神崎さんは分かりやすい。   作:バナハロ

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友達と自宅で勉強会は100%捗らない。

 怪我が完治まで一週間となった。でも試験期間になった。よっしゃ、ちょうど良い。ようやく目の前で好きなものを食べられたまま身動き取れない歯痒さから解放されるぜ。

 そんなわけで、俺と蘭子も当然、試験期間に入る。蘭子が暇な日は俺の家で勉強していく事になっていた。え、何で俺の家かって? それは……。

 

「蘭子、剣先高い。それは相手の喉元に向けて」

「う、うむ……」

「後ろ足の踵を浮かす。体重は片足に乗せないで両足に均等にかけて」

「こ、こう?」

「そう。あと両腕の力は軽く抜く。剣道のカッコよさは、まず構えからだ」

 

 蘭子に剣道を教えているからだ。いや、これ良いよ本当。何せ、俺自身の復習にもなるから。こんな怪我していても自分を鍛える方法があるとは思わなかったよ。

 

「よし、じゃあ前後正面打ち10本ね。始め」

「は、はい……!」

 

 1、2、3……と、心の中で数えながら素振りを始める。発声したら近所迷惑だからね。

 10本振り終えた蘭子に、とりあえず修正点を教えた。

 

「手の内がまだ効いてないよ。あと、振り上げた時に剣先下がってる」

「む、難しい……」

「疲れた? 部屋に戻る」

「それは嫌だ……!」

 

 すごいな……俺は剣道を始めたばかりの時はあまり熱入らなかったんだよなぁ。なんか思ったよりかっこ良くなくて。

 

「じゃ、もう10本。後、右手に力入れてるのバレてるから。左手で振って」

「は、はい……!」

 

 これは本当に大事。俺は昔から「利き手を使わないってマジカッケェ!」と思って徹底してたけど、これ本当に良かったと思ってるんだから。これ右手で振るクセついたら本当にカッコ悪い上に弱くなるから。

 また素振りを始める蘭子を見ながら、その姿に自分を重ねて普段の素振りを振り返るのが、最近の俺の特訓だ。

 

「よし、こんなもんじゃね」

「ふぅ……やはり、竹刀より木刀の方がカッコ良い」

「そりゃ刀っぽく作ってあるからな。竹刀は怪我しないように作られてるもんだし」

「な、なるほど……」

 

 でも、竹刀は竹刀で危ないんだけどね。すぐに壊れるし、壊れるとささくれとか出来て竹刀がささくれを飛ばす投擲兵器になりかねない。

 ……あ、ささくれと言えば思い出した。

 

「ちなみに、蘭子。お前って、剣や銃の手入れってカッコ良いと思う?」

「思う」

「よっしゃ、ならちょっと来てみ。竹刀にも手入れがあることを教えよう」

「そうなの⁉︎」

「これはあくまで竹だからね。カーボン製のもあるけど、性能が高くて気に入らない」

「え、どうして?」

「だって、いくら剣が強くても、本人が強くないと意味ないでしょ? 俺はむしろ弱い剣で強い剣に勝てるようになりたい。その方がカッコ良い」

「確かに……!」

 

 銀さんとかすごいじゃない。木刀で高杉と互角だったでしょ。あれ刀だったら勝ってたんじゃないかなって思うレベル。

 で、まず取り出したのは、竹刀削り。独特の形をした短刀は、まず柄と鞘が木で出来ている。その時点でカッコ良い上に、この異様な短さがカッコ良くてポイント2。最後に、これで竹刀を削るというポイントがもうね。うほー。

 

「お、おおお〜……!」

「やってみる? この凹んでる角の部分で、竹刀の丸みを削るんだよ。ささくれが残らないように」

「やるー!」

「良いね」

 

 それこそ蘭子。早速、竹刀と竹刀飾りを手渡した。慎重にシューッシューッと静かな音で削る。そのクールな空気と仕草とは裏腹に、表情は「私は今、カッコイイ事をしている」という内心が浮き出ている。

 ……なんつーか、この子って本当に子供っぽいよな。可愛いけど……こう、同い年とは思えない。俺より2〜3個年下に感じるわ。

 

「出来た! 貴様の刀には、通常より高濃度の魔力が装填された」

「おお……丁寧だな。サンキュ」

「そろそろ、知力に磨きをかける刻限に戻るとしよう」

「えー、もう?」

「我が魔力も尽きかけている。故に、僅かな休息の時を共に過ごしたい」

 

 ああ、なるほど。もう疲れたのか。まぁそういう事なら仕方ないな。

 

「じゃ、家に入るか。冷凍庫にアイスあったらあげるよ」

「感謝する!」

 

 そんな話をしながら、ふたりで家の中に入った。竹刀と竹刀削りを片付け、手洗いうがいを済ませた。

 

「蘭子、部屋戻ってて。アイスと飲み物持ってくから」

「うむ!」

 

 それだけ声を掛けて部屋に行ってもらうと、俺はもてなす準備をする。

 まずはジュースから。超神水(標準語でサイダー)と、悪魔の生き血(標準語でコーラ)を注ぎ、棚から悪魔の根〜釜揚げの刑〜(標準語でポテチ)を取り、最後にコキュートスの吐息(標準語でアイス)を持って自室に向かった。

 

「入るぞー」

 

 部屋の中に入ると、中で蘭子が木刀を構えて鏡を見ていた。よく分からんけど、木刀を逆手持ちにしている。

 

「……ふっふっふっ、我が紅蓮の刃に貴様如きが太刀打ちできるか……!」

「……」

「いや、違うな……魔剣、天裂残響……うーん……」

 

 何してんのこの子。その握り方は俺も好きだが、実用性なくない? ていうか、人の部屋で勝手に……まぁ良いや。それより、アイスが溶ける。

 

「蘭子」

「ぴえっ⁉︎ ……あ、わ、我が剣」

「部屋の中で木刀を振り上げるな」

「ご、ごめんなさい……」

 

 恥ずかしかったのか、涙目になりながら俯いてしまった。本当、なんで恥ずかしがり屋さんなのにそういう行動をするのかね。

 

「はい。アイスと……お菓子セット」

「ありがとう」

 

 まずはアイスから食べる事にした。溶けるからね。二人で袋を開けて頬張る。シャリシャリした食感を全力で口の中に巡らせていると、蘭子が声をかけて来た。

 

「ふむ……貴様のガ○ガリくんは悪魔の生き血か」

「ん、ああ。食べる?」

 

 俺のアイスはコーラ、蘭子のは梨だ。オーソドックスなソーダがないのは、やはりうちの家族はみんな「オンリーワン」を目指す一家だからだろう。

 もうすでに齧ってあるのが申し訳ないけど、手に持ってるガ○ガリくんを差し出すと、蘭子は若干、頬を赤らめる。が、すぐに諦めたようにため息をついて首を横に振った。

 

「ふっ、我が禁断の果実(偽)味の方が美味故、遠慮する」

「それどういう意味?」

「梨とりんごって似てるから」

 

 ああ、そういうこと。そう言われりゃ確かに似てるかも。りんごが禁断の果実なのはアダムとイヴからかな? なんか兄上の終末のワルキューレに載ってた気がする。

 

「……そういえば、桐原くんの好きな食物はなんなのだ?」

「え、なんで?」

「いや……今にして思えば、我も貴様もあまり互いの趣味嗜好を把握していない。こういう機会に、情報交換をするのは如何だ?」

「あー、そういう事。……え、でも蘭子ってお絵描きとカッコ良いものが好きなんでしょ? 他にあんの?」

「我の好きな神話に興味は無いか?」

「え、蘭子って漫画読むの?」

「ふっ、とある者によれば、我が読む神話はアニメオタクの人が薦める漫画より刺さるそうだ」

 

 ……それ、その人にも厨二病の素質があるだけなんじゃないかな。や、別に良いけど。カッコ良さ全振りのBLEACHとかも俺好きだし。……まぁ、少しは斬魄刀だけじゃなくて自分の剣の腕を磨け、とか思うけど。だって、みんながみんな剣八くらい剣技を磨けば、滅却師とか藍染にもう少し善戦出来たと思うんだけど。

 

「それに、我も貴様の好きなことをあまり知らない」

「え、剣道」

「以外で!」

 

 あー……そういうことか。剣道以外だと……なんだろう。蘭子? じゃないわ、死ね俺! 

 

「え、た、例えば……?」

「自分の好きなものに例えを求められても……た、食べ物とか?」

「ラーメンと炒飯と餃子ともんじゃ焼きとたこ焼きとたい焼きとえんがわとサーモンと唐揚げ」

「すごいアジアンなものばかり……」

 

 あ、本当。ほとんどアジアの料理……というか日本と中国か。

 

「あ、でもラーメンなら今度、我が魔王城がそびえ立つ大地で美味なる店舗を紹介しよう」

「え、なんで?」

「我が城は熊本にある」

「く、熊本……? え、じゃあ、中学生で一人暮らししてるの?」

「あ……」

 

 やべっ、と言わんばかりに蘭子は目を逸らす。え、何その反応。もしかして、何かやましい事があるのか? 

 

「り、寮で……!」

「え、うちの中学、学生寮とかあるの?」

「じゃなくて、えーっと……ほ、ホテル……」

「ホテル……?」

 

 そういえば、兄上がホテルに寝泊りする学生がいるって言ってたな……。勿論、金がかかるから、なんかエッチなリスクを払ってるって奴で……なんてったっけ。

 

「あ、分かった! エンコーとかいう奴だ!」

「えんっ……な、何言ってるの⁉︎」

「兄上が言ってた奴でしょ! なんかよく分かんないけど……エッチな事してお金もらう奴!」

「ち、違う違う違う! 大きな声で言わないでぇ!」

「ら、蘭子になんかエッチな事した奴がいるって事か⁉︎ 叩きのめしてやる!! 

「違うってば! 話聞いてくれないと絶交!」

「聞く」

 

 そんな風に蘭子が言うなんてなぁ……。エンコーってなんなんだ? そんなに嫌な事なのかな……。

 

「じ、実は……その……」

「うん」

 

 蘭子は躊躇ってしまう。なんでそんな住処言うくらいで悩むんだろう。本当に心配になってくるな……。変な事されてるの? 

 

「……私の事を知っても、友達でいてくれる?」

「当たり前じゃん」

「そ、そっか……私、実はアイドルなの」

「いやそういうのいいからホントのこと言ってくれる?」

「ホントだよ!」

「は、はぁ……ていうか、アイドルって中学生でもなれんの?」

「なれるよ! 基本的にデビューは未成年だよ!」

 

 え、そ、そうなの……? 何だか意外なことを聞いた気が……。

 

「……あ、いや最近はそうでもない、のかな……?」

「え、ど、どっち?」

「少なくとも、貴様が出会って来た我が同胞達は皆、未成年の美姫だ」

「え、俺他にもアイドルと会ってるの?」

「飛鳥ちゃん、美波さん、みくちゃん、皆、美媛達だ」

「……」

 

 ……え、ま、マジで……? もしかして……兄上が最初の勉強会の時にひよったのって……それが原因? 

 

「し、調べても良い?」

「だ、ダメ……!」

「調べよっと」

「待ってー!」

「アイス溶けるよ」

「あ、お、おっと……」

 

 よし、いまだ。スマホで「神崎蘭子」で調べると……まず出て来た画像は、ステージ衣装のような服装の蘭子だった。通常時と違い、メイクをしているようだ。

 

「……」

「っ……!」

「あ……」

 

 手元からスマホを取られてしまったが、それが気にならない程度にはボンヤリしてしまった。いや、ぼんやりというか……あの綺麗な蘭子が脳裏を離れなくて……なんて言うんだろう……そう、アレだ。見惚れてしまっていた。

 最初は恨みがましい目で見ていた蘭子だが、俺が見惚れているのに気付いたのか、少し恥ずかしそうな顔に戻る。

 俺は照れを拭い去るように聞いた。

 

「……蘭子ってさ、普段からこういう衣装着てるの?」

「……き、着ているが……?」

「……」

 

 これが、歌って踊るのか……。ふーん……へー……ふーん……。

 

「……さ、勉強しようか。お菓子食べながら」

「あ、何か企んでる!」

「元々、勉強会に来てたんだしね」

「ねぇ、何しようとしてるの……⁉︎」

「さ、勉強勉強」

「似合わないセリフをやめろー!」

 

 ……とりあえず、二宮さん辺りにライブのチケット取れるか聞いてみよう。

 

 

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