もしも、オリオンがクソ真面目な堅物だったら   作:萃夢想天

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どうも皆様、萃夢想天です。
コロナが未だ猛威をふるい続ける中、いかがお過ごしでしょうか。

まさかの水着復刻が五月という異常事態。
加えて積もる仕事とコロナの事後処理に追われていたら
いつのまにやら二部六章が完結している始末。

投稿が遅い私ですが、なんとかこのオリオンは第二部五章まで
書ききるつもりではいますので、何卒お付き合いください。


それでは、どうぞ!





第三特異点オケアノス編・その4

 

オリオンの呟きに「信じられない」という驚愕が含まれていることに気付く者はいなかった。

何故なら、この場にいた誰もがオリオンの告げた真名に心当たりがあったからだ。

 

カルデアのデータベースから逐一情報を拾い集めているDr.ロマンがそれを証明する。

 

 

『メロペー姫って……えぇ⁉ それって、オリオンの伝説に登場するあのメロペーかい⁉』

 

「うぅむ……あの、とは何を指すか不明瞭だが、恐らく想像している人物に間違いない」

 

『わぁお♪ だとすると、今まさにその場所は数十世紀ぶりに超ホットな修羅場なわけだ』

 

『何言ってるんだレオナルド! ストーカーの被害者と加害者が最悪のご対面してるのに

 不謹慎にもほどがある! 他人の恋愛話に茶々を入れるほど恨みを買うものはないぞ!』

 

『ふーん………本音は?』

 

『神話の続きが見られるなんて生きててよかった…じゃなくて!』

 

 

通信礼装越しにコントのようなやり取りを繰り広げるカルデア二大ブレーンはさておき。

カルデア一行が茂みを掻き分けて現れた老婆の英霊の真名を考察していると、また一つ

大きな溜息を吐いて項垂れたアタランテが彼女の正体を明かした。

 

 

「……汝らの推察通り、こちらの御老体の真名はメロペー。オリオン様の伝説に登場する

 キオス島王オイノピオーンが娘にして、魔術神ヘカテーを信奉する魔術師の英霊だ」

 

「魔術師、ねぇ……どうも呪い師ってよりかは魔女ってな感じがするけどね」

 

「あながち間違いでもなかろう。事実、彼女は()()()()()()()()()としての側面が強い」

 

「そういった類のモノ、ですか?」

 

 

女狩人の言葉を繰り返すマシュ。顔の上半分を白い仮面で覆った痩躯の老婆に忌避するような

眼差しを向けて揶揄するドレイクの言葉を藤丸少年が窘めようとするも、話が続けられる。

 

 

「そうだ。汝ら、このメロペーという女の来歴を詳しく知っているか?」

 

「私はカルデアのアーカイブに目を通していますので、ある程度高名な伝説は一通り……。

 マスターはいかがですか? 三ツ星の伝説に登場する『狂姫』メロペーについての知識は」

 

「えっと……オリオンの名前ぐらいしか知らないや」

 

『おや、なんだい。それじゃ、通信越し短縮版のダヴィンチちゃん英霊講座といこう!』

 

 

人類最後のマスターという大層な看板を背負っていても、元々は日本の一般家庭出身。

世に溢れている以上に踏み込んだ情報など保有しているはずも無い。まして魔術も絡むと

なれば無知にも等しい。そんな彼をフォローすべく、ダヴィンチが意気揚々と語り出す。

 

 

『古代ギリシャにおいて最も有名と言っても過言ではない【三ツ星(トライスター)の狩人オリオン】の

 伝説における主要人物の一人。狩人オリオンに熱狂的な恋をする少女にして、王の一人娘。

 加えて()()()()()()()()()()()と呼ばれる【白仮面の老婆】の正体とされる人物』

 

「あ、それ聞いたことある! なんか海外のホラー小説とかでめっちゃ有名なやつだ!」

 

『ああ。ギリシャを中心に、世界各国で似たようなホラーテイストの情報媒体が製作されてる。

 小説、映画、テレビ番組……世界最古のホラーとの名を冠する白い仮面をつけた老婆の伝承。

 それこそ、このメロペー姫ではないかというのが通説なんだけど、まぁぶっちゃけ正解さ』

 

「なんだっけ。怖くて見てないけど、映画だと……」

 

『あらすじ程度に概要を話すと、海辺の町に暮らす青年の行く先々で、白い仮面をつけた老婆が

 現れては『此処にいた』と告げ忽然と姿を消す等、予兆もなく現れては消える神出鬼没さが

 売りのパニック・ホラーテイストの映画が公開されたね。小説とかでも題材にされてる』

 

「じゃあ、ホラー映画の元ネタの英霊ってこと?」

 

『雑ーく緩ーくまとめるとそうなるかな』

 

 

軽い口調で短く来歴をまとめたダヴィンチちゃんは、そこで間を置き、小さく呟く。

 

 

『……だからこそ気掛かりだ。彼女は人類史に貢献したり、伝説を打ち立てた英雄じゃない。

 どちらかと言えば、その在り方を後世に歪められて恐怖の象徴として民衆の心に刻まれた、

 【反英雄】の立ち位置に近しい存在だ。ワラキア国王にして護国の将、ヴラド三世のような』

 

「ヴラド三世って、確か吸血鬼ドラキュラのモデルになった英雄だよね…?」

 

「はい。そして、我々がフランスの特異点で敵対したサーヴァントでもあります」

 

 

藤丸少年とマシュは第一の特異点で相対した、ある英霊の存在を思い出す。

 

国を侵略者から守る為、悪魔すら恐れる手法を取った守護の鬼。

『串刺し公』ことヴラド三世。彼も後世の人々に在り方を歪められた悲しき英霊だ。

 

具体的な前例がある事で、藤丸少年は目の前の老婆への見方を変える。

 

 

「そんな人が、英霊として召喚された……」

 

『ああ。つまり、彼女もまた、反英雄にカテゴライズされる英霊じゃないかな。

 本人の性質はともかく、人類史に刻まれたのは『人々を恐怖させた伝承』の側面を持った

 彼女なんだろう。改めて、人理焼却の影響の大きさを垣間見た気がするよ』

 

 

ダヴィンチちゃんが敢えて言い澱んだ部分を、マシュも藤丸少年も理解できていた。

 

初めは、ただの恋する少女でしかなかった。伝説の英雄に恋い焦がれる登場人物の一人。

オリオンという三ツ星を彩る輝きの一点。だが、焼却された人理はそんな者にすら縋った。

 

恋実らず絶望の中で生き続け老いた彼女へ、人々がその死後に勝手に抱いた恐怖によって

異なる側面を焼き付けてしまった。ただの乙女は亡く、居るのは怪異と化した異形の老婆。

このような悍ましい行いを許容する人理の断末魔に、藤丸少年は底知れぬ嫌悪を覚える。

 

 

「………ダーリン?」

 

 

けれど、藤丸少年は失念していた。

 

当事者ですらない一般人の自分ですら、これほどの感情を抱くのだ。

それが当事者であれば、さらに深く大きい絶望になることを。

 

 

「―――俺の、せいなのか」

 

 

アルテミスに抱かれていたはずのオリオンは、いつの間にか地に降り立っていた。

よたよた、と。支えが無ければ立ち歩くこともできない赤子の様な覚束ない足取りで。

ヌイグルミと化しているその姿からは想像もつかぬほど、大きな悲哀と慟哭をまとって。

 

オリオンは、譫言のようにまた呟く。

 

 

「俺のせいで、君が、そんな……」

 

 

自信に満ち溢れる最強の狩人たる彼の姿は、見る影もない。

己が犯した過ちに震えて怯える、幼子のような彼の姿を誰もが黙して見つめる。

 

藤丸少年も、マシュも。此処にいる全ての者はオリオンを擁護するだろう。

「それは違う」「貴方のせいじゃない」「貴方に非はない」などと。

だが、彼はそれを受け入れない。過ちを背負い込む自責の念が強過ぎるが故に。

 

 

「あぁ、ああ…! ()()()()()……!」

 

 

足を踏み出す毎に言葉から覇気が失われていくオリオン。

エウリュアレは痛々しさから眼を逸らし、海賊たちも口を噤んで黙するばかり。

誰も動けなかった。オリオンの悲痛さを、見ている事しかできなかった。

 

……ただ一人を除いて。

 

 

「ダーリン」

 

 

白磁の髪を靡かせる麗しき女神が、悲壮に顔を歪めるオリオンを抱き上げる。

声すら出せなくなっていた彼を慈しむように抱えた彼女は、諭すように言った。

 

 

「ダーリンのせいじゃないよ。この人がこうなっちゃったのは」

 

「だ、だがっ…!」

 

「じゃあダーリンがこの人がこうなるように何かしたわけ?」

 

「そ、れは――」

 

 

オリオンに聖母の如き笑みを向けるアルテミス。

彼女の言葉は無垢で純真であるが故、核心を突いたものとなる。

 

実際、オリオンがメロペーをこのような姿に変えたわけではない。

自分が関わったせいでこうなった、というのはオリオン自身の思い込みだ。

それを一言で気付かせる。腐っても女神なのだと同行した面々は安心する。

 

 

「ならダーリンが思いつめなくってもいいのよ。ほら、笑って!」

 

「ぷぐぉ。わ、我が女神、苦じぃ」

 

「えへへ。ほっぺぷにぷに~!」

 

 

それどころか、気付けばあっという間に二人だけの世界に突入。

悲しみと喜びの温度差が激し過ぎて同行した海賊の情緒が崩壊しかける。

 

オリオンから目を逸らしていたエウリュアレの表情筋は死に至り、

ドレイクは「見直したアタシが馬鹿だった」と言わんばかりの三白眼に。

現場をモニターしている管制室のカルデアスタッフの作業の手が止まる。

 

 

「―――(フラッ)」

 

「アタランテさん!」

 

 

通信越しでこの破壊力。信奉者であればそのダメージは計り知れない。

額に手の甲を当てて崩れ落ちる女狩人を、マシュが慌てて助け起こす。

 

 

「すまない……すまない…」

 

「お気を確かに!」

 

「いやなんでこうなるんだ本当にもう勘弁してお願いだから」

 

「アタランテさん!」

 

 

口早に弱音を吐き出し始めた彼女を揺さぶって正気に戻そうと試みる。

一瞬でカオスに逆戻りした場で意識を保つ藤丸少年を援護するように、

ブラックコーヒーを流し込み続けていたドクター・ロマンが叫んだ。

 

 

『藤丸君! メロペーが来た方向から、別のサーヴァントの反応だ!』

 

「っ!」

 

『さっきアタランテが言ってた、もう一人の仲間かもしれないけど…』

 

「用心します! マシュ! みんな!」

 

 

付近を監視し続けていたロマンの焦った様子に、シリアスを取り戻す。

即座に臨戦態勢を整えた面々だったが、立ち直ったアタランテが手で制する。

 

 

「大丈夫だ。心配ない」

 

 

落ち着かせるようにゆっくりと語るアタランテを不安げに見つめる。

今、一番落ち着かなきゃいけないのは貴方では。そんな思いのこもった眼を

向けられながらも気丈に立ち上がった彼女は、凛々しい佇まいで告げた。

 

 

「こちらに向かって来ているのは、『契約の箱(アーク)』を持つサーヴァント。

 要するに、アルゴノーツ……イアソンが求めている男だ」

 

「あ、『契約の箱(アーク)』を所有している男性……つまり」

 

「そうだ。この海域において最初に召喚された英霊―――」

 

 

生い茂る草木を掻き分けながら近付いてくる存在に、注目が集まる。

誰もが緊張と不安を抱く中、ついにその姿を現した。

 

 

「やぁ。待ちくたびれたよ、君たち」

 

 

藤丸少年たちの前に姿を見せたのは、いかにも親しみやすそうな好青年。

若々しい新緑色の髪に、どこか彫刻や芸術品めいた並々ならぬ美貌。

均整の取れた身体を、長閑で牧歌的な衣装で包んでいる。

 

やけに馴れ馴れしい口調で、青年は名を名乗る。

 

 

「僕の真名()は【ダビデ】――古代イスラエルの王様さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たに味方に加わったサーヴァント、ダビデ。

彼の口から、契約の箱(アーク)と呼ばれるものについての説明が成される。

 

 

「アレは宝具としては三流でね。触れさせれば、その対象は死ぬ。それだけ」

 

「死っ……」

 

 

何でもない事のように告げられた言葉に、藤丸少年が顔を引きつらせる。

人理焼却に巻き込まれるまで魔術の存在すら知らなかった一般人からすれば、

触っただけで死に至る箱など、それこそB級映画でしか有り得ない代物だろう。

 

 

「正確には僕の所有物と言うわけでもないから、悪用も出来ちゃうだろう。

 アレは神が人類に与えた契約書、みたいなものなのさ」

 

「確か、十戒が封入されているのですよね?」

 

「そーだよ。良く知ってるね。、あぁ。容易に奪えるものでもないけれど、

 奪われないわけでもない。まして奪われてしまったら、それこそ最悪だ」

 

 

触れたら命を奪う契約の箱。確かに奪うことは難解だが不可能ではない。

まして、宝具としてダビデが正式に所有しているわけでもないらしい。

つまり、一度奪ってしまえば、所有者や資格など気にせず使用は可能なのだ。

 

頭の痛い事実を知り、表情に暗雲を立ち込めさせるカルデア一行。

 

 

「ともかく……アタランテから、イアソンが『契約の箱(アーク)』を狙っていると聞かされた僕は、彼女と森に隠れて機を窺ってたんだ」

 

「その折に、森を彷徨っていたメロペーを発見した。バーサーカーと見紛う状態故、念の為という事で同行している」

 

 

ダビデとアタランテの話を聞いた藤丸少年たちは、顔を上げる。

 

 

「吾はアルゴノーツの乗組員としての縁で召喚されたが、ヘラクレスのように意識を奪われることは無かった。不幸中の幸い、と言えよう」

 

「それは、何故ですか?」

 

「……元々、生前からイアソンを嫌っていたおかげか。

 あるいは『単独行動』スキルを得る【弓兵(アーチャー)】として召喚された為か」

 

「どちらにせよ、運が良かったわね」

 

「ああ。その時から既にヤツは『契約の箱(アーク)』を求めていた。それがあればこの海域の王になれると公言して憚らなかった」

 

 

アルゴノーツの逸話を知る者からしたら、アタランテの行いは立派な反逆。

かつて共に戦った仲間を裏切るものであるが、それを咎める言葉は無かった。

それだけでイアソンという男の底が知れるというものであろう。

 

 

「つまり、『契約の箱(アーク)』は王たる証のようなものでしょうか?」

 

「まさか。これはあくまで、王だった僕が神へと捧げた聖遺物というだけ。

 王の証明にはならない。単純に、王たる者が所有している物ってぐらいさ」

 

 

マシュの懸念をそよ風の様な軽口で笑い飛ばすダビデ。

そんな彼に、黙って話を窺っていたエウリュアレが尋ねる。

 

 

「もし、私がその『契約の箱(アーク)』に捧げられたらどうなるの?」

 

「うーん。多分、この時代そのものが『死ぬ』だろうね」

 

「えぇっ!?」

 

 

エウリュアレの仮定を、ダビデは驚いた様子もなく肯定し、断定する。

時代が死ぬ。あまりのスケールの大きさに藤丸少年は声を荒げた。

 

青白いホログラムに映るドクター・ロマンは溜息と共に頷いてみせる。

 

 

『はぁ……やっぱりか』

 

「やっぱり? おい優男、やっぱりってのはどういう事だい?」

 

「――僕が話すよ」

 

 

何故かダビデの言葉を知っていたかのように疑いもしないロマンに食って掛かるドレイク。ところが、彼女の追撃を遮ってダビデが続けた。

 

 

「この『契約の箱(アーク)』はあらゆる存在に死をもたらすもの。

 どれほど低ランクであろうと、神に定義される質量を持った魂が生贄に捧げられたのなら。端的に言えば、暴走すると思うんだ」

 

「思うんだって…」

 

「だってやったことないし。けど、なんとなく分かるんだ。

 神が死ぬ。即ち、世界の死に繋がる。元々この箱があったのはそういう時代だったんだ。どこもおかしくはないだろう?」

 

「それは、そうですね」

 

「此処が真っ当な世界ならせいぜい周囲一帯の崩壊程度で済んだろうけど。

 本来なら存在しない歴史上の空白。あやふやな場所だろう?」

 

「はい。特異点は人類史のターニングポイントに発生した矛盾点ですので」

 

「じゃあ耐えられないな。人理の定礎が曖昧になっている今、勝手に崩壊が始まっているだろうけど、それを待つまでもなくこの時代は消滅する」

 

 

言い切ってみせたダビデ。カルデア一行の重々しい空気は晴れない。

相手は世界を滅ぼすつもりなのだと、そんな連中と戦わねばならないのだと。

現実感を伴って襲い来る重圧に、藤丸少年の精神が音を立てずに軋み出す。

 

そんな彼の横で、マシュは眉根を寄せたまま素朴な疑問を唱える。

 

 

「……イアソン船長は何故、そこまで世界を滅ぼしたがるのでしょう」

 

 

彼女の呟くような問いに、一行は目を見開く。

 

言われてみればそうだ。彼らの「世界を滅ぼす」動機とは何か。

いったい何があれば、世界を滅ぼすという結論に至ってしまえるのか。

 

純粋に気にかけているマシュに、敵をよく知る女狩人は淡々と答えた。

 

 

「さぁ。いや、もしかすると、ヤツ自身も知らないのかもな」

 

「え?」

 

「エウリュアレを『契約の箱(アーク)』へ捧げれば、自分は王になれる。

 などと、誰かに言い含められているのかもしれない。ふとそう思った」

 

 

アタランテの言葉を聞いても、藤丸少年は素直に納得できなかった。

誰かに唆されて、世界を滅ぼすことが王になれることだと勘違いする。

そんなの信じられるだろうか。首を傾げる彼の足元から渋い声が響く。

 

 

「有り得ない話ではないな」

 

「オリオンさ――オリオン。汝もそう思うか」

 

「ああ。マスターはどうも得心がいかぬようだが」

 

 

藤丸少年の足元で、組めそうで組めないふわふわのお手てを持て余すファンシーなクマのヌイグルミがアタランテの言葉を擁護していた。

 

 

「あれ? アルテミスと、その、メロペーさんは?」

 

「………向こうで我が身をめぐり取っ組み合いを始めたのでな」

 

「あぁ、はい」

 

「その気遣いが今は何より喜ばしい」

 

 

腕を組む姿勢を諦め、両手をぶら下げたままオリオンは語りだす。

 

 

「我が身も英霊となってから彼奴……イアソンの逸話を知ったのだが。

 あの男はギリシャ中の英雄豪傑を束ね、まとめ上げた英雄船団の長。

 しかしながらそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「どういうこと?」

 

「あぁ、なるほど。汝の言わんとするところ、読めたぞ」

 

「要するに――奴は()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ」

 

 

その言葉を聞いて、藤丸少年と海賊以外の面々は何かに気付いたようだ。

管制室からダヴィンチちゃんの声が届き、オリオンの言葉に指摘を入れる。

 

 

『んー、そうかな? 伝説だとイアソンの父アイソンは、異父兄弟である

 ぺリアスに王位を簒奪された。息子であるイアソンは自身が正当な王位の後継者であるとして返却を要求した、とあるけれど?』

 

「ああ。伝説ではそうなっているな」

 

『と言うと?』

 

「相対してみてよく分かった。相当に追い詰められなければ天性の才を発揮出来ないあの男が、父から王位を奪った者に『返せ』などと言えたものか」

 

『あー……』

 

 

ここで、藤丸少年もオリオンの言いたいことを何となく察した。

目の前でアタランテが無言のしかめっ面で首肯しているのがその証拠だ。

 

 

「恐らく、奴自身が王位返却を求めてはいまい。仮にも先王の息子だからな、従う者もゼロではあるまい。そうした者を代理人として立てたに違いない」

 

『なるほど。部下を矢面に立たせて、内心の愚痴を代弁してもらったわけか』

 

「……後は史実通りだ。ぺリアスは黄金の羊毛を条件に王位返却を約束した。

 イアソンは、王になれると唆されたからなろうとした。我が身の考えではな」

 

 

アタランテが音を立てぬまま「よくぞ言った」と言わんばかりに拍手し始める。

呆れ顔でその様子を見つめたカルデア一行は、気を引き締め決意を固めた。

 

 

「とにかく、彼らが『契約の箱(アーク)』を狙う理由と、それを絶対に止めなければならない理由の双方がハッキリしましたね、マスター」

 

「そうだね」

 

「後は、どうやって彼らアルゴノーツを倒すのか、ですが……」

 

 

議論は巡って、最終的に同じ場所へ着陸するものである。

マシュは縋るような気持ちでダビデへ尋ねた。

 

 

「ところでダビデ王。貴方のクラスはアーチャー、でしょうか?」

 

「王なんてつけなくていいよ。そうとも。僕はアーチャークラスの英霊さ。

 あ、こちらのアタランテも同じだよ。メロペーはまさかのキャスターだけど」

 

「なんだかアステリオスよりバーサーカーってやつに見えるんだけどねぇ」

 

「……見事に偏っていますね。アーチャーが四人、キャスターが一人、シールダーの私、そしてドレイクさん。戦力的にはやはり不利かと」

 

 

彼我の戦力差を正しく把握できるマシュだからこそ、表情が曇る。

麗しき女狩人アタランテと、男性を魅了する愛の神霊エウリュアレを除き、ヘラヘラと軽薄なダビデに型落ち神霊アルテミスとヌイグルミのオリオン。

更にはそんな月女神と狩人には特大の地雷たる意思疎通不可能なメロペー。

 

こんなん詰みですやん。とんだクソゲーだな人理修復。

 

思わず肩を落とすカルデア一行に、アタランテは思いがけない言葉をかけた。

 

 

「敵はヘラクレス、メディア、そしてヘクトールの三騎と考えればいい。

 イアソンは戦力に数える必要もない」

 

「それはどうして?」

 

「弱い。戦ったことなど生前は一度もない。奴にあるのは弁舌と虚勢(カリスマ)のみ。

 英雄共を編成した知の怪物ではあるが、当人の戦闘能力は凡夫以下だ」

 

「そ、そうなんだ」

 

 

かつての乗組員にここまでボロカスに言われる船長がいるのだろうか。

僅かな同情を覚える藤丸少年だったが、顔をしかめた女狩人に気付く。

 

 

「だが、役立たずが一人いようが何の問題にもならん」

 

「……まぁ、あっちにはヘラクレスがいるんだもんね」

 

 

アタランテとダビデの告げた名が、何より重くのしかかる。

 

 

「宝具『十二の試練(ゴッド・ハンド)』による、自動発動の重複蘇生。

 何より狂化していようと、衰える事のない卓越した戦闘技能……」

 

「比べて此方は、中から遠距離にかけて本領を発揮する英霊が多い。

 白兵戦をマシュ、君一人に担わせるのは余りに酷というものだ」

 

 

オリオンは敢えて名前を出さなかったが、誰もが痛感していた。

あのヘラクレスを抑えられる唯一の戦力であった、アステリオスの欠員。

喪って改めて知る彼の心強さ。藤丸少年もマシュも、噛み締めていた。

 

 

「幸いにも『契約の箱(アーク)』は此方にある。ならば籠城戦はどうか。

 アタランテ殿。付近にそうした、守りながら戦える拠点らしき場所は?」

 

「ありません。この島にあるのは、狭く低い異教の地下墓地(カタコンベ)ぐらいです」

 

「我ら狩人ならば、森林での遅滞戦闘なぞいくらでも出来るが…」

 

「もっとも、砦や城塞があったとしてもヘラクレスの攻撃に耐え得るか」

 

「………厄介だな、大英雄というやつは」

 

 

あーでもない、こーでもないと皆が顔を突き合わせ唸る。

意見を出そうが最後には「ヘラクレスには通じなくない?」で議論は終わる。

反則級の強さを振りかざすギリシャ最強の存在に、英霊ですら頭を抱えた。

 

そんな中で、ただ一人凡人である藤丸少年が、閃く。

 

 

「――思いついた」

 

 

彼は自分の脳裏に浮かんだ策を、臆することなく伝える。

 

 

「は、い……?」

 

 

その内容に全身が硬直するマシュ。だが、残る者たちの反応は違った。

 

 

「ははぁ。いいね、いいねぇ! いいじゃないか!

 さっすがアタシの見込んだ男だよ! そうでなくちゃねぇ!」

 

「うん。妥当な作戦じゃないか。サーヴァントだけじゃなく、君自身も命を賭けることになるけど。まぁ、人生はそういう博打の連続みたいなものだし」

 

「命を賭ければ勝ち目が出る、なんて思い上がってはいないでしょうね?

 これはギャンブルですらない。失敗すれば何もかも御破算になるのよ?」

 

 

海賊たちは少年の勇気を持て囃し、ドレイクは豪快な笑みを浮かべ彼の背を叩く。

ダビデは変わらぬ軽薄さで命の駆け引きを認め、エウリュアレは作戦を悲観する。

 

そして、藤丸少年の視線は足元へ向かう。

 

 

「……ヘラクレスは数多無数の英霊の中で、五本の指に入る超級の存在だ。

 いかに【狂戦士(バーサーカー)】とはいえど、知性理性が欠けているとは思えん」

 

「オリオンもそう思う?」

 

「ああ。実際、アステリオスと戦っていた時も狙いはエウリュアレだった。

 イアソンの捕獲と言う命令を完全に実行できていたとまでは言い切れないが」

 

 

誰よりも冷静な思考を保つオリオンの言葉に、作戦成功への懸念が示される。

それでも、彼が提唱した作戦以外にこれだ、と思わせるものがないのも事実。

 

 

「デカブツはどうしたってこっちに向かってくるんだ、構やしないさ。

 読めないのはイアソンの野郎さ。どんな臆病風を吹かすか分かったもんじゃない」

 

「……あの男は確かに臆病だが、それ以上にヘラクレスへの絶対的な信頼がある。

 イアソンは彼の作戦通りに動くはずだ。この吾が保証しよう」

 

「僕もこの作戦に乗るよ。なぁに、賭け金は全員平等なんだもの。

 誰か一人でも生き延びて最後の勝利を総取りしてくれたらそれでいい」

 

 

ドレイク、アタランテ、ダビデが藤丸少年の作戦を承諾する。

毛糸の眉をふにゅりと寄せて、オリオンは策に乗るかを熟考し始めた。

 

すると、背後の茂みから唐突にアルテミスが飛び出し、オリオンを掻っ攫う。

 

 

「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛‼‼ た゛あ゛あ゛あ゛り゛い゛い゛ん゛‼‼」

 

 

風圧で周囲の木々が揺らいだが、それより「ぐびゅっ」と水風船が潰されたような

音を漏らして消えたオリオンの安否が気がかりだ。恐らく無事ではあるまい。

 

 

「なんだい!? 敵襲かい!?」

 

「………そうだったらマシだったでしょうね」

 

「(フッ――)」

 

「アタランテさん! お気を確かに!」

 

 

突然の事態に慌ててピストルを抜くドレイクと、表情筋の死滅したエウリュアレ。

崩れ落ちる動作が洗練されつつあるアタランテに、救助へ移るタイムラグが短縮されてきたマシュ。一瞬で混沌とした場を生み出すことに定評でもあるんか女神(おまえ)

 

幾つかの木や枝を薙ぎ倒しながら突貫してきたアルテミスの無様な鳴き声が響く

場所まで一行が向かうと、そこにはヌイグルミを抱いて咽び泣く月女神の姿が。

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

「……え? 僕が聞くしかない感じかな、コレ」

 

 

無言の首肯が五人分。加えてホログラムからも沈黙の圧が。

 

目を閉じ、いつもの「まぁ何とかなるさ」と楽観したダビデがアルテミスへ尋ねる。

 

 

「やぁ。その、何かあったのかな?」

 

 

爽やかな好青年ぶりを前面に押し出しての問いかけに、月女神は無反応。

ヌイグルミに鼻水や涙諸共に顔を押し付け、ぶわぶわと泣き続けるばかり。

 

数分後、何もかもを諦めたように平坦な表情になったオリオンが口を開いた。

 

 

「……我らがアルゴノーツへの対策を話し合っていた最中、二人は森の中でどちらがより我が身を愛しているかで口論になったのだそうだ。だそうだ」

 

「オリオンさん…」

 

「それをよりによって自分で言わなきゃいけないこの状況が一番の痛苦よね」

 

「エウリュアレ、惨いよ」

 

「語尾を連呼するほど壊れ(バグっ)ているんだもの。言ってやるのも情けだわ」

 

「かたじけない………」

 

 

明後日の方角を向いて静かに肩を震わすオリオン。未だに泣き続けるアルテミス。

あぁもう滅茶苦茶だよ。と心の内で思いながら口には出さなかった藤丸少年。

 

そこからもオリオンは淡々と事の顛末を語っていった。

 

 

「我が女神はメロペー姫に、それはもう饒舌に我が身との事を話したらしい。

 それでもメロペー姫から何やら罵詈雑言を叩きつけられて、この有り様に」

 

「強く生きなさいオリオン」

 

「そのように生き抜いたはずなのになぁ……」

 

『……僕もう見てらんないや』

 

 

管制室に居るドクター・ロマンを含めたスタッフ一同の沈痛な溜息が届く。

神話に描かれた神と人との悲恋。時を隔てた奇跡の邂逅。なんと聞こえの良い事か。

 

しかし実際はコレである。

 

あぁ、哀れオリオン。主人公ってのは苦労するもんなんだわ(格言)。

 

結局、アルテミスと怒り狂ってバーサーカーとほぼ変わらない状態に陥ったメロペーの二人が落ち着くまで、ヘラクレス対策の話し合いは幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 






いかがだったでしょうか。

久しぶりにSS書くのは楽しい…タノシイ。
やっぱり止められませんわ。
どれだけ仕事が忙しくても、書きたい気持ちはなくなりませんね。

なるべく時間を見つけて書くつもりではいますが、
もしかしたら十月くらいまでまた更新が止まるやも…。

そうならないよう努力して参りますが、
何卒応援をよろしくお願いします!


それでは次回を、お楽しみに!

ご意見ご感想、並びに質問などお気軽にどうぞ!


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