神崎さんは分かりやすい。   作:バナハロ

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デートでカラオケとか行くと音楽性が合わなくてすぐ振られるよ。

 新人戦が終わり、俺はめでたく優勝。普通に楽勝だった。前までの三年生がいなくなったから、当たり前と言えば当たり前だ。次、手強くなるのは来年の春大だろう。

 さて、その大会も蘭子は体育館の端から覗いてたらしくて。

 

「「かんぱーい!」」

 

 そんなわけで、わざわざ俺を祝ってくれるらしく、カラオケに集まった。

 

「流石、我が剣! 聖戦における大勝、我が全魔力を以ってして祝福の宴を開かん!」

「本当に良いのか? 奢りなんて……」

「問題無い。我はこう見えて美姫達の祭典に参加せしワルキューレの一人……故に、魔力もまた貴様ら愚民とは比較にならない」

「なんかごめんね。身体を売って得たお金を俺なんか為に……」

「え、えっちな言い方しないでよ!」

 

 え、えっちだったのかな……? でもアイドルってそうじゃん。歌って踊ってお金を得てるわけだし。

 

「そ、それに……なんか、じゃないよ」

「え?」

「コウくんのためだから……その、何。お祝いの時くらい、出しても良いかなって、思えたわけだし……」

「……」

 

 ……そ、そんなこと言われると……少し恥ずかしいな……まるで恋人みたいな……いや、恋人じゃん。

 

「ありがとう、蘭子」

「ふっ、気にすることはない」

 

 するわ。

 さて、カラオケに来たからには歌わないと。何にしようかなー。

 

「食物も頼むと良い。大会後で、疲弊し切っているだろう?」

「え、でも母ちゃんがカラオケの飯は高いって……」

「す、少しなら!」

 

 あ、なるほどね。腹は正直、減ってるけど、でも蘭子のお金になっちゃうし、その辺は節度が大事になるのだろう。

 

「じゃあ、この唐揚げとポテトの奴良い?」

「うむ!」

 

 今、チラッと見えたのは、ポテチだけで300円もするの。えげつな過ぎでしょ。セットにしても決して安いわけではないし。

 それをパネルで注文し、いよいよ歌う番。さて……蘭子に言われるがままついて来たが、俺は音楽をあまり聞かない。銀魂のオープンエンドくらいだ。来れば楽しいもの、と聞いたけど、果たしてどうなのだろうか? 

 

「まずは、我が美声により貴様を狂乱の魅力へと引き込もう」

 

 そう言った蘭子は、マイクを握った。……そういえば、蘭子の歌を聞くのは随分久しぶりな気がする。

 

「何歌うの? legne- 仇なす剣 光の旋律?」

「じ、自分の歌をカラオケで歌うのは少し恥ずかしいよ……」

「えー、聞きたい」

「あ、後でググって!」

 

 ようつべにでも載っているのだろう。でも、やっぱり生で聞くのが一番良いんだけど……まぁ、逆に蘭子が自分の曲以外を歌ってる方がレアだよね。

 テレビに表示されている曲名は「紅○華」。

 

「うわ、なんか蘭子っぽい」

「ふっふーん」

 

 知ってる。てかめちゃくちゃ有名な奴じゃん。カッコ良いよね、俺鬼滅見てないけど。

 得意げに胸を張る蘭子は、早速歌い始めた。その歌声は、何処か無邪気で、それでいてカッコ良くて、やはり可愛らしくて。どこまでも胸の奥に透き通るような歌声に、思わず聞き入ってしまう。

 気が付けば、もう歌い終えてしまっていた。

 

「どうだった⁉︎」

「綺麗だった!」

「えうっ⁉︎ ち、違うよ! 歌の感想!」

「? だから、綺麗だったけど……」

「ーっ、ま、紛らわしい言い方やめてよ!」

 

 え、へ、変だったかな……。

 

「じゃあ……可愛かった?」

「っ、も、もういい……上手かどうかを聞きたかったんだけど……」

「え? あ、ああ! うん、上手だったよ!」

「……なんか、言わせてる気分」

「そ、そんなことないよ! ……むしろ、その……曲より、歌ってる楽しそうな蘭子に目がいっちゃって……」

「ーっ、な、なら……許してあげる……」

 

 ……許してもらう立場になっていたのか……。いや、まぁ別に良いけど……。

 すると、今度は蘭子が俺にマイクを差し出して来た。

 

「はい、コウくんの番。曲入れた?」

「あ、まだ」

「早く入れて歌って! 何でも良いから!」

 

 蘭子の奴……変なスイッチ入ってやがるな……。まぁ、俺が蘭子の前で歌を歌うなんて初めてだし、仕方ないのかもだけど……。

 とりあえず、俺に歌えそうな曲を入れてみた。一番、銀魂の中で好きな曲。その名も「pr○y」。

 

「おっ、初代銀魂の曲!」

「一番好きだから」

「ふむ、気が合うな……我の中では、二番目だが」

「一番は?」

「曇天」

 

 うわ、ぽいわ。

 なんて思っている間に、歌詞が画面に表示される。ということは、いよいよ歌う番……。

 

「…………」

「えちょっ……も、もう始まってるぞ?」

「英語読めない」

「何でその曲にしたの⁉︎」

「いけると思った! たくさん聞いてたから!」

「歌える曲にしなよ!」

「……あ、英語終わった。今なら行ける!」

 

 強引に歌を続けた。英語の部分はもにゃもにゃ誤魔化し、何とか全部歌い切った。ふぅ……まぁ、カラオケなんてそんなもんだよな? 

 と、思って蘭子を見ると、なんかとってもニコニコしていた。まるで子供の合唱を見ていた先生のように。

 

「……な、なんだよ?」

「いや……歌い方、子供みたいで可愛かったなって」

「どゆこと⁉︎」

「地声で大きな声で歌ってる感じ? いや、音痴ってわけじゃなかったけど……こう、歌が上手い子供みたいな……少年探偵団でいうあゆみちゃんみたいな」

「女の子かよ⁉︎」

 

 どういう意味で言ってんの⁉︎

 

 ×××

 

 さて、おやつも食べ終えて、少しカラオケに疲れて来た頃。俺が軽く伸びをすると、蘭子も疲れたのかマイクを置いた。

 

「蘭子、本当に歌上手いね」

「我は一応、それを生業としている。言わば、必殺技と言っても過言ではない」

「そっか。プロだもんね」

 

 歌が下手なアイドルもいるけど、少なくとも蘭子はその限りじゃない。関係ないけど、何年か前に大○智と坂本○行の「愛のかたまり」を聞いた時は、その時にやってたアームロールを止めるほど上手かった。

 

「にしても、カラオケなんて本当に久しぶりだわ。誘ってくれてありがとう」

「ふっ、貴様のためではない。我が野望のため……」

「や、ほんとそうだよね。もう何度も何度も人が歌うたびにニコニコニコニコ……」

「仕方あるまい。可愛かったのだから」

「アイドルに言われたくないわ!」

 

 ていうか、俺可愛いって言われるの嫌だ! ……いや、蘭子に言われるなら嫌じゃないけど……でも、俺はやっぱりカッコ良いの方が……。

 いや……口じゃ叶わない。話題を逸らそう。

 

「それより、蘭子。お前、少し筋肉ついた?」

「っ、え、わ、分かる……?」

「うん。特に上半身。家で腕立て毎日やってる証拠でしょ」

「……何でだと思う?」

「え、なんかあったっけ?」

 

 ここ最近、練習で色々あったから、記憶が曖昧になることがあるんだよなー。ハッキリ覚えてるのは、蘭子と付き合ってる事。……あとは、まぁ……付き合う前にしたデートの事とか、色々? 

 なーんか、こう……なんかやばい約束した事を、ぼんやり覚えてるんだけど……なんだったかな? 

 

「……実は、我がカラオケを選んだのは、コウくんの可愛いお歌を聞きたかったからだけではない」

「お歌ってなんだよ! どんだけバカにした言い方⁉︎」

「他にも、色々と理由はある。……たとえば、二人きりで密室にいられるとか……」

「え?」

 

 それを聞いて、思わず俺の頬から汗が流れ落ちる。喜ばしいことのはずのに、何故か嫌な予感がしてしまった。

 そんな俺の嫌な予感を裏付けするように、蘭子は肩と肩が密着する距離にまで接近して来た。

 

「我と貴様の間で交わした契りを、覚えているか?」

「え……な、なんだっけ?」

「……忘れたのか?」

 

 っ……あ、あれ? 何その泣きそうな顔……ちょっ、ダメだ。ここで覚えてない、なんて言ったら間違いなく泣かせてしまう。

 正直、いまいち覚えていないけど……覚えてる、というしかない。女を泣かすような男にはなるな、って兄上もよく言ってたし。

 

「お、覚えてるよ! 流石にそんな大事な約束忘れるわけないでしょ。むしろそれしか覚えてなかった」

「ふふっ……えっち」

「え、な、なんでそうなる?」

 

 待て待て待て。どんな約束したの俺? なんかあったっけ……? ダメだ、思い出せない。

 

「なら、その契りを今、果たそう」

 

 そう言うと、蘭子は俺の手を掴んだ。まるで、逃げられないようにするかのように。え……ま、まさか……キスでもするつもり? 

 いやいやいや、そんな約束したっけ? した覚えないよ。俺がしたのは確か、蘭子の胸を触るーみたいな約束は……あ、つまりそういう事ですね。

 

「待て待て待て! 待った待った待った! ちょっとストップ!」

「どうした?」

「いや、流石にいきなりそれはちょっとハードル高い! 死んじゃうよ俺⁉︎」

「……わ、わかった。じゃあ、やめる」

「え、やめるの……?」

「だって、無理矢理は……前みたいなことになっちゃうし……」

「……」

 

 ……な、なるほど……いや、しかしそれ裏を返せば、本気で胸を触られたいって事になっちゃうんじゃ……。

 

「なぁ、蘭子……あの、確かに前に約束はしたけど……さ」

「うん……」

「そ、そういうのは……その、何? もう少し、お互い大人になってからに……」

「やだ」

「え、やなの⁉︎」

「だって、コウくんが大人になっても、異性に興味出てる保証ないし」

「……」

 

 ……全くだった。ぐうの音も出ない。……や、まぁいまも興味ないと言ったら嘘になる。蘭子に「胸触る?」と勧められた時も、正直、触りたいとは思った。でも、それ以上に理性と恥ずかしさが勝ってしまう。

 そんな簡単に、触れるわけがないでしょ。周りから見たら変態的な行為じゃん。

 でも……なんだ。それが蘭子を不安にさせているのであれば、俺も少しは考える必要がある。

 ゴクリ、と唾を飲み込み、深呼吸する。そして、チラリと蘭子の胸を見た。相変わらず大きい。まぁ縮みはしないだろうしな。

 

「……じゃあ、触るよ……?」

「う、うむ……!」

 

 苦し紛れに強がった返事をする蘭子が可愛いと思ってしまう反面、そんな事を思う余裕もなくて、なんかもう頭の中が真っ赤になる。

 慎重に、ゆっくり、あくまで自然に……いや、前者二つと後者一つが相反するものである事は重々承知しているが、その上でやはり慎重にゆっくり自然と胸に手を伸ばし……伸ばっ……あと、3センチ……。

 

「っ……」

「──っ」

 

 ……俺の左手は、蘭子の肩に乗せられた。

 

「……卒業までになんとかするので、今日は勘弁して下さい……」

「……へたれ」

「……思い切りが良過ぎるのもどうかと……」

 

 勿論、その後も揉める日は来なかった。

 

 

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