆様方でしたか。戻って来られたのですね」
兵士は、亮牙達の姿を見るとホッと胸をなで下ろした。おそらく、ビィズを連れてきた時か、亮牙達がグリューエン大火山に静因石を取りに行く時にパイロを見たことがあったのだろう。そしてそれが、彼らマキシマルの乗り物であると認識していたようだ。
知名度は残って治療を続けていたストレイフが一番高いので、代表して前に出る。
「ああ。実は、オアシスを浄化できるかもしれない術を手に入れたんでな。出来ればゼンゲン公と話がしたいんだが…」
「オアシスを⁉︎それは本当ですかっ⁉︎」
「あくまで試すだけだ。成功するか分からんぞ」
「いえ、流石です。と、こんなところで失礼しました。既に、領主様には伝令を送りました。入れ違いになってもいけませんから、待合室にご案内します。皆様方の来訪が伝われば、領主様も直ぐにやって来られるでしょう」
やはり国を救ってもらったという認識なのか、兵士のマキシマル一行を見る目には多大な敬意の色が見て取れる。VIPに対する待遇だ。好奇の視線を向けてくる商人達を尻目に、彼らは門番の案内を受けて再びアンカジ公国に足を踏み入れた。
マキシマル一行が待合室にやって来ておよそ15分後、領主であるランズィが息せき切ってやって来た。随分と早い到着である。それだけ、ランズィ達にとってマキシマル一行の存在は重要なのだろう。
「久しい、というほどでもないか。無事なようで何よりだ、亮牙殿。ティオ殿に静因石を託して戻って来なかった時は本当に心配したぞ。貴殿達は、既に我が公国の救世主なのだからな。礼の一つもしておらんのに勝手に死なれては困る」
「一介の冒険者に何言ってやがる。それに心配しなくとも、俺達はそう簡単にくたばるほどやわじゃねえよ。それよりゼンゲン、どうやら救援も無事に受けられているようだな」
「ああ。備蓄した食料と、貴殿達が作ってくれた貯水池のおかげで十分に時間を稼げた。王国から援助の他、商人達のおかげで何とか民を飢えさせずに済んでいる」
そう言って、少し頬がこけたランズィは穏やかに笑った。アンカジを救うため連日東奔西走していたのだろう。疲労がにじみ出ているが、その分成果は出ているようで、表情を見る限りアンカジは十分に回せていけているようだ。
「なあゼンゲン公。オアシスの浄化は…」
「ストレイフ殿…。オアシスは相変わらずだ。新鮮な地下水のおかげで、少しずつ自然浄化は出来ているようだが、中々進まん…。このペースだと完全に浄化されるまで少なくとも半年、土壌に染み込んだ分の浄化も考えると一年は掛かると計算されておる」
少し憂鬱そうにそう語るランズィに、ストレイフが今すぐ浄化できる可能性があると伝える。それを聞いたランズィの反応は劇的だった。掴みかからんばかりの勢いで「マジで!?」と唾を飛ばして確認するランズィに、流石の彼も完全にドン引きしながらコクコクと頷く。
マキシマル一行の引き攣った顔を見て、取り乱したと咳払いしつつ居住まいを正したランズィは、早速、浄化を頼んできた。元よりそのつもりだと頷き、彼らはランズィに先導されオアシスへと向かった。
普段は憩いの場所として大勢の人々で賑わっているオアシスだが、今は全くと言っていいほど人気がない。かつての賑わいを思い出し、ランズィが無表情ながらも何処か寂しそうな雰囲気を漂わせている。
オアシスの畔に立って再生魔法を行使するのは、ストレイフとスコーンだ。
再生魔法を入手したものの、相変わらずハジメは適性が皆無だった。一方シアは、入手後すぐに獲得した「癒乳」の他、オートリジェネのような自動回復効果が備わり、意識すれば傷や魔力、体力や精神力の回復も段違いに早くなるらしい。亮牙との特訓もあり、身体強化のレベルや体重操作の熟練度も上がっているようなので、自動回復装置付きの重戦車のようになって来ている。マキシマル指揮官夫人の肩書きに相応しい超人っぷりだ。
一番適性が高かったのは、意外にもストレイフで、次がスコーンとティオ、その次がユエ・亮牙・スラッグだった。ユエの場合は相変わらず自動再生があるせいか、任意で行使する回復作用のある魔法は苦手なようだ。反対に医者であるストレイフは「回復」と「再生」に通じるものがあるようで一際高い適性を持っており、より広範囲に効率的に行使出来るようだ。
ストレイフとスコーンはオアシスの岸に近づくと腰を下ろし、両腕の袖を捲り上げて、両腕を前腕まで水中に沈めた。静謐さと、どこか荘厳さを感じさせる二人の男達の雰囲気に、ランズィと部下達が息を呑む。決して邪魔をしてはならない神聖な儀式のように感じたのだ。緊張感が場を支配する中、いよいよ二人は再生魔法を発動させた。
「「ハァッ!!!」」
大きな掛け声と共に、二人の両腕から魔力が溢れ出し、オアシスへと注がれる。注がれた魔力は、蒼い光を放ちながらオアシス全体へと広がっていき、まるでサファイアのように美しく輝いた。それはまるで、破壊された自然環境が元の美しい姿へと戻っていくかのような、神秘的で心に迫る光景だった。
誰もがその光景に息をするのも忘れて見蕩れる。術の効果が終わり、オアシスを覆った神秘の輝きが空に溶けるように消えた後も、ランズィ達は、しばらく余韻に浸るように言葉もなく佇んでいた。
亮牙に促され、ハッと我を取り戻したランズィは、部下に命じて水質の調査をさせた。部下の男性が慌てて検知の魔法を使いオアシスを調べる。固唾を呑んで見守るランズィ達に、検知を終えた男は信じられないといった表情でゆっくりと振り返り、ポロリとこぼすように結果を報告した。
「…戻っています」
「…もう一度言ってくれ」
ランズィの再確認の言葉に部下の男は、息を吸って、今度ははっきりと告げた。
「オアシスに異常なし!元のオアシスです!完全に浄化されています!」
その瞬間、ランズィの部下達が一斉に歓声を上げた。手に持った書類やら荷物やらを宙に放り出して互いに抱き合ったり肩を叩きあって喜びをあらわにしている。何故かスラッグも釣られて歓声を上げている。
ランズィも深く息を吐きながら感じ入ったように目を瞑り天を仰いでいた。
「あとは土壌の再生だな…。ゼンゲン、作物は全て廃棄しちまったか?」
「…いや、一箇所にまとめてあるだけだ。廃棄処理にまわす人手も時間も惜しかったのでな…。まさか、それも?」
「俺達もアイツら程じゃないが、同じような力は使える。お前らはどうだ?」
「…ん、問題ない」
「うむ。せっかく丹精込めて作ったのじゃ。全て捨てるのは不憫じゃしの。任せるが良い」
「俺スラッグ、食い物粗末にするとバチが当たるって聞いたことある。もしダメでも、俺スラッグ、みんな食ってやる!」
マキシマル一行の言葉に、本当に土壌も作物も復活するのだと実感し、ランズィは胸に手を当てると、人目もはばからず深々と頭を下げた。領主がすることではないが、そうせずにはいられないほど彼の感謝の念は深かったのだ。公国への深い愛情が、そのまま感謝の念に転化したようなものだ。
ランズィからの礼を受けながら、早速、マキシマル一行は農地地帯の方へ移動しようとした。
だが、不意に感じた不穏な気配にその歩を止められる。視線を巡らせば、遠目に何やら殺気立った集団が肩で風を切りながら迫ってくる様子が見えた。アンカジ公国の兵士とは異なる装いの兵士が隊列を組んで一直線に向かってくる。ハジメが「遠見」で確認してみれば、どうやらこの町の聖教教会関係者と神殿騎士の集団のようだった。
マキシマル一行の傍までやって来たその集団は、すぐさま彼らを半円状に包囲した。そして、神殿騎士達の合間から白い豪奢な法衣を来た初老の男が進み出てきた。
物騒な雰囲気に、ランズィが咄嗟に男とマキシマル一行の間に割って入る。
「ゼンゲン公、こちらへ。彼等は危険だ」
「フォルビン司教、これは一体何事か。彼等が危険?二度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ?彼等への無礼は、アンカジの領主として見逃せませんな」
フォルビン司教と呼ばれた初老の男は、馬鹿にするようにランズィの言葉を鼻で笑った。
「ふん、英雄?言葉を慎みたまえ。彼等は、既に異端者認定を受けている。不用意な言葉は、貴公自身の首を絞めることになりますぞ」
「異端者認定、だと?馬鹿な、私は何も聞いていない」
マキシマル一行に対する「異端者認定」いう言葉に、ランズィが息を呑んだ。ランズィとて、聖教教会の信者だ。その意味の重さは重々承知している。それ故に、何かの間違いでは?と信じられない思いでフォルビン司教に返した。
「当然でしょうな。今朝方、届いたばかりの知らせだ。このタイミングで異端者の方からやって来るとは…。クク、何とも絶妙なタイミングだと思わんかね?きっと、神が私に告げておられるのだ。神敵を滅ぼせとな……
「あ?」
最後のセリフは声が小さく聞こえなかったが、どうやらマキシマル一行が異端者認定を受けたことは本当らしいと理解し、思わず、背後の彼らに振り返るランズィ。
しかし当のマキシマル一行は、誰一人として特に焦りも驚愕もなく、来るべき時が来たかと予想でもしていたように肩を竦めるのみだった。そして、視線で「どうするんだ?」とランズィに問いかけている。唯一、亮牙は最後のセリフを聞き取っていたらしく、フォルビン司教を冷めた目で見ていたが。
マキシマル一行の視線を受けて眉間に皺を寄せるランズィに、如何にも調子に乗った様子のフォルビン司教がニヤニヤと嗤いながら口を開いた。
「さぁ、私は、これから神敵を討伐せねばならん。相当凶悪な連中だという話だが、果たして神殿騎士百人を相手に、どこまで抗えるものか見ものですな。…さぁさぁ、ゼンゲン公よ、そこを退くのだ。よもや我ら教会と事を構える気ではないだろう?」
ランズィは瞑目する。そして、マキシマル一行の力や性格、その他あらゆる情報を考察して何となく異端者認定を受けた理由を察した。自らが管理できない巨大な力を教会は許さなかったのだろうと。
しかし、彼ら一人一人の力の大きさを思えば、自殺行為に等しいその決定に、魔人族と相対する前に、マキシマル一行と戦争でもする気なのかと中央上層部の者達の正気を疑った。そして、どうにもキナ臭いと思いつつ、一番重要なことに思いを巡らせた。
それは、マキシマル一行がアンカジを救ってくれたということ。毒に侵され倒れた民を癒し、生命線というべき水を用意し、オアシスに潜む怪物を討伐し、今再び戻って公国の象徴たるオアシスすら浄化してくれた。
この莫大な恩義に、どう報いるべきか頭を悩ましていたのはついさっきのことだ。ランズィは目を見開くと、ちょうどいい機会ではないかと口元に笑みを浮かべた。そして、黙り込んだランズィにイライラした様子のフォルビン司祭に領主たる威厳をもって、その鋭い眼光を真っ向からぶつけ、アンカジ公国領主の答えを叩きつけた。
「断る」
「…今、何といった?」
全く予想外の言葉に、フォルビン司教の表情が面白いほど間抜け顔になる。そんなフォルビン司教の様子に、内心、聖教教会の決定に逆らうなど有り得ないことなのだから当然だろうなと苦笑いしながら、ランズィは、揺るがぬ決意で言葉を繰り返した。
「断ると言った。彼等は救国の英雄。例え、聖教教会であろうと彼等に仇なすことは私が許さん」
「なっ、なっ、き、貴様!正気か!教会に逆らう事がどういうことかわからんわけではないだろう!異端者の烙印を押されたいのか!」
ランズィの言葉に、驚愕の余り言葉を詰まらせながら怒声をあげるフォルビン司教。周囲の神殿騎士達も困惑したように顔を見合わせている。
「フォルビン司教。中央は、彼等の偉業を知らないのではないか?彼は、この猛毒に襲われ滅亡の危機に瀕した公国を救ったのだぞ?報告によれば、ウルの町も、全く役に立たなかったと噂の勇者一行含めたホルアドも、彼らに救われているというではないか…。そんな相手に異端者認定?その決定の方が正気とは思えんよ。故に、ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、この異端者認定に異議とアンカジを救ったという新たな事実を加味しての再考を申し立てる」
「だ、黙れ!決定事項だ!これは神のご意志だ!逆らうことは許されん!公よ、これ以上、その異端者を庇うのであれば、貴様も、いやアンカジそのものを異端認定することになるぞ!それでもよいのかっ!」
どこか狂的な光を瞳に宿しながら、フォルビン司教は、とても聖職者とは思えない雰囲気で喚きたてた。それを冷めた目で見つめるランズィに、いつの間にか傍らまでやって来ていた亮牙が、意外そうな表情で問いかける。
「いいのか、ゼンゲン?この腐れカルト教団と傀儡国家のハナクソ王国の両方と事を構えることになるぞ。一国の領主として、その判断はどうなんだ?」
ランズィは亮牙の言葉には答えず、事の成り行きを見守っていた部下達に視線を向けた。誘われるように亮牙も視線を向けると、二人の視線に気がついた部下達は一瞬瞑目した後、覚悟を決めたように決然とした表情を見せた。瞳はギラリと輝いている。明らかに、「殺るなら殺ったるでぇ!」という表情だ。
その意志をフォルビン司教も読み取ったようで、更に激高し顔を真っ赤にして最後の警告を突きつけた。
「いいのだな?公よ、貴様はここで終わることになるぞ。いや、貴様だけではない。貴様の部下も、それに与する者も全員終わる。神罰を受け尽く滅びるのだ」
「このアンカジに、自らを救ってくれた英雄を売るような恥知らずはいない。神罰?私が信仰する神は、そんな恥知らずをこそ裁くお方だと思っていたのだが?司教殿の信仰する神とは異なるのかね?」
ランズィの言葉に、怒りを通り越してしまったのか無表情になったフォルビン司教は、片手を上げて神殿騎士達に攻撃の合図を送ろうとした。
と、その時、ヒュ!と音を立てて何かが飛来し、一人の神殿騎士のヘルメットにカン!と音を立ててぶつかった。足元を見れば、そこにあるのは小石だった。神殿騎士には何のダメージもないが、なぜこんなものが?と首を捻る。しかし、そんな疑問も束の間、石は次々と飛来し、神殿騎士達の甲冑に音を立ててぶつかっていった。
何事かと石が飛来して来る方を見てみれば、いつの間にかアンカジの住民達が大勢集まり、神殿騎士達を包囲していた。彼等は、オアシスがかつて以上に美しく輝き始めたという話と、慌ただしく駆けていく神殿騎士達の姿に、何事かと野次馬根性で追いかけて来た人々だ。
彼等は、神殿騎士が、自分達を献身的に治療してくれたストレイフや、特効薬である静因石を大迷宮に挑んでまで採ってきてくれたマキシマル一行を取り囲み、それを敬愛する領主が庇っている姿を見て、「教会のやつら乱心でもしたのか!」と憤慨し、敵意もあらわに少しでも力になろうと投石を始めたのである。
「やめよ!アンカジの民よ!奴らは異端者認定を受けた神敵である! 奴らの討伐は神の意志である!」
フォルビンが、殺気立つ住民達の誤解を解こうと大声で叫ぶ。彼等はまだ、ハジメ達が異端者認定を受けていることを知らないだけで、司教たる自分が教えてやれば直ぐに静まるだろうと、フォルビンは思っていた。
実際、聖教教会司教の言葉に、住民達は困惑をあらわにして顔を見合わせ、投石の手を止めた。だがそこへ、今度はランズィの言葉が、威厳と共に放たれる。
「我が愛すべき公国民達よ。聞け!彼等マキシマルは、たった今、我らのオアシスを浄化してくれた!我らのオアシスが彼等の尽力で戻ってきたのだ!そして、汚染された土地も!作物も!全て浄化してくれるという!彼等は、我らのアンカジを取り戻してくれたのだ!この場で多くは語れん。故に、己の心で判断せよ!救国の英雄を、このまま殺させるか、守るか。…私は、守ることにした!」
フォルビン司教は、「そんな言葉で、教会の威光に逆らうわけがない」と嘲笑混じりの笑みをランズィに向けようとして、次の瞬間、その表情を凍てつかせた。
住民達の意思が投石という形をもって示されたからだ。
「なっ、なっ…」
再び言葉を詰まらせたフォルビン司教に住民達の言葉が叩きつけられた。
「ふざけるな!俺達の恩人を殺らせるかよ!」
「教会は何もしてくれなかったじゃない!なのに、助けてくれたマキシマルの皆様方を害そうなんて正気じゃないわ!」
「何が異端者だ!お前らの方がよほど異端者だろうが!」
「きっと、異端者認定なんて何かの間違いよ!」
「ストレイフさん達を守れ!」
「領主様に続け!」
どうやら、住民達はランズィとマキシマル一行に深い敬愛の念を持っているらしい。信仰心を押しのけて、目の前のランズィとマキシマル一行を守ろうと気勢をあげた。いや、きっと信仰心自体は変わらないのだろう。ただ、自分達の信仰する神が、自分達を救ってくれた「英雄」達を害すはずがないと信じているようだ。要するに、信仰心がフォルビン司教への信頼を上回ったということだろう。元々、信頼があったのかはわからないが…。
事態を知った住民達が、続々と集まってくる。彼等一人一人の力は当然のごとく神殿騎士には全く及ばないが、際限なく湧き上がる怒りと敵意にフォルビン司教や助祭、神殿騎士達はたじろいだ様に後退った。
「司教殿、これがアンカジの意思だ。先程の申し立て、聞いてはもらえませんかな?」
「ぬっ、ぐぅ…ただで済むとは思わないことだっ…」
「いや、ただで済まないのはテメェだ」
歯軋りしながら煮え滾った眼で睨みつけ、フォルビン司教は踵を返して教会へと逃げ帰ろうとするが、そうはいかなかった。亮牙がそう呟きながらロボットモードになると、まるで小虫のようにフォルビン司教を摘み上げた。
「ヒィッ!!?は、離せ化け物め!自分が何をしてるか分かってるのか!!?」
「見りゃ分かるだろ?善良な民衆を脅迫する、性根の腐った生臭坊主を懲らしめてやるのさ」
先程とは打って変わって、顔を青くして喚き散らすフォルビンに、グリムロックは冷めた目で睨みつけながらそう告げる。
「テメェ、さっきこう呟いてたろ。『
「な⁉︎だ、黙れ!この私を侮辱する気か!今すぐ神罰が下るぞ!」
「そうか、なら直接神に会って頼んでこい」
グリムロックはそう告げると、今なお喚き散らすフォルビン司教を、まるで小石のように天高く投げ飛ばした。
フォルビン司教は「アイエエエ〜!!?」と情けない悲鳴を上げながら空高く飛んでいき、アンカジ公国全体を覆うドームすら突き破り、そのまま皆の視界から消え去った。
ゴミを始末したのを確認すると、グリムロックはビーストモードへと変形し、フォルビン司教の最期に唖然としていた神殿騎士を睨みつけた。残るダイナボット三体も同じくビーストモードに変形した姿を見て、漸く神殿騎士達は自分達がとんでもない奴らに喧嘩を売った事を悟り、誰もが足元に水溜りを作って震え上がっていた。
とても騎士とはいえない醜態を晒す神殿騎士達に、グリムロックは容赦なく怒鳴りつけた。
「全員、今すぐこの国から、出て行け!さもないと俺グリムロック、お前達を酷い目に遭わせてやるぞ!」
「「「「「グォオオオオオオッ!!!」」」」」
「「「「「アイエエエ〜!!?」」」」」
最後に4体分の凄まじい雄叫びを浴びせられ、神殿騎士達は完全に戦意を喪失した。全員、持っていた武器や被っていたヘルメットを投げ捨てると、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出し、一目散に入場門へと駆け込んで、アンカジ公国から逃げ去った。
砂漠を横断する準備などせずに、よりによってグリューエン大砂漠へと飛び出していくなど、自殺行為も同然なのだが、圧倒的な強者を前に本能的な恐怖に支配された神殿騎士達の脳裏には、そんな事考えている暇もなかったようだ。恐らく、砂漠で勝手に全員野垂れ死ぬだろう。
神殿騎士達が全員逃げ去るのを確認すると、グリムロックは人間態に戻り、何でもないように涼しい表情のランズィに話しかけた。
「悪かったなゼンゲン。中立を宣言するぐらいでも良かったのに、気を遣わせちまって」
「なに、これは『アンカジの意思』だ。この公国に住む者で貴殿等に感謝していない者などおらん。そんな相手を、一方的な理由で殺させたとあっては、それこそ、私の方が『アンカジの意思』に殺されてしまうだろう。愛すべき国でクーデターなど考えたくもないぞ」
「まあ見ての通り、俺達マキシマルにとっちゃ、あんな奴等ハナクソも同然だ」
ランズィの言葉に、頬を掻きながら亮牙がそう言うと、ランズィは我が意を得たりと笑った。
「そうだろうな。つまり君達は、教会よりも怖い存在ということだ。救国の英雄だからというのもあるがね、半分は、君達を敵に回さないためだ。信じられないような能力をいくつも使い、未知の化け物をいとも簡単に屠り、大迷宮すらたった数日で攻略して戻ってくる。教会の威光をそよ風のように受け流し、百人の神殿騎士を歯牙にもかけない。万群を正面から叩き潰し、勇者すら追い詰めた魔物を瞬殺したという報告も入っている…。いや、実に恐ろしい。父から領主を継いで結構な年月が経つが、その中でも一、二を争う英断だったと自負しているよ」
亮牙としては、ランズィが自分達を教会に引き渡したとしても敵対認定するつもりはなかったのだが、ランズィは万一の可能性も考えて、教会とマキシマル一行を天秤にかけ後者をとったのだろう。確かに、国のためとは言え、教会の威光に逆らう行為なのだ。英断と言っても過言ではないだろう。
亮牙としては、覚悟していた教会の異端認定とその結果の衝突が、いきなり自分達以外の人々によって血みどろの戦いにならなかったことに、何とも言えない曖昧な笑みを浮かべた。そして、わらわらと自分達の安否を気遣って集まってくるアンカジの人々と、それにオロオロしつつも嬉しそうに笑う仲間達を見て、これも愛子が言っていた「寂しい生き方」をしなかった結果なのかと、そんなことを思うのだった。
教会との騒動から三日。農作地帯と作物の汚染を浄化したマキシマル一行は、輝きを取り戻したオアシスを少し高台にある場所から眺めていた。
視線の先、キラキラと輝く湖面の周りには、笑顔と活気を取り戻した多くの人々が集っている。湖畔の草地に寝そべり、水際ではしゃぐ子供を見守る夫婦、桟橋から釣り糸を垂らす少年達、湖面に浮かべたボートで愛を語らい合う恋人達。訪れている人達は様々だが、皆一様に、笑顔で満ち満ちていた。
彼らは今日、アンカジを発つ。当初は、汚染場所の再生さえすれば、特産のフルーツでも買ってさっさと出発するつもりだったのだが、領主一家や領主館の人々、そしてアンカジの住民達に何かと引き止められて、結局、余分に二日も過ごしてしまった。
アンカジにおけるマキシマル一行への歓迎ぶりは凄まじく、放っておけば出発時に見送りパレードまでしそうな勢いだったので、ランズィに頼んで何とか抑えてもらったほどだ。見送りは領主館で終わらせてもらい、自分達だけで門近くまで来て、最後にオアシスを眺めているのである。
「えへへ〜、どうですか亮牙さ〜ん?惚れ直しちゃいましたか〜?」
「ああ、最高だよ。もう色っぽ過ぎて今すぐ襲いたくなりそうだ」
「も〜、亮牙さんったらエッチなんですから〜♡」
亮牙にそう言われ、いやんいやんと身体をくねらせるシアの服装は、いわゆるベリーダンスで着るような衣装だった。チョリ・トップスを着てへそ出し、下はハーレムパンツやヤードスカートだ。彼女の普段着はへそ出しルックのセクシーな服装が多いが、今回のこの衣装は非常に扇情的で、この姿で踊られたりしたら目が釘付けになること請け合いだ。
この衣装はアンカジにおけるドレス衣装で、領主の奥方から女性陣にプレゼントされたものだ。三人とも早速これを着て己の意中の相手に披露したとき、亮牙もハジメもメロメロになった。どうやら二人とも、こういう衣装に非常に弱かったらしい。
これに味をしめた女性陣は、基本的に一日中その格好でそれぞれの意中の相手に侍るようになった。その結果、出発間際の今になっても、全員、エロティックな衣装のままなのである。
「ご主人様〜♡妾の方も見てほしいのじゃ〜♡」
「いい加減いつも通りの服を着ろ、お嬢!嫁入り前の娘がはしたない!」
無論、ティオも負けじと、亮牙の性癖をガンガンと積極的に突くように、いやらしく身体をくねらせ、その爆乳をプルンプルンと揺らしまくる。その傍では、いつも通りストレイフが半泣きになりながら、必死に姪っ子にちゃんとした服装を着させようとしている。
ティオのナイスバディに釘付けになりながら、亮牙は口を開いた。
「おい、ティオ」
「む?どうしたのじゃ?」
「今日からそれ、テメェの普段着にしろ」
「ぬふぉっ!!?し、承知したのじゃ!思う存分妾の肢体を堪能するのじゃ〜♡」
「余計な事言うんじゃねぇ馬鹿!」
「ちょっと亮牙さ〜ん!」
「痛えっ!よせシア!頬つねるなって!」
相変わらずのセクハラ発言を真に受けてより一層興奮するティオに、ストレイフは泣きながら怒鳴る。シアも頬を膨らませて、ティオの胸元をガン見していた亮牙の頬をつねる。
そんな騒がしい雰囲気の四人を、残る四人は呆れて苦笑しながら、一行は、門に向かうのだった。
そして、アンカジを出発して二日。そろそろホルアドに通じる街道に差し掛かる頃、マキシマル一行は、賊らしき連中に襲われている隊商と遭遇した。
そこで、亮牙とハジメは、意外すぎる人物達と再会することになった。それと同時に、聖教教会とハイリヒ王国の終焉も刻一刻と迫っていた。
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