神崎さんは分かりやすい。   作:バナハロ

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事務所では(1)

 その日、神崎蘭子は帰宅するのが遅くなってしまった。遅くと言っても7時過ぎくらいだが、中学生にしては遅い方だろう。

 なので、早足で住宅街を通っていると、ふと一軒家の前で何か怪しい動きをしている人が見えた。棒状のものを一心不乱に振り下ろしている。明らかにヤバい奴である。

 よって、何となく物陰に隠れてしまった。何をしているのだろうか? まさか、空き巣? だとしたら通報した方が良いのだろうか? 

 色々と考えながらも、とりあえず目を凝らしてみる。すると、よくよく見たら見覚えのある人物だった。確か、自分と同じ中学の生徒だ。いじめっこ5人に囲まれ、返り討ちにしたという怖い人。

 しかし、学年集会まで開かれた程の事件だったが、あれはいじめっこ側が悪かった、という話だったはず。

 

「……」

 

 正直、蘭子としてはあまり関わりたく無い人だったが、こうして人知れず努力している所を見ると、少し見直してしまう。蘭子は部活をやっていないが、一年通って部活に慣れ切った同じクラスメート達の部活に対する評価は大体「顧問がウザい」「面倒臭い」「帰宅部が良い」というものばかりだ。実際、部活を続けていると内申点がもらえるのでやめられないわけだが。

 しかし、アイドルとして活動している蘭子も家で自主練したり、レッスンルームで居残り練習したりする事もあるので、どちらかと言うと目の前の少年に感情移入してしまう。

 何より、だ。さっきから目の前の少年が竹刀を振っているそのフォームが、なんか、こう……とても……。

 

「カッコイイ……!」

 

 実は、蘭子も剣道に興味があった。だって剣で敵を斬れるから。逆にカッコよくない剣なんて存在しないと思うレベルだ。

 案の定、剣道部の剣はカッコ良かった。斜め上からの斬り下ろしの型(?)だろうか? それを必死に身体に覚えさせているその姿は、本当に剣を武器とするキャラクターのようだ。

 剣道についてもっと知りたい。是非、お友達になりたい。でも……あんまり知らない人、それも男の子に声を掛けるのは何処か恥ずかしかった。

 

「……あっ、じ、時間……!」

 

 寮の門限まであと少しだ。ちょうど良いタイミングで、自主練を終えた少年は自宅に戻って行く。

 とりあえず考えるのは後にして、慌てて走って寮に戻って行った。

 

 ×××

 

「で、こんな時間まで外をほっつき歩いてたと?」

 

 やはり、前川みくに怒られてしまった。この人はにゃーにゃー言う割に何故、こうも真面目なのだろうか。

 

「クックックッ……如何に我とて、刻限に間に合わなかった事に対し……」

「歳上に怒られている時くらい、その喧しい口調をやめるにゃー!」

「や、喧しい⁉︎」

 

 ガーン! と音がしそうなほど、蘭子は涙目でショックを受けた。しかし、そんな事は知ったことではないみくは説教を続ける。

 

「まったく……特に女子寮には蘭子ちゃんより歳下の子も多いんだから、ちゃんとその辺のけじめはしっかりしてくれないと困るにゃ! 真似でもされたらどうするの?」

「……すみませぇん、反省します……」

 

 闇の眷族たる所以は、彼女には何処にも無かった。ゴスロリのまましょぼくれているコスプレ好きの中学生にしか見えない絵だ。

 今度こそしっかり反省している、と見たみくは「よし」と呟いてから蘭子の頭に手を置いた。

 

「ん、反省しているなら、もう部屋に戻って良いよ」

「……はい」

 

 小さくため息をつきながら、自室に引き返した。部屋の中は、基本的には他のアイドル達と変わらないが、蘭子なりに家具や小物を置いたりしている。はい、ここのポイントは「蘭子なりに」という部分だ。

 つまり、基本的に天使やら悪魔やら女神やら魔神やらを連想するアイテムが多いのだ。

 

「はわぁ……」

 

 それらを見れば、一瞬で機嫌は元に戻ってしまうのだ。お花畑である。

 そんな蘭子の部屋の中で、本棚に手を伸ばした。突き刺さっているのは何やら小難しい語句辞典や、ギリシャ神話の何とかだの、とにかくそういう系が多い。

 しかし、元々の性格は素直で健気で恥ずかしがり屋さんなわけであって、その中には少女漫画も混ざっていた。

 その漫画の背表紙が目に入り、ハッとして一冊手に取った。そういえば、恥ずかしがり屋の女の子の話がこの中にあったはず……そう思ってパラパラとめくってみると、あった。

 その話は、図書委員の女の子が、気になる男の子が読んでいる本に自分の手紙を挟んで距離を縮める、というものだった。

 

「これだー!」

 

 みくや二宮飛鳥が周りにいたら「どれ?」となる事は必須だったが、本人的にはこれらしい。

 早速、意気揚々と引き出しから手紙のセットを引っ張り出し、文を書き始めた。これでも社会に出ているため、失礼のない文を考える事はできる。勿論、翻訳すれば内容的には失礼のない文、という意味だが。

 ランラン、と擬音が聞こえてきそうなほど楽しそうに文字を綴った後、手紙をしまって明日に備える事にした。

 

 ×××

 

 さて、翌日。早速、10分休みに図書室に向かった。が、重大なミスに気が付いた。あの人が本を読む人じゃなかったらどうしよう、と。

 思わず入り口で頭を抱えてへたり込んでしまった。打つ手がなくなった、というより自身のバカさ加減にショックを受けて。

 こんな時、他の人ならどうするか聞きたいが、男の子に手紙を出す、なんて今思えばとんでもなく恥ずかしい真似、出来るはずがない。

 これはもう諦めた方が良いのかも……と、自身の行いの恥ずかしさによりバカみたいにナイーブになってる時だ。

 自分がしゃがんで頭を抱えている横を、あの剣道部の少年が通り過ぎた。

 

「あっ……」

 

 その少年は図書室に入ると、そのまま本を探しに行く。

 き、き、来た────ー! っと、思わず目を輝かせてしまった。まさかのミラクル。やはり自身には運命を司る魔力が存在すると確信までしてしまった。

 少年の後を続くと、もう読む本が決まっている、と言わんばかりにサクサクと歩き、本棚の本を手に取って椅子で読み始める。

 瞳に魔力を集中させてその本のタイトルを覚えておく。あの様子なら、あの本を毎回、こうして訪れて読んでいるんだろう。

 

「……むー」

 

 ……こうしてみると、あの顔で竹刀を振ってるの? と、不思議になる程、華奢な顔をしていた。身長も自分と同じくらいか、少し低いくらいだ。

 あの姿からあのカッコ良い振りが行われていると思うと、中々、ギャップがある。

 しばらく待機して、自分も近くの席で本を読む。読書は嫌いではないし、こうして本を読む時間も悪くない。

 休み時間が終わり、あの少年が本棚に本を戻しに行ったのを確認すると、自分も本棚に本を戻した。

 さて、では本に手紙を挟みに行こう。なんかオンラインのやり取りをリアルでしているみたいでかなりドキドキする。

 

「……♪」

 

 蘭子の頭の中では、アメリカの架空の諜報機関が戦う映画のテーマソングが流れていた。スパイミッションのようである。

 そう考えると、文面は機密文書っぽい方が良かったのかもしれない。いや、でも自分が好きなタイプは堕天からの神託とかそういうのだし、やはり今更、後悔するのはやめておいた。

 

「よしっ……!」

 

 任務完了である。さて、後は明日の返事を待つだけだ。

 

 ×××

 

 翌日、寮で蘭子は本に挟まっていた便箋を開いた。しかし、改めて見ても困惑する。何故なら届いていた便箋は、どういうわけかピンク色のふわふわポワポワした柄の。

 それには、思わず蘭子は困惑してしまった。え、これあの人が出したの? と言わんばかりに。

 

「……我が刃となりし者の選定を見誤った……?」

 

 眉間にシワを寄せつつも、とりあえず手紙を読む事にした。図書室でも教室でも事務所でも、恥ずかしくて読む気にならなかったから。

 さて、中身は。文字を読んで、思わず蘭子は眉間にシワを寄せてしまった。

 

『ぶりゅんひるでさんへ♡

 初めまして! お手紙読ませていただきました! 私もこういう文通みたいなの憧れていたので、お返事を書かせていただきました! 勇気出して頑張っちゃうゾ☆ 的な。

 私の方こそ、よろしくお願い致します!』

 

 これを全て丸文字で書いてあるんだから、もはや面白さが伝わって来た。完全に自分の文面と真逆。間違いなく悪ノリして来ている。

 ……まぁ正直、ストイックな侍にこう言った面がある、と思えば悪くない気もしたが。

 何にしても、自分が始めた話なのにシカトするのは悪い気もする。もう少し続けようと思い、文面は無視して返事を書く事にした。

 

「……蘭子、何をしているんだい?」

「ほああああああああ‼︎」

「ひゃあっ⁉︎」

 

 唐突な後ろから声をかけられ、思わず声を張り上げてしまった。声をかけた張本人も驚いてしまい、尻餅をつく。そこにいたのは、二宮飛鳥だった。

 

「あ、飛鳥ちゃん! 急に入ってくるのやめてよ!」

「いや、鍵が開いてたから心配になって……」

 

 そこは自分の迂闊さを呪った。返事が来た嬉しさと、予想外の便箋のガラが交わって微妙にパニックになっていたようだ。

 と、そうだ。便箋。慌ててそれを机の上の本の下に隠し、改めて飛鳥に声を掛けた。

 

「コホン……我が同胞よ、如何なる用で我が車庫に参った?」

「あ、いや……夕食どうするのかなって思って……まだだったら一緒にとおもったんだけど」

「で、では参ろうか」

 

 とりあえず、誤魔化して飛鳥と共に食事に向かった。まぁ、お陰で返事の中に書くべき内容は決まった。他人に絶対に見られてはならない。それは向こうにも徹底してもらわねば。特に、友達に魅せてネタにでもされたら最悪だ。永劫の眠りを選ぶまである。

 

 ×××

 

 それから、二週間が経過した。色々なことを話して来たけれど、特に今は剣道の話が熱い。

 最初はどうなるかと思ったが、彼もこちらが剣道の話を持ち出すとノリノリで応じてくれた。今の学生剣道はダサいとか、自分はカッコ良さを求めているとか、剣道は相手と向き合って長く構えていた方が勝つとか、とにかく色々だ。

 お陰で蘭子自身にも色々と剣道の知識がついてきた。まぁ、まだにわか程度だが。

 

「……返し胴、こんな感じ?」

 

 部屋の中で、傘を振り回す。具体的には、クラウドのカウンターのような奴だ。

 いや、せっかく便利になってきた世の中だし、動画を見た方が正確にわかるかもしれない。ようつべで調べて、剣道の動画を漁ってみる。

 そこで映っていたのは、相手の面を受けつつ、そのまま竹刀で腹を掻っ捌き通り過ぎる技だ。

 

「……なるほど、一撃必殺の一撃必殺か……」

 

 確かにカッコ良い。ハマるのも頷ける。ちょっと真似をしてみることにした。

 部屋の中で中段構えをして、プロデューサーが正面から面を打ってくるのに対し……避けて捌……! 

 

「あああああ! 我が魔導書が!」

 

 傘の先が本棚に直撃し、そこから本が落下する。慌てて涙目になりながら、傘を投げ出して本を拾い、本棚に納め始める。

 という絵を、最近ドタドタとやかましい蘭子の部屋を覗きに来ていたみくと飛鳥はこっそりと眺めていた。

 

「……どう思う?」

「厨二病もあそこまで行くと手に負えないにゃ」

「そっとしておくべきかい?」

「だね」

 

 その二人の視線の先にいる蘭子は、片付けを終えると傘を元の場所に戻して落ち着いた。

 とりあえず、まだ手紙を途中までしか読んでいない事を思い出したので、続きを読む。

 

『もうすぐ大会だから、それまでに必殺技をモノにしちゃうぞ〜☆』

 

 必殺技を使う機会がある事に羨ましく思いつつも、彼はそろそろ大会であることを知った。部活がある人にとって大会とはどういうものなのだろうか? 自分達で言うライブのようなものなのか。

 しかし、剣道は個人の戦い。ライブと違い、打ち負かすべき敵がいるのだ。そのプレッシャーは、自分達とはまた違うものだろう。

 とにかく、ここは応援しておくべきだ。本人は気付いていないが、自分は何度も彼が素振りしている姿を見ている。手紙では言わないが、手の平に出来た豆が潰れて、竹刀の柄に血が滲んでいるのも知っている。

 

「……そうだ」

 

 試合の場所を聞こう。地区大会なら学校で開催されるから、自分の学校なら応援に行けるのかもしれない。そこで、本人の言う「カッコイイ剣道」というものを見せてもらわなければ。

 とりあえず、試合の日程を聞くことにした。

 

 ×××

 

 そんなこんなで、試合の日。ガッツリ平日で休み時間に抜けるか、放課後に見に行くしかないわけで。

 こういう日の剣道部は「特別欠席」というそうで、欠席しても欠席扱いにならないそうだ。ちなみに、アイドルは特別欠席にはならない。学校関連行事ではないから。勿論、学校側が情状酌量してくれるとはいえ、納得いかないものだった。

 都合の良いことに、今日の放課後は空いているため、そのままの足で体育館まで向かった。問題は、それまでに彼が負けていたら台無しという点だが……。

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

 息を切らして開いている扉から体育館を覗き込むと、その空気は外とは一転していた。

 ピリッと張り詰めた空気、誰一人声を上げない静寂、切れ味が皆無の刃を向け合って構えている二人を中心に、審判、その二人が所属する学校、そして大会関係者、或いは保護者っぽい人達が囲んで見学している。

 

「っ……」

 

 思わず、蘭子も押し黙ってしまう程に張り詰めた空気だ。もうライブとは全く別物の緊張感。比べるつもりはないが、これはこれで過去に経験したことない雰囲気を発している。

 その中央、竹の刀を持つ二人組の名前は分からない。……と、思っていると、コートの傍に次の選手が控えているのが見えた。面を着ける前のようで、前に防具を置いてある。

 

「あっ……」

 

 小さく声を漏らした。その顔は、この会場の中で唯一、見覚えがあったからだ。どうやら、これから試合のようだ。もう片方のコートの片付けが終わっている所を見ると、おそらく最終試合なのだろう。

 ちょうど良いので、普通の剣道とカッコいい剣道を見比べてみよう。

 構え合う二人は動かない。剣先を微妙に動かし、牽制をし合う。構えが両手で持って前方に向けるスタイルなのはカッコ悪いとは思わない。クラウドもこのスタイルだし。

 だが、まぁ確かに打ち合ってる姿がカッコ良いとは思えない。小手や胴は良いけど、面を小さく振るとは何事か。斬ろうとせずに、当てに行って良い音を出そうとしてる、という彼の言い分がよく分かった。

 とはいえ、素人の蘭子には、前もって例の少年から聞いておかなければ「カッコ良い」「速い」「我が魔眼を持ってしても見破れぬ瞬撃」などと独り言を抜かしていただろうが。

 まさに「他人の言葉に影響される中学生」のような感じになっている蘭子だったが、その思考は突然の拍手によって遮られた。

 何かと思って顔を上げると、試合が終わったようだ。続いて、蘭子にとっての本命である。

 

「……っ!」

 

 ワクワクしている気持ちを必死に抑えて、次の試合を見学する。

 さっきまで顔を出していたはずの少年が、面を被ってコートに立った。胴垂れには「桐原」と書かれている。

 あれが、今まで自分が文通してきた魔剣使いの真名。目を輝かせている間に、試合が始まった。

 

「イヤァアアアアアッッ‼︎」

「……」

 

 本来、試合の始まりは気合の咆哮を放つものだが、桐原という少年は静かなものだった。対戦相手が剣先を揺らし、散らし、牽制する中、少年は動かない微動だにしない。大仏かと思うほどに動かなかった。

 そんな相手は初めてなのか、それとも予想通りなのか、対戦相手は微妙に足を動かして角度をつける。前の試合を見学しての動きなのかもしれない。

 それでも、桐原は動かない。面の下の目はしっかりと敵を追っているが。

 

「っ……!」

 

 そのモノアイのような目の動きに、対戦相手は飛び込んだ。隙だらけのようで隙のない構えに、恐れをなしたからだ。

 それこそ、桐原の望んだ動きだ。その面を軽々回避しつつ、一撃必殺の返し胴を放った。完璧な切り返しにより、腰から下を両断する勢いだ。

 腹につけている防具が打撃を弾くが、斬撃であれば死んでいる勢いだ。

 

「胴ッッ‼︎」

 

 普通、剣道の掛け声は皆、伸ばす。「胴ォオオオオッッ‼︎」といった具合だ。しかし、桐原は短く端的に宣言するように告げた。

 完璧な一撃に、審判は全員が旗を上げ、桐原を(形だけでも)応援している同じ部員は皆、拍手をした。

 ぽかんと見入ってしまった蘭子がぼんやりしている間に、二本目が始まる。二人で構えて向き合っていると、今度は即座に対戦相手が仕掛けた。

 

「メェェェンッッ‼︎」

 

 面に向けての一撃を竹刀で受け、鍔迫り合いに発展する。鍔迫り合いは単純な力の押し合いではない。引き技は基本的に一本を取りにくいため、ある意味では安置とも言える。だから、臆病な奴ほど迂闊に打って鍔迫り合いに持ち込みたがるものだ。

 しばらく近距離でガチャガチャと竹刀を小刻みに動かした所で、お互いにその場から下がる。長時間の鍔迫り合いは反則を取られることもあるのだ。

 

「……」

「……ャァアアアッ!」

 

 再び、対戦相手が仕掛けた。今度は面に見せて小手。が、それは読めていればただのワンテンポ多い小手である。

 完全に読み切っていた桐原は、その小手を手を振り上げる事で躱し、そのまま振り下ろした。見事に面にクリティカルヒットし、そのままキメに入った。

 

「面ッ‼︎」

 

 剣道をやっている人は、大体、声を上げるときにその部位の言葉を言う事は少ない。みんな「面」「小手」「胴」と言っているつもりだが、そうならないのだ。中には「パイロット」と言っているように聞こえる人もいる。

 そんな中でも短くハッキリとその部位を放つ桐原は、かなり型破りと言えるだろう。

 旗が三つ上がり、一本が決まった。この試合、桐原が振った本数は二回。無駄な振り、決まらない振りは一切ない。

 その試合を見て、蘭子は思わず見惚れた。確かに、他の人の剣道とは違う。本当に斬り合いをしているみたいだ。

 試合を終えて、コートから出る桐原。しかし、そんな桐原に声を掛けるのは顧問の先生しかいなかった。他の部員はすぐに解散してしまう。

 

「……?」

 

 普通、こういうのってみんなで喜ぶものではないのだろうか? 桐原本人も、顧問の先生に笑顔で報告していた。まるで、他に報告する人がいない人のように。

 まさか、友達がいないのだろうか? あれだけの実力とカッコ良さを持っていて。だから、勝っても顧問からしか褒めてもらえない? 

 

「……」

 

 そう思うと、少し嫌な気持ちになった。それと共に、自分の中に使命感のようなものが芽生えた。

 もう恥ずかしがってなんていられない。褒めてくれる仲間がいないのなら、自分が褒めてあげれば良いのだ! 

 勿論、身バレする事になる。だけど、それがどうした。あれだけの努力をして来たのに、褒めてくれる仲間がいないなんて、それこそ悲しい。ライブをボロクソに叩かれるよりも、誰も反応してくれない事の方が余程、辛いのだ。

 

「……よしっ」

 

 勇気を振り絞ると、とりあえず先回りすることにした。

 

 

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