グリムロックは宇宙最強   作:オルペウス

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コロナ、何とか完治しました。読者の皆様には、ご心配をおかけしました。

トランスフォーマー関連では、スタジオシリーズでメガトロナスことザ・フォールンの発売も決定したので、発売が待ち遠しいです。

本作の王都侵攻、原作とはまた違った展開となります。楽しんで頂けると幸いです。




開戦

 初めて会った時から、彼は、他の子達とは違っていると感じました。

 

 髪の色とかもそうですけど、他の子達より何処か達観しているような、何処か近寄りがたい雰囲気がありました。

 

 他の先生達はあまり関わり合おうとはしませんでしたが、私はなるべく、積極的に彼のことを気にかけました。

 

 彼は共に暮らしている幼馴染の生徒以外には関わりを持とうとしなかったので、放っておいたら、彼が孤独になってしまうような気がしたんです。

 

 気にかけ過ぎて、若干他の生徒達より贔屓しちゃってたかもしれないですけど、そんなおかげで、彼も憎まれ口を叩きつつ、私に心を開いてくれました。

 

 だからこそ、この異世界にやって来てから、彼が頼りない私の味方になってくれて、本当に嬉しかった。それもあってか、いつの間にか彼を、生徒以上の目で見ていくようになったんです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗く明かり一つ無い部屋の中に、格子の嵌った小さな窓から月明かりだけが差し込んで黒と白のコントラストを作り出していた。

 部屋の中は酷く簡素な作りになっている。鋼鉄造りの六畳一間で、ベッドはおろか、椅子や机、トイレすらない。地球の刑務所の方がまだましな空間を提供してくれそうだ。

 そんなどう見ても牢獄にしか思えない部屋で、天井から吊り下げられた鎖に縛られているのは畑山愛子その人だ。この部屋に幽閉されてから、三日が経とうとしている。

 愛子の首には、首輪のようなチョーカーがつけられている。無論これはただのチョーカーではない。スパイダーボットと呼ばれる、蠍とムカデを組み合わせたような外見の小型ディセプティコンが変形した姿だ。このディセプティコンは愛子の首に噛みつき、神経系に凄まじい負荷を与えている。全身の細胞がバラバラになりそうな激痛に、彼女は今もなお苦しめられている。

 仮にスパイダーボットがいなくても、鋼鉄の扉を愛子に突き破れる筈もないし、唯一の窓にも格子が嵌っていて、せいぜい腕を出すくらいが限界だろう。何より、部屋のある場所が高い塔の天辺な上に、ここが神山である以上、聖教教会関係者達の目を掻い潜って地上に降りるなど不可能だ。

 そんな絶望的な状況に、何もできない自分への苛立ちや、今なお続く拷問に苦しみながらも、愛子は生徒達の身を案じていた。

 

「また私の生徒がしようとしていること…。一体何が…」

 

 僅かに顔を上げた愛子が呟いたのは、攫われる前に銀髪の修道女が口にしたことだ。亮牙達が聞かせてくれた話を光輝達に話すことで与えてしまう影響は、彼女の言う「主」と「同盟者」とやらには不都合らしい。そして、生徒の誰かがしようとしていることの方が面白そうだとも。

 愛子の胸中に言い知れぬ不安が渦巻く。思い出すのは、混乱に乗じて亮牙を突き落とした檜山や、ウルの町で敵に唆された清水のことだ。もしかしたら、また生徒の誰かが、取り返しのつかない事をしようとしているのではないかと、彼女は気が気でなかった。

 こうして何もない部屋で監禁・拷問されて、痛みに耐えながらも出来るのは考えることだけ。そうして落ち着いて振り返ってみれば、帰還後の王宮は余りに不自然で違和感だらけの場所だったと感じる。彼女の脳裏に、強硬な姿勢を崩さない、どこか危うげな雰囲気のエリヒド国王や重鎮達のことが思い出される。

 きっと、あの銀髪の修道女が何かをしたのだと愛子は推測した。彼女が言っていた「魅了」という言葉がそのままの意味なら、きっと洗脳かそれに類する何かをされているのだ。だが同時に、会議の後で話した雫や優香、リリアーナについてはそのような違和感を覚えなかった。その事に安堵すると共に、こうしている間に何かされるのではないかと強烈な不安が込み上げる。

 どうか無事でいて欲しいと祈りながら、思い出すもう一つの懸念。それは「イレギュラー達の排除」という言葉。意識を失う寸前に聞いたその言葉で、愛子は何故か二人の生徒、正確にはそのうちの一人を思い出した。

 何かと憎まれ口を叩く事はあるが、自分にある程度の敬意を払ってくれた命の恩人。圧倒的な強さと強い意志を秘めながら、弱い自分の言葉に耳を傾け真剣に考えてくれた彼。そして色々とあって、色々と思うところがあったり、なかったりする彼。

 地球にいた頃や、このトータスでの記憶を脳内で再生しているうちに、愛子は彼の安否を憂慮する気持ちと何故か無性に逢いたい気持ちに押されて、ポロリと零すように彼の名を呟いた。

 

「…………灘君」

「おう、呼んだか?」

「ふぇ?」

 

 半ば無意識に呟いた相手から、ある筈のない返事が返ってきて思わず素っ頓狂な声が上がる。鎖に縛られた状態ながらも、部屋の中をキョロキョロと見回すが、自分以外の人などいるはずもない。

 心身ともに疲弊したせいで幻聴でも聞こえたのかと首を捻る愛子だったが、それが違うと証明するように、再度、声がかけられた。

 

「こっちだ、合法ロリ」

「えっ?」

 

 愛子は、体をビクッと震わせながら、やっぱり幻聴じゃない!と声のした方、格子の嵌った小さな窓に視線を向けると、亮牙が窓から顔を覗かせてた。

 

「えっ?えっ?灘君ですか?えっ?ここ最上階で…本山で…えっ?」

「落ち着け、すぐに中に入るから」

 

 混乱する愛子を尻目に、亮牙は嗅覚を研ぎ澄まして見張りなどがいないか確かめると、拳をトランスフォーマーのものへと部分的に変身させ、ショベルカーの如く容易く壁に穴を開け、中に侵入を果たした。

 愛子のいる部屋は地面から100m近くあるにもかかわらず、普通に地面を歩いて入口から入ってきたかのように、外壁に穴を開けて登場した亮牙。愛子は心身ともに疲弊しているのも忘れて目を白黒させるが、彼は珍しく小さく笑みを浮かべながら歩み寄った。

 

「何だよ?白馬に乗った王子様かと思ったら、キングコングみたいなのが来てショックだったか?そもそも、そっちの方から俺名前を呼んだじゃねえか…」

「ふぇ⁉︎そ、それは……あぐぅ!!?」

「ッ、どうした⁉︎」

 

 相変わらず憎まれ口を叩きつつも、さっき自分の名前を呟いた事を指摘する亮牙。愛子はまさか、貴方の事を考えていて半ば無意識に呟いてました等と言える訳もなく顔を赤くするが、首に噛み付いたスパイダーボットが再び神経系に負荷をかけ、思わず顔を顰める。

 一瞬動揺する亮牙だったが、直ぐに僅かなエネルゴンの匂いを嗅ぎつけ、匂いの発生源である愛子の首元を睨みつける。

 

「成る程な、あのゴミ屑どもめ…。待ってろ先生、直ぐ助けてやる」

 

 亮牙はそう呟くと、愛子を縛り上げていた鎖を、まるで飴細工かのように容易く引き千切ると、解放された愛子を優しく抱きかかえた。

 一方の愛子は、直前まで脳裏に浮かんでいた男が、自分の窮地に助けに来てくれた挙句、優しく自分を抱き締めている状況に、身体を蝕む痛みも忘れて赤面し、動悸を早めていった。これがただの生徒と教師なら、特に何の問題もないかもしれないが、彼女はただ硬直して亮牙に抱きかかえられるしかなかった。

 そんな愛子の心情など露知らず、亮牙は口元を彼女の首筋へと近づけた。しかし、いきなりそんな事をされた愛子は「ひゃう!」とおかしな声を上げて身を竦めて喚きだした。

 

「ダメ!ダメです!灘君!そんないきないりぃ!私は先生ぇ!」

「悪いな、ちょっと我慢しろ」

 

 だが亮牙は気にした様子もなく、愛子の首筋、正確にはチョーカーに擬態しているスパイダーボットにガブリと噛み付いた。キィ!と悲鳴を上げたスパイダーボットが、愛子の神経に立てていた牙を引っ込めた隙に、亮牙は彼女の首からそのディセプティコンを引き剥がすと、そのまま勢いよく噛み砕いた。スパイダーボットは断末魔を上げる暇もなく、バラバラに噛み砕かれて床に吐き出された。

 

「よし、これでもう痛みはねぇだろ?」

「え?あっ、はい。そうか、そういうことでしたか…」

「何だよ?この状況でエロい真似でもして欲しかったか?」

「ふぇっ!!?こ、こら!大人を揶揄うんじゃありません!」

 

 キョトンとなる愛子に、亮牙が呆れたように苦笑しながら揶揄うと、愛子は顔を真っ赤にして誤魔化そうとする。そして、なぜ自分がここに囚われていることを知っていたのかと誤魔化しがてらに尋ねた。

 

「そ、それよりも、何故ここに…?」

「助けに来たに決まってんだろ」

「わ、私のために?灘君が、わざわざ助けに来てくれたんですか?でも、どうして此処にいると?」

「それなら園なんとかに感謝しろよ」

「え〜と…もしかして園部さんの事ですか?」

「ああ、あんたが攫われるところを目撃してたんだよ。またクラスの中にコンズに寝返った馬鹿がいるって分かったから、態々危険を冒してまで俺達マキシマルに助けを呼びに来たのさ」

「園部さんが…。灘君はそれに応えてくれたんですね」

「当然だ」

 

 そう告げたかと思うと、亮牙は愛子を優しく下ろすと、彼女に頭を下げた。普段の彼からは考えられない行動に、愛子は戸惑ってしまう。

 

「すまなかった。今回アンタがこんな目に遭ったのは、全部俺の所為だ…。アンタにも知る権利があるからと、不用意に巻き込んだ結果、アンタが捕まり拷問されるような事態を招いた。もし園なんとかがいなかったら、アンタは今頃辱められるか、最悪殺されてたかもしれん…。許してくれとは言わん。ただ謝罪だけはさせてくれ…」

 

 ウルの町でのあの夜の事、結果として恐れていた事態を招き、愛子の貞操や命を危険に晒してしまった事を詫びる亮牙。彼なりに、今回の件には深く責任を感じていたのだ。

 その謝罪を黙って聞いていた愛子は、亮牙に顔を上げるように告げると、彼の手を握り締めながら真っ直ぐな眼差しを向け、優しく語りかけた。

 

「君を責めるなんてこと絶対にありません。…君はちゃんと話す際に忠告してくれたし、私なりにこうなる覚悟はしていたつもりです。助けに来てくれて、本当に嬉しいです。君を恨んだり、嫌ったりなんてしていません」

「…先生」

 

 目を丸くする亮牙に、愛子は、憂いと優しさを含ませた微笑みを向けながら、彼の頭を優しく撫でた。

 

「あの時は色々あり過ぎて、きちんと言えませんでしたから、今、言わせて下さい。…助けてくれてありがとう。何度も無茶をさせてごめんなさい」

「……」

 

 一番辛いのは彼女自身だというのに、それを表に出さず、今なお自分を気にかけてくれる愛子に、自責の念に駆られていた亮牙の心は救われた。

 

「俺の事は気にするな。それより、そろそろ行こう。ハジメ達が王都に行ってる筈だから、合流するぞ」

「分かりました。…灘君、気を付けて下さい。教会は、頑なに君達を異端者認定しました。それに、私を攫った相手は、もしかしたら君達を…」

「分かってる。どっちにしろ、この場所には用事があったし、何より、アンタを痛めつけたあの腐れカルト共は、ぶちのめさねぇと気が済まん」

 

 強靭な闘志を秘めた眼差しで頷く亮牙に、再び頬が熱くなるのを感じながら、愛子は再び憂慮の言葉をかけようとした。

 とその時、遠くから何かが砕けるような轟音が微かに響き、僅かではあるが大気が震えた。

 何事かと緊張に身を強ばらせた愛子が亮牙に視線を向けると、彼は遠くを見る目をして何かに集中していた。続けて、地上にいるハジメ達から念話で情報が送られてきた。

 

「ふん。どうやら俺達が手を下すまでもなく、あのハナクソ王国も報いを受ける時が来たか…」

 

 暫くして、そんな風に毒づきながら、亮牙は視線を愛子に戻す。愛子は念話の事など知らないが、非常識な能力やアーティファクト類を沢山見てきたので、それらにより何か情報を掴んだのだろうと察し、視線で説明を求めた。

 

「ディセプティコンと魔人族の連合軍の襲撃だ。さっきのは王都を覆う結界が破られた音らしい」

「襲撃ですって!!?ハイリヒ王国が!!?」

「ああ。今ハジメ達から連絡が来た。連中が神代魔法でつくった生物兵器どものオンパレードだとよ。完全な不意打ちだな」

「そんな…!こんな容易く侵略だなんて…」

「あり得ない、なんて事はねえぞ。クラスの内通者の手引きもあったろうし、コンズどもならこの程度朝飯前だ」

 

 王都を侵略できるほどの戦力を気づかれずに侵攻させた挙句、頑強な大結界があっさり破られたという状況に、愛子は顔面を蒼白にして頭を振る。だが亮牙としては、内通者などの切り札や、ディセプティコンの協力があれば当然だと、さして驚いてはいなかった。

 

「取り敢えず、ハジメ達と合流するぞ。話はそれからだ」

「は、はい」

 

 緊張と焦燥に顔を強ばらせた愛子を、亮牙は片腕に座らせるような形で抱っこする。「うひゃ!」と再び奇怪な声を上げながらも、愛子は咄嗟に、彼の首元に掴まった。

 

カッ!

 

「ッ!」

「きゃあっ!!?」

 

 だが次の瞬間、外から強烈な光が降り注いだ。部屋に差し込んでいた月の光をそのまま強くしたような銀色の光に、亮牙はすぐさま外壁を殴り壊して飛び出した。急激な動きに、愛子が耳元で悲鳴を上げギュッと抱きついた。

 二人が隔離塔から飛び出した瞬間、銀光がついさっきまで愛子を捕えていた部屋を丸ごと吹き飛ばした。物が粉砕される轟音などなく、莫大な熱量により消失したわけでもなく、ただ砕けて粒子を撒き散らす破壊。人を捕えるための鋼鉄の塔の天辺は、砂より細かい粒子となり、夜風に吹かれて空へと舞い上がりながら消えていった。

 

「…こりゃあ、分解か?」

「ご名答です、イレギュラー」

 

 余りに特異な現象に、重力魔法で空中に留まった亮牙がそう呟くと、鈴の鳴るような、しかし、冷たく感情を感じさせない声音が返ってくる。

 亮牙と愛子が声のした方へ視線を向けると、そこには、隣の尖塔の屋根から二人を睥睨する銀髪碧眼の女がいた。愛子はすぐに、その女が自分を攫った修道女だと気づいた。

 もっとも、愛子が最後に会った時と異なり修道服は着ておらず、代わりに白を基調としたドレス甲冑のようなものを纏っていた。ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている。どう見ても戦闘服だ。まるでワルキューレのようである。

 銀髪の女は、その場で重さを感じさせずに跳び上がった。そして、天頂に輝く月を背後にくるりと一回転すると、その背中から銀色に光り輝く一対の翼を広げた。背後に月を背負い、煌く銀髪を風に流すその姿は神秘的で神々しく、この世のものとは思えない美しさと魅力を放っていた。

 だが、惜しむらくはその瞳だ。纏う全てが美しく輝いているにも関わらず、女の瞳だけは氷の如き冷たさを放っていた。その冷たさは相手を嫌悪するが故のものではない。ただただ、ひたすらに無感情で機械的。人形のような瞳だった。

 愛子を抱きかかえながら睨みつける亮牙を見返しながら、銀髪の女がおもむろに両手を左右へ水平に伸ばすと、ガントレットが一瞬輝いたかと思えば、その両手に白い鍔なしの大剣が握られていた。銀色の魔力光を纏った2m近い大剣を、重さを感じさずに振り払った銀色の女は、やはり感情を感じさせない声音で亮牙に告げる。

 

「ノイントと申します。『神の使徒』として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

 それは宣戦布告だ。ノイントと名乗った女は、偽りの神・エヒトが送り出した、本当の意味での『神の使徒』なのだろう。いよいよ亮牙達が邪魔になったらしく、直接「盤上」から排除する気のようだ。

 ノイントから噴き出した銀色の魔力が周囲の空間を軋ませる。大瀑布の水圧を受けたかのような絶大なプレッシャーに、愛子は必死に歯を食いしばって耐えようとする。だが、表情は青を通り越して白くなり、体の震えは大きくなる。

 「もうダメだ」と意識を喪失しそうになる寸前、愛子を強烈な熱気が包み込んだ。彼女を守るように増してゆくその熱気は、ノイントの放つ銀のプレッシャーの一切を寄せ付けなかった。

 愛子は目を見開いて、原因であろう間近い場所にある亮牙の顔に視線を向ける。するとそこには、ノイントのプレッシャーなど眼中にもないと言わんばかりに、亮牙が怒りの炎と闘志を滾らせていた。

 見蕩れるように、あるいは惹きつけられるように視線を逸らせなくなった愛子を尻目に、亮牙は片腕にマグマトロンを展開して、鋒をノイントに突きつけた。

 

「名乗る必要はない。直ぐにぶっ壊してやる」

 

 その言葉を合図に、標高8,000mの神山上空で「神を名乗る欺瞞者の傀儡」と、6,600万年前から生きてきた「生ける伝説」が衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 亮牙と愛子がノイントの襲撃を受ける少し前、マキシマルの面々は優香とリリアーナの案内のもと、夜陰に紛れて王宮の隠し通路を進んでいた。二人を光輝達のもとへ送り届けるためだ。

 本来なら、マキシマルの目的は愛子の救出と神山の何処かにある大迷宮もとい神代魔法であり、王国が自滅しようが、リリアーナと光輝達がのたれ死のうが、正直どうでもよかった。

 ただ、取り敢えず愛子の安全を確保するためには、救出後の預け先である光輝達が洗脳の類を受けていないか、優香以外のクラスメイト達が安全と言えるかの確認が必要だった。それに神山は文字通り聖教教会の総本山であり、愛子の救出までは出来るだけ騒動を起こさないことが望ましいところ、連中に気付かれず愛子の監禁場所の捜索と救出を行うために、亮牙はストレイフだけを連れて向かった。

 そのため、王都に残ることになった面々は、優香がリリアーナに付きそうと言って聞かないこともあり、大した手間でもないことから一緒に行動しているのである。スコーンは今なお、リリアーナへの殺意と嫌悪感を露わにしていたが。

 なお、ティオは万一に備えて王都の何処かで待機している。全体の状況を俯瞰できる者が一人くらいいた方がいいという判断だ。

 そんなユエ達が、隠し通路を通って出た場所は、何処かの客室だった。振り返ればアンティークの物置が静かに元の位置に戻り何事もなかったかのように鎮座し直す。

 

「この時間なら、皆さん自室で就寝中でしょう。…取り敢えず、雫の部屋に向かおうと思います」

 

 闇の中でリリアーナが声を潜める。向かう先は、雫の部屋のようだ。勇者なのに光輝に頼らない辺りが、彼女の評価を如実に示している。

 リリアーナの言葉に頷き、索敵能力が一番高いシアを先頭に一行は部屋を出た。雫達、異世界組が寝泊まりしている場所は、現在いる場所とは別棟にあるので、月明かりが差し込む廊下を小走りで進んでいく。

 そうして、しばらく進んだ時、それは起こった。

 

チュドドドドド!!!

 

ドカァァァァン!!!

 

 砲撃でも受けたかのような轟音が響き渡り、直後、凄まじい爆発音が王都を駆け抜けたのだ。衝撃で大気が震え、マキシマル一行のいる廊下の窓をガタガタと揺らした。

 

「わわっ、何ですか一体!⁉︎」

「これはっ、まさか⁉︎」

 

 索敵のために耳を最大限に澄ましていたシアが、思わずペタンと伏せさせたウサミミを両手で押さえて声を漏らす。すぐ後ろに追従していたリリアーナは、思い当たることがあったのか顔面を蒼白にして窓に駆け寄った。他の面々も様子を見ようと窓に近寄る。

 そうして一行の眼に映ったのは、王都の夜空に大結界の残滓たる魔力の粒子が、キラキラと輝き舞い散りながら霧散していく光景が広がっていた。

 

「そんな…。大結界が、砕かれた?」

 

 信じられないといった表情で口元に手を当て震える声で呟きながら、リリアーナが呆然とその光景を眺めていると、再び何かが爆発して轟音が鳴り響く。そして、王都を覆う光の膜のようなものが明滅を繰り返しながら軋みを上げて姿を現した。

 

「第二結界も…。どうして、こんなに脆くなっているのです?これでは、直ぐに…」

 

 リリアーナの言う大結界とは、外敵から王都を守る三枚の巨大な魔法障壁のことだ。三つのポイントに障壁を生成するアーティファクトがあり、定期的に宮廷魔法師が魔力を注ぐことで間断なく展開維持している王都の守りの要だ。その強固さは折り紙つきで、数百年に渡り魔人族の侵攻から王都を守ってきた。戦争が拮抗状態にある理由の一つでもある。

 その絶対守護の障壁が、一瞬の内に破られたのだ。そして、今まさに、二枚目の障壁も破られようとしている。内側に行けば行くほど展開規模は小さくなる分強度も増していくのだが、数度の攻撃で既に悲鳴を上げている二枚の障壁を見れば、全て破られるのも時間の問題だろう。結界が破られたことに気が付き、王宮内も騒がしくなり始めた。あちこちで明かりが灯され始めている。

 

「馬鹿が。どう考えたって、内通者の仕業に決まってんだろ。第一、向こうにはディセプティコンがついてやがるんだ。少数でも十分な破壊工作くらい簡単に出来る」

 

 呆然としながら思考に没頭しているリリアーナに、スコーンがそう毒づいた。

 

『聞こえるかの?妾じゃ、状況説明は必要かの?』

 

 ユエ達の持つそれぞれの念話石が輝き、そこから声が響いている。王都に残してきたティオの声だ。口振りから、何が起きているのか大体のところを把握しているらしい。

 

『ティオちゃんか。まあ大体は予測はつくが、頼むぜ』

『心得た。王都の南方1km程の位置に魔人族と魔物、それにディセプティコンの大軍じゃ。あの時の何とかクリームとかいう奴もおるぞ。結界を破壊したのは彼奴じゃ』

「まさか本当に敵軍が…。そんな、一体どうやってこんなところまで…」

 

 ティオの報告に、リリアーナが表情を険しくしながらも疑問に眉をしかめるが、マキシマル一行には想像がついていた。グリューエン大火山にて、少なくともサイクロナスと、フル○ン・バカボンとかいう魔人族は空間魔法を手に入れていた。一緒にいたスタースクリームやニトロゼウスも、恐らく習得しているだろう。

 軍そのものを移動させる程のゲートを開くなど、ユエでも至難の業ではあるが、そもそもディセプティコンにはスペースブリッジがあるので問題ではない。現に大陸の南北を飛び越えて、一切人目につかずに王都の目と鼻の先にいるのだ。

 そうこうしているうちに、再びガラスが砕けるような音が響き渡った。第二障壁も破られたのだ。焦燥感を滲ませた表情でリリアーナが光輝達との合流を促すが、スコーンは鼻で笑いながらそれを断った。

 

「その餓鬼どもに会いたきゃお前一人で行け」

「なっ、ここで?一体何を…」

 

 一刻も早く光輝達と合流し態勢を整える必要があるのに何を言い出すのかとリリアーナは訝しそうに眉をしかめた。だが、スコーンは知ったことかと言わんばかりに窓を開けると、殺気立った瞳に加えて不適な笑みを浮かべながら、理由を述べる。

 

「ムシャクシャしてたところだ。こんなクソみたいな国どうでもいいが、コンズどもをぶちのめせば良いストレス発散になる」

「俺スラッグ、それなら俺もついてく!」

 

 スコーンとしては、さっさとハイリヒ王国を滅ぼして、早くリリアーナを殺してやりたかっただけに、今までの状況は非常にストレスが溜まっていたようだ。スラッグも嬉々として賛同し、自分も加勢すると言い出す始末だ。

 

「シアちゃん達も来るかい?もしかすりゃあ、サイクロナスとかも来てるかもしれんぞ?」

「なら私も行きます。彼奴がいたら、泣いて謝ってもボコり続けて、スクラップにしてやります」

 

 サイクロナスもいる可能性がある。それを聞いたシアは無表情になると、スコーンより過激な事を言い出した。普段から明るく笑顔の絶えないシアだけに、無表情での暴行宣言は非常に迫力があった。グリューエン大火山でサイクロナス達が行った不意打ちや、亮牙をマグマに沈められた件は、相当腹に据え兼ねていたらしい。

 終いには、ハジメやユエまでも参戦すると言い出す始末で、最早どうでもいい物扱いされているリリアーナは涙目でオロオロしている。優香が慌てて説得した事で、何とかハジメだけは残って同行してくれる事になった。

 

「そういうわけで、私達は、ちょっと調子に乗っているディセプティコンどもを破壊してくるので、ここで失礼します」

「…ん、あと邪魔するならペットの魔人族どもも」

「スラッグ、どっちが多く敵を倒せるか勝負するか?無論、この腐った国の愚民どもも敵に含めてな」

「俺スラッグ、乗った!久々にぶっ壊しレースをしよう!」

 

 そう言うや否や、ユエとシア、スラッグとスコーンの四人は、窓ごと壁を殴り壊すと王都へ向かって飛び出して行ってしまった。いくらスタースクリームが不死身のボディを手にしたとは言え、此処に彼の仲間がいたら「逃げてぇ、スタスク!超逃げてぇ!」と叫んでいたに違いない。

 壁に開けられた大穴から、夜風と喧騒が入り込んでくる。しばらく、互いに無言のまま佇む優香とリリアーナだったが、ハジメから「さっさとしないと僕も向こうに加勢するよ?」と言い出した事で、慌てて進み始めた。

 あっさり後回しにされた挙句、ハイリヒ王国に待ち受ける末路に、リリアーナは「何故私ばかりがこんな目に…」と泣きながら呟く。それを聞いたハジメは「自業自得だろ」と辛辣に心の中で呟くが、空気を読んで口には出さず、優香達と連れ立って雫達のもとへ急ぐのであった。

 

 

 

 

 




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