平日練習中、部内による紅白戦。俺はこれが嫌いだ。何故なら、勝っても負けても良い思いしないから。特に、先輩に勝った時がひどいよね。空気とかあまり気にしない俺でも気にするレベルで嫌な空気になる。
それでも、手は抜けない。容赦なく叩き潰すよ、俺は。それに、新しい技を試す良い機会でもあるし。
そんなわけで、今日の俺は一切、空気を読まずに全戦完封勝利してきました。更衣室の中で陰口を叩かれようが、もう一切、効きません。
だってほら、これから蘭子と会うんだし。多分、あいつのことだから武道場の前で待ってるだろうし、何なら見せつけてやろう。ふっふっふっ、俺と蘭子が並んで帰るのを見て、あの男どもは歯軋りを……。
……あれ、なんで歯軋りするんだ? そもそも、なんで俺は蘭子との仲を見せつけてやろうなんて……別に、友達同士ってだけじゃん。
そんなことを思いつつ、とりあえず着替えを終えて武道館を出ようとした。が、そんな俺に声が掛けられた。
「あ……あの、桐原先輩!」
あ、えーっと……一年の女子か。名前知らないけど。
「何?」
「その……先程、地稽古でお相手してもらったので、何かアドバイスを、と……」
「え、俺に?」
「は、はい……!」
……そうなんだよなー。最近、後輩からのこれがあるんだよなー。よくわかんないけど、2〜3年の目を盗んで聞きに来る。普通に来りゃ良いのに……とも思ったが、まぁ俺は嫌われてるし、あんまり表立っていくと自分達が危ないと踏んだのだろう。
なんていうか……俺って一体、何なんだろうか。まさに孤高の剣豪だな。
「まぁ良いけど……じゃあ、下で話す?」
「分かりました!」
他の人に見られたくないなら、その方が良いでしょ。二人で歩きながら、剣道場を降りる。
「えーっと……まぁ、地稽古の時は良いけど、当たらない打ちは控えたほうが良いよ。将棋と一緒で、一番隙がないのは最初の構えの状態だから。自分が攻撃する瞬間に隙が生まれるって思ってな」
「は、はい……」
「技術に関してはどうこう言わないから。そういうの教えるのは各々の技練習の時だし」
「わ、分かりました」
なんて話しながら歩きながら、一階に到着した。下では、予想通り蘭子が待っていた。
「……あ、蘭子」
「待っていたぞ、我がけ……あ、き、桐原くん……」
「お待たせ」
軽く挨拶しつつ、後輩にまとめるように言った。
「そんだけ。じゃ、頑張って」
「は、はい……!」
それだけ話して、とりあえず別れた。一年生は再び上に、戻った。その背中を目で追いつつ、蘭子に声をかけた。
「悪い、待たせた」
「……今の子は?」
「後輩。最近、多いんだよ。先輩達の目を盗んで教えて下さいって」
「つまり、頼られていると?」
「さぁね」
正直、微妙な所だ。頼ってんなら堂々と来れば良いし。まぁ、そんな話はどうでも良い。
「それより、蘭子。今日この後の予定覚えてる?」
「……ふーん、女の子に頼られてるんだ。……ふーん」
「蘭子?」
なんだこいついきなり。急に意味深に呟きやがって……や、まぁ何でも良いけどな。
「あ、でも蘭子は虫苦手なんだっけ……」
「行く!」
「え? お、おう……」
なんだろう、急に……。まぁ良いけど。
「虫除け忘れるなよ」
「分かってる!」
……なんかー……怒ってる? いや、そうでも無いのか……? うーん……分からん。
「ちなみに、蘭子。カブトムシとか好き?」
「え? ふ、普通かな……」
「リアルで見たことは?」
「子供の頃に数回だけ」
「なら、多分感動するよ」
「え、なんで?」
ホントに。久々に見ると童心に帰るし、素直にカッコ良いと思えるから。あ、いや俺は今でも童心だったわ。
「でも、我が魔王軍の正装は汚されることを良しとしないワンオフ品。一度、戦闘服への顕現を推奨する」
「あー確かに制服はまずいか」
俺は部活の後だからジャージだけど、蘭子はそうもいかないもんね。
「じゃ、蘭子の寮に寄ってから行こうよ」
「……えっ?」
×××
そんなわけで早速、346事務所とやらの女子寮に来た。来た、んだけど……。
「我が剣、ここで待機する時の心得を述べよ」
「一つ、誰とも話さない。二つ、携帯を見て隠キャを装う。三つ、挨拶された時だけ、軽く返事をする」
「よし。あ、でもみくちゃんや飛鳥ちゃんは別だから」
「知り合いの人たちね、了解」
「では、言って参る」
……なんかすっごい厳しく制約を受けた。なんだろう、俺はそんなに強い念獣なのだろうか? 何それ少し嬉しい。
それなら、蘭子の言うことを書く必要も出てくるというものだ。蘭子が寮に戻ったのを目で追いつつ、とりあえずスマホをいじることにした。
そんな時だ。寮から一人の女子が出てきた。何故か、学生服の上に白衣を着た女の子だ。高校生くらいだろうか?
「ん? んー……?」
……え、なんだこれ。初対面の人に、まず匂いを嗅ぎにくるのってどういう習性?
「君、なんだか良い匂いするね!」
「え」
……どうしよう挨拶どころか第一声が匂いの指摘なんだが……なんか、強さを匂いで判断する強キャラみたいでカッケェな!
「え、そ、そう? 強そうな匂いとかする?」
「つよそう? ううん、そういうんじゃなくて面白そうな匂い」
「カッコ良い匂いとかしない?」
「しない」
あ、そ、そう……なんかもう一気にどうでも良くなって来たな……。でも、ここまで話して、今更、蘭子の言う「誰とも話さない」を実行出来たとは思えないし……今からシカトするのも印象悪いよな。
「で、俺になんか用?」
「ないよ」
「ないのかよ……」
じゃあもう話す必要ないよな。再びスマホに視線を落とした時だ。相変わらず犬のように鼻を近づけてくる女の子が、下から俺の顔を覗き込んできた。
「うん、間違いない!」
「何が」
「蘭子ちゃんの匂いだ!」
「え、知り合い?」
てか俺から蘭子の匂いがするの? さっきまで一緒にいたから? ホントに警察犬か何かじゃねえの?
「ね、君は蘭子ちゃんとどういう関係なのー?」
「え? 普通に学校の友達だけど」
「ふーん……本当に?」
「ホントに。学校一番の友達だよ」
なにを疑うところがあるのか……。俺はこの世に蘭子以上に仲良い人はいない。
「ふーん……ま、良いや。とにかく、蘭子ちゃんのお友達ね?」
「そうだよ。これから、虫捕りに行くんだ」
「にゃはは、楽しそ〜」
お、意外と話の分かる人だな。虫捕りは楽しいんだこれが。カブトムシやクワガタだけじゃなくて、カナブンやスズメバチがいると尚、楽しい。色んな虫が集まっている所を見学するだけで一時間は潰せる。
「何、虫好きなの?」
「や、別に?」
「???」
この人、もしかして日本人じゃないのか?
「ふーむ……そっかそっか。これから虫捕りか。良いねぇ、夏の風物詩」
なんか俺と話が合うのか合わないのか分からん人だな……。難しいにも程がある。
「そんな君には、これをあげよう」
「え?」
「志希ちゃん特製、害虫特攻ハイパー虫除けスプレー。不快な臭いはしないし、鼻から突っ込んでも人体に影響は無い最強の虫除けスプレーだよ」
「え、つ、作ったんですか?」
「うん」
な、なんて事だ……こんなものを作れる人がこの世にいるなんて……。まるで、ア○アンマンこと、トニー・○ターク……。
今まで、カッコ良さとは心と身体の強さだと思っていたし、天才なんて幻想だとも思っていたが、こうして実際に頭の良い人を見ると、何だかとっても……。
「ただ、代償として……」
「カッコ良い!」
「え? か、カッコ良い?」
「姉ちゃん、メチャクチャカッケェな!」
「んふっ……ふふふっ、そう。あたしはとってもカッコ良い!」
うん、この人すごい人だ!
「サンキュー、これありがたく使わせてもらうぜ!」
「うんうん。あ、でもそれには代償が……」
「あ、いた! コラ、志希ー!」
直後、遠くから声が聞こえた。そっちを見ると、学生服のコスプレをしたOLっぽい人が走って来ていた。
「レッスン中に失踪はやめなさいって言ってるでしょ!」
「あ、やばっ。またね、少年!」
「あ、うん。じゃあね、カッケェ姉ちゃん!」
そのまま立ち去ってしまった。うん、良いものをもらった。これは後で使おう。
再び蘭子が来るまで待っていると、また新しい人が出て来た。今度は、アホ毛が特徴的な普通の学生服の女の子……なのだが、俺を見るなり目を細めた。
「むっ……?」
「……お」
それは、俺もだ。この人……俺には分かる。同じ剣の道を嗜む者だ。何故わかるかって? オーラよ。
「……貴様、出来る……!」
「お前が言うな」
ふっ……面白い。こんな所で強敵に出会おうとは……。ひゅうっ……と、二人の剣豪の間に木枯らしが転がる。夏なのに。
ゆらゆらとぴょこんと跳ねたアホ毛を揺らされる中、目の前の女性剣士は目を光らせたまま聞いてきた。
「何奴⁉︎」
「名乗るほどのものではない。蘭子の知り合い、とだけ答えておこうか」
「おお、蘭子殿のお知り合いでしたか! いや、失礼仕った! 怪しげな剣豪が女子寮の前にいた故、女性狙いの人斬りかと思いました!」
……おい。急に明るくなったぞ。てか、そんな日本版のジャック・ザ・リッパーいんのか?
「え、俺そんなに怪しい?」
「いえ、アイドルの女子寮の前に男性が一人、立っていたら、それは目立つと言うものです」
なるほど……確かにそうか。
「……ちなみに、蘭子殿とはどのようなご関係で?」
「え? 友達」
「……なるほど。つまり、最近、蘭子殿がたまに部屋で木刀を振っている、という噂は貴方の影響、という事ですか?」
おい、あいつ何してんだよ。室内で棒切れを振るんじゃない。
「ホント、あいつクールな見た目してんのに、中身は小学生だよな」
「そうでしょう。……まぁ、そんな所も可愛いのですが」
すると、目の前の少女は「あ、そうだ」と呟くと、ポケットからスマホを取り出して画面を見せて来た。
その写真は、目の前の女の子と蘭子が雪に向かってダイブしている瞬間だった。
「うわあ……もう、クールさのかけらもない……」
「でも、可愛いでしょう?」
「う、うん……まぁ」
いまだに、女の子を可愛いと呼ぶのは少し照れてしまう。いや、でも褒められるようになったんだし、大きな進歩だよね。
「そうだ、あんたも剣道やってるんなら、蘭子にいろいろ教えてあげてよ。あいつ、なんか色々知りたいみたいだし」
「任された! ……っと、今日はこれからあやめ殿と修行故、これで失礼致す!」
「あ、うん。じゃね」
そう言って、女の子は去っていった。多分、あれもアイドルなんだろうけど……なんか、キャラ濃いな……。科学者と似非侍少女か……いや、あれはあれでカッコ良いんだけど。
しばらくまた待機していると、また新しい人が出て来た。今度は、なんか雪の妖精みたいな銀色の髪の少女だ。
「……?」
やべっ、見過ぎたか? と不安になったのも束の間、すぐにパァっとした笑みを浮かべて声をかけて来た。
「あの! もしかして、誰か待ってますか?」
……聞き取りづらい訛りだな。もしかして、まだ日本語に慣れてないのか?
「ん、蘭子」
「あ、じゃああなたがランコのお友達の……!」
「ああ。話聞いてんの」
「ランコ、いつもあなたの話をしてます。剣道してる姿が、カッコイイって」
「え? う、うんまぁね。俺の剣道はカッコ良いね」
うおお、なんかすごい知らない間に有名になれている気がする! ……っと、有名になるのは少し早いな。まだ中身が伴ってないんだから。有名になるのはせめて全国に出てからだ。
とりあえず、褒められるより蘭子の話に移行しよう。
「や、でも蘭子の方が……か、かわいいから。いつも、俺なんかに付き合ってくれるし、すぐに照れるし、優しいし……」
「? ……私、あなたの事カッコイイって言いました。蘭子は可愛いですけど……カッコイイと可愛いは違いますよ?」
「……」
は、話を逸らしたんだよ……。だめだ、この人、俺の苦手なタイプかも……。
「……っと、これからミナミと遊びに行くんでした。ごめんなさい、また今度ですね」
「あ、うん……また」
銀髪の人は、そのまま走り去っていった。正直、助かった。
……しかし、あの人もクールに見えてかなり溌剌とした笑みを浮かべて来たなぁ……。もしかして、アイドルって見た目と中身でギャップをつけないといけない生き物なのか?
そんな事を考えている時だ。ようやく蘭子が走ってやって来た。
「す、すまない! 待たせてしまった……!」
「いやいや、気にしないで」
「……誰かと会って話したりしてないよね?」
……うーん、だいぶ話しちゃったけど……でも、みんな別に名前を聞いたわけじゃないし、変なことも言ってないしなぁ……。
「してないよ」
「うむ、ならば良し。では、参ろうか! インセクト・ハントへ!」
「キャッチアンドリリースだけどね」
「い、良いの!」
虫捕りに向かった。
シンデレラガールズの小説は、これと楓さんので最後だと思います。
全然関係ないけど、最近はシャニマスにハマっています。全然関係ないけど。