もしも、オリオンがクソ真面目な堅物だったら   作:萃夢想天

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どうも皆様、ようやく大きな仕事を終えてひと段落出来そうな萃夢想天です。
いやホント長かった…五月からここまでのほぼ半年、生きた心地がしませんでした…。

ですがそれも終わったので、これからは投稿頻度が少しは上がるかと思います。(上がるとは言ってない)

今回からは短めの夏イベ的な話を書いていきますので、お付き合いください。


それでは、どうぞ!




おまけ編 ~カルデア・ビーチ・スクランブル~
夏の微小特異点・その1


 

 

 

 

 

 

―――夏。

 

―――それは、巡る季節の一つであり、人の心が最も浮き立つ時期でもある。

 

 

ひと夏の経験、あるいは思い出。そう言った言葉を耳にしたことはないだろうか。

 

一年の内で最も気温が高まる季節故、人々は衣替えと同時に抑圧されてきた自身の心を開放したくなるものだ。その想いは、時代を経るごとに増していく一方で、衰えることはない。

 

そしてそれは同時に、人間同士の関係性が大きく変動することを意味する。

 

夏の魔力に心突き動かされ、気付けばアブナイ橋を渡り切って…なんて現象、現代ではありがちな話だ。これに抗いうる者はごく僅かでしかないし、そもそも抗うも何も夏の魔力によって沸き立つものなどない非リア充(もたざるもの)からすればただクソ暑いだけの嫌味な季節に他ならない。

 

まぁ、つまり。

 

何が言いたいのかと問われれば。

 

夏とは、人を狂わせる恐ろしい魔だということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔術王ソロモンによって2015年より以降の人類史継続の保証は断たれ、過去現在未来に至るまでの繁栄は焼却された非常事態においても、カルデアに属する職員及びサーヴァント一同は、決して遊び心を捨ててはいなかった。

 

いや遊んどる場合かと礫を投げたくなる気持ちも分かるが、そこはそっと握り拳を下ろしてもらいたい。誰だって先の事を忘れ、ただ羽を伸ばしたい。そんな時間があってもいいじゃないか。むしろ、人類存亡の危機という超一大事に関わっているからこそ、当事者のメンタルケアを欠かしてはいけない。

 

故に、汎人類史を修復すべく召喚されたサーヴァント達は、今を生きる人々であるカルデア職員と人類最後のマスターとして前線に立つ藤丸立香少年を癒すべく、面白おかしい事件を起こす事を忌避することはなかった。

 

むしろ、そういった面倒事を頼まれもしないのにやってのける困ったちゃんは残念ながら居る。誰とは言わないが。華のローマ皇帝とか監獄城の鮮血魔嬢とか、特定するつもりはない。ないったらない。

 

とにかく。肩の力が抜けるどころかシリアスさえ吹き飛ぶとんちきイベントは、カルデアに於いて珍しくもない事態と化していた。

 

 

そして、此処に。その頭のおかしいイベントの新たな幕が上がろうとしていた。

 

 

~人理継続保障機関・カルデア、レクリエーションルームにて~

 

 

「……失礼致します」

 

 

コンコン、と。レクリエーションルームの扉を小さくノックする音が、消灯時間を過ぎて暗くなった廊下に消えていく。

 

数秒の静寂の後、扉の内側から押し殺したような声が返ってくる。

 

 

「合言葉を」

 

「ええっと…『あんちん様、サイコー!』」

 

「それ前のヤツです。あれ? 前の前だったっけ……とにかく、間違ってますよ」

 

「あ、あら? ごめんなさい」

 

 

シリアス君は休暇を取ってるよ。済まないね。

 

合言葉を間違えた少女は何度か唸ってから、最新の合言葉を思い出して口にした。

 

 

「そうです! 『別れは巣立ち、素敵な旅立ち』!」

 

「――ようこそ、恋する乙女の楽園へ」

 

 

ロックが解除され、扉が自動で開く。合言葉を告げた少女は、室内で待っていた和服姿の少女に挨拶する。

 

 

「こんばんわ、清姫」

 

「ええ。こんばんわ、メロペー」

 

 

側頭部から白い角を生やした色白の少女【清姫】と、顔の上半分を白い結晶で覆い隠した【メロペー】がにこりと微笑みを向け合う。何を隠そう、彼女らは此処カルデアに召喚されてから永久の友情を誓い合った渡世の姉妹とも言える仲なのだ。

 

そして、先んじて室内で待っていたもう一人の少女もまた、入ってきたメロペーに言葉をかける。

 

 

「ごきげんよう、メロペーさん」

 

「はい。ごきげんよう、メディアさん」

 

 

水色の長髪を束ねる清楚な魔女【メディア・リリィ】の弾む様な声が、しんと静まっていたレクリエーションルームを明るくした。

 

そして、三人の少女たちが集結したわけだが。

 

 

「紅茶の用意はこちらに。お砂糖はお好みでどうぞ」

 

「ありがとうございます。いただきますわ」

 

「では、私は緑茶を」

 

 

三人寄れば姦しい、という言葉もあるが、仮にも貴族王族の姫である三人はその言葉には当てはまらない。今はまだ。

 

ソファに腰を下ろし、のどを潤して一段落着いた彼女らは、懐からあるものを取り出し、テーブルに置いた。どれも共通して、映像記録媒体であった。

 

 

「本日はどれにいたしましょう?」

 

「前回は確か……諜者(スパイ)の殿方が行く先々で乙女を誑かしながら使命を遂行する絵巻でしたね」

 

「マスターを含めた男性は、こういった手合いの映画を好むようですが……正直、私はあまり」

 

「私も同意見です。やはり、意中の殿方と添い遂げる乙女は一人でなくては!」

 

「となると……『らぶろまんす』、という種類のものがしっくりくるのでは?」

 

 

何をヒソヒソと怪しげに動いているかと思えばこの少女三人。恋愛映画を見る為に人が込み合う真昼時を避け、こうして深夜帯に娯楽室へ潜り込んでいたのである。

 

本来、夜更かしは乙女の天敵である。だが、彼女らは肉体に縛られないサーヴァント。彼女らを引き留める枷の一つが無効化された以上、暴走の歯止めが一際利きにくくなってしまったわけだ。

 

 

「でしたら、こちらは如何でしょう。ラブロマンスの金字塔と名高い作品らしいですが」

 

「『ローマの祭日』……なんでしょう、この、そこはかとない暴君の香り」

 

「ソレって確か、パッケージと内容が違うとかでカエサル陛下が裁判にかけると仰っていた問題作では?」

 

「ええっ!? そうだったんですか、残念…」

 

「となると、今日は私とメロペーのどちらかになりますね」

 

 

自信を持って持ち寄った映画にケチをつけられしょんぼり顔になるメディア・リリィ。基本サイコパスだが乙女チックな部分はあるのだ。全体の何割かはさておいて。

 

競合相手が脱落し、残るは清姫とメロペーが取り出した二作に絞られた。果たして、今夜乙女たちを愉しませる映画はどちらになるのか。多数決で勝敗を別とうとする清姫だったが、メディア・リリィがあることに気付く。

 

 

「あら?」

 

「どうしましたか?」

 

「あの、ここ……あ、ごめんなさい。メロペーさんは見えませんよね。えっとですね、清姫さんの持ち寄った映画なんですが」

 

「………な、なにか?」

 

「どうして企画、脚本、演出総てに至るまで貴女自身の名前で埋まってるんですか?」

 

 

ぎくっ。清姫の肩が跳ね上がる。

 

 

「弁解の余地なし、ということでよろしいですね」

 

「異議なし」

 

「大有りです! 私は別に自慢しようとかそういう気持ちで提出したのではなくてですね!」

 

「マスターと自分との恋愛模様を恥ずかしげもなく9時間に渡って収録とか、何をどうしたらこんな妄想がまかり通ると思ってるんです?」

 

 

グサッ! 清姫の心臓に言葉の刃がクリティカル。バーサーカーには辛い。

 

 

「撮影が直流紳士ってありますけど……」

 

「日本の竹の名産地を教えたら快く協力してくださいました。なにかまたものすごい発明をするつもりみたいでしたので」

 

「まぁそれは置いておきまして。メディアさん、どうします?」

 

「……ちなみにメロペーさん、貴女の作品は?」

 

「こちらです!」

 

 

直流は悪、ハッキリ分かんだね。

 

軽く登場を流されたメンロパークの魔術師はさておき、メディア・リリィの関心はメロペーの作品に向いていた。潮の結晶で目を覆い隠した少女は自信満々に作品を手に取り見せつける。

 

が、二人からの反応は芳しくない。

 

 

「ん? どうしました?」

 

「……あの、メロペー。失礼を承知で尋ねますが、ラブロマンスの意味は知ってますわよね?」

 

「??? はい、勿論です。殿方と乙女の、燃えるような恋の物語を指す言葉であると、知識を得ております」

 

「だったらどうして、血みどろの男女が抱き合って何かに怯えているようなパッケージの映画を持って来たんです?」

 

 

それもそのはず。メロペーが持ってきた映画は、恋愛は恋愛でも、狂気の殺人鬼から一夜を生き延びるカップルの生存劇を描くサバイバルホラーロマンスであった。お前チョイスおかしいよ。

 

 

「え? だって、艱難辛苦を乗り越えてこそ強く結ばれる二人…そしてオリオン様と私は島中の民に祝福を受けながら結ばれて……きゃー♡」

 

「「………ナシで」」

 

「どうしてですの!?」

 

 

あわれ、でもなんでもない。妥当な判断である。

 

ただ、擁護させてもらうとするのなら。このメロペーはオリオンの伝説に登場したクレタの姫君メロペーその人でもあり、後のギリシャ最古のホラー伝説「白仮面の老婆」のモデルとされたことで人々に刻まれた恐怖が上から張り付けられた、そんな状態である。

 

分かりやすく例えるのなら、メロペーと言う骨組みにホラー伝説による人々の恐怖が肉付けされて出来上がった、歪なハリボテ。それが今の彼女なのだ。

 

どうしても、趣味嗜好がホラー(そっち)寄りになってしまうのも仕方のない事であった。

 

 

「はぁ……仕方ありません。念の為にと、もう一作持ってきておいて正解でした」

 

「念の為にってどういうことです?」

 

「見れば分かりません?」

 

 

見なくても分かるんだよなぁ。けれど清姫は首を傾げるばかり。

お前都合のいい頭してんな、バーサーカーかよ。バーサーカーだったわ。

 

 

「ご安心ください。今の季節にぴったりのものをご用意いたしました」

 

「季節? あぁ、そういえばもう夏でしたね」

 

「こちらはそんな、夏の浜辺で出会い、結ばれる二人の男女の物語です」

 

「浜辺………」

 

「メロペーさん?」

 

「あ、いえ。何でもありませんわ」

 

 

頭の片隅に引っかかるものがあったのか、表情を濁すメロペー。

 

そんな様子の彼女に気付くメディア・リリィだったが、詮索するのも野暮と割り切り話を進めた。

 

 

「それでは、こちらの映画を視聴して恋する乙女に相応しい力を身に着けると致しましょう」

 

「それこそが我ら、『カルデア乙女巫恋途(ふれんず)』の目的なのですから!」

 

「砂浜……浜辺……愛し合う二人…」

 

 

そう。この三人は奇妙で数奇な運命からか惹かれ合い、それぞれの乙女力を高め合う恋する少女としての至高の領域を目指す同好会を結成。夜毎、密やかに活動しているわけだ。実際は認知度がとても高い。要注意・監視対象としてだが。

 

こうしてメディア・リリィの持ち寄ったロマンス映画を視聴する三人。男女が出会い、時間を共有し、高まる恋の炎。そして結ばれてハッピーエンド。実に素晴らしい作品だったと二人は納得した。

 

だが、ただ一人。メロペーだけは感動とは違う感情によって肩を震わせていた。

 

 

「――コレですわッ‼」

 

 

そしてこの一つの映画……もとい、砂浜でキャッキャウフフしキャッキャウフフし合う男女、というシチュエーションとの彼女の出会いが今年の夏の始まりとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~名もなき微小特異点~

 

 

どこまでも続くかのように思える水平線と、浜辺を濡らす白波。

それだけが、彼女の視界に映る全てだ。

 

 

「はぁ……辛い」

 

『分かる、すげぇ分かるよアタイも……はぁ』

 

『溜息で輪唱しないでおくれ二人とも。おかしくなりそうだ』

 

 

人の気配がしない小さな島の浜辺に、ぽつんと座り込む一人の女性。

 

その美しさはまさに絶世と称賛する他にない、美の体現者と呼ぶに相応しい者だ。残念なことに、彼女の美貌を褒めそやす者どころか、彼女以外の知性体が周辺には存在していないのだが。

 

憂い顔ですら絵画に描けば国すら傾ける金額が動くであろう。そう確信できるほどの美女は、ただ潮騒を聞き流して項垂れるばかり。

 

 

「おかしくなりそうなのは()の方よ。なーにが悲しくてこんな事に…」

 

『アタイだって信じたくないさ』

 

『でもねぇ。どうしたって現実は変わらない。なら、受け入れるしかないだろう』

 

 

美女は膝を抱え込むようにして砂浜に座っているが、周囲に他の人影はない。ならば彼女は誰と会話しているのか。答えるまでもない。

 

彼女は、彼女の内に居る他の二人の女性と語らっているのだ。

 

 

「受け入れろと言われて受け入れられるわけなかろうが。英霊(サーヴァント)だったか? そんなものに堕ちぶれた妾にも悲哀が募るが、それ以上に()()()()()()()()()現実の方が受け入れ難いわ」

 

『いやでも、こんなん予想できるわけないって……できた?』

 

『出来ると思う? こんなの、モイライでも予測不可能だと思うよ』

 

 

沈痛な面持ちのまま、ぼーっと波打ち際を見つめて文句を垂れ流す美女。自身の内なる言葉から、この状況をどうにかできるツテを思いつき口に出す。

 

 

「モイライ……アイツらの誰かと連絡つきそうか?」

 

『……アタイは、その、他の女神と折り合い悪いから』

 

『んー、無理っぽい。クロートもラケシスもアトロポスも、みんな忙しいみたい』

 

「忙しいとか嘘くさいのー。大方、妾達に呼ばれるのが嫌で適当こいとるだろう? 妾そういうの分かるから」

 

 

死んだ魚の様に濁り腐った半眼で潮が引く様子を眺める美女。まるで自分たちから遠ざかっていくような波の動きにさえ苛立ち、眉根をひそめる。

 

 

「なにが忙しい、だ。アイツら糸紡いで長さ測って切る作業を三分割しとるのだぞ? 駄弁りながらでも余裕であろう。どーせ妾達の愚痴で持ちきりよ。はー、やってられん。辛い」

 

『想像つくのがまた辛さを倍増させるんだよなぁ』

 

『確証無いのに自分で落ち込んでりゃ世話ないよ』

 

「やかましいわ」

 

 

自分の中にいる二人の女性からの励ましの言葉もない。天地に在って我は独りなのだ。美女は現実に打ちひしがれ、盛大な溜息を吐きながら膝に顔を埋めた。

 

 

『あのさぁ、さっきから辛い辛いと言ってるけど。それなら行動しなよ。まず動かなきゃ何も始まるわけないだろうに』

 

「それ以上正論で妾を痛めつけることは許さんぞ義姉上。もう、もう割と本気で、限界ギリギリなのだ妾は」

 

『アンタよりも勝手に巻き込まれたアタイの方が限界近いんだけど?』

 

「貴様は妾の考えに賛同したからには共犯よ。泣き言は聞かぬぞ」

 

『だったら私は泣いても許されるだろう。完全に巻き込まれただけだからね』

 

「泣くも喚くも好きにするがいい。現実は変わらん」

 

 

ざざん。はぁ。

 

はぁ。ざざん。

 

 

波が引き、浜辺を濡らす度に美女の唇から情けなく弱々しい吐息が漏れ出る。

 

 

『大体さ。お前は無計画というか、突拍子が無さすぎるというか』

 

「もういい、もう言うな。妾聞きとうない」

 

『そーだそーだ! アルテミスがイケたんなら妾もイケる、とか言ってたくせに』

 

「むしろ何で妾がダメであの小娘がセーフなのか、これが分からん」

 

 

とことんまでぶーたれて卑屈になる美女。極上の肢体も絶世の美貌も台無しである。

 

いったい、何が彼女をここまで精神的に追い込んでいるのか。

 

 

「なぁ、どう思う? 妾がダメでアルテミスがセーフなのは、何故か?」

 

『『お前(アンタ)だから』』

 

「貴様ら嫌いだ‼」

 

 

考えれば考えるほどメンタルを削られる美女。

とうとう目に涙を湛えて嗚咽を溢しだしてしまう。

 

 

「何故だ……何故なのだぁ…!」

 

『そんなんアタイが聞きてぇよ…』

 

『…………』

 

 

足をバタバタと動かし、やるせない気持ちを発散しようとする。

それも、砂が波に溶けて泥となり、浚われて浜辺の一部に戻る流れを見て虚無に満たされる。

 

 

「妾は、妾はただ。()()()()()()()()()()()()だけなのだ……」

 

『アタイだってそうさ! もう一回でいいから逢いてぇんだよぉ…』

 

『……揃いも揃って情けない。それでも一端の女神か君ら』

 

 

女神としての矜持が、必死に零れ落ちそうになる涙を堪えていた。

だが、内なる一人の言葉に、悲しみよりも怒りが先に爆発した。

 

 

「だったらこの状況! 貴様ならどうにかできるのか義姉上よ! やれるものならばやってみせるがいい! どうせ徒労に終わろうがなぁ!」

 

『出来るよ。ちょっと面倒だけど、やろうと思えば』

 

「そらみろ! 女神と言えど不可能はあ――いま何と?」

 

『どうにか出来るって言った』

 

 

ざぱぁん……波が一際高く砂浜に押し寄せ、美女の足元まで届く。

しかし、今はそれどころではない。それどころではなくなった。

 

 

「………そ、そんなわけ、そんなわけがなかろう! 強がりも大概にせよ義姉上! いかな大神が姉君と言えど、全知全能からは程遠い貴様が」

 

『じゃ、やらなくていっか』

 

『あのお願いしますどうにかしてくださいこの通りですから』

 

「裏切ったか貴様ぁ! 女神としての矜持はどうしたぁ!」

 

『知るかそんなモン! こちとら女神の誇りだ何だはとっくに捨てとんのじゃい! アイツを引き留める為なら何もかも捧げる覚悟決めてんだアタイは!』

 

 

ぎゃいぎゃいと一人で姦しく騒ぐ美女イン真夜中の砂浜。

彼女の姿を見て憐れむ者も蔑む者もいないからこそ、この醜態を知られずに済んだ。

 

 

『私が何の考えもなくこの時代を選んだと思うのかい?』

 

「あやつの居た時代が近ければどこでもいいかなって思っておったぞ妾は」

 

『同じく』

 

『……とにかく。この時代は我々が居た時代とその数千年後が混ざり合った、稀有で不安定な場なんだ。脆く壊れやすいけど、同時に形を変えて整えやすくもある。そこに目を付けたんだ』

 

「御託はどうでもよい。状況を打破する策を言え」

 

 

必死の形相で水平線を睨む美女。

満月とは呼べないほどに欠けていた月が、沈みかけていた。

 

 

『人理の汎図において、不安定な部分は修正される。けど、揺らぎは残る。その僅かな猶予を逆手にとって、私は時空の結び目を一気に近付けた』

 

「つまり?」

 

『こことよく似た時代の揺らぎの中で、聖杯と呼ばれる魔力炉心があったみたいでね。私はそれを模倣してやろうかなって思ったんだ』

 

『ソイツを模倣したら、どうなるんだ?』

 

『好き放題出来ると思うよ。魔力が生成される限りは』

 

 

その言葉を聞き、美女は目を見開く。

 

 

「で、では! もしも……その目論見が果たされた暁には、妾の望みも叶うのか!?」

 

『出来るんじゃない? お前の望み、彼に逢いに行くのは難しいかもしれないけど。彼をこっちに喚び出すのは、前者より難易度は低いと思われる』

 

『召喚するのか、アイツを。此処に?』

 

『それが唯一にして最短の道筋だと私は思うね』

 

「流石は妾の義姉上。やはり頼るべきは身内であったか」

 

『お前その身内にだいぶ失礼なこと言ってたよな?』

 

 

とっぷりと水平線が月を飲み込み、そして。

 

入れ替わるようにして淡いオレンジの朝陽が顔を覗かせる。

 

 

「ふふっ、ふふふ……ふはははははは!」

 

『とうとうおかしくなっちまったか』

 

『いや元からおかしかったから心配は要らないよ』

 

「聞こえとるぞ貴様らぁ!」

 

 

鬱屈とした態度から一変。希望と自信に満ち溢れた表情に変わった美女は立ち上がり、昇りゆく陽光を背に島の中央目指して歩を進める。

 

 

「行くぞ! これより我らは、魔力を生成する炉心を構築後、願望を果たす!」

 

『その為にはまず、魔力を回収しなきゃいけないよな』

 

『私と彼女の神殿を二つ呼び出せれば時間は短縮できそうだ』

 

「ではそうしよう! いいぞ、この調子ならそう時を待つ必要も無し! 願い叶うは、今なり!」

 

 

木枝を掻き分け、美女は自らの神殿を召喚する為の空間の確保に乗り出す。

 

そして此処から、カルデアとある一人の男を巻き込む、壮絶に頭の悪い出来事の幕が、上がることとなる。

 

 

 






いかがだったでしょうか。

こんな感じでかなり短く緩く書いていくつもりです。
この調子で書き進めていけたらいいなと考えております。

それでは次回を、お楽しみに!


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