なんか……彼女できたなー、と少し感慨深くなった。彼女というのはよく分からないけど、でもとにかく蘭子のことを大事にしてやれば良いのだろう。
大事にっていうのは……まぁ、なんだろ。仲良くすれば良いのかな? デートとか行ったり、プレゼントとかあげたりかな。
何にしても、たくさん蘭子を喜ばしてあげられれば良い。とりあえず……今週の土日のどちらか空いてるかなあいつ……。
そんなことを思っていると、スマホが震えた。蘭子からだった。
神崎蘭子『煩わしい太陽ね』
神崎蘭子『貴様に我が魂の咆哮と神託を与えん』
まぁ、自主練も終わったとこだし、L○NEに付き合うくらい全然良いよ。
コケコッコウ『良いよ』
……この名前飽きたな。なんか変だし、彼氏っぽくない。つけたの兄上だし変えよう。
コケコッコウ『俺のL○NEの名前変えたいんだけど、何が良いかな?』
神崎蘭子『二天岩流佐々木小次郎』
コケコッコウ『いや俺、二刀流だし』
神崎蘭子『普通に桐原コウじゃダメなの?』
コケコッコウ『オリジナリティと格好良さがない』
神崎蘭子『コケコッコウの何処にカッコよさが……?』
コケコッコウ『いやそれは違うんだよ』
コケコッコウ『兄上が勝手に付けたの』
スマホを買ってもらった時は本当に機械音痴で、何をどうしたら良いのかもわからなかったんだよなぁ。ボタン押したら爆発すると思ってたくらいだし、ネットに接続すればウイルスに感染して俺の経歴と家族構成が何もかも公開されると確信していた。
神崎蘭子『我は、貴様のその「桐原コウ」という真名こそ、オリジナリティ溢れるカッコ良さがあると思うが』
……マジ? と思ったのも束の間、すぐに次の表示が写される。
『 神崎蘭子 がメッセージを取り消しました』
神崎蘭子『い、今のは無し!』
いや、もう遅いよ。とりあえず、蘭子がそう言ってくれるなら名前を変えよう。正直、名前がカタカナなのは少し変で嫌だったんだけど……でも、嬉しかった。
桐原コウ『ありがとう、蘭子』
神崎蘭子『フッフッフッ、その名でこそ我が刀であり……』
神崎蘭子『恋人!』
……元気よく打ってきてるけど、多分かなり照れてるな。一度、区切って送ってきてるのが証拠だ。
神崎蘭子『我が邪眼はこの世に流れる魔力、神力、そして何より真実を見逃さん。それ故に、虚言を吐くことはない。貴様の真名は、貴様に似合う。それは決して変な意味じゃなくて、事実として述べただけであって、他意はなくて、だから勘違いしないで欲しいのは前に名前を褒めてくれた時のお礼とかそんなんじゃないから……』
そして畳み掛けるように言い訳を……そこまで言われると恥ずかしいんだけどな。あの時、名前は確かに褒めたけど、そんな狼狽えるほど嬉しかったのか?
桐原コウ『分かったから』
神崎蘭子『貴様、我が賛美の言葉に塩対応で返すとは良い度胸だな!』
桐原コウ『本当に嬉しいよ』
神崎蘭子『ならば、その感情をもっと表に出す努力をせよ!』
桐原コウ『だって文字だけじゃん。俺は蘭子の文面から蘭子がどんな顔してるか想像できるよ』
神崎蘭子『え、そう?』
そうよ。
桐原コウ『さっきの長文の時とか、顔真っ赤にして打ってそうだなーとか。てか、今日のL○NE自体、ずっと顔真っ赤だったでしょ』
神崎蘭子『そんなことないもん!』
桐原コウ『いや絶対そんなことあるね。確信してる』
というか口調よ。テンパると割と簡単に素の喋り方になる辺り、全てバレてるぞ。
少しなんだかまた愛おしく感じてきて良い気分になっていると、蘭子から別のL○NEが届いた。
神崎蘭子『つまり、貴様は私の事を顔など見なくても理解し、感情を理解してくれている、ということだな。よく見ていてくれないと、出来ない芸当……神の視点より下界を見下ろす千里眼の泉の如く私を見てくれていたというわけか』
っ、そ、そういう言い方する⁉︎ 確かに蘭子の事はよく見てたかもだけど……いや見てたというか目で追っていたというか……いやそっちの方がヤバくね?
神崎蘭子『今、図星つかれて照れているな?』
っ、こ、のやろっ……!
桐原コウ『照れてねーよ!』
神崎蘭子『分かりやすいのは私だけだと思わない事だな。貴様に私の考えが筒抜けであるように、私にも貴様の考えは手に取るようにわかる』
こ、こいつめ……そういう事、言うなら俺だって言うこと言うぞ。
桐原コウ『お前だって、分かりやすいんだよ! 本を読んでいる理由だって、物語を読みたいとか教養を増やすとかそんな高尚な理由じゃ無くて、そのややこしい口調の語彙力を増やすためだけの癖に!』
神崎蘭子『それだったら、コウくんだって剣道の時にカウンター型だのなんだの言ってるけど、結局はカッコイイからって理由なだけな癖に!』
っ……こいつめ……いや、やめよう。こんなことで喧嘩してどうする。
桐原コウ『ごめん、変なこと言った』
神崎蘭子『否、我も大人げなかった……』
うん、なんか変なとこで意地張ってたな、相変わらず……。こういう所も直さないと、また衝動的にデリカシーがないと思われる言葉を発してしまうかもしれない。
桐原コウ『それより、何か話したいことがあったんじゃないの?』
神崎蘭子『あ、うん』
神崎蘭子『今日、我が友に新たな仕事をいただき、眷属達にオススメの店を教えるという事になった』
桐原コウ『良かったじゃん。どの店教えんの? 武道具店?』
神崎蘭子『いやそれだけはないよ……』
神崎蘭子『普通にカフェとか……なのだが、我は事務所の寮に備えついているカフェ以外には、スタバ等にしか行った事がない』
あー……まぁ、中学生はそんなものか。うちの兄上も、高校生になってからチェーン店じゃないカフェに行くようになった。全部苦いという感想しか出ない俺と違って、あの店は酸味がどうのとかなんとか理解しているように言っていたっけ。俺も高校生になったら、分かるようになるのかなあ。それ以前にコーヒーが飲めるようになるのかなぁ。
……あ、そうか。要するにおすすめの店を知りたいって話か。なら、ちょうど兄上から聞いたお店もあるし、そこに誘ってみようかな。
桐原コウ『じゃあ今度、俺が知ってる店行く?』
神崎蘭子『お店知ってるの?』
桐原コウ『兄上に教えてもらったお店だよ』
神崎蘭子『敵情視察か。共に参らん、我らが修羅の道を』
いやアイドル活動に関しちゃ俺は絡めないし、むしろファンの一人なんだけどな……。
てか、そんな事よりさ、もしかして……これデートの約束になったのかな? なんか、少し楽しみになってきたな。せっかくだし、他の店とかも調べておこうかな。
何にしても、そろそろここで寝るか、と思ったら、また蘭子からメッセージが送られてきた。
神崎蘭子『カフェだけに行くのも味気ないものよ。であれば、ついでに様々な地に赴き、享楽を味わうとしよう』
桐原コウ『良いね。俺、あれ行きたい』
桐原コウ『なんだっけ、なんかネズミのカップルのテーマパーク』
神崎蘭子『そこ行くなら一日使わないとだよ……』
確かに……と、思っていると、俺の口から「くあっ……」とあくびが漏れる。そろそろ眠たいかも……と、思った時だ。
神崎蘭子『あ、デ○ズニーと言えばさ』
『 神崎蘭子 が写真を送信しました』
送られてきたのは、蘭子が制服でミ○ーのネズ耳をつけている写真だ。何これかわいい!
桐原コウ『可愛い!』
桐原コウ『じゃなくて、似合ってる!』
神崎蘭子『照れる必要はない。貴様の直球の褒め言葉に裏表がない事は理解している為、とても嬉しい』
……あの、別に良いけど「照れる必要はない」とかいう必要ある? 普通に恥ずかしいんですけど。
いや、そんなことよりも、だ。
桐原コウ『どうしたのこれ。誰と言ったの? 兄上が、一人でデ○ズニー行く奴はいないって言ってたけど』
神崎蘭子『飛鳥ちゃんと』
桐原コウ『ああ、そう』
神崎蘭子『男だと思った?』
桐原コウ『プロデューサーさんって人かなって』
神崎蘭子『ありそうだったからいじらないでおく……』
なんて、結局寝るタイミングは訪れず、そのまま朝までL○NEしてしまった。
×××
さて、翌日。授業中にしっかりと睡眠をとった俺は、部活でみなぎる体力を使い切り、疲れた身体を引きずって帰宅する事にした。
今日は後輩に「教えて!」と迫られることもなかったので、一人で校門を出ると、蘭子が待っているのが見えた。
「……あっ、ま、待ちわびたぞ。我が剣」
「わざわざ待ってたんか」
「共に、我らが楽園への帰路へ歩みを進めよう」
「え、悪いけどこの後俺、寄り道するよ。今日、練習中に鍔割れたから」
「ふっ、構うことはない。……その方が、放課後デートのようだろう?」
「いや知らないけど。そうなん?」
……まぁ、行く場所は武道具店なんですけどね。そこばっかりはまぁ仕方ないって事で。
「……ちなみに、我も魔剣を買っても……?」
「別に良いけど……剣道やるの?」
「趣味で一本。木刀とか欲しいかも……」
「やめた方が良いと思うよ。蘭子、平気で部屋の中で振り回しそうだし」
「振り回さないよ! ……かっ、傘を振り回したことはあるけど」
「物を壊したり、怪我をしてからじゃ遅いよ」
「こ、懲りたもん!」
……うーむ、面倒臭いな。でも、基本的に蘭子ってカッコ良いものに関しては妥協しないし……こうなったら、別のことをお願いするか。
「それより、俺が使う鍔を選んでよ。蘭子が選んでくれたものなら、新人戦の時に勝てる気がするんだ」
「むっ……そ、そうか? そうか。ならば仕方ないな。我が選んでやろう」
よし、楽勝。
「……あっ」
「むっ、どうした?」
「そういえば財布持ってきてなかった」
「……」
一旦、家に立ち寄った。
×××
武道具店の後は、蘭子が気になるお店を発見し、雑貨屋に立ち寄り、そのあとはマックに寄った。
のんびりしながら、注文したポテトとナゲットと飲み物を摘む。そんな中、ふと蘭子がやたらとニコニコしているのが見えた。
「? どうした?」
「ふふ……なんか、少し恋人っぽいなって」
「え、どの辺が?」
「部活が終わるまで待って、一緒に帰って寄り道して……まぁ結局、家に立ち寄っちゃったけど、それで街をぶらぶらと出歩いて、お店に寄ってこうやって休憩して……何だか、とっても楽しい」
「っ……」
そういう蘭子の表情が、とても同い年とは思えないほど色っぽい慈愛の笑みを浮かべていて、思わず胸の奥が高鳴ってしまう。
なるほど……これが、デートって感じか……なんか、やっぱ友達だった頃と違うかもしんない。
「……俺も、楽しいよ蘭子。蘭子と一緒にいるのは、剣道以外で初めて楽しい事だと思える事だよ」
「コウくん……」
そのまま、飲み物や食べ物を摘み、二人きりの時間をのんびり過ごし、門限を過ぎて各々の保護者に怒られた。