「え、もう仲直りしたのかい?」
事務所に来た蘭子は、あっさりと飛鳥に今日あったことを話した。
「うむ。桐原くんも我との関係修復を求めていたようでな……。……ふふっ、もう……我に、話しかけるためにそわそわしてるのが……可愛くて……ぷふっ」
ブーメランであることに一切気づかない蘭子は、失礼極まりないことに一人でクスクスと肩を震わせる。
そのテンションになる蘭子は、最近では珍しくないが、過去トータルを見ればすごく珍しいので、飛鳥としてはついていけない。
「そ、そうか……具体的には、どう解決したんだい?」
「それは当然、向こうが子供のように『仲直りしたいオーラ』を放っていたから、仕方なく我の方から歩み寄って……」
「もしもし、桐原くんかい? ……ああ、僕だ。え? いや詐欺じゃないよ」
「飛鳥ちゃん⁉︎」
これ以上は聞くに耐えなかったため、本人に電話した。勿論、別の答えが耳元から返ってくる。
それを聴くなり、思わず飛鳥は蘭子をジト目で睨んでしまった。
「蘭子……君……」
「う、うう……電話するのは反則……」
「嘘の方がよほど反則に近いと思うけど?」
そう言いつつ「そうか、わかった。ありがと」とだけ言って電話を切った。最初はあの二人の相性は悪いものだと思っていたが、出会った当日に自分と喧嘩してしまって、そういう事にはならなくなってしまった。フラグとは怖いものである。
「しかし……ま、仲直り出来たのなら良かったよ。君も彼も割と意地を張る方だし、そのまま仲違いするようではなくて安心した」
「むぅ……飛鳥ちゃんは私の保護者なの?」
「似たようなものだろう」
「違うよ!」
実際の所、蘭子はクールに見えてクールではない。口調こそ取り繕っているものの、雪ではしゃぐし、割と簡単にボロは出すし、カッコイイと思ったものには少年の目をして簡単に心を開く。
まぁ、そんな所も可愛いのだが、どちらかと言うとやはり世話が焼けるわけだ。
「……しかし、蘭子も隅に置かないな」
「え?」
「いや、なんでも」
恐らくだが、あの少年は蘭子のことをとても気に入っている。自分じゃ気付いていないが、おそらく異性として意識しているのだろう。この前の脚の件でよく分かった。
けど、蘭子どころか本人もそれに気付いている様子は無い。全く可愛い子供達だ。
「……ま、これからどうするんだい? 蘭子」
「折角、関係修復を行えたのだ。また、二人で密会を行うだけよ」
「あー……まぁ、それはそうだよね」
特に、関係が進展するようなことはなかったようだ。まぁ、中学生未満の剣道小僧と厨二病真っ只中の二人の関係が、そんな簡単に進展するはずがないのは分かる。
「でも、それだけなのかい?」
「え?」
「何か、こう……せっかく異性なんだし、関係が変わる、みたいな?」
「フッ……我に限って、それはあり得ない。我が魂は異性にうつつを抜かす事はあらず」
「ふーん……向こうが好きって言って来ても?」
「え?」
「え?」
飛鳥の何気ない言葉に、蘭子は思わず頬をほんのり赤く染めて固まった。
「き、桐原くんが……我を?」
「仮に、の話だよ。どうするんだい?」
言われて、蘭子は思わず俯く。悪い子ではない。むしろ良い子だ。クセが強いが、自分のやりたいことを必死にやっていて、その表情がグッと来ることもあった。
それに、自分が間違っていると思えばすぐに認める素直さもある。顔だって言うほどイケメンじゃないけどイケメンだ。童顔気味の。
「……でも、うーん……桐原くんが、告白して来たら、か……」
「どう?」
「そもそも、告白をする桐原くんが想像出来ない」
「仮にだよ?」
「仮にでも」
蘭子的には、そもそもあの子にそういう恋愛面に関してまともな情緒があるのか、という所だ。いや、美波に鼻の下を伸ばしていた以上、異性に対する意識というのは間違い無くあるのだろう。
でも……仮に、仮にあの子が自分のことを好きだとして、告白されたらどんな感じになるのだろうか?
『ねぇ……蘭子、実は俺……蘭子ちゃんの事、好きなんだ』
ありえない。普通に気持ち悪い。誰だお前って感じ。
『蘭子ちゃん、実はYo! 俺ってば君の事が好きなんだZE☆』
なんでラッパー風? 返事はビンタで返してしまいそうだ。
『蘭子侍、実は拙者……お主に気があるのでござる』
「ぶふっ……」
「蘭子、さっきから何を笑っているんだい? 正直、気味が悪いよ」
「いや……桐原くんで色々と想像するのが面白くて……」
「言っちゃおうかな」
「待たれよ!」
人を頭の中で遊ぶとか、それはそれで危ない奴だ。想像力豊かにも程があるだろう。
要するに、やはり蘭子には「コウが告白する」という絵もセリフも何一つ、思いつかないのだ。
しかし、飛鳥は真逆だった。何せ、飛鳥はあの日、蘭子の事が大好きとしか思えないコウの様子を見ていたのだから。
なので、飛鳥が見た中で、蘭子に告白する時に言いそうな台詞を想像して行ってみることにした。あくまで、自分の気持ちに気づき、思春期を迎えた、と想定して、だ。
決め顔を作った飛鳥は、蘭子の頬に手を添えた。
「なぁ、蘭子……:」
「えっ……?」
「こんな事言われても、お前は困るだけかもしれねえけど……あまりに無防備過ぎるから言うわ。……俺は、お前が好きだ」
「えうっ⁉︎」
直後、バシャッという何か液体をこぼしたような音が聞こえた。そっちに二人して顔を向けると、橘ありすが手元から飲み物をひっくり返してしまっていた。
しかし、その事には見向きもしない。何故なら、顔を真っ赤にして告白まがいのことをした厨二病二人を見ていたからだ。
「う、うそ……百合って、本当にあったんだ……」
「「えっ、いや違っ……」」
「ふ、文香さーん!」
「「待ってええええええ!」」
大慌てで止めに行った。追い掛けたが、意外な脚力で中々、追いつけない。しかし、ありすは文香を見つけた事により、その動きを止める。
「……ありすちゃん。如何いたしましたか?」
「神崎さんと二宮さんが愛し合っていました!」
「え」
「違うんだ文香さん!」
改めて説明させてもらった。
「……と、いうわけで……別に百合とかそんなんじゃないから。蘭子の友達がしそうな告白をしてみたってだけで……」
「……といういいわけですか?」
「違うってば!」
しかし、ありすがそれを信じない。たまらず蘭子も問い詰めた。
「わ、我らがそのような特殊な神格に見えるのか⁉︎」
「だ、だって……お二人の言葉は独特ですが、お互いに通じ合っているようですし……」
言い逃れが出来なかった。厨二病の弊害がこんなところにあるとは思わなかった。
すると、蘭子はキッと飛鳥を睨み付ける。
「あ、飛鳥ちゃんが急に変なことするから……!」
「ぼ、僕の所為かい⁉︎ 蘭子だって変な妄想していたじゃないか! どうせ、告白された時のシミュレーションでもしていたんだろう?」
「だからって飛鳥ちゃんが乗ってくる事ないでしょー⁉︎」
「ちゃんと乗らないと正しいシミュレーションもしようとしなかった癖に!」
「や、やめて下さい! 相思相愛同士で……!」
「「だから違うってば!」」
あんまりな大声に、さらに周りにアイドル達が集まり、ヒソヒソとお話をし始める。これはマズい。違うのにありもしない噂が広がる。ファンの間に広がる事に比べたらマシだが、こっちはこっちでまずいものだ。
こうなれば、打てる手は一つしかない。それを先に思いついた飛鳥は、スマホを取り出しつつ、蘭子にサインを出した。
「蘭子!」
「な、何!」
「双子座!」
そのサインから蘭子は一瞬で推理する。双子座、それはつまりカストル&ポスクル、二人合わせてディオスクロイだが、問題はそこではない。二人は双子座だが、本当の双子ではないという事だ。
つまり、偽物を作れ、というサイン。最近、FGOに新規参戦した事もあり、すぐにそのサインは伝わった。この場合、作るのは偽物の双子ではなく恋人の方だ。完璧とは言い難いサインだが、伝われば良いのだ。
飛鳥がコウに「辻褄を合わせて」とL○NEを送り、蘭子がコウに電話をする。
「あ、も、もしもし……我が親愛なるゼウスか?」
『え?』
「我が魂は衝迫的に貴様の唄声を欲する事がある。故に……その、こうして念話をもってコンタクトを図った」
『あそう。実は俺も蘭子と話し足りなかったんだよね』
「……っ」
こういうことをさらっと言って来るのは、飛鳥のL○NEを見た上での演技なのか素なのか。何れにしても、蘭子は照れてしまっているので少し腹立たしかった。
「文香さん、神崎さんは何を……文香さん?」
解読できないありすは片眉をあげて文香に尋ねるが、赤面しているその様子に心配そうな声音に変えて聞いた。
「……い、今のは、ですね……? その『急に、声が聞きたくなったの』っていう意味で……」
「急に? 何故です?」
「……その、恋人同士の関係の方々に……よくある事、と……本で、読んで……」
それを聞いて、ありすも顔を赤く染める。恋愛、というだけで顔を赤くするとは、可愛い人達である。
それを確認するなり「すまぬ、美姫達からコンタクトの指令が出た」と適当なことを言って通話を切った。
「か、神崎さん! 恋人がいらっしゃるのですか⁉︎」
「さてな」
「あ、教えて下さい!」
「どうかな?」
そう、ここはハッキリを返事をしなくて良い所だ。だっていないから。要するに、百合扱いされなければ良いのだから、別の話題にそらしつつ、キチンと「男の人が好きです」って事をアピール出来れば良い。
とりあえず、しつこいありすをいなしつつ、万事解決した四人はラウンジで仲良くおしゃべりした。
何人かのアイドルからの視線に気づく事なく。
×××
「ら、蘭子チャンに……彼氏……? み、みくが……確かめないと……!」
×××
電話の向こうでは。
「……え、俺と蘭子って恋人同士だったの……?」
文香のセリフが、ガッツリと聞こえていた。