もしも、オリオンがクソ真面目な堅物だったら   作:萃夢想天

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どうも皆様、萃夢想天です。

まさかの新ぐだぐだイベントとは…。
おまけに初のクイック宝具キャスターに、☆5の坂本龍馬実装! なんかもう色々と衝撃でした…。

で? 幕末四大人斬りの新兵衛君実装は?(真顔)

絶対無敵貫通持ち防御無視の単体バスターアサシンになれたのに……どうして、どうして…。ゴリッゴリの脳筋タイプなのに忠義に厚いのズルいんだぁ。

そんな田中新兵衛非実装の悲しみを糧に初投稿です。

(とか言ってたらツングースカ始まってて草も生えんわ)




夏の微小特異点・その3

 

 

 

 

―――オリオンが消えた。

 

 

刑部姫と巴御前からそう聞いたマスターは、同じ場に居たケイローンとアキレウスを伴ってカルデア管制室に直行する。息を切らしながら着いてきた刑部姫は、ひぃひぃと息を整えてから藤丸少年に改めて事の始まりを語った。

 

 

「あのね、(わたし)と巴さんとガッちゃんの三人で狩猟ゲーしてたんだけど、そこでガッちゃんが『そう言えばこういう狩り系のゲームでも、実際の狩りの知識とか経験が活きたりするんスかね?』って言いだしたんだ」

 

「ガッちゃん?」

 

「ガネーシャ殿です」

 

 

刑部姫の話を巴御前が補完する。藤丸少年は聞き覚えのある名前に、ああ。と無言で納得した。彼女の語ったガネーシャとは、いわゆる『疑似サーヴァント』と呼ばれるタイプで、魂や精神を全く別の依代に移して召喚される英霊のことを指す。

 

三国志で名を馳せた【諸葛孔明】や【司馬懿】も、肉体は現代の魔術師である【ロード・エルメロイ二世】とその義理の妹の【ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ】となっている。

 

ガネーシャもインド神話で有名な神格なのだが、肉体は残念ぽっちゃり美人な【ジナコ・カリギリ】という女性である。このガネーシャと巴御前、刑部姫らは同好の士として非常に仲が良く、レクリエーションルームで暇さえあればゲーム仲間として集っていることで有名だ。

 

彼女らの繋がりを知っている藤丸少年は、刑部姫の口から出たガネーシャの名に驚くことなく、話の続きを促す。

 

 

「それで、生粋の狩人のオリオンを呼んだってこと?」

 

「ちょうどアタランテ・オルタ殿から逃げてきたとのことで、娯楽室に飛び込んで来たんです。でしたので、それでしたらとげえむをお勧めしたのです」

 

「神代の狩人にゲーム内の狩りを勧めんなよ…」

 

「アキレウス?」

 

「いや、今の言い分はおかしくないでしょ!?」

 

 

巴御前の話を受け、師弟コンビの反応はいつものことと受け流しながら、それよりも何故アタランテ・オルタに狙われているのかと驚く藤丸少年であった。

 

 

「とにかく。そうやって狩りゲーにオリオンさんを招待してしばらく四人で遊んでたんだけど…」

 

「しばらくすると、オリオン殿の身体が光を帯びて、輝きが増したかと思ったら忽然と姿が消えてしまいました」

 

「ゲームしてたら消えた、ってこと?」

 

「要点を絞ればそうなりますね」

 

 

二人の話を聞き、話をまとめる。ケイローンも藤丸少年のまとめ方に首肯し、話の流れに矛盾点や不審な点がないことを確認した。

 

藤丸少年と四騎のサーヴァント達が管制室に辿り着き、そこで―――地獄を見た。

 

 

「オリオン様が消えたというのは本当か!?」

 

「隠し立てすれば容赦しないぞ‼」

 

「どいて兄様! 彼を探さなくては!」

 

「落ち着けポルクス、落ち着いてくれ!」

 

 

喧々囂々、飛び交う怒号と悲鳴。

即ち此処は、阿鼻叫喚(イビルウィンド風)。

 

 

「なんだ此処地獄かよ」

 

 

思わずアキレウスが呟くのも無理もない光景である。

 

女性――特にギリシャ出身――を中心とした者達が暴走したようにカルデアのあちこちを奔走していた。血眼になって部屋の隅まで見回す者、誰彼構わずオリオンの行方を尋ねる者、別に大したことじゃないと騒がず落ち着いている者、そもそも興味ないと我関せずを貫く者。対応はそれぞれ違うが、話題の中心としてオリオンの名が挙がっている事に間違いはなかった。

 

 

「駄妹! カルデア中を駆けずり回ってでも居場所を突き止めなさい。コレは命令よ、早く!」

 

「は、はいっ!」

 

「……(ステンノ)が取り繕う余裕も無いなんて。思ったよりもヤバい状況なのかしら」

 

「うう、えうりゅあれ。おれ、おりおん、しんぱい」

 

 

どこもかしこもどったんばったん大騒ぎ。わぉ、などと驚いている場合ではないが。

 

管制室にやって来た藤丸少年に気付き、二人のアタランテに言い寄られて表情に疲れが見えるダ・ヴィンチが駆け寄ってくる。カルデアの頭脳たる(かのじょ)に状況を改めて尋ねようと藤丸少年が口を開く。

 

 

「事情はおっきー達から聞いたけど、何がどうしてこんなことになってるの?」

 

「いやぁ、それがね…」

 

 

普段の余裕綽々とした微笑みはどこにもなく、焦りを含んだ緊張で張り詰めた表情を浮かべるダ・ヴィンチ。これまで共に旅をしてきた仲間の滅多に見ない様子に、流石の人類最後のマスターも意識を切り替える。

そんな藤丸少年に、ダ・ヴィンチは状況説明を始める。

 

 

「オリオンの霊基の一部がカルデア内から忽然と消失していたことはこちらでも確認できていた。マスターである君の身に何かあったのであれば、契約中の総てのサーヴァントに影響が現れるはずだしね。そうなると、オリオン自身に何らかの異常か変調の兆候があったと考えるべきだ。」

 

「それを調べたの?」

 

「調べたというか、調べようとしたら…」

 

 

明朗快活、それでいてズバッと話の核心を捉えた言葉選びをするはずのダ・ヴィンチが、今日はやけに歯切れが悪い。まるで、何かに遠慮しているかのように。

 

様子の変化に気付いた藤丸少年は、ダ・ヴィンチの泳いだ視線の先に目を向ける。

そこで藤丸少年が目にしたのは、一騎のサーヴァントの変わり果てた姿だった。

 

 

「オリオン、どこ……オリオン」

 

 

穢れを知らない無垢なる月の女神【アルテミス】が、どんな時も幼げに天真爛漫な姿を見せていたはずの彼女がそこにあった。ただし、別人のようにやつれた表情で。

 

共に特異点という人理の危機に立ち向かってきた仲間の初めて見る姿に、藤丸少年も驚きを隠せない。動揺して言葉が喉を詰まらせていた時、管制室にマシュが到着した。

 

 

「マシュ・キリエライトです。遅れてすみません!」

 

「いや、大丈夫だ。さて、マシュも来たことだし、今起きている事態について改めて話し合おう」

 

「はい。あの、ところで…あちらの隅で蹲って震えているのはアルテミスさんでは?」

 

「それについても、ね」

 

 

煩わし気に前髪を掻き上げたダ・ヴィンチは、視線と指の動きでケイローンに指示を出す。意図を汲み取った賢者は静かに頷き、アキレウスと二人で血気に逸るアタランテ達を管制室から連れ出していく。彼女らがいたままでは落ち着いて話すこともできない、ということだろう。

 

喧騒が遠ざかっていくのを見届けてから、ダ・ヴィンチが状況の報告を開始する。

 

 

「何が起きたかは言わなくても分かってるね? カルデア内に居たオリオンの霊基反応が一部消失した。いや、正確に言えば消失ではなく、どこか別の場所に飛ばされたと表現すべきかな」

 

「飛ばされた…? では、霊核が破壊されて『座』に還ってはいないのですね?」

 

「そこは大丈夫。なにせ、彼を核にして一緒に現界しているアルテミスが此処にいるわけだし。彼女が存在している以上、彼の存在証明もまた確立されている。ただ、問題は何処に行ったのかということだ」

 

「おっきー達の話だと、急に体が光って消えたらしいけど」

 

 

マシュがオリオンの安否を気に掛けるが、そこは大丈夫な様子。

ひとまず無事、とは言い難いが一応生きてはいるという情報に安堵したマシュと藤丸少年。しかし、肝心の消えたオリオンの居場所に話の焦点が移った。

 

 

「自然的な現象でもなければ、オリオン自身の起こした行動とは思えない。となれば必然的に、()()()()()()()()()()()わけだが」

 

「第三者…」

 

「オリオンを単独でカルデアから引き抜いた。何処か違う場所に招き入れたか連れ去ったかは不明だが、他に消失した霊基は確認されていない。偶然って可能性もゼロじゃないが、それならそれでオリオン以外に被害が出てないのは気掛かりだ」

 

「じゃあ…第三者の狙いはオリオンってこと?」

 

「そうなるかな、多分」

 

 

オリオンを狙っている何者かがいる。漠然とした異常事態から、浮かび上がる何者かの意思。人類最後のマスターたる彼は、警戒心を更に引き上げた。

 

話し合いをしていると、管制室の機器にかじりついていたスタッフの一人が声を張り上げた。

 

 

「所長代理! オリオンのものと思われる霊基反応のサーチに成功しました!」

 

「おお! そいつは朗報だ。場所は?」

 

「それが……第三特異点のオケアノスに近い状態の、微小特異点のようで」

 

「第三特異点ってことは、オケアノスか」

 

「そこに近い場所までは絞れたのですが、どうも様々な時代が混ぜこぜになっているらしく」

 

「あー、カリブとかその辺の時代の海そのものが混入してるのかもしれない。とにかく、オリオンの座標だけにピント合わせて!」

 

「はい!」

 

 

ダ・ヴィンチの指示に従い、数名のスタッフが再びスクリーンに向き直り作業を再開する。カタカタ、とキーを叩く音が微かに聞こえる中で話の本筋を少し巻き戻す。

 

 

「とにかくだ。カルデア内からオリオンを()()()()()()()()()。この事実に対し、我々カルデアは奪還作戦を発令する!」

 

「勿論です! オリオンさんはカルデアにとって欠けてはならない戦力であり、それ以上に大切な仲間なのですから!」

 

「そうだ、取り返さなきゃ!」

 

「うんうん。二人ともいい意気込みだとも」

 

 

鷹揚にダ・ヴィンチが号令をかけ、人理修復のスペシャリストと化した二人が受諾する。今回の事件もまた人類史を修復するうえで、そして何より大切な仲間を助ける為の戦いに身を投じようとしていた。

 

決意を新たに行動を開始しようとした、その時。

 

ビィ――! ビィ――!

 

 

「なんだ!?」

 

警報(アラート)!? 何が起きた?」

 

「所長代理、緊急事態です! 何者かがシステムに干渉しています! それも凄い速度で、理論防壁も霊子障壁も紙屑みたいに…!」

 

「何だって!? くそ、コンソール借りるよ!」

 

 

管制室のランプが赤く灯り、けたたましいサイレン音が鳴り響く。明らかに良くないことが起きている。そう感じた藤丸少年を置き去りに、事態は悪化の一途を辿っていく。

 

 

「なんだこの浸食速度……冗談じゃない! カルデアの電子機器の防御性能は並大抵じゃないはずなのに、こんなの…! 私が直に壁を張っても間に合わないとか、どうやってるのか見当もつかないぞコレ!?」

 

「ダヴィンチちゃん、いったい何が?」

 

「ごめんマシュ! 余裕ないから手伝って!」

 

「は、はいっ!」

 

 

あの万能無敵を自称するカルデアの頭脳ですら歯が立たない。暗にそう告げる彼女の言葉に、手伝う事すらできない藤丸少年は無力感を通り越して事態を飲み込むのに必死だった。

 

カルデアからオリオンを誘拐した何者かの存在に気付いた。かと思えば、カルデアのシステムが何らかの干渉を受けている。これが偶然の出来事とは思えない。関係性はあるはずだ、そう思ってもサーヴァントのマスターであって魔術師としては三流以下の彼には、打てる手が一つもない。

 

ただ成り行きを静かに見守ることしか許されない。

歯痒さに拳を握りしめていると、室内のスピーカーにノイズが奔り出した。

 

 

「マジかよ! システムの一部を握られた!?」

 

「これは、いったいどうすれば…」

 

「マシュ、ダヴィンチちゃん! スピーカーから何か聞こえる…!」

 

 

ザザザ、と耳障りなノイズが徐々に治まり、遠くから呼びかける声のような音が聞こえた気がした。藤丸少年は余裕の無くなった顔つきで画面を睨む二人の名を呼ぶ。

 

マスターに名を呼ばれた二人は同時に振り返り、耳を澄ませる。確かに彼の言う通り、語り掛けるような声が管制室内に広がっていた。

 

 

『―――こ――か』

 

「なんだ…?」

 

『きこ――るか』

 

「ダヴィンチちゃん、何か…聞こえます」

 

『き――え――か、人げ――』

 

 

管制室に居るスタッフたちの耳にも届いたようで、全員が手を止めて謎の声に耳を傾ける。

 

小さく不透明な音が、次第に鮮明に聞こえてきた。

 

 

『――聞こえているか、人間達』

 

 

凛とした、女性の声だった。

 

突如としてカルデアのシステムに侵攻してきた存在、だろうか。敵対者であるかすら分からない、謎の存在がにじり寄ってくる焦燥感に藤丸少年の心拍数が跳ね上がる。

 

焦って判断を間違えないよう、努めて冷静であろうと鋭く息を吐く。そして、まるでスピーカーを――その向こうにいるであろう存在に視線を向けた。

 

 

『――ふむ、抵抗が止んだ。どうやら聞こえているようだね。接触も問題なく成功したらしい』

 

「接触、ねぇ? こっちとしてはシステムの三割近くを握られてるから問題大有りなんだけどなぁ」

 

『そちらの声も聞こえている。人類の賢人よ、此度は騒がせてしまって申し訳なく思っている』

 

「申し訳ないって言うなら、君が何者で、目的が何なのかをハッキリ言ってもらいたいものだが?」

 

『……それも尤もな話だ。ではさしあたって、此方側の要件を伝えよう』

 

 

姿の見えない存在からの接触。カルデア中に緊張が奔った。

 

少なくとも科学・魔術双方の粋を凝らした防御をいとも容易く突破してみせる力があり、逆に此方へ語り掛けるほどの余裕も持ち合わせている。状況的には相手側へ有利に傾いていると言っていいだろう。

 

 

「要件だって?」

 

『そうとも。君達に頼みがあってこのような形で接触させてもらった』

 

「なるほど。それで、要件とはなんだい?」

 

 

此方側の生命線の一部を相手に握られている。それでも冷静さを失わずにダ・ヴィンチが対応してみせる。頼れる所長代理の姿を見ていると、謎の声は異様に神妙な声色で要件を伝えてきた。

 

 

『君達にはあの()()()()を―――オリオンをどうにかしてもらいたいのさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――少々時間を遡り、微小特異点―――

 

 

白い砂浜に寄せては返す波の音が、名も知らぬ島に響く最も大きな音だった。

少なくともその島に、巨大な神殿が二つも建立される前までは、だが。

 

現在、この島において最も大きな音とは……桃色の歓声であった。

 

 

『か、かわ、くぁわわわわぁ!』

 

「おいどうした義姉上!? 言語野バグったか!?」

 

『な、何だよこの愛くるしい生き物ぉ! 可愛いの概念そのものかよぉ!』

 

 

超級サーヴァントとしての権能レベルのスキルで召喚した、とある女神を讃える為の神殿の祭壇にて。万能の願望器に近しい性能の魔力源を精製した絶世の美女は、ソレにある願いを託した。

 

それは、ある人物を呼び出す事。

 

何を隠そうその人物こそは、ギリシャ神話に名高き『三ツ星の狩人』、超人的な力を宿す半神半人【オリオン】である。

 

ところが、召喚されたのは身の丈2mもあろうほどの筋骨隆々の大男ではなく、何とも愛らしいモフモフのクマを模したヌイグルミだった。

 

何を言っているか分からねぇと思うが、それは実際正しい。

 

 

「正気を保て貴様ら! 妾を見ろ! 相手は小動物ぞ、まず目線を合わせてだな…」

 

『お前が落ち着け! 地べたに這いつくばって妖しく笑う女神とか字面がアウトだ!』

 

『そうだそうだ! こういう時はまず餌を用意するんだ!』

 

「たわけ共が、妾に従わぬか! 一人三面相しとったらこの子が怖がるじゃろうが!」

 

 

三柱の女神としての意識はそのままに、仮初めの肉体は一人分。つまり実質、三重人格者のような状態の彼女は、己の内側から喧々囂々と声を張り上げる二柱の女神と言い争っている。

 

けれど、傍から見ればひとりの女性が猛烈にヤバい独り言を寸劇をしているようなもの。ヤベェ奴認定まっしぐら。悪いな女神様、その体一人用なんだわ。

 

そんな彼女達の事情など露ほども知らないのは、彼女らの願望によってカルデアから召喚されてしまったばかりの、ヌイグルミのオリオンである。

 

 

(……なんだコレは。どうすればいいのだ?)

 

 

ああ、哀れオリオン。

生前だろうが死後だろうが、女絡みの厄介事は向こうから突っ込んでくるんやなって。

 

オリオンは眼前で唸ったり息を荒げたりする美女をさておき、現状の把握を始める。

 

 

(此処は何処だ…? 確か先程までカルデアの娯楽室にいたはずなのだが)

 

 

覚えている限りの記憶を辿り、現状に至るまでの経緯を遡ろうとした。

 

 

(刑部姫殿や巴御前殿、ガネーシャ殿と『狩りゲー』とやらに興じていたはずが……何をどうしてこうなったか。間の記憶が全くない。そうなると、こちらの女性に連れて来られたか? だが、どうやって? 何の為に?)

 

 

辺りを見回すが、見えてくるのはどこか見慣れた建築様式の神殿の祭壇。そこから見下ろせばあとは波と砂と木々ばかり。自分が居たはずのカルデアらしき人工建造物は影も形もない。この状況からオリオンは、自分が何らかの目的の為にカルデアから召喚されたのだと推察した。

 

召喚者は眼前でコロコロと表情を変える謎の美女に間違いない。そして、彼女が抱えている黄金の輝きには見覚えがあった。

 

 

(アレは、聖杯? 膨大な魔力リソースとしての聖杯なのだろうが、どうしてこの女性が?)

 

 

謎は深まるばかり。考えても分からないことは直接聞くのが一番。

オリオンはヌイグルミの身であっても佇まいを整え、未だにギャースカ騒いでいる残念美人を見上げ、声を掛けようと口を開いた。

 

だが、その時。彼の体に異変が起こった。

 

 

「んぐぅっ!? ぐぁ、あああぁ…!」

 

 

突如としてオリオンを襲ったのは、耐え難き激痛。

身体の中身が膨張して膨れ上がるような、無理やり内側に何かを突っ込まれたかのような、身を引き裂かれる痛みにオリオンはもこもこの頭を抱えて転げ回る。

 

 

「……ちょ、ちょっと待て! おい、何か様子が変ではないか?」

 

『変どころじゃねぇよ、何かヤバくないかコレ!?』

 

『もがき苦しんでいるようだね。どこか痛むのではないかな』

 

「れ、冷静に言っとる場合か‼ 助けてやらねば…」

 

 

流石にオリオンの急変に気付いた美女は、怖々としながらヌイグルミを抱きかかえる。

 

 

『…で、どうしたらいいんだい?』

 

『何が原因かを突き止めるのが先だろう』

 

「突然過ぎて思いつかんわ! とにかく痛みを和らげてやらねば! ええと、こういう時は細胞活性機能の増強と、あとは…」

 

『おい待て義妹よ、それを前にやった相手が肉爆弾になったの忘れたのか?』

 

「アレはそうなるようにわざとしたんじゃ! こんな場面でふざけるわけなかろうが!」

 

『旦那に粉掛けられた相手を問答無用で汚い花火に変えちまうアンタも大概だけどな』

 

「集中ぅ! できんくなるぅ!」

 

 

絶え間なく襲う激痛に身をよじるオリオンを強く抱き寄せ、とにかく痛みの緩和が先決と自身の有する権能(スキル)を発動しようとした矢先。腕の中で暴れ回っていたヌイグルミがピタリと動きを止めた。

 

 

「こ、今度は何じゃ!?」

 

『治まった、のかな…?』

 

『だといいけども』

 

「なんでそう不安にさせる物言いをするかなぁ義姉上はなぁ!」

 

 

心配そうに顔を覗き込む美女。すると、静止していたヌイグルミの顔が動き、彼女を見つめる。

 

まるでドラマの1シーンのような光景だが、長くは続かなかった。

 

 

「アレ、ええっと……? ()()は何をしてたんだっけか?」

 

「おお! 気付いたか、良い良い!」

 

「んぁ…? むほぉぉ! すんげぇ美人のネーチャンじゃねぇの!」

 

「………ん?」

 

 

美女は数秒ほど固まり、そしてまず己の集音性能(みみ)を疑った。

 

気のせいか。今しがた、あの英傑オリオンの口から出るとは思えない軽薄な言葉が聞こえたような。そう訝しんだ美女はしかし、腕の中から鼻息を荒くして不快に身をくねらせるクマのヌイグルミを見て、何故か生理的な嫌悪感を覚えた。

 

 

「いやぁ、流石オレってば罪な男。見知らぬ土地でもこぉんな美人を、記憶もねーのに捕まえちまってんだもんなぁ。HAHAHA!」

 

「……???」

 

『あれ、なんか…?』

 

『私は関わりが無いから判断できないけど、彼ってこういう感じなのかい?』

 

 

そんなわけはない。

三人の人格を統合するリーダー的存在である不遜な態度の女は、静かに首を振る。

 

彼女の知っているオリオンは、冗談でも先のような言葉は吐くまい。

となれば、考えられる可能性は大きく二つ。

 

一つは、このオリオンが本物ではない偽物か騙りの類であること。

そして、もう一つの可能性は。

 

 

『それとも――本性はこんなだった、とか?』

 

「違う、違う違う違う! 違うもん! 妾のオリオンはそんなん違うもん! もっと紳士的で、誠実で、清廉で、およそギリシャの男神から下心と性欲と見栄を抜き取って高潔さをマシマシにしたような感じだもん!」

 

『それもはや希臘属の男神(アイツら)とは呼べない別物だろ』

 

『一理ある』

 

 

実際のところ、ここまで強く否定している彼女自身、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが、ここまで言い切れる辺りが人徳の成せる業だろうか。

 

 

「ええい、脳内で品評会を催すなバカ共ぉ! 今はそれよりこのオリオンの異常をどうにかせねば――彼奴はどこだ?」

 

 

少なくとも彼女はオリオンという男の本性が、他の男共と変わらぬ下劣で品性のないものであるとは信じなかったし、信じられなかった。受け入れられない、と言い換えてもいい。

 

きっと先程の原因不明の苦しみに答えがあるはず。

そう考えた彼女はオリオンの治療を試みようとするも、肝心の彼の姿が腕の中から消えていた。

 

慌てて祭壇の周りを見るが、幾分小さなヌイグルミ。簡単には見つからない。焦りでさらに視野が狭まる中、彼女の内から更なる声が響いた。

 

 

『……なぁ、ちょっと』

 

「後にしろ! というか貴様らもオリオンを探す努力をせぬか!」

 

『体一つしかないのに無茶言うなよ。というかさぁ』

 

「なんだ!?」

 

『聖杯は?』

 

「……………ゑ?」

 

 

勝気な人格に指摘され、手にしていたはずの黄金の杯が無くなっていることに遅れて気付く。何故、何時、何処に。疑問符が次々と浮かび、思考容量を圧迫していく。

 

探す物が増えてしまったと愚痴るより早く、聞き覚えがあるはずなのに別人のように感じられる男の高笑いが聞こえてきた。

 

 

「しかも超ラッキーときたぜ。目が覚めたら美人に抱っこされてる上、聖杯のオマケ付きだなんてよー! アルテミスもいなさそうだし、こりゃぁいよいよオレの時代来ちゃったかなー? ハーッハッハッハ!」

 

『アイツ聖杯盗んでんじゃんか!?』

 

『私でも気が付かないなんて、とんだ手癖の悪さだこと』

 

「感心してどうする!? とにかく取り戻さねば!」

 

 

腕の中から消えたヌイグルミと聖杯の行方が明らかにはなった。しかし、危うい状況に変わりはない。美女はオリオンの異変を解決したい一心で策を講ずるより早く体を動かすが、相手は腐ろうがヌイグルミになろうが、天下無双の狩人。

 

目にも止まらぬ速さで祭壇を駆け回り、美女の手から逃れに逃れてついには神殿から飛び降りて島の森林へ姿を消してしまった。

 

 

聖杯(コイツ)がありゃやりたい放題だぜぇ! ヒャッホー! 悪いな黒髭ぇ! オレってば此処で理想の女の子だらけの楽園(エデン)を作ることに決めたぜ! カルデアで悔し涙流して待ってなー!」

 

 

慌てて追いかけようにも、相手は森林などの環境下で獣相手に狩りをしてきたプロ中のプロ。こちらの動きなど手に取るように看破されてしまうだろう。

 

そうなれば、どれだけ時間をかけようが見つけても捕まえることは至極困難になる。思わぬ事態の到来に、美女は顔を青くして混乱してしまう。

 

 

「えっ……と? ん?」

 

『ダメだこりゃ。情報の処理が追いついてねぇや』

 

『どちらかといえば、情報の解析を拒んでるに近いかな。オリオンの想像だにしなかった一面をまざまざと見せつけられて、思考回路が解釈違いを起こして狂ってる』

 

『ホンットに救いようがないねぇ!』

 

『……君の方はダメージがないみたいだけど』

 

『言わないでマジで。考えないようにしてるだけだから。冷静になった瞬間バグるよアタシ』

 

『あぁ、そう…』

 

 

冷静沈着な人格は考える。ここで彼女を下手に突いて言葉通りに機能を停止してしまえば、残るのは役立たずの人格二つを抱えた自分のみ。クソゲーにも程がある。

 

自分が背負う荷物は少ない方が良い。落ち着きのある彼女は口を噤んだ。

ただ、現実だけは変わらない。やれやれと気怠げに対処を考え始める。

 

 

『もう義妹は使い物にならないだろう。なら、私達でなんとかせねば』

 

『何とかって、どうするのさ?』

 

『……こうなると、選択できる手段は限られてくるけどね』

 

『どんな手段だ?』

 

 

勝気な人格が急かすように促すのを聞き、落ち着きのある彼女はゆったりとした口調で続きを語った。

 

 

『一つは、我々が総力を挙げてあのオリオンを見つけ、捕獲。異常の原因を特定して対処する』

 

『一番マトモな手だね』

 

『それで二つめは、うん。神としてのプライドやら何やらをかなぐり捨てて、オリオンを召喚した場所と連絡を取り、助けてもらう』

 

『はぁ?』

 

 

一つ目の策は理解できた。とにかくオリオンを発見、捕捉を自分たちでどうにかしようって作戦だ。もはや策もクソもない根性論だが。

 

だが分からないのは二つ目に語られた方だ。

 

 

『助けてもらうって、誰にさ?』

 

『あのオリオン……便宜上、擬きと呼ぶが。オリオン擬きは森へ消える前にこう言っていた』

 

 

――悪いな黒髭ぇ!

 

――カルデアで悔し涙流して待ってなー!

 

 

『黒髭とは恐らく人物名だが、少なくとも我々ギリシャに連なる名ではない。ギリシャに生まれ死んだオリオンが、そんな相手の名前を生前から知っていたとは考えにくい』

 

『死後……英霊になってからの付き合いって事か』

 

『だろうね。そして、英霊となった我々にもカルデアという名称の記録がある』

 

『確か、人理の継続云々だかをどーにかする人間の組織、だったっけ?』

 

『あやふやだけど、そこでは英霊が何騎もこぞって寄り集まってるらしいね』

 

 

オリオンの発言から紐解かれていく事実。

それはつまり、カルデアにオリオンが居たということ。

 

 

『じゃあ聖杯は英霊の【座】からじゃなくて』

 

『カルデアに居たオリオンを呼び出したんだろう』

 

 

だとすれば、オリオンの身に起こった異変についても情報が得られるやもしれない。対処法まで分かれば完璧だが、そこは後で確かめればいい。

 

けれど肝心な点が一つ。それに気付いた勝気な女性は指摘する。

 

 

『…でもさ。そのカルデアとやらと話は出来るの?』

 

『聖杯があればもっと楽にいけたけど、まぁ。やれないことはないと思う』

 

『マジ!?』

 

『私が主導権を握って、かなり無茶をすれば何とかって感じかな』

 

『試す価値はあるよ! それじゃまずは、このすっ呆けたバカと入れ替わらないとね!』

 

『莫迦でも私のかわいい義妹なんだ。ま、少し休んで落ち着いてもらうにもちょうどいいか』

 

 

そう言って、冷静な女性は高慢な人格を思考の奥底へ押し込み、肉体の主導権を一時的に掌握する。

 

スッ…と。瞳を閉じ、再び見開かれた時。

 

文字通りに彼女は変わっていた。

 

 

『ふぅ。本来の私の10%未満かぁ。これは厳しいかも』

 

 

赤と黒を基調とした、派手なドレス姿の美女の姿はない。

其処に居たのは、水色のレオタードの様な衣装に黄金の装飾と軽鎧をまとう、切れ長の目を持ったクールな印象の美女。

 

彼女は己の機能の全てを、カルデア捜索の為に費やした。

五感の内の四つを自己封鎖し、浮いたリソースも回してどうにか捜索が出来るか、という段階だ。

 

 

『あぁコレ思ったよりヤバ……』

 

『頑張れ踏ん張れ頑張れ踏ん張れ!』

 

『身内の不始末だ、なんとかしてやらなきゃね……』

 

 

そう言ってから、冷静な彼女は意識を集中させるために口を開かなくなった。

 

それから、どれほどの時間が経過しただろう。

 

少なくとも、陽が何度か昇り、月も幾度か沈んだ。

常人であればとっくに倒れている時間も意識を集中させ続けた彼女。

 

そのひたむきな努力が、ついに実を結ぶ瞬間が訪れる。

 

 

『――聞こえているか、人間達』

 

 

…こうして、カルデアの騒がしい新たな夏のイベントの幕が上がったのである。

 

 

 






いかがだったでしょうか。

本当に遅くなって申し訳ない。
ちまちま書いてたらもう年末になってて驚きました。
仕事がね、いくら減らしても無くならないの(真顔)

もう新年は目と鼻の先になりましたが、
新たなサーヴァントと福袋が楽しみですね!


それでは次回をお楽しみに!


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