神崎さんは分かりやすい。   作:バナハロ

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どっちもどっち。

 思春期、それは中学生に訪れる厄介な時期。子供が大人になる季節であり、大人の言うことを聞くのはなんかムカつく、子供はダメで大人は良いものに興味が出る、自身とは異なる性の身体に興味が出る、など様々な変化が、外見と共に現れる……らしい。

 俺にはまだよく分からない時期だが、それに片足を突っ込んでいる少女と、俺は友達になっている。……いや、片足どころじゃないな。両足も超えて全身浸かってダイビングしているまである。

 名前は神崎蘭子。銀髪のポニーテールに、赤い瞳、白い肌……そして、魔王ごっこをするのが好きな中学二年生だ。

 まだ思春期なのか分かっていない俺でも「可愛い」と思うし、他の子と比べて発育が良いとも感じる少女だ。今年から友達になってくれている優しい子でもある。

 ……さて、そんな蘭子から、俺はとんでもない誘いを受けた。

 

『い、いずれ……鍛えた、私の胸も触らせると約束しよう……』

 

 ……いやいやいやいや、大胸筋の話とは言え、おっぱい触るなんて小学生でも「エロい」と茶化し合うレベルの事だなんだけど……⁉︎

 どうすりゃ良いのか分からない。でも……なんだろ、触りたくないわけではない、と頭の奥底で囁いてる。多分、俺の悪い子な面が。

 いやいやいやいや、悪い子な面って分かってんなら、悩む事ないだろ! そうだ、断ろう。

 この感覚はおそらく、剣道の鍔迫り合いの際、相手を中々、崩せないのなら、踵で相手の急所である「太衝」を思いっきり踏み抜き、引き技をぶちかませば良い、というクソ外道作戦を思いついた時に近い感覚。

 ならば、何も悩むことは無い。断れば良い。そう決めて登校していると、ぽつりと肩に冷たい感覚。空を見上げると、雨が降り始めていた。

 

「うわ……」

 

 折り畳み持ってて良かった……と、ホッと胸を撫で下ろし、鞄から出した黒いシンプルな傘を広げる。

 雨かぁ……てことは、今日の体育は女子と一緒に体育館かな? 嫌なんだよなぁ、なんか活躍とかすると「あいつ女子の前だからってカッコつけてる」とか言われそうで。まぁ言われてもボコボコにするだけだから大した問題じゃないけど、やはりストレスは溜まる。

 そんな事よりも、今日の勝負は昼休み。また空き教室で、蘭子と二人きり。その時に「おっぱい触るのいいです」と言わなければ。……いや言い方少し考えるか。なんだよ、おっぱい触るのいいです、って。

 まぁ、昼休みまでに考えれば良いか。そう思いながら歩いていると、校門前に差し掛かった所で、俺の傘にぬるりと飛び込んでくる銀髪が目に入った。

 

「煩わしい太陽ね、コウくん!」

「っ、ら、蘭子⁉︎」

 

 ちょっ、不意打ち……! てか、近っ……! 

 

「学び舎への道中、イシスの涙に襲われた……。まったく、呪われし我が対空防壁を城に置き去りにした隙を狙うとは……しかし、それ故に神々が我を恐れているという証拠にもなり得る」

「そ、そうね」

 

 生返事になってしまった……てか、ヤバい。蘭子の、胸……ブラウスが透けて……! なんか、こう……黒いブラの下にある肌色の谷間が見えて……。

 見るな……見るな見るな見るなっつーのに……目が、引き寄せられっ……こうなったら……! 

 

「死ねェクソゲス!」

「いきなりどうしたの⁉︎」

 

 自分の顎にアッパーを叩き込んだ。勿論、手加減抜きで。ゴキリと中々、脳に響く音が響いたが、おかげで煩悩は弾け飛んだ。俺はなんて最低な男になる所だったんだ……。

 自分の肌が出てしまっている事に気付いていない事を良い事に、女の子の胸を見ようとするなんて……。

 だが、もう大丈夫。むしろ俺が見えるという事は他人に見えるという事。そんな恥、絶対にかかせてたまるか。

 鞄からジャージを取り出すと、俺は蘭子の肩にかけてやる。

 

「? コウくん? この羽衣は……」

「い、いや……風邪引くとまずいかなーって……」

 

 さりげなくそう言いながら目を逸らす。わざわざ本当のことを言って辱めてやる事もない。

 

「ありがとう……」

「つっても、もう校門だけどね」

 

 あんま意味ないかも……なんて思っていると、蘭子は俺の方へ身を寄せた。濡れないようにかな? と、思った直後、真横から覗き込めるように角度調整しつつ、ジャージの襟を少しだけ捲った。

 

「……もう、見なくても良いの?」

「っ……!」

 

 っ、ちょっ……そ、それは反則……⁉︎

 せっかく祓った煩悩が再び降りて来て死にたくなったが、ちょうど昇降口まで来たのでそのままお別れになって助けられた。

 

 ×××

 

 うちの中学では、体育をやる時は二時間丸々、ぶっ通しでやる。だから、間のインターバルになる休み時間がズレることもあるわけだ。

 俺のクラスの体育は、隣のクラスと一緒に3〜4時間目。見事に晴れて、水泳である。9月の前半では水泳で、後半……つまり涼しくなってくる頃から普通にスポーツをやる。

 7月のプールの授業では、怪我のおかげで丸々、参加できなかった俺にとってはようやくのプール開き。まぁ夏休みに行ったが。

 とにかく、この短い時間で先生に「俺ちゃんと泳げるよ」という事をアピールしないといけない。

 身体を軽く伸ばしながら、自由に泳ぐ時間になった。

 

「ねぇ……あの人」

「ね。なんかすごいね、筋肉……」

「あんなのいたっけ、うちの中学に……?」

「怪我してた人じゃない? ほら、剣道で関東出たっていう……」

 

 そんなヒソヒソした声が、女子から聞こえてくる。蘭子は見たことあるが、他の女子にとっては初めて見るからだろう。

 いや、正直嬉しいわ。やっぱ、鍛えた筋肉は褒められないとなぁ……なるべくなら、男子からも憧れの視線を感じたい所だが……。

 と、思って後ろをチラ見すると、その男子達の視線は女子の方へ向いていた。その先にいるのは、神崎蘭子。

 

「神崎……相変わらずのプロポーション……」

「エロ過ぎ……」

「揉みたい……」

 

 ……変態どもが。お前ら殺すぞホント。

 まぁ、同じプールサイドにいる以上、向こうを見るのは仕方ないのかもしんないけど……ガン見すんなよ。気持ち悪い。

 ……とはいえ、俺も少し気にはなるんだけど……でも、今朝に一瞬、覚悟を揺るがされたが、俺は言わなきゃいけないことがあるのだ。ここでガン見していては、説得力が無くなる。

 そう思い、授業に集中した。

 一応、泳ぎは全種類できるので、しばらく黙々と遠泳。こうして身体を動かすだけで、少しずつ心は浄化される。普通に気持ちが良いよね、運動って。

 少し疲れたので、プールから上がってトイレに向かう。学校のプールってくそ冷たいから、ちょいちょい上がらんと体がもたない。

 

「ふぅ……」

 

 この濡れた海パンからアレを出して用を足すのは地味に難易度が高くて困る。

 それでも強引に捻り出し、用事を済ませると、戻して手洗いをする。

 トイレから出ると、ちょうど女子トイレに向かおうとしている蘭子と鉢合わせしてしまった。

 

「ーっ!」

「闇に飲まれよ」

「お、おう……」

 

 っ、やべっ、さっき男子達の話が耳に入ったからか? 一瞬、視線が胸に……! 

 蘭子は何を思ったか、ニヤリと唇を歪ませる。そして、まるで胸を強調するかのように前屈みになり、俺の顔を下から覗き込む。

 その意地悪そうな笑みが、本当は少し恥ずかしくて、耳と頬をほんのり赤くなっている顔色が、とても可愛らしくて、俺の胸の奥がズキっと痛む。

 

「憩いの刻限に、また我らが隠れ家において落ち合うだろう?」

「あ、ああ。うん」

「なら、本日より早速、我が大胸筋増量計画を始める。よろしく頼むぞ?」

「……っ」

 

 言いながら、前屈みになっていたのを少しずつ姿勢を戻し、両腕を組んで胸を持ち上げるようにアピールしてくる蘭子。

 な、なんなんだよこいつ……なんで、決心してる俺にそこまで胸をアピールしてくんだ、こいつは……もしかして、わざとじゃないのか? だとしたら余計にタチが悪いかも……。

 

「わ、分かった……」

「それと、さっきのバタフライ、とてもカッコ良かった。流石、我が剣だ」

 

 それだけ言って俺の頭を撫でた後、蘭子はトイレに入って行った。その後、俺はほとんど放心状態で、泳ぎに参加はしなかった。

 

 ×××

 

 ムンムンする……なんか、とにかく頭が熱くておかしくなりそうだった。夏あけたばかりだからとか、そんなんじゃない。

 蘭子だ。なんかもう、あいつのことが何もかも頭から離れない。離そうとして、実際離れたと思ったら本人が現れるもんだからマジで困ってる。

 

「はぁ……なんなんだろう、この感じ……」

「何が?」

「っ⁉︎」

 

 耳元に息がかかるくらいの近距離から声を掛けられて、少しゾクッとしながら慌てて振り返ると、後ろには蘭子が立っていた。

 座っている俺の耳に顔が来る高さに合わせて、前屈みになっていたのを正して、声を掛けてくる。

 

「早かったな」

「い、いや……まぁ、女子と比べるとね」

「ふっふっふっ、コウくんもようやく我らが戦乙女の内情を理解し始めたか。戦の前、或いは後であっても、我らは時間が掛かるのだ」

 

 ……あれ、なんか少しいつものアホアホ蘭子ちゃんに戻って来たな。でも、その方が俺は好きだしホッとできる。

 が、それが仇となった。ホッとした時点で話したいことに移れば良かったのに、先手を打たれてしまうきっかけとなった。

 

「さぁ、では……早速、肉体改造へと移ろう!」

「え……あ、あー……」

 

 っ、いや、まだ大丈夫だ。俺も男だし、ここでハッキリ言わないと。鍛え終えてから「いややっぱ胸触るのは良いや」なんて言ったら、努力を水の泡にしてしまう事になる。

 

「なぁ、蘭子。その前に良いか?」

「む?」

「前に約束した……そ、その……む、大胸筋を触るとか、触らないとかの約束……だけど……」

「む、ひょっとして……今、触りたくなったのか? ふふ、少しずつ我が身体にも興味が湧いて来たようだな。天然記念物」

「……」

 

 言いながら、蘭子はニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべて、再び前屈みになる。第二ボタンまで空いたブラウスの隙間から、少しだけ黒い下着がチラつく。

 こいつはホント人が真剣に悩んで答えを出したってのに、茶化してきやがって……。

 照れつつも、少しイラっとしてしまい、つい毒舌が漏れてしまった。

 

「何お前、もしかして俺に胸を触って欲しいのか?」

「……はえ?」

 

 直球で、まるで恥をかかすかのように言ってしまった。おかげで、意地悪そうな小悪魔的笑みを浮かべていた蘭子は、一気に真っ赤な顔に染まる。

 

「なっ……なっ……何それー! どういう意味ー⁉︎」

「そのまんまの意味だっつーの。このど変態」

「どへんっ……そ、そんなのあなたに言われたくない!」

「ああ⁉︎」

 

 どういう意味だコラ! 

 

「そもそも胸触らせてって言い出したのはそっちでしょ⁉︎ 硬さと柔さがどうとか知らないけどさ、どうせ本当は女の子の胸が触りたかっただけのクセに! この筋トレオタク!」

「んなっ……おまっ、そんな風に思ってたのか⁉︎ その筋肉を性的な目で見てる奴に変態とか言われたかねーよ!」

「あなただって私の胸、性的な目で見てる癖に!」

「それで胸をやたらとアピールしてくるどすけべのが変態的だわ!」

「筋肉を見せつけたがってる時点で同じ穴の狢だよ!」

「遺伝で大きくなっただけの奴と、鍛えようとして鍛えた奴の見せたがりは別モンだろ!」

「い、遺伝だけじゃないもん! 私だって飛鳥ちゃんにたまに揉んでもらったり、みくちゃんに大きくする方法とか聞いたり……」

「え?」

「あっ……」

 

 言わなくて良いカミングアウトにより、さらに蘭子は顔が真っ赤に染まる。怒りと羞恥で爆発した蘭子は、とうとう大声で叫んだ。

 

「もういい! 大っ嫌いッ‼︎」

「うるせー! こっちのセリフだバーカ!」

 

 それだけ叫び、俺と蘭子は空き教室から飛び出した。

 

 

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