神崎さんは分かりやすい。   作:バナハロ

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興味を抱け、若人よ。
中学二年生が故の事故。


 二学期になった。夏休みが明け、また朝早く目を覚まし、コテコテの学生服に着替え、教室に向かわなければならない時期だ。

 まぁ、朝は良い。俺の日課に、朝六時に起きてランニングという新たなメニューが加わったからだ。関東大会で入賞せず負けてしまったが、その試合は延長戦でスタミナ負けしたのが敗因だ。必殺技よりも、まずは肉体だ。あと、サムに憧れた。

 今日は朝練が無いため、七時起き……なのだが、いつも通り六時に起きて早朝ランニング。その後にシャワー浴びてから学校だ。ちなみに、朝練がある日は五時起きである。

 さて、その始業式が終わった。今日は部活オフの日の為、本来なら早めに帰宅する所だろう。

 しかし、俺の足は昇降口には向かわなかった。

 代わりに来たのは、空き教室。以前、見つけた二人だけの秘密基地だ。特に、約束はしていない。でも、久々のアジトだ。顔を出しておきたい。

 そう思って扉を開ける。相変わらずの教室だった。山積みの机と椅子。そのうちの三つを拝借して、真ん中に設置された机。

 そして、隣には銀髪のツインテールを揺らした少女が、椅子を拝借して本を読んでいた。

 俺が扉を開けた事に、すぐ気付いたその少女、神崎蘭子は、すぐにフッと笑みを浮かべ、片手を左目に添え、右手で本を出して机の上に置くと、こちらにかざす。

 

「フッ、随分とのんびりだな? 我がコウくん」

「我がコウくんって何。……早かったな?」

「当然よ。ここは我らのアジト。閉門が解かれた今、ここに集まらない理由がない」

「まぁな」

 

 適当に返しながら、俺も椅子に座る。蘭子は読んでいた本を鞄にしまうと、俺の前に立って両手を広げた。

 

「? 蘭子?」

「どう? 久しぶりの制服!」

「ああ……うーん」

 

 や、どうとか聞かれても……と、思ったのだが、俺の前で手を広げたまま腰を回転させ、背中を左右に見せたりしているので、無碍には扱えない。

 ……うーん、どうだろ……。

 

「……スカート短過ぎない?」

「……そう?」

「そうでしょ。夏休み前はそんなに折ってなかったじゃん」

「……えへへ、気付いてくれるんだ……」

 

 いや気付くでしょ。蘭子のことだよ? って、そんな事どうでも良くて。

 

「パンツ見えそうだよ」

「えっ、ほ、ホント⁉︎」

「いや分からないけど……ほら、さっきみたいに揺れると見えるかもだから」

「……見た?」

「見てないよ」

 

 夏休み後半の、豪雨によるお泊まり会の日以来、イマイチ記憶はぼやけているが、なんかあったんだと思う。だから、実際に蘭子の下着姿とかを見ない限り、普通に注意くらい出来るようになった。今までも、この子結構、無防備なとこあって、雨に透けてブラが見える事もあったからなぁ……。

 そう言う時は、俺も直接言えなくて、トイレに行って気付かせたり、自分の着てるジャージを羽織らせたりしたものだ。

 イソイソとスカートを戻す蘭子。ホント、素直な子だな。

 

「これくらいならどうだっ?」

「まぁ良いんじゃね。……でも、なんでスカート短くするの?」

「えっ……?」

「別に校則守ってても、蘭子は普通に綺麗なのに」

「……えへ、そ、そぅか……えへへ……」

 

 前にライブを見た時から、蘭子にだけは「可愛い」とか「綺麗」とか、そういう褒め言葉を言えるようになった。蘭子が嬉しそうにしてくれるからかな。

 

「……でも、コウくんはもう少し、制服着崩した方が良いなぁ……」

「え、なんで?」

「制服、まだまだ大きいから」

 

 そうか……そういや、まだまだ成長期来てないんだよなぁ……。

 

「あーあ……兄上は背が高いし、俺も伸びると思うんだけどなぁ……」

「あ、あの……えっと、コウくんも……今のままで、カッコイイと思……」

「いやー、流石に中二で身長155弱はダサいでしょ」

「……」

 

 せめて、成長止まるまでに170は欲しいんだけど……と、思っていると、蘭子は少し不満げに頬を膨らませる。

 何? と、片眉を上げて問うが、蘭子は無視して独り言のように「そうじゃないのに……」と、呟くと、不意に少し大人びた笑みを浮かべた。

 

「ふふ、じゃあ今はまだ、我の方が貴様よりお姉さん、という事だ。精々、可愛がってやろう」

「え、いや……何するつもり……」

 

 あ、ヤバい……なんか、たまに蘭子がやる俺を揶揄う時のスイッチが……。

 ぼけっとしている間に、蘭子は俺の隣にわざわざ移動してくる。で、腕に腕を絡めてきた。

 

「ら、蘭子……? ちょっ、落ち着いて……」

「ふっふっふっ、こう見えて女子中学生の平均を上回るボディライン……如何だ?」

「っ、な、なんだよ急に……⁉︎」

「女の子の方からここまでしているのに、感想のひとつもないのか?」

「っ……」

 

 こ、これだよ……なんか、ホントお泊まり会で何があったかイマイチ覚えていないけど、蘭子がやたらとグイグイ来る。嫌なわけじゃないんだけど……こう、少し反応に困る。

 ていうか、感想って何言えば良いのさ。いや、思う所はある。柔らかいとか、良い匂いだとか、様々だ。

 でも、こう……どれを言っても変態的な気がする。なんだよ、良い匂いって。てかなんで良い香りするんだよ……。

 それに、柔らかいと言うのも、これはどう言いくるめた所で、胸が柔らかいって意味になるんじゃ……未だに「おっぱい」って単語を口にするのは憚られる俺だし、正直ホントなんて言えば……。

 ……そういえば、蘭子の胸は柔らかいけど、もし大胸筋とか鍛えたらどうなるのかな……。柔らかさと硬さ、どっちが来るんだ? 

 

「蘭子、大胸筋鍛えてみない?」

「なんでそんな感想ばかりなのー⁉︎」

「今日、この後ジム行かん?」

「行かない!」

「なんで⁉︎」

「鍛え上がってそれなりの硬さになったら触らせて欲しいんだけど! 柔らかさとどっちが勝つのか?」

「触っ⁉︎ ……え、えっち!」

「それこそなんで⁉︎」

 

 別に大胸筋くらい、俺は触られても問題ないんですが⁉︎

 

「じゃあ、コウくんは胸触らせてって言われたら触らせるの⁉︎」

「や、別に俺は良いよ。むしろ、大胸筋は男なロマンだからな!」

「っ、い、良いの? 言ったな?」

「良いよ!」

「じゃあ、今!」

「どうぞ?」

 

 胸を張って「どうぞ?」と片眉を上げる。今は夏服だから、服の上には半袖のワイシャツ一枚。ほぼ生肌と同じ感覚で触れることだろう。

 ムンッ、と力を入れる。少し膨らんだかな? 蘭子は、頬を少し赤らめながら、俺の胸に手を伸ばす。

 

「……お、おおっ……!」

「……」

 

 ……あれ、なんか恥ずかしいなこれ……ていうか蘭子、そこ乳首。あんま触らないで。ガキの頃、出来物だと思って乳首抉ろうとしてた俺に、触ると大きくなるよって母ちゃんが言ってた。

 

「……か、硬い……」

「……」

 

 さわさわ。

 

「それに、少しやっぱ柔らかい……本質は、男も女も同じと言うこと……?」

「……」

 

 さわさわさわ。

 

「……もう少し、研究したいな……コウくん、両腕ムキってやって?」

「え、こ、こう?」

「そうそう。……あ、硬くなった」

 

 さわさわさわさわ。

 

「……おお、すごい……」

「…………」

 

 ……少し、恥ずかしいな……。何やってるんだろう、俺達……。

 

「もう少し見てみたいな……コウくん、脱がしても良い?」

「はっ⁉︎」

「え、だめ? いつも見られても恥ずかしくないとか言ってるのに?」

「っ……い、良いよ! 好きなだけ脱がせよ!」

「いや一枚で良いんだけど……」

 

 そのまま蘭子は、上から一つずつ、シャツのボタンを外していく。徐々にはだけていくシャツ。それと同時に露わになる大胸筋。

 

「……やっぱり、実際に見るとすごいな……中学生でこの胸筋って……」

「あ、あの……蘭子さん? そろそろ……」

「も、もう少し待って!」

「いや、流石に恥ずかしいと言うか……」

「……や、やわらかくてかたい……なんだこれ?」

 

 それこっちのセリフだよ……な、なんだよこれ? なんて思っている時だ。

 コツコツと、足音がする。それにより、俺と蘭子はハッとして顔を見合わせた。ヤバい、誰か入ってくるかも⁉︎

 そう思った時には、俺は蘭子を胸前に抱き抱えながら、二人分の鞄を机の山の下に放り、使っている三つの机の下に隠れた。

 

「っ、ふぁっ⁉︎ ふぁふぃを……!」

「しっ」

 

 おそらくパニックになってる蘭子を落ち着かせた直後、教室の扉が開かれる音がする。

 

「ふぅ……あー、使われてない机の倉庫ってここか。ったく……椅子一つくらい、自分で持っていけよな、学年主任……」

 

 グダグダ言いながら、俺達の横を通り過ぎ、先生は机と椅子の山を一つ持っていった。何となく予想はしてたけど……ここ、倉庫だったのか。そこ鍵を開けっ放しで良いのか? 

 とりあえず、ホッと胸を撫でおろし、胸前の蘭子に目を落とした。

 

「危なかったな、蘭……蘭子?」

「……あ、あひゃ〜……ほへほへほへ〜……」

「え、な、なんて……?」

 

 な、なんか奇声上げたまま、目玉を上に向けて涎垂らしてるんだけど……てか、涎ついてるんですけど……何してくれてんのさ……。

 

「蘭子、蘭子……大丈夫?」

「ふ、ふへっ……ふへへっ……」

「……」

 

 大丈夫じゃなさそうだな……。とりあえず、蘭子を机の上に置き、俺は胸元を拭いてからシャツを着直した。ていうか、蘭子の唇の跡が残ってる……一日で落ちるかな? 

 ……ふぅ、しかし……なんか改めてやばかったな、さっきのは……。蘭子の奴、完全になんか暴走してたな……。「褒められて嬉しい」も限度があるんですが……。

 

「ふ、ふへっ……ふへへっ、ゼロ距離大胸筋……」

 

 ……なんか悶えてるし……まぁ、蘭子が嬉しそうだしいっか。

 

「……はぁ、腹減ったな……」

 

 とりあえず、蘭子が起きるまで待ってるとしよう。先に帰っちゃ悪いしね。

 

 ×××

 

「ハッ⁉︎」

「うおっ⁉︎」

 

 一時間後、本を読んで退屈凌ぎをしていた俺の真横から、急に大声と共に身体を起こす蘭子が目に入った。

 辺りをキョロキョロと見回した後、蘭子は俺を見る。

 

「なんか……桃源郷にいた気がするのだが……夢……?」

「夢でも、何でも良いわ。人の胸で散々、弄びやがって……」

「えっ? ……あっ」

 

 あ、思い出した。顔を真っ赤にした蘭子は、机の上で顔を隠すように丸くなってしまう。

 

「あうう〜……! こ、コウくんの前で暴走しちゃうなんてぇ〜……!」

「いや、別に気にしなくて良いから。俺ももう気にしてないし」

「気にするよ!」

 

 あー……まぁ、そういうのはやっちまった側も気になるよな。練習中、たまに胴や小手を外して、外された側は「気にするな」と言ってくれるし、俺も外された時は言うけど、外しちまった時はそうもいかないものだ。

 でも、こっちは気にするなと言ってやるしかない。だって、これがきっかけで仲違いなんてしたくないから。

 

「ホント、気にしなくて良いよ。俺は何とも思ってないから」

「……それはそれで困るんだけど……」

「え?」

「ううん。……ほんとに気にしてない?」

「してない」

「……え、えっちな子だと……思ってない?」

「それは少し前から思ってた」

「むーっ、むーっ!」

「じ、冗談! 冗談です!」

 

 や、だってたまに俺の身体すごい目で見て来るんだもん! 気にしてないとはいえ、印象は残るってば! 

 

「そ、それよりほら、飯行かん? 腹減ったよ俺」

「う、うう〜……恥ずか死ぬ……」

「……」

 

 ……うーん、これはしばらくそっとしておいた方が良いかな……ていうか、そもそもなんであんなことになったんだっけ? 

 確か……なんか、胸から始まって……柔らかいだとか、硬いだとか……あ、そうだ。俺が大胸筋と胸の脂肪、両方育ったらどっちが勝るのか知りたくて……それで、鍛えて触らせてって……。

 

「……」

 

 言ってることえっちだったのは俺の方だろうがああああああああッッ‼︎

 それとほぼ同時に、蘭子もハッとして顔を上げる。何か思いついたようだ。このタイミングで蘭子が思いつくことなんてロクなことではないのは目に見えているが。

 やがて、すぐに俺の横に来て、蘭子は俺の耳元に口を寄せる。

 

「っ、な、何……⁉︎」

「い、いずれ……鍛えた、私の胸も触らせると約束しよう……」

「……え」

「それで、チャラだからな……!」

「いや一体何のチャラ……⁉︎」

「毎回毎回、私だけ恥ずかしい思いをさせられてたまるかー!」

「だから何の話だよ⁉︎」

 

 なんか、とんでもない約束を結ばされた。

 

 

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