神崎さんは分かりやすい。   作:バナハロ

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スケジュールを手帳につける癖をつけましょう。

 蘭子と気まずい別れをして、早一週間。一度も顔を合わせることがなかった。まぁうちの剣道部の合宿期間と被った、と言う事もあって、顔を合わせる事が出来なかったのだ。

 ……いや、でも連絡を取ることはできた。しなかったのは、何となく気まずいからだ。いや、勝手に俺が気まずく思っているだけか。

 蘭子の事を考えると、股間が硬くなる。それを新田さんに相談したら「思春期に入ったから」と教えてくれた。

 そのことを踏まえて色々と合宿中、うちの部員たちの様子を見学してみたのだが……なんか、聞くに耐えなかった。

 あの子の胸が大きいだの、朝練の時のチチユレ? がやばいだの、風呂覗きたいだのとイライラさせられる。お前らそんなんだから勝てねえんだよ、と。

 それが思春期ということなのだろうか? ……いや、でも兄上にはあんな期間なかった。多分、部員の奴らは「思春期だから仕方ない」ということで自分がエロいことをオープンに語っているのだろう。かっこ悪っ。

 ……でも、そいつらと、蘭子の事を少しだけエッチな目で見ている俺と何が違うのか、と考えると、強く言えなくなる。結局、俺も同類なんじゃないか、と。

 そんな俺が、このまま蘭子の隣で友達をやっていて良いのかとさえ思う。兄貴に相談したら「お前、そのクソ真面目さを少しは勉強に使えよ」と怒られた。真面目じゃない、少しでも武士らしく考えてるだけだ。

 とにかく、俺はまだるっこしいのは嫌いだ。剣道の良いところは、単純明快、強い奴が勝つ、勝つにはカッコ良くなる、それだけなところだ。

 

「と、いうわけで、蘭子! こんな俺だけど、まだ俺と友達でいてくれる?」

「だからどうして本人に相談するの⁉︎」

 

 とある平日、蘭子のライブと県大会の前に変な悩みは持ち込みたくなくて、打ち明けることにし、練習後に公園で待ち合わせたら、顔を真っ赤にして怒られてしまった。

 

「だ、だって……一番、手っ取り早いと思って……」

「もう、ホント馬鹿……少しは我が心中を察することも覚えよ……」

「え? あ、あー……そっか……」

 

 そっか……こういう相談、女の子にしないほうが良いんだっけ……や、流石に股間がどうこうっていう所から相談はしていないけどね。

 ただ、やはり蘭子を時々、性的な目で見てしまう事を正直に打ち明けた上で、それと剣道部のわ……Y談、だっけ? とやらをしてる連中と俺の違い、そして同じならば蘭子の友達でいて良いのかを聞いた。

 ……が、蘭子は頬を赤く染めたまま俯いてしまう。

 

「……別に、我は貴様がアスモデウスの誘惑にかられた愚かな天使の一人であっても、次元の彼方に置いて来ようとは思わない」

「え、そ、そう……?」

「我が七大罪がうち僕でさえ、時に我が魂の叫びに反抗し、理性を食いちぎらんと歯向かう事もある。……が、貴様のその虚言を吐かぬ麗しき魂は美点でもあり、欠点だ。故に、我が羞恥心を激らせてしまう」

 

 ……正直すぎる、って事かな……。友達がいた経験がないし、中々難しいな……。そもそも、誰かに隠さなきゃなるないような事をしたくない、というのが本音だったりするし。

 イマイチ、理解し切れていないのが顔に出ていたのか、蘭子は俺に聞いてきた。

 

「では、貴様に問おう。仮に……いや、ホントに仮にね? ……わ、私が、その……桐原くんの筋肉に夢中……なんて言ったらどうする?」

「え、何何。おれの筋肉好きなの⁉︎ 見たい⁉︎」

 

 鍛えた部分が褒められるとか死ぬ程、嬉しい! いや、誰かに見せるために鍛えたんじゃないとしても、だ! 

 が、蘭子はカァッと真っ赤に頬を染め上げる。

 

「み、見たくない! 仮にだってば!」

「え、あ、そ、そう……」

「どうして残念そうなのー⁉︎」

「や、だって……褒められたと思ったらそんなことなかったなんてさ……」

「うぐっ……じ、じゃあ、筋肉に夢中で、少しえっちな目で見てるって言ったら⁉︎」

「え?」

 

 筋肉を……えっちな目で見るの? よく分からんけど……えっちな目、か……俺が、蘭子の胸を見てる時のような目……。

 

「……俺も現状、蘭子を似たような目で見てしまってるし……気にしないよ? それに、なんかほら、お互い同じような目で相手を見てるって、もっと仲良くなれそうで良くね?」

「……誠実なのか馬鹿なのか分からない……」

「まぁ、相手が蘭子だからそういう風に思うのかもしんないけど……」

「ーっ、ば、バカ! それは反則!」

「え、何か競技中だったっけ……?」

 

 ……? あれ、ていうか、相手が蘭子だからそう思うってことは……他の人だとオープンになりたくないって事か? 

 少し、想像してみようか……。例えば、兄上に言われたとしよう。

 

『お前の筋肉を、性的な目で見ている』

 

 ……気持ち悪っ! なんか気持ち悪っ! 別に性的な目で見られてどうこうされるってわけじゃないけど……それなら知りたくなかったわ! 

 

「ごめん、蘭子。俺が間違ってた!」

「き、急に⁉︎」

「もうお前以外の人には隠し事をするようにする!」

「微妙にニュアンスが違うんだけど……」

 

 そこで、ふと蘭子は「んっ?」と小首を傾げる。

 

「なんで、私以外……?」

「え、そりゃ蘭子には正直でいたいからだけど……」

「……も、もう効かないからね……!」

「何が?」

「そ、それに、いくら私にでも『ごめん、今エロい目で見てた』とか『今の乳揺れ最高だった』とか、そういう言わなくて良いことは言わないでね⁉︎」

「そのチチユレって何?」

「後で教えてあげるから、今は私の話を聞いて!」

「ん、お、おう……」

 

 ……しかし、確かに前者は俺も言いそうだな。気を付けないと。

 顔を真っ赤にしたままの蘭子は、説教を続ける。

 

「貴様が我に誠実であろうとし、それによる発言が我が羞恥を掻き立てる事もある。場合にもよるが、我はそんな羞恥を味わいたいとは思わん。故に、禁忌に触れし真言を口にするな、と言っている」

「わ、分かったよ……」

「……で、でも……」

 

 でも? 

 

「……か、可愛いとか、綺麗とか……褒めてくれる、のは……アリ……」

「っ……」

 

 ……そ、その言い方が……なんか、可愛いんだけど……。あ、でもこれはアリか……。だ、だよな。俺の筋肉が褒められるのがアリなら……可愛いもアリか……。

 

「わ、分かった……」

 

 とりあえず、握手した。なんにしても、これで仲直りだ。

 

「この後、どうする?」

「我はそろそろ門限が近い故、失礼する」

「あ、そ、そっか……」

 

 もうお別れかぁ……。まぁ、俺も大会近いし、遊んでる場合ではない。蘭子のライブもあるし、なんか色々と楽しみなことが増えてきたぜ。

 内心で少し気合を入れている時だった。隣でベンチから立ち上がった蘭子が、パサっと何かを落とした。それにより横を見ると、持ってきた鞄をひっくり返してしまったみたいだ。中身がそのまま飛び出ている。

 

「あっ……」

「あーあ……」

 

 スケッチブックか? でも、前見た魔導書とは違う。なんか蘭子にしちゃ地味なノートだな。

 落ちたノートを拾い、土を払うためパッパッと払う。そのノートを、蘭子はシュバっという音がしそうな程、早く俺の手から奪い去った。

 

「み、見ちゃダメ〜!」

「うおっ」

「あっ……⁉︎」

 

 が、その結果、蘭子の手元からもノートは逃げてしまう。そのままクルクルと宙を舞い、着地と共に1ページが開かれた。そこに載っていたのは……剣道着を片肌脱ぎにした俺だった。

 

「えっ……」

「ーっ!」

 

 一瞬で奪い去られてしまった……が、脳には強く焼き付いている。かなり二次元風にイケメンで描かれていたが、髪型や兄貴譲りの特徴はしっかり描かれていた。

 ……何よりなんか……大胸筋の乳首、何故か朱が挿してる頬、微妙に荒んだ吐息が表現されてて……少しえっち……というか、ちょっと筋肉盛りすぎだった。いくら俺でも、大胸筋はまだそこまでなんだけど……。

 

「……み、見た……?」

「……」

 

 ……この場合は、正直でいて良いのか、嘘を言うべきなのだろうか……。いや、蘭子には正直でいると言ったし、ここは頷くしかない。でも、あくまで蘭子が恥ずかしがらないように肯定しないと。

 例えば「見たよ」という直球は絶対にダメ。「趣味は人それぞれだから」というのもダメな気がする。

 ……いや、今の蘭子の顔を見ろ。多分、何を言っても恥ずかしがるぜあれ。ならば、むしろ協力的な姿勢を見せれば良いのだ! 

 

「俺の絵が描きたいなら、モデルやろうか?」

「〜〜〜ッ!」

 

 スコーンっと、ノートの背表紙に当たる硬い面で、脳天を叩かれた。……どうしろっちゅうねん……。

 

「おやすみ!」

 

 プンスカ怒ったまま帰られてしまう。一人、公園に取り残された。

 

 ×××

 

 その日の夜、俺はぼんやりと部屋の中で天井を見上げる。結局、蘭子とはまた喧嘩別れみたいになってしまったな……と、後悔していると、蘭子から連絡が来た。

 

 ブリュンヒルデ『先刻は失礼した』

 

 ……いやいや、あれも多分、俺が悪いでしょ。言葉選びが下手くそだった俺の責任だと思うよ。

 返信を送る前に、さらにメッセージが飛んできた。

 

 ブリュンヒルデ『礼を詫び、貴様に我が鏡像を送る』

 

 は? それって……と、思った矢先、蘭子の自撮り写真が送られてきた。学生服姿で、少し恥ずかしそうにしながらピースを横に浮かべている。

 ……ここで、可愛いとか送っても良い、のかな……? 褒めても良いとは言われたけど……でも、俺微妙にまだ何も分かってないっぽいし……。

 

 ブリュンヒルデ『その……』

 ブリュンヒルデ『だから……』

 

 返事まだ出来てないのに連投してくるのは、もしかして写真を送ってきたのはなんか要求があったのか? 

 

 ブリュンヒルデ『……モデルになりそうな写真を送って下さい』

 

 ……え、何それ。お、俺の写真ってこと? 絵を描きたいから、欲しいみたいな……。

 い、いや……やるしかないか。もう蘭子の写真もらっちまったしな……。これ気に入ったからホーム画面にしちゃお。

 

 コケコッコウ『ちょっと待ってて』

 

 それだけ言うと、両親が保管してるアルバムを漁りに行った。過去の写真の中に、俺が剣道やってる写真があったはず……。

 適当に漁って写真を選ぶ。せっかくだから、勝った時の写真が良いよなぁ。あとカッコ良いのが良い。小学生の全国大会の奴とか良いんじゃない? 

 そう思って漁っていると、スマホが震えた。蘭子ではなく、新田さんからだった。

 

 新田美波『そういえば、明後日は夕方から蘭子ちゃんのライブの日だけど、覚えてる?』

 

 ……あ、やべっ。忘れてた。

 

 

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