神崎さんは分かりやすい。   作:バナハロ

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男女間の友情は成立しない。

 うちの中学では、追試を回避するには、夏休みまでの定期試験の平均点を30点以上、取らなければならない。要するに、赤点を回避するための点である。例えば、中間で数学4点なら、期末では56点取らなければならないわけだ。

 さて、そんな話はさておき、だ。俺は無事に赤点を回避した。全科目、60点オーバーに成功した。したのにさぁ……。

 

「本当にカンニングして無いんだな?」

「してないっつーの。俺だって少し本気出せばこんなもんよ」

「その本気の出し方が視力アップとかだったらカンニングだっつってんだよ」

「違うっての! 知り合いの大学生と蘭子に教わったんだっつーの!」

「大学生ぇ〜? 如何にも嘘臭ぇな……羨ましい。名前は?」

「新田さん」

「新田ぁ〜? ……え、蘭子って……神崎で……新田?」

「うん」

「……‥あり得なくはないな。そうか、あの人テレビの前だけじゃなく、本当に優しいんだ。益々、ファンになっちゃうなこれ」

「は?」

「や、悪かった。まぁ、頑張ったんならそれで良いわ」

「は、はぁ……」

 

 そんなわけで、解放されたんだけど……ふざけんなよ、あのクソ教師め。……まぁ、今まで疑われるような点を取って来た俺も悪いが。

 生徒指導室を出て、今日は部活が休みなので帰ろうと思ったが、校内放送をもってして俺が呼び出された事を知っていたのか、蘭子が教室の前で待っていた。

 

「闇に呑まれよ!」

「我が剣の煌めきは闇をも斬り裂かん」

「……な、なんだったの? あの呼び出しは」

「カンニングを疑われた」

 

 ったく、冗談じゃねえわ。俺そんなに怪しいかな。……まぁ怪しいわな。数学とか前4点なのに、今回は61点だからね。……その分、新田さんには絞られたが。

 

「まぁ、でも新田さんと蘭子の名前を出したら信じてくれたし、何とかなって良かったよ」

「良かった……え、そ、そうなの?」

「うん。なんか信じてくれた」

 

 まぁ、そんな話はさておき、だ。とりあえず約束は果たしたし、遊びに行く約束である。

 

「とりあえず、プールだな」

「うむ。いつ行く?」

「今週は土日の午後しか空きがないから、それまでは無理かな」

「分かった。では、その日の午後に参るとしよう」

 

 よし、じゃあそろそろ帰るか。のんびりしている時間は勿体無い。

 

「蘭子、帰ろう。今日は月曜だから部活ないし」

「う、うむ……!」

 

 それだけ話して、とりあえず二人で帰宅し始めた。この後、どうしようかな……。せっかく、午後はずっとフリーなんだし、せっかくなら一緒にいたい。

 

「あ……そ、そうだ、蘭子。この後、暇なら夏休みの予定を立てようぜ」

「え? あ、う、うむ!」

 

 よっしゃ、とりあえず一緒にいられる。それだけで嬉しいもんなんだな、友達って関係は。

 

「俺の家で良い?」

「良いだろう。そこを、夏休みの間の我らの拠点としよう」

「あ、秘密基地みたいな場所が良いなら良いとこあるよ。……まぁクーラーついてないしクソ暑いけど」

「我が耐熱スキルはイフリートをも凌ぐ。よって、何の問題もない」

「あそう。じゃあ行こうか」

 

 俺は正直、ごめんなんだが……まぁ、蘭子が行きたいと言うなら行こうか。

 

「えーっと……確か近くの雑木林の近くなんだよね。よくクワガタとか採ってた所」

「え、む、虫いるの?」

「え、いるけど……」

「……ひ、秘密基地くらいは我らだけしかいない場所が良いのだが……」

「じゃあやっぱうちね」

 

 正直、俺も秘密基地に憧れる年じゃないしなぁ。どちらかと言うと、やはり機能性を重視したいよね。

 にしても、蘭子って虫苦手なのかな。もしそうなら、昆虫採集やめておいた方が良いかな。ま、その辺は今日決めれば良いや。

 家に到着し、手洗いうがいを済ませて、ジュースとコップとお菓子を持って部屋に入った。とりあえず、着替えようかな。あんま制服好きじゃないし。

 先に蘭子の分の飲み物だけ注いで机に置いた。

 

「はい」

「え、あ、ありがとう……」

 

 で、着替え始める。ワイシャツを脱いだ直後、ブフッと吐き出すような音が耳に届く。

 何かと思って、この部屋にいるもう一人の人間に顔を向けると、蘭子が顔を真っ赤にしていた。

 

「にゃっ……ななっ、何を……⁉︎」

「え、着替え……」

「わ、私がいるのに⁉︎」

「え、別に男子は普通じゃね?」

 

 ち○こは流石に出せないけど、剣道の練習試合の時とか男子は客席で荷物をまとめて置いてある辺りで普通に着替えさせられるからなぁ。うちの部活の人はパンツ見せたまま女子と話してる事もあるし。

 勿論、女子は更衣室に行くが、トイレに行く時とか、中学によってはトイレの前で袴を脱いじゃう子もいるしなぁ。

 

「……剣道部……我は一生、理解できる気がしない……」

「そ、そういうもの?」

「普通はね!」

 

 お、おう……まぁ、それなら気を使った方が良いのかな。

 

「じゃあ廊下で着替えるわ」

「あ、ま、待って!」

「え、何」

 

 頬を赤らめている癖に、蘭子は何故か俺の方に近寄って来る。その視線の先は、俺の腹筋に向かっている。

 

「……すごい。割れてる?」

「そりゃまぁ剣道やってるし……」

 

 あまり中学の剣道部は筋トレはやらない。だけど、俺個人としては筋肉があるのはとてもカッコ良いと思うので、ブラザーと一緒に筋トレをしていた。

 

「さ、触っても良い……?」

「え……?」

 

 さ、触るって……腹筋を? 本気で言ってんのこの子? そんなの……。

 

「良いに決まってんじゃん! いやー、一回誰でも良いから家族以外に筋肉褒められたかったんだよね!」

「良かった……バカで」

「え?」

「何でもない。さ、触るね……」

 

 頬を赤らめたまま、俺の腹筋に手を当てる蘭子。すると、目を星空のようにキラキラと輝かせて、ツンツンと突いた。

 

「おお……お、思ったより硬くない……」

「うるせぇ。まだ発展途上なんだよ」

「でも……割れてるっていうのは分かる……」

「見ての通りよ」

 

 骨折してる間も腹筋とスクワットは欠かさなかったからな。

 ……しかし、得意げになっていられるのもつかの間だった。なんか、蘭子の様子がおかしい。ツンツンと突いていたと思ったら、なんかペタペタと撫で始めた。

 

「……あ、あの……蘭子さん?」

「おお……おへそ……え、えっちだ……」

「くすぐったいんですが……え、今なんて?」

「あ、あの……桐原くん!」

 

 な、なんだ急に……。てか、目がヤバイ……。

 

「絵、描きたいから写真撮らせてもらっても良い⁉︎」

「え、良いけど……」

「じ、じゃあ……とりあえず、道着に着替えて!」

「え、道着?」

「そう! 銀さんみたいな片肌脱ぎで!」

 

 ……あれか。まぁ、銀さん曰くあの着こなしは得物を瞬時に抜けるという利点があるらしいから良いけど……。

 

「えーっと……じゃあ、着替えて来る……」

「いや、ここで着替えよ」

「え?」

「道着の仕組みを見たい」

「……」

 

 ま、まぁ良いか……。パンツまでなら見られたって何も思わないし……。

 タンスの中に畳んである道着を取り出し、着替え始めた。なんでこのクソ暑い中、道着に着替えにゃならんのか……。

 上半身を終えると、続いて下半身。制服のズボンに手を掛けたところで、その手が止まった。

 ……あれ、なんだろうこの感じ……。なんか、蘭子に見られてると思うとものすごく恥ずかしいんだが……。

 

「あ、あの……蘭子、やっぱり外で……」

「え〜……貴様、先程の『普通じゃね?』と言った事を忘れたか?」

「や、そうなんだけど……無意識下と意識下は別というか……」

「まぁ、構わんが……」

 

 良かった……。とりあえず、廊下に出て袴に履き替えた。……つーか俺が着替えてんだから、蘭子が出て行くのが筋では? 別に良いけど。

 剣道の道着は、上半身の道着はクロスするように交差して紐で結んだ上で、さらに袴を履く。袴は道着の裾を隠すように上から覆って、紐を腰からお腹の前を通して再び腰で縛る。

 つまり、片肌脱ぎをするには袴を履いてから、上半身の道着の紐を解き、片方だけ脱ぐしかない。

 

「……こんな感じか?」

 

 とりあえず脱いでみたのだが……なんだろう、これ……。なんかすごくスースーする。すごい落ち着かない……。写真撮られたらすぐに着替えよう。

 部屋に戻ると、蘭子が身勝手の極意バリの速さで振り向いて来た。オゾン草も気付かないレベルの瞬発力だ。

 

「お、おお……! カッコイイ……!」

「そ、そう……?」

 

 うーん……どんな格好でもカッコ良いって言われると、やっぱ嬉しいな……。

 

「魔剣を構えよ!」

「え? あ、うん」

 

 言われて、部屋に置いてある木刀を持ち、いつもの剣道の中段構えをする。すると、カシャっと音がした。

 

「え、もう撮ったの?」

「無論。次は、上段に構えよ」

「え、何枚撮るの?」

「我が満足するまで!」

「ふざけんなバーカ! 着替える!」

「させるか! 貴様の実力は、我を満足させるに足らぬのか⁉︎」

「それで良いから着替えさせろ!」

「カッコイイ!」

「お前、俺をナメてるだろ」

 

 いくらなんでも乗せられてたまるか。そんな見え見えの罠に。

 何とか着替えようとする俺の両手首を掴み、阻止してくる蘭子。こいつ、意外に力強いな……。でも俺が本気で抵抗すると怪我させちゃうかもしれねーし……! 

 手首を掴まれながら取っ組み合いになって来ているときだ。部屋の扉が開かれた。

 

「おい、お前らうるせーよ。こちとら試験前の勉強中だコノヤロー」

「そうにゃ! 少しは近所迷惑も……え」

 

 ブラザーと前川さんだった。二人の目に映ったのは、取っ組み合いをしている俺と蘭子。ただし、片肌脱ぎの俺の手首を蘭子が掴んでいるため、どう見えているのかは分かったものではない。

 

「あ、ブラザーと前川さん。いたんだ」

「え、み、みくちゃん……?」

 

 まるで急に電池が切れたように、蘭子の力は抜ける。それにより、俺の反発している力は勢い余って押し倒してしまった。

 

「ちょっ、バカお前……!」

「キャッ……!」

 

 え、何その女の子みたいな反応……と、思ったのもつかの間、俺は蘭子の上で四つん這いになってしまった。

 文字通り目の前にあるのは、真っ赤になった蘭子の顔。背中を強打して痛かったのか、微妙に瞳が潤んでいる。気持ちは分かる。剣道は面つけてるから、後ろに転ぶと上手く受け身取れないんだよな。だからとても痛い。

 

「お前急に力抜いたら危ないでしょ……」

 

 思わず苦言を漏らしながら、とりあえず蘭子の目元に親指を乗せた。

 

「おら、泣くなよ。さっきまでの威勢はどうした?」

 

 それが、どうやら蘭子にとって限界だったようだ。俺を物凄い力で反対側に突き飛ばした。

 

「いって! お前何すん……!」

「うわぁぁぁぁん! 桐原くんのバカぁぁぁぁ!」

「ええええ……」

 

 なんか、逃げられてしまった……。え……俺が今、何したってのよ……。むしろ振り回されたの俺の方だと思うんですけど……。

 呆然としていると、俺を見て「ひゅう」と口笛を吹いたブラザーと、ゴミを見る目で睨んでいる前川さんが言った。

 

「やるなぁ、コウ」

「何褒めてるにゃ、桐原先輩。……コウくん、正座」

「え?」

「正座」

 

 事情を説明する羽目になった。

 

 

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