もしも、オリオンがクソ真面目な堅物だったら   作:萃夢想天

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どうも皆様、大変長らくお待たせしました。
仕事が忙しくなってきた萃夢想天です。

やっぱり二年目になると任される仕事量も
増えてきちゃって大変ですわゾ。
けどこれからも時間を見つけて書いていく次第。

今回ちょっと短めになると思いますがご容赦を。


それでは、どうぞ!





第三特異点オケアノス編・その3

 

 

 

 

 

鬱蒼と茂った森林に、言葉を交わす三人の影があった。

 

 

「ん…! 波を掻き分け進む音がする。これは、奴らのものではない。違う船の音だ」

 

「おや。流石だねアビシャグ、君の才覚はやはり隔絶したものだ。夫として鼻が高いよ」

 

「ふざけるな優男。吾は貴様の想い人(アビシャグ)とやらではない。他を当たれ」

 

「ひどいなぁ。つれないなぁ。悲しくなってしまうじゃないか」

 

「勝手に落ち込んでいろ三枚目。まったく、イアソンと同レベルで救い難い男がいるとは。

 なべて世は広いものだと痛感させられる……さて。彼らを試さねばならないか」

 

 

一人は女。森の中にあっても目を引く煌びやかな緑の長髪をなびかせる、吊り眼の女性。

その頭頂部からは人ならざる獣の耳が生え、ドレスの裾からも猫科のような尻尾が伸びる。

 

これに対し、男はどこか牧歌的な装いの好青年だった。着の身着のままに行く身軽さと、

口の軽さが共存する飄々とした態度の男性。男性は女性を口説くが、あえなく撃沈。

女は溜息を吐きながらも協力関係を維持しているらしく、男に提案を投げかけた。

 

 

「まずは彼らに存在をアピールしなくてはならん。おい貴様、文を書けるか?」

 

「おや? 僕の力が必要かい? いいとも、他ならぬアビシャグの頼みならば喜んで」

 

「アビシャグではないと何度言えば分かる。貴様本当にアーチャーか?」

 

「残念ながらバーサーカーではないよ。むしろ、()()()()()()()()()らしくないかな」

 

 

女は男の返答に苛立ちを募らせるが、男の方はどこ吹く風、といった具合だ。

出会ってから今までこんな会話を延々と続けていたのだから、女も辟易としてしまうのは

仕方がない事だ。それを分かっていながら態度を改めない男の方に精神的な問題がある。

 

男は提案を拒みこそしなかったが、女の懸念を違う形で再認識させる言葉を紡ぐ。

女は男の呟いた一言に返事こそしなかったが、内心では同意を示していた。

 

獣耳の女性と軽薄な青年の他にもう一人、この場にいる人物を指していた。

 

 

「ぁぁ……あぁ…どうして。どうして、見えないの。どこにも、我が眼に、貴方が」

 

 

男女の視線の先にいたのは、()()()()()

骨と皮だけの痩躯に、顔の上半分を覆う白い仮面をかぶった奇妙な出で立ちの老婆だ。

 

老婆は掠れた声で譫言のように「どうして」と繰り返している。

その様は壊れたカセットテープのように思え、ある種の狂気を感じさせた。

 

女と男は老婆を見やり、気にした様子もなく会話を続ける。

 

 

「あの御老体は口説かんのか? アビシャグとやらに見えたりしないのか?」

 

「いくらなんでもあんな姿の女性をアビシャグだなんて呼べないよ」

 

「貴様にも可不可はあるのだな。女と見れば何であれ垂涎する野獣かと思ったが」

 

「君は僕を何だと思ってるんだい」

 

 

ひどいなぁ、と男は大して気にしてもいないような軽口で答える。

そんな彼の態度にまたも眉間のしわを深めていく女だが、男が真面目な口調で返す。

 

 

「それに……彼女をアビシャグと呼ぶのは、あまりにも失礼だ」

 

「……なんだと?」

 

「だって彼女は、()()()()()()()()()んだもの。体も魂もとうに尽き果ててなお人理に刻まれ

 英霊の座に登録された。若い頃に亡くなって、その当時の想いをまだ引き摺ってるなら理解

 できるとも。けれど彼女は老婆だ。老いるまで生きたにも関わらず想いは消えていない」

 

「……つまり、何が言いたい?」

 

「簡単な事さ。分からないかい? 愛を知らず、恋に恋する女を口説けやしないって事さ」

 

 

得意げな表情で言ってみせる男に、女はとびっきりの軽蔑的表情を向けて息を吐く。

一瞬でもまともな言葉を期待した吾が阿呆だった、と思い直した女は頭を掻いた。

 

 

「……最初から吾しか書ける者がいないじゃないか」

 

「心外だなぁ。乙女の心を蕩かす言葉の十や二十はスラスラっと書けるけど?」

 

「やかましい軟派者。吾が試すのだから、吾の言葉で書いた方がいいに決まってる」

 

「またフラれちゃったかな。残念」

 

 

ケラケラと軽薄に笑う男に青筋を立てつつ、いつかその眉間を射抜いてやると心に誓った

女は、以前沈めた海賊船から略奪した物資から紙とペンを取り出し、手紙をしつらえる。

それを矢に括り付け、自慢の弓で引き絞り、大海原へ向けて森林の中から射った。

 

 

「二大神……太陽神アポロン様と月女神アルテミス様の加護がありますように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アステリオスという英雄を喪ったカルデア一行。

 

彼らはその後も特異点内の海に浮かぶ島々を転々と巡りつつ、魔力リソースの回収をしたり

新たな戦力のスカウトを継続していた。残念ながら期待の戦力確保はならなかったが。

 

航海に次ぐ航海。不足していく物資。期待を裏切られるほんのわずかな失望感。

誰もが言葉にすることは避けてはいるものの、ドレイクが駆る『黄金の鹿』号の雰囲気は

どんよりと冷たく重いものに変わりつつあった。

 

そんな折、船員の一人が新たな島を発見。そちらへ向かう事となった。

 

 

「なぁ、カルデアのマスター殿。貴殿は、どちらだと思う?」

 

「俺は、アタリかな…」

 

 

甲板の縁から近付ていく島の輪郭を眺めながら、クマのヌイグルミと青年が会話する。

青年の名は藤丸立香。人理焼却に立ち向かう人類最後のマスターにして魔術師見習い。

ヌイグルミの真名はオリオン。夜空に瞬く三ツ星の狩人にしてギリシャ最優の美丈夫。

 

二人は島が見える度に「あの島に此方に味方するサーヴァントがいるか否か」をクジの

当たり外れにちなんで話していた。ちなみに、藤丸少年は毎回アタリと宣言している。

 

 

「そう思ってないとやってられないし」

 

「ははは。強いな、マスター殿は。我が身は、そうさな――」

 

 

藤丸少年の返事を聞き、今度は自身の考えを口にしようとしていたオリオンだったが、

つぶらな瞳を限界まで見開いて島の方角を睨む。直後、何かに気付き声を張り上げた。

 

 

「我が女神ッ‼」

 

「オッケー任せて!」

 

 

オリオンの叫びを聞いた全員が「敵襲か!?」と身構えたが、アルテミスがオリオンに応え

何らかの力を行使する。一瞬の静寂の後、アルテミスの脳天目掛けて矢が飛来してきた。

 

矢はアルテミスの眼前で何らかの力に阻まれ動きを止める。慌てて駆け寄るカルデア一行に

微笑みを向け無事を示したアルテミスは、縁で安堵の息を漏らすオリオンを抱き上げた。

 

 

「ダーリンのおかげね♡ ありがとダーリン~! 好き好き~!」

 

「いやあのホントそういうのはいいんで対応をですね…」

 

「うん! 分かってるわ、アルテミス頑張る! 襲撃犯を消滅させればいいのよね!」

 

「どうしてその答えに行き着くのか……ん? それはもしや、矢文では?」

 

 

やけに恐ろしい物言いで息巻いている女神に呆れかえっていると、オリオンは矢文に気付く。

彼の呟きによって同じく矢文の存在に気付いた月女神が結び目を解き、内容に目を通す。

しばらく目で文章を追っていくと、彼女は得心が言ったように笑顔になって何度も頷いた。

 

 

「アルテミスさん? 何が書かれていたんですか?」

 

「うふふ、知り合いからのお手紙だったわ。相変わらず堅苦しいの。見てみてダーリン」

 

「……コレは。騙りでなければ大きな戦力として期待できるが、ううむ」

 

「それにしてもホーント堅苦しいのは変わらないのねー。愛を知らないからかしら?」

 

「我が身は生前に出会っておらんので明言できんが、なんとなくイメージできる」

 

 

微笑みを浮かべたアルテミスがオリオンにも手紙を見せ、ヌイグルミの彼も首肯する。

どうやら敵意ある者からの警告の類ではないようだ。藤丸少年はホッと胸を撫で下ろす。

マシュは手紙の差出人がオリオンやアルテミスの知己という事実が気にかかり尋ねる。

 

 

「どちら様からの手紙だったのですか?」

 

「えっとね……あ。ねぇねぇダーリン、こういうのって言っちゃっていいのかな?」

 

「恐らく本人だと思うが。まぁ、本人確認が取れるまで明言は避けた方が良いだろう」

 

「オッケー。そんなわけでごめんねマシュちゃん。内緒ってことにしておいて」

 

「は、はぁ…」

 

 

徐々に島へ近付いていく一行は、一抹の不安を残したまま船を下り、上陸した。

 

通信で管制室に居るドクター・ロマンたちと連絡を取り合っていたカルデア一行は、

その島の沿岸部に近い森の外縁部にサーヴァント反応が集まっていると情報を得た。

 

面識があり、なおかつ相手に敵意が無いことを半ば確信している様子のアルテミスらに

先行させて森を進んでいく。その行軍の最中、アルテミスの豊満な胸の谷間に挟まっている

オリオンが、見上げるように月女神へ再度質問する。

 

 

「――今一度問うぞ、我が女神。本当に彼女と会うつもりか?」

 

「え、勿論。だって私をずっと慕ってくれてる狩人だし。あ、ダーリンは別枠ね!」

 

「そうか……そうかぁ……」

 

「オリオンさん。アルテミスさんが目的の人物と会うことに何か問題が?」

 

 

処置ナシ、とばかりに肩を落とすヌイグルミ。そんな彼に背後から問いかけるマシュ。

少女の疑問に、顔中のシワが寄せ集まったかのようなシワシワ顔でオリオンが答える。

 

 

「……いや、まぁ。問題と呼べるほどのものではないんだが。うん。

 貴殿らも未だ信じられないと思うが、この女神は純潔と狩猟を司るとされる女神でな。

 ギリシャ世界において、あらゆる婦女子の少女性を見守る姉のように崇められる存在

 とされているのだ。実際にはこんなんだが。我が身が不安に思う部分はそこでな…」

 

「やぁだもぅ…♡ ダーリンったら、みんなの前で純潔とか恥ずかしい…」

 

「どの口が言うんだどの口が」

 

「あ、でもでも! 純潔を捧げる際のシミュレーションはいつでもしてるからね!」

 

「誰も聞いていないんですがあの」

 

 

二人の夫婦漫才のような会話はその後も続き、それを通信越しに聞いていた管制室では

悲恋続きで最期には壮絶な死を遂げたオリオンの、伝説の続きがここに始まったのだと

密かに熱が高まっていた。ちなみにゲロ甘エピソードを乞われてもいないのに垂れ流す

アルテミスに、ダヴィンチちゃんが砂糖の塊を口から吐き出しそうだとコメントした。

 

無論、その場で聞かされているカルデア一行はその比ではない。

海賊の野郎共はあまりのゲロ甘ぶりに砂糖代わりに吐血し、「尊い」と漏らし失神。

耐性のある者たちは逆に彼女らのやり取りに呆れ返り、乾いた笑みを溢し続けた。

 

 

恋愛脳(スイーツ)過ぎる…。彼女が知ったら、ショックで卒倒するわよ」

 

「我が身もそれが不安で仕方ないのだ。雷光の女神よ、何か助言はありますか?」

 

「強く生きなさい、としか言えないでしょこんなの。私だったら耐えられないけど」

 

「………はぁ」

 

 

愛しのダーリンとのスウィートメモリーを延々と語り続ける月女神から離脱していた

ヌイグルミは、拾い上げたエウリュアレと語り合い、同時に嘆息する。救いはない。

 

そんなやり取りをしていると、一行の行く手に一本の矢が突き刺さった。

 

 

「待て!」

 

「うおっと! コイツぁいきなりなご挨拶だね。矢文を寄越したのはアンタかい!?」

 

「その通りだ!」

 

 

森の木々の間から、声はすれども姿は見えず。一行は木々を見上げて厳戒態勢を取る。

この付近は声の主の縄張りだろうか。などと藤丸少年が考えていると、声がまたも響く。

 

 

「汝らはアルゴノーツを敵とする者か!? それとも、既に諦め屈した者か‼」

 

 

威圧的な問いかけに、一行の視線が藤丸少年へ集中する。この旅の最高指揮権は彼に有る。

サーヴァントと契約を結ぶ楔の役割を果たすマスターが彼であり、彼の決断で方針が決まる。

マシュが固唾を飲んで見守る中、藤丸少年は震えそうになる声を静め、意気を込め答えた。

 

 

「……諦めてはいない」

 

「……いいだろう! 今、我が姿を見せる!」

 

 

こちらの思いが伝わったようで、声の主は木枝を軽々と跳躍し、眼前へと降り立った。

翠のドレスをまとい、獣のような耳と尻尾を揺らす自然を体現したかのような女性の英霊。

そんな彼女の姿に、藤丸少年とマシュの二人は見覚えがあった。

 

 

「貴女は……アタランテ、でよろしかったですか?」

 

「ああ。我が真名()はアタランテ。女神アルテミス様に仕えし狩人である。

 先程は試すような問いかけをして済まなんだ。分かってはいたが、念の為にな」

 

「あの時のアタランテ、とは違うのかな。やっぱり」

 

 

そう。藤丸少年とマシュは、このアタランテという英霊と一度出会っている。

残念なことに心強い味方としてではなく、こちらの命を狙いに来る敵方の刺客としてだが。

 

英霊とは基本的に召喚される度に記憶はリセットされる。その為、余程の事が無い限りは

記憶を継承していることはあり得ない。そう思っていた藤丸少年だったが、答えは違った。

 

 

「ああ、いや。フランスの特異点での出来事はおぼろげながらに覚えている。

 あの時は狂化されていたが、今回は通常のアーチャーとして召喚されているのだ。

 聖杯の力で傀儡と化していた身で言うのも烏滸がましいだろうが、許してもらいたい」

 

「ううん。大丈夫」

 

「はい。私たちは特異点を乗り越え、今こうして立つことが出来ています」

 

「……そうか。ありがとう。吾らは一応、汝たちの味方側という認識で構わない」

 

 

かつては敵対していた英霊でも、こうして味方になってくれることもある。

それを実感した藤丸少年たちはひとまず安心し、仮契約のパスをアタランテと結ぶ。

 

 

「私はマシュ・キリエライト。シールダーのデミ・サーヴァントです。

 こちらが私たちのマスターである藤丸立香、船のキャプテンのフランシス・ドレイクさん。

 旅に同行していただいているエウリュアレさんに、人畜無害なフォウさん」

 

「ふむ。よろしく頼む」

 

「それと……アルテミスさんと、ヌイグルミのオリオンさんです」

 

「やっほー♪」

 

「………不肖、オリオンだ」

 

 

名実ともにカルデア一行側のサーヴァントとなったアタランテに、仲間を紹介するマシュ。

一人ずつ名前を伝えていく中で、問題視されていた月女神と狩人の二人に行き着く。

 

すると二人の名を聞いたアタランテはきょとん、と表情を変え、マシュに尋ね返す。

 

 

「気のせいか、今しがた有り得ぬ名前を耳にしたのだが…済まない、もう一度言ってくれ」

 

「えぇっと…その、アルテミスさんと、ヌイグルミのオリオンさん、です」

 

「マシュ、だったか? 冗談はやめてもらおう。アルテミス様は狩猟と純潔を司る女神。

 間違ってもサーヴァントとして召喚される事にはなるまい。オリュンポス十二神だぞ」

 

 

自信満々に、「何を言っているんだお前は」という顔でマシュを見つめ返すアタランテ。

悲しいかな。アタランテの言葉は正論であり、通常であれば誰もが首肯する内容だった。

 

だが、此処に例外が存在する(Fateじゃ例外は常識)。

 

 

「ねぇダーリン、アタランテが信じてくれないわ。どうしよう」

 

「どうもこうもあるまいよ」

 

「別にいいじゃない、純潔の女神が愛に生きたって。ねぇ?」

 

「……ノーコメント」

 

「愛があれば常識なんて関係ないわよ。ダーリンの為なら例え火の中水の中ってね。

 それどころか抑止力が干渉する人理の異常事態にだって首突っ込んじゃうんだから!」

 

「ノーコメントだ」

 

 

ああ、哀れアタランテ。彼女が信奉した相手は、恋愛脳のおバカ系女神だったのだ。

 

おまけにそんな彼女が抱き締めて会話しているヌイグルミの方は、オリオンだという。

アルテミスの人格にも衝撃を受けたが、アタランテはオリオンの方にも衝撃を受けた。

 

 

「………え? 本当?」

 

「本当よ、アタランテ。何を隠そうこの私こそ、恋に目覚め、ただ一つの愛に生きる。

 そんなウルトラグレート素敵カッコイイパーフェクト女神、アルテミスなのよん」

 

「…で、では、そちらの愛らしくも勇ましい熊を模した人形は、本当に…?」

 

「あら、流石私の信者! 目の付け所がいいわね! 今はこんなヌイグルミだけど、

 本当は世界の誰よりもカッコイイ、マイダーリンのオリオンです! イェ~イ♪」

 

「…………………ぁ」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

数千年越しに突き付けられた残酷な現実が、眩暈となってアタランテを襲う。

白目を剥きながら額を手の甲で押さえ倒れかける彼女をマシュが支え、事なきを得た。

 

とっさに助けてくれたマシュに礼を言いつつ起き上がったアタランテは顔を歪ませ呟く。

 

 

「ふ、ふふふ。案ずるな、無様を晒したがこれでも幾度か聖杯戦争を経験した身だ。

 私の精神も多少は鍛えられている……い、今更自分が信仰していたのが恋愛脳(スイーツ)

 だからといって倒れたりするものか……っ! 割り切れ、悪夢だと割り切れ……!」

 

「足がガクガクと、まるで生まれたての小鹿のよう。想定以上のダメージみたいね」

 

「も、もも、問題ない…! 憧れだった御方が恋愛脳女神の愛玩人形にされていようが

 気にしない事とする…! イヤやっぱり無理気になる…っ! オリオン様がそんな…!」

 

「オリオン様……?」

 

「何なのだあの毛並みと体躯は…!? 胸の奥から愛おしさが滾々と込み上げてくる…!

 わ、吾がただの小娘だったら耐えられなかった……狩人だったから耐えることができた!

 吾は屈しない! あのもふもふに! あのふわふわに! あの凛々しさと愛らしさに…!」

 

「フォウフォ……(いったい彼女は何と戦っているんだ)」

 

 

今にも膝を折りそうな様子のアタランテを不安げに見つめる一行だったが、どうやら回復

したようだ。荒い息をどうにか整えながら、アタランテはカルデアに情報をもたらす。

 

 

「……話の腰を折ったな。ともかく、汝らに紹介したいサーヴァントが後二人いる」

 

『さっきから反応が捕捉されてた二人だね。それも君の仲間かな?』

 

「仲間、と呼べるかどうか。だが吾の意に賛同し、アルゴノーツと敵対する意思を持つ。

 それに誤りはない。内一人の方は、『契約の箱(アーク)』を所持するサーヴァントだしな」

 

「アーク…!? それはつまり、アルゴノーツが……イアソンが求めているモノ!?」

 

「ああ。吾らは共にこのアークを死守せねばならない」

 

 

アタランテの口から飛び出した、アークという単語。

カルデアはこの言葉を、敵対勢力にして特異点の歪みの元凶となる聖杯を所持していると

思しき英雄船団アルゴノーツの船長イアソンが口にしたのを耳にしていたのだ。

 

その記憶を頼りに事の重大性を再認識した藤丸少年。すると突然、背筋に悪寒が奔る。

 

ぞくぞく、ぞくっ。体感温度が一気に下がったような感覚を味わい、息を呑む。

どうやら仲間たちも同じような現象を体感したようだ。解いていた警戒態勢が復活していた。

 

周囲を警戒し出していると、管制室に居るロマンから通信が届く。

 

 

『こちら管制室! いまそっちにサーヴァントが一騎向かっている!』

 

「マスター、こちらに!」

 

『まもなく接敵する、警戒を怠らないでくれ!』

 

 

ドクターの言葉に従うように、ドレイクは藤丸少年を背に庇うようにして銃を抜く。

エウリュアレも非力ではあるものの、まったく無抵抗で終わるつもりはないようだ。

 

銃口と鏃の先端を向け、いつでも撃ち抜けるよう構える二人。

 

ガサガサと大きくなる音。草木を掻き分ける音が、対象の接近を伝える。

そしてついに草陰の中から姿を現した第三者。その姿に、場の誰もが息を呑む。

 

 

「……ぁ…ぁあ。よう、やく……あえた。会えた。逢えた。ああ、ああ!」

 

 

森の奥から現れたのは、痩せ細った状態の不気味な老婆だったからだ。

 

 

「お、おお、オリオン、さま。ここに。此処に。いる。此処に、いる。我が眼の、前に」

 

 

老婆が狂ったように滅茶苦茶な並べ方で言葉を紡ぐ。しわがれた老婆は、這うようにして

カルデア一行の前に辿り着き、ただ一心に―――アルテミスが抱くヌイグルミを見つめる。

 

 

「ああ、おお。わが、我が君。やっと、やっと……ぁあ。オリオンさま…」

 

 

老婆は掠れた声でその名を呼ぶ。壊れた機械のように、何度も何度も呼び続ける。

 

それを聞いた当のオリオンは、訝しむように老婆を見て、ふと気付いたように呟く。

 

 

「其方は、もしや……メロペー姫、なのか!?」

 

 

 

 









いかがだったでしょうか?


ここから本編とは少し違った展開になるかも。
いやならないかも。実質メロペー分くらいか。

彼女のステータスがみたいという人がいれば、
感想欄でコメントをいただければお見せします。

番外のおまけでオリオンと合わせて書くかも。


それでは次回をお楽しみに!

ご意見ご感想、並びに批評などお気軽にどうぞ!


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